デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
1款 経新倶楽部
■綱文

第23巻 p.8-20(DK230002k) ページ画像

明治24年9月4日(1891年)

是日、栄一始メ当倶楽部会員等四十名連署シテ、輸出税ヲ全廃センコトヲ大蔵大臣伯爵松方正義ニ建議ス。


■資料

東京経済雑誌 第二三巻第五六四号・第三九六頁 明治二四年三月二一日 輸出税全廃に関する経新倶楽部の決議(DK230002k-0001)
第23巻 p.8 ページ画像

東京経済雑誌  第二三巻第五六四号・第三九六頁 明治二四年三月二一日
    ○輸出税全廃に関する経新倶楽部の決議
経新倶楽部は東京府下の紳商より組織せるものにて、過日田口卯吉氏は同会に於て輸出税全廃論の演説を為したりしが、同日渋沢・益田・大倉等の紳士会する者四十名程にて、田口氏の演説終るの後、渋沢栄一氏は地租軽減の事は小生にも宿論あり、今ま俄に同意を表し難きも輸出税全廃の事に至りては全く異存なき事柄なれば、此事の全く立消とならざる様手続を尽さんと発議せられ、益田孝氏は米穀輸出の実況並に綿糸輸出の見込等を述べられ、速に出願の手続を為し、且つ商業会議所開設の上は此所に於ても発議を為さんと述べられ、是より種々の発議ありて、終に委員五名を撰挙し之に其手続を托することに決せり、其委員は左の如し
                    渋沢栄一
                    益田孝
                    大倉喜八郎
                    園田孝吉
                    今村清之助
斯くて木村清四郎・渡辺孝太郎・田口卯吉の三氏も十分に之に力を添ふることに決せり


東京経済雑誌 第二三巻第五六八号・第五四四頁 明治二四年四月一八日 東京の紳商愈よ輸出税全廃建議を呈するに決す(DK230002k-0002)
第23巻 p.8 ページ画像

東京経済雑誌  第二三巻第五六八号・第五四四頁 明治二四年四月一八日
    ○東京の紳商愈よ輸出税全廃建議を呈するに決す
本月十二日の経新倶楽部の春期大会に於て、渋沢栄一・園田孝吉・大倉喜八郎等の諸紳商四十名程集会し、全会一致にて輸出税全廃の建議書を大蔵大臣に呈する事に決せり、其建議文は既に出来したれども尚ほ再調査を為し、修正を加へ別に総会を催ふせず、委員より直に呈出すべきに決したり

 - 第23巻 p.9 -ページ画像 

松方家文書 第四二号之一三 【輸出税全廃ノ件/輸出税ノ全廃ヲ希望スルノ建議】(DK230002k-0003)
第23巻 p.9-16 ページ画像

松方家文書  第四二号之一三        (大蔵省所蔵)
    輸出税全廃ノ件
別紙建議ヲ案スルニ其輸出税ヲ全廃スヘシト云フ要旨ハ左ノ如シ
 一、輸出税ハ輸出ノ増加ヲ阻止スル事
 二、麦・茶・昆布・銅等ニハ各国ノ競争アリ、故ニ之ニ凌駕セラルルノ憂アルノミナラス其輸出税ハ我国人ノ負担トナル事
 三、輸出税ヲ存スルトキハ荷造リ開封、再封ノ煩労損失アルノミナラス、特別輸出港ヨリ直ニ外国ニ向フ事能ハサルノ不便アル事
 四、現ニ輸出税免除ノ翌年ヨリ、各種物産ノ輸出額増加セシ証跡アル事
 五、歳計ノ剰余ハ以テ全廃ヲ実行セシムルニ足ル事
右ハ何レモ皆正当ノ理由ト認メテ可ナレトモ、嘗テ上申セシ如ク尚ホ其他ニ輸出税全廃ヲ必要トスル理由アリ、曰ク
  第一国家ノ生産力ヲ増殖シ外国貿易ヲ隆盛ナラシメ国力ヲ培養スヘキ政府ノ方針ニ適ヒ、単ニ租税ノ減額ノ点ヨリ見ルトキハ消極的ノ如キモ、他日輸出ヲ増加シ輸出物生産ニ関係スル多数人民ヲ益シ内国税ノ増加トナリ、引テ国庫ヲ利スルヨリ云フトキハ積極的作用アルモノト謂ツヘキ事
  第二其利益ハ商家ハ勿論汎ク工業者・農業者即チ四民ニ及フカ故ニ、以テ衆望ヲ満足セシムルニ足ルベク、未タ之ニ対シ反対ノ意ヲ表セルモノナクシテ、議会ヲモ通過シ易カルヘシ、故ニ輸出税全廃案ノ提出ハ、議院政略上宜シキヲ得タルモノナル事
  第三輸出税全廃ハ海関税改良ノ端緒ニシテ且ツ最モ有益ナルモノナリ、然ルニ海関税改良ノ事タル財政上頗ル賞賛スル所ナレハ、若シ之ヲ決行セハ現内閣ノ名誉ハ夫レ遠ク世界ニ轟キ永ク財政史上ニ伝ヘラルヘキ事
故ニ幸ヒ年々生スヘキ所ノ剰余金五百万円モアル事ナレハ、此中ヨリ輸出税平均額一百七十万円ヲ擲ツモ決シテ惜ムニ足ラサルノミナラス輸出税ノ全廃ハ今ノ時ニ当テ断然決行スヘキ必要アル者ト思考ス
  明治廿四年九月八日
                     添田秘書官
    松方総理大臣殿
(表紙)

