デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
4款 商業会議所聯合会
■綱文

第22巻 p.687-695(DK220058k) ページ画像

明治33年5月23日(1900年)

是ヨリ先、第九回定期会ニ京都商業会議所ノ提出セル鉄道国有ノ儀、他ノ諸議案ト一括ノ上国家経済ノ方針ニ関スル儀トシテ調査スルニ決シタリシガ再ビ分離ノ上審議スルコトトナリ、是日第五日ノ会議ニ於テ、討議ノ末宿題トナル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。


■資料

明治三十三年五月開設 第九回商業会議所聯合会報告 第五三頁 刊(DK220058k-0001)
第22巻 p.687-688 ページ画像

明治三十三年五月開設
第九回商業会議所聯合会報告  第五三頁 刊
○議案第十四号            (京都商業会議所提出)
一鉄道国有ノ実行ヲ期シ其筋ニ意見ヲ開申スルノ件
    理由
  鉄道ハ国家最大ノ交通機関ニシテ、平時ニアリテハ社界ノ発達ヲ促シ、事変ニ際会シテハ軍事ノ枢機ニ供スルモノナルヲ以テ、事業本来ノ性質ニ於テ単ニ利益ヲ主トスル民業ニ委スヘキモノニアラスシテ、国家ニ属スヘキモノナルコト亦言ヲ待タス、故ニ国家
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カ這般ノ大事業ヲ経営スルニ当リテハ、始メニ其方針ヲ確立シ以テ百年ノ長計ヲ図ルコトヲ要ス、然ルニ本邦鉄道ノ成立ハ政府始メテ之ヲ経営シ、摸範ヲ以テ其有利事業ナルコトヲ示メスヤ、私設鉄道ハ勃然トシテ興リ、大ニ鉄道事業ヲ発達セシメタリト雖トモ、其結果ハ多数ノ小会社個々分立シタルヲ以テ、其動作自カラ敏活ナラサルノミナラス、巨額ノ資金ヲ是ニ吸収固定セシムルニ至レリ、之ヲ最近ノ統計ニ徴スルニ、農商工業ノ資金総額参億弐千四百九拾四万円ニ対シ、鉄道資金ハ弐億参千八百七拾七万円ノ巨額ニ上ホレリ、世界孰レノ邦国カ如斯僅少ノ産業資金ニ比例シテ如斯巨額ヲ鉄道ニ固定セシムルモノアランヤ、宜ナリ産業資金ノ枯渇シテ生産力ヲ萎靡シ、輸入ハ常ニ輸出ヲ制スルノ一大原因タルニ至レルヤ、若シ此勢ヲ助長スルニ於テハ、何ヲ以テ我国経済ノ秩序ヲ維持シ、国民ノ幸福ヲ期スルコトヲ得ンヤ、夫レ然リ然ラハ鉄道ヲ国家ニ収メ経済ノ逆運ヲ挽回スルノ策如何、内国ノ事情如此ナル今日ニ於テハ、政府保証ノ責ニ任シテ鉄道公債ヲ外国ニ募ルカ、或ハ政府自ラ外債ヲ起シ時機ヲ図リ漸次私設鉄道ヲ政府ニ買収スルノ最モ良策ナルヲ信スルナリ、此計画ニシテ実行セラレンカ、買収資金ハ民間ニ流動シ、資金豊阜、金利低落ノ力ヲ得テ一般商工業ヲ発揮スルニ至リ、玆ニ始メテ列国ノ商工業ト対立スルコトヲ得ヘク、鉄道ノ基礎モ鞏固ト為リ、管理ヲ統一シテ交通ヲ円滑ナラシムルヲ得ヘキナリ、然ルニ坊間外資輸入ニ就キ是非ノ論評ヲ加フルモノ尠ナキニアラサレトモ、内ニ確固タル財源アリテ外ニ招致シタル資金ヲ生産事業ニ運用セハ、啻ニ害ナキノミナラス利益ノ甚タ大ナルモノアルコトハ欧米諸邦実例ノ示ス所ナリ、又曷ンソ区々ノ言議ヲ省ミ之カ実行ヲ躊躇スルノ時ナランヤ、之ヲ要スルニ、鉄道国有ハ吾人実業ニ従フモノヽ夙トニ必要ヲ認ムルノミナラス、第十三議会ニ於ケル衆議院ノ建議、学識経験アル朝野ノ名士ヨリ組織セラレタル鉄道国有調査会ノ報告ニヨリ明ニ輿論ノ傾向スル所ヲ察知シ、政府ハ前期議会ニ鉄道国有法案並ニ私設鉄道買収法案ヲ提出セラレタルニ、或ル事情ノ為メ終ニ本案ノ通過ヲ見サリシハ甚タ遺憾トスル所ナリ、故ニ此際更ニ我国経済界ノ現状ニ鑑ミ買収資金ヲ外国ニ採ル旨趣ヲ以テ、鉄道国有法案第二条ヲ改正シ、次期議会ニ提出セラレンコトヲ政府ニ開申シ、以テ本案ノ実行ニ努力セラレン事ヲ切望ス


明治三十三年五月開設 第九回商業会議所聯合会報告 第六三頁 刊(DK220058k-0002)
第22巻 p.688-689 ページ画像

明治三十三年五月開設
第九回商業会議所聯合会報告  第六三頁 刊
    ○決議
○上略
○議案第三号
一外国人ニ土地所有権及鉱山採掘権ヲ許与セラレンコトヲ其筋ニ建議スルノ件
                        (函館提出)
○中略
○議案第五号
一輸出羽二重撿査所ヲ横浜・神戸二港ヘ設置セラレンコトヲ政府ヘ請
 - 第22巻 p.689 -ページ画像 
願ノ件
                        (金沢提出)
○中略
○議案第六号
一絹織物摸範工場設置建議ノ件          (横浜提出)
○中略
○議案第七号
一海陸運輸交通ノ連絡ヲ図ル義ニ付建議ノ件    (博多提出)
○中略
○議案第八号
一摸範工場設立ニ関スル義ニ付意見開申ノ件    (博多提出)
○中略
○議案第九号
一国家経済ノ方針ニ関スル意見開申ノ件      (大坂提出)
○中略
○議案第十号
一日本興業銀行ノ速成ヲ其筋ニ促スノ件      (京都提出)
○中略
○議案第十二号
一納税ニ手形及公債利札ヲ使用セシムルコトヲ其筋ニ意見開申ノ件
                        (京都提出)
○中略
○議案第十三号
一国家経済ノ方針ニ関シ政府ニ建議シ、議会ニ請願スルノ件
            (東京商業会議所委員井上角五郎提出)
○中略
○議案第十四号
一鉄道国有ノ実行ヲ期シ其筋ニ意見ヲ開申スルノ件
                        (京都提出)
○中略
 以上十件ハ便宜一括シ、十五名ノ委員ヲ選挙シテ之ニ調査ヲ附託スルコトニ決シ、其後 ○中略 衆議ノ上鉄道国有ノ実行ヲ期スルノ件モ別ニ議スルコトヽナシ ○下略


明治三十三年五月開設 第九回商業会議所聯合会議事速記録 第二二八―二四一頁 刊(DK220058k-0003)
第22巻 p.689-695 ページ画像

明治三十三年五月開設
第九回商業会議所聯合会議事速記録  第二二八―二四一頁 刊
明治三十三年五月二十三日午前十時四十五分開議
  出席委員     三十一名 ○氏名略
○上略
○会長(東京、渋沢栄一君) ○中略
次ハ十四号ヲ議題ニ附シマス
○五十四番(京都、中村栄助君) 本案ハ京都商業会議所ノ提出ニ係リマス案デ、鉄道国有ヲ実行シタイト云フ意見ヲ開申スルト云フ趣意デアリマスガ、コレニハ既ニ簡単ノ理由書ヲ付ケテ御手許ニ差出シテ置キマシタ通リデゴザイマシテ、此問題ハ初メ委員ニ一括シテ付託サレマシタガ、委員中コレハ大問題デアルカラ取除イテ置クガ宜イト云フ
