デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月13日（1899年）

是日第八回定期会第三日ノ会議ニ於テ、金沢商業会議所提出ノ石油販売業取締ニ関スル法令制定ノ儀上程サレ、否決セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第一四四―一五九頁　刊
　　　　○第三日
明治三十二年十月十三日午前十時三十分開議
　　出席委員　　　　　五十四名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　議案第十一号之ヲ議ニ付シマス
　　　〔書記議案ヲ朗読ス〕
 - 第22巻 p.534 -ページ画像 
　○議案第十一号　　　　　　　　　　　　金沢商業会議所提出
　石油販売業取締ニ関スル法令制度ヲ内閣総理大臣ヘ建議、貴衆両議院ヘ請願ノ件
　　　　理由
　石油ガ危険物ナルコトハ論ヲ待ズ、故ニ其営業ニ相当ノ取締ヲ設クルコトハ公安維持上実ニ必要ナリトス、而シテ石油取締ニ関スル現行法アレトモ、此ノ規則ハ実施セラレズ、従ツテ府県令ヲ以テ取締規則ヲ設ケタル府県アレドモ、石油槽及ビ是レニ関聯スル場合ヲ除ク外ハ其利害全国各地ニ共通スルガ故ニ、法律若クハ命令ヲ以テ全国画一ノ法則ヲ設クルヲ可トス、然ラザレバ各府県令ニ緩厳ノ程度若クハ全ク規定ノ有無ヲ異ニシテ実際上大ニ弊害アリ、現ニ我北陸地方ニ於テ其ノ実例ヲ生ジタリ、是レ本案提出ノ理由概要ナリ
○八番（金沢、山田清三君）　本案ヲ提出シマシタ所以ハ、我石川県ニ於テ本年県令ヲ以テ取締法ヲ発布ニナリマシタノデアルガ、当七月ヨリ実施ノ筈デアツタ其県令ハ甚ダ取締法ガ厳デアル、従テ此県令ヲ遵奉シテ営業スル場合ハ到底営業ヲ為シ能ハザルト云フ場合ニ至ル、其次第ハ余程厳デアツテ、或ハ販売スル業者ハ石油ヲ置ク場所ヲ装置スル場合等モ余程空地ヲ要スル事ニナル、或ハ其周囲ニハ大ナル高イ塀ヲ用ヰナケレバナラヌト云フヤウナ県令デアル、ソウ云フ事ヲ致シマスルト之ガ一般ニ行ハレル事ニナラバイザ知ラス、或ハ其一部ノ県令デ斯ウ云フコトヲ定メラレルト、ソレガ為ニ営業ヲ為スコトガ能ハヌト云フ場合ニ至ル、故ニ当業者ガ会議所ニ建議シマシテ、会議所ニ於テモソレソレ取調ベラレタ次第デアル、取調ベヲシマシタガ、最モ営業者ノ申立ガ相当デアルト云フコトニ対シテ、我ガ会議所ハ県令ヲ以テ之ヲ定メルコトハ当ヲ得ヌ、又石油倉即チ詰替等ヲスル場合ハイザ知ラズ、販売業ト云フモノハ全国到ル処ニアルノデアル、ソレ故ニ此販売業ニ対スル取締リト云フモノハ、法令カ又ハ省令ヲ以テ一ツノ法ヲ設ケラレヌ場合ハ到底行ハレヌモノデアルト云フ考デ、ソレソレ建議モ致シタ次第デアル、又県知事ニ向テハ実施方ノ延期ヲ請フテ居ルヤウナ次第デアル、ソレ故今度本聯合会ヘ提出シマシテ諸君ノ御賛同ヲ得テ速ニ省令又ハ法律ヲ以テ之ヲ定メラレンコトヲ建議スル、ソレデ速ニ発布ニナルコトヲ希望シテヰル次第デアル、ソレニ就キマシテハ聊カ取調タ次第カラシテ、如何ナル方法ヲ以テ販売スレバ宜イト云フヤウナ取調書モアルノデゴザイマスケレドモ、サウ云コトハ別ニ此所ニ述ベヌノデ、唯省令法律ヲ以テ全国一致ニ行ハレルコトヲ希望スル次第デアル、故ニ諸君ハ之ニ御賛成ノ程ヲ偏ニ請ヒマス
○副会長（東京、中野武営君）　チヨツト……会長ガ出席致サレマシタカラ代リマス
　　　（会長渋沢栄一君着席）
○会長（東京、渋沢栄一君）　今日ハ甚ダ遅刻致シテ相済ミマセヌ
○五十二番（富山、若林元四郎君）　唯今此十一号議案即チ八番カラ御提出ニナツタ案ノ理由ハ聴キマシタガ、少シ発案者ニ御伺シタイコトガアリマス、石油販売ノ方法ガ県令ヲ以テ厳ニナツタ、厳ニナツタカラ販売業者ガ大ニ困難ヲシテ居ルト云フヤウナ御説明デアリマシタガ
 - 第22巻 p.535 -ページ画像 
ソレハ如何ナル困難デアルカ承リタイ、私ハ富山デゴザイマシテ、此石油ノ販売ノ方法ガ厳ナラザルカラシテ、既ニ先月ノ如キ我地ニ於テ数千ノ家屋ヲ焼失シ数百万円ノ損害ヲ来シタノデアリマス、デソレハ如何ナル厳達デアルカ、其趣意ニ依テハ大ニ賛成モシマセウガ、先以テドウ云フ厳達デアルカ其辺ハ八番ニ御聞キシタイ
○八番（金沢、山田清三君）　唯今五十二番カラ御尋デゴザイマスガ、固ヨリ我商業会議所ヨリ提出シタモノハ石油販売業タルモノハ危険物デナイト云フノデハナイ、危険物デアルカラ是ニ対スル取締法ヲ設ケテ欲シイト云フ建議ニ外ナラヌノデ、唯一ノ府県令ヲ以テ之ヲ発布ニナル場合ハ或ハ厳ナル法ヲ設ケル府県モアリ、或ハ寛ナル法ヲ設ケル府県モアリ、又未ダ設ケラレヌ県モアルト云フ場合ニ至ツテハ、府県府県其取締法ガ異ツテ一定ニナラヌ、固ヨリ取締法ノ必要ト云フ事ハ認メテ居ル、認メテ居ルガ、各府県区々ニナツテ居テハ取締上公平ヲ失スルカラ、是ニ対シテハ法律・省令ヲ以テ全国同一ノ取締法ヲ定メラレンコトヲ希望スルノデアリマス、県達ハ如何ナル厳令デアルカト云フ御尋ネニ対シテハ、既ニ前ニモ申上ゲマス通リニ、石川県ノ県達ハ吾々ニ取ツテハ大ニ厳ナル県達ト思ハレル、ソレハ前述ノ如ク石油ヲ蔵置スルニ三十五間四方ノ地所ヲ要スルトカ、又其中ニ五間四面ノ蔵ヲ建テヽ十五間ノ空地ヲ設ケナケレバナラヌトカ、其外ニ至ツテ高サ十尺ノ塀ヲ築カナケレバナラヌトカ、ソレハ随分厳ナル県令デアリマス、デ吾々取調ノ結果ハ斯ノ如ク是ハ厳ニシナクテモ宜カラウト云フ考デアルデス、又其構造ニ於テハ燃質物ヲ用ヰテハナラヌト云フコトデアリマスガ、是等ハ販売業ニ於テハ必要ナイト認メル、却ツテ今日鑵詰ニシテサウシテ箱ヘ入レテ置ク方ガ取締上宜イト考ヘル、ソレガ県令ノ趣意カラ見ルト、今日ハ御承知ノ通リ石油ハ鑵ニ入レテ其上松箱ナリ何ンナリ箱ニ入レテ置ク、ソレヲ其箱ニ納メスニ石油槽――蔵ヘ入レテ置カナケレバナラヌト云フ趣意デアル、是等ハ始末ヲスルニハ却テ箱ヘ入レタ方ガ宜イ、尤モ石油自ラ発火スルコトハ全クナイトハ言ハレヌカモ知レマセヌガ、万々自ラ発火スル事ハナイノデアル必ズ火ヲ導イテソレガ為ニ発火スルモノデアル、故ニ今燃質物ノ木材ヲ用ヰタカラトテ決シテ障ルコトハナイト云フ考ナンデス、ソレカラ営業者ハドウ云フコトヲシタラ宜イカト云フコトニ対シテハ、少シク取調ベタコトモアリマスガ、ソレニ対シテ御質問ガアレバ尚御答ヘスルコトニ致シマス
○番外二十番（金沢、伊藤鏢三郎君）　本会議所カラ十一号ノ議案ヲ提出シマシタ理由ハ、只今八番カラ述ラレマシテ尽シテ居リマスガ、尚一言申シテ置キタイコトハ、本会議所デハ石油販売業ノ取締法ヲ必要ト認メマスルガ故ニ設ケタリ、設ケルニ付テハ、其性質上是ハ各府県ノ府県令ヲ以テ定ムヘキモノデナクシテ、法律トカ省令トカ、全国一般ニ行渡ル所ノモノヲ以テ定メテ貰ハナケレハナラヌト云フ事ヲ、実際上認メタノデアリマスカラ玆ニ提出シタノデアリマス、其訳ト云フモノハ、此石川県丈ニ於テ例ヘバ石油ノ取締法ガ出来ルト云フト、福井県・富山県ニハ其法ガゴザイマセヌカラシテ、両方カラ割合ニ入費ノ掛ラヌ安イ油ヲ持ツテ来テ競争ヲ始メルト云フコトカ出来テ、当業
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者ハ実ニ困ツテ居ルノデアリマス、是等ニ付テハ早晩何等カノ取締法ヲ設ケナケレハ大ニ弊害カ起ルト考ヘテ居ルノデス、各府県ニ依テ其取締法ニ寛厳ノ度合ガ異ツタリシマスルト、今日石川県ニ起ツテ居ルヤウナ弊害カ起リマスカラ、是ハ寧ソ聯合会ニ持出シテ全国劃一ノ取締法ヲ設ケテ貰ヒタイト云フ訳デ本案ヲ提出シタノデアリマス、此事ニ付マシテハ東京始メ京都・大坂・名古屋等ノ会議所ニモ御頼ミ申シテ其規則ヲ頂イテ段々比較シテ見マシタガ、我石川県ノ県令ハ各府県ニ行ハレテ居ル取締法ヨリ一番厳重ナル所ヲ取ツテ出来テ居ルノデアリマス、ソレハ一々申上ケマセヌガサウ云フ風ニ出来テ居ルノデアリマス、ソレデ石川県ノ県令ハ苛酷ナリト云フ理由ハ十分アラウト思ヒマス、ソレデドウカ是ハ各府県ニモ行ハレテ居ル所ガアルヤウデゴザイマスカラ、ソレ等ヲ御斟酌ニナツテ、一日モ早ク公平ニ行ハレルコトヲ希望スルノデゴザイマス
