デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

4章 教育
2節 女子教育
2款 日本女子大学校
■綱文

第26巻 p.915-916(DK260170k) ページ画像

明治42年4月10日(1909年)

是日栄一、当校卒業証書授与式ニ臨ミテ祝辞ヲ述ブ。


■資料

竜門雑誌 第二五一号・第五二頁 明治四二年四月 ○日本女子大学校卒業式(DK260170k-0001)
第26巻 p.915 ページ画像

竜門雑誌  第二五一号・第五二頁 明治四二年四月
○日本女子大学校卒業式 日本女子大学校に於ては、本月十日午後二時大学部第六回・附属高等女学校第八回卒業式を挙行せり、君が代の唱歌終りて成瀬校長各部総代に卒業証書を授与し、熱心なる一場の告辞を試みし後、卒業生総代の謝辞、及青淵先生・大隈伯等の祝辞等あり、式終りて校庭桜花の下に生徒等の設備せし茶菓を呈し、午後五時随意退散せり


家庭週報 第一八四号 明治四二年四月一七日 ○財務委員渋沢男爵演説大要(DK260170k-0002)
第26巻 p.915-916 ページ画像

家庭週報  第一八四号 明治四二年四月一七日
    ○財務委員渋沢男爵演説大要
 校長からも申された通り、財務委員として本校の会計状態を御報告する筈でありますが、さまで重要な出来事もなかつたので御座います但し本校の経済状態が無事であるとは決して申されません。只此の場合に対する方法がまだ御報告する迄に確定してないのでございます。
 一言、卒業の方々に御祝辞を申上げたいと思ひますが、只今校長から、卒業早々の方々に負担が重過ぎはしないかと思はれる程の希望を申述べられましたが、私はあなた方は何時までも、此の学校で品性を作られたと云ふ事を、常に脳裏に刻んでお忘れない様に願ひたい。而して其の風習が社会に伝はつて、限りなく押し拡められん事を希望するのであります。これはあなた方の重い務であります。先づ此の学校に就てお考へになられよ。外国では遺産を教育事業に寄附すると云ふ様な風習が多くありますが、我国の今日の普通の有様では決して左様の訳には参りません。其の中で之れ位の設備を整へ、これ程の高等教育を施して居るのは、多数の人々が或は経済的に、或は宗教的に其の向々の力を集めて御尽しになつた事に依ります。そこであなた方に今後、母校未来の繁昌を計る事を心掛けて戴きたいと云ふ事を告別の辞として申上げるのであります。次に大学部の卒業生に申して置きたい事は、学業を卒つて社会に出て、夫れ夫れの務めに就くのは中々困難
 - 第26巻 p.916 -ページ画像 
なのである、況や高等教育を受けた人々と云ふので、周囲の接近した部分から絶えず注目されて居る事を、常に念頭に置いて戴きたい。即ち模範の婦人となつて欲しいのである。
 維新後位置を進めたものは実業家であると、私は常に申して居るが実に其の以前はあるかなきかのものであつた。丁度あなた方の境遇が我れ我れと同じであると思ふ。女子と小人養ひ難しと、孔子さへも云ふて居られるが、婦人が只消費経済だけに努めて居る有様では、到底其の位置は上る時は来ないのである。元来婦人は下層の婦人程生産的経済をするが、上流の人になればなる程消費経済より外しないのである。これも前申した通りの考から、婦人は消費経済が適応して居るとせられたのであらうが、今後の婦人は必ずこれを努めなければならないのであります。どうかあなた方は、養はれた母校の将来と、生産的経済に力を致すと云ふ、此の二つをお忘れにならない様に切望致します。


東京日日新聞 第一一六一二号 明治四二年四月一一日 ○演壇三人男 △日本女大学卒業式(DK260170k-0003)
第26巻 p.916 ページ画像

東京日日新聞  第一一六一二号 明治四二年四月一一日
    ○演壇三人男 △日本女大学卒業式
○上略
△渋沢男 悠然と演壇に進み出で、大隈伯の御話は至極御尤にて、予も亦諸子が婦人として約く優しく日本の家庭としつくり合やうな女になつて戴きたしと熱望する者なり、成瀬校長の大抱負はさる事ながらまだまだ学校出のほやほやなる諸子にとりては、世界的競争の活動のと云ふは負担が勝過ぎて、実行はまづ覚束なし、女聡しうして牛を売損ふと古人も云へり、少しばかりの学問を鼻にかけて亭主を尻に敷く様のことあるべからず、殊に時勢の推移とは云へ、今の学生は △其母校に対する情誼頗る淡々なる傾きあり、母校を忘るると同時に堕落誘惑直ちに襲ひ来ることを肝に銘じて忘るべからず、熟ら世上を見るに、下等社会ほど男女共稼ぎの事実行はれ、中以上の社会は男のみ稼ぎ女は消費役を勤むる有様なり、これ決して悪い事にあらず、天然の法則なれば、女は遂に消極的なるを自覚し、可成消粍費を少くし巧みに家政の運用を計るが大切なり、卒業生諸子に向ひて予はこの忠告を敢てするものなりと、慈親が其子女に対する如く諄々として、説き去り説き来りたる熱心には、満堂動かされざるはなかりき
○下略