デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

2部 社会公共事業

4章 教育
3節 其他ノ教育
9款 埼玉学生誘掖会
■綱文

第27巻 p.135-137(DK270047k) ページ画像

明治40年4月21日(1907年)


 - 第27巻 p.136 -ページ画像 

是日栄一、当会ノ大会ニ出席シ、一場ノ演説ヲナス。


■資料

竜門雑誌 第二二八号・第二五頁 明治四〇年五月 埼玉学生誘掖会大会(DK270047k-0001)
第27巻 p.136 ページ画像

竜門雑誌  第二二八号・第二五頁 明治四〇年五月
○埼玉学生誘掖会大会 青淵先生の会頭たる同会は、四月二十一日大会を開会せられしが、先生は之に臨席し、且つ其懇請に依り一場の演説を為されたり


埼玉学生誘掖会十年史 同会編 年表・第五頁 大正三年一〇月刊(DK270047k-0002)
第27巻 p.136 ページ画像

埼玉学生誘掖会十年史 同会編  年表・第五頁 大正三年一〇月刊
    埼玉学生誘掖会十年史年表略
明治四十年
○中略
 四月廿一日 通常総会開催
○下略


埼玉学生誘掖会々報 明治四〇年四月 会頭渋沢栄一君演説(DK270047k-0003)
第27巻 p.136-137 ページ画像

埼玉学生誘掖会々報  明治四〇年四月
    会頭渋沢栄一君演説
私は、今日天下の名士を以て目せられて居る方々の貴重なる時間を御割きになつて、此寄宿舎を御訪問下され、青年に有益なる御話をなすつて下さつて、大に誘導されたことは、舎生全般に代つて御礼を申上げます
私も今島田君のブース大将のことに付いて話されたに付きまして、私の感じたことを述べやうと思ひます、唯今島田君から、私の身の上に付て或は御褒め下さるのか、或は御攻撃があるのか、余り褒められるとばかり安心して居られませぬ(笑声起る)、極簡単に御話を致して見やうと思ひます、今島田君は当寄宿舎の要義に付いて大層叮寧に御覧下され、且つ賛辞を賜はつて誠に有難く思ひます、実は此要義は会頭が作つたのではなくて、舎生の案になつて居ります、元来寄宿舎に於ては如何なる方針を執つて宜からうかと云ふに付いては、成るべく吾吾が干渉せずに、舎生自身に作らせる方が宜からうと云ふ所から、教育勅語の趣旨を奉体して、成るたけ実際に行はれることにして、卑近な文章にしてやつて呉れと云ふ注文を私が出しまして、そうして此文案を立てましたのは全く舎生であつて、此要義は舎生の作つたもので有ります故に、今の島田君の御褒め言葉は、舎生一同が頂戴致すと云ふことに致して置きます
偖前に島田君の御話の通り、私も何事も楽んでやりたい考で居りますが、昨日ブース大将から其ことを聞いて誠に私は感じました、一体あの人は今年七十九だと云ひます、あの人の言ふた言葉に斯う云ふことがあつた、此事を聞くと意味が誠に深い、ブース大将の言はるゝには自分は大変に年を取つても、自分が此世の中に飽きもせず、又楽んで仕事に従事するのに常に余地が生じて来るやうな気がすると言はれたそれは東京市養育院の子供に向つての御話でありました、お前方は貧窮のために大変此世の中を辛く思つて居るだらう、何一つ快楽と云ふものはないやうに思ふて居るであらうが、それは大変な間違である、
 - 第27巻 p.137 -ページ画像 
人間の快楽は富貴満足が快楽ではない、心にわだかまりなくして善事をなすのが快楽である、其善事をなすと云ふことは身分相応にして、大なる人は大きい善をなす、小なる人は小さい善をなす、総て心に煩悶なく善事をなすと云ふことが実に快楽である、然らば此養育院に居ることは快楽でないと云ふやうな考を有するのは間違ぢや、又お前方は行く先が長い、私は斯様に年を取つて居るから今に死んで地獄へ行く……いや地獄へ行くなどゝは言ひはしない(笑声起る)…天堂へ行く身体である、それに一向苦にしない、兎に角死ぬまでは十分善事をなして、快楽を取りたい考である、それでお前方も此善事をなして快楽を取らうとするには三つの要義がある、第一に正直である、是は人間は正直を欠いたら迚も善事は出来ない、善事が出来なければ随つて快楽は取れないことになる、今一つは思ひたつたことを仕遂げると云ふ堅忍不抜の心がなければいけない、思ひ立つたことを途中に動いたり、考が変つたり、又は止めたりするやうな根性では迚も善事をなして快楽は取れない、それから今一つは長上の命令には能く服従することで、此三つがなければ善事がなせない、従つて快楽が取れない、さう云ふ風に考へると、どのやうな貧窮な者でも世の中に十分なる快楽を以て生活が出来る、と云ふ意味の話でありましたが、是は誠に当り前の言葉だが、実に愛情を吐露した言葉と思つて、自分も此事には大いに感じまして、是から先きはもう世の中のことを宜い加減にして止めてしまつたら宜からうと思ひましたが、此話で止められなくなりました(笑声起る)、それからもう一つは、彼の人が摂生上のことに付いての話ですが、ブース大将は仕事をするのは大変楽みだ、併し如何に好きでも同じ事ばかりでは面白くない、仕事の変つて即ち他の仕事に移る時が愉快だと云ふ話がありました、所が自分もさう思ふ、前に島田君が其事を話されましたが、如何にも私はいろいろの仕事をやつて実に愉快であります、それが大変に私の摂生になつて居ると思ひますだから此寄宿舎の世話をして居るのも実は摂生の為めであります(大笑)皆様から私に養生の方法を御与へ下さつたものと思ひます(大笑)(拍手)