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 輸出税ノ全廃ヲ希望スルノ建議 




    輸出税ノ全廃ヲ希望スルノ建議
開国以来我外国貿易ハ年一年駸々トシテ進歩シタレトモ、其進歩中ニ在リテ常ニ一障碍タリシモノアリ、何ゾヤ海外輸出品ニ関税ヲ課スルノ制是ナリ、方今世界先進諸国共ニ外国貿易ヲ重ンジ其国産輸出ヲ奨励スルニ切ナルハ人ノ能ク知ル所ナレバ、後進ノ我日本国ノ如キ其用心一層深切ナルベキ筈ナルニ、然ルニ事此ニ出デズ却テ輸出品ニ関税ヲ課シ、其輸出増加ノ勢ヲ阻止スルガ如キ趣アルハ某等ノ窃ニ惑フ所ナリ、人或ハ説ヲ為シテ輸出税ハ間税ノ一種ナルヲ以テ、外国ノ消費
 - 第23巻 p.10 -ページ画像 
者之ヲ負担スベシト云フ、今日本特有ノ物産ニシテ絶テ他ニ同種類ナキ者ニ於テハ或ハ然ルノ理アルベシト雖トモ、我国首要ノ物産ハ概ネ他ニ競争者ヲ有シ、生糸ニハ支那・伊太利アリ、茶ニハ支那・印度アリ、海産物ニハ露西亜アリ、銅ニハ米国・西班牙アリ、何レモ我勁敵ニシテ其輸出額ノ如キモ現ニ我ニ数倍スルモノアリ、或ハ後来増額シテ我ニ凌駕セントスルモノアリ、左ニ之ヲ提出シテ其形勢ヲ示スベシ
    ○生糸 (明治二十一年)

  国別    外国ヘ輸出高                 其割合
              リーラ          円
  伊太利 二七八、〇二〇、一〇〇=六五、三三四、七二四   二三〇
              テール
  支那   三二、一八〇、二九八=四四、六九四、八五八   一五八
  日本              二八、三四五、六四六   一〇〇
  一「リーラ」ヲ我円銀二十三銭五厘トシテ算シ、七十二「テール」ヲ我円銀百円トシテ算ス、又支那ノ輸出高ハ生糸ノ純計ヲ知リ難キニ付、生糸及絹製品ノ混計ヲ掲グ

    ○茶 (明治二十一年)

  国別    外国ヘ輸出高                 其割合
              テール          円
  支那   三〇、二九三、二五一=四二、〇七三、九六〇   六八七
              ルービー
  東印度   五、二六七、三一五= 三、三一八、四〇八    五四
  日本               六、一二四、八一六   一〇〇
  七十二「テール」ヲ我円銀百円トシテ算シ、一「ルービー」ヲ我円銭六十三銭トシテ算ス

  ○昆布 (明治二十一年)

  国別    芝罘ヘ輸出高                 其割合
                斤          円
  露西亜   三、四九八、九二九     五九、四八二   一九〇
  日本    一、九七九、〇七四     三一、二六九   一〇〇
  露西亜産ハ百斤ノ相場一円七十銭トシテ算シ、日本産ハ同一円五十八銭トシテ算ス

    ○銅 (明治二十一年)

  国別    外国ヘ輸出高                 其割合
                弗          円
  合衆国   九、八六七、二一二=一二、七三一、八八六   三二九
  日本               三、八七五、〇二九   一〇〇

  七十七弗半ヲ我国銀百円トシテ算ス
前表中銅・茶・生糸・海産物ノ如キ我国産中ノ首要ナル者ニシテ、然モ他ニ競争者アル事実ニ此ノ如クナル其際、コノ国産ニ輸出税ヲ課セバ他ノ同産物ト相対シテ海外市場ニ競争ス可ラザルヲ以テ、其輸出税額ハ外国消費者ノ負担ニ帰セズ、我輸出業者先ツ之ヲ負担シテ更ニ之ヲ製産者ニ移シ、他ニ同種類ノ競争者アルトキハ輸出税ハ遂ニ内国製産者ノ負担ニ帰スベキハ、経済上必定輪廻ノ応報ナリト云フモ可ナラン、今ヤ我国ノ状勢ヲ視ルニ外国輸出貿易ハ年々他ニ競争者ヲ生ジテ益々困難ノ地位ニ陥リ、製産業ハ従テ振ハズ、外国輸入品ハ随テ増加シ、動モスレバ内外貿易ノ不平均ヲ生セントスルノ恐アリ、此時ニ当リ海外輸出品ニ関税ヲ課シ陰ニ陽ニ我製産者並ニ貿易者ノ気勢ヲ挫クガ如キ趣アルハ、是レ将タ国家ノ慶事ナルカ某等ノ窃ニ疑惧シテ已マザル所ナリ
抑モ我輸出税額ハ百四十万円内外ナレトモ、之ヲ賦課スルニ因リテ直接間接当業者ノ不便損失タルモノハ殆ンド計数ス可ラザルナリ、今輸出物品ハ遠路ヲ運送スル者ニシテ其荷造最モ堅牢ナルヲ要スレトモ、
 - 第23巻 p.11 -ページ画像 
其物品ニ輸出税ヲ課スルガ為メ一旦荷造リシタルモノヲ又忽チ開封シ其堅牢ヲ害セザルヲ得ズ、是レ其不便ノ一ナリ、開封ノ上ニ検査ヲ受ケ税金ヲ納メ、更ニ之ヲ荷造リシテ再ビ原状ニ復スル等、其手数苛重ニシテ費用モ亦少ナカラズ、是レ其不便ノ二ナリ、現今特別輸出港ノ制アリ、米・麦・石炭・硫黄等ノ無税品ハ之ヲ此特別港ヨリ輸出スル事ヲ得レトモ、銅・材木・昆布等特別港ヨリ輸出シテ大ニ便利ヲ受ク可キモノハ、如何セン有税品ナルヲ以テ先ツ之ヲ開港場ニ送リ、税関局ノ検査ヲ受ケ関税ヲ納メタル後ニ非ザレバ之ヲ輸出スル能ハザルヲ以テ、為ニ特別港ヲ利用スルヲ得ズ、是レ其不便ノ三ナリ、此他輸出税賦課ノ為メ当業者ノ不便損失タル可キモノハ一々枚挙ニ遑アラズ、而シテ此不便損失ヲ積算セバ或ハ輸出税額ニ匹敵スルヤモ測ル可ラズ左レバ輸出税全廃ノ一挙ハ当業者ヲシテ単ニ輸出税ヲ免レシムルノミナラズ、之ニ伴生スル幾多ノ損失ヲモ免レシメ、我輸出貿易上ニ幾層ノ進歩ヲ見ル可キハ固ヨリ疑ヲ容レザルナリ、即チ左ノ一表ノ如キハ其趣ヲ示スニ足ル可シ
     無税輸出品ノ元価及免税ノ年月

