デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

1章 社会事業
1節 養育院其他
1款 東京市養育院
■綱文

第24巻 p.69-75(DK240005k) ページ画像

明治12年8月18日(1879年)

是ヨリ先、当院経費ハ地方税ヲ以テ支弁セラルルコトニナリ、七月事務章程ヲ改正セシガ、是日、従来当院事務長タリシ栄一、改メテ当院院長ト称スルコトトナレリ。


■資料

養育院六十年史 東京市養育院編 第一七七―一八七頁 昭和八年三月刊(DK240005k-0001)
第24巻 p.69-73 ページ画像

養育院六十年史 東京市養育院編  第一七七―一八七頁 昭和八年三月刊
 ○第三章 東京府営時代
    第一節 院内事務分掌の制定
 養育院が会議所の経営を離れて、東京府直営となりし際、職制上の変更したるものは、事務長に渋沢、事務副長に西村両名の任命されたことが主要の件で、他は大体その儘踏襲されたが、明治十二年七月に至り、事務章程及事務長以下の改称等が行はれた。
                        養育院
 其院事務長以下改称及ひ本庁に稟請して後処分すへき件々左の通相定候条此旨相達候事
  但し院内事務分掌等の細目取調の上可伺出事
  明治十二年七月一日     東京府知事 楠本正隆
 一、院長    一員
    院内一切の事務を管理す
 一、幹事    一員
 一、副幹事   一員
    院長を輔け諸般の事務を弁理す、院長不在の時は代理の任を受く
 - 第24巻 p.70 -ページ画像 
 一、書記    定員なし 月給金参拾円以下
    院長の指揮を請け庶務を分掌す
      本庁に稟請して後処分すへき件々
 一、院内の経費を予算し一歳の常額を定むる事
 一、窮民入院者の数を予定する事
 一、営繕其他常額外に渉る費用の事
 一、新たに工業を起す事
 一、臨時賞与並慰労金を給与する事
 一、月給金拾円以上の者雇入の事
   前条に記載せさる件々は先例により難く、特別の処分を要する者を除くの外便宜処分して開申するを得へし
これにつき渋沢事務長より、左の通り上申して裁決を得た。
    養育院事務章程之儀に付上申
 今般御達之旨も有之候に付養育院事務章程取調候処、別紙之通り御改置相成候様仕度此段上申仕候也
  明治十二年七月七日
               養育院事務長 渋沢栄一
    東京府知事 楠本正隆殿
(朱書)
 第一万千四百三十二号
 書面上申之趣聞置候事
  明治十二年七月十六日    東京府知事 楠本正隆
(別紙)養育院分掌事務章程
      幹事
 一、府庁へ伺又は上申すへき事件は、其草案を作り院長の指揮を受くへき事
   但し府庁へ伺届の類は事の軽重を問はす概して院長の名を署し其他往復に係る者は院名を用るも妨けなし
 一各掛より差出す処の書類及ひ諸表を調査し、院長の指揮を受けて或は之を府庁へ上申し、或は之を留置きて順次編輯する事
 一、院務に係りて他向との往復書等は総て其草案を作りて院長の指揮を受け、事済の件は其書類を整頓する事
 一、院長の考案に従て諸法案文書を作為する事
 一、府庁より院長へ御用談にて出頭の命ある節病気又は不得止事故あれは代理として出頭する事
 一、院長の代理として臨時院中の事務を点検する事