○五十五番（栃木、桜井源四郎君）　五十五番ハ此第十一号議案ニ賛成デゴザイマス、予テ吾カ会議所ニ於テモ此事ハ聊カ取調ベタコトガゴザイマス、近頃ノ火事ヲ見ルノニ火事カ大キクナリ、其原因ハ只今金沢ノ委員カ御述ベニナツタ通リ、石油貯蔵ノ為ニ益々火事ヲ増シ大火ヲ醸スルト云フ事ニナリマスカラ、我会議所ノ考デゴザイマシテハ、只今金沢ノ御方ガ御述ベニナツタ如ク、ワザワザ火事ヲ大キクスルト云フヤウナ仕掛ケデ、浅野「タンク」ノヤウナ仕掛ケデ、ワザワザ箱ノ中ヘ入レタモノヲ取除ケテ貯蔵スル必要ハナカラウト思ヒマス、左様ナ不便ナ事ヲセヌデモ石油貯蔵ノ方法ハ幾ラモアラウト思ヒマス、此取締法ノコトニ付テハ色々取調ベタコトモアリマスカ、先以テ此案ハ可決シテ宜カラウト思ヒマス
○二十八番（広島、桐原恒三郎君）　此問題ハ金沢トシテハ頗ル必要ナモノデアラウト信ジマス、併シナガラ聯合会トシテハ是ハ議サナイ方ガ宜カラウト思フ、既ニ昨日モ三十一番カラ或問題ニ付テ地方問題デアルカラト云フヤウナ説モ出マシタガ、アレハ違ヒマス、是ハ正シク地方問題デ、或厳令ノタメニ油ガ高クナツタ、其処ヘ持ツテ来テ隣県カラ安ク油ヲ持テ来テ競争ヲシテ販売者ガ困ルト云フ、是等ハ即チ地方問題デアル、若シ是等ヲ聯合会ガ議スルコトニナルト三百六十五日開会シテモ日ガ足ラヌト云フコトニナリマス、ドウカ是等ハ事柄ハ悪イトハ申シマセヌ、必要ナコトデハゴザイマセウガ、聯合会デ議サナイト云フコトニ御決シヲ願ヒタイ、即チ反対ノ意見ヲ述ベマス
○番外二十番（金沢、伊藤鏢三郎君）　只今二十八番カラ此議案ハ聯合会デ議スベキモノデナイ、此事ハ地方問題デアルカラ、斯ノ如キコトヲ議シテハ一年三百六十五日開会シテモ日モ惟足ラヌト云フコトニナルト云フテ御反対ニナリマシタガ、決シテサウデナカラウト思ヒマス詰リ本案ノ趣意ヲ誤解シテ居ラレル所カラサウ云フ御意見ガ出ルデアラウト思ヒマス、本会議所ハ此石油ハ全国一般ノ上カラ取締ラナケレハナラヌモノデアルト信ズル、然ルニ其取締法ト云フモノハ今日各府県別々ニナツテ居ルガ故ニ、先刻縷々述ベタ如キ弊害ガ起ルノデアル偶々我北陸地方ガ其衝ニ当ツタカラ此問題ヲ出シタノデ、其関係ト云フモノハ全国ニ及ンデ居ルノデアル、決シテ此案ハ一地方ノ利害ヲ目
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的ニシタノデハアリマセヌカラ、若シ其辺ニ付テ御疑ガアリ御迷ガアルナラバ、ソレヲ御一掃ノ上本案ニ御賛成アランコトヲ偏ニ希望致シマス
○五十二番（富山、若林元四郎君）　私ハ先刻質問ヲ致シマシタ所デ、八番並ニ番外二十番ノ説明モアリマシタガ、私ハ感服スルコトガ出来ヌ、我富山県ニ於テハ此石油取締法ノ厳ナラザルタメニ一大惨状ヲ現出シタト云フ実例ヲ述ベテ、即チ八番ニ反対致シマス、ソレト云フモノハ我富山県ニ於テ先般火災ガアリマシタ、其出火先ガ石油販売業者デアル、其向モ亦石油販売業者デアル、成ル程風ハ強風デアリマシタガ其石油販売ノ取締ノ法ガアツタナラバ斯ル惨状ハ見ナカツタノデアリマス、其取締法ノナカツタ為メニ火元ノ家デ石油ヲ四十箱モ持ツテ居ツタ、又其筋向フノ家デモ数十箱貯ヘテ居ツタ、ソレガ破裂シテ火勢ヲ強カラシメ、終ニ今回ノ如キ大火災トナリ一大惨状ヲ現出シタノデアリマス、実ニ恐ルベキハ石油デアリマス、今八番ガ石川県ノ県達ハ苛酷ナル厳令デアルト言ハレマシタガ、此五十二番等ハ此厳令ヲ政府カラ御発布ニナルコトヲ希望スルノデアリマス、ケレトモ自由ナル販売業者ニ向テ厳ナル県令ヲ以テ束縛ヲ加ヘルト云フコトハ如何デアルカト云フコトハ今調査中デアリマスガ、若シモ八番ノ言フヤウナ説カ成立テ、此取締法ヲ寛ニシテ貰ヒタイト云フコトデアツタナラバ、先方デ富山県ニアツタヤウナ大火災ヲ何レノ県カニ起スヤウナコトニナラウト思ヒマス、依テ私ハ富山ニアツタ実例ヲ述ベテ諸君ノ御参考ニ供スルノデアリマス、取リモ直サズ反対ヲ唱ヘルノデアリマス
○八番（金沢、山田清三君）　只今五十二番カ反対ノ御意見デアルケレトモ一言ソレニ対シテ申上ゲマス、此十一号議案カ成立ツナラバ富山ノ如キ火災カ続々アルデアラウト云フ御疑ノヤウデ、チト此提出案ヲ誤解ナスツテ御出ニナルト本員ハ考ヘル、提出案ハ現今設ケラレタ法ヲ寛ニシテ呉レト云フ提出案ジヤナイ、未ダ法律条例デハ定メテナイソレデハ甚ダ危険デアル、危険デアルカラシテ是ニ於テ法律条例ヲ定メテ欲シイト云フガ主眼デアル、ソレニ対シテ我石川県ニ於テハ斯ク厳ナル達シガアル、斯ウ云フヤウナコトハ是ハ只石川県ニ厳ナル達シノコトヲ云フタノデアル、又各府県ニ於テ寛ナル達シガアル、或ハ又取締法ガ行ハレヌ処ガアル、区々ニナルヤウナコトデハ安心スルト云フ訳ニハ行カナイ、従テ斯ウ云フ営業者モ、ソレガ為メニ幸不幸ガアル、故ニ同一ノ取締法ヲ設ケテ欲シイト云フノデ、之ニ対シテハ富山ノ如キハ近頃火災ニ罹リテ御困難デアル故ニ続々御賛成ノアルコトヽ本員ハ考ヘル、ソレニ御反対ト云フノハ此案ヲ誤解ナスツテイラツシヤルト考ヘル
○九番（金沢、阿部太衛門君）　只今此本案ハ即チ我会議所カラ提出ノ問題デゴザリマス、先程二十八番デゴザリマシタカ、地方問題デアルカラシテ本会ニ於テ決スベキモノデナイト云フ御説デゴザリマシタガ決シテソウデナカラウト思ヒマス、一タビ此石油取締規則ト云フモノハ政府ニ於テ制定サレテアルガ未タ発布シナイノデ、尤モ是ガ危険デアルト云フ事ハ諸君モ御承知デアルト本員ハ考ヘテ居ル、ソレニモ拘ラス或ハ一地方問題デアル、一方ハ損スレバ一方ハ利スル所ガアルト
 - 第22巻 p.538 -ページ画像 