図表を画像で表示無税輸出品ノ元価及免税ノ年月

  年次       諸紙類            硫黄              絹布類              石炭             摺附木             竹器類            漆器類             磁器及陶器                 円              円              円                 円              円              円               円               円 明治元年      四一、三五七・六〇       六、四七八・九八         五一二・二七         七九、五一九・〇九             ……         四六二・六八       一七、〇六五・四九       二三、〇一四・五八 同 二年      一九、一八二・二〇       四、四七四・三〇          四六・一八         八二、九七八・一八             ……         二八七・二一        一、九〇九・四八        四、七〇三・九三 同 三年      三五、二三五・三一       五、四六一・一二        @六五七・五四        一三九、〇八五・三三             ……       三、一五二・四四       四三、一九八・九四       二六、二三五・五八 同 四年      三〇、九五八・六六      一六、七一一・二九         七七二・三六        一〇〇、四二九・一三             ……       五、三〇九・二九       六〇、三八六・六〇       二二、三五四・二七 同 五年      六九、二七二・一〇      一四、四八六・七九       八、五七三・一二        一八〇、二七八・二四             ……       二、七三九・三三       八八、〇二八・七三       四五、五三一・〇二 同 六年      六六、五四二・五二      一九、九一六・二九       三、九一四・九三        二二五、一五八・〇五             ……       一、五六六・四六      一五九、四四五・〇四      一一六、四八〇・九六 同 七年      四七、七五二・四〇      三五、五五五・四一       四、四〇二・一九        一四六、四七〇・五三             ……       四、〇六五・七一      二二三、二〇〇・六四      一〇八、六七五・〇二 同 八年      四八、三七九・〇九      二四、三一六・八〇       六、七五〇・四六        二一三、三八五・三七             ……         二五四・五二      一六七、八七九・八八      一一三、二二四・三二 同 九年      五四、三四二・五五      四一、二八一・五一       二、六四〇・三二        一七八、五〇〇・四四             ……       一、九五三・六五      一一六、八九四・〇五       七三、七九一・五五 同 十年      四七、八八〇・一五      一七、一八六・二五       二、一五七・八〇        二八九、二三五・〇六 三月免税        ……       四、三八三・一四      一八五、二六一・五〇      一二〇、八五二・五六 同十一年      四八、九六六・一四      三五、五三一・〇四       二、七四六・五〇        三八一、九七三・五〇      二〇、四〇〇・〇〇       五、六七四・三二      一四八、五九七・〇六      一六九、一〇〇・二八 同十二年 七月免税 五一、八九六・五一      三七、四二〇・〇八 七月免税 一七、三二八・五一        四五四、九八七・五九      八三、五八八・五〇 七月免税 一六、三四二・一四 七月免税 二七七、七三〇・三二 七月免税 三〇七、〇三八・八三 同十三年      九四、六〇七・二二      三七、三一八・六六      三五、三九五・三八        四六〇、〇八五・六八     三六九、六七二・〇〇      四三、六四九・一五      四四九、六四五・二九      四七四、五七九・四二 同十四年     一〇九、五一〇・〇三 五月免税 六六、九八二・三六      二七、八五四・〇四        三九五、〇一九・八九     二四九、七五八・八六      八〇、五五一・六〇      五二五、四一四・六五      七一一、三五〇・七八  以下p.12 ページ画像  明治十五年    一七三、三三三・九七      三一、二二五・〇五      二七、一二五・九六        四三五、五九五・三二      三七、二三九・五七      八二、三七二・六三      五五五、三〇四・二三      五七八、六四一・二九 同十六年     二三五、九三四・六六     一一九、七六五・四九      二二、七二六・九三        三九五、三八八・五四       三、一六五・四〇     一二六、八一九・六五      五一九、七二二・九二      五四三、七六八・一七 同十七年     一三〇、二七二・三四      六六、六四五・三九      二四、〇二〇・八三        六〇七、一二四・一一       二、七九一・九一      七八、三五五・一七      四五一、六六六・三二      五二五、九三三・一一 同十八年     一〇二、三二八・八七     一三七、九三一・八八      五四、五四七・三三        六二六、五一五・四九      六〇、五六五・八一     一〇五、九八六・三四      四六七、五二〇・六五      六九五、二六九・一七 同十九年      八六、二五二・八六      七六、七六二・六〇      六一、二五三・九六        六九四、〇〇一・八一     三七八、〇二二・三六     一九一、二七一・一四      五八九、一六九・六一    一、〇〇二、三八四・四二 同二十年      六八、二九五・九八     一三六、〇二二・九五     一三五、二二四・一〇        四九六、二九〇・八七     九四一、五七六・四七     二一二、六五六・七六      六三〇、七二四・七七    一、三一一、九〇一・四四 同二十一年     九七、〇三〇・一〇     一二〇、九〇二・七四     二五八、〇三三・八一 九月免税 一、〇六六、八四〇・二九     七四〇、九三四・四一     二一七、三三八・〇三      五八九、六四九・三五    一、二九五、三一六・二九 同二十二年    一〇〇、八一四・九六     三一三、三二二・四四     六二三、四五六・四六      二、三三九、三五九・三四   一、一三七、九五一・七四     二一七、五九三・二五      六二八、四六六・〇七    一、四四九、八八八・一三 同二十三年    一一四、九〇三・七八     二六三、二八三・六九   一、一六七、八六八・四三      二、五六五、七〇三・四五   一、四八九、〇二九・九五     一九四、四八二・六七      五七二、一五七・四七    一、二四五、九五六・七六 



