デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年8月1日（1896年）

当会議所会員及ビ其他ノ有志者申合ノ上、新領地台湾ノ実業上ニ対スル当局ノ意見ヲ聴カンガ為メ柳橋亀清楼ニ於テ宴会ヲ催ス。栄一開会ノ辞ヲ述ベ、内閣総理大臣侯爵伊藤博文・台湾総督子爵桂太郎所見ヲ演説ス。

東京商業会議所月報　　第四八号・第六―一五頁　明治二九年八月
　八月一日東京商業会議所会員其他ノ有志者申合ノ上、新領地台湾ノ実業上ニ対スル当局ノ意見ヲ聴カンカ為メ、柳橋亀清楼ニ於テ宴会ヲ催シ、右席上ニ於テ渋沢栄一君ハ一同ニ代リ開会ノ辞ヲ述ヘ、侯爵伊藤博文君、子爵桂太郎君ハ其所見ヲ演説セラレタリ、左ニ其速
 - 第21巻 p.86 -ページ画像 
記ヲ掲ケテ参考ニ供ス
　　　　渋沢栄一君演説
私共商業会議所員及其他ノ商工業家カ此程中相図リマシテ、我新領土ト相成リマシタ台湾ノ商工業ノ事柄ニ就キマシテ、当局ノ諸公閣下ノ御話ヲ伺ヒタイ、就テハ尊臨ヲ乞ヒ得ラレルカト云フ相談カ起リマシタタメニ、一応其事ヲ伺上ゲマシタトコロガ、一同ノ望ヲ御採用サレマシテ、御臨場アラセラレルト云フ御許諾ヲ得マシタニ就キマシテ、玆ニ一同申合セテ小宴ヲ開キマシタノテコサイマス、幸ニ伊藤総理大臣閣下・高島拓殖務大臣・桂総督諸公ノ尊臨ヲ得マシタノハ、一同ノ光栄是ニ過キマセヌノテコサイマス、御暑イ時分ノコトナルニモ拘ハラス、御繰合ヲ戴キマシタノハ我々ノ厚ク感謝至ス所テアリマス、先ツ一同ニ代ツテ其謝意ヲ申シマス、右様尊臨ヲ乞上ケマシタノモ、私共別ニ他意アル訳テハコサイマセヌ、台湾ノ日本ノ版図ニ帰シマシタコトハ、モウ日本ノ歴史ニ、特筆大書サレテアルコトテコサイマスカラ、今玆ニ更ニ喋々ノ弁ヲ費スヲ要シマセヌ、此事ニ就テハ恐レ多クモ
天皇陛下ノ宏謨偉略ト申シ、文武当局諸公ノ容易ナラサル御籌略ヲ運ラサレマシテ玆ニ至ツタコトヽ存シ、我々国民トシテ厚ク之ヲ感佩致シテ居リマスルテコサイマス、而シテ今日ノ此台湾ノ新領土ハ如何ニ致シテ宜シイカト云フタナラハ、其土地ヲシテ物ヲ開キ務ヲ成スト云フコトヲ成ルヘク進メテ往カネハナリマスマイ、其人民ヲシテ利用厚生ノ途ヲ尽サセテ往クト云フコトハ、最モ以テ要用テアラウト考ヘル果シテ物ヲ開キ務ヲ成シ、用ヲ利シ生ヲ厚ウスルハ何ニ依ルカト云ヘハ、商工業カ最モ重要テアルト云フコトハ申上ケストモ明カテアル、而シテ此商工業ノコトニ就キマシテハ、我々共カ其事ニ従事致シテ居リマスルモノテアルカラ、当局諸公ノ高案ヲ伺フハ頗ル必要ナ場合ト考ヘマスル、殊ニ総理大臣閣下・西郷海軍大臣閣下ノ御両公カ、特ニ彼地ニ御巡視アラセラレ、段々御勤労ノ模様モ厚ク我々謝シ上ケネハナリマセヌ、且ハ実地御探験ノ上ニ御齎ラシ下スツタトコロノ御説ヲ親シク伺ヒマスルノハ、我々共ニ於テ甚タ有益ナコトヽ考ヘマシテ、玆ニ此企ヲ致シタノテコサイマス、要スルニ国家ノ隆盛ハ商工業ノ発達カ重ナル関係ヲ有ツト云フコトハ、既業ニ諸公モ十分御許シ下サルテコサイマセウト、我々厚ク信シテ居リマスル以上ハ、其事ニ就テ文武当局諸公ト商工専務ノ我々ト相会シテ、胸ヲ披キ膝ヲ寛ケテ款談スルノハ、新領土将来ノ進歩ニ就テ幾分ヲ裨補スルコトカアラウカト考ヘマスルテコサイマス、我々カ玆ニ小宴ヲ開キマシタ要点ハ是ニ過キマセヌ、謹テ諸公ノ尊臨ヲ辱ウ致シマシタ御好意ヲ謝シマシテ、我々ノ企望ノ要点ヲ一言申上ケマス

　　　　侯爵伊藤博文君演説
今日諸君ノ御好意ニ依リマシテ、御招ヲ蒙リ、此席ニ推参致シマシタ私ハ唯今渋沢君カ諸君ヲ代表サレテ陳述ニ相成リタル御好意ニ対シテハ即チ我同僚ナル高島子爵及桂子爵ニ代リマシテ感謝ヲ表シマスル、ソレト同時ニ先日台湾ノ視察ヲ致シマシタニ就キマシテ、同島ノ将来
 - 第21巻 p.87 -ページ画像 
扶植ヲ図ルタメニ所見ヲ述ヘンコトヲ望ムト云フコトニ対シテハ格別諸君ノ視聴ヲ新ニスル程ノ新説ヲ有チマセヌテコサイマス、固ヨリ彼ノ地ニ臨ミマシテモ僅々数日ノ滞在テアリ、殊ニ往来交通ノ不便ナル場所ニシテ、加フルニ流行病等ノ蔓延ヲシテ居ル際テモアリ、又自分等カ彼ノ地ニ長ク滞在スルコトモ官務上ノ都合ニヨリ許サレヌ訳ヨリシテ、各地ノ巡廻モ十分ニ了ヘタト云フ訳テモアリマセヌ、殊ニ台湾ニ出張ヲ命セラレマシタトコロノ趣意ハ、重ニ彼地ノ実況及将来ノ統治上ニ就テ専ラ政治ノ視察ヲ目的ト致シテ参リマシタノテアリマス、併ナカラ耳目見聞ノ及フ所及占領以来経過シタル実蹟ニ依リテハ、自ラ又商工業ノ将来ニ就テノ多少ノ意見モナイテハアリマセヌカ、目下帰京以来当局ノ大臣及総督等ト唯今相談ヲ致シテ居ルヤウナ訳合テアリマス
台湾新領地ノ将来ノ発達ニ就テハ、唯今渋沢君ノ陳述ニ相成リマシタル如ク、国力ヲ増進スル上ニ就テハ、何処マテモ商工業ノ発達ヲ期セナケレハナラヌコトヽ存シマス、此地ノ風土或ハ物産或ハ風俗等ニ、又地理山川ノ形勢等ニ就キマシテハ、殊更ニ陳述スルノ要ハナカラウト存シマス、大要従来西洋人ノ著書ニモ多少出テ居リ、又昨今ハ渡航ノ新聞紙記者トカ或ハ其他ノ人ノ筆述等ニモ分リテ居リマスルテ、私ノ論弁ヲ費ス必要ハナイト考ヘマス、概シテ之ヲ申セハ、先ツ彼ノ島ノ気候ハ、諸君ノ御承知ノ通リ温度ナ土地テアリマスル故ニ、凡テ万物ノ生育ニハ頗ル適シタル処ニシテ、又農業ノ既ニ在来ノ支那人ニ依リテ発達シ居ルコトハ、一見シテ以テ皆意外ナ感覚ヲ懐ククライナコトテアルト存シマス、併シ全島ヲ通シテ論スレハ、先ツ拓ケタ処ハ三分ノ一ニシテ、未タ拓ケサルトコロノ土地ハ三分ノ二残リ居ルト云フテモ宜カラウト考ヘマス、然ラハ此島ヲ拓クニ愚見ニ依レハ先ツ速ニ著手サレテ利益ノアラウト考ヘルモノハ鉱山ノ事業ト農事テアラウト察セラレマス、工事ノ事ニ至リテハ所謂工作ノ業ニ至リテハ、土地ノ拓ケル度合ニ依リ需要ヲ起ス訳テアリマセウカ、目下ノトコロテハ差向工業ノ需用ニ如何ナル事ヲサシテ宜シイカト云フコトハ、一寸見難イテアリマス、鉱山ノ事業ト農業トハ速ニ著手サレテ憂ハナカラウト考ヘマス
