デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月18日（1899年）

是日第八回定期会第五日ノ会議ニ於テ、名古屋商業会議所ノ提出ニ係ル協議案、同業組合法改正ノ儀上程サレシガ、協議ノ結果宿題トシテ各会議所ニ於テ研究スルニ決ス。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会報告　　第七三―七五頁　刊
○協議案第三号　　　　　　　　　　　　（名古屋商業会議所提出）
　　　　同業組合法ニ関スル意見書
明治三十年我政府ハ重要輸出品同業組合法ヲ発布スルニ当リ、明治十七年十一月農商務省達第三十七号同業組合準則第四条ヲ削除セラレシガ為メ、其制裁力消滅シ、準則モ又其効力ヲ失ヒ、全国ニ於ケル四千有余ノ同業組合ハ忽チニシテ無能力ノ団体トナリ、準則ノ目的タル営業上ノ弊害ヲ矯メ同業者ノ利益ヲ永遠ニ謀ルノ計画ハ全ク画餅ニ帰スルニ至レリ、玆ニ於テカ一時ノ暴利ニ眩惑セラレ、或ハ粗製濫造ヲナシ、或ハ旧時ノ弊風ヲ再演シテ、以テ商事百年ノ大計ヲ誤マルモノ比比トシテ輩出スルニ至リ、害毒ノ波及スル所、小ニシテ着実ナル商估ヲ苦メ、大ニシテ商業ノ進運ヲ阻害スルニ至レリ、斯ノ如クンハ今日既ニ改正条約ヲ実施シ内地ヲ開放シテ以テ外人ト商業上ノ輸贏ヲ争フニ当リ、何ンソ能ク勝ヲ制スルコトヲ得ンヤ、夫レ今日ノ競争者ハ又昔日ノ競争者ニ非ス、今日ニ於ケル商業上ノ秘訣ハ又昔日ノ秘訣ニ非ス、是レ正ニ起ルヘキ競争ニ備ヘンカ為メ同業者相結托シテ完全ナル組合ヲ組織シ、互ニ和衷協同シテ同気相通シ、相共ニ粗製濫造ヲ戒メ
 - 第22巻 p.554 -ページ画像 
信用ヲ重シ商業ノ刷新ヲ図リ、以テ新状態ニ処シ外商ニ対スル方針ヲ定ムルノ已ムヘカラサル所以ニシテ、殊ニ主務省ヨリ屡々要求セラルル統計材料ノ如キ、之ヲ組合ニ就テ蒐集セスンハ他ニ方便ナキヲ以テ同業組合ト之ヲ保護スル法律ノ我国ニ必要ナル、蓋シ今日ヨリ急ナルハ莫シ、然ルニ組合準則ハ既ニ死文ニ属スルヲ以テ、同則ニ依リ前述ノ目的ヲ達スル能ハス、又重要輸出品同業組合法ハ其第十九条ニ於テ（輸出ニ属セサル物品ト雖トモ同業者ニ於テ必要ト認ムルトキハ尚ホ本法ヲ準用スル事ヲ得）トアルカ故ニ、宛モ同法ニ依リ有効ナル組合ヲ組織スルヲ得ルカ如シト雖トモ、当局者ハ組合ヲ以テ反テ各個商人ノ自由ヲ覊束シ商工業ノ発達ヲ妨クルモノトナシ、極力消極的ノ方針ヲ執リ、重要輸出品ニアラサレハ最モ著名ナル内地品ニ対シテノミ本法ヲ適用シ組合ヲ認可スルノ方針ナルカ故ニ、邦内千百ノ営業ハ本法ノ保護ヲ受クル能ハス、従ツテ緊急ノ必要アル同業組合ヲ成立セシムル事ヲ得サルナリ、是レ豈論者カ我商業ノ進運ヲ旺盛ナラシメント欲シテ反テ之ニ頓挫ヲ与フルモノニ異ナランヤ、若夫レ組合ノ行為ニシテ各個商人ノ自由ヲ覊束シ商工業ノ発達ヲ妨クルノ虞アリトセハ、具サニ其定款ヲ吟味シ弊害ヲ未発ニ予防スルニ若カサルナリ、何ソ一枝葉ノ醜キヲ悪ンテ全幹ヲ裁除スル事ヲ要セン、又論者ハ組合法ノ不必要ヲ論シテ云フ、若シ夫レ組合ニシテ果シテ必要ナリトセハ、商人相互間ノ自由契約ニ依テ之ヲ成立セシムル事ヲ得ヘシ、何ソ特別法ヲ制定シ殊更ニ之ヲ保護スルヲ要セント、是レ理論上至当ノ説ナリト雖トモ、未タ以テ我国状勢ニ通シ時ニ適中スルモノト云フ可ラス、蓋シ我商人ハ全国一致ノ精神ニ欠クル所アリ、未タ永遠ノ利益ヲ画策スルノ経験ニ乏シキカ故ニ、到底自由契約ニ拠リテ同業組合ヲ成立セシムル事克ハス、仮リニ成立シ得ルトスルモ、我邦人ハ往々情実ニ纏綿シ、定款ニ定ムル制裁ヲ決行スルノ勇気ニ乏シキカ故ニ、自由契約ニ依リテ組合ノ目的ヲ達セン事蓋シ至難ノ業タルヲ免カレス、是レ特別法ノ必要ナル所以ニシテ、重要輸出品同業組合法第十九条ヲ百般ノ営業ニ適用スルノ方針ヲ以テ改正セラルヽ歟、将又同業組合準則第四条ヲ復活セラレン事刻下ノ急務ナリト信スルナリ

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第三九五―四〇三頁　刊
　　　　○第五日
明治三十二年十月十八日午前十時十分開議
　　出席委員　　　　　五十名　○氏名略
○上略
○十番（名古屋、奥田正香君）　此意見ハ略ボ述ベテ置キマシタ積リデゴザイマスカラシテ、管々シウ述ベマスルト却テ時間ヲ費ヤスノ恐レガアリマスカラ簡単ニ述ベテ置キマス、此協議案トシテ出シマシタノハ、既ニ此同業組合法ニ付キマシテハ彼ノ第三回聯合会デアリマシタカ、以来屡々此議事ニモ上ツテ居リマスノデ、其時ニハ或ハ此組合ト云フモノヲ準則ヲ出シテサウシテ之ヲ幾分カ制裁ノアルコトニスルノハ始終之ヲ妨グルノデアルト云フ論モアリ、又是非サウシナクテハ今日ノ発達上又ハ日本ハ此ノ如キ取締ヲ設ケナレバナラヌト云フ御説モ
 - 第22巻 p.555 -ページ画像 
アルシシテ、一モ成立ズシテ宿題等ニナツテ居リマシタノデ、然ルニ近来即チ欧米ハイザ知ラズ、名古屋地方ハ組合ノ確立シテ居リマセヌ故ニ従ツテ粗製濫造ノ弊ガ甚ダシクアル、又物価其他ノ事ヲ取調ベ等ヲ致シマスニ甚ダ不便ヲ感ジマス、殊ニ之ヲ抜ケル者カラ言ヒマスレバ、組合ヲ利用シテ組合ノ頭取ガ寄附ヲ強イタト云フ批難ガアリマス是等ハ須ラク十分ニ取調法ヲ設ケタナラバ決シテ其弊害ノ防ゲヌコトモアリマスマイト思ヒマス、各商業会議所ニ御持帰リデモ差支アリマセヌケレドモ、願ハクハ御研究ヲ願ヒタイト思フ、況ンヤ是ハ本案トシテ提出致シマセナンダノハ、御協議上皆サンニ於テ不必要ダト云フナラバソレマデノモノデアリマスガ、尚ホ是ガ一考スベキ価ガアルモノト御考ヘガアリマスレバ、ドウカ各会議所デ御調ベ下スツテ御研究下サルヤウニ致シタイ、故ニ協議案トシテ出シタノデ、其理由ハ粗々述ベ尽シマシタ積リデアリマスカラ、却テ御倦怠ヲ招クト行カヌト思ヒマスカラ委シクハ述ベマセヌ
