デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治22年3月5日（1889年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、建物制限ノ件・神田錦町三丁目一番地及ビ二番地買収ノ件・神田区内下水敷処分ノ件・当委員会決議復申案・東京築港設計用材料蒐集手続ノ件・上水及ビ下水設計ノ件ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第二巻・第一九三―二二一丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第二十八号
　　昭和二十二年三月五日午後第二時四十分開議
　　　　闕席　桜井勉　　　須藤時一郎　　藤田茂吉
　　　　　　　武藤直中　　斯波有造　　　桐原捨三
　　　　　　　村上楯朝　　沼間守一　　　古市公威
　　　　　　　犬養毅　　　益田孝　　　　舟木練太郎
　　　　出席十七名（鉄道ニ関スル臨時委員ノ出席ヲ要セス）
○委員長曰　先ツ建物制限ニ関スル案ヲ議スルトセン
　　　書記左ノ訓令等ヲ朗読ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員会
　　別紙東京市区改正ニ関スル建物制限之件、特ニ其会ノ諮問ニ付シ候条、意見申出ラルヘシ
 - 第28巻 p.92 -ページ画像 
　　右訓令ス
　　　明治二十二年三月五日　　内務大臣　伯爵　松方正義
　　（別紙）
　　本年勅令第五号第四条第一項ニ依リ、建物制限ヲ左ノ如ク定メントス
　　一市区改正ノ設計中道路・河川ノ敷地タルヘキ土地ニ於テ建物ヲ新築・増築シ及ヒ改築ヲ為スモノハ、木造其他移転シ易キ構造ニ限リ、石造・煉化・石造・土蔵造ヲ為スヘカラス
○六番角田曰　先頃議定シタル市区改正ノ設計ニシテ、告示ノ上本案ヲ実施サルヽ見込ナルヤ
○委員長曰　然リ、而シテ移転シ易キ構造ニ限ルトノミアリテハ、其意味漠然ニシテ見解ニ苦ムノ憂ハナキヤ
○五番田口曰　移転シ易キトアルハ、費用ヲ多ク要セサル建物ト云フヲ意味セルナラン
○十九番銀林曰　然リ、移転料ヲ多ク要セサルモノトノ精神ナリ、而シテ此建物制限ハ道路・河川ノ敷地ニ止マラス、公園・市場・屠畜場、苟モ市区改正ノ設計ニ係ル敷地ニ要スレトモ、公園其他ハ至テ僅々ユヘ、道路・河川トセリ、但シ之ヲ実施スルトキハ防火線規則ハ廃止スヘキ見込ナリ
○二十八番渋沢曰　移転料ヲ多ク要セサルノ予防ナレハ、木造ノ文字ヲ手軽ノ構造ト云フ意味ニ修正ナシタシ、木造ト雖モ其構造法ニ由リテハ、煉瓦造リヨリ遥ニ移転料ヲ多ク要スルモノナキニアラス
○十九番銀林曰　府庁ニ於テ是迄取扱タル実例ニ拠ルニ、十中ノ七・八ハ土蔵・石造・煉瓦造リニ比シ、木造ノ方其移転費ニ二・三倍ノ差アリ、依テ木造ト為セリ
○二十五番芳野曰　此建物制限法ニシテ発表ニナレハ、木造ハ認可ヲ得ルニ及ハサルヤ
○十九番銀林曰　否ナ木造ト雖モ、認可ノ手続キハ要スルナリ
○二十五番芳野曰　然ラハ木造ノ文字ヲ削除スヘシ
○委員長曰　建物処分規則ノ沿革ヲ参考ニ陳ヘ置クヘシ、最初拙者ハ堅牢ノ建物ヲ築造スルノ場合ニ限リ許可ヲ得セシムルノ見込ナリシニ、元老院ニ於テ討議ノ末終ニ拙者ノ考ヘヨリ一歩ヲ進メ、建物ノ種類ヲ問ハス新築・増築・改築ハ都テ認可ヲ要ストセリ、之ハ必竟経済ノ都合ニ依リ、認可願ヲ出セシ際其土地ヲ購求スルノ便利ヲ得セシムルノ精神ニシテ、市区改正事業ノ為メニハ大ニ都合宜キモ、認可ヲ取扱フ府庁ハ随分手数ナルヘシ
○五番田口曰　建物ノ改築・新築・増築ノ際ハ一々府庁ノ認可ヲ得ルトセハ、本文ニ木造ト記載スルニモ及ハサルヘシ
○六番角田曰　然リ、木造其他ノ四字ハ削テ可ナリ
○四番福地曰　此内ニ公園モ加ヘテハ如何
○十九番銀林曰　公園ヲ加フレハ、市場・屠畜場等モ加ヘサルヲ得ス併シ之ハ道路・河川ノ敷地トハ異ナルユヘ加フルニ及ハサルヘシ
○委員長曰　経済ノ都合ニ依リ其土地ヲ買上クルトナシテハ如何、移転シ易キト云フハ随分漠然ナリ
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○十六番長与曰　道路・河川ノ敷地トセス、市区改正ニ要スル土地ニ於テ建物云々トナシテハ如何
○十九番銀林曰　是ヨリ区域ヲ広メタランニハ、市民ハ勿論取扱フ府庁モ煩雑ヲ極ムルナリ
○四番福地曰　市区改正ノ設計中、道路・河川・鉄道・公園・市場・火葬場等孰レモ其実施ニハ遅速アルニ依リ道路・河川ノ敷地トノミ限リ置クハ面白カラス
○六番角田曰　私ハ十六番ノ説ヲ賛成ス、道路・河川ノ敷地ト限ラス都テ認可ヲ得セシムルトシ、経済ノ都合ニ依リ其土地ノ買上如何ヲ斟酌ナス方可ナラン
○二十八番渋沢曰　此規則ニシテ余リ漠然ナルトキハ、市内ニハ終ニ家屋ヲ建築スルヲ得サルヘシ
○十六番長与曰　二十八番ノ説アレトモ、市区改正ノ設計ハ告示スルヲ以テ道路・河川ノ敷地タルヘキ土地トナシ置クモ、市区改正ノ設計ニ係ル土地トナスモ結果ハ同一ナリ
○十九番銀林曰　道路・河川トセス市区改正費ヲ以テ支弁スヘキ土地ニ於テトナシナハ、公園・市場・鉄道・火葬場等ノ敷地ハ包含セサルコトニナリ、十六番ノ意見ニモ適フナラン
○五番田口曰　勅令面ニ拠レハ、玆ニ道路・河川ノ敷地ト記スハ不都合ノ如シ.