前表中輸出税免除ノ翌年ヨリ各種物産ノ輸出額ニ異常ノ進歩ヲ顕ハシタルハ、我外国貿易大勢ノ然ラシムル所ナリト雖トモ抑モ此輸出税免除ノ功与リテ大ニ力アリシニ依レリ、即チ今某等ガ前ニ徴シテ後ヲ推シ輸出税全廃ヲ希望スル所以ナレトモ、今日ノ実際果シテ之ヲ全廃スルノ大困難アリヤ、某等ノ見ル所ヲ以テスルニ此間多少ノ障碍アルハ固ヨリ言ヲ待タザレトモ、財政ノ局ニ当ル者ガ大ニ其必要ヲ感ジテ之ヲ実行セントスレバ其事決シテ為シ難キニ非ズ、今明治二十三年ニ於ケル我有税品ノ原価並ニ其税額ヲ示セハ左ノ如シ
    明治二十三年 有税輸出品税率元価及収税額

  品名 税率(但シ一分銀ヲ以テ算ス)          元価            収税
               個             円             円
  樟脳      百斤ニ付一・八〇   一、九三一、九九二・五四〇    二五、八三三・九七二
  鰑       同   一・〇五   一、二二八、七一一・九五〇    三一、二三四・三三五
  鮭及鱈     同    ・七五      七四、九六六・三四〇     三、九四九・八七五
  田作      市価百分ノ五        二〇、五四五・五八〇     一、〇二七・二七九
  諸乾魚塩魚類  同  同          二〇、六二三・一八〇     一、〇三一・一五九
               個
  海参      百斤ニ付三・〇〇     二八八、〇二一・一六〇     八、四六九・四九八
  寒天      同   二・二五     三二三、四四四・一七〇     七、四二七・五二二
  椎蕈      同   五・〇〇     五七九、七五九・九〇〇    二七、九一〇・一四四
  昆布      同    ・三〇     五六三、五〇四・五〇〇    二五、四七五・三三三
  刻昆布     同    ・六〇     一一六、一〇六・一二〇     九、七九一・一七一
  鱶鰭      百斤ニ付一・八〇      九三、六五四・六八〇     一、六八四・四七七
  鮑       同   三・〇〇     四七七、八九一・三九〇    一四、七五八・七五九
  蛤       市価百分ノ五         九、七四八・四六〇       四八七・四二二
  淡菜      同   同         三四、四四五・二八〇     一、七二二・二六四
  貝柱      同   同         八四、二九〇・四八〇     四、二一四・五二四
  諸貝類     同   同         七三、五五二・〇四〇     三、六七七・六〇二
               個
  鰕       百斤ニ付一・八〇     一九八、四〇五・三八〇     八、七〇五・六二六
  安質母尼    市価百分ノ五       三四九、九六一・五八〇    一七、四九八・〇七九
  故真鍮     同   同          一、三一七・二〇〇        六五・八六〇
  青銅      同   同        一三〇、一一〇・二八〇     六、五〇五・五一四
 - 第23巻 p.13 -ページ画像 
  故青銅     同   同            五八三・〇〇〇        二九・一五〇
  生銅      同   同      三、〇四九、七六一・四六〇   一五二、四八四・九七一
  板銅      同   同            二三五・〇〇〇        一一・七五〇
  諸熟銅類    同   同      二、三〇二、三一六・七四〇   一一五、〇六〇・六九六
  故銅      同   同          四、二二七・七四〇       二一一・三八七
               個
  鉄       百斤ニ付 ・六〇         四三一・四四〇        一八・三四七
  鉛       同    ・九〇         一七五・七九〇         九・〇〇〇
  錫       市価百分ノ五        四八、九九四・三八〇     二、四四九・七一九
  板黄銅     同   同            四二〇・〇〇〇        二一・〇〇〇
  亜鉛      同   同             一三・三四〇           六六七
  諸金属類    同   同          一、五二〇・八〇〇        七六・〇四〇
               個
  蜜蝋      百斤ニ付二・五〇      一二、六〇五・七〇〇       三一二・一一一
  木蝋      同   一・五〇     二六六、八四八・三二〇     九、八七九・八二一
  生糸      同  七五・〇〇  一三、八五九、三三八・八〇〇   五〇七、六八三・二一三
               個
  熨斗糸     百斤ニ付七・五〇   一、四四五、二七四・九三〇    三二、七七九・三一〇
  屑糸      同   二・二五   一、一二六、五七八・五九〇    一〇、九七二・二一八
  空繭      同   七・〇〇     一四四、〇二二・三八〇     二、九三二・三一五
  屑繭      同   二・二五       三、九八四・九九〇       一七六・九〇〇
  真綿      同  二〇・〇〇     一三五、一一八・一三〇     四、五四六・八六四
  屑真綿     市価百分ノ五        一四、六六八・一二〇       七三三・四〇六
               個
  蚕卵紙     百枚ニ付七・五〇       八、四三六・〇〇〇       一九〇・〇九三
  毛皮      市価百分ノ五        八二、〇一四・七四〇     四、一〇〇・七三七
  生皮      同   同         一二、三三四・四二〇       六一六・七二一
               個
  緑茶(鍋焙)  百斤ニ付三・五〇   四、七五六、九八九・五八〇   二七七、一七四・三五八
  同 (籃焙)  同   三、五〇   一、三一〇、九八〇・一五〇    七九、七三五・五〇六
  紅茶      同   三・五〇       九、一一七・九一〇       七九二・〇五二
  番茶      同    ・七五      四一、三一〇・九四〇     二、三八〇・七一〇
  磚茶      市価百分ノ五         一、〇六三・二八〇        五三・一六四
  粉茶      同   同        一四六、三七二・五二〇     七、三一八・六二六
  玉茶      同   同         六〇、八四六・四六〇     三、〇四二・三二三
               個
  葉煙草     百斤ニ付 ・七五     一二〇、一六九・四四〇     三、〇九二・二一〇
  屑布      同    ・一二     二〇一、六六九・五七〇     三、七四〇・二八七
  木材及板類   市価百分ノ五       一七四、三九一・四八〇     八、六五七・七三八
  合計            ……  三五、九四三、八六八・三七〇 一、四三二、七五三・八二六