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モアリマシテ、一度ビ第三ノ一項但書ニ此意味ヲ加ヘルコトニナリマシタガ、ドウモコレハ其主意ニ添ハヌカラト云フ事デ削ラレマシタノデアリマス、只今此案ヲ爰デ御審議ニナリマス事ハ当会議所ニ於キマシテハ誠ニ満足致シマスル次第デアリマス、此問題ハ細カク説明致シマスル迄モナク諸君ノ能ク御承知ノ事デゴザイマシテ、鉄道国有ハ其性質カラ論ジテ見マシテモ交通機関ノ整頓又其他ノ点カラ申シマシテモ今日ハ之ニ異論ヲ云フモノハナイト思ヒマス、併シ或ハ私設論ヲ唱ヘル人モ僅カニアリマスケレドモ、今日我国ノ私設鉄道ノ有様ヲ顧ミマスルト、完全ニナスベキ所ヲ粗雑ニシタリ色々不都合ナ点モゴザイマスルデ、兎ニ角之ヲ国有ニスルト云フ方ノ議論ハ偖措キマシテ、此説明書ニモゴザイマスル通リ巨額ノ資本ヲ固定シテ居ルモノハ即チ此鉄道デゴザイマス、ソレデ今日此会ノ輿論トモ云フベキ外資輸入ト云フコトニ之ヲ利用シタイト云フノガ望ミデアリマス、即チ鉄道公債ヲ外国ニ募リ之ヲ製産事業ノ資本トシテ利用スル事ニ致シマシタナラバ過日来諸君ノ御希望ニナル所ノ列国ト対立シテ製産事業ガ進ムコトガ出来ルト信ズルノデゴザイマスノミナラズ、此事ハ既ニ已ニ三・四回モ此会議所ヘ意見書ヲ呈シマシタ事モゴザイマスルデ、既ニ輿論トナツテ衆議院ニモ出タ位ナ問題デアリ、今更喋々述ル要モゴザイマセヌ殊ニ今日ハ鉄道株券下落ノ極トモ云フベキ時デアツテ、行フニ誠ニ容易イ時期デアラウト考ヘマスノデゴザイマス、或ハ吾々ノ議論ヲ以テ株屋論デアルトカ何トカ云フヤウナ説ガゴザイマスルケレドモ、我々会議所ノ望ム所ハ即チ只今申ス通リ鉄道其物ノ性質カラ論ジ、又国家ノ利害カラ申シテ、是非共コレハ国有ニシナケレバナラヌト云フ事ヲ信ジテ之ヲ希望シテ止マヌノデアリマスカラ、ドウゾ此事ハ満場ノ御賛成ヲ得マシテ、既ニ已ニ先刻来協議会ニ於テモ略々論ジ来ツタル所ノ二・三ノ個条ハ兎モ角モ、応急ト云フ策ニ付テハマダ欠ケテ居ルデハナイカト云フ御話マデアツタ位デゴザイマス、元ヨリ今日ノ救済策トシテサウ名案ノ出サウナ筈モゴザイマセヌガ、鉄道国有ノ如キハ尤モ此外資ヲ輸入スルニハ適当ナル所ノモノデアラウト考ヘマス、簡単ニ此丈ケノ事ヲ述ベマシテ諸君ノ御賛成ヲ希望イタシマス
○四十五番(松山、仲田槌三郎君) 私ハ本案ニハ賛成デゴザイマス、ドウカ速ニ二次会ニ移サレンコトヲ希望イタシマス
○七番(豊橋、三浦碧水君) 私ハコレハ大問題デ已ニ衆議院ニ於テ論モアリマシタシ、又其外各位ニ於テモ御協議ニナツテ居ルト思ヒマスカラ細カナ事ハ申スニハ及バヌト考ヘマス、私ハ断然之ニハ反対デアリマス、摘ンデ申シマスルト、随分コレハ弊害ノ多イ事デアルト思ヒマス、其点ヲ述ベマスルトナカナカ一朝一夕ニハ尽キマセヌ事デスガ併シ之ハ皆様御了承ノ事ダト考ヘマス、詰リ此外資ヲ輸入スルト云フ事ハ誠ニ必要ヲ感ジテ居リマスケレドモ、ソレガ為ニ斯ノ如キ弊害ノ多イ事ヲスルト云フハ甚ダ国ノ為ニ宜シクナイト考ヘマス、コレニハ反対致シマス
○三十二番(大坂、佐伯勢一郎君) 私ハ是迄何モ申シマセヌデシタガ此問題ニ付テハ一言イタシマス、私共ハ此鉄道国有ノ事ニ付テハ予テ説ヲ持ツテ居ルモノデアリマスガ、今日ノ場合ハ今ノ京都商業会議所
 - 第22巻 p.691 -ページ画像 
ノ御説明ノ中ニモゴザイマシタガ、若シ之ヲ国有トスルナラバ今此鉄道株ノ下ツテ居ル筈ハナイノデ、之ヲ行ハレタラ大変宜カラウト思ヒマス、併ナガラ一方ヲ考ヘテ見マスルト、只今七番サンノ御話ハ別ニ詳シイ御説明ハゴザイマセヌデシタガ、詰リ之ハ大問題デアルカラ急場ノ事ニハナルマイト云フ御説ト私ハ推察イタシマス、ソレデドチラニ致セ、昨日以来段々御説ガアツテ之ヲ問題トシテ今日ニ延シ、只今其意見ヲ述ベナケレバナラヌ場合ガ来リマシタ、付キマシテハ私共ハ反対デアリマス、ソンナラバト云ツテ今日之ニ全然反対スルト云フモ如何デアルカラ、此事ハ暫ク此会ニ於キマシテハ宿題ト云フコトニ御決議ヲ願ヒマス、必ラズ之ヲ議スル時期ガ参ルダラウト考ヘマスカラ其時期ノ参リマシタ時ニ議スル事ニ致シタイ、依テ宿題ト云フ事ニ御決議ニナルコトヲ希望イタシマス
○二番(名古屋、奥田正香君) 私モ七番ニ賛成スルノデ最早喋々述ベルニモ及ビマセヌガ、私ハ全ク之ニハ反対デ、提出者ハ此ノ如キ問題ニ対シテ社会ニ反対スル者ハナカラウ、此議場ニモ反対スルモノハナカラウト云フヤウナ御口気デアリマシタケレドモ、私ハ又ソレニ引代ヘ此ノ如キモノ対シテハ一人モ賛成スル人ハナカラウト思フテ居タ然ルニ之ヲ御提出ニナリ賛成モアルト云フヤウナ訳デ甚ダ驚イテ居ルノデアル、ソレカラ昨日有志会員タル五番ノ説ガアリマシタガ、恰モ叱ルガ如ク説諭スルガ如ク滔々ト御述ベニナリマシタガ少シモ感服スルヤウナ御説ハナイ、詰リ鉄道ヲ国有ニシナケレバ日本ハ潰レテ仕舞ウト云フ程ニ仰セラレタケレドモ、私ハ又、之ヲヤラナケレバ日本ハ潰レテ仕舞ウ、之ヲヤラナケレバ何事モ出来ヌト云フコトヲ思フ人ハ決シテナカラウト思ツテ居ルノデアル、既ニ有志五番カラ昨日御述ベニナリマシタ運賃其他種々ノ御説ハ皆取ルニ足ラヌ話デ、賢明ナル諸君ハ皆之ニハ御反対デアラウト思フ、依テ私ハ七番ヲ賛成イタシマス
○有志五番(東京、雨宮敬次郎君) 只今始メテ奥田サンノヤウナ有力ナ御反対ガアリマシタ、私ハ此事ニ付テハ十分御話シヤウト思ツテ居ツタノデアリマスガ、御反対ガナイト話シタクモ話セナイト云フヤウナ訳デ扣ヘテ居ツタガ、御反対ガアリマシタカラ御話ヲシヤウ、先刻ノ協議会ニ於テモ今日ノ経済界ノ現状ヲ如何ニシテ救フベキカト云フコトニハ誰モ御考ヘガナイ、此儘捨テヽ置ケバ宜イヂヤナイカ、家ヘ早ク帰リタイト云フヤウナ御説ニ止ツテ居ル、ト云フヤウナ事デアツタカラ私ハ別ニ何モ言ハナカツタ、併シ之ハ決シテナイ事ハナイ、大イニアル、幸ニ今奥田サンノ御説モアツタカラ私ハ誠ニ申上ケルニ都合ガ宜イ、ト云フノハ現ニ彼ノ富籤同様ノ抽籤法ヲ以テ金ヲ集メルハイケナイト云フ御説ガアツタガ、コレハ決シテサウ云フモノデハナイ私ナドハ之レニ対シテモ大変考ガアルノデ、先ヅ一口ヲ一円宛一万円ヲ一組トシテ……問題外ト云フ御咎メガアルナラ鉄道ノ事丈ケヲ申上ゲマセウガ、今日鉄道ヲ国有ニシテナラヌト云フ奥田サンノ御説デアリマスガ、私ハ奥田サンノ御説ニハ正反対ダ、既ニ政府ハ国有鉄道案ト云フモノヲ十四議会ニ御提出ニナツタ、所ガ議会ガ賛成シナイ為メニトウトウ問題トナラナカツタガ、何シロ現政府モ国有ヲ賛成シテ案マデ提出致サレタ位ダカラ、私ノ論モ敢テ不当ナリト云フモノデハア
