デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.184-191(DK210020k) ページ画像

明治29年10月8日(1896年)


 - 第21巻 p.185 -ページ画像 

清国総理衙門、清国ニ於ケル製造業ノ課税ヲ増進セントス。是日栄一当会議所会頭トシテ、右ハ本邦産業ニトリ有利ナルニ就キ当局ノ善処ヲ希望スル旨、外務大臣伯爵大隈重信ニ建議ス。


■資料

第六回東京商業会議所事務報告 第八―一〇頁 明治三〇年四月刊(DK210020k-0001)
第21巻 p.185-187 ページ画像

第六回東京商業会議所事務報告  第八―一〇頁 明治三〇年四月刊
一清国製造業課税ノ義ニ付外務大臣ヘ建議ノ件
 本件ハ特別会員益田孝君ノ提出ニ係リ、其要旨ハ、清国政府ガ内地製造品ニ課税セントスルハ上海在留英人等ノ反対アルニ拘ラス本邦ニ取リテハ利益ナルニ付、此次第ヲ外務大臣ニ建議シテ其注意ヲ乞ヒ置キタシト云フニ在リ、依テ之ヲ明治二十九年十月五日第五十五回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同月八日附ヲ以テ左ノ如ク外務大臣ヘ建議セリ
    清国製造業課税之義ニ付建議
聞説頃者清国総理衙門ニ於テハ別紙ノ如キ奏稿ヲ該国皇帝ニ奏呈セリト、今其奏稿ヲ閲スルニ関税及通過税ヲ増加シテ税額収入ノ増殖ヲ図リ、又従来外国人ニノミ許シタリシ三聯単ノ制ヲ内地人ニモ拡充シテ商業上ノ便益ヲ進メ、将又清国ニ於テ製造所ヲ建設シ貨品ヲ製造スルモノニ対シテハ内商ト外商トヲ問ハス売出前百分ノ十ノ内地税ヲ課シ且其原料ヲ産地ヨリ買入レ製造所ニ輸送スルモノニ付テモ亦三聯単ノ方法ニ由リ三倍ノ通過税ヲ賦課シ、以テ自国財政上ノ艱難ヲ匡救セントスルニアリ、則チ此課税法ニ依レハ清国ニ於テ内外人ノ設立スル製造所ハ実ニ弐割五分ノ重税ヲ負担スヘキモノタルヲ以テ、此ノ事ノ一度新聞紙ニ掲載セラルヽヤ、上海商業会議所ハ大ニ該課税法ノ不当ヲ鳴ラシ、反対ノ意見ヲ北京各国公使ニ致セリ、当時李鴻章伯恰モ欧洲巡遊ノ途次英国ニ赴キ、同国宰相サリスベリー侯ニ面シ自国財政ノ困難ヲ述ヘ、且国債償却ノ費途ニ充ツル為メ関税ヲ増加スルノ已ムヘカラサルコトヲ陳シ其同意ヲ求メタリ、蓋シ李伯ノ申出テタル税率如何ハ未タ確報ニ接セスト雖トモ、世ノ風聞ニ依レハ従来百分ノ五ナリシ税率ヲ百分ノ十ニ増加セントスルニ在リシト云フ、然ルニサリスベリー侯ハ一応上海商業会議所ニ諮問ノ上決答スヘキ旨ヲ述ヘ、其趣ヲ同会議所ニ示命セリ、依テ同会議所ハ委員会ヲ開キ熟議ヲ凝ラシタル末下ノ如ク復申シ、又之ヲ在北京首席公使コロネルデンピー氏ニ稟申セリ、其要旨ハ、従来清国人カ内地ニ輸入スル外国商品又ハ外国ニ輸出スル内国商品ニ対シ賦課シタル釐金税ヲ全廃シ、之ニ代ユルニ関税半額ノ通過税ヲ以テスル(外国人ニ対スルト同一ノ方法ト為スコト)ニ於テハ関税ヲ増加スルコトニ同意スヘク、又馬関条約ノ明文上本来清国内地ニ於テ製造業ヲ営ムニ付テハ一切税金ヲ支弁スルノ義務ナシト雖モ、若シ其原料ヲ外国ヨリ輸入シ製造品ヲ外国ニ輸出スルニ当リ輸出入税ヲ賦課セス、又其原料ヲ内地ヨリ取寄セ製造品ヲ内地ニ送リ出スニ対シ全ク釐金税ヲ賦課セサルニ於テハ、内地税トシテ一割及通過税トシテ其半額ヲ賦課スルコトニ同意スヘシト云フニ在リ
以上ハ即チ頃来清国ニ於テ囂々タル課税問題ノ梗概ニシテ、此事ヤ我製造工業ノ消長ニ関スル極メテ大ナレハ、決シテ軽々ニ看過スヘカラ
 - 第21巻 p.186 -ページ画像 
