デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年9月25日（1895年）

是日第四回定期会第一日ノ会議ニ於テ、大阪商業会議所ノ提案ニ係ル、商品陳列船ヲ構成シテ世界ノ諸要港ヲ巡回セシムルノ儀ヲ建議・請願スル件上程サル。栄一、該案ノ趣旨ニハ賛成ナルモ尚一層各会議所ニテ研究スベキ旨ヲ主張ス。討議ノ結果提案者タル大阪商業会議所ニ於テ一層十分ノ調査ヲ為シテ各会議所ヘ通報シ、次回ノ会議ニ附スルニ決ス。

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告　第二〇―二三頁　刊
○第四号議案　　大阪商業会議所提出
　　商品陳列船（浮動博覧会）ヲ構成シテ世界諸要港ヲ巡回セシムルノ議ヲ其筋ヘ建議・請願スル件
凡、内、国民ノ実力ヲ増大シ、外、国威ノ隆興ヲ計ルノ手段タル、固ヨリ一ニシテ足ラザルナリ、然リト雖モ、熟々古今ノ史実ニ徴シ東西ノ現勢ニ鑑ルニ、商ヲ熾ニシ工ヲ盛スルノ方策ノ如ク其効果ノ顕著美大ナルモノハ未ダ之アラザルナリ、殊ニ我帝国今日ノ位置境遇ニ於テ最モ然リトス、而シテ今日我帝国ノ商工業ヲ旺盛ナラシムルノ道ニ至リテハ、固ヨリ或ハ直接ニ、或ハ間接ニ、或ハ積極的ニ、或ハ消極的ニ、之ヲ振作改善スルノ必要アルベシト雖モ、要スル所ハ、我ガ商工社会ノ勇進的気象ヲ鼓舞シ、勢ヲ察シ機ニ乗ジテ海外貿易ノ拡充ヲ謀ルヨリ急ナルハナキナリ
今ヤ日清戦争ノ結果トシテ我帝国ノ名声大ニ世界ノ表ニ発揚シ、各国ノ耳目漸ク方ニ東洋ノ新天地ニ注射セラルヽニ至レリ、此ノ機此時我ガ商工ノ実勢ヲ発揚シテ我海外貿易ヲ振興スルノ上ニ於テ、真ニ千歳
 - 第22巻 p.21 -ページ画像 
稀ニ見ル所ノモノニアラズシテ何ゾヤ、況ンヤ馬関条約ノ結果、今後商工界ニ於ケル競争ヲシテ益ス劇甚ナラシムルノ実勢アルヲヤ、是レ実ニ本員等ガ此時機ヲ失セズシテ海外貿易ヲ振興スルノ最新手段タル商品陳列船派遣ノ議ヲ主唱スル所以ナリ、夫レ商業博物館ト云ヒ、将タ又勧業博覧会ト云ヒ、皆是レ商工振作ノ好手段ニアラザルハナシ、然リト雖モ、元来此等機関ノ性用タル専ラ内ニ在リテ外ヨリ来ルヲ待チ受クルモノナルガ故ニ、彼ノ我ヨリモ進ミテ我ガ商品ヲ外人ニ示シ彼ヲシテ我産品ニ対スル需用ヲ喚起セシムルノ一点ニ関シテハ、其利益自ラ大ニ欠如タラザルヲ得ザルナリ、是ヲ以テ欧洲二三ノ邦国ニ於テハ新ニ工夫ヲ凝シ、商品陳列船（浮動博覧会）ナルモノヲ構成シ、外国諸要港ノ間ヲ巡航セシメ、我ヨリ進ミテ外国ノ需要ヲ喚起シテ自国商工ノ利益ヲ増進シ、以テ彼ノ商品陳列所・勧業博覧会等ニ固伴スル所ノ不利益ノ点ヲ補足スルノ妙案ヲ立テ、現ニ之ヲ実行シテ好結果ヲ見ルヲ得タリ、此手段タル、方今ノ如キ競争劇シキ商業世界ニ在リテハ実ニ必要ノ機関ト称スベキナリ、即チ我国ニ於テモ此最新手段ヲ採用シ、今回ノ戦勝ノ好機ヲ利用シ、以テ海外貿易ノ拡充ヲ謀ラバ、必ズヤ見ルベキノ効果ヲ収ムルヲ得ベキハ敢テ疑ヲ容ルヽヲ要セザルナリ、且ツ夫レ商品陳列船派遣ノ事タル、其利益決シテ直接ニ我商品ニ対スル海外ノ需要ヲ喚起増加セシムルノ一事ニ止マラズ、其間接ノ利益ニ至リテモ亦極テ多ク、且ツ大ナルモノアリ、今試ニ其重ナルモノ二・三ヲ挙グレバ
