デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年9月26日（1895年）

是日第四回定期会第二日ノ会議ニ於テ、知多商業会議所ノ提案ニ係ル、公使及ビ領事ノ下ニ参事官ヲ設ケルベシトスルノ件上程サレ、否決サル。栄一否決説ニ同意ス。

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告　　第五一頁　刊
○第二十二号議案　　知多商業会議所提出
公使及領事ノ下ニ参事官ヲ設ケ、商工視察ヲ専務トシ、実業ニ経験アル者ヲ選任スル件
　（理由）学者実業ニ疎ク、実業者学識ニ乏シキハ古今ノ通弊ナリ、熟々政府外交官ヲ選任スル所ヲ観ルニ、締盟各国ニ派遣セラルヽ公使又ハ領事ハ多ク学者ヲ登用ス、故ニ商工事業ノ調査往々事実ヲ誤リ、或ハ報告其時期ヲ過ツ等隔靴ノ感ナキヲ得ズ、是レ畢竟学者時務ニ疎キ罪ニ帰セサルベカラズ、然レトモ学実兼達ノ者ヲ求メント欲スルハ之レ難キヲ人ニ責ムルモノニシテ、到底不能ノ企望ト言ハサルベカラズ、故ニ今後官制ヲ改正シ、公使又ハ領事ノ下ニ参事官ノ一職ヲ設ケ、実業ニ経験アル者ヲ選任シ、平素専ラ商工業ノ実況ヲ視察シ精確ナル報告ヲ敏速ナラシメンコトヲ企望ス、之レ本案ヲ提出スル所以ナリ

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第三五―三六頁　刊
　　　○第二日　〇九月二六日午前九時一〇分開議
○上略
会長（奥田正香君）　○中略　次ニ第二十二号議案ニ移ラン
　書記長朗読
　　第二十二号議案　　（知多提出）
　　　　公使及領事ノ下ニ参事官ヲ設ケ、商工業視察ヲ専務トシ実業ニ経験アルモノヲ撰任スル件
第二十三番（榊原由一君）　本案ハ昨日名古屋商業会議所ヨリ提出サレタル海外ニ視察員ヲ派遣スト云フ議案ニ類似スレトモ、彼ハ一時ノ視察ニ止マリ、是ハ平素公使又ハ領事ノ下ニ置キテ専ラ商工業ノ実況ヲ調査セシメタシト云フニアリ、承レバ今日迄領事館ヨリノ報告ノ如キハ往々外国ノ新聞雑誌ヲ翻訳シテ報告ニ充ラルヽ由ナレトモ、実業ノ方針ヲ定ムル必要ナル報告ニシテ斯ノ如キモノニテハ甚タ遺憾ニ堪ヘ
 - 第22巻 p.39 -ページ画像 
ス、殊ニ現今ノ領事等ハ多ク学者ニシテ実業ノ志想ニ乏シキヲ以テ、充分ノ視察ヲ遂クルニ至ラス、自然是等弊害ノ起ルモノナリ、元来学者ノ必要ハ国際問題トカ云フ如キ法律上・学理上ヲ以テスル場合ニ在リテ、年百年中万事ニ必要ナルニアラス、故ニ商工専務ノ参事官トシテ商業ニ経験アル人ヲ派遣シ、充分ニ彼地商工業ノ実況ヲ視察シ、完全ナル報告ヲ為サシムルコトヽセハ、大ニ吾商業界ヲ益スルニ至ルベシ、何卒満場ノ賛成アランコトヲ希望ス
第五番（浜岡光哲君）　二十三番ノ希望ハ至極御尤モナレトモ、公使及ヒ領事ナルモノハ充分斯カル取調ベニ尽力スベキ責任ヲ有シ、殊ニ領事ノ如キハ専ラ通商上ニ就テ取調ブベキ者ニテ、既ニ参事官ト云ヘハ領事ト等シキモノナレバ、今後領事ノ職任ヲ帯ベル人ニ向ツテ注意ヲ促シ、愈ヨ商工業ノ取調方ニ付テ尽力ヲ請フコトヽセバ宜シカラン、領事ノ下ニ書記生モアリ、調ベル方法ハ備ハリ居レリ、夫ノ独逸国ノ領事ト実業団体ト密接ノ関係ヲ有チ居ルガ如ク、今後領事ニ任スベキ人ニハ可成的商工業ニ詳シキ人ヲ撰ミテ任命シ、充分実業者ニ満足ヲ与ヘラルヽ様政府ニ注意スル方却ツテ妙ナラン
第一番（渋沢栄一君）・第三十三番（永井靖九郎君）・第十七番（伊藤伝七君）・第九番（亀岡徳太郎君）ハ五番ニ同意ス
会長（奥田正香君）　採決セン、本案ニ就テハ五番ノ説アリテ賛成者多シ、依テ之ニ賛成者ハ起立
　　起立　　多数
会長（奥田正香君）　多数ナリ、即チ五番ノ説ノ如クシテ、玆ニ本案ハ否決ス