ス、今本会議所ノ見ル所ヲ以テスルニ、若シ総理衙門ノ奏請ニシテ採納セラレ、清国ニ於ケル製造業ハ重税ヲ賦課セラルヽノ結果トナラン乎、其製品ヤ到底我国等ヨリ輸入スル製品ニ拮抗スルコト能ハサルヲ以テ今ヤ清国ニ於テ隆運ニ向ヒツヽアル生糸製造業及近来大ニ発達セントスル紡績業モ其進歩ヲ沮挌セラルヘク、其他万般ノ製造業勃興スル能ハサルヘシ、然ラハ即チ我国ハ一葦帯水ヲ隔ツルノ処ニ於テ広濶ナル一大市場ヲ控ユルノ理ニシテ、既ニ百万錘ニ達シ猶駸々トシテ発達シツツアル紡績会社ノ綿糸其他各般ノ製造品ハ此一大市場ニ向テ流注セラルヘク、又我国産ノ随一タル生糸ハ此大帝国ノ競争ヲ受クル事ナク米国等ニ於テ益其ノ声価ヲ高ムヘシ、之ニ反シテ若シ上海商業会議所ノ意見徹底セン乎、製品ノ負荷スヘキ税額僅少ナルカ故ニ清国ニ於ケル製造工業ハ勃然トシテ起リ、駸々乎トシテ進ムヘク、其結果我国ハ東洋ノ一大市場ヲ失フト同時ニ一大競争者ヲ造ルニ至ルヘシ、果シテ然ラハ我製造工業前途ノ為メニ深憂スヘキモノナシトセンヤ、故ニ我国家ノ為メニ画策スルニ、清国ノ製造工業ハ可成其進歩ヲ防遏シ其間ニ乗シテ大ニ我カ製造工業ヲ発達セシムルヲ最良ノ策ト為ス、然リ而シテ課税問題ニ関シ総理衙門ノ奏請採納セラルヽト、上海商業会議所ノ意見採用セラルヽトニ依リ、我製造工業ニ及ホスヘキ影響ノ差実ニ天淵モ啻ナラサルコト右ニ縷述スル所ノ如シ、我国家経済ノ為メニハ前者奏請ノ実行ヲ利トスルコト知ル可キ而已、若シ夫レ我国人ニシテ清国ニ製造所ヲ起サンコトヲ企図スルモノヽ如キハ実ニ少数者ニ過キス、這般少数者ノ私益ハ国家全般ノ公益ノ為メニ犠牲ニ供スルノ已ムヘカラサルヤ亦論ヲ俟タサルナリ、切ニ望ム、閣下明鑑ヲ垂レ深ク其利害ノ繋ル所ヲ察シ、我製造工業ノ為メニ大ニ籌画セラルヽ所アランコトヲ、右本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
  明治二十九年十月八日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    外務大臣 伯爵 大隈重信殿
(別紙)
    照録総署奏稿
  奏為酌定機器製造貨物税餉以重国課而保利権恭摺仰祈
 聖鑑事窃査通商各口機器製造貨物南洋之紡織繅糸北洋之葡萄醸酒畳経南北洋
  大臣奏請止完出口正税或請寛免数年税釐無非損上益下冀拓商務之意其時並無洋商製造明文原可従権弁理自馬関立約後各国洋商均可製造土貨為歴来条約所不載自応統籌公平弁法以杜漏巵而免籍口現日本商人已在上海購地設廠各国洋商亦紛紛設廠転瞬通商口内機廠林立百貨闐溢既享製造之利益応守完税之責成此等創弁之事只可酌定税章且無岐量軽之別庶易遵守溯査洋商販運洋貨進口大率毎値百両徴収正税五両運入内地再交子口税二両五銭洋商請領三聯単入内地採買土貨完納出口正税外再納子口半税即准装運出口是洋商販売貨物無論出口進口雖均以一正統一子税為断而於土貨未入洋商手之先洋貨既入華者手之後均須完納釐金以補税課之不足況製造貨物則船脚運費保険人工均省成本較軽獲利弥厚臣等公同商酌除各省土財
 - 第21巻 p.187 -ページ画像 
応於出産処所完納落地税釐由各該省督撫自行籌弁外其機器製造之貨不論華商均於離廠之先仿照洋貨進口例徴収値百抽五之正税再加徴一倍以抵内地釐金統計毎値百両徴銀十両此後無論運往何処概免抽釐以税課之所贏補釐金之所絀於国課尚無出入当此度奇絀因応繁非移亡羊補牢之謀聊寓借賓定主之意華商食毛践土応知籌画維艱洋商物貨暢行宜以従同為順如蒙