　一　海外直輸貿易ヲ奨励実行スルノ好手段タル事
　二　海外諸要港ノ商業実況ヲ視察スルニ至便ナル事
　三　海外諸国ノ地理・人情・風俗・嗜好等ヲ知得スルノ利益アル事
　五　我ガ商工業者ヲシテ海外通商上ノ志念ヲ発揮養成スル利アル事
　六　我ガ商工業者ノ見聞ヲ拡メ、世界商業ノ大勢ニ通ゼシムルノ捷径タル事
　七　彼我国人ノ間ニ広ク相識ノ実ヲ挙ゲ、以テ自ラ将来商取引及ビ一般交際上好良ナル結果ヲ致スノ望アル事
等是ナリ、其他陳列船ニ乗込ミ若クハ商品ヲ委托スル商工者ニシテ能ク巧ニ利用スル所アラバ、其直接間接ノ利益タル必ズヤ枚挙ニ遑アラザルベシ、是レ今日ニ於テ熱心ニ此手段ノ実行ヲ希望シテ止マザル所ナリ、冀クハ本委員等微意ノ在ル所ヲ察シ、速ニ可決ノ上其筋ニ建議請願シ、及ビ之レガ実行ヲ謀ラレンコトヲ
　（参考）
　商品陳列船ノ構成法、巡航地ノ撰択、寄航ノ順序方法及ビ費用支給法等ノ件ニ関シテハ、各商業会議所ハ勿論当局者及当業者間ニ於テ十分配慮審議ノ上適当ノ考案ヲ立テラレンコトヲ希望スト雖モ、今試ニ本委員ガ所見ニ拠リ愚案ヲ立ツレバ概要左ノ如シ
　　一商品陳列船ニ充ツベキ船舶ハ当分政府ヨリ無賃ニテ借受クル事
　　一陳列船ニ適当ナラシムルタメ船舶内部大体ノ構造変形ニ要スル費用ハ、政府ニ於テ補助支給スル事
　　一実際商品陳列ニ要スル費用及ビ出品其物ニ関スル費用ハ出品者各自ニ於テ負担スル事
 - 第22巻 p.22 -ページ画像 
　　一陳列船ハ当分三千噸乃至五千噸ノモノ二隻トナス事
　　一航海費用ハ其ノ三分ノ二ハ国庫ノ補助ヲ受ケ、其ノ三分ノ一ハ出品者ニ於テ適宜負担スル事
　　一第一着ノ巡航区域ハ西ハ印度孟買ニ限リ、北ハ浦塩斯徳ニ至リ東南ハ南洋諸島ヲ経テ濠洲諸港ニ至ルモノトナス
　　　　但第二着ニハ亜米利加諸港ニ巡回セシメ、第三着ニ欧洲諸港ヲ巡回セシムル事

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第一一―一九頁　刊
　　　　○第一日　〇九月二五日午前九時三〇分開議
○上略
会長（奥田正香君）　○中略　是ヨリ第四号議案商品陳列船巡航ノ件ニ対スル第一読会ヲ開カン
　書記長朗読
　　第四号議案　　（大阪提出）
　　　　商品陳列船（浮動博覧会）ヲ構成シテ世界ノ諸要港ヲ巡回セシムルノ議ヲ其筋ヘ建議・請願スル件
第九番（亀岡徳太郎君）　本案ハ我ガ大阪会議所ヨリ提出シタル議案ナリ、其理由ハ只今朗読セラレタル如シト雖トモ、尚ホ質問ノ点アラバ説明員トシテ出席シタル浜田健次郎氏ヨリ御答スベシ
大阪書記長（浜田健次郎君）　此案ヲ提出シタル事由ヲ御参考迄ニ述ベン、元来聯合会ノ議案ハ、日本商工界ノ輿論ヲ代表スヘキ見本ヲ造リ出シテ、之ヲ事実ニ発表シタシト云フガ主眼ナリ、此案ノ主旨モ亦其点ニアリ、抑モ日本ハ鎖国ノ余弊トシテ、未タ勇進的ノ気象ヲ鼓舞シ海外ニ出テ商戦場裡ニ艱苦ヲ嘗メテ輸贏ヲ争フモノハ甚タ少ナシ、今ヤ海外貿易ノ振興ヲ要スル時ニシテ、決シテ日本ノ小天地ニ跼蹐タル時ニアラズ、宜シク外国ニ出テヽ進ンデ彼国人ニ日本ナル観念ヲ抱カシメ、日本ノ商工業ガ如何ナル点ニマデ進歩シツヽアルカヲ知ラシメサルベカラズ、夫ノ商業博物館ナリ、商品陳列所ナリ、之ヲ知ラシムルノ手段トシテ必要ノ機関ナリト雖トモ、是等ハ日本ノ内部ニ在リテ外ヨリ来ルヲ待ツニ過ギズ、外国ヨリ来ルヲ待チ居ルガ如キコトニテハ到底著大ナル効果ヲ望ムヘカラズ、故ニ我ヨリ進ンテ我商品ヲ外人ニ示シ、彼ヲシテ我物産ノ供給ヲ仰ガシムヘキ最新手段トシテ、商品陳列船ノ派遣ヲ必要ト認メタルモノナリ、此事ハ西洋諸国ノ新聞雑誌ヲ見テモ新奇ノ事業ニシテ、其成蹟ヲ詳ニスルヲ得サルガ、独逸ニ於テ之ヲ実行シ居レリ、露西亜ノ如キモ之ヲ真似シテ居ル様ニ聞及ヘリ前段既ニ陳ルカ如ク、商戦ノ激烈ナル、針路ハ已ニ東洋ニ向ツテ進行シツヽアルナリ（此時第四番萩原彦七君ハ「簡明ヲ要ス」ト注告ス）此時ニ於テ日本ヨリ出掛クレバ西洋産出品ノ産地・品質等ヲモ知ルヲ得テ、日本ニ此物ヲ用ユレハ宜シトカ、此品ヲ持チ行ケバ利益アルトカ云フ如キコトモ分ルシ、又彼地ニ於ケル我輸出品ノ価格及売行ノ実況等ヲモ親シク知ルヲ得テ、自ラ輸出ヲ増シ貿易ノ歩武ヲ進ムルコトニナルベシ、聞クガ如キハ独逸人ガ日本商品陳列所ヲ設ケントノ計画アリト云ヘリ、外人ハ機敏ナルモ日本人ハ兎角ニ猜疑心ヲ脱セサルカ
 - 第22巻 p.23 -ページ画像 
故ニ、間接ニ起ル所ノ利益ガ尠ナカラサルニモ拘ハラス、其結果如何ト云フコトニノミ疑ヒヲ存シ、遂ニ時機ヲ誤リテ利益ハ皆ナ外人ノ為メニ壟断セラルヽコトニ為ル、斯ノ如キハ勇進的気象ニ乏シキノ致ス所ナレバ、宜シク之ヲ鼓舞シ、勢ヲ察シ機ニ乗シテ、海外貿易ノ拡充ヲ謀ルコトニ努力セサルヘカラサルナリ、之ヲ本案提出ノ要トナス、願クハ大体ノ主意ニ依テ速カニ可決アランコトヲ、其方法ノ詳細ニ至テハ種々研究ヲ要スルモノニシテ、主務省ニ向テモ亦之レガ調査ヲ求メントス、対外商工振作ノ新手段ハ本案実行ノ結果ニアラン、奮ツテ御賛成ヲ乞フ
第二十九番（北村五郎兵衛君）　本案ハ最モ賛成ナリ
第三番（平林定兵衛君）　各国ニ於テ実施シタル陳列船ハ如何ナル好結果ヲ得タルヤ、其理由書中ニ三千噸ヨリ五千噸トアルガ、大抵費用ハ如何程ナルヤ、又巡航区域ハ東洋各港、西ハ印度孟買云々トアルガ、此順序ハ如何スルヤ