○十二番若宮曰　然リ、敷地ノ種類ヲ選テ建物ノ制限ヲ設クルハ、勅令ニ背反スルノ懸念ナキニアラス
○委員長曰　勅令ヲ厳重ニ解釈セハ、十二番ノ云フ如キ懸念ナキニアラサレトモ、勅令ノ範囲内ニ於テ運動スルモノト見レハ、斯クナスモ妨ケナカラン
○二十八番渋沢・五番田口並曰　勅令ニ違背セスハ原案ニテ可ナリ
○四番福地曰　此結文ヲ以テ木造其他移転シ易キ構造ニ限ルトシ、石造以下ヲ削除スヘシ
○十九番銀林曰　石造云々ハ存シ置カサレハ、取扱上不都合ナリ
○五番田口曰　日本橋通リノ如キ繁昌地ハ当分木造ニ限ルト制裁ヲ設ケ置カスハ、非常ニ移転料ヲ要スルニ至ラン
○十番鬼頭曰　（建物ヲ新築・増築シ及ヒ改築）トアルヲ（建物ノ新築・増築又ハ改築）ト修正ナスヘシ
○十九番銀林・二十五番芳野並曰　十番ノ説ヲ賛成ス
○二十八番渋沢曰　私ハ（市区改正ノ設計中）トアルヲ、（市区改正ノ設計ニ係ル）ト修正ナシタシ
○二十五番芳野曰　二十八番ノ説ヲ賛成ス
○十七番成川曰　一体之ハ不親切ノ告示ナリ、仮令府庁ニ於テ手数ハ要スルモ、年々着手スヘキ事業ヲ予定シ、五十年先ニ着手スヘキ部分ハ随意ニ建物ヲ築造セシムルコトニナスカ当然ナラン
○十九番銀林曰　年々着手スヘキ事業ニシテ予定シ得レハ都合宜キモ其ハ云フヘクシテ到底ナシ能ハサル望ミナリ
○二十八番渋沢曰　十七番ノ説ハ至極同感ナレトモ、只今十九番ノ陳ヘラレシ如ク年々ノ事業ヲ予定スルト云フコトハ、容易ニ出来サル
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ヘシ
○委員長曰　市区改正事業ノ竣功ハ百年ト云ヒシハ、其概算四千万円ヨリ割出シタル年限ニシテ、其後追々設計ニ修正ヲ加ヘラレタレハ凡ソ費額弐千万円位ニ減シタリ、左スレハ四・五十年ニシテ竣功ヲ見ルニ至ラント考フ
○五番田口曰　木造ノ二字ヲ削リ、移転易キ構造ニ限ルト為シ置キ、塗家位ハ許可スルコトニ為シタシ
○十九番銀林曰　其他移転シ易キト云フハ、門・塀等ノ建物ヲ指シタル考ヘナリ
○四番福地曰　土蔵ノ如キハ移転シ易キ建物ナルヘシ
○十九番銀林曰　土蔵ハ移転シ易キモ其地形ニ費用ヲ要スル故、移転料ハ木造ノ二・三倍ヲ要スヘシ
○委員長曰　此建物制限法ヲ要スルハ、近時家屋ノ構造進歩シ煉化石造ノ高閣頻リニ建設ニナルニ依リ之ヲ防クノ精神ニ外ナラス
○五番田口曰　然ラハ石造・煉化造ヲ建設為スモ移転セシムル場合ニハ、移転料ヲ給与セサル旨ノ但書ヲ加ヘテハ如何
○委員長曰　塗家ハ木造ノ部内ニ認ムルヤ
○十九番銀林曰　塗家中ニモ木造ニ入ルヘキモノト、土蔵ニ入ルヘキモノトアリテ、例ヘハ鉄ノ柱ノ構造若クハ塗家造ナルモ移転シ易キ構造ト認ムレハ、則チ本案ノ其他移転シ易キ構造トノ明文ニ拠テ許可為ス可キモノナリ
○二十八番渋沢曰　然ラハ字句ノ修正ノミニテ大体ハ原案ニテ可ナリ
○二十五番芳野曰　曩ニ十番及ヒ二十八番ヨリ提出ニナリシ意見ノ如ク修正シ、而シテ結文ノ石造以下ヲ削除スヘシ
○四番福地・五番田口・二十八番渋沢並曰　二十五番ノ説ヲ可トス
○委員長曰　他ニ異論者ナクハ本文ヲ（一市区改正ノ設計ニ係ル道路河川ノ敷地タルヘキ土地ニ於テ、建物ノ新築・増築又ハ改築ヲ為スモノハ、木造其他移転シ易キ構造ニ限ル）ト修正スルコトニ決ス
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　元文部省用地神田錦町三丁目ノ内、一番地・二番地ハ本会ニ於テ議定シタル二等及三等・五等道路ニ係レリ、然ルニ先般人民ヘ払下トナリ、目下同地ニ在ル建物ヲ取払ヒタルニ依リ、焼失跡地ニ准シ此際別紙図面之通買収セントス
　　　○神田錦町三丁目新設道路之図（附図第二）。
○二十五番芳野曰　此費用ハ如何ニ為ス見込ナルヤ
○十九番銀林曰　二十二年度焼失跡地改正費ヨリ、繰上ケ支弁スル見込ナリ
○二十五番芳野曰　斯様ノ場所ヲ蒐集シ、費用ハ共有金ヨリ一時借入レ、四・五年間ニ市区改正費ヨリ償却スルコトヽ為シテハ如何
○十九番銀林曰　二十五番ノ説ハ良案ト思フニ依リ、尚ホ熟考スルコトニ為スヘシ、実ハ自身ノ地面ヲ献納シ以テ其土地ノ改正ヲ望ムモノモアル由ナレバ、此際拾五・六万円モ借入、左様ノ土地ハ速ニ改正為ス方市区改正ノ経済ニモ得策ナリ
○二十五番芳野曰　負債ヲ起シテ此際改良為スナレハ、水道橋通リノ
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如キモ其内ニ編入為シタシ
○十九番銀林曰　市区改正ノ設計ヲ告示セハ、続々着手ヲ願出ツルモノアルナラン
○六番角田曰　此路線ハ神保町ノ往来迄改正為シテハ如何
○十八番伊藤曰　神保町迄延長為ストキハ、家屋ノ移転料ヲ要スヘシ