 兪允臣等即咨行南北大臣転飭各海関監督一体遵照弁理所有機器製造貨物酌定税章縁由理合恭摺具陳伏乞
皇上
聖鑑
訓示遵行謹
  奏
   又   片副奏
   再臣衙門拠総税務司赫徳呈称通商以来凡貨物出入内地或完釐金或完子口税洋商貨入内地完納子口税領有税単者即免完沿途釐金此華洋各商一律弁理之法土貨出内地領有三聯報単者沿途免完釐金抵須抵口完納子口税出口回国此則洋商独有之利益華商不能照弁於是常有華商仮託洋商各号販運土貨希図免釐該貨並不運送外国以致正経貿易与各省釐捐両有妨碍欲杜此項弊端惟有准華商洋商一律請領三聯報単置買土貨運口流弊既可杜絶税課亦可暢旺開具節略呈請核弁査其節略所開係請按照鎮江関現行章程凡商人請領三聯報単応見切結若限内貨未到口罰激正税六倍若貨已抵口即将正税三倍暫存如該貨実運外国将所有之出口正税与子口半税照章控収具余発還該貨若不運出外国即将所存之数転送釐局抵留各等語臣等査洋商請領報単採買土貨原応限内出口回国是以此項報単只准洋商請領華商不得比照弁理乃近来洋商採買土貨並不概運出口華商希図免釐又往往仮名洋商冒領報単洋商亦楽於包庇以坐分其利詐偽百出莫可窮詰税司所呈各節自係為整頓税項杜絶流弊起見臣等再三商権与其弁理両岐徒滋影射何如改帰一律以昭大公擬即照該税司所鎮江関章程推行各関一体照弁華商請領報単免納内地釐金仍完子口税況前所買土貨未必概運出洋則多収倍半之税留抵釐金亦尚有盈無絀似於 国課商情両有裨益如蒙
 兪允即由臣等剳飭総税務司及咨行南北洋大臣転飭各海関監督定期開弁理合附片具陳伏乞
 聖鑑
 訓示謹  奏



〔参考〕東京経済雑誌 第三四巻第八四三号・第四八五―四八七頁 明治二九年九月一九日 ○清国内地製造品課税の議(DK210020k-0002)
第21巻 p.187-190 ページ画像

東京経済雑誌  第三四巻第八四三号・第四八五―四八七頁 明治二九年九月一九日
    ○清国内地製造品課税の議
媾和条約第六条第二項第四号に曰く
 日本国臣民は清国各開市場開港場に於て自由に各種の製造業に従事することを得べく、又所定の輸入税を払ふのみにて自由に各種の器械類を清国へ輸入することを得べし、清国に於ける日本国臣民の製造に係る一切の貨品は、各種の内国運送税内地税賦課金取立金に関
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し又清国内地に於ける倉入上の便益に関し、日本国臣民が清国へ輸入したる商品と同一の取扱を受け、且同一の特典免除を享有すべきものとす
然らば帝国臣民が清国へ輸入したる商品は如何なる取扱を受け、如何なる特典免除を享有せる乎、余輩は日清通商航海条約を見ざる今日に於ては之を審にするを得ずと雖も、媾和条約第六条第一項に現に清国と欧洲各国との間に存在せる諸条約章程を以て日清両国間諸条約の基礎と為すべし、又本約(媾和条約を曰ふ)批准交換の日より該諸条約の実施に至る迄は、清国は日本国政府官吏商業航海陸路交通貿易工業船舶及臣民に対し、総て最恵国待遇を与ふべしとあり、而して現今欧米諸国商人の商品を搭載して清国に入港するものには、輸入正税五分を課し、尚内地を通過せしむるものに対しては、三聯単即ち内地通過券を与へて、子口税即ち内地通過税二分五厘を課せらるゝのみなれば我が帝国商人の商品を清国に輸入するに方りても、亦五分の輸入税と二分五厘の通過税とを課せらるゝの外、何等の租税をも課せられず、而して媾和条約第六条第二項第三号に従ひ、其の商品を倉入する為め何等の税金取立金をも納むることなく、一時倉庫を借入るゝの権利を有することにて、清国に於ける我帝国臣民の製造に係る一切の貨品は此等の輸入商品と同一の取扱を受け、且同一の特典免除を享有すべきものたるを以て、清国の開市場若くは開港場に工場を建設して貨品を製造するときは、運賃・保険料等を要せざるのみならず、輸入税及び通過税をも要せざるものなり、然るに清国総理各国事務衙門は内地製造品の課税に関し、同国皇帝に奏議して曰く