前表ニ拠レバ我有税品ノ原価ハ三千五百九十余万円ニシテ、其税額ハ凡ソ百四十万円ナレバ税額ノ原価ニ於ケル僅々四分内外ニ過キズ、四分内外ノ税額即チ百四十万円ヲ徴収スルガ為メ三千五百九十余万円ノ物品ヲ取扱ヒ、又之ヲ売捌ク等ノ手続上ニ煩苛測ル可ラザルノ労費ヲ加ヘ、結局大ニ我製産業ヲ妨害スルハ国家経済ノ為メニ謀リテ果シテ得策ナル可キヤ、某等ノ窃ニ懸念スル所ナリ、蓋シ我政府ニ於テモ亦此ニ見ル所アリシモノヽ如ク、従来施政ノ跡ヲ見ルニ往々輸出税免除ノ方針ヲ示シタル者アレトモ、今日ニ至ルマデ断然全廃ノ盛挙ニ出テザリシハ蓋シ財政上ニ於テ已ムヲ得ザルノ故障アリシモノナラン、然ルニ昨明治二十三年帝国議会ノ開設アリ、其事ノ結果トシテ財政上頗ル釐革スル所アリタルガ為メ、此際財政当局者ニシテ鋭意輸出税全廃ヲ必要トセバ之ヲ実行スルノ余裕ナキニ非ザルハ某等ノ信ジテ疑ハザル所ナリ、蓋シ近年諸外国ノ状勢多クハ商業立国ヲ主義トシ、物産ヲ繁殖シ通商ヲ振作シ国ノ富強ヲ謀ラザルモノナク、所謂文明ノ消長モ殆ンド其巧拙ニ存スル程ノ次第ナレバ、後進我国ノ如キモノハ殊ニ心
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ヲ此辺ニ注キ、内国生産上ニ将タ外国貿易上ニ、一大障碍トモ称ス可キ彼ノ輸出税ノ如キ寧ロ他国ニ率先シテ之ヲ全廃ス可キ筈ナルニ、今尚之ヲ現存シテ先ツ我製産業者ヲ窘メ、随テ又輸出業者ヲ窘メ、其外国市場ニ於テ他ノ競争者ト対スルニ当リ、恰モ重荷ヲ負フタル馬ガ裸馬ト競走スルト一般、勝敗ノ数、明ニ我ニ不利ナラシムルハ誠ニ遺憾ニ堪ヘザルナリ、是レ某等ガ今日ニ方リ百方熟慮、輸出税全廃ノ必要ヲ感ジテ敢テ衷情ヲ吐露スル所以ナレバ、仰キ願クハ高明速ニ前陳ノ事理ヲ洞察シ、某等区々ノ微衷ヲ貫徹セシメラレン事ヲ偏ニ希望ニ堪ヘザルナリ 恐惶頓首
  明治二十四年九月四日
          東京市深川区福住町四番地
          東京府平民
                    渋沢栄一
          東京市日本橋区北島町一丁目三十六番地
          東京府平民
                    益田孝
          東京市赤坂区葵町三番地
          東京府平民
                    大倉喜八郎
          東京市深川区西元町一番地
          東京府平民
                    米倉一平
          東京市深川区堀川町二番地
          東京府平民
                    奥三郎兵衛
          東京市日本橋区亀島町壱丁目三番地
          東京府平民
                    今村清之助
          東京市日本橋区兜町四番地
          東京府平民
                    北村英一郎
          横浜市横浜弁天通弐丁目三拾弐番地
          神奈川県平民
                    田中平八
          東京日本橋区北島町弐丁目四番地
          東京府平民
                    佐々木勇之助
          東京下谷区根岸下町四百十二番地
                    益田克徳
          東京日本橋区小網町三丁目三番地
                    野中万助
          東京市京橋区銀座弐丁目十四番地
          岡山県平民
                    木村清四郎
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          東京京橋区銀坐三丁目拾八番地
                    島田□蔵
          東京市京橋区三拾間堀一丁目二番地
                    大岡育造
          東京市赤坂区赤坂田町七丁目三番地
          東京府平民
                    大倉周三
          東京市京橋区築地三丁目十五番地
          東京府平民
                    手島鍈次郎
          東京市京橋区銀坐一丁目廿番地
          東京府平民
                    橋本辰三郎
          東京市京橋区南新堀壱丁目四番地
          東京府平民
                    中沢彦吉
          東京京橋区八丁堀中町八番地
          東京府平民
                    鳥海清太郎
          東京市京橋区築地入船町八丁目壱番地
          神奈川県平民
                    馬越恭平
          東京市神田区駿河台北甲賀町四番地
          東京府平民
                    西邑虎四郎
          東京市日本橋区瀬戸物町七番地
          東京府平民
                    古河市兵衛
          東京市日本橋区堀江町壱丁目九番地
          東京府平民
                    岡本善七
          東京市深川区東元町壱番地
          東京府平民
                    串田孫三郎
          東京市深川区東大工町六番地
          東京府平民
                    岩出孝三郎
          東京市深川区清住町壱番地
          東京府平民
                    浅野総一郎
          東京市深川区佐賀町壱丁目廿四番地
          東京府平民
                    鈴木周四郎
          東京市深川区西大工町十八番地
 - 第23巻 p.16 -ページ画像 
          東京府平民
                    三野村利助
          東京市京橋区木挽町九丁目十一番地
          新潟県平民
                    梅浦精一
          東京市京橋区山下町十三番地
          三重県士族
                    岡本武雄
          東京芝区白里町四百八拾九番地
          鹿児島県士族
                    園田孝吉
          東京市麹町区内山下町一丁目一番地
                    横山孫一郎
          東京市京橋区築地三丁目一番地
                    高橋義雄
          東京市京橋区築地一丁目十二番地
          東京府平民
                    杉田幸五郎
          東京京橋区大鋸町六番地
                    喜谷市郎右衛門
          東京市日本橋区本町壱丁目九番地
                    岩田作兵衛
          東京市京橋区築地弐丁目四拾壱番地
                    雨宮敬次郎
          東京市芝区高輪南町四拾壱番地
          長野県士族
                    岩下清周
          東京市麹町区上二番町四十二番地
          東京府士族
                    関道彦
          東京市京橋区銀坐三丁目壱番地
          同府平民
                    辻久米吉
          東京市赤坂区溜池榎阪町四番地
          千葉県平民
                    渡辺享
    大蔵大臣 伯爵 松方正義殿
   ○本建議書ハ松方家旧蔵ノ原本ニヨル。原紙ハ美濃版罫紙ニシテ最後ノ紙ノ裏面ニ「経新倶楽部」ノ印アリ。
   ○輸出税全廃問題ニ就キテ本資料第十九巻所収「東京商業会議所」明治二十四年十二月十五日及ビ第二十巻所収「東京商業会議所」明治二十六年十一月二十八日ノ条ニ詳シ、両条参照。