大阪書記長（浜田健次郎君）　其成蹟ハ明カニ分ラサルガ大体独逸ガ実行セリ、最初独逸ノ船ハ独逸ノ北方ヨリ「パルチツク」海ト云フテ独逸ノ地中海ヨリ「メデイタンニアン」ニ至リ、範囲ハ余リ広カラサルモ、大西洋岸・和蘭・丁抹・瑞典等ニ巡航セシコトハ新聞雑誌ニテ見タルガ、其趣向ノ新ラシキハ、乗組員ガ其商品ニ就テ熱心ニ説明シテ外人ニ知得セシメ、又熱心ニ各地ノ商況ヲ研究シ帰リテ頗ル好結果ヲ得タリト云ヘリ、亜ヒデ白耳義・丁抹等モ此ヲ真似シテ船ヲ出シ巡回ヲシタル由ナルガ、其結果等ハ未タ聞クヲ得ス、兎ニ角今日ノ商業界ニ適当セルコトニテ、遂ニ露西亜モ近海ヲ巡回スルコトニナリシ様ニ承知セリ、勿論此方法ニ拠レハ、多クノ船舶ヲ構成セザルベカラサルヲ以テ、多少一時ノ費用ヲ要シ、又荷物ノ破損モアランガ、現ニ持運ビタル品物位ハ如何様ニナルトテモ、其将来間接ニ起ル所ノ利益ニ至リテハ実ニ莫大ナラン、併シ最初ヨリ直チニ遠洋航海ヲナスハ困難ナルヘキヲ以テ、先ヅ東洋ノ近海ヨリ始メテ漸次遠方ニ及ホサントスル考ナリ、其近海ノミニテモ利益アルコトハ疑ナカルベシ、費用ノ点ハ航海ノ範囲及ヒ船ノ大小ニヨリテモ異ナルモノナリ、又陳列船トシテ適当ナル噸数ノ如キモ尚ホ調査ヲ要ス、是等ハ専門家ノ仕事ナルヲ以テ、宜シク当局者ニ任セントス、或ハ一艘ニ付キ弐拾万円カ参拾万円アラバ、品物ヲ搭載シテ一年間位ノ航海ヲナスヲ得ベシ、又第一着ニ東洋各港トシタルハ、西洋諸国ハ競争モ劇シク又大体ノ風俗・人情・嗜好等モ知リ居レリ、東洋ノ方ハ地理ヨリ云ヘハ尚更ラ能ク分リ居ルヘキ筈ナレトモ、夫レガ所謂灯台元暗シニテ却テ分ラサル所多シ、故ニ其競争ノ盛ンナラサル東洋ニ向ツテ日本ガ手ヲ下セバ、其利益ハ西洋ニ優ル所アラン、航海上ヨリ見ルモ、近キ所ニ行ケバ日数モ少ナク随テ費用モ少ナシ、近世英吉利ナリ仏蘭西ナリ伊太利ナリ商業国トシテ宇内ニ突出シ居ルガ、商業ノ仕方ハ皆ナ近海僻陬ノ国ニ出テヽ事業ヲ起シタリ、又ハ未製造品ヲ持来リ之ヲ製造シテ又其国ニ売ルト云フガ如キ仕方ニシテ、決シテ自国内ニ蟠マリテ自然ニ商業ノ繁盛ヲ致シタルモノニアラズ、故ニ日本モ其方針ヲ採リ、第一着ニ西ハ支那・印度ヨリ、北ハ満洲・露西亜ニ至リ、東南ハ南洋諸島ヨリ濠洲諸港ニ至
 - 第22巻 p.24 -ページ画像 
リ、普ク日本ノ商品ヲ示シテ充分需用ヲ喚起セシメ、尋デ亜米利加諸港ヲ巡航シ、尚ホ進ンテ欧羅巴各港ニ渡航スルト云フコトハ其場合ニ決セハ宜シキガ、先ヅ遠方ヲ後ニシテ東洋近海ヨリ始メルガ得策ナリト云フ考ヘナリ
第四番（萩原彦七君）　此事ハ尚ホ調査ヲ要スルヲ以テ延期ヲ希望ス
第三十七番（水登勇太郎君）　航海費用ハ其三分ノ二ハ国庫ノ補助ニテ三分ノ一ハ出品者ニ於テスルトアルガ、是等費用ヲ出品者ニ於テスルトアルノ見込アリヤ