 曩に南北両洋開港の通商総司は屡々書を上りて、各条約港に於ける器械製品、之を例せば南部に於ける綿製品及生糸の如き、北部に於ける葡萄酒の如きは唯輸出税のみを課するか、若くは当分の間関税(輸出税)厘金税共之を免除せられ度旨を申請する所あり、其申請の意たる貿易を振作する為政府の収入を減して、民人を裨益せんとするに外ならざるべく、又当時に於ては外国人の製造業に関しては条約中に何等の明文あらざりしを以て、爾来暫く之を臨機の処分に委したり、然るに下関条約の締結せらるゝや、各国人民何れも内地に於て製造業を為すの権を得るに至れるを以て、此際に於て従来の政策を変更して、我富源の国外に流出するを防ぎ、兼て外人が課税の減却又は廃止を要請するの口実を杜絶するの適当なる方法を講ずるは頗る必要なりとす、今や日本人は製造所を建設する為め上海に土地を購入し、他諸国人亦多数の製造所を設立せんとす、斯の如くんば一転瞬の間条約港に蒸気製造所の起る林の如く、各種の商品忽にして漲溢せん、顧ふに此等の製造を為して以て利を得るものは、又宜しく之に対して税を担ふの責あるべし、此の如く新計画の起るに当り、一定の税率を定めて以て彼に重く此に軽きの弊を除き、万民皆一に依らしむるは甚だ必要と謂ふべし、目下外国商人の外国産品を輸入するや、率ね五分の輸入税を払ひ、之を内地に輸送するに当ては更に又二両五銭の通過税を払ふべく、又外国商人の内地に於て内国産品を購求し、之を輸出するに当りては、通過券制に従へば
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其輸出税及輸出税の半額即ち通過税を払ふ時は随意に之を輸出し得べし、要するに外国商人は輸入と輸出とを問はず、商品の運搬に就きては関税と通過税との外他に何等の課税だも負ふことなし、然るに内国産品の未だ外商の手に渡らず、又外国産品の内国人の手に落ちたるものは之を移動するに当り厘金税を賦課せらるべきなり、特に外国人が清国内地に於て器械を以て製造せる者の如きは、外国輸入品の如く艀賃を要せず、船賃を省き、又保険料其他陸揚人夫賃等を要せざるを以て、其製造に要する資本金や小にして、其製造品より得へき収益や大なりとす、故を以て此際各省総督及巡撫が内国産品に対し、其産地に於て厘金税額を定むるの制を廃し、今後総て内国製品は其内国人の製造に係ると、外国人の製造に係るとを問はず悉く其製造所を搬出するに先ちて、之に其輸出の際に課すべき五分関税の二倍を課し、以て内地に於ける一切の厘金税を免ずることとなさんとす、即ち其製造地に於て課する税は一割にして、一度之を払ふ時は内国何れの地に到るも、厘金税を課せらるゝことなからしむべし、斯の如くして国庫が厘金税に於て失ふ所は新税より得る所を以て之を償ふが故に、結局政府の歳計は敢て増減する所なかるべし
 此奏議にして陛下の允裁を得ば、之を南北両洋の通商総司に移し、更に税務局に命して右の主旨に依り一定の処置をなさしむべく、而して其製造品を律するの税則を制定するは奏議を為せる者の義務に属す
今試みに改正案と現行法とを対照すれば左の如し
    清国人の場合(現行法)
   輸出せざる場合      出する場合