〔参考〕東京経済雑誌 第二三巻第五六三号・第三三九―三四二頁 明治二四年三月一四日 輸出税全廃せざるべからず(経新倶楽部に於て田口卯吉演説)(DK230002k-0004)
第23巻 p.16-19 ページ画像

東京経済雑誌  第二三巻第五六三号・第三三九―三四二頁 明治二四年三月一四日
 - 第23巻 p.17 -ページ画像 
    ○輸出税全廃せざるべからず(経新倶楽部に於て田口卯吉演説)
満場の紳士諸君、私は輸出税全廃の事に関し益田孝君が兼てより熱心主張して居らるゝことを承知せる故、実は過日同君を三井物産会社に訪ひ参らせ、是非此際一運動……ヘボ政党員の口調の様だか一運動を試みられたしと請求せし処、同君は例の達者なる弁説を以てトートー私を説付けて仕舞ひ、此経新倶楽部に来りて一演説を為せよと、イヤ応なしに言ひくるめて仕舞はれました、私は青書生の前や田舎者の前に於ては随分物識顔に高慢なる事をも申し述へますか、東京に於て財産と実験とを以て並ひ賞せられ玉ふ所の諸君の前に於てナント口か開けましよふ乎、と申して頻りに益田君に断りましても、ドーしても御聞入なき故に、甚た失礼ながら清聴を汚すこととなりました
然しながら輸出税を賦課するの不条理なることは、多言を要せずして明かなる事であります故に、諸君も決して此事に関して長い御講釈を聞くことは好まれますまい、故に私は此事に関しては反りて諸君より実際の御経験を拝聴したい考で厶ります、而して玆に一つ諸君に向ひて御土産がある、其は別つのものでもありません、大蔵大臣松方伯爵の御辞であります、私は今より数年前、タシカ鹿鳴館に於て松方伯爵に拝謁せし時、丁度此時は明治二十一年に於て百余種の輸出税を廃止せられたる後の事にて、松方伯は私に向ひ「輸出税の如きは誠に恥づべく厭ふべき租税である、是非とも全廃せねばならぬものである、併しながら当今の財政の事情は未だ之を全廃することを許さゝるを以て止むを得ず暫く之を徴収することである」と語られました、松方大臣の此辞は素より私に対しての私話であります、然れども大臣に偽言なし、一たび口より出づれば最早取戻すことは出来ません、而して私はドコマデモ証人となりて、松方大蔵大臣が確かに此辞を述べられたることを公にすることを辞しません、サテ今日我政府財政の事情は如何であります乎、幸に衆議院議員諸君の御骨折に因り、歳出に於て六百五十余万円を減少し、歳入は少しも手を付けざる有様であります、去れば差引六百五十余万円程は空しく政府の金庫中に保存し置く次第となりました、勿論公債証書でも買ひ入れ利子の生ずることにはせらるるでありましよふが、当今の我邦の経済事情は決して左様な迂遠なる事を為すべき時でなきことは明々白々たることゆゑ、若し諸君に於て団結して請願せられたる場合に於ては、大蔵大臣は義理にも……否な……喜んで之を賛成し、臨時帝国議会を招集し輸出税全廃の議案を差出すことの手続を為さるゝことになるであらふと思ひます、当今輸出税の総収入は僅に百六・七十万円であります、之を六百五十万円の中より減少するも財政上何の不都合かありますか
斯く大蔵大臣の意見も財政の都合も宜しいとした処が、ヒヨツともすると外務省に於ては、輸出税全廃の事を以て条約改正の時外国人に与ふる便利の一と考へて居るかも知れません、我外務大臣は決して此の如き事は為されますまいと思ひますか、仮定《(マヽ)》めて申さば「弊邦に於て輸出税を全廃する故に貴国の物産に対し輸入税を増加することを承諾せよ」と申す様なる懸合を為さるゝかも知れません、然しながら是れは丁度我体をツネることを止めるから汝の体をツネらせて呉れろと申
 - 第23巻 p.18 -ページ画像 
す様なる事柄にて、ツネらるゝ体が違ふ故に、辛防くらべならば彼方の方か強い、彼れは必ず言ひます「御前さんは御勝手に御前さんの御体を御ツネりなさい、私の体をツネるのは御免蒙ります」と、其れのみならず試に伊太利・支那などに対して「弊邦の生糸輸出税を全廃致します故に貴国物産の輸入税を高くすることを御承諾下たされたし」と懸合ましたならば彼邦では却て「輸入税を高くする位は勘弁致しますが、生糸の輸出税を全廃する丈けはドーゾ御免蒙りたい、其訳は我我の邦にても生糸を産出して亜墨利加に輸出致しますが、幸に貴国には生糸の輸出税がある為に、弊邦の生糸製造人も大に楽を致して居ります、若し貴国に於て其輸出税を全廃されたる日には、弊邦の製糸人は非常に迷惑を感します、故にドーゾ輸入税を上ける位は耐忍しますから、貴国の輸出税全廃丈けは御免願ひます」と申して、此方にては彼に便利を与ふる考でも、彼方では迷惑を与へらるゝと思ふに相違ありません、此頃益田君が支那に綿糸を輸出せんとて、周旋せらるゝも全く之と同様であります、若し日本に於て綿糸の輸出税を全廃すると申せば、英国は決して難有いとは申しません、又銅・煙草の輸出税を廃すと申せば、米国などは決して御礼を言ひません、斯く数へ立てゝ見ると輸出税の現存するは、外国の為に我邦の物産を押へ付けて置く様な次第にて、外国にては「長く御前さんの御体をツネつて居て下ださい、ソーすると弊邦の物産が蕃殖するから」と請求するかも知れません