○二十五番芳野曰　本案ニ対シテハ別ニ異議ナキモ、地所買上代ハ一坪ニ於テ弐円方モ減シテ可ナラン
○五番田口・六番角田並曰　本案ノ如ク改正ニナレハ、地価ヲ高ムルニ依リ、買上代価ハ壱坪拾円ニテ可ナリ
○委員長曰　其説ニシテ多数ナレハ、地所買上代価ハ壱坪拾円ト修正スルコトニ決スヘシ
　　　書記左ノ訓令等ヲ朗読ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員会
　　別紙神田区内下水敷処分之件、其会議ニ付シ候条、意見申出ラルヘシ
　　右訓令ス
　　　明治二十二年三月五日　　内務大臣　伯爵　松方正義
　　（別紙）
　　　　廃下水処分之儀ニ付伺
　　府下神田区鍛冶町・鍋町以西及竜閑町・新川以北ノ地ハ、下水改良之工事既ニ粗竣成ニ至リ、別紙図面之通従前之下水敷地ハ不用ニ属シ候ニ付、接続地所有主ヘ払下、右代金ハ市区改正費ニ組入申度、此段伺候也
　　　明治二十二年三月五日　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　内務大臣　伯爵　松方正義殿
　　（別紙）
　　神田区鍋町・鍛冶町以西及竜閑町・新川以北、別紙図面ノ溝渠ハ不用ト認ムルヲ以テ、之ヲ廃セントス（図面ハ略ス）
○二十五番芳野曰　此坪数ハ分ラサルヤ
○十八番伊藤曰　只今其調ヘヲ持参セサリシナリ
○五番田口・四番福地並曰　異存ナシ
○委員長曰　説ナクハ原案ニ据ユ、是ヨリ本会決議ノ復申案脱稿シタルニ依リ、一応朗読セシムヘシ
　　　書記復申案ヲ朗読ス
　　　　市区改正委員会決議復申
　　明治二十一年八月十六日ノ勅令第六十二号東京市区改正条例、並ニ同年同月十七日ノ閣令第十四号ニ依リ、東京市区改正委員会ヲ組織セラレ、之ニ付スルニ東京市区改正審査会議定ノ方案ヲ以テセラル、而シテ本官其委員ニ長タルノ命ヲ拝シタリ、抑市区改正ノ計画タル実ニ千載ノ偉業ニシテ、府民休戚ノ判ルヽ所ナルヲ以テ、熟ク之ヲ既往ノ実験ニ徴シ、能ク之ヲ将来ノ進運ニ推シ、務メテ万一ノ遺算ナカラシムヘキハ論ヲ待タス、是ヲ以テ爾来其方案ニ拠リ各委員ト倶ニ反覆之ヲ討議シ、其利害得喪ノ係ル所ヲ講明シ、或ハ之ヲ修正シ或ハ之ヲ増補シ、以テ永ク府民ノ福利ヲ増
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進セント務ムルコト玆ニ数閲月間一日ノ如シ
　　今試ニ審査会議定ノ方案ヲ以テ之ヲ即今ノ時情ニ照スニ甚タ恰当セサルモノアリ、蓋シ時情ノ世運ト共ニ推移スルハ数ノ免サル所ナルヲ以テ、本会ノ之ヲ議スルヤ或ハ全ク其方案ニ同意ヲ表スルアリ、或ハ多少ノ修正ヲ加ヘシアリ、或ハ新ニ条項ヲ設ケシモノアル所以ナリ、例ヘハ改正ヲ施行スヘキ区域ノ如キハ大ニ之ヲ拡メ、其面積ノ増加シ、又道路・河川・橋梁・鉄道・公園・市場等ニ多少ノ修正ヲ加ヘ、又新ニ火葬場・墓地ノ位置面積等ノ条項ヲ設ケタルカ如シ、総テ其決議ノ顛末ハ載セテ本会ノ議定録・図面及参考書ニ詳カナリト雖モ、其最モ重要事項タルモノヽ要領ハ、之ヲ本会決議要略トシテ別冊ニ掲ケタリ、其費用概算ノ如キモ審査会議定方案ニ属スル諸計表ニ依リ其差違ヲ生スヘキモノヲ修正加除シ、併セテ玆ニ復申ス
　　要之、本会決議ノ精神ハ、審査会議定方案ノ主旨ト敢テ異ナルコトナシ、只其実施ノ速カナランコトヲ欲シ、新設ノ橋梁費ハ改正費ヨリ支出スルモ、既設ノ橋梁架換費ハ地方税ノ負担トナシ、道路ノ改正ニ於ケルモ改正費ヨリ支出スルモノハ其路面ノ凸凹ヲ削平スルニ止メ、其他ハ亦地方税ノ負担トナシタルカ如ク、務メテ其費用ヲ節縮シテ、以テ他ノ上水・下水ノ改良ノ如キ、一日モ忽諸ニ付スヘカラサル緊要事業ニ充用セントノ希図ヨリシテ、少シク其設計ヲ変更セルモノアル而已、希クハ本会決議ノ主旨ヲ諒察セラレ、速ニ允可ヲ賜ランコトヲ　謹言
　　　明治二十二年三月　　　　　　　　　　　　　委員長
　　　　　内務大臣宛
　　　追申、本案決議ノ外、品海築港ノ計画、上水・下水ノ改良、家屋建築方法及市街鉄道ヲ設クヘキ設計等ハ、即今猶調査中ニ係ルモノアリ、是等ノ件ハ他日ヲ待テ更ニ具申スル所アラントス
○十八番伊藤曰　費用ノ概算ヲ取調ヘシニ、審査会ニ於テ議定ニナリシ総額ハ四千三百七拾七万六千九百弐拾弐円六銭ニシテ、本会ニ於テ議定ニナリシ設計ノ費額ハ金弐千三百八万千六百八拾壱円五拾九銭六厘ナリ、乃チ差引金弐千六拾九万五千弐百四拾円余ノ減額トナレリ、是ハ重モニ道路ノ改修費ニ於テ減額ヲ生セシモノナリ
○委員長曰　本文中（而シテ本官其委員ニ長タルノ命ヲ拝シタリ）ノ文字ハ削除スル方可ナラン
○八番和田曰　然リ、是ハ削ラレタル方可ナルヘシ
