デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治41年8月（1908年）

是月、東京市及ビ東京市教育会ノ合議ニ依リ、通訳・店員・事務員等ノ養成ヲ目的トシテ当校ノ開設セラルルヤ、栄一、嘱ヲ受ケ名誉顧問ト為ル。

竜門雑誌　　第二四三号・第三九―四〇頁　明治四一年八月
○実業夜学校《（用）》の設立　東京市及市教育会合議の上にて計画中なりし実業夜学校は、愈々市教育会附属として開設する事とし、名誉顧問として金子会長・青淵先生・和田事務総長・阿部知事等を推薦したるが、同校は予科六箇月・本科一箇年半・専攻科一箇年の年限にて、年齢十四歳以上高等小学校卒業程度の子弟の、実務に従事せんとする者に須要なる教育を施すを以て目的とし、科を分ちて通訳養成科・店員養成科・事務員養成科の三科とし、入学料二円・授業料一円五十銭なりと云ふ

東京教育雑誌　　第二二四号・第二九―三〇頁　明治四一年一一月
　　　　○東京市実用夜学校
東京市教育会に於て計画中なりし実用夜学校は、愈本月十五六日頃より神田区順天中学内に於て開校することゝなり、校長には尾崎行雄氏を推し、生徒募集に着手せり、同校は外国人向店員・ガイド・事務員の養成を主とし通訳部・店員養成部・事務員養成部に分ち、各部とも予科・本科・専攻科の三科あり、入学規定如左
　一、予科は十四才以上の小学卒業者（修学期六ケ月）
　二、本科は十五才以上
　　中学三年級修了又は予科修了者（修学期一年半）
　三、専攻科中学卒業生若くは本科修了者（修学期一年）
　四、入学金二円、授業料一科目壱円五十銭
　五、願書は東京市役所内東京市教育会宛

東京教育雑誌　　第二二二号・前付　明治四一年八月
　　　　東京市教育会附属私立実用夜学校生徒募集広告
日露戦役の終りを告ぐるや、或は観光に或は研究に、欧米人の我か邦に渡来する者頓に増加せり、殊に明治四拾五年には我か邦空前の事業とも謂ふべき世界的大博覧会の開設せらるゝあれば、之を機として漫遊を試むる者今日に幾百千倍するや必せり、此の時に当りて欧米の風俗・慣習・礼法に通じ、外国語に堪能なる通訳・ガイド及店員に欠乏せんか、大博覧会場に於ては出品物其他に就て詳細なる説明を与へ、以て外客に満足を得しむること難かるべく、商店に於ては巧妙に外国語を操りて顧客に接し、之に便宜を与ふること能はさるべく、名勝・旧跡・遊覧場等に遊ぶ外客は宛然聾唖者の旅行に等しく、渡来の目的の大半は没却せられ、倉皇行李を収めて、永く我が邦に止まらざるやも亦知るべからず、此の如きは啻に我が邦の品位体面に関するのみならず、経済上に及ぼす所の影響も亦頗る大なるべきを信ず、蓋通訳・ガイド・店員等の養成は、大博覧会開設に対する準備として急務中の最大急務に属し、本市々民の一日も忽せにすべき所に非ざるや論なきなり、本会玆に見る所あり、私立実用夜学校を設立し、実用と速成とを旨とし主として英語会話・欧米の風俗・慣習・礼法等を教授し、大博覧会開会期前に於て最良なる通訳・ガイド・店員を養成し、以て通訳ガイドは勿論、大博覧会会場の監視人・警視庁・鉄道会社、其他各
 - 第26巻 p.822 -ページ画像 
会社・各商店等苟も英語会話に堪能なる者を要するものゝ需用に応ぜんことを期せり
本会は又事務員養成の必要を認め事務員養成科を設置し、実用的に市区吏員又は普通文官受験の基礎となるべき学力を養成し、以て官署又は銀行会社の事務員に適任者を供給せんことを期せり、因に云ふ本校の教授は外国人及び多年外国に留学して彼の国情に通暁せる学者主として之に当り、且夜学教授となして入学者の昼間の事務に支障なからしめ、又卒業生の採用に関しては本会の有するあらゆる便宜を利用し以て特別の方途に出でんことを期すべし、入学希望の向は本会事務所に申込まるべく、学則を要する方は郵券弐銭を添へて請求せらるべし
　　明治四十一年八月
　　　　　　東京市麹町区有楽町二丁目一番地東京市役所内
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市教育会