 一、院内一切の事務を担任し工業上の得失を査察し及会計出納の事を調理する事
 一、院内各掛より仕出す所の廻議書及諸計表類は都て検印の上院長の指揮を受くる事
 一、院務に付他向との応接を為す事
 一、諸掛り諸雇人の取締を為し其分掌事務を指揮する事
 一、院内模様を詳明して常に入院窮民を監視する事
     書記分掌
 - 第24巻 p.71 -ページ画像 
      庶務掛
 一、入院を得へき窮民の数を予定し院長に申告する事
   但し入院者の数を定むるは定額常費の模様によりて斟酌するを要す
 一、窮民を入院せしむるは必す府庁より許可せられたる指令を認めて之を取扱ふ事
 一、窮民出院の時は、本人の親戚又は身寄の者の願書に郡区役所添書を得て本人引渡方をなす事
   但し本条の人員調書は一ケ月毎に取纏め院長に出して府庁へ届くる事
 一、蓄積金拾五円に満ちたる窮民又は其高に満たさるも略独業成るへきと認める者は、本人の親戚身寄を呼出し出院を為さしめ、其趣を郡区役所へ通知する事
   但し書同断
 一、窮民新たに入院する時は授業掛りに通知し相応の業に従はしむる事
 一、窮民疾病に罹る時は医師の治療を受けしむる事
   但し長病大患と診断の者は、府病院に送致し、治療を受けしむる事
 一、施入金を各郡区役所より廻送し又は施入者より納付する時は領収証を相渡し、之を工業資本と為し物品及金銭を出納掛りへ指廻す事
   但施入の金高・物品・住所・姓名を記し、無名の者は某と記載し、一ケ月毎に取纏め院長に出して府庁へ届くる事
 一、窮民病死すれは医師の診断書を添へ直に郡区役所に通知し(変死は警察官の検視を得)本人の親戚身寄の者より其郡区役所の添書を得て死体引渡方を為さしめ、又は院内に於て埋葬する等都て出納掛に通知して之を取扱ふ事
   但本条の人員調書は一ケ月毎に取纏め、院長に出して府庁へ届くる事
 一、窮民の戸籍簿を整理する事
 一、院中所要の印章を管守する事
 一、当直交番の順次を定むる事
 一、施入者の姓名並金銭・物品を掲示し又は新聞に広告する事
   但掲示を望まさる者は之を掲示せさるへし
 一、予て火災非常に備ふる方法を設くる事
 一、祭祝並臨時休暇及ひ昇降時間を各掛へ通知する事
 一、府庁の諸達書を各掛へ廻致する事
 一、窮民の増減明細表を作り毎月院長に出して府庁へ届くる事
 一、童幼の輩を教育し、満十歳已上の者半日授業掛に通知し工業を為さしむる事
   但し教育方は勉て卑近切実の学則に従ふへし
 一、童幼教育に就て諸器械を要する時は其価を取調へ院長の認めを得て出納掛に指廻す事
 - 第24巻 p.72 -ページ画像 
 一、学舎の物品及ひ其遣払を詳明する事
 一、病者に係る一切の事を取扱ふ事
   但医員と協議を為すへし
 一、薬室の事を整理する事
 一、病者に就て薬餌又は諸器機を買入るには其物品代価を取調へ、院長の認めを得て出納掛に指廻す事
 一、看護人の勤惰を監督する事
   但し毎日看護人の員数を調査し一ケ月毎に出納掛へ報知すへし
 一府庁へ上申届書等総て指廻す事
      出納掛
 一、定額臨時費共院中の一切の出納を取扱ふ事
 一、院内修繕は其箇所・金高を取調へ、院長の指揮を受けて府庁の伺を経へき事
 一、院内諸器物を管理する事
 一、各掛所用の物品を支弁する事
 一、窮民稼業の蓄積金を取纏め、壱名毎に詳記し駅逓局貯金掛に預け、其額壱名金拾五円に満れは庶務掛に通知する事
