デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

2章 国際親善
2節 国際団体及ビ親善事業
2款 日露協会
■綱文

第25巻 p.472-473(DK250027k) ページ画像

明治41年10月7日(1908年)

是日、当協会主催ロシア特命全権大使マレウヰチ(Senateur Nicolas Malewsky Malewitch)歓迎晩餐会、芝公園内紅葉館ニ開カレ栄一、之ニ出席ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四一年(DK250027k-0001)
第25巻 p.472 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四一年     (渋沢子爵家所蔵)
十月七日 曇 冷
○上略 夜七時紅葉館ニ抵リ、日露協会ノ催ニ係ル露国大使歓迎会ニ出席ス、花房氏 ○義質ヨリ大使ニ対スル歓迎ノ詞アリ、大使之ニ答ヘ、後共ニ杯ヲ挙テ万歳ヲ祝シ、夜十時散会帰宿ス


時事新報 第八九八六号 明治四一年一〇月九日 露国大使歓迎会(DK250027k-0002)
第25巻 p.472-473 ページ画像

時事新報  第八九八六号 明治四一年一〇月九日
    露国大使歓迎会
日露協会は、七日芝紅葉館に於て露国大使マレウヰツチ氏の歓迎会を開けり、午後六時露国大使は書記官カザコフ・公使館附大佐サモイフ総領事ゲロツセ氏等と共に来会、小村外相・後藤逓相・尾崎市長・松尾日銀総裁・高橋副総裁・渋沢男・石井外務次官・倉知・荻原両局長添田・早川の諸氏、其他会員六十余名の出席あり、先づ露国の慣習に倣ひ、本宴会を開くに先ちザクースカとて態々露国より取寄せたる露酒露肴に依る立食の宴会を開き、終つて一同本席に着するや、榎本会頭病気欠席の為め花房子代り立ちて左の挨拶を為したり
 大使閣下・来賓閣下、今や日露両帝国間の友交は、恰も是れ豪雨全く晴れ長空一碧半点の雲翳を留めざるが如く、日に月に和好輯睦に赴き、通商貿易上の福利も亦歳月を逐うて益々増進するの徴あり、此時に当り賢明なる大使閣下の蒞任を見る、是れ真に順潮更に満帆の薫風を得たるものにして、某等豈に満腔の熱誠を捧げて之を歓迎せざるべけんや、大使閣下・来賓閣下、備ふる所の酒肴甚だ佳ならずと雖も、幸に此微意を容れ、暢飲以て歓を尽さん事を希ふ
之に対し露国大使は、左の如き演説を為し、主客互に両国陛下の万歳を三唱し、手踊・手品等数番の余興あり、一同歓を尽して、十時頃散
 - 第25巻 p.473 -ページ画像 
会したり
      露国大使の演説
 会長閣下、並に諸君、私は当日露協会の懐抱する崇高の目的に満腹の同情を濺ぐものであります、此協会の名誉会頭として不肖を選定せられたる事に就て、玆に最も厚き感謝を表するは私の最も愉快なる一義務と信じます、諸君の題目とせらるゝ所は、経済的並に精神的に日露両国を接近せしむる事でありまして、此理想の実現によりて両国の亨受する利益は、蓋し僅少ならずと思ひます、此理想の実現に依りては相互の敬意を鞏固にし、政治的結合を堅牢ならしむるのであります、平和的労力の産物、及び豊富なる天産物を相互に交換する事は、過日締結したる日露諸条約の基礎を為せる「一致と信用」てふ原則に、生命を附与すべき最良手段となるものであります此尊敬すべき協会が斯る方針に依て行はるゝ所は、真に愛国事業なのであります、私は諸君が第二の目的とせらるゝ日本には露国を知らしめ、又露国には日本を知らしむる事、並に旦露両語を普及する事に依り、日本と露国とを精神的に接近せしめんとするは、是れ亦必要と認むるものであります、若し日本にして露国を知ること不十分なりと云はゞ、残念ながら露国の日本を知ること一層浅しと言はざるを得ず、此原因たる恐らく彼我両国の言語が困難なるに帰するかと思はれます、而して相識らん事は親密なる結合を作る為め、及び有らゆる条約よりも強固なる精神的一致の基礎を造るものであるからして、私は当協会に深く賛成する次第であります、此故に私は当協会の十分なる進歩を望み、又此年若き協会が年と共に益々発達して、愈々大なる効果を挙げられんことを希望致します、私に思ふ所を遺りなく述べんとするには尚ほ数言を費して、会長閣下並に諸君に対し此無上の宴会に鄭重なる御招を辱ふしたる事、並に熱情を籠めたる御待遇に就て熱心なる感謝を表する事を必要と思ふのであります、殊に私の愉快に感じまするのは、諸君が日本の風習に依りて御待遇下されたる事であります、私は麗はしき貴国に来てから日尚浅きも、三月間に於て何や彼やを見物し、貴国の絵の如き麗はしき自然の風色、人民の質樸なること、労働を好むこと、忍耐強きこと、温和なること、日本古有の衣服の優美なることに心酔しましたのであります、終りに臨み榎本会長の病気の為め御出席なきは甚だ遺憾に感ずる所でありますが、一日も早く御恢復の上、十分に本会の為に尽力せられんことを望みます