デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年9月16日（1898年）

是ヨリ先当会議所、農商務次官柴四朗ヨリ、政府ニ於テ清国ニ視察員ヲ派遣スルニ就キ視察事項ニ関スル意見ヲ諮問セラル。是日栄一会頭トシテ、当会議所ノ意見ヲ復申ス。

東京商業会議所月報　　第七三号・第二頁　明治三一年九月
○同月　○八月十九日、清国商工業視察ノ義ニ関シ農商務省次官ヨリ照会書ヲ接受ス（照会書ノ全文ハ参照ノ部第四号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第七三号・第九―一〇頁　明治三一年九月
○参照第四号
　明治三十一年八月十九日清国商工業視察ノ義ニ付農商務次官ヨリ接受セシ照会書ノ全文ハ左ノ如シ
日清間通商ノ進歩ヲ図ルハ本邦対外貿易上最モ急要ノ事業タルコト勿論ノ儀ニ有之、本省ニ於テモ常ニ其注意ヲ惰ラス、就中必要ノ問題ニ付テハ、時々吏員ヲ清国ニ派遣シ、其実際ノ状況ヲ踏査セシメ居候得共、当今日清間ノ関係及本邦対外貿易ノ状勢ハ清国ニ向ツテ一層大規模ノ調査ト劃策トヲ促ルモノアリ、因テ此際本省ニ於テ各種事業ニ堪能ナル若干ノ技術者・商業者等ヲ撰抜シ、一時ニ之ヲ清国ニ派遣シ、各種ノ事業ニ付同時ニ充分ノ調査ヲ遂ケシメ、其調査ノ結果ヲ綜合シ是ニ基テ商業ニ工業ニ将タ農業ニ其レ々々適当ノ計策ヲ劃スルノ必要ヲ認メ、急速右調査員派遣ノ件実行可致見込ニ有之、而シテ此行固ヨリ実際ニ於テ充分ノ効果ヲ収メムコトヲ期スルニ付テハ、其実行ニ先チ先ツ当業者ニ就テ、調査スヘキ事業ノ撰択、各種事業ニ付調査スベキ事項、調査ノ方法・順序等ハ如何ニシテ以テ実効ヲ収ムヘキカ篤ト協議ヲ遂クルコト適当ト存候ニ付テハ、即チ右等事項ニ関スル貴所ノ御意見充分承知致度、尚又今回ノ調査ニ付テハ、政府ニ於テ可及的各般ノ便宜ヲ図ルヘキニ付、当業者ニ於テモ有志ノ向ハ本省派遣委員ト共ニ可成同行候様致度ニ付、此儀其向々ヘ充分御勧誘被成下、而シテ希望者有之候節ハ、直ニ其氏名・目的等本省ヘ御通知相成度、此段切ニ希望致候　敬具
　　明治三十一年八月十九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　農商務次官　柴四朗
　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一殿
　　追白
　本省派遣員ニ同行スル当業者ハ広ク各種事業ヨリ出ツルコト固ヨリ希望スル所ニ候得共、深ク実業ニ関係ナキ者ハ避ケ度候ニ付、御勧
 - 第21巻 p.335 -ページ画像 
誘上其辺御注意相成度候
　本文調査委員ハ遅クモ九月下旬ニ本邦ヲ発シ、略三・四ケ月ヲ期シテ調査ヲ了ヘ帰朝候様致度見込ニ付、可成速ニ御答報相願度、又調査スヘキ事業ハ略前記ノ如ク相定候積リニ候得共、尚他ニ御心附モ有之候ハヽ御注意相成度、将タ右等事業ノ外或特種事業ニ付別ニ調査ノ志望有之候者同行候モ差支無之儀ニ付御了知有之度、尚又巡回地方モ略前記各調査事業ノ下ニ記入候得共、是又大体ノ見込ニ止マリ、愈派遣員モ決定候上協議確定可致見込ニ之有候
一茶業ノ状況
　　巡回地方見込　　上海・漢口ヨリ内地及福州・厦門地方
一生糸業状況
　　同上　　　　　　江蘇・浙江・広東・上海地方
一綿織物輸入ノ状況
　　同上　　　　　　香港・上海・天津・漢口
一毛織物輸入ノ状況並羊毛ヲ本邦ニ輸入スルニ付見込
　　同上　　　　　　香港・上海・厦門・漢口・天津・牛荘
一木材輸入ノ状況、内地林業ノ見込
　　同上　　　　　　天津・上海・漢口・牛荘等
一綿糸販路並棉花生産ノ状況
　　同上　　　　　　香港・上海・漢口等
一玻璃・セメント・陶磁器等販路ノ状況
　　同上　　　　　　上海・漢口・新開港地
一絹綿織物業ノ状態
　　同上　　　　　　蘇州・杭州及其地方
一大豆糟・大豆等生産販売ノ状況
　　同上　　　　　　牛荘・遼東半島、直隷・山東両省
一麻類生産販売ノ状況
　　同上　　　　　　揚子江沿岸地方・遼東半島
一内地牧畜業・養鶏業ノ状況
　　同上　　　　　　揚子江沿岸地方・上海附近各省、広東・広西両省、上海・漢口・香港等
一燐寸販路ノ状況
　　同上　　　　　　香港・上海及其地方
一水産物販路ノ状況
　　同上　　　　　　香港・広東・上海等
一塩業ノ状況
　　同上　　　　　　直隷・山東・江蘇・福建・広東・香港
一金融事情、日清間金融疏通ノ方法、金貨本位ノ影響並其救済策
　　同上　　　　　　上海・香港・漢口・新開港地等
一鉄道其他交通機関設備ノ計画
　　目下計画ニ係ル各鉄道ノ始路及終点ニ当ル重要ノ都府、重要ノ都府ヲ聯絡スル水路
一沼海河川、航運業ノ見込
　　同上　　　　　　揚子江・上海・天津・厦門・漢口・新開港地
 - 第21巻 p.336 -ページ画像 
一商業取引ノ慣習・状態
　　同上　　　　　　上海・香港・漢口・厦門・新開港地等
一新開港地ニ於テ本邦人ノ居留ヲ便宜ニシ、之ヲ勧誘奨励スル方法
　　同上　　　　　　各新開港地
一開港地ニ於ケル外国人企業ノ状態、本邦人企業ノ見込
　　同上　　　　　　上海・新開港地等