 一、施入の金銭を庶務掛より指廻せは之を工業資本金となし、其出入を詳明にする事
 一、院内の掃除及ひ構内外の草取等を管理する事
 一、各掛に於て新規物品を購求し又は工業器械及ひ元品を買入れの節は、必す院長の認を得る事
   但し院長の認めなきは一切払方を為さゝるへし
 一、窮民の被服を調製する事
   但裁縫補綴とも渾て院内にて之を行ふを要す
 一、施入の物器を窮民に分与し又は庶務掛に協議し後日の蓄へと為す事
 一、工業に就きたる窮民稼高より生する利益金十分の一は工業費に充て之を積立、其十分の六は其者の積金として之れか増殖を謀り十分の三は授業掛に廻致する事
 一、死亡の窮民埋葬の節は、庶務掛より墓地への通知書を得て死体引送を為す事
   但庶務掛の通知によりては死体を其親戚身寄の者へ引渡すへし
 一、門鑑及役付窮民を監督する事
 一、日計年計等の総勘定表を調製し院長に出して府庁へ届くる事
 一、区入費を出す事
 一、授産日課表を一ケ月毎に授業掛より指図せは其簿記を詳にし、且つ其月表を調製し院長に出して府庁へ届くる事
 一、府庁へ上申すへき書類及ひ金銭受取書総て幹事へ指廻す事
 一、役員及ひ雇人一覧表を調製し院長に出して府庁へ届くる事
 一、工業資本金は幹事を経て第一国立銀行に預け其利子を生せしむる事
 一、授業掛日給及ひ工業に関する金銭は都て工業資本金及利金より支出するにより、毎月取調は別段出納表を製し幹事に出し金銭受
 - 第24巻 p.73 -ページ画像 
取納を為す事
 一、授業掛日給は毎月十五日と月末の両度に支給すへき事
      授業掛
 一、授業掛は院長との約束を以て日給を以て雇入れ、専ら工業上の事務に任するものとす
 一、窮民に適応自活の工業を授くる事
 一、新たに工業を始むるには其費用と得益を計較し、明細なる調書を以て院長に出して其指揮を受くる事
 一、授業の為めに傭役する傭人の能否勤怠を監督する事
 一、工業の所得金は他へ出稼の者も総て其都度出納掛に廻致する事
 一、毎月窮民の稼高を取調へ、其十分の三は出納掛より受取稼人に付与する事
 一、工業日課表を作り、一ケ月毎に稼高仕上け表及損益比較表を調製し、出納掛へ指廻す事
 一、工業に就て器械又は元品を買入るには其物品並代価を取調へ、院長の認を得て出納掛へ指廻す事
 一、授業掛の日給は工業資本金より之を給すと雖も、其工業得益の模様によりては相当の賞与あるへし
右改定に付、渋沢事務長より左の通り通達された。
  今般御達の旨も有之候に付、養育院事務章程府庁へ相伺別紙の通り相定候条、此段及通達候也
   明治十二年七月十九日  養育院事務長 渋沢栄一
    養育院御中
八月府より左の達しがあつた。
                        養育院
 其院、事務長を院長と改称し、其他掛員左の通改置候条、此旨相達候事
    院長               壱員
    院長附書記  月給五拾円已下   壱員
    幹事     同         壱員
    庶務掛    月給弐拾五円已下  定員ナシ
    出納掛    同         同
    授業掛    院長限雇日給適宜  同
かくて渋沢事務長は院長と改称さるゝに至つた。
  事務長儀本日より院長と改称相成候間、此段及御通達候也
   明治十二年八月十八日   養育院幹事 坂本源平
    養育院御中
○下略


