デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

4章 教育
2節 女子教育
2款 日本女子大学校
■綱文

第26巻 p.912-915(DK260168k) ページ画像

明治41年9月16日(1908年)

是ヨリ先当校ニテ大学拡張ノ一方法トシテ、当校桜楓会ニ女子通信教育会ヲ設ケ「女子大学講義」ノ発刊ヲ計画シ来リシガ、是日其計画ヲ発表セントシ、都下各新聞・雑誌関係者ヲ当校ニ招キ披露会ヲ催ス。栄一之ニ出席シ演説ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四一年(DK260168k-0001)
第26巻 p.912 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四一年     (渋沢子爵家所蔵)
九月十六日 曇夜雨 冷
○上略 午前十時女子大学ニ抵リ、講義録発刊ノ事ニ関シ、各新聞紙社ノ人々ヲ会シ、校長ト共ニ一場ノ演説ヲ為ス、畢テ午飧ヲ共ニシ ○下略


竜門雑誌 第二四四号・第七一―七二頁 明治四一年九月 ○女子大学の通信教授(DK260168k-0002)
第26巻 p.912 ページ画像

竜門雑誌  第二四四号・第七一―七二頁 明治四一年九月
○女子大学の通信教授 日本女子大学校にては、本月十六日午前十時より目白同校内豊明館に都下の新聞雑誌並に通信に関係ある人々を招待し、明治四十二年四月より同校桜楓会に女子通信教育会を設け、高等女学校三・四年以上の程度に於て通信教授を為す為め、講義録を発行することを公表し、校長成瀬仁蔵氏先づ一場の挨拶を為し、次に青淵先生にも亦一場の演説を為され、次に森村市左衛門氏簡単なる演説を為し、最後に箕浦勝人氏祝辞を述べたり、夫より家庭科生徒の調理に成る洋食の饗応あり、終て校内各部巡覧の上、午後三時頃各員退散したりと云ふ
   ○演説筆記欠ク。
 - 第26巻 p.913 -ページ画像 


家庭週報 第一五八号 明治四一年九月二六日 日本女子大学校記事(DK260168k-0003)
第26巻 p.913 ページ画像

家庭週報  第一五八号 明治四一年九月二六日
    日本女子大学校記事
  ○「女子大学講義」発刊及其の披露会
 兼て本誌上に掲ぐる所ありし如く、本校に於て、唱道せる大学拡張(ユニヴアーシティー・エキステンション)の第一着手として、桜楓会に於て女子通信教育会を設け、来る四十二年四月より「女子大学講義」を発刊する筈なるが、右に就き其の計画を発表し、且つ広く識者の意見を叩かん為め、去る十六日午前十時より都下の主なる新聞雑誌記者を招待し、披露会を開催したり、席上成瀬校長は先づ別項記載の如き挨拶をなし、それより本校財務委員渋沢男爵・同森村市左衛門両氏は「本校が今日の発展を見るに至れるは、成瀬校長が熱誠に由るは勿論なれども、亦本校を以て全く我が事の如く熱心に苦心助力せらるゝ人々のあるあり、又江湖に厚き同情を寄せらるゝありて斯くの如きを得たるものと信ず、今会々大学拡張事業を開始するの時機に遭遇せり願くは今後益々本校の精神を発揮するに至らん事を」云々。次に簑浦勝人氏は、来賓を代表して、次の意味を述べられたり
○中略
 それより生徒の調理になれる午餐に移り、校内の実況を隈なく巡覧に供して、午後二時頃散会したりき。