大阪書記長（浜田健次郎君）　本陳列船ハ博覧会ノ如キ性質ヲ帯ブルモノニシテ、如何程立派ナル博覧会ナリトテ、其収支相償ハサルコトアルモ性質上万已ムヲ得ス、之レト同ジク、此一回ノ航海ニ依ツテ直チニ利益アルヤ否ヤハ知ル能ハズ、要スルニ政府ヨリハ出来得ルダケノ便宜ヲ与ヘ充分ニ補助セラレン事ヲ乞ヒ、仮令目前ニ損失スルトモ永ク他日ノ利益ヲ目的トシテ実行セハ、今年之レガ為メニ一千円ヲ失フモ十年ノ後ニ拾万或ハ百万ノ利益トナリテ収得スルニ至ルヤモ知ルベカラサルモノニシテ、則チ将来ノ利益ヲ期スルモノナリ、其方法等ニ就テハ尚ホ御研究ヲ願フコトヽシ、此場合ニハ大体ノ主意ニ依ツテ決議セラレタシ、費用ノ如キハ悉ク政府ニ於テ支弁セハ宜シキモ、何分事情ノ許サヽル所モアルベケレバ、政府ハ為シ得ルダケノ補助ヲナシ而シテ吾人各自モ亦奮発シテ事ニ当ルコトヽセバ、玆ニ始メテ日本ノ貿易事業ヲ拡充スルヲ得テ、自ラ帝国ノ品位ヲ完フスルヲ得ント云フ考ヘナリ
第六番（中村栄助君）　短日数ノ会期内ニ出来サルカナレトモ、願クハ五名程ノ委員ヲ設ケテ其順序方法ヲ調査シ、而ル後ニ充分討議スルコトニ致シタシ、併シ未タ議題トナラサルガ為メニ出来ストセハ、私ハ玆ニ本案ノ大体ヲ可トセン
第一番（渋沢栄一君）　独逸ノ如キ初メテ此事ヲ行ヒタル時ハ政府ニ於テ為シタルヤ、或ハ人民ニ於テシタルヤ、将タ官民相待テ為シタルヤ巡航地ハ参考書ニ第一着、第二着等ノ区域ヲ示シアルガ、其期限ハ判然セズ、之レハ無頓着ニ予定セズシテ巡回スルモノナルヤ、其利益ハ充分ニアルモノト信ゼラルヽガ、世上ノコトハ其想像ニ就テ凡ソ見当ガ立タサレハ之レニ応スルモノナシ、斯ル場合ニハ如何スルヤ、無暗ニ政府ニ請願ノミシテハ宜シクナカルベシ、又出品者各自ノ希望ニテナスモノナルヤ、将タ組合方法ニデモナスヘキノ事業ナルヤ、以上ノ数点ニ対シ説明アリタシ
大阪書記長（浜田健次郎君）　御答セン、第一、独逸ハ半官半民ノ事業ニテ、其歩合ハ分ラサルガ一半ハ政府ニ於テシ一半ハ人民ニ於テシ、之レニ協会然タル商業会議所ノ如キモノガ補助シ居リシモノヽ如シ、故ニ日本モ政府ニ一任スルカ如キハ不得策ニテ、個人ト団体ト政府ト協同シテ行フガ宜シト云フ考ナリ、第二、期限ハ浮動博覧会ノコトナルヲ以テ別ニ予定セズ、只タ巡航区域ヲ三段ニ分ケタルノミナルガ、兎ニ角東洋ヲ巡回シテ果シテ利益アリトセバ、第二ノ場所ニ至ル見込ニシテ、其一回ガ一年ニテ終ルヤ或ハ二年ヲ要スルヤハ分ラズ、凡ソ金ノ出高ニモ依ルコトナレバナリ、第三、利益云々ナルガ、何事ニ依
 - 第22巻 p.25 -ページ画像 
ラズ始メヨリ損スル考ヘナレバ誰モ之レニ与スルモノナキハ当然ノ事ナリト雖トモ、其経費ハ充分ニ之ヲ償フテ尚ホ余リアラント云フ考ナリ、殊ニ日本人ノ如キ勇気アル者ニシテ、之レニ政府及ヒ団体ガ便利ヲ与フルニ於テハ其出品者ナルモノハ必ラスヤ安心シテ続々輩出スルト云フ見込ナリ、第四ハ一個人ニテハ不便少ナカラザルヲ以テ或ハ協会組織ニシテモ宜シ、成ベクハ商業会議所ノ如キモノガ出来ルダケノ便利ヲ与フルコトヽシ、又タ商業会議所ノ団体ニテ出来ルダケノ権能ヲ以テ利益会社ヲ起シテモ宜シキガ、先ヅ協会ノ如キモノヲ組織スル考ナリ