○十八番（京都、大沢善助君）　本案ハ確カニ値打チアルト思フ、ドウモ其今迄ノ組合ト云フモノヽ履歴ヲ考ヘルト、今マデノ準則トカ何トカ云フモノヲ拵ヘテ彼レニ依ツテ押シテ置イタトキヨリハ此頃ノ方ガ組合ノ方ガ必要ニナツテ居ル、必要ニナツテ来テカラ止メタモノデアルカラ丁度トンチンカンニナツタ、今奥田君ノ述ベラレタ通リ約束デヤツテ行クト云フノハエライヨイコトデアルガ、中々彼ノ必要アルト思フ、併シナガラ今迄ノ準則ノヤウナ風ニ区域ヲ極メテ検束スルト云フ事柄ガ、或ハ内地雑居ニナツテ外国人ガ来テモソレヲ引張リ込ンデ組合ノ中ニ入レテ撿査スルト云フコトニスルニハ、是亦チヨツト世話サシテ貰ハナケレバナラヌ、之ハ大手ヲ振ツテ持ツテ帰ラレルノダカラ、持ツテ帰テ調ベサス時間ヲ与ヘテ貰ヒタイ
○二十七番（熊本、下田耕造君）　此営業組合準則ノ三十七条ニ第四条トヲ削ラレタト云フコトガアリマスガ、幸ニ局長ガ御臨席ニナツテ居リマスカラ、御方針ヤラ其他ノ組合ニ付テノ御省ノ御意向ヲ御漏ラシニナツテ宜イダケノ事ヲ伺ヒタイモノト存ジマス、御差支アラン限リドウカ御示シヲ願ヒマス
○十三番（神戸、横田孝史君）　本員ハ元来十番ヲ賛成スル一人デアリマス、理由ハ既ニ案文ニ述ベ尽シテアリマスカラ爰デ敷衍スル必要ハアルマイト思ヒマス、就キマシテハ唯今二十七番ヨリノ提案ハ至極同感デアリマス、ドウカ然ルベク局長ニ……
○商工局長（木内重四郎君）　此同業組合準則ノ第四条ガナクナツタト書イテアルガソレハドウ云フコトカト云フ御質問ニ対シテ御答ヘ致シマス、ソレハ同業組合準則第四条ニハ、同業組合ガ其地方ニ出来タナラバ其営業部類ニ属スル営業者ハ否応ナシニ是非這入レト云フ規定ガアツタノデス、併シ特別ノ事情アル場合ニハ、這入ラナクテモ宜シイト云フ但書ハアリマシタガ、大体ノ精神ハ強制的ニ加入ヲ命ジテ居ツタノデス、ソレヲ三十年ニ削除ヲ致シタノデス、何故削除ヲシタカト言ヒマスレバ、明治三十年ニ重要輸出品同業組合法ト云フモノガ出来テ、極ク必要ナ輸出品ニ付テハ同業組合ヲ拵ヘテ同業者五分ノ四以上ノ賛成同意ガアルナラバ少部分ノ不同意デアツテモ強制的ニ組合ヲ拵
 - 第22巻 p.556 -ページ画像 
ヘル、サウシテ是非這入ラナクテハナラヌト云フ丁度準則ノ四条ニ規定シテアルガ如キ強制ノ箇条ガアル、但シ例外ハ矢張リ這入ツテ居リマスガ、ソレデ重要輸出品ト目スベキモノハ此ノ如キ強制組合ニスルケレドモ、従来準則ニ依ツテノ組合ハ非常ニ種類ガ多イ、色々ノ業体ニ付テ各府県ニ組合ガ沢山アリマスガ、ソレヲ一々強制スルノハ余リ営業ノ自由ヲ害シテ其結果経済上ノ発達ヲ害スルデナイカト云フ懸念カラ、準則ノ方ニハ一時止メタノデス、名古屋商業会議所デハ輸出品ニ限ツテハ範囲ガ狭イカラ其他ノ組合モ拵ヘテ強制加入ヲ命シタイト云フ趣意ノヤウデ、ソレニ付農商務省ノ現在ノ意見ハドウデアルカト云フ御尋ネニ対シテハ、物ニ依ル話デ、今俄カニ善イトカ悪ルイトカ判然トシタ事ヲ概括的ニ申上ゲルコトハ難儀デアリマス、ト云フノハ重要輸出品同業組合法ガ発布サレテ以来、各地ノ重モナル輸出品ニ付テハ、例ヘバ絹織物ナリ綿織物ナリ米ナリ色々ナ物ニ付テ組合ガ沢山出来マシタガ、其結果ドウモ未ダ宜シクナイノデ、ソレハ先日農商務大臣ノ演説ニアル通リドウモ成蹟ノ見ルベキモノガナイト云フ方ガ事実ニ近イ、ソレハ農商務ノ監督ガ十分デナイト云フコトモアルデセウ組合ヲ拵ヘタイカラト云フテ申請シテ来レバ認可ヲシテヤル、其後ノ監督ハ十分デナイ、又組合ノ組長カ何カニナリタイヤウナ人ガ多数ノ人ヲ唆カシテ……ト云フノデハ酷イケレドモ……勧メテ組合ヲ拵ヘテ其組長ト云フ肩書ヲ持テ居ルダケデ格別ニ仕事ヲ為ナイ、或ハ組長ニナラナカツタ人ガ同志ヲ語ツテ騒ガスト云フヤウナ風聞モ多少聞コユルノデス、何故ニ折角組合ヲ拵ヘタカト云フコトヲ考ヘ、又自分自分ガ拵ヘタニ違ヒナイカラ其当初ノ精神ニ顧ミテ真正ニ仕事ヲシテ貰イタイノデアルガ、サテサウ云フ成蹟ノ挙ツテ居ル処ハ寧ロ少ナクナイカ、ト云フノハ当業者自ラノ熱心ノ足ラヌト云フノモ一ツデゴザリマセウ、又監督ガ十分デナイノモ一ツデアラウ、ソレデ是カラ追々ニ監督ヲシヤウト思ツテ居リマス、又府県知事ニモ相当ノ尽力ヲサセヤウト思ツテ居リマス、併シナガラ僅カ許リノ人数ヲ持ツテ居ル一ツノ役所ガ如何ニ気張ツタ所ガ、組合ヲ組織シテ居ル人々ノ心懸ケガサウデナケレバ十分ニ効蹟ガ挙ラント思ヒマス、ソレデ組合ヲ組織シテ居ル役員ノミナラズ組合員ノ多数ノ者ニ望マナケレバナラヌ、而シテ商業会議所ノ会員ナリ、若シクハ会員ナラザル人デモ其地方デ商工業ニ付イテハ先輩ト目セラルヽ方々ハ、間接ニデモ、若シクハ其組合ニ御加入ニナツテ居レバ無論ノ話デアリマスガ、サウデナイニモセヨ、注意ヲ与ヘテ、組合ヲシテ当初ノ精神ニ顧ミテ本来ノ目的ヲ達セシムルヤウニ私ハ希望スルノデス、而シテ準則ニ付テ削除シタ強制的ノ箇条ヲ直チニ入レテ各地ニ組合ヲ拵ヘルガ宜イト云フ議論ハ俄カニ賛成ハ出来ヌノデス、ト云フノハ物ニ依リ業体ニ依ルノデス、此重要輸出品同業組合法デモ、ソレハ大体輸出品ノ重モナルモノニ付イテノ組合デハアリマスガ、其十九条ニハ輸出品ニアラズト雖モ特別ノ必要アルモノハ尚ホ其法律ニ依ツテ組合ヲ設クルト云フコトニナツテ居リマス、ソレデ此等ノ物ニ付イテハ法律ノ効力ガアルノデスカラ、其以上ニモ有ユル物ニ付テ総テ組合ヲ設クルト云フノハ余リ窮屈過キハシナイカト云フ組合《（ママ）》ヲ私ハ今持ツテ居ルノデスケレドモ、確カニサウト即チ此協