輸入税は何れの国民が仕払ふものなるや、輸出税は何れの国民が仕払ふ者なるやとの疑問は、経済上至難の問題にしてミルの如きも其書著ヲンセツトルド・クヱツシヨンに於て詳細に論弁して居りますが私は今ま詳細なる論弁を為すを止め、単に他に競争ある場合に於ては輸出税は本邦人の仕払ふものであると申して宜しからふと思ひます、抑も世界に各国の峙立する有様は恰も各府県の我邦に並列して居ると同一であります故に、私は今ま我内地の例を以て証拠立てましよふ、譬へば群馬県に於ては生糸に営業税を課し、長野県に於ては生糸に営業税を課さないと仮定するに、群馬県の営業税は生糸製造人が払ふより外致方はありますまい、群馬県の生糸は営業税が懸りて居るからと申しても其丈け相場を高く外国人に売ると申す訳には参りますまい、長野県の生糸は営業税を払はないからと申して其丈け安く外国人に売ることは致しますまい、生糸が同一なれば相場は同一であります、去れば伊太利・支那・仏蘭西等に生糸がある以上は、日本の生糸輸出税は日本人民の仕払ふものにして、外国人の仕払ふものでない、果して然らば前に述べたる綿糸なり、銅なり、煙草なりの輸出税は、皆な外国にも出来るものゆゑ是非とも日本人の仕払ふものである、又た茶の如きは日本特有の性質を持ちて居りて、如何にも外国人をして払はしむるかも知れされども、緑茶にして高貴なれば、結局咖啡とか紅茶にて済ますことになれば、ツマリ我製茶家の損失になるは明々白々にて、則ち日本の輸出税は凡て日本人の仕払ふものである、日本人が自分で自分の体をツネルのであると申して宜しからうと思ひます、然り而して輸出税の害は特に其金額のみでない、其輸出の時に当て一々撿査を受
 - 第23巻 p.19 -ページ画像 
ける損害と云ふものは実に夥たしきものであります、是れ皆様の御承知の所で御座ります、故に輸出税は日本人に取りては、ツネル位ではなく御灸位であらうと思ひます
斯く日本の輸出税は日本人には御灸なりと極まりし上は、此税を全廃せは其金額丈け日本人が利益を受ける訳てありましよふ、六百円の相場の生糸より三十円の輸出税を除きても、外国には矢張六百円に売れる故に、三十円は日本人の利益であります、横浜に居る外国人は幾分か其利益を受けましよふか、其れは算用に入れないでも宜しからふと思ひます、然して見れは今日の如き財政に余裕ある場合に於ては、第一に全廃してもらいたいものは輸出税であります、私は輸出税を全廃せは、間接には余程大なる利益かあると信して居りますか、其等の事は今ま暫く論せず、今日民間に於て喋々する民力休養と云ふ文字の主意に適するであらふと思ひます、私は民力休養と申す文字の意味は善く分りません、然しなから玆に百七十万円の余裕かあるから、地租を軽減する乎、輸出税を全廃するかと申せは、私は輸出税全廃論を取ります、何となれは、地租を軽減せは其貨幣は単に地主の庫中に埋まりて仕舞ふものでありますか、輸出税全廃の場合に於ては、買次商人より、製糸人より、養蚕家より、漸々と一般に及ひます、去れば地租軽減に於ては単に地主のみ利益致しますが、輸出税全廃に於ては農工商皆な利益致します、其故に私は民力休養と申す文字の意味は分りませんが、兎に角地主の様な隠居さんにやるよりは、農工商の如き働きものにやりたいと存します、故に私は地租軽減よりは輸出税全廃を主張致します
大蔵大臣も輸出税全廃論者であり、又た帝国議会議員諸氏も不同意なき様に聞き及ひます、而して当会諸君も御同意である以上は、是より以上は唯々政府をして之を実行せしむるの一刺撃を与ふることか必要であります、其刺撃には当会諸君が最も適当でありましよふ、若し当会諸君にして一たひ此建議書を政府に出たされた日には政府は必す喜て嘉納せらるゝであらふ、私は生糸織物の物産地には随分友人も御座りますか、皆な輸出税全廃論には賛成であります、故に若し諸君にして一たひ運動せられたならは、海内翕然響応いたすでありましよふと思ひます、終に臨み一言致しますか、斯く輸出税全廃の理由は誠に簡単にして唯々一言に「コンナ不条理の租税は速に御止め下さい」と云ふ丈けで宜しき程のものでありますか、其結果は極めて大なるものにて、我日本帝国か今日の儘にて百年を経過するのと、之を全廃して百年を経過するのとは、百年の後に至り物産の発達殷富の増加の上に幾何の差を生しましよふか、偏に諸君か日本帝国の繁栄の基礎を立るに尽力せらるゝことを希望いたします