○四番福地曰　本案中（時情）トアルハ（事情）ト改メサルヘラカス
○委員長曰　然リ、是ハ誤写ナルヘシ
○四番福地・二十五番芳野並曰　只今ノ二廉ヲ修正ニナレハ、敢テ間然スル所ナシ
○委員長曰　別ニ異論者ナクハ、尚ホ二・三ノ字句ハ後トニテ改メ進達スルコトニ為スヘシ
　又曰　前会ノ決議ニ依リ築港ノ下調ヘニ要スル材料ハ、委員ニ於テ蒐集ニナリ、其意見書ハ既ニ諸君モ頒付シタレトモ、偖材料ヲ作ルニハ専務者及ヒ測量等ノ諸器械ヲ要スルノミナラス、東京府ニ於テ
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ハ之ニ従事セシムル余裕モナク、殊ニ海中ノ測量者ニ乏シキ故、海軍省ニ依頼為スノ外ナシトシ照会ヲ遂ケシニ、明年三・四月ノ頃ナラハ依頼《（ネ脱カ）》ニ応シ難キ旨回答ヲ得タリ、就テハ是ヨリ干満潮試験ニ従事セシメ、海中ノ測量ハ明年三月ヨリ着手セント欲ス
　　　（参考ノ為メ東京築港設計用材料蒐集手続書ヲ左ニ掲ク）
　　　　東京築港設計用材料集輯手続書
　　品川湾深浅ノ測量ハ、明治十四年三・四月中施行シタルモノ尤モ確実ニシテ、即チ東京府ノ依頼ニ由リ海軍省士官ノ手ニ成リタルモノ是ナリ、其元図並ニ野帳等ハ尚東京府庁ニ保存スルモノト信ス、此度更ニ本湾ヲ測量スルノ目的ハ、之ヲ十四年ノ深浅ニ比較シ、以テ爾来海底変換ノ景況ヲ察シ、傍ラ前測量ノ不足ヲ補フニアリ、依テ其方法ヲ定ムルコト左ノ如シ
　　　（一）玉川吐口ヨリ江戸川吐口ニ至ル海岸ノ三角測量ヲナスコト
　　　（二）右三角測量ニ基キ六千分一ノ地図ヲ製スルコト
　　　（三）参謀本部実測図ニ基キ、海岸ノ模様ヲ前項ノ図上ニ詳細記入スルコト
　　　　　但シ東京市街ニ属スル部分ニ於テハ、海岸ヲ距ル凡ソ十町ノ間市区ノ模様ヲ記載スヘシ
　　　（四）六千分一ノ図ヲ縮シテ一万八千分一ノ図ヲ調製スルコト
　　　（五）品川砲台以内及干潮以下深サ三尺以内ノ場所ニ於テハ、海岸ニ沿ヒ凡二町間ニ標杭ヲ設ケ、此ヨリ海面ニ向テ適宜ノ方向ニ従ヒ銅線ヲ張リ、毎十間ノ深浅ヲ測量スヘシ、但シ海底ノ傾斜緩ニシテ深浅ノ異動軽少ナル場所ニ於テハ、省略ヲ加ヘ毎十間若クハ毎二十間ノ測量ニテ足レリトス
　　　（六）砲台以外ノ深キ場所ニ於テハ、一般セキスタントノ方法ニ拠ラサルヘカラス、但シ其深浅ヲ測定シタル諸点相距ル事三十間乃至五十間ヨリ多カラサル事ヲ希望ス、但シ海底ノ起伏著シキ場所ニ於ケル測定点ハ、右制限ヨリ一層近密ナルヲ要ス
　　　（七）以上二項ニ於テ示ス処ノ深浅測量ト共ニ、海底ノ土質ヲ調査スヘシ
　　　（八）明治十四年実測深浅図中用フル処ノ零点ハ如何ナルモノナルヤ、図上之ヲ掲載セス、依テ此際東京府所蔵ノ該測量関係書類又ハ当時ノ測量従事員ニ就テ、精々之カ正確ナル調査ヲ遂クヘシ
　　　　　　第二章　量潮ノ事
　　量潮標ハ左ノ三ケ所ニ於テ之ヲ設置スヘシ
　　　玉川吐口ノ近傍ニ於テ一ケ所
　　　第二砲台ノ北方ニ於テ一ケ所
　　　霊岸島近傍ニ於テ一ケ所
　　右ノ内第二砲台ノ北方ト霊岸島ノ二ケ所ハ、之ヲ永久常備ノモノトシ、玉川吐口ノ一ケ所ハ湾内深浅測量ノ間ニ限リ番人ヲ置キ、之カ観測ヲナスヘシ
　　右ノ何レモ自記量水標ヲ用フルヲ可トス
　　　　　　第三章　潮流ノ方向及速力ヲ測定ノ事
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　　明治十四年ノ測量ニ於テハ潮流ノ観測尤モ不完全ナリトナス、依テ此際湾内各所ニ於テ更ニ之カ観測ヲナシ、以テ其方向及速力ノ概略ヲ視定スヘシ（但シ本文ノ観測ハ砲台ノ以南ニ限リ之ヲナスヘシ）
　　　　　　第四章　地質調査ノ事
　　石川島ノ南尽端ヨリ第三号砲台ニ達スル直線上ニテ、深凡ソ十五尺（但シ干潮已下々之ニ倣ヘ）ノ錐鑿三ケ所
　　第二砲台以南湾ノ中央線上ニテ、深凡三十尺ノ錐鑿六七ケ所
　　各砲台間及第四砲台ト海岸ノ間ニ於テ錐鑿一ケ所ヅヽ、尤モ第一第五砲台間、及第二・第五砲台間ニ於テハ深サヲ三十尺トナシ、其他ハ総テ二十尺トス
　　隅田川澪筋ニアリテハ石川島ト霊岸島間ニ一ケ所、海軍兵学校及浜離宮近傍ニ於テ各一ケ所ツヽ、以上ハ深サ三十尺ナリトス
　　高輪近傍ニ於テ深三十尺ノモノ二三ケ所
　　第一砲台ヨリ羽子田ノ間ニ於テ深三十尺ノモノ三ケ所
　　　　　　第五章　海底堪重力調査ノ事
　　海底ノ堪重力ハ突堤沈降ノ度ヲ予算スルニ必要ノ材料タルニ過キサレハ、湾内一般ニ之カ調査ヲ要セス、只タ突堤ノ敷地トナルヘキ既定ノ法線ニ沿テ之ヲナスモノトス、故ニ他日築港ノ計画確定ノトキニ臨ミ調査スヘキモノナレトモ、今玆ニ之ヲ掲出スル所以ハ、築港工事施行上必要ノ材料タルヲ表スルカ為ナリ