東京商業会議所月報　　第七四号・第一八頁　明治三一年一〇月
○明治三十一年九月三日午後六時、本会議所ニ於テ役員会議ヲ開キ、清国商業視察員派遣ノ件ヲ審議シ、午後九時閉会セリ

東京商業会議所月報　　第七四号・第一八頁　明治三一年一〇月
○同月　○九月十三日、清国商業視察員派遣ノ件ニ関シ市内各組合会社五十四ケ所ヘ照会書ヲ発送ス
○中略
○同月　○九月十六日、清国商業視察員派遣ノ義ニ関シ農商務次官ヘ答申書ヲ進達ス（答申書ノ全文ハ参照ノ部第一号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第七四号・第一九―二〇頁　明治三一年一〇月
○参照第一号
　明治三十一年九月十六日清国商業視察員派遣ノ義ニ関シ農商務次官ニ進達セル復申書ノ全文ハ左ノ如シ
今般御省ニ於テ日清間通商ノ進歩ヲ図ル為メ視察員ヲ清国ニ派遣シ、各種ノ事業ヲ調査セシメラレ候ニ就テハ、右調査上ニ関シ意見ヲ開陳シ、且ツ当業者ニ右視察員ト同行ノ義ヲ勧誘可致様御照会ノ趣承知仕候、即チ右調査上ニ関シテハ本会議所ヨリ其途ニ経験ヲ有スル当業者ノ所見ヲ叩キ、別紙ノ通二・三気附ノ点ヲ記載シテ供貴覧候間可然御参考相成度、猶視察員ト同行ノ義当業者ニ勧誘ノ件ニ関シテハ、目下本会議所ヨリ其向々ヘ照会中ニ付、追テ其模様相分リ次第更ニ何分ノ義上陳候様可仕候
先ハ此段不取敢別紙ヲ添ヘ復申仕候也
　　明治三十一年九月十六日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　農商務次官　柴四朗殿
（別紙）
　　　　調査上ニ関スル見込
一各事項ヲ調査スルニハ可成実際ニ就キ精細ノ観察ヲ遂クルヲ要ス、然ルニ若シ其事項広濶ニ失スル時ハ、調査上空シク時日ト手数トヲ要シ、勢全体ニ就キ或ハ事実ノ真相ヲ窮メ難キノ恐ナシトセス、故ニ先其事項中緩急ヲ考量シ、将来日清貿易上ニ至大ノ関係ヲ有シ而カモ従来本邦ニ於テ調査ノ材料ヲ得難キモノニ就テハ、主トシテ精細ノ観察ヲ遂クルモノトシ、現時本邦ニ在リテ相当ノ調査ヲ為シ得ヘキ見込ノモノハ、他ノ主要事項ノ調査上幸余閑アルトキ之ヲ観察スヘキ事
 - 第21巻 p.337 -ページ画像 
一視察員ハ可成実業ニ縁故近キ者ノ中ヨリ撰抜スルモノトシ、勉メテ商業的ノ調査ヲ為サシムル事、尤モ各事項毎ニ各別ノ視察員ヲ定ムルハ調査ノ完全ヲ期スル上ニ於テ便宜ナキニアラサルヘシト雖トモ斯ノ如キハ到底少数視察員ニ於テハ望ミ難キ事情アルヘキニ付、先ツ土地ノ状況ニヨリテ調査ノ区域ヲ数部ニ画シ、視察員二名若クハ三人宛ヲ一団トシテ数個ノ受持組合ヲ定メ、例ヘハ遼東・満州地方ハ甲組ノ受持、北京・天津地方ハ乙組ノ受持、漢口・四川地方ハ丙組ノ受持ト云フカ如ク、各組合ヲシテ各部ニ属スル一切ノ調査ヲ受持タシムル事