 - 第22巻 p.692 -ページ画像 
ルマイト思ヒマス、日本今日ノ経済界ノ有様ハドナタモ皆憂ヘテ居ルニ違ヒナイ、此現状ヲ直スニハドウカト云フト先刻ノ協議会ノ席デ見テモ別ニ斯ウト云フ考ハナニモナイ……
○二番(名古屋、奥田正香君) 此所ハ本会デスゾ、協議会ノ秘密ヲ爰デ披露スルヤウナ言ハ御差止メヲ願ヒマス
○会長(東京、渋沢栄一君) ドウカ秘密会ノ事ナドハ余リ仰ツシヤラヌヤウニ……
○有志五番(東京、雨宮敬次郎君) 承知致シマシタ、ソコデ此応急策ヲ講ズルト云フ事ハ、目下経済界ノ輿論ト云フモノガアリマスカラ其事ヲ申上ゲルガ、私ハドウシテモ鉄道国有ヨリ外ニハ此救治策ハナイト考ヘマス、今モ私ノ語気ノ暴イ為メニ御心持ニ障ツタカ知レマセヌガ、誠ニ露骨ニ事ヲ申ス性質ノモノデ御気ニ障ツタ所ハ御詑ヲ致シテ置キマス、私ハ何ニモ人身ヲ攻撃シ、人ト議論ヲスルヤウナモノデハゴザイマセヌ、偏ヘニ国家ノ現状ヲ憂ヘ一時モ早ク目下ノ困難ヲ救ヒタイト云フ考ヘカラ知ラズ知ラズ言語モ過激ニ渉リマシタノデ、其辺ハ御詑ヲシテ置キマスカラドウゾ能ク落付イテ聞イテ下サイ、昨日モ申上ゲマシタガ、ドウシテモ運賃ヲ安クシテ、交通機関ノ便利ヲ計ラナケレバナラヌ、幾ラ便利ヲ計リタイト言ツテ見タ所デ役人ガ代レバ仕様ガナイト云フヤウナコトヲ一寸伺ツタガ、之ハ役人ガ代ツタツテサウドンドン変ルモノデハナイ、之ハ四千万ノ同胞ノ共有物デナカナカ今ノ役人ガ代ツタカラト云ツテ乱暴ニスル訳ニハ往カヌ、又私ノ申シタノハ、仮令バ下等運賃ハ一銭五厘ヲ超過シテアルケレドモ、之ハ前ニハ一哩四万円位デ敷設ガ出来タノガ今ハ七万円・八万円モ掛ツテ、到底一銭五厘デヤリ切レヌカラ必ラズ段々高クナル、一銭八厘・二銭乃至三銭ニ上ルヤウニナル、之ヲ上ゲズニ置ケバ従来鉄道ヲ架ケルモノハ日本ニハナクナツテ仕舞ウノデ無拠玆ニ至ラシメタガ、之ヲ国有トシテ国家ガ持ツテ居タナラバドコ迄モ安ク往クヂヤアリマセヌカ、安ク往クカラ国家ガ持ツタ方ガ宜イト云フ事ハ信ジテ疑ヒマセヌ、国家ガ今日少シモ外資ヲ入レナイト云フナラ宜シイガ、今日ノ場合ハドウシテモ之ヲ入レテ目下ノ急ヲ救フヨリ仕方ガナイ、外資ヲ入レルナラ鉄道ヲ国有トシテ四千万ノ同胞ノ便益ヲ計リ、安イ運賃デ乗セテ運輸交通ノ便ヲ計ツタ方ガ宜イヂヤアリマセヌカ、ソレニ付テ私ノ考デハ外資ヲ入レルニハドウシタラ宜カラウト云フニ、勿論抵当付ノ金ナラ安ク借リラレルシ無抵当ナラ高イ、シテ見タラ高イ利息ノ金ヲ借リテヤルト云フノハ誠ニ面白クナイ、ドウカシテ安利ノ金ヲ借リタイ、安イ金ヲ借リテヤレバ民業モ発達シ従ツテ鉄道ノ運賃モ安クナルカラソレデヤリタイ、ソレナラバ外資ヲ入レルニハドウシタラ宜カラウカ昨日申シタ事ヲ今日繰返シテ申スト云フハ少シ煩シクゴザイマスガ、日本既設ノ鉄道ハ一ケ年総計デ一千五百万円純益ガゴザリマス、而シテ仮ニ四朱ノ利デ借リルトシテ三百万円ノ利子ヲ支払フトシテモ差引一千二百万円残ルカラ、之ヲ補塡シテ往ケバ三十年目ニハ只デ買上ケラルヽコトニナル、ソレデ鉄道国有ト云フ論ハ欧米ノ政治家モ皆ナ唱ヘテ居ルコトデ、昨日モ申シマシタ如ク鉄道ハ非常ニ儲カルモノデアル、併シ一概ニハ論断シ兼ネマスケレドモ、宜イ鉄道ニナルト非常ナ