　　図面ハ第一章ニ述ル如ク六千分一ト、一万八千分一トノ二種ヲ調製スヘシ
　　六千分一ノ図ハ左ノ二葉ヲ製スヘシ
　　（甲）此度測定ノ深浅ヲ以テ十四年ノ零点以下ノ深浅ヲ算出シ、之ヲ数字ノマヽ記入シタルモノ一葉
　　　　但シ干潮ノ際、水面上ニ露出スル砂洲ノ高底モ亦タ数字ノママ之ヲ記スヘシ
　　（乙）毎一尺ノ深浅線・潮流ノ方向及速力・地質検査ノ錐鑿施行ケ所ヲ記入シタルモノ一葉
　　　　但シ深浅線ハ南ハ玉川吐口ヨリ東方ニ向ヘル見通線、又東ハ平井新田ヨリ南方ニ向ヘル見通線ニヨリテ之ヲ界シ、此両界線以外ニ於テ之ヲ伸張スルヲ要セス
　　一万八千分一ノ図ニハ、明治十四年ノ深浅線ト此度測定シタル深浅線トヲ深三尺毎ニ各色ヲ分テ記画シ、以テ既往八年間ニ於ル深浅ノ変動ヲ表示シ、併テ潮流ノ方向ヲ記入スヘシ
　　以上六章ニ於テ列挙シ来リタルモノヽ外、尚隅田川ヲ主トシ品海ヲ注ク処ノ大小ノ河川、及溝渠ヨリ流出スル沈澱物ノ調査アレトモ、熟ラ之カ実施ノ方法ヲ考フルニ、夥多ノ人員ヲ具備シ夥多ノ歳月ヲ経ルニアラサレハ、信憑スヘキ功果ヲ得ルノ難キヲ認メタリ、蓋シ河水ニ混同シテ流動スル処ノ固形物ハ、大気中ニ発現スル総テノ顕象ト共ニ、其量ノ変動スルモノニシテ、水量ニ正比スルカ如キ単純ナルモノニアラス、今該物量ヲ測定スルカ為メニ僅僅一二年間之ニ従事スルモ、到底所望ノ材料ヲ収得スルニ足ラスシテ、若干ノ費用ヲ徒費スルニ過キス、依テ小官等反復評論ノ上
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本件ニ関ル調査ヲ省略スル事ニ決シ、玆ニ深浅再測量外六件ニ付キ卑見ヲ縷述シ、謹而呈ス
　　　明治二十二年二月
　　　　　　　　　　　　　　　内務三等技師　沖野忠雄
　　　　　　　　　　　　　東京市区改正臨時委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　海軍大佐　肝付兼行
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　本文ハ小官等内務省土木局雇和蘭国工師「ムルドル」ト協議ノ末論決シタルモノナレトモ、其署名ナキハ当初横文ノ本書ヲ調製セサリシニ由ルナリ、依テ同工師ノ承諾ヲ得テ玆ニ此事ヲ追加シ、以テ同工師カ小官等ト議協ハスシテ其記名ヲ拒ミタルニアラサル事ヲ証明ス

　附録
　本文ノ諸件ハ専務ノ官庁ニ請テ之カ調査ヲ依頼スルモノトナシ、其事項ヲ類別スル事左ノ如シ
　　第一海軍省ニ依頼スヘキ件
　本書第一章（六）砲台以外ノ深浅測量及第三章潮流ノ方向及速力ノ測定ノ件
　　第二農商務省ニ依頼スヘキ件
　第四章ノ地質調査ノ件
　　第三東京府ニ依頼ノ件
　第一章中（五）項ノ測量ヲ除キ其他ノ事件
　第二章ノ量潮標ニ関スル一切ノ事務、即チ該標建設方、番人ノ監督及其進退、量潮日表ノ保存方等ナリ
　第六章ノ図面調製方
　品川湾深浅測量ニ要スル一切ノ準備、即チ測量用雑品ノ購入及集輯方、目標ノ建設等ナリ
○三十一番肝付曰　台場内ヨリ大川ノ深浅調ヘハ、明年四月迄ニ測量済トナル様府庁ニ依頼シ、台場外即チ海軍省引受ノ部分ハ明年四月ヨリ七月迄三ケ月間ニ測定シ竣ル見込ナリ、而シテ地質ノ調ヘハ何時頃出来為スヘキヤ
○八番和田曰　明年四月迄ニハ出来ノ見込ナリ、而シテ此取調ハ委員長ヨリ表面農商務大臣ヘ照会アランコトヲ望ム
○委員長曰　然ラハ、八番ノ説ノ如ク照会スルコトヽスヘシ
○十六番長与曰　上水設計第一報告ハ既ニ印刷シテ諸君ニ頒付シ置キタレハ、水質ノ善良如何等ハ別段申陳フルノ必要ナキニ依リ、之ヲ取調タル要領ヲ一言セン、抑モ此調査タル給水区域ヲ十五区ヲ以テ標準トシ、五等道路以上ノ街路ニハ悉皆水管ヲ敷設スルノ見込ニシテ、人口ノ予定ハ警視庁ニモ依頼シ取調ヲ尽シタレトモ、確タル標準ヲ得ル能ハス、已ムコトヲ得ス十九・二十両年ノ統計書ニ由テ百五十万人ト仮定セリ、又人口ニ対スル給水量ニ就テ、欧洲諸国ノ規定ハ報告書ニ載スル如ク、其国々ニ依リテ異リ居レトモ、近キ例ハ横浜ニアリ、一人ノ給水量拾八「ガロン」ナレトモ、一体日本人ハ
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多量ノ水ヲ使用スル習慣ナルヲ以テ、弐拾四「ガロン」ニ見込タリ斯ク見積リ置カハ仮令ヒ此先人口増加シ二百万人ニ及フモ拾八「ガロン」ハ給シ得ヘシトシ、乃チ一人一日ノ給水量ヲ四立方尺ト定メタリ、却説工費ノ概算ハ六百八拾六万七千百九拾五円ニシテ、実際材料ノ買入方等ヲ巧ミニ為ストキハ、壱割半若クハ弐割ヲ減シ得ヘキモ、此予算額ヨリ超過セサルノ調ヘナリ、要スルニ「バルトン」氏ハ市区改正委員ノ資格ヲ保チテ充分ニ見積リ、見悪キコトヲセサル様計画シタルト、（パーマー）氏ハ請負ノ資格ニシテ費額ノ節約ヲ専ラト為シタルトニ依リテ、自然費用ニ大差ヲ生セシモノナリ、尚詳細ハ報告書ニ就テ諒知アランコトヲ望ム