云フ御話ハ決シテ私ノ採ラヌ所テアル、今日、日本人民ガ互ニ共同一致ヲ致シ、又御互ニ中ヲ能クシテ外国ニ当ラントスル今日ニ於テ、一方ハ困ツテ居テモ顧ミヌ、一方ハ利スレバ宜イト云フヤウナ同志打ノ仕方ハ余リ当ヲ得ヌ御説ダラウト本員ハ考ヘル、故ニ此等ハ取締法モアルシ、或ハ一方ニ行ハレヌト云フ土地ハ幾ラカ其価値ニ対シテ差等ヲ見ル次第デゴザリマスカラ、固ヨリ事業トシテハ同一ニシ、又石油ノ如キハ外国カラ輸入シ又傍ラ越後地方カラ製造スルモノモ、ソレソレ内国ト外国トイロイロノ関係モゴザリマスカラ、之ニ対シテハ固ヨリ政府ノ取締ヲスルコトハ無論当ヲ得タコトデアラウト思ヒマス、決シテ一地方問題ト云フコトハナイ、故ニドウカ諸君モ御推量下サリマシテ、ドウカ本案ヲ御賛成ヲ希望スル次第デアリマス、又五十二番デゴザリマシタカ只今反対ノ御説モゴザリマシタケレトモ、固ヨリ此ノ規則ガ現ハレタ時分ニハ決シテアウ云フ惨状ヲ見ルト云フコトハ毫モアルマイト私ハ信ジテ居リマス、故ニ本案ハ地方問題デナクシテ全般ニ及ボス問題デアルカラ、諸君モ其辺ヲ能ク御推察下サリマシテドウゾ御賛成ヲ請ヒマス
○六十二番（東京、中野武営君）　本員ハ反対ノ意見ヲ持ツテ居リマス此原案ノ趣意ノアル処ヲ私ハ了解ニ苦ムノミナラズ、必要ヲ一ツモ感セヌノデアル、ト云フノハ此原案ノ趣意ヲ推測シテ見ルト、或ハ其石油ト云フモノハ危険物デアルカラ、未ダ外ノ不取締宜ウ取締リセヌ所ニ又火事カ行クヤウナ事ニナツテハナラヌカラ、之ヲ能ク厳重ニ取締ルガ宜イト云フ趣意デ出テ居ルノカ、或ハ又石川県丈ガ、エライ県令ガ喧シイノヲ出サレテ、独リスルヨリハ全国残ラスニシテ貰ウト云フ趣意デスルノカ、兎モ角モ其趣意カ分ラヌ、併シナカラ全国一体ニ渉ルモノトシテ取締スルト云フノモ、是モ一理アルヤウデハゴザリマスケレドモ、抑モ危険物ト言ヘバ風呂屋モ矢張リ危険物ダ、火事ノ矢張リ玉子ヲ持ツテ居ル、其他色々危険ナルモノガアルノデ、地方々々ニ依テ風呂屋ハ風呂屋、取締上モ警察ノ取締ノ上カラ立テヽ居ルノデ、其中ニモ最モ此全国ニシテ是非ドウモ一定ノ法律規則ヲ以テ都鄙遠近ノ区別ナク一様ニセニヤナラヌト云フコトニ至レバ、国家ノ法律ヲ以テセネバナラヌ必要ガアリマスケレドモ、凡ソ法律ト云フモノヽ全体程度ヲ考ヘナケレバナラヌ、法律ト云フモノヲ出シタナラバ其都鄙尊卑ノ別ナク其法律ヲ励行シテ行カナケレバナラヌノガ法律ノ必要ナンデアリマスガ、今石油ノ如キハ成程軒ヲ並ベテ居ル所ハ色々取締スルノガ必要ガ出来テ来テ、規則上ナリ県令ナリデ取締ルコトモゴサイマセウケルドモ、サウモウ法律ト云フモノマデ起シテ堂々ト隅カラ隅マデヤランナラヌト云フ程ノ私ハ必要ハ感ゼヌノデアル、又是カラ先キ必要ヲ感スルカ知レマセヌガ、横浜トカ東京トカ云フヤウナ都府デスラ此位ノ取締リデ済ンデ居ルノニ、独リ石川県ガ酷イコトヲシタノハ県令ガ間違ツテ居ル、能ク其事ハ商業会議所ガ御上申ナスツテ相当ノ所ニ直スガ宜イ、又富山県ハ火事カ起ツタカラ厳重ナモノヲ立テルガ必要ナラバソレハ敢テ悪イトハ言ハナイ、其所々ノ程度ニ応シテソレデ世ノ中ヲ渡ツテ行クト云フ時デアル、サウ国家ノ法律マデ拵ヘテワイワイ云フ必要ヲ感ゼヌ、ソレ故ニ私ハ反対シマス
 - 第22巻 p.539 -ページ画像 
