デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年12月10日（1898年）

是日栄一当会議所会頭トシテ、財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシムル為メ地租ヲ増徴センコトヲ貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長片岡健吉ニ請願ス。

東京商業会議所月報　　第七七号・第一三―一四頁　明治三二年一月
○明治三十一年十二月三日、本会議所ニ於テ第七十五回ノ臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　河村隆実君　○外三十名氏名略
午後五時開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ就キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ午後八時閉会セリ
 - 第21巻 p.366 -ページ画像 
○中略
　一地租増徴ノ義建議ノ件　（会員提出）
本件ハ会員岩田作兵衛君外三名ノ建議ニ係リ、其要旨ハ、財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシムル為メ地租ヲ増徴セラレンコトヲ政府ニ建議シ、議会ニ請願スヘシト云フニ在リ、審議ノ末議長指名ノ委員九名ニ其調査ヲ附託スルニ決シ、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指令セリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田口卯吉君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武田忠臣君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　八尾新助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松本忠次郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　末延道成君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上角五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　益田克徳君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　町田徳之助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松下覚之丞君

東京商業会議所月報　　第七七号・第一六―一七頁　明治三二年一月
○同月　○明治三一年一二月七日午前九時、本会議所ニ於テ地租増徴ノ件調査委員会議ヲ開キ、委員長ヲ選挙セシニ、其結果左ノ如クニテ、午前十時閉会セリ
　　　　　　　　　　　　　　　　委員長　田口卯吉君
○同月八日午後五時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、地租増徴ノ件ヲ審議シ、午後六時三十分閉会セリ

東京商業会議所月報　　第七七号・第一五頁　明治三二年一月
○同月　○明治三一年一二月九日、本会議所ニ於テ第七十六回ノ臨時会議ヲ開ク当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　武田忠臣君　○外十七名氏名略
午後五時四十分開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ就キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後六時十分閉会セリ
　一地租増徴ノ件調査報告　（委員会議提出）
本件ハ多少字句ニ修正ヲ加ヘシ上、全会一致ヲ以テ報告案ノ如ク議会ニ請願スルコトニ可決ス

東京商業会議所月報　　第七七号・第一七頁　明治三二年一月
○同月　○明治三一年一二月十日、地租増徴ノ義ニ関スル請願書ヲ貴族・衆議両院ニ呈出セリ（請願書ノ全文ハ参照ノ部第三号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第七七号・第二〇―二一頁　明治三二年一月
○参照第三号
　明治三十一年十二月九日、第七十六回臨時会議ノ決議ニ依リ、地租増徴ノ義ニ付、貴族・衆議両院ニ呈出シタル請願書ノ全文ハ左ノ如シ
　　　　地租増徴ノ義ニ付請願
 - 第21巻 p.367 -ページ画像 
政費過度ノ膨脹ヲ防止セラレン事ハ、本会議所ノ夙ニ希望セル所ナルモ、実際ノ趨向ニ於テ、今ヤ歳入ハ歳出ヲ償フニ足ラサルニ至レル事已ムヲ得サル所ナリト謂フヘシ、而シテ政府カ之ヲ補塡スル財源トシテ煩雑ナル小税目ヲ択フヲ為サス、断然地租増徴ノ方針ヲ採リ、之ニ関スル法律案ヲ今期議会ニ提出シタルハ本会議所ノ深ク賛成スル所ナリト雖モ、我国ノ最大財産タル土地ヨリ徴収スル租税トシテ其額尚過少ニ失スルノ憾ナキ能ハス、市街宅地租ニ於テ特ニ然リトナス、況ンヤ地租ハ一旦之ヲ増徴スレハ向後重ネテ増徴スルコト容易ナラサルニ於テオヤ、故ニ寧ロ此際大ニ之ヲ増徴シテ歳入ノ財源ヲ確実ナラシメラレン事ヲ望マサルヲ得ス、蓋シ徒ニ煩雑ナル小税目ニ頼テ一時ヲ弥縫セントスルカ如キハ、財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシムル所以ニ非ス、財政ノ基礎ニシテ鞏固ナラスンハ一国ノ経済界常ニ混乱動揺シ、各種ノ生産業ヲシテ萎靡不振ニ陥ラシムルコト既往ノ事歴之ヲ徴スルニ余リアリ、世間或ハ地租ノ増徴ハ農民ノ負担ヲ苛重ナラシムルカ如ク速了スルモノアリト雖トモ、我国ノ現況ニ依レハ土地ハ独リ農民ノ専有スルモノニアラスシテ、凡テ帝国臣民中中産以上ノ者ハ、其種族ノ華士族平民タルト其営業ノ商工タルトヲ問ハス、皆之ヲ所有セサルハナク其地租ハ土地所有者ノ均シク負担スル所ナレハ、仮令地租ヲ増徴スルモ之カ為メ農民ノ負担ヲ偏重ナラシムルカ如キコトナキハ言ヲ待タス願ハクハ貴院速ニ本請願ノ趣旨ヲ実行シ、以テ国家財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシメラレンコトヲ、本会議所切望ノ至リニ禁ヘス
右本会議所ノ決議ニ依リ請願仕候也
　　明治三十一年十二月十日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　貴族院議長　公爵　近衛篤麿殿
　　　　衆議院議長　　　　片岡健吉殿
　　　○日清戦後ノ経営上明治三十二年度ノ財政計画ヲ立ツルニ当リ歳入ヲ増加スルノ必要ヲ生シタルヲ以テ、政府ハ恒久確実ノ収入タル地租ヲ増加スルノ方法ニ依ルヲ以テ最モ適当ト認メ、地租ノ定率百分ノ二箇半ヲ改メ百分ノ四ト為スノ法案ヲ定メ、之ヲ第十三期議会ニ提出シタリ。衆議院ハ之ヲ修正シ、定率ノ改正ヲナサスシテ明治三十二年以降五箇年間市街宅地ノ地租ハ地価百分ノ二箇半其他ノ土地ノ地租ハ千分ノ八ヲ増徴スルコトニ決議シ貴族院モ亦之ヲ可決シ、明治三十一年法律第三十二号ヲ以テ公布セラレタリ。地租増徴ヲナスニハ土地台帳及其他関係帳簿ノ整理ヲナスノ必要アルヲ以テ、田畑地価修正ノ事業ト同時ニ土地台帳面毎筆ノ増徴地租算出記入ニ著手セシカ、其完了ハ地価修正事業ト共ニ終リタリ。（明治財政史第五巻第七二六―七三〇頁）