 - 第22巻 p.693 -ページ画像 
利益ガアルモノデアルカラ之ヲ買入レルコトハ決シテ不利益デナイ、故ニ国有論ガ出ルト各会社カ騒イデ其論ヲ打壊シテ仕舞ウ、日本デモサウ云フ有様ニナツテ居ル、又何レノ国デモ大政治家ト云フヤウナ人ハ鉄道ハ国有ニシナケレバナラヌト云フ事ヲ主張シテ居ルガナカナカ行ハレナイ、幸ヒ日本ハ経済界ガ今コンナ有様デ誠ニ鉄道ヲ買フニ好機会デアリマスノミナラズ、鉄道ヲ国有ニシテ置ケバ百年二百年ノ後国民ノ子孫ハ実ニ安楽ニ交通機関ノ便利ヲ得ル事ガ出来ルデアラウト思フ、此考ヲ起シマシタ故ニ私ハ永年此論ヲ唱ヘテ居ルノデゴザリマス、日本ノ経済界ノ困難ハ此ヲ以テ救フヨリ外ニ良策ハナイト私ハ信ジテ居ル、若シ今日ノ困難ガ直ツテ景気ガ宜クナツタラ誰モ之ヲ売ルモノハナイ、幾ラ何ト言ツテモ売ラヌ、今日ハ所謂戦後ノ財政経済ヲ誤ツタ為ニ此商工社会ニ非常ナ恐慌ヲ来シタ、斯ウ云フ際ニ之ヲ国有トシテ置カネバモウ百年ノ後迄之ヲ国有ニスル時期ハナイカモ知レヌ私ハ飽迄鉄道ハ国有ニシナケレバナラヌト信ジテ居ルガ、併シ又ソレハ悪イト云フ御論ガアルナラ謹ンデソレヲ承ツテ、其御論ガ至当ナラバ随分ソレニ従ハヌコトモナイガ、ドウモ今迄ノ御論デハ服従スルコトハ出来ナイ、ソコデ此事ハ政府デモ議会ヘ案ヲ出サレタ位ノ事デアルカラ、是カラ諸君ガ御奮発ナスツテ一致ノ運動ヲシテ下サレタラ或ハ之ガ出来ルデアラウト思フ、此事ガ極リサヘスレバ最早経済界ハ安穏ニナリマス、何ニモ心配ハナイ、外資モ安々入レルコトガ出来ル、ドウゾ諸君此事ニハ御賛成下サイマシテ、政府ガ此十五議会ニハ必ラズ提出シテ之ヲ遂ゲルノ決心ヲ御極メ下サラバ、最早経済界ハ少シモ心配ナイト私ハ考ヘマス
○二十九番(金沢、水登勇太郎君) 雨宮サンノ御説ハ謹ンデ承リマシテ感服致シマシタ、感服イタシマシタガ、其最初ノ御話ノ内ニ私ハ少シ御正シヲ願ヒタイト思フコトカアル、ソレハ今度ノ経済問題ニ付テ我々ハ色々ト御相談ヲシマシタガ、ドウモ十分ナ考案ト云フモノガアリマセヌデシタガ、併シ之ハ止ムヲ得ヌ次第デ、大問題デアルカラ出来ル丈ケ慎重ニ論ジタイ、暇カ入ツテモ論ジタイト云フノガ我々ノ精神デアリマス、然ルニ今ノ御話ノ内ニ早ク議シテ早ク家ヘ帰リタイ云云ト云フヤウナ御言葉ガアリマシタ、コレハドウモ是非御取消シヲ願ハナケレバナラヌ、併シソレモ私ノ聞違ヒデアリマシタラ宜シイケレドモ、若シ聞違ヒデナイナラサウ云フ事ハドウゾ御取消ヲ願ヒタイ
○有志五番(東京、雨宮敬次郎君) 只今二十九番カラ御話ガアリマシテ、私ハ先刻来皆サンノ御説ヲ伺ヒマシタガ、ドウモ外ニ宜イ方法モナイカラ早ク先ヅ此問題ヲ済シテ用モアルカラ帰ラウト云フヤウナ御意向ガアツタ、ケレドモドウカ暫ク御待チ下サイ、サウ云ハズニ目下国家ノ困難ヲ御救ヒ下サイマセヌカト云フタ積リデアリマシタガ、其事ガ今御聞取リノヤウニ当リマスト誠ニ私ノ申シタ趣旨ト齟齬致シマス、決シテサウ云フ訳デハゴザリマセヌ、皆サンガサウ御急キナサラズニ御寛リトドウゾ此問題ヲ慎重ニ御協議下サルヤウニ願ヒタイト云フ意デ申シタノデ、詰リ今二十九番ノ仰セラレタ御意ト私ハ同様ノ考デアル、勿論今日ノ問題ハ軽々ニシナイデ慎重ニ慎重ヲ加ヘタイト云フ考ナノデアリマスカラ、ドウカ熟考セラレンコトヲ希望致シマス、