 厘金税          厘金税及輸出税
    外国人の場合(現行法)
   輸出せざる場合     輸出する場合
 厘金税          通過税及輸出税
    清国人の場合(改正法)
   輸出せざる場合     輸出する場合
 従価一割(製造元に於て)     輸出税
    外国人の場合(改正法)
   輸出せざる場合     輸出する場合
 従価一割(製造元に於て)     輸出税
故に若し総理衙門奏議の如く一割の製造税を課せらるゝこととなれば清国に於ける我が帝国臣民の製造に係る貨品は、輸入商品よりも二分五厘の高税を課せらるゝこととなるべし、抑々我が帝国を初め欧米各国の人民続々清国に到りて工場を建設し、以て貨品を製造するに於ては、清国の輸入税は減少すべき道理なるを以て、清国政府が其の製造品に対して課税せんとするは一応の理なきにあらずと雖も、外国人の製造業を抑制すると同時に、内国人の製造業をも阻碍するの悪結果あることを思はざるべからず、而して我が帝国政府は断じて此の課税を許すべからず、何となれば是れ実に媾和条約に違背せる不当の処置な
 - 第21巻 p.190 -ページ画像 
ればなり、左ればにや右の奏議を掲載せる滬報の北京に達するや、林公使は直ちに総理衙門に向て其真偽を照会したるに、衙門は之に復書して衙門の上奏せしものなる旨を確報し来りたれば、公使は更に総理衙門に向て厳談を開始せりと云へり、而して此の製造税成立せば、輸入税も亦引上げらるべし、何となれば内地税と平均を得る迄輸入税率を引上ぐるは自由貿易論者と雖も、承認せざるべからざる所なればなり、況や既に輸入税引上げの議あるに於てをや、媾和条約の締結者たる我が帝国は豈に此の製造税を認許して可ならんや



〔参考〕東京経済雑誌 第三四巻第八四三号・第五〇四頁 明治二九年九月一九日 ○清国製造税賦課問題と上海商業会議所の決議(DK210020k-0003)
第21巻 p.190-191 ページ画像

東京経済雑誌  第三四巻第八四三号・第五〇四頁 明治二九年九月一九日
    ○清国製造税賦課問題と上海商業会議所の決議
去月廿六日午後四時より上海なる外国人商業会議所は清国政府の製造税賦課の議に就き特別委員会を開き、委員会議員イー、エフ、アルフオード氏以下六名の委員出席し、議長先づ総理衙門の奏議を朗読し、生糸製造及綿糸紡績業等に課税の利害を論究し、特に生糸製造に就きては一層精細なる討議を尽し、結局委員会の意見を北京駐剳各国公使の上席デンビー氏に具申することゝなり、翌日直に其の具状書を送達せりといふ、即ち左の如し
 商業会議所委員会は拙者に希望するに、別紙北京駐剳列国公使の上席デンビー公使に宛てたる書状に貴下の一考を煩はさんことを以てせり
 今回総理衙門の奏議中に見ゆる生糸製造業の課税に対しては熱心なる反対あること貴下の了承せらるゝ所なるべく、事頗る重大なるを以て、本会議所は時日の遷延を虞れ、上陳の書状は直接に之を北京に送致し、尚左の如く電報せり
  商業会議所は生糸製造業に課税せんとする総理衙門の奏議に対して反対せんと欲す、詳細は之を書翰に委す
 而して拙者は各国領事の上座なる貴下に対して本会議所の意見を翼賛せられんことを請ふべき旨を求められたり、爰に敬意を表し候
                           頓首
  千八百九十六年八月二十七日
            上海商業会議所
                議長 イー、エフ、アルフオード