　　（参考ノタメ上水設計第一報告書ヲ左ニ掲ク）
　東京市区上水報告設計第一報告別冊之通具申候也
　　明治二十一年十二月
　　　　　　　　上水下水設計調査委員　　　　W.K.Burton
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　倉田吉嗣
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　山口半六
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　永井久一郎
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　原口要
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　古市公威
　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　長与専斎
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿

　　　　緒言
　上水及下水ノ工事ハ、此レヲ先キニシ彼ヲ後ニスルカハ速ニ決スル事能ハサルノ問題ナリト雖モ、上水ノ設計ハ目下ノ急務ナルヲ以テ先之ヲ調査スル事ニ決シ、「バルトン」氏ヲ取調主任ト為シ、数回審議ヲ経テ玆ニ此第一報告ヲ呈スルニ至リタリ
　　　　水源及水質
　水源ハ東京従来水道ノ水源タル玉川ヲ以テ適当ナルヘシト思料シ、十月廿八日「バルトン」氏及倉田氏ハ助員小林柏次郎及東京府土木課員ヲ伴ヒ東京ヲ発シ、玉川ノ上流即チ羽村水門ヨリ最上流ニ位スル沿岸ノ村落河内村マテノ間、及水門ヨリ府内ニ達スル水渠ヲ実地検査スル為メニ往復五日ヲ費シタリ、其水質ハ別紙ニ示スカ如ク、化学的分析理学的性質ニ於テハ頗ル善良ナリト雖モ、其沿岸ノ景況ヲ目撃シ、水質ヲ汚涜スルノ虞アルヤ否ヲ精密ニ調査スルニアラサレハ、之ヲ水源ト確定スル能ハサルカ故ナリ、該川ノ近傍ニハ幸ニ水田少ナキカ故ニ、其川流ハ田畝ノ排水ヲ受ケス、村落ハ青梅其他一二ノ小聚落ヲ除クノ外総テ川流ヨリ遠隔ノ地ニ在リテ、村落ノ排水ハ玉川ト村落トノ間ニ於テ地中ニ浸透シ、其川流ニ達スルトキハ已ニ清潔ノ水ト為ルヘシ、青梅ハ羽村ヨリ凡二里ノ上流ニ在リ、其市街ヨリ玉川ニ流下スル二個ノ天然水流アリ、此水流ニハ該市街ノ下水ヲ排出スト雖モ、市街ヨリ玉川ニ達スルノ間ニ広濶ナル饒地アリテ其汚水ヲ吸収スルカ故ニ、僅ニ注意ヲ為ストキハ本川ニ至ルマテニ充分清潔ノ水ト為リ、川流ヲ汚涜スルノ恐レナシ、実ニ玉川ハ
 - 第28巻 p.101 -ページ画像 
大都府ノ給水ニ適当ナル水源ト云フヘシ、水量モ亦充分ニシテ、今日東京ニ引用スルモノヲ見ルニ、其空費濫泄ヲ防クトキハ需要ノ量（後ニ記スル所）ニ対シ尚余アルヘシ（明治十五年十一月ノ調査ニ依レハ、現在四ツ谷大木戸ニ達スル水量ハ三十八立方尺ニ過キスト雖モ、水渠ヨリ千川水道ニ分水スルモノ十三立方尺、神田上水ニ分水スルモノ三十二立方尺、戸田分水〇、九立方尺ヲ合スルトキハ、一秒時間八十三、九立方尺ノ水量ヲ得ヘシ）
　玉川ノ羽村水門及東京間ノ水渠ニ於テ水ヲ汚涜スル事ナキヤ否ハ、第二ノ問題ナリ、水門ニ於テハ水色澄明ニシテ、渠中ノ水東京ニ達スルトキハ、混濁ノ色ヲ呈ス、混濁ノ水ハ渠岸ヲ洗ヒテ粘土ヲ浮遊セシムルニ由ルモノニシテ、其害極メテ少シトス、但此水渠ハ単ニ地中ヲ掘開シタル露渠ニシテ、両岸及底面ハ其破壊ヲ防禦スルモノナク、水流ノ速力大ナルヲ以テ時ニ之ヲ損傷スルカ故ナリ、右ニ述ヘタル如ク此混濁ハ無害ナリト雖モ、玆ニ注意スヘキノ一事アリ、即チ羽村ノ近傍ニ狭山ノ池ナルモノアリテ、其水ヲ上水渠ニ排出ス此池ハ甚タ不潔ナルノミナラス、瀦水ヲ水渠ニ排除スルノ小溝ハ近傍人家ノ下水ヲ受ク
　羽村ノ近傍水渠ノ北岸ニ於テ小屋ノ櫛比スルモノアリテ、不潔ナル下水ヲ排出スルコト固ヨリ疑フヘカラス、其家屋ト水渠トノ間ニ在ル一泉ヨリ飲料水ヲ汲取ル所ノ一家アリテ、其家ノ下水ハ泉水ノ流出ト混合シテ共ニ水渠ニ流下スルヲ見タリ、是汚水侵入ノ一例ナリ漸ク東京市街ニ近クニ従ヒ渠辺ノ人家益々増加シ、其家屋ト水渠トノ間ニハ土堤アリ、下水ノ渠中ニ浸透スルハ目撃スル所ニアラスト雖モ、多少ノ汚物ヲ其人家ヨリ排出シテ渠中ニ入ラシムル事決シテ疑フヘカラス、人家ニ近接スル所ノ渠底ニハ往々磁器ノ砕片ヲ見ル此砕片ハ固ヨリ無害ノモノナリト雖モ、是人家ヨリ汚物ヲ渠中ニ投棄スル一証例ト為スヘシ、此混濁及汚涜ヲ除ンカ為メニハ、沈澄池及濾池ノ設置ヲ要スルモノトス