〔参考〕東京経済雑誌 第二四巻第五九一号・第四六一―四六二頁 明治二四年九月二六日 経新倶楽部輸出税全廃論を献議す(DK230002k-0005)
第23巻 p.19-20 ページ画像

東京経済雑誌  第二四巻第五九一号・第四六一―四六二頁 明治二四年九月二六日
    ○経新倶楽部輸出税全廃論を献議す
輸出税全廃論は今まや実業者の熱心主張する所となれり、先きに此事に関し愛媛県下宇和島青年倶楽部・岐阜商業会議所等より献議ありしか、今まや東京の紳商より組織せる経新倶楽部は松方大蔵大臣に向ひ
 - 第23巻 p.20 -ページ画像 
て献議するに至れり、思ふに今後各地より献議するものも又た少なからざるべし、余輩は我実業家が此の如き国家重大の問題に尽力せらるるを謝するなり、蓋し今日我邦の事情を以て世界の諸強国に比するに唯々欠けたる所一あるのみ、曰く外国貿易の微少なること是なり、人口は四千万人あり以て大国たるに適せり、地勢は温帯にあり、地味は豊饒なり、以て富国たるに適せり、唯々外国貿易未だ振はざること是れ最大欠点なり、今まや諸港湾皆な不便なるのみならず、之に加ふるに輸出税なる人為の妨害を以てし、益々物産をして外国物産と競争する能はざらしむ、是れ豈に歎ずべきことならずや、之を是れ改めざれば我邦到底富強を以て外国と競争する能はざるなり、然るに今まや民間には政党論や地方論の行き掛りありて、政党の領袖をして此の如き重大の問題に注目せざらしむるは如何にも残念なる次第と云ふべし、政党論は政党論なり、地方論は地方論なり、十分気長に争ひ玉ひて可なり、唯々輸出税の如き至急至要の国家問題を之か為に放擲するは余輩が国士に望む所にあらざるなり、然るに今まや経新倶楽部の諸氏は率先して此事を献議し、我邦の経済事情をして大に改良するあらしめんとせらる、是れ余輩深く賛成する所なり



〔参考〕聯合紡績月報 第二三号・第二七頁 明治二四年三月二五日 【左に載するは本月十一…】(DK230002k-0006)
第23巻 p.20 ページ画像

聯合紡績月報  第二三号・第二七頁 明治二四年三月二五日
左に載するは本月十一日東京中洲枕流館に於て開きたる経新倶楽部例月会の席上に於て、田口卯吉氏が輸出税全廃に関して演説せし処の筆記なりと去十三日発兌の中外商業新報に掲けたるものなり、因に記す目下滞京中の本会理事岡田令高氏にも地方会員として加盟し同例月会に出席したる由にて、近便に其概況を報し越したるに、右輸出税の廃止ハ同会員も至極同意する所なれバ此議ハ追て其筋へ建議若くハ請願せんとの事に決し、直ちに委員を選挙せしに、渋沢栄一・益田孝・大倉喜八郎・園田孝吉・関直彦の五氏当選し、尚ほ渋沢氏の発議にて田口卯吉氏を相談役に、高橋義雄・木村清四郎の両氏を補助役に指定したるに何れも承諾あり、之より運動に取掛る事となりたる由
    ○輸出税全廃せさるへからす ○略ス