    独逸国総領事兼領事 オー、スチユーベル 貴下
(別紙) 拙者は本書中に外国語及清語の新聞紙に掲載せる総理衙門の奏議を封入せり、此奏議に対し商業会議所委員会は拙者に求むるに生糸製造及綿糸紡績課税の義に就き閣下の注意を請はんことを以てせり、奏議の意は明晰にして其言ふ所は釐金税及此等類似税(是れ年年増加し目下頗る多額となれるもの)を補正する為め、器械を利用する綿製品及生糸製造等に対し其外国輸出の際に課する五分税の二倍を課税せんとするに在り、即ち其税額や一割にして之を納めたる後は国内何れの地に仕向くるも釐金税を免ぜらるべし
 此議たる綿糸製造業に影響を及ぼすこと(内地に製品を輸送するに釐金税を免除せらるゝありと雖も)頗る重大なるものあり、然れど
 - 第21巻 p.191 -ページ画像 
も本会議所は目下設立中なる綿糸製造場主より一層精細なる報告に接する迄は暫く綿製品に対して具陳するを罷め、追て報告を領したる後に於て更に閣下に請ふに、奏議中綿製品課税にも反対せられんことを以てせんと欲す、爰に奏議に関して閣下の注意を促がす所は特に生糸製造業にあり、是れ綿糸製造とは頗る其趣を異にし、其製出品は全く欧洲及合衆国に輸出せらるゝものなるを以てなり
 生糸に対しては従価税一割を課せんとするの議は単に輸出税は七分乃至八分五厘を増課せんとするものなり、何となれば実際目下の関税は白糸一担十両、黄糸七両、天蚕糸五両にして、之を各価格に比較する時は一分五厘乃至三分に止まるを以てなり
 本会議所は閣下に訴ふるに此増税は徒らに清国に於ける製糸工業を衰頽せしめ、同時に競争国の産出を利するものなることを以てし、且つ若し其課税の議たる人力、若くは類似の方法を以て営業する清国古来製糸業をも排斥するの意に出づる者ならしめば、或は不公平を見ざるべしと雖も、課税の結果は唯器械製糸の停廃を促し、本工業をして二十年前の旧態に退歩せしめ、且つ此等の製造所に従事し以て自身の生活を営み、兼ねて家族を養育する二万五千以上の清国傭夫をして、忽に其生業を失はしむるに至るべきことを以てせんと欲す
 清国政府は清国の製糸は外国市場の相場を左右するものなりと信ずるが如しと雖も、事実決して然るにあらず、却て外国市場は清国に於ける外商の清国産繭買入相場を左右するものなり
 其生糸の原料等に対して本年既に支払ふたる釐金税及落地税は既に平均九分以上に達せり、今製糸の釐金及落地税の補正として更に一割の税を課せんとするは、恰も清国は改良生糸に対して一割九分以上の罰金を課せんとするものなり
 右の如く本年既に諸税を払ふて買入れたる繭より製出せる生糸に対し、更に増税を課せんとするが如き不条理の到底認許せらるべしとは本会議所の信せざる所也、蓋し毎年繭の買入をなすは五月・六月の両月にして、其間に於て開始し、且つ僅に二三週間継続する繭市場より其一年間に要する総額を買入るゝ者なり、去れば本年該季節に於ける繭は此製造税の賦課を予期せざるの相場を以て買入れたるものなることを閣下の胸裡に存ぜられんことを希望す
 本会議所は閣下の正義心に信頼し、以て本問題に注意せられんことを請ひ、且つ外国使臣の上席として閣下か同僚に議りて、以て該異議の主趣は列国の同意せざる所なるべき旨を総理衙門に言明せられんこと、偏に希望の至に堪へず、謹で敬意を表し候 頓首
  千八百九十六年八月二十七日
          上海商業会議所
             議長 イー、エフ、アルフオード
   北京駐剳外国使臣上席
    米国全権公使 コロネル、デンビー 閣下