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議案ニ反対スルトマデハ心持ハ極メテ居ラヌ、ソレデ各商業会議所デ御研究ニナツテ、ソレソレノ意見ヲ御提出ニナルト云フコトハ至極喜ブ所デアリマス
○十番（名古屋、奥田正香君）　只今商工局長ノ御演説デ種々参考トナルコトヲ得マシタガ、併シ此書面ハドウ御聞キニナリマシタカ細大洩サズト云フ趣意デハナイ、之ハ文章ヲ御承知ニナレバ思ヒ半バニ過ギルデアラウト思ヒマス、ソレカラ第十九条ト云フコトモ考ヘテ居リマス、是ガ実際ニ行ハレナイ、此輸出ノ重要品ト云フモノハドウ御覧ニナルカ知レマセヌガ、今日ノ場合既ニ今日デハ輸出ノ重要品ト見做シマセヌデモ明日ニ至ツテ必要ナモノニナリマス、又今日ハ非常ニ輸出ノ重要品ト思ツテ居リマシテモ海外ノ都合ニ依ツテ変ズレバ輸出ニ余リ甘クナイト云フ事ニナリマス、一般ニ今日ノ重要品トナルベキモノニ付テハ御許シニナルト云フ十九条ニ付テノヤウニ成リマシタナラバ宜シウゴザリマスケレドモ、主務省ナリ県庁ナリ総テガ此総テ許サヌ方ノ方針デ御ヤリナサル故ニ、重要ノ物品ニ対シテ組合ヲ設ケントシテモ設ケサセヌト云フ傾キニナツテ居リマスカラ建議ヲシタノデ、今仰シヤル事ノ如キハ百モ承知ノ上ニ提出シタノデ、固ヨリ細大洩サズト云フ趣意デハナイ、即チ昨年ノ如キハ一昨年ノ不作ノ為メ、日本ト云フモノハ米ハ輸出スルカト思ツテ居リマシタガ、豈ニ図ランヤ数千万石ヲ輸入シタト云フコトニナツテ居リマス、重要輸出ト思ツテモ存外サウナツテ居ル、ソレ故ニ是等ノ粗製濫造ノ弊ヲ矯メタイ考デ、今御述ベノ頭取ニナリタイカラ組合ヲ拵ヘル者ガアル、人ガ運動ヲスルト云フヤウナ一ツノ弊ヲ以テ悉クサウダト云フノハ行ケナイ、頭取ニナルカラ組合ヲ煽動スルトカ、併シ煽動スルト云ツテモ悉ク組合ガヨイト思ツタナラバソレデヨイ、サウ云フ人ガ悪ルイコトナレバ其人ノ頭取ヲ換ヘレバ宜イト云フ話デ、サウ云フモノガアレバ中々容易ニ許サナイト云フ御感想ハ甚ダ当ラヌト思ヒマス、此事ハ別ニ彼是言フニハ及バヌガ、自分ハ必ズ細大洩サズ御許シニナルコトニシタイト云フコトヲ述ベタノデハナイ、此重要ナ物品ニ対シテハト云フコトヲ言ツテ居リマス、只今ノ商工局長ノ意見ハ、辱シウゴザイマスケレドモ自分ノ提出シタ組合法ノ意見ニ対シテハ、甚ダ欠礼ノ申分デアリマスガ一向価値ノナイ申方ト思ヒマス
○三十六番（岡山、香川真一君）　三十六番ハ此組合ニハ多少関係ヲ有ツテ居リマス、併シ経験家ト云ツテモ余リ過言ジヤナイカト思ツテ居リマス、即チ輸出品同業組合ト此聯合会ノ組長モシテ居リマスガ、余程経験ニナツテ居リマスガ、其利益ハ今申上ゲマスルト段々長クナリマスカラナンデスガ、唯今局長ノ御話ノ通リニ役人ニナリタイト思ツテ起シタ組合モアリマシテ、数ケ月ノ中ニ借金ノ五千円モ拵ヘテ困ツテ居ル所モアリ、マダ組長ノ出来ヌ組合モアリマス、ソレハ現ニアルノデアリマス、ソレカラ又アノ事ガ発布ニナルト直グニ組合ヲ起シテ見タガドウモ今是ダケノ効能アルト云フコトハ私ハ断言ガ出来悪ウゴザイマス、併シソレハ銘々行届カヌコトデアラウト思ヒマスカラ、益益進ンデ奨励シテヤツテハ居リマス、マダ段々申上ゲルコトモゴザイマスケレドモ、之ヲ此処デ深ク研究セズトモ持ツテ帰ツテ其地方地方
 - 第22巻 p.558 -ページ画像 
デ研究シタラ済ム問題デアリマスカラ、是ハドウカ是デ御止メニナツタラ宜カラウト思ヒマス
○十一番（名古屋、鈴木摠兵衛君）　局長ニチヨツト伺ヒマスガ、此重要輸出品規則ニ準ジテ設ケルコトヲ得ルト云フノハ、他ノ業体デハ大抵ドノ辺ニ着目ガアルノデスカ、自分等ノ方デハ材木ガ外国ヘ輸出スルノデスガ、日本ノ材木ハドウナツテ居ルカト云フ統計ト云フモノヲ諸方カラ名古屋商業会社《（議所カ）》ニ沙汰ガアル、然ルニ自分等ハ調ベヤウト思フガ組合ノ設ケガナイタメニ統計ヲ得ルコトガ出来ナイ、止ヲ得ズ臆測ヲ以テヤツテ居ルノデスガ、マア大抵業体ハドウ云フモノデアリマスカ
○商工局長（木内重四郎君）　業体ニ付イテ何々ト云フコトハ極メテゴザイマセヌ、其地方々々ニ依ツテ違ウノデスカラ業体ヲ列挙シテ御答スルコトハ出来マセヌ、アナタノ方デ組合ヲ設ケタイト云フノナラバ実際ノ状況ヲ陳述シテ御話シニナル方ガ都合ガ宜ウゴザイマスガ……
○十一番（名古屋、鈴木摠兵衛君）　ドウモ大意ハ分リマシタガ、許可ニナラヌト効能ガナイノデス、名古屋ニ於テハ材木ナラ材木ノ組合ヲ拵ヘル……
○商工局長（木内重四郎君）　十九条ノ方ニハ何ニモ書イテアリマセヌガ、重要輸出品ト看做スベキモノガ大抵各県ニ通知シテアリマス、其他尚ホ出来ルト思ヒマスガ、先ツ紙類・地氈・綿織物・綿フランネルソレカラ絹ノ「ハンケチ」・扇子・団扇・地蓆・麦稈真田・竹器竹材・陶磁器・漆器、ソレカラ石炭・樟脳・推茸・薄荷、金属デ拵ヘタモノソレカラ綿織ノ糸・絹織物・羽二重等総テ這入ツテ居リマス、又燐寸屏風・蝙蝠傘・硝子器・紙器・木器・銅・木蝋・人参・米・蚕糸・乾鮑・雑貨・鯣・寒天・昆布・魚油・木材及板・海参、マア斯ウ云フヤウナモノガ総テ重要輸出品トシテアルノデアリマス、其上ニ出来ルノデアリマスカラ、ソレデモマダ足ラナイトナレバ余程範囲ガ広クアリハセヌカト考ヘマス
　　　（「採決、採決」ノ声起ル）
○会長（東京、渋沢栄一君）　此問題ニ付キマシテハ御賛成ノ説ガゴザイマスガ、併シ兎ニ角持テ帰テ研究スルト云フ十八番ノ御説モゴザイマス、此十八番ノ説ニ賛成ガアツテ他ニ御説ガナイヤウデアリマス、ソレデハ十八番ノ各会議所ヘ持帰ツテ研究スルト云フ御説ニ御同意ノ御方ノ御起立ヲ請ヒマス
　　起立者　　多数
○会長（東京、渋沢栄一君）　多数デゴザイマス
　　　○本件ハ第九回定期会ニ再ビ提案セラレタリ。本巻明治三十三年五月十九日ノ条参照。