○四十六番（豊橋、三浦碧水君）　私モ反対意見デアリマス、只今六十二番カ大概述ベテ呉レマシタデソレデ分ツテ居リマスガ、私ノ方デモ之ハ地方々々ニ依ツテ多少寛厳ガナクチヤナラヌモノデアラウト考ヘル、マア私共ノ地方ナトデアリマスレバ只今ノ取締規則デ非常ナ差支ヲ見マセヌ、今北陸地方ナドハ事ニ依ルト今寒気ガ強シ又風モ強イ所ノヤウデアリマスカラ火災ノ憂モ多イカモ知レマセヌ、スレバ東海道地方ヨリハ少シ厳ニシナケレバ行カヌ所モアルカ知レマセヌ、ソレハ其地方ノ考デ見ル所デアリマスカラ分リマセヌガ、サウ云フコトガアラウト思ヒマス、全国一定ノ法律ヲ以テ之ヲ規定スルト却テ害ガアラウト考ヘマス、依テ此案ニハ反対スルノデアリマス
○五十五番（栃木、桜井源四郎君）　一言述ベタイ、有力ナル所ノ六十二番ノ御反対デアリマスカラ満場ノ諸君ガ御迷ヒニナツテ之ニ反対デアルカ知レマセヌガ、危険物デモ地方々々デシロト云フヤウナ御説デアリマスケレドモ、私ガ一例ヲ挙ゲテ満場諸君ニ御相談ヲ致シマスガ即チ其取締サヘ宜カツタナラバ若シ一朝失火デモゴザイマスカ大層便利ナコトガアリマス、定メテ火事ニモ御慣レニナツテヰル六十二番サンデゴザイマセウガ、若シ一斗入レノ鑵ガ打込ミニスレバ何十尺位飛ンデ行キマセウ、又一升入リノ油ハ何十間位飛ンデ行キマセウ、東京ハ火ガ強イカラ飛ビ方ガ多イ、地方ハ平均取ルコトハ出来ナイト云フコトハ出来ナイ、破裂スルトキハ東京デモ地方デモ同ジデアリマス、一斗入レノ鑵ガ破裂致シマシテ如何ナル堅牢ナル土蔵デモ観音開キヲ付ケテ置キマシテモ焼失ハ已ムヲ得ナイ、若シ販売者ガ市ノ真中ニ貯蔵致シテ置キマシテ一朝失火致シマシタ時分ニ、五十箇入リノ鑵ガ左右ニ飛ビマスレバ如何ナル煉化造ト雖ドモ、堅牢ナル土蔵デモ、石油ヲ注ゲハ灰燼ニ帰シテシマヒマス、故ニ此取締リヲスルノハ薬種屋ニ於テ劇薬ヲ取締ルトカ、病人ニ於テ病院トカ、危険物トシテ一定ノ取締方法ヲ設ケラレルナラバ吾々ノ生命財産ノ保護上余程宜シイト考ヘマスカラ、有力ナル六十二番ノ反対御論者ニ御迷ヒナク、金沢ノ提出案ニ御賛成ヲ希望致シマス
○五十二番（富山、若林元四郎君）　先刻八番ガ五十二番ハ本案ニ対シテ誤解シテ居ルト云フコトデ、八番ノ御答ガ誤解サレタカ知レナイ、トハ云フモノヽ先刻彼ノ御説明中ニ、石川県ハ余リ酷ダカラ販売者ガ困ル、販売者ガ困ルカラ之ヲ寛ニスルト云フヤウナ意味デ十分ニ御示ニナツタデ、ソレダカラ富山ノ惨状ヲ挙ゲテ反対シタノデ決シテ誤解ハシナイ