　水源ニ就キ目下改良ヲ為スヘキモノハ（第一）青梅市街ノ下水、玉川ニ排出スルヲ防止スル事（第二）前記ノ狭山池ハ水渠ヲ越ヘテ玉川ノ下流ヘ放流セシムルカ、又ハ此池ヲ埋立テ平地ト為スコト（第三）羽村近傍及水渠ノ両岸ニ近接シタル家ヲ撤去スル事（第四）東京市街ニ近キ人家稠密ナルノ区域ニ於テハ、水渠ニ覆蓋ヲ設クル事但シ羽村ヨリ東京ニ達スル水渠ノ全部ハ、之ヲ改造スルノ必要ヲ見ス
　玉川ノ水ハ既ニ述ヘタル如ク、性質善良、分量充分ニシテ、殊ニ従来ノ水渠ヲ適用スル事ヲ得、以テ引水費ヲ省略スルノ一大便益アリ他ニ水源ヲ捜索セスシテ之ヲ玉川ト断定セシ所以ナリ
　善良ノ飲良水ニ必要ナリトスル性質ハ、土地ノ状況ニ由リテ些少ノ変更アルハ固ヨリ免レサル所ナレトモ、通常左ノ原率ヲ超越セサルヲ要ス、即チ水十万分中固形物ハ五十分以下、塩素ハ二乃至三分以下、硫酸ハ八乃至十分以下、硬度ハ独国法二十度以下、硝酸ハ〇、五乃至一、五分以下、亜硝酸・安母尼亜ハ僅ニ其痕跡ニ止リ、有機物ノ為メニ還元脱色スル所ノ過満俺酸加里ノ量ハ、多クモ一分ヲ超
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　　　　　　　　玉川上水分析表

　過セサル等ノ諸項ナリトス、然ルニ今此原率ニ拠リテ前表ヲ対照判定スレハ、玉川上水四ツ谷大木戸樋口ニ於テ採酌シタルモノハ各固形物ノ含量及ヒ其反応ハ皆遠ク其下ニ居リ、殊ニ衛生上ニテ有機性汚穢物混入ノ徴候ナリトシテ大ニ忌悪スル所ノ安母尼亜ハ、未タ嘗テ其反応ヲ呈セス、有機物ノ為メニ還元脱色スル所ノ過満俺酸加里ノ量モ亦極メテ少ク、其性質善良ニシテ、終歳四季ニ渉ルモ変スル所ナク、能ク其良質ヲ保全スルモノトス
　　四ツ谷大木戸玉川上水一立方仙迷中ヨリ得タル「バクテリヤ」聚落ノ数
　　　第一試験
　明治二十一年十月二十四日午前十一時半ニ採酌シタル水ハ、其一立方仙迷ニ付「バクテリヤ」聚落九百個（三四ノ平均数）ヲ生ス、但採酌前五日間雨天ニシテ上水ハ微濁セリ
　　　第二試験
　同十月三十日午後一時二十分ニ採酌シタル水ハ、其一立方仙迷ニ付「バクテリヤ」聚落七百二十個（二四ノ平均数）ヲ生ス、但採酌前
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三日間晴天ニシテ水ハ全ク澄清ナリ
　「ドクトル、フレンチル」氏ノ説ニ拠レハ、良好ノ飲料水ハ「バクテリヤ」聚落ノ数毎一立方仙迷ニ付多クモ五千個ヲ越ユヘカラスト云ヘリ、此標準ニ比スレハ玉川上水ノ四ツ谷大木戸ニ於テ採酌シタルモノヽ聚落ハ甚タ少数ニシテ、其水ハ「バクテリヤ」聚落試験成績上善良ナリト認ム
　　　　給水区域及人口
　給水ノ区域ハ凡現今ノ十五区ヲ以テ標準トシ、工事設計ノ部ニ記スル如ク給水本管ヲ五線ニ分チ、其支管ヲ悉皆ノ街路ニ設ク
　東京十五区ノ現住人口ヲ調査セント欲スルニ、明治十八年ニ至ルマテハ信憑スヘキ統計報告ナシ、止ムヲ得ス十九年調査法整頓以後東京府統計書ニ載スル所ニ依ルニ、現人口ハ
　　明治十九年末　百二十一万千三百五十七人
　　明治二十年末　百二十三万四千四百五十人
　ニシテ、其差即チ一ケ年ノ増加ハ二万三千九十三人
　ナリ、僅ニ両年ノ統計ヲ以テ将来人口ノ増加ヲ推算スルハ、其当ヲ得サルノ嫌アリト雖モ、他ニ憑ルヘキノ標準ナキヲ以テ、此割合ニ従ヒ将来十一ケ年ノ人口ヲ推測スルトキハ、其千以下ノ端数ヲ去リ大数左ノ如シ
　　　　　　一年間千人ニ付凡十九人ノ増
　　明治廿一年　　　百二十五万七千人
　　明治廿二年　　　百二十八万人
　　明治廿三年　　　百三十万三千人
　　明治廿四年　　　百三十二万七千人
　　明治廿五年　　　百三十五万二千人
　　明治廿六年　　　百三十七万六千人
　　明治廿七年　　　百四十万二千人
　　明治廿八年　　　百四十二万八千人
　　明治廿九年　　　百四十五万五千人
　　明治三十年　　　百四十八万二千人
　　明治卅一年　　　百五十一万人
　右ノ計算ハ、近年ノ実況ヲ考察スルトキハ逐年人口増殖ノ割合少キニ過クルモ、決シテ多キニ過キサルヘシ、来廿二年ヨリ水道工事ニ着手シ工事ノ期限ヲ五ケ年ト定メ、明治廿六年ニ至リ落成スルモノト為スモ、落成ノ日ニ於テハ人口既ニ百三十七万余ニ達スヘシ、故ニ此設計ニ於テハ人口百五十万ヲ目的トシ諸般ノ計算ヲ為シタリ
　　　　人口ニ対スル給水量