員外第三番（小川䤡吉君）　之レハ余程好問題ナルガ、二隻ヲモ出セバ其一年ノ巡航費ハ少クモ五拾万円位ヲ要スヘシ、故ニ事実ヲ詳細ニ調査シタル上ニテ提出ニナルガ宜シト云フ考ナリ、併シ已ニ提出ニナリシコトナレバ、先ヅ委員ヲ設ケ凡ソ幾日間トカ期シテ調査ヲ為スコトト致シタシ、則チ六番ニ賛成ス
会長（奥田正香君）　已ニ時間モ移リタレバ本会ノ議事ヲ此儘ニ止メ、喫飯ノ為メ暫ク休憩セン
　　午後零時四十分休憩
　　午後一時三十分開議
○中略
会長（奥田正香君）　○中略　是ヨリ休憩前ニ於ケル第四号議案ノ議事ヲ継続ス
第一番（渋沢栄一君）　六番ノ委員設定説アルモ会期間ニ調査ノ出来ルヤ否ヤハ知ルヲ得ズ、私ハ不同意ナリ、本案ハ時節柄面白キ趣向ナルガ、果シテ提出者ノ見込ノ如ク実行シ得ルヤ否ヤノ懸念ナキ能ハズ、殊ニ提出者御自身ノ考ヘノミニテ、未タ経費ノ予算モ立タズ、故ニ大体ノ主意ハ賛成スルモ、聯合会ノ問題トシテ可決スル能ハス、宜シク銘々各会議所ニ持帰リテ研究スルガ宜シ、然ルトキハ大阪ニ照会シテ調査ヲ求ムルモアラン、或ハ又実行シ難キモノト認メテ否決スルモアラン、要ハ大体ヲ賛成シテ、別ニ二読会ヲ開カズ、各会議所ニテ研究スルコトニ致シタシ、尤モ少ク調査スル為メニ宿題ト云フ考ヘモアリシガ、宿題トシテ一年ヲ空クセンヨリハ、各会議所ノ適宜ニ放任スルニ若カサルベシ
第十六番（井島茂作君）　一番ト同意ナリ、此事ハ至極宜シト認メ居レリ
第三番（平林定兵衛君）　要スルニ利益ハ其方法ニ依ツテ直接間接ノ差アリ、博覧会ノ如キ性用トセハ則チ間接ノ利益ヲ目的トスルコトニナルヘシ、故ニ其方針ヲ加ヘテ決議スルカ宜シト思ヘリ、併シ此際夫等ノ調査モ出来ズト云ヘハ夫レマデナリ
第四十五番（下田耕造君）　一番ヲ賛成ス、到底匆卒ノ間ニ調査スル能ハス、提出者タル大阪会議所ニ於テハ、此上ナガラ充分ニ調査ノ労ヲ取ラルヽ様ニ願ヒタシ
第六番（中村栄助君）　本員ハ委員ヲ設クベキ動議ヲ提出セシガ、敢テ之ヲ固執スルニハアラズ、固ヨリ本案ハ大体賛成ナルガ、併シ其方法順序等ノ判明セサルカ為ニ少ク調査シテ之ヲ知得スルコトニ致シタキ
 - 第22巻 p.26 -ページ画像 
考ニテアリキ、最早逐々説明アリテ其性質モ分リタレバ、此場合敢テ其要ナシ、更ニ一番ニ賛成ス
第三十七番（水登勇太郎君）　一番ノ如ク各会議所ノ適宜ニ任スコトハ宜シキ様ナルガ、此事タル、時節柄新問題ニシテ未ダ方法等ノ調査モ行届カズ、随ツテ全体ノ希望ガ那辺ニアルヤ知ルヲ得ス、故ニ若シ明年マデニ調査ガ出来サレバ已ヲ得ザルガ、成ルベクハ早ク取調ヲ終リテ、今一回当会ニ於テ議スルト云フコトニ致シタル方ガ、此案ニ重キヲ置キタル穏当ノ方法ナルベシ、願クハ第五回マデ延スヲ主トシテ大体ヲ決セラレンコトヲ希望ス