東京教育雑誌　　第二二二号・前付　明治四一年八月
　　　　東京市教育会附属私立実用夜学校略則
第一目的及教科（一）　本校ハ通訳・ガイド・商店々員・事務員等実務ニ従事セントスルモノニ須要ナル教育ヲ施スヲ以テ目的トス
（二）　本校ニ通訳養成部・店員養成部・事務員養成部ノ三部ヲ置ク、各部ニ予科・本科・専攻科ヲ置ク
　一　通訳養成部ニアリテハ会話ヲ主トシ、英文読法及訳読、英文法英文和訳、和文英訳、地理・歴史ノ大要、泰西ノ礼式・慣習、其他通訳並ニガイドタルニ必要ナル事項ヲ教授ス
　一　店員養成部ニアリテハ商業会話ヲ主トシ、英文読法及訳読、英文法、簡易ナル英文和訳並ニ和文英訳、泰西ノ礼式慣習、其他店員タルニ必要ナル事項ヲ教授ス
　一　事務員養成部ニアリテハ事務員タルニ必要ナル普通学、法制経済ノ大要、会話、英文読法及及訳読、英文法、簡易ナル英文和訳並ニ和文英訳等ヲ教授ス
第二修業年限学期及休業日（三）　本校ノ修業年限ハ予科六ケ月、本科一ケ年半、専攻科一ケ年トス
（四）　学年ヲ分ツテ二学期トス
（五）　本校ノ休業日ハ祝日・大祭日・日曜日・夏期休業（八月一ヨリ三十一日マデ）冬期休業（十二月廿日ヨリ一月八日マデ）トス
第三毎週教授時間（六）　予科・本科及専攻科ノ毎週教授時数ハ十二時間トス
（七）　授業始終ノ時間ハ毎日午後六時ヨリ同八時迄トス、但シ時宜ニ依リ変更スルコトアルベシ
第四入退学（八）　入学期ハ各科学期ノ始メトス、但欠員アルトキハ臨時入学ヲ許スコトアルベシ
（九）　予科ニ入学シ得ルモノハ、年齢十四歳以上ニシテ高等小学校卒業又ハ之ト同等ノ学力アルモノニ限ル、本科ニ入学シ得ルモノハ年齢十五歳以上ニシテ中学三年級修了程度以上ノ学力アルモノ、又ハ予科卒業者ニ限ル
 - 第26巻 p.823 -ページ画像 
専攻科ニ入学シ得ルモノハ、本科又ハ中学卒業以上ノ学力アルモノニ限ル
（十）　入学志望者ハ入学願書ニ学業履歴書ヲ添附シ本校事務所ニ申出ツベシ（雛形略ス）
（十一）　入学ノ許可ヲ受ケタルモノハ在学証書ヲ差出スベシ（雛形略ス）
（十二）　退学セントスルモノハ証人連署ヲ以テ願出ツベシ
第五入学料及授業料（十三）　入学者ハ在学証ニ添ヘ入学料金弐円ヲ納付スベシ
（十四）　各科授業料ハ各一ケ月金壱円五拾銭トス
（十五）　授業料ハ出席ノ有無ニ拘ラズ毎月三日迄ニ其月分ヲ納付スヘシ、但一時ニ数月分ヲ前納スルヲ妨ゲズ
（十六）　十六日以後ニ入学スルモノハ其月ニ限リ授業料ヲ半減ス
（十七）　既納ノ授業料ハ如何ナ事故アルモ還付セス