○番外二十五番（京都、岩村茂君）　此案ハ私ハ賛成致シマス、尤モ賛成ノ理由ガ少シ述ベタイノデ、大抵ノ御話ガ多クハ石油ノ危険ト云フコトニ移ツテ居ルノデ、危険ト云フコトヲ云フナラバ之ハ警察令ノ下デ云フノデ、商業会議所ガ別ニ言フベキモノデハナイダラウト思ヒマス、商業会議所トシテ云フ事柄ハ、即チ各地公平ト云フ事柄、商業上ノ共通ガ彼処ニハ利益アリ彼所ニハ不幸ノ損害ガアルト云フ点カラシテ、劃一ニシテ呉レト云フコトハ商工業カラ云フベキ理由ノアル問題デアラウト思フノデ、此案ハ矢張リヤツテモ宜イ問題デアルト云フノデ、ソコデ今日ノ場合ニ石油取締法ハ必要デアルカナイカト云フコト
 - 第22巻 p.540 -ページ画像 
ヲ一言シマスガ、曾テ此石油取締法ト云フノハ、確カ明治十七年デアツタト思フノデ、条例トナツテ出テ居ルノデ出テ居ルガ、其当時ハ未ダ其世ノ中ノ事情ニ適シナイト云フコトカラ、又其風潮ガ石油取締ヲスルニハ適シナイ時機デアルト云フコトヲ政府ガ顧ミラレテ、サウシテ当分ノ間施行セズト云フコトデソレガ消シテアル、去リナガラ今日ハ最早必要ナ時機カ来テ居ルト考ヘルノデゴザイマス、ソレデ一番シマヒノ当分ノ間施行セズト云フノヲ除イテ、又其中ニ少シハ修正改正モ必要デアリマセウガ、兎ニ角全国劃一ノ制度ノ下ニ此石油取締法ヲ出シテ、取締法ノ結果ニ依ツテ各地商工業者ハ不公平ヲ被ラナイヤウニシテ呉レト云フ趣意デ、建白請願ハ最モ必要ナコトダラウト思フノデ、多少文字ハ可笑シイ所ハゴザイマスケレドモ、意ハ矢張リ賛成致シマス
○番外二十番（金沢、伊藤鏢三郎君）　先刻六十二番カラ御反対ノ説ガ出マシタガ、至極御尤モナ御考ダラウト考ヘマスルガ、本員ハサウ云フ反対説ニハ感服スルコトハ出来ナイノデゴザイマス、六十二番ノ仰ルニハ是等ノコトハ法律ヲ以テスルト、法律ノ性質ト云フモノハ隅カラ隅マデスルノデアルカラ其取締ラナイデモ宜イ処マデ取締ルデハナイカ、此当業者ガ却ツテ余計ニ政府ノ外ニ他カラシテ制限ヲ受ケルヤウニナルデハナイカト云フ御説デアリマスガ、決シテサウデナイ、本会議所ハ此ノ石油ノ行ハレル処ハ隅カラ隅マデ取締ルヤウニシテ貰ヒタイ、ソレデナケレバ此平安ヲ維持スルコトハ出来ナイノデアリマス其取締リト云フコトハ、我国ニ行ハレテ居ル各県令ヲ比較シテ見ルト一地方ヲ取締ル法律デ、サウ云フ訳デハ行ケナイ、全国一般ニ今少シ低イ所ヲ以テ取締ルヤウニシテ貰ヒタイ、斯ウ云フ次第デ、固ヨリ本会議所ノ意見ハ、法律ノ性質ノ上カラ其事ノ実質ガ法律ニ能ク当嵌ツテ居ルカラ法律ヲ以テヤラウト云フノデゴザイマシテ、六十二番ノ反対ニナル所ハ本会議所ノ必要ト認メテ居ル処デゴザイマスカラ、此段ヲ一言申シテ置キマス
○会長（東京、渋沢栄一君）　十一号議案ニハ御賛成モアル、又反対ノ御説モゴザイマスル、反対説ガ成立ツテ居ルヤウデゴザイマス、反対説ニ対シテ決ヲ採リマスヤウニ仕リマセウ、此建議若クハ請願ハ必要ナシト云フ二十八番ノ御説ノヤウデシタ、六十二番モ其御説ノヤウデシタ、必要ナシト云フ六十二番ノ御説ニ御同意ノ方ハ御起立ヲ願ヒマス
　　起立者　　多数
○会長（東京、渋沢栄一君）　多数デゴザイマス