ソレテ先ツ今日、政治以外ニシテ、彼ノ島ニ必要ナルコトハ何テアルカト云ヘハ、海陸ノ運送ノ便ヲ十分ニ図ルコトカ第一ノ必要ト存シマス、若シ運送ノ便微リセハ各種ノ事業モ甚タ困難テアラウト思フ、尤モ島ノ周囲ハ皆海岸テアリマスル故ニ、大船ヲ繋クニ便ナル処ハ僅々二箇所位ホカアリマセヌケレトモ、小船ノ運送ハ全体ノ海岸ヲ通シテ往来交通モ出来ル訳テアリマス、陸地ノ道路カ開ケレハ、随ツテ交通ノ便ヲ開キ、交通ノ便ノ通スルニ随ツテ各種ノ事業上ニ便益ヲ起ステアラウト存シマス
今日ノ商売ノ状況ヲ見レハ、諸君ノ御熟知ノ如ク台湾ノ商業ハ重ニ農産物テアリマスカ、茶ト砂糖ト樟脳クライノ物カ重ナル輸出品トナツテ居リ、其他産額ノ大ナル物ハ米ト塩ニ過キナイ、其他ノ農産物ノ雑種雑穀類ニ至リテハ、処トコロニ出来テ居リマスケレトモ、是ハ畢竟土人ノ食料等ニ供スルニ過キナイ、鉱山ノ事ニ至リテハ、従来支那政
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府ニ於テ多少著手シテ居リシモ、是ハ全ク今日我国ニテ行フ如キ大キナ仕掛ケテハナクシテ、一人々々ノ働キニテ行フニ過キマセヌカラ、一箇年ノ産額モ大シタモノニテハナカリシヤウニ聞エマス、併シ十分ナル探撿ノ届キタル今日テアリマセヌ故、確実ナル報告ヲ諸君ニ与フルコトハ出来マセヌケレトモ、金鉱或ハ石炭坑等ハ随分処々ニ発見サレテ居ル訳テアリマスカラ、必ス是等ノコトハ十分ナル調査ヲ経テ而シテ其事業ニ従事サレタナラハ、随分利益ノ起ルコトヽ信シマス、農業ノ一点ニ至リテハ、マタ余程開墾スヘキ余地ハアルヤウテアリマス其上農業上ノ改良モ余程必要テアラウト考ヘル、畢竟米カ一年ニ両作モ出来テ、其産額ニ至リテハ内地ノ一作ト伯仲ノ間ニ在ル訳合ハ如何テアルカト云ヘハ、肥料ナトヲ十分ニ用ヒヌトコロヨリシテ、収穫カナイト思ヒマス、水利ノ便ハ思ヒノ外アリマス、彼ノ島ハ中央ヲ山脈カ南北ヘ貫イテ居リマスコト故、大河ハアリマセス、旁以テ十分ナル水利ハナカラウト思ヒ居リシニ、意外ニモ水利ノ便ハ付イテ居リ、到ル処ニ水田ヲ耕シテ居ルト云フコトテアル、内地ノ農業方法ヲ彼レニ移セハ、余程盛大ナル農産物ヲ出スコトカ出来ルテアラウト思フ
又商業ノ一点ニ至リテハ今日ノトコロニテハ全ク支那人ト西洋人ノ手ニ在リテ、其商業ノ関門ハ厦門ノヤウテアリマス、或ハ台湾ノ物産ハ香港・厦門ノ両地ニ多ク出テ、茶ノ如キハ十分ノ八・九ハ亜米利加ニ行キ、砂糖ナトハ随分日本内地ヘモ輸入シテ居リ、樟脳ハ多ク香港ニテ相場カ立ツテ居ル、而シテ此商業ニ対スル資本又其事業ヲ取扱フテ居ルモノハ、支那人ト西洋人テアル、故ニ目下此島ハ日本ノ領土トナリシトハ云フモノヽ、商権