新聞集成明治編年史 同史編纂会編 第四巻・第九二頁 昭和一〇年六月刊(DK240005k-0002)
第24巻 p.73-74 ページ画像

新聞集成明治編年史 同史編纂会編  第四巻・第九二頁 昭和一〇年六月刊
  渋沢栄一東京市養育院長となる
    事務章程改正
〔八・一九 ○明治一二年郵便報知〕昨日養育院事務長渋沢栄一氏を始め外一
 - 第24巻 p.74 -ページ画像 
統府庁へ御用召にて出頭せしに、兼て同院より伺出し事務章程を本日より改正すべき旨申渡され、渋沢栄一氏を院長に、坂本源平氏を幹事に飯田直之丞氏を副幹事に、其他書記を拝命せし者四名、授業掛を申付られし者三名、此授業掛は日給雇にて授業の利益金の配当を賜る趣なり、又芝の瓦斯局も同様改正相成り、事務長・幹事は前の人々が兼勤、副幹事は筒井与八、其他庶務書記等は在来のまゝなりと云ふ。


法令全書 明治一一年 内閣官報局編 第一六―一七頁 明治二三年九月刊 第十九号(太政官布告 明治十一年七月二十二日輪廓附)(DK240005k-0003)
第24巻 p.74 ページ画像

法令全書 明治一一年 内閣官報局編  第一六―一七頁 明治二三年九月刊
○第十九号(太政官布告 明治十一年七月二十二日輪廓附)
従前府県税及民費ノ名ヲ以テ徴収セル府県費・区費ヲ改メ更ニ地方税トシ、規則左ノ通被定候条此旨布告候事
第一条 地方税ハ左ノ目ニ従ヒ徴収ス
○中略
第二条 営業税・雑種税ノ種類及制限ハ別段ノ布告ヲ以テ之ヲ定ム
第三条 地方税ヲ以テ支弁スヘキ費目左ノ如シ
○中略
 一病院及救育所諸費


東京府史 東京府編 府会篇第二巻・第二三―四一頁 昭和五年五月刊(DK240005k-0004)
第24巻 p.74-75 ページ画像

東京府史 東京府編  府会篇第二巻・第二三―四一頁 昭和五年五月刊
 ○第四章 第二節 明治十二年の府会
    通常府会
 本会は、明治十二年三月二十日午後五時開会、開議すること通じて三十日に及び、同年五月八日午後二時十分を以て閉会した。
○中略
二明治十二年度予算の説明
 銀林一等属は知事代理として、予算の大体に関して次の説明を試みた。
 「右予算経費ノ内ニ明治十年度ニ比較シテ増減アル分養育院費・商法講習所費ノ二項ハ共有金及道路地先ハ地主出金ヲ以テ支払タリ、此二タ口併セテ弐万八千七百七円ハ、十二年度ニ於テハ之ヲ廃シテ地方税ヨリ支弁スル積ナリ
○中略
    明治十二年度中主ナル費目

図表を画像で表示明治十二年度中主ナル費目

   科 目       予算額      十五区六郡   割受額  ○上略                       円                  円    一一、六三四 十五区地方税支弁 救育費ノ内 養育院費  一四、七二六   内                        三、〇九二  六郡地方税支弁  ○下略 


○中略
議決摘要
○中略
一金壱万四千八百七拾八円        救育費
(修正)金壱万六千百七拾八円
 - 第24巻 p.75 -ページ画像 
 (原案説明) 内訳ヲ挙クレハ金一万参千四百弐拾六円養育院費・金千四百五拾弐円棄児養育費ノ二項ナリ、養育院ノ詳細ナル沿革ハ他ノ記述ニ譲ルモ、寛政度老中松平定信江戸ノ市政ヲ改革シ同元年ヨリ三年迄ニ金四万両ヲ剰スノ計算ヲ得タルニ依リ、其一分ヲ町内ニ積ミ臨時ノ備トシ、其二分ヲ地主ニ返シ与ヘ、其七分ヲ町会所ニ積立ルヲ恒例トセリ、是即チ七分金ノ濫觴ナリ、七分金ハ主トシテ貧民恤救並非常時ニ於ケル救助ニ充テタリ、明治三年以来該金ノ積立ヲ廃シタルモ残余金多キヲ以テ之ヲ旧東京会議所ニ委託シテ旧ニ依リ賑恤救済ヲ実行セシメタルニ、明治五年市中乞丐ノ徒ヲ上野護国院ニ集メ之ヲ救助ス、是養育院開設ノ始ナリ、爾来明治十一年迄前記七分金ノ残余金ヨリ生スル利子ヲ以テ養育院ノ経費ニ充テタルモ地方税規則・府県会規則ノ施行セラレタルニ依リ、之ヲ本府ノ管理経営ニ移シ十二年度ノ予算ヲ編成セル所以ナリ、棄児養育費ハ従前民費支弁ノ振合ヲ参酌シテ予算ヲ計上セリ
 (修正理由) 養育院収容人員凡六十人を増シ之カ費用ヲ見積ルニ由ル(議員鳥山貞利動議)
○下略