一清国鉱山業（特ニ石炭業）及製鉄業ハ本邦人ノ前途最モ注意ヲ要スヘキ所ナルニ付、此両種ハ調査事項中ニ加ヘ、特ニ詳密ノ調査ヲ遂クル事
一近時清国政府カ自国人若クハ外国人ニ敷設ヲ特許シタル鉄道一ニシテ足ラスト聞ク、然ルニ同国鉄道業ノ発達ハ将来本邦対外貿易ノ全局ニ一大変動ヲ生スヘキニ付、此鉄道業ハ他ノ一般交通業ト独立シテ特ニ一項目トナシ、各予定線路ノ延長、敷設年限ノ詳細ハ勿論、他日其成工ノ後商業上ニ及ホスヘキ趨勢ニ至ル迄可成精細ナル調査ヲ遂クル事
一清国内地ノ日用品ニシテ例ヘハ帽子・靴足袋・椅子・寝台・焼酒・醤油等ノ如キ将来本邦ニ於テ製造輸出ノ見込アルモノヽ景況、清国人間手形取引ノ方法、外国人ノ商店ニ於テ所謂「コムプラトル」ナル者ヲ雇傭スルノ方法ノ如キハ特ニ調査事項中ニ加フルノ必要ナカルヘキモ、亦日清通商上参考スヘキ一要件タルヘキニ付、視察員カ他ノ主要事項ヲ調査スルニ当リ傍ラ其実況ヲモ注察スル事
　　　○本資料第二十巻所収「東京商業会議所」明治二十八年十月十五日ノ条、並ニ本巻明治二十九年三月十二日ノ条ノ参考部記事参照。

東京商業会議所月報　　第七五号・第一―二頁　明治三一年一一月
○明治三十一年十月六日、本会議所ニ於テ第七十二回臨時会議ヲ開ク当日出席者ノ氏名左ノ如シ
　武田忠臣君　○外十七名氏名略
午後六時開議、渋沢会頭病気ノ為メ欠席ニ付副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後九時閉会ス
○中略
　一書記長萩原源太郎氏清国ヘ出張ノ件
本件ハ会員中野武営君ノ報告ニ係リ、其要旨ハ、書記長萩原源太郎氏今回農商務省ヨリ清国商業視察ノ嘱託ヲ受ケシニ就テハ、全会ニ於テ承認セラレタク、且ツ同省ヨリ支給スル経費ニテ万一不足ヲ生シタル場合ニハ本会議所ヨリ之ヲ補給スルコトヲモ承認セラレタシト云フニ在リ、全会異議ナク之ヲ承認スルニ決ス

東京商業会議所月報　　第七五号・第四頁　明治三一年一一月
○同月　○十月七日、清国商業視察《（員脱）》トシテ渡航希望者有無ノ義ニ付農商務
 - 第21巻 p.338 -ページ画像 
次官ヘ回報書ヲ発送ス
○中略
○同月同日　○十月九日　農商務省ヨリ清国商業視察ノ嘱託ヲ受ケタル本会議所書記長萩原源太郎氏同国ニ向ケ発途ス

渋沢栄一　日記　　明治三二年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
二月十三日　晴風強シ
○上略　午後四時紅葉館ニ於テ、東京商業会議所書記長萩原源太郎氏清国ヨリ帰朝セル為メノ慰労会ヲ開ク、夜十時過帰宅