ハ日本人ノ手ニ毫シモナイト云フ今日ノ有様テアル、是レ詰リ今日マテ支那ノ領土ニテアリシカタメニ、新領以来其処マテ手ノ及ハサリシニ依ルノテアル、併シ追々日本ノ実業家モ奮進シテ各種ノ事業ニ着手シ実権ヲ掌握スルニ至ラサルヲ得スト考ヘマス、仍テ帰朝以来台湾島ノ前途ノ事ニ就テハ、当局大臣及ヒ総督トモ議ツテ居リマスカ、トウシテモ政府ノ為スヘキ事ハ成ルヘク政治ノ一点ニ止メ、凡テ商工業ハ勿論台湾島ニ務メテ内地人民ヲ移往セシムル事、人民ヲ移住セシムルニハ、各種ノ事業カ起ラナケレハ、移住シタ処カ到底生活ノ途ヲ得ルコトカ出来ヌ、即チ多数ノ人民カ労力者タラサルヲ得ヌノテアリマス、然ラハ事業ヲ起ス者ハ何人テアルカ、到底政府ノ力ヲ以テ是等ノ事業ニ著手スルコトハ先ツ絶エテ為サヌ積リテアリマス、所謂商工業者ヲシテ之ヲ為サシメ、之ニ利便ヲ与ヘテ十分ニ其発達ヲ図ラシムル様ニ、政治上ノ効力ヲ及ホサシメナクテハナラヌト云フ方針テアル、其事柄ニ就テハ今玆ニ一々条挙スル度合テハナイカ、斯ノ如キ方針ヲ以テ唯今其計画ニ従事シテ居ルノテアリマス故ニ此方針ハ決シテ動ク訳テハナカラウ、又此事ニ就テハ拓殖務大臣モ総督モ卑見ト更ニ径庭スルトコロハナイ、故ニ諸君ニ於テモ又我国ノ資本家、各種ノ事業家ニ於テモ十分ニ此全島ニ力ヲ入レラレンコトヲ政府ハ希望スルノテアリマス、政府モ亦十分ニ之ヲ保護シ、十分ノ便宜ヲ与ヘル方針ヲ取リテ行ク積リテアリマス、今日ノ形勢ハ支那政府ヨリ之ヲ受取リシトハ云フモノヽ、支那政府ニ於テモ之ヲ引渡スニ於テ頗ル至難ナルコトテアツタノテアリマスカラ、平和的ニ授受スル
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コト能ハスシテ、殆ト昨年中ハ鎮定ニ力ヲ専ラニシ、随ツテ又土匪ノ再起等ノタメニ力ヲ鎮圧ニ致シタルヲ以テ、未タ十分ニ政治上ニ於テ行届イタ今日トハ云ヘナイ、併シ之ヲ行届カシムルニハ多少ノ歳月ヲ仮サヽルヲ得ヌノデアル、言語カ違ヒ、風俗カ違ヒ、而シテ之カ全クノ野蛮土民テナイ人民テアリマス、欧洲流ノ文明ハ吸収セストモ支那流義ノ文明ハ受ケテ居ル人民テアリマスカラ、土匪ト雖トモ無論鎮圧スルニ難キハ見マセヌケレトモ、是レ政治《（ニ脱カ）》ヲ希《（布カ）》イテ行クコトニ就テハ多少ノ歳月ヲ要スルコトヽ存シマス、併シ治蹟ハ十分ニ挙ラストモ、事業ニ著手スルニ猶予スルコトハ更ニナイ、是ハ兵力モアリ警察力モアリマスカラ、保護ヲスルニ少シモ難クハナイ、政府ノ望ムトコロハ成ルヘク速ニ此島ニ事業ノ起ランコトヲ希望スルニ在ル、今日此島ハ戦捷ノ結果トシテ取ツタケレトモ、之ニ対シテ十分ノ発達ヲ図ルコト能ハサリシナラハ、実ニ我国ノ名誉ニ関係スルノミナラス、又経済上ニ於テモ少ナカラサル損害テアルト考ヘマス、政府ノ見ルトコロニテハ、商業ナリ又将来新規ニ起スヘキ事業ヲ此儘ニ抛擲シテ数年ヲ経過スルコト能ハサル形勢テアル、ソレニ就テハトウシテモ資本家・事業家ノ尽力ニ頼ラサルヲ得ヌノテアリマス、故ニ政府ハ之ヲ待ツニ其目的ヲ立テ其利ヲ収メシムルニ十分ノ保護ヲ与フルモノテアリマス
