デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治34年12月25日（1901年）

是日栄一当会議所ノ決議ニ基キ、官営ノ製造業中民間ニ於テ経営シ得ルモノハ速ニ民営ニ移スノ政策ヲ断行サレタキ旨、内閣総理大臣子爵桂太郎・陸軍大臣男爵児玉源太郎・逓信大臣子爵芳川顕正農商務大臣平田東助・大蔵大臣曾禰荒助ニ建議ス。

渋沢栄一　日記　　明治三四年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月廿一日
東京商業会議所ノ臨時会ヲ開ク

東京商業会議所報告　　第一〇三号・第一―三頁　明治三五年一二月刊
○第百十回臨時会議　明治三十四年十二月二十一日開
　出席者
　　栗生武右衛門君　○外二十名氏名略
午後六時三十分開議
会頭渋沢栄一君議長席ニ就キ、先ツ左ノ件々ヲ報告ス
○中略
次ニ議長ハ左ノ件々ヲ議事ニ附ス
○中略
次ニ藤山雷太君ヨリ、官業ヲ民業ニ移ス義ニ付一ノ動議ヲ提出シタルニ、成規ノ賛成者アリテ議題トナリ、審議ノ末全会一致ヲ以テ之ヲ可決シ、尚ホ本件ニ関シ陳情委員三名ヲ議長指名ニテ選挙スルニ決シタルニ付、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名シタリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　藤山雷太君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　梅浦精一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　星野錫君
○中略
午後九時四十分閉会
 - 第21巻 p.738 -ページ画像 

東京商業会議所報告　　第一〇三号・第三八頁　明治三五年一二月刊
○同月同日　○明治三四年一二月二五日　官業ヲ民業ニ移ス義ニ付、内閣総理・陸軍・逓信・農商務・大蔵ノ各大臣ヘ建議書ヲ呈出ス（建議書ノ全文ハ明治三十四年事務報告ニ掲載シアルニ付略ス）

第十一回東京商業会議所事務報告　　第二五―二六頁　明治三五年四月刊
一官業ヲ民業ニ移ス義ニ付、内閣総理・陸軍・逓信・農商務・大蔵五大臣ニ建議ノ件
　本件ハ会員藤山雷太君ノ提議ニ係リ、其要旨ハ、政府ノ自営セラルル製作中民間ニ於テ経営シ得ルモノハ、速ニ其官業ヲ廃シテ之ヲ民業ニ移スノ政策ヲ断行サレタキ旨ヲ、政府ニ建議スヘシト云フニ在リ、仍テ明治三十四年十二月二十一日第百十回ノ臨時会議ニ附シ、其可決ヲ得タルニ付、同月廿五日附ヲ以テ、左ノ如ク内閣総理・陸軍・逓信・農商務・大蔵五大臣ニ建議シタリ
　　　　官業ヲ民業ニ移ス義ニ付建議
按スルニ、工業奨励ハ方今ノ急務ニシテ、近時政府ノ施設上漸ク此方針ヲ採用セラレタルノ事実ヲ認ムルニ拘ラス、一方ニ於テ政府ハ現時猶各種ノ製作ヲ自営セラレ、之カ為メ恰モ民間工業ノ発達ヲ阻害スルカ如キ形跡アルハ、是本会議所ノ国家経済上深ク遺憾トスル所ナリ、例ヘハ逓信省所管ニ属スル車輛製造業・電信電話用品製造業、内閣所管ニ属スル抄紙業・活版業、陸軍省所管ニ属スル製絨業ノ如キ、政府ハ民間ノ工業ト併立シテ同種ノ製作ヲ経営セラルヽヲ以テ、当業者カ原料ヲ仕入レ職工ヲ雇入ルヽ際ニ当リ、其物価・賃銭ハ経済自然ノ理勢ニ反シテ変動スルコトアリ、之カ為メ当業者ハ其営業上常ニ非常ノ困厄ヲ蒙ラサルヲ得ス、中ニハ一旦製作ノ準備ヲ確立シテ営業ヲ開始セルモ、中途ニシテ蹉跌ノ悲運ニ陥リタル者其実例少シトセス、蓋シ軍事其他特種ノ必要アル製作ノ如キハ、政府自ラ之ヲ経営セラルヽコト固ヨリ已ムヲ得サル所ナルヘシト雖トモ、普通ノ製作ニシテ猶之ヲ自営シ恰モ民間ノ当業者ト其利ヲ争フカ如キハ、決シテ其当ヲ得タルモノト謂フヘカラス、之ヲ要スルニ政府カ今日此種ノ製作ヲ自営セラルヽハ、単ニ工業奨励ノ方針ニ反スルノミナラス、寧ロ工業ノ発達ヲ阻害スルモノト謂フモ可ナリ、是豈ニ国家経済上策ノ得タルモノナランヤ、是ヲ以テ本会議所ハ、玆ニ卑見ヲ開陳シテ以テ閣下ノ垂鑑ヲ請フ、仰キ願ハクハ閣下本建議ノ趣旨ヲ採納シ、現時政府ノ自営セラルル製作中、民間ニ於テ経営シ得ルモノハ速ニ其官業ヲ廃シテ、之ヲ民業ニ移スノ政策ヲ断行セラレンコトヲ望ム
右本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
　　明治三十四年十二月二十五日
　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　男爵　渋沢栄一
　　　　内閣総理大臣　子爵　桂太郎殿
　　　　陸軍大臣　　　男爵　児玉源太郎殿
　　　　逓信大臣　　　子爵　芳川顕正殿　　（各通）
　　　　農商務大臣　　　　　平田東助殿
 - 第21巻 p.739 -ページ画像 
　　　　大蔵大臣　　　　　　曾禰荒助殿