 - 第22巻 p.694 -ページ画像 
取消セト云フ事ナラソレハ取消シマス
○二十九番(金沢、水登勇太郎君) 今申シタ事ガ私ノ聞違ヒナラバイザ知ラズ、速記録ニハ如何ニナツテ居ルカ知レマセウガ、私ハ此会議ノ体面ヲ保ツ上ニ於テ取消シヲ願ハンケレバ気ガ済ミマセヌト云フ考カラ申上ゲタノデ……ソレカラ此問題ハ応急ノ策トシテ或ハ国家百年ノ計画トシテ必要ト云フ事ガ色々御話ノ中ニアツタ、私ハ其御話ノ中ニハ大イニ感服シテ居ル所モアルケレドモ、全部感服ト云フ訳ニハ往カナイ、或点ハ感服シ或点ハ大イニ反対シナケレハナラヌ、思フニ国有問題ハ随分議論モ長ク世人ニ訴ヘテアル所ノ事柄デアツテ、今爰デ喋々論ジマスルモ格別ノ効用ヲ認メマセヌカラ此事ハ大抵ニシテ、速ニ可否ヲ決セラレンコトヲ望ミマス
○二番(名古屋、奥田正香君) 元ヨリ二十九番ノ申ス通リデ異議ハナイガ、只ダ一言私ガ申シテ置キタイ、既ニ有志五番ハ御取消シニナリマシタガ、甚ダ如何ハシキ御陳弁モアリテ、ソレハ議長カラ御注意モアリマシタカラ別ニ追窮スル必要ハゴザイマセヌガ、尚ホ十分ニ申シタラ殊ニ依リ此説ヲ止メルカモ知レヌト云フ御話ガアリマシタケレドモ、私ガ爰デ如何ニ鉄道国有ハ悪イト云フ事ヲ御話シテ見タ所デ、決シテソレニ服従セラレル事ハナカラウト思ヒマス、大変間違ツタ事ヲ信ジテ居ルノデ何程言フタカラトテ有志五番ハナカナカ聞ク気遣ヒハナイト思ヒマスカラ、モウ別ニ述ヘマセヌ、私ハソレニ対シテ説ヲ翻サナイ、決シテ有志五番ニハ賛成イタシマセヌ
○四十四番(大垣、小寺成蔵君) 鉄道国有ニ付キマシテ有志五番カラ喋々御述ベニナツテ拝聴致シマシタガ、能ク考ヘテ見マスニ、之ハ論ノ立テ方デ利益ガアルト云ヘバ大変利益ガアルヤウニモ見ラレ、又利益ノナイト云フ方カラ云ヘバ何シロ大問題ノ事デスカラ幾ラデモ利益ガナイト云ヘルヤウニ思ヒマス、ソレデ此問題ハ今爰デ一日ヤ二日議シタカラト云ツテナカナカ論ガ尽キルモノデハナイノデ、私ハ三十二番ノ宿題ニスルト云フ御説ニ賛成ヲ致シマス
○五十四番(京都、中村栄助君) 私ハ提出者ノ一人デアリマシテ色々述ベタイコトモゴザイマスケレドモ、最早採決前デアリマスカラ詳シク述ベヌコトニ致シマスガ、提出者ト雖モ雨宮君ノ説ヲ全然賛成シテ居ル訳デハナイ、私ハ今ハ詳シク述ベマセヌケレドモ、満場ノ諸君ハ私設鉄道ノ弊害ト云フモノハ能ク御承知デアラウト思ヒマス、ソレデ鉄道国有ハ既ニ輿論ノ帰シテ居ルヤウナ事デアリマシテ、私共ハ今雨宮君ノ御説ノ中ニハ甚ダ其意ヲ得ヌト云フ事ハゴザイマスルガ、併ナガラ御説ノ中ニ鉄道国有ガ通過スレハ経済界ハ緩ムト云フ事ガアツタ之ハ私モサウ思フノデ、已ニ業ニ此財政整理ノ事ニ付キマシテ、国会ガ如何ナ有様ヲ演ジマシタカ、其場合ニ於テ果シテ財政整理ガ出来テ順境ニ向ツタカト云フニサウデハナイ、愈々此事ガ出来ルトナツタ所ガ国会ハ解散、早ヤソレデ其事ガ経済界ニ影響シタモノデアリマス、雨宮君ノ御説ノ通リニナルト相成リマシタナラバ、多少ノ影響ヲ及ボシテ利益ニナルト云フコトハ私共提出者トシテ信ジテ居ル一人デアリマス、一言此事ヲ申シテ置キマス