家庭週報 第一五八号 明治四一年九月二六日 女子大学講義発行の趣旨(DK260168k-0004)
第26巻 p.913-915 ページ画像

家庭週報  第一五八号 明治四一年九月二六日
    女子大学講義発行の趣旨
教育が教室内に固定し訓化の校外に及ぶもの無きは、是れ実に我が国教育の欠陥なり。抑も我日本女子大学校は設立日尚浅しと雖も、既に家政・文学・英文・教育の四大学部を開き、附属として高等女学校・小学校・幼稚園を置き、設備漸く整ひ基礎亦鞏固を加へ来り、其卒業生は大学部にて七百名、高等女学校にて五百名を算し、其団体たる我桜楓会は内部の事業稍々其緒に就き、将来発達の素地略々成れるに至れり。即ち玆に本校当初の方針に従ひ、大学拡張運動の端緒を開いて教育の努力を社会家庭に向つて試みんと欲す。今や女子教育振興の結果として、中等教育を卒ふる所の女子、年々無慮八千に上り、尚進んで高等教育を受けんとする者も亦少なからず。現に我日本女子大学校の如き、部により級によりては、満員を告げて謝絶せざるを得ざるの事実を示し、学資補給の方法に関する地方よりの問合も、亦頗る多し思ふに幾多女子の中には、四囲の事情に束縛せられ、悶々の中に徒に歳齢を加ふる者も、少からざらむ。殊に最も多きは、中等教育修了後家庭の経営を志す者にして、或は猶ほ父兄の膝下に侍する者、或は直に主婦の重任を負ふ者之れあらん。敢て問ふ、彼等は如何にして日々を送りつゝありや。家事の実習を試むるは極めて善し、唯終日規律無く、秩序なく、折角得たる学識は時々に忘れ去り、能力日々に鈍れ行き、曾て自ら憫笑したりし処の無教育の旧態に帰りつゝある者はなきや。時に有益の書を繙くも、説明も無く註釈も無ければ読み難く、僅かに幾頁かを開き見しまゝ、永へに本箱に中に葬り去るものはなきや
 - 第26巻 p.914 -ページ画像 
偶々一心不乱に耽読すると見れば、即ち新刊の人情小説にして、不知不識の間に不健全なる思想を養ひ不醇粋なる感化を享けて顧みず、朝夕愛読する所の雑誌も、多くは断片的材料を列ねたるもの、読み易くして且つ面白きには相違なきも、師友に代ふべき日常教育の伴侶としては、余りに不完全なるに気付かざる者はなきや。
嗚呼、此の如くにして、再び帰り来ぬ青年の時期も可惜無為に過しつつある者は、果して之れなきや、有て而して本人之を悟らず、父兄之を顧みず、良人亦之を怪まず、教育を以て学校の専有物となし、卒業式と共に其終を告ぐるものと卒断して平然たるが如きこと、果して之れ無きや否や、蓋し教育は、家庭と学校と社会と三者相待て始て有効に施さるべく、幼少と壮老との別無く、一生を通じて行はるべきものなるを解せず、又社会家庭の事々物々は、世界文明の大勢に駆られて一瀉千里の進歩をなしつゝある時に当り、学校の教科書と共に学問の眼をも永久に閉ぢ去りて、空く之を紛塵堆裡に埋め了ることの、如何に自己の不幸を招き国家社会の不利を来たすかに想ひ到らざるなり。此の如きは単に彼等の不注意に基くのみに非ず、之を警醒して其材料を適宜に供給するの組織機関、之れ無きに由ること亦甚多からん。我計劃せる大学拡張運動は、其目的実に此欠陥を補はんとするに在り。而して其第一着手として、先づ講義録を発行し、高尚にして興味あるも浮華ならず、堅実にして有益なるも乾燥ならず、難解の嘆なく零砕の譏なき好箇の読物を家庭に向て提供し、以て、曩に受けたる学校教育の効果を一層確実にすると同時に、在校当時の研究的精神を鼓舞し其の智能を啓発し徳器を成就するの資となさんと欲するなり。故に我講義録は、徒に迂遠なる学理を説くものに非ず、家庭を中心として、之に関聯せる学科を配当し、専ら活用を旨とし、興味津々の裡に有益なる日進月歩の新学芸を了得し、家内の整理に児童の教育に、一家の経済に交際の方法に、無益の労を省きて有用の果を収むることを期し殊に教育の目的たる家庭の生命たるべき人格の修養に対しては最も重きを置き、之を以て一切の学術技芸の帰着点たらしめんと欲するなり之を要するに、我が講義録は、主として中等教育修了の女子が家庭経営上の好伴侶たらしめ、併せて高等教育の志望者にも多少の満足を与へんとするものなり。現今我国に刊行せらるゝ女子の為めの講義録は一二之れなきにあらざるも、総て是れ高等女学校代用の性質を帯ぶるものゝみ。此際に於て、日本女子大学校の講義其物と程度を同ふするものにあらざるも、特に高等女学校の上級以上の程度に於て家庭経営の参考を標榜し、而も同校に於て直接女子教育に多年の経験を有せらるゝ教授諸氏の親切に講述せらるゝ我が講義録が、幾多の裨益を本邦女子の上に与ふべきは、我等の固く信じて疑はざる所なり。
通信教育は、我等が計劃に係る大学拡張事業の一部に過ぎずして、図書館公開の如き、巡廻学術講演の如き、其他漸を逐ふて之を実現せんと欲する所のもの、頗る多し。其第一着手として発行する此講義録が幾分の教育的効果を、国家社会に貢献して、本邦女子の為めに多少の光明となり家庭社会改良の動力たるを得ば、其価値たる啻に講義録の成功、大学拡張の端緒たるのみに止まらず、実に直に高等教育の普及
 - 第26巻 p.915 -ページ画像 
社会人生の向上なり、我等の希望と努力と全く此処に繋る。
玆に講義録の創刊に際し、一言を陳して以て其旨意を明にす。
                桜楓会内
                  日本女子大学通信教育会