デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治30年10月8日（1897年）

是ヨリ先当会議所、中野武営ノ建案ニヨリ営業税法実施後ノ状況及ビ同法ノ得失ヲ調査中ナリシガ、是日ノ会議ニ於テ、同法ノ全廃ヲ希望スル旨議決シ、追ツテ開催サルベキ全国商業会議所七部委員会ニ提出スルニ決ス。栄一会頭トシテ之ニ与ル。

東京商業会議所月報　　第五六号・第一二―一七頁　明治三〇年四月
○明治三十年三月五日、本会議所ニ於テ第五十九回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　河村隆実君　○外四十四名氏名略
午後五時四十分開議、渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後九時四十分閉会ス
○中略
　一営業税法調査委員ヲ設クルノ件　（会員提出）
本件ハ会員中野武営君ノ発議ニ係リ、其要旨ハ、営業税法実施後ノ状
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況及ヒ同法ノ得失ヲ調査スルカ為メ、会頭ノ指名ヲ以テ七名ノ委員ヲ設クヘシト云フニ在リ、審議ノ末多数ヲ以テ之ヲ可決セシニ依リ、其後会頭ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名シタリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中野武営君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　末延道成君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　加東徳三君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　荘田平五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上角五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　朝吹英二君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　吉田幸作君

東京商業会議所月報　　第五八号・第一〇頁　明治三〇年六月
○同月　○五月二十一日午後七時三十分、本会議所ニ於テ営業税法調査委員会議ヲ開キ、委員長ヲ選挙セシニ、其結果左ノ如クニテ午後七時四十分閉会ス
　　　　　　　　　　　　　　　委員長　中野武営君

東京商業会議所月報　　第五九号・第三頁　明治三〇年七月
○同月　○六月十八日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、午前十一時閉会ス
○中略
○同月　○六月二十五日午前八時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、正午閉会ス

東京商業会議所月報　　第六〇号・第五頁　明治三〇年八月
○同月　○七月二日午前八時、本会議所ニ於テ委員会ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、午前十一時閉会ス
○中略
○同月　○七月九日午前八時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、午前十一時閉会ス
○中略
○同月　○七月十九日午前八時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、正午閉会ス
○中略
○同月　○七月二十三日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、正午閉会ス

東京商業会議所月報　　第六二号・第二三頁　明治三〇年一〇月
○同月　○九月三日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、午前十時三十分閉会ス
○中略
○同月　○九月二十四日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法調査ノ件ヲ審議シ、正午閉会ス
○同月二十九日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、営業税法
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調査ノ件ヲ審議シ、午前十一時三十分閉会ス

東京商業会議所月報　　第六三号・第一一頁　明治三〇年一一月
○同月　○十月八日午後三時、本会議所ニ於テ役員会議ヲ開キ　○中略　七部委員会　○全国商業会議所七部委員会開設ノ件ヲ審議シ、午後五時閉会ス

東京商業会議所月報　　第六三号・第一〇頁　明治三〇年一一月
○明治三十年十月八日、本会議所ニ於テ第六十六回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　河村隆実君　○外二十六名氏名略
午後五時十分開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時閉会ス
○中略
　一　営業税法調査委員調査報告ノ件　（委員会議提出）
本件ハ委員報告ノ如ク可決シ、甲号営業税法全廃ノ意見ハ追テ開クヘキ全国七部委員会ヘ提出シ、乙号税法革新意見ハ其筋ヘ建議スルコトニ決シ、字句ノ修正等ハ役員会議ニ一任スルニ決ス（営業税法全廃ノ意見ハ参照ノ部第三号ニ掲載ス）
　　○全国商業会議所七部委員会ハ明治三十年十一月五日当会議所ニ於テ開催サル。本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」同日ノ条参照。

東京商業会議所月報　　第六三号・第一七―一九頁　明治三〇年一一月
○参照第三号
　明治三十年十月八日臨時会議ノ決議ヲ経タル営業税法廃止意見ノ全文ハ左ノ如シ
　　　　営業税法廃止ノ意見
我国現行税法其種類少カラスト雖トモ、之カ実施ノ日ニ際シテ所在紛擾ヲ極メシモノ未タ曾テ営業税法ノ如ク甚シキハアラサルナリ、試ニ本年一月本法実施以後ノ状況ヲ査察スルニ、各府各県一トシテ苦情ノ声ヲ聞カサルハナク、物論囂々官民乖離、其結果殆ント実業界ノ平和ヲ攪破シタル迹アリ、其此ニ至リシ所以ノモノハ、畢竟本法ハ根柢ニ於テ不良ノ税法ナルカ上ニ、課税標準複雑ニ失シ徴収方法簡明ヲ欠クニ由ラスンハアラス
全国商業会議所ハ本法実施前ニ於テ早ク既ニ今日アルヘキヲ予想シ、明治二十九年十一月特ニ臨時聯合会議ヲ開キ一ノ改正意見ヲ具シテ之ヲ当局ニ建議シ、併セテ帝国議会ニ請願セリ、其意蓋シ戦後国費ノ多端ナル本法ノ遽カニ廃止ス可ラサルヲ思ヒ、中ニ就キ特ニ納税者ヲシテ苦痛ヲ感セシムヘキ点ヲ改正シ、以テ実施後ニ生スル弊害ヲ未然ニ防カント期セシニ在リ、然ルニ全国商業会議所ノ微衷ハ政府当局ノ諒スル所トナラス、今ヤ本法ハ実施セラレ、実施ノ結果ハ而カモ予想以外ノ紛擾ヲ極ムルニ至レルハ遺憾ト謂フヘシ、倩ラ本法実施後ノ状況ニ因テ考覈スレハ、向後多少条文ニ改正ヲ加ヘラルヽコトアリトスルモ到底円満ノ結果ヲ収ムルニ足ラサルヘキヲ信ス、故ニ是ノ如キ不良ノ税法ハ寧ロ今日ニ於テ断然廃止セラレンコトヲ希望セサルヲ得サル
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ナリ、乞フ其理由ヲ左ニ開陳セン
　（一）営業税法ハ不良ノ税法ナル事
　凡ソ租税ハ国民ノ勤勉労働ニ課セスシテ勤勉労働ノ結果タル富即チ財産ニ課スルヲ可トス、何トナレハ勤勉労働ニ課税スルハ国民ノ勤勉心ヲ抑止スルト同一ナレハナリ、然ルニ営業税法ハ売上金高・資本金高・報償金高ノ如キモノヲ標準トシテ商工業者ノ勤勉労働ニ課税スルノ方針ヲ取レリ、若シ本法ニシテ永ク実施セラルヽカ如キアランカ、独リ商工業者ノ勤勉心ヲ抑止スルノミナラス、延テ商工業ノ発達ヲ阻碍スヘキモノナリ、是豈不良ノ税法ニ非スヤ
　（二）営業税法ハ不公平ノ税法ナル事
　営業税法ハ大体ニ於テ不良ノ税法ナルニ止ラス、単ニ税法中ニ包括セラレタル各種営業ニ就テ観ルモ、課税ノ結果均衡ヲ保ツ能ハサルハ論ナク、同一営業ニ在テモ亦納税上甚シキ不公乎ヲ生スルヲ免レサル税法ナリ、蓋シ本税法ハ課税標準ヲ売上金額・資本金額・請負金額・報償金額・建物賃貸価額・従業者ノ六者ニ取レリト雖モ、以上六者ハ課税標準トシテハ最モ不適当ノモノナリ、何トナレハ会社組織ヲ以テスル営業ヲ除ケハ売上金額ト云ヒ、資本金額ト云ヒ、請負金額ト云ヒ、報償金額ト云ヒ、将タ建物賃貸価格ト云ヒ、従業者ト云ヒ、共ニ之ヲ確知スルニ由ナキモノヽミナレハナリ、唯其レ之ヲ確知スルニ由ナシ、是ニ於テ乎当業者ノ申告ト収税官ノ推算トハ一致スル能ハス、或ハ帳簿ノ検査トナリ、或ハ不当ノ推測トナリ、紛々擾々殆ト底止スル所アル可ラス、春来各地物論ノ囂々タルモノ総テ之カ為メナリ、而シテ其結果如何ト云ヘハ、同一ノ資産ヲ以テ同一ノ業ヲ営ム者モ甲乙其地区ヲ異ニスレハ負担ニ著シキ異同懸隔ヲ生シ、甲乙其収税官ヲ異ニスレハ税額ニ非常ノ差等ヲ見ルニ至リ特ニ甚シキニ至テハ同一地内ニ同一業ヲ営ムモノニシテ小規模ノモノ却テ大規模ノモノヨリモ多額ノ税ヲ納ムルカ如キ奇観アリ、畢竟其是ノ如クナル所以ノモノハ、要スルニ本税法ハ確知スルニ由ナキモノヲ以テ課税標準ト為シ、収税官ニ与フルニ認定ヲ逞フスルノ余地ヲ以テシタルカ為メノミ、抑モ妄リニ営業帳簿ヲ点検セラレ、妄リニ営業時間ヲ浪費セシメラルヽハ商工業者ノ最大苦痛トスル所ナリ、然ルニ本税法ノ行ハルヽ限リハ此最大苦痛ヲ受ケタル外ニ極メテ不公平ナル納税義務ヲ負担セサルヘカラス、是決シテ商工業者ノ堪フヘキ所ニ非サルナリ、世上或ハ言ヲ為スモノアリ、曰ク、本法実施ニ際シテ物論囂々タリシハ事実ナルモ、久シカラスシテ鎮静ニ帰セシハ課税ノ結果公平ヲ得タルカ為メニ非スヤト、是誠ニ誣妄ノ言ナリ、囂々タル物論ノ一時鎮静ニ帰シタルハ課税ノ結果公平ヲ得タルカ為メニハ非スシテ、商工業者カ収税官ニ抗争スルノ煩ト労トニ堪ヘス、姑ク忍テ之ニ屈従シタルニ由ルノミ、故ニ其実蹟ヲ査察スレハ、速ニ屈従シタルモノハ認定的重税ヲ課セラレ、抗争シテ屈セサリシモノハ予定税額ヲ軽減セラルヽニ至リ、不公平ノ度ヲシテ愈々甚シカラシメシニ過キサルナリ
　（三）営業税法ハ産業ノ発達ヲ阻害スル税法ナル事
　殖産興業ヲ奨励スルハ我政府年来ノ方針ニシテ、之カ為メニハ年々
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少カラサル奨励金ヲ支出スルノミナラス、或ハ棉花ノ輸入税ヲ廃止シ、或ハ棉糸ノ輸出税ヲ廃止シ、若クハ生糸ノ輸出奨励法ヲ設クル等用意頗ル観ルヘキモノアリト雖トモ、営業税法ニシテ実施セラルル以上ハ此等ノ奨励ハ全ク水泡ニ帰シ、産業ノ発達ハ大ニ阻害サレサルヲ得ス、試ニ輸入棉花ニ就テ之ヲ言フモ、之ヲ積載シ来ル内国汽船ハ運送業トシテ課税セラレ、之ヲ引取ル開港場ノ商店ハ仲買業トシテ課税セラレ、之ヲ販売スル者、之ヲ紡績スル者、之ヲ織物トシテ製出スル者亦皆各種業目ノ下ニ於テ各別ニ課税セラルヽカ故ニ輸入税ノ免除ハ何等ノ効果ヲモ実際ニ与フル能ハス、従テ内地ノ綿糸業ハ到底発達スルニ由ナキナリ、独リ輸入棉花ニ於テ然ルノミナラス、生糸ノ輸出ニ就テ之ヲ言フモ、蚕紙製造販売者ヨリ生糸輸出商ニ至ルマテ再転三転皆悉ク課税セラルヽヲ以テ、多少ノ輸出奨励金アルモ実際之ヲ奨励スルニ足ラサルナリ、以上ハ只一・二ノ事例ヲ挙ケシニ過キス、若シ仔細ニ之ヲ稽査スルアラハ、各種ノ産業皆然ラサルハナカラン、故ニ本税法ハ到底産業奨励ノ方針ト両立スル能ハサルモノナリ
以上ハ則チ営業税法廃止ノ已ムヘカラサル理由ナリ、此ニ一アルヲ以テ国税トシテ存立スルヲ許スヘカラス、況ンヤ此数者ヲ兼ヌルオヤ、是断然本法ヲ廃止セラレンコトヲ希望スル所以ナリトス

東京商業会議所月報　　第六三号・第一一頁　明治三〇年一一月
○同月　○十月十二日午前十時、本会議所ニ於テ役員会議ヲ開キ　○中略　営業税法全廃意見及ヒ税法革新意見ノ件等提出方ニ付審議シ、午後一時閉会ス
　　　○本巻明治二十九年四月二十五日、同二十九年十一月六日、同二十九年十二月十七日、同三十年五月七日、同三十年十二月二十七日ノ各条、並ニ本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治二十九年十一月十九日、同三十年十二月四日ノ両条参照。