○四十五番(松山、仲田槌三郎君) 私ハ御反対者モゴザイマスカラ賛
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成ノ理由ヲ述ベマス、私ノ賛成致シマスル理由ハ、有志五番ノ御述ベニナリマスノトハ違ヒマス、私ノ之ヲ賛成シタト云フモノハ、今日ノ金融ヲ緩メルト云フ精神カラ起ツテハ居ラヌ、鉄道ノ利益ト申マスルモノハ大体我国ノ端カラ端マデ縦貫鉄道ヲ布テ運輸ヲ便利ナラシムル事カ肝要デアル、ソレデ今日ハ財政等ノ都合デ敷設シテナイ為ニ一般ノ人ガ運輸ノ便ヲ得ル事ガ出来ナイノミナラズ、日本ノ利益ヲ大イニ拡張スルコトモ出来マセンカラ、ドウシテモ之ハ縦貫鉄道ヲ布カナケレバナラヌト言フ事ガ必要デアル、其縦貫鉄道ヲ布クニハドウシテモ官線デナケレバ銘々勝手ナ所ヘ布カウト云フ事デ迚モ之ヲ完フスル事ガ出来ヌ、故ニ之ハ是非官線ニシナケレバナラヌモノト思ヒマス、其理由ヲ以テ賛成ヲイタシマシタ
○三十三番(大阪、三谷軌秀君) 私ハ三十二番ノ宿題ニ賛成スルモノデゴザイマス、別段詳シイ理由ハ述ベマセヌガ、一言述ベタイノハ今日本会デ此問題ノ可否ヲ決スルノハ時期其当ヲ得ナカラウト思フ、即チ若シ之ヲ否定センカ其結果ハ少シク遺憾ニ思フノデアル、又直ク此所デ可決シテ仕舞ウト云フモ今日ノ事情如何カト云フノデアル、故ニ延期シテ宿題トシ、次ノ会議ニ議スル方ガ宜カラウト思フ、依テ三十二番ノ説ヲ賛成イタシマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 段々御説モアリ、ソレニ御賛成モアリマスカラ、先ツ排棄スルト云フ方カラ決ヲ採リマス
○二番(名古屋、奥田正香君) チヨツト申上ゲマス、私ハ之ヲ宿題トシテ研究スルト云フ方ニ御纏マリガ付キマスレバ敢テソレニ抗弁スルモノデハナイ、故ニ先ツ排棄説カラ御採リ下サイマシテ、少数デアツタラ宿題ト云フ方ヲ御採リヲ願ヒマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 排棄説カラ採ルノガ至当デアリマスカラ左様致シマス、本案ニ対シテハ七番・二番等ノ排棄説ガアリマスル、ソレニ御同意ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
  起立者  少数
○会長(東京、渋沢栄一君) 少数デス、続ヒテ三十二番ノ之ヲ宿題ニシテ置クト云フ御説、コレニ御同意ノ御方ハ起立ヲ請ヒマス
  起立者  多数
○会長(東京、渋沢栄一君) ソレデハ是ハ宿題ト相成リマシタ
   ○本案ハ第十回定期会ニ再ビ上程サレ可決セラレタリ。本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十四年九月十五日ノ条参照。
   ○尚本件ニ就イテハ本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月二十日、同年十二月七日、同三十四年十二月二十五日ノ各条、並ニ本巻明治三十二年十月十一日、明治三十三年五月十七日、及ビ本資料第九巻所収「鉄道国有問題」参照。