デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年9月26日（1895年）

是日第四回定期会第二日ノ会議ニ於テ、知多商業会議所ノ提案ニ係ル、償金三億円処分方法ニ付意見書ヲ政府及ビ貴衆両院ニ呈出スルノ件上程サレ、可決セラル。栄一原案ニ賛意ヲ表ス。

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告　　第五一頁　刊
○第二十一号議案　　知多商業会議所提出
 - 第22巻 p.37 -ページ画像 
償金三億万円処分方法ノ意見書ヲ政府及貴衆両院ヘ呈出スル件
　（理由）戦勝ノ結果ヨリ生シタル償金三億万円ノ処分方法其宜キヲ得ルト得サルトハ、一般人民特ニ吾々商工業者ニ利害ノ影響ヲ及スコト鮮少ナラサルベシ、殷鑑遠カラズ、明治十年西南ノ役後、一朝財政其法ヲ誤リ、十四・五年以后経済社会ノ一大恐慌ヲ来シ、遂ニ未タ以テ瘡痍ノ療《（癒）》ヘサルアリ、況ヤ今回ハ金員巨額、局面一層広大ナルニ於テヲヤ、故ニ宜ク既往ニ徴シ現今ニ照シ、将来財政ノ方法ヲ誤ラサランコトヲ期セントス、而シテ其方法ノ如キハ大方諸君ノ討論審議ニ附シ、議決ノ上ハ本会ノ意見トシテ政府ノ当局者及貴衆両院議員ノ参考ニ供セントス、之レ本案ヲ提出スル所以ナリ

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第三四―三五頁　刊
　　　○第二日　〇九月二六日午前九時一〇分開議
○上略
会長（奥田正香君）　○中略　次ニ第二十一号議案ヲ議セン
　書記長朗読
　　第二十一号議案　　（知多提出）
　　　　償金参億万円処分方法ノ意見書ヲ政府及貴衆両院ヘ呈出スル件
第二十三番（榊原由一君）　本案ハ我会議所ヨリ提出セシモノニシテ、東京提出ノ戦後経済調理ノ件ト殆ンド其性質ヲ同フス、唯タ戦後経済ト云ヘハ悉皆経済ノコトヲ網羅スルモノナルガ、本案ノ要ハ償金三億万円ノ処分如何ナリ、理由書ニ記スル如ク、明治十年西南ノ役後大ニ財政ノ方針ヲ誤リ、為メニ十四・五年以后経済社会ニ一大恐慌ヲ来シ未ダ其瘡痍ノ癒ヘサル後ナレバ、今回ノ戦勝償金ニ就テハ一層緻密ナル注意ヲナシ、将来財政ノ方針ヲ誤マラザル様、宜シク既往ニ徴シ現今ニ照シ、充分調査シタル結果ヲ明カニシテ、政府及ビ貴衆両議院ノ参考ニ供セント欲スルナリ
第三番（平林定兵衛君）　本案ハ第二十号議案ノ一部ナルヲ以テ、該議案ノ調査ヲ終リタル上ノコトヽシテ、暫ク仕舞ツテ置キタシ
第十四番　須永信夫君）　三番ニ賛成ス
第五番　浜岡光哲君）　本案ハ先刻東京会議所提出ノ第二十号戦後経済調理案ト少ク異ナルトノコトナルガ、詰リ同性質ノモノナレハ、其案中ニ加ヘテ議決シタルモノトナシテハ如何
第二十三番（榊原由一君）　成程戦後経済問題ノ範囲ハ頗ル広キガ故ニ含蓄ト云ヘバ夫レデモ差支ナキガ、本案ハ唯タ償金処分ノ一点ナレハ矢張リ別ニ議決ヲ願ヒタシ
第四番（萩原彦七君）　五番ノ如ク第二十号議案ノ内ト見做スガ宜シ
第四十五番（下田耕造君）・第三十一番（村田六之介君）ハ四番ニ賛成ス
第一番（渋沢栄一君）　第二十号議案ノ中ニ含蓄スルモノヽ如シト雖トモ、此事ハ緊要ナリ、提出者ノ意見通リ別ニ一案トシテ議決セラレンコトヲ望ム
会長（奥田正香君）　採決セン、四番ノ説アリ、之レニ賛成者ハ起立
　　起立　　少数
 - 第22巻 p.38 -ページ画像 
会長（奥田正香君）　少数ナリ、成立セス、他ニ異議ナキヲ以テ原案ニ可決ス
　　　○其後聯合会ニ於テ償金処分方法ノ具体案ヲ作成シテ当局ニ上呈セシヤ否ヤ資料欠除ノタメ不明ナリ。
　　　○東京商業会議所モ本件ニツキ当局ニ建議セシコトアリ。本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月十六日ノ条参照。
　　　○政府ノ採リタル償金処分法ニ就イテハ「明治財政史」第二巻第六一頁以下参照。