大要先ツ斯ノ如キ意見ヲ有シテ居リマス、或ハ此他ノ細カナ統計上トカ状況トカ云フ事柄ハ私、殊更ニ諸君ニ陳述セズトモ、皆能ク御分リノコトテアラウト思ヒマス、大要政府ノ意見ハ右ノ通リテアリマス、トウカ諸君ニ於テモ十分御奮発ニナツテ、速ニ著手サレンコトヲ希望致シマス、又総督ニ於テモ右ノ趣意ヲ服応シテ臨ム積リテアリ、又拓殖務省ニ於テモ其方針ニ依リテ計画サルルコトヽ信シマス、大略右等ノ考テアリマス

　　　　子爵桂太郎君演説
今日ハ諸君カ総理大臣・拓殖務大臣両閣下ヲ御招キニナリマシテ、台湾ノコトニ就キマシテ御話ヲ御伺ヒナサルト云フノ御企カアツタニ就テ、私モ幸ニ此節上京ヲ致シテ居リマスルニ就キマシテ、私ニモ其末席ニ列シテハ如何ト云フノ過日渋沢君ヨリ懇切ナル御話ヲ承リマシタテ喜ンテ今日ハ其御招待ヲ受ケテ推参ヲ致シマシタヤウナ訳テコサイマス、諸君モ御承知ノ通リ私ハ漸クニシテ六月二日ニ総督ヲ拝命ヲ致シマシタ、其際恰モ総理・海軍両大臣ノ台湾巡視ノ命ヲ蒙ラレマシテ将ニ出発ヲ致サントスルノ期ニコサイマシタ、就キマシテハ私モ辱クモ　陛下ノ御信任ヲ受ケマシタ以上ハ、此両大臣ノ巡視ト共ニ直チニ任地ニ赴カウト考ヘマシタ、匆々旅装ヲ整ヘテ共ニ台湾ノ地ニ赴任ヲ致シマシタ、固ヨリ諸君モ御承知ノ通リ従来さあべるヲ持ツテ職ヲ執リマシタ私テコサイマシテ、固ヨリ総督、殊ニ新領土ノ我帝国ノ最モ記憶スヘキ行掛リニ依ツテ得タトコロノ新領土ノ総督ヲ命セラレマシタノハ、私ニ於テハ最モ重大ナル責任テアル、併シナカラ畏レ多クモ一旦　陛下ノ御信任ヲ受ケマシタル以上ハ、勿論力ノ及フ限リ此任務ニ就キ及フ丈ノ尽力ヲ致シ　陛下ノ御信任ニ対シテ報ヒ奉ラネハナラヌト云フノ決心テアリマスル
 - 第21巻 p.90 -ページ画像 
右申ス如ク私ハ漸クニシテ拝命ヲ致シ、匆々ニシテ旅装ヲ整ヘテ参ツタクライナコトテアリマスカラ、彼地ノ状況ニ於キマシテハ未タ詳細トコロデハコサイマセヌ、一般ニ於キマシテモ能ク研究ヲ致シテ居ラヌ訳テアル、併シ台湾ノ商工業ノコトニ就キマシテ、唯今総理大臣閣下ヨリ諸君ニ御話ノアリマシタ点ニ就キマシテハ私モ同様ノ考テコサイマス、諸君、唯今総理大臣モ御話ノアリマシタ通リ、台湾ノ商工業ノコトニ就キマシテハ決シテ諸君ノ御尽力ナクシテ総督カ決シテ此事ヲ為シ得ルモノテハコサイマセヌ、諸君将来宜シク御親ミ下スツテ、台湾ノ商工業ノコトニ就キマシテ御意見カアルナラハ、十分ニ伺ヒタイト考ヘル、又諸君カ台湾ノコトニ就キマシテ御調ヘニナルコトカアルナラハ、総督ハ力ヲ尽シテ諸君ニ彼ノ地ノ状況ヲ詳カニスルコトヲ努メマスルテコサイマセウ、諸君、私ハ是丈ヲ御話致シテ諸君ノ今日ノ御好意ヲ謝シマスル訳テアリマス