第二十二番　鈴木善六君）・第十五番（石塚新吾君）・第五番（浜岡光哲君）・第三十六番（村野文次郎君）ハ三十七番ヲ翼賛ス
第十七番（伊藤伝七君）　一番ヲ賛成ス
第五番（浜岡光哲君）　此問題ハ至極面白キ事ナリ、能ク研究シテ行ヒタシ、自然政府ト関係ヲ有シ、其補助ヲ乞フコトニナラン、到底私ニ於テハ為シ難シ、然ル上ハ玆ニ之ヲ議決スルモ本年ノ議会ニ提出スルコト能ハズ、之ヲ充分調査シ、能ク結果ヲ明ニシテ各会議所ヘ通報スルコトニ致シタシ、熱心事ニ当リテ愈ヨ至急ヲ要スル場合ニ至ラバ、明年ノ聯合会ヲ早ムルヲ可ナリ、大体ノ主意ハ三十七番ト同クシテ、只ダ其方法ニ於テ少シク異ナルノミ
第三十一番（村田六之助君）　五番ハ二・三会議所ニ托スルノ説ナルガ会散シテ後ハ甚ダ面倒ナリ、夫レヨリハ御迷惑乍ラ提出者タル大阪会議所ニ調査ヲ托シ、其報導ヲ待ツテ可否ヲ決スル様ニ致シタシ、一番ノ説モ捗取リハ宜シカンラガ、斯クテハ本会ガ此案ヲ丸呑ニシタル如キ感ナキ能ハズ、故ニ委員ニ托シ、其委員ハ提出者タル大阪ヲ煩ハシテ調査ヲ願ヒタキ考ナリ
第四十二番（徳永安兵衛君）　大体ハ一番ニ賛成ナルガ、併シ本会議所ノ如キハ未ダ幼稚ニシテ調査スルニモ困難ナルヲ以テ、大阪・東京・神戸等要路ノ会議所ニテ調査ヲ願ヒ其結果ヲ御報導アル様ニ致シタシ
会長（奥田正香君）　最早説ノ敷衍ニ過ギス、要スルニ皆之ヲ議題トナスノ意見ナルカ如シ、而シテ委員ヲ設ル説ニハ種々アルモ、大体ハ議題トスル前後ニ於テノ区別アルノミニシテ、委員ヲ設クル点ニ於テハ満場異議ナキカ如シ、是等ヲ一々区別シテ採決スルハ煩ハシキヲ以テ先ヅ本案ノ大体ハ異議ナキモノトシテ一読会ヲ可決シ、其上ニテ宿題トスルヤ否ヤ等ヲ決議スルコトニ致サントス、異議ナキヤ
　　　（満場異議ナシ）
会長（奥田正香君）　然ラバ本案ノ第一読会ニハ大体ヲ可決シテ議題トナス、一番ト三十七番ノ説ハ大同小異ナリ、之ヲ細別シテ起立ヲ煩ハス程ノ要ナカラン、何レ之ヲ取調ブルハ手数ヲ要シテ困難ナルコトナレトモ、大体ハ已ニ提出者ニ於テ熱心ニ調ベ居ラルヽコトナレハ、尚ホ其提出者タル大阪ニテ充分調査シ、其結果ヲ各会議所ヘ報告ヲ受ケルコトニ致シタシ、其上ニテ明年再ヒ之ヲ聯合会ニ提出シテモ差支ナカルヘシ、異議ナクハ之レニ決セン
　　　（満場異議ナシ）
会長（奥田正香君）　然ラバ大阪ニ托シ各会議所ヘ御通知ヲ煩ハスコト
 - 第22巻 p.27 -ページ画像 
ニ決ス
　　　○東京商業会議所ハ其後委員ヲ挙ゲテ本案ヲ調査セシガ、遂ニ其必要ナキ旨ヲ議決セリ。本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年十二月二十三日ノ条参照。
　　　○第六回定期聯合会ニハ本案ハ上程サレズ（第六回商業会議所聯合会報告）。提案者之ヲ撤回セシナラン。