　一人毎廿四時間ニ供給スル平均ノ水量ハ其土地ノ実験ニ基クモノニシテ、欧米諸国ニ於テモ其通則ヲ設クルコトヲ得ス、其多キハ華盛頓府ノ如キ一人一日百四十三ガロンヲ給スルモノアリ、倫敦ハ三十二ガロン、巴里ハ三十六ガロンヲ給ス、米国ハ姑ク之ヲ措キ、英仏両首府ノ如キ此多量ノ水ヲ給スルモ、人口ノ増殖其他消費ノ増量ヲ要スル原因一ニシテ足ラス、近年其欠乏ヲ告ケ水源ノ水量ヲ増加センカ為メ計画ヲナスモノナリ、論者或ハ曰フ、我都府ハ欧米ノ都府
 - 第28巻 p.104 -ページ画像 
ト其住民ノ習慣・風俗ヲ異ニシ、従テ給水量亦彼ノ如キ多量ヲ要セサルヘシ、現実横浜水道ノ如キ一日一人ノ量十八ガロンニ上ラス、冬時ノ如キ十六ガロンヲ以テ足レリトスト、然レトモ家事用水ニ於テハ我風習却テ彼欧米人ヨリ多量ノ水ヲ費ス事アリ、実際我用量ハ彼用量ヨリ少キ事ヲ断言シ得ヘカラス、況ンヤ我都府ニ於テ文明ノ事業漸ク増進スルニ於テハ、逐年多量ノ水ヲ要スル事欧米諸国ノ実例ニ徴シ疑フヘカラサルモノトス、横浜ノ実験未タ以テ標準ト為スヘキモノニアラス、此設計ハ一日一人ノ給水量ヲ四立方尺即廿四、九四ガロント定メタリ
　　　　工事ノ設計
　水源ハ既ニ玉川ト定リタルモ、其引水口ハ羽村ヲ以テ適当トナスヤ否ヤヲ決スルニハ、羽村ヨリ上流ニ於テ汚水ノ玉川ニ侵入スル事ナキヲ確知セサル可ラス、今其実地ヲ検視スルニ、前述ノ如ク一二ノ注意ヲナストキハ其汚染ノ恐ナキヲ以テ、従前ノ如ク羽村ニ引水口ヲ設ケ、従前ノ水渠ヲ経テ水ヲ東京市街ニ導ク事トナシタリ、今水渠ヲ改良スルトキハ沈澄池ノ設置ヲ要セサルカ否ハ一問題タリト雖モ、玉川ハ暴雨ノ後其水甚タ混濁スルヲ以テ、水渠ヲ改良スルモ尚沈澄池ノ必要ナル事明ナリ、故ニ其水渠全部ノ改良ハ之ヲ他年ニ譲リ、今日ニ其必要ヲ見ル事ナシ
　沈澄池及濾池等ノ位置ヲ定ムルニ先チ、自然流下法ト喞水法トノ二法孰レカ適当ナルヤ、殊ニ費用ノ多少ニ就キ其優劣ヲ判定セサル可ラス、自然流下法ヲ用フルニハ、相当ノ水頭ヲ有スル高地ヲ卜シ、沈澄池・濾池・配水池ヲ準備シ、一大鉄管ヲ布設シ、自然ノ重力ヲ以テ水ヲ市街ニ送ラサル可ラス、之ニ適スル地ハ、近クモ市街ヲ距ル十三英里ノ外ニ出テサレハ之ヲ得難シ、今十三英里ノ距離ニ直径六尺ノ鉄管ヲ布設スルノ費用ハ弐百万円ニ超過スヘシ、之ニ反シ喞水法ヲ用フルトキハ、市街ノ入口ニ沈澄池其他給水工場ヲ設ケ、喞水器械創設費五拾八万五千円ヲ要スルノミ、故ニ喞水器械ノ汽鑵ニ要スル石炭ノ代価及器械ノ損耗其他修繕ノ費用ヲ算入スルモ、弐百万円ニ達スル事遥ニ遠シトス、依テ経済上喞筒法ヲ自然流下法ニ優レリト為シ、之ヲ用フルニ事ニ決セリ
　喞水法ヲ用フルニ就キ、給水工場（ウヲーターウオクス）ヲ設クルニ適当ナル地ハ、千駄ケ谷村旧戸田邸及其近傍ヲ以テ適当トス、工場ニハ（第一）沈澄池（第二）濾池（第三）配水池（第四）東京市区ニ配水スルニ足ルヘキ喞力ヲ有スル器械等ヲ設置スヘシ
　沈澄池ハ人口百五十万ニ対スル三日分ノ給水量、即チ一千八百万立方尺ヲ貯フル為先ツ三個ヲ設置スヘシ、尚必要ト認ムル場合ニ於テハ其貯水量ヲ増シテ四日或ハ五日分ニ至ルモ、之ヲ増設スルハ其容易ナリトス、各池ノ平面積ハ一万二千三百七十六坪ナルヘシ、濾池ハ濾水ノ速度ヲ毎二十四時ニ八尺ヲ超過セシメサルヲ必要トス、而シテ其平面積各二千百五十八坪ノモノ八個ヲ設置ス
　配水池ハ四百万立方尺ヲ貯フヘキモノ二個ヲ設置シ、即百五十万人ニ対スル一日半ノ給水量ヲ貯フヘシ、其平面積ハ六千五百四十坪ナルヘシ
 - 第28巻 p.105 -ページ画像 
　給水工場ニ要スル地面ハ、前記ノ外官舎・器械場・石炭倉庫・砂置場・道路・排水路等、及将来増設スヘキ沈澄池・濾池・配水池ノ用地ヲ合シテ大約十二万坪ナルヘシ、給水工場即喞水場ハ東京全市街ニ給水スル為メ、一個所ニ設クヘキカ、又数ケ所ニ分設スヘキカハ一大問題タリト雖モ、之ヲ数ケ所ニ分設スルトキハ必ス之ヲ市区内ニ置カサル可ラス、然ルトキハ喞水場ノ構造モ亦市区ノ美観ヲ損セサル迄ニハ多少ノ虚飾ヲ要シ、且毎一ケ所ニ水塔ヲ付属セシメサルヘカラス、是実ニ巨大ノ費用ヲ要スヘシ、之ヲ一個所ニ設クルトキハ圧力ヲ制限シ、喞水ノ速力ヲ適当ニスル為メニ一個ノ水塔ヲ以テ足レリトス、故ニ一個所ノ喞水場ヲ旧戸田邸ニ設ケ、全市区ニ配水スルヲ以テ最便宜ニシテ経済ナリトス
　論者或ハ云、東京市区ノ地平ハ各所一様ナラサルヲ以テ、水圧高地ニ過少ニシテ低地ニ過大ナルノ弊アルヘシト、然レトモ高地ハ概ネ給水工場ニ接近スルヲ以テ、本管及ヒ給水管ヲ大ヒニシテ可成其水準ヲ低減セシメ、低地ニアリテハ水準高キニ過ルカ故ニ、管ハ高地ニ布設スルモノニ比スレハ稍小ナルモノニテ所要ノ水量ヲ供給シ得ヘキヲ以テ、給水工場ニ於テ低地ニ給スル水ヲ高地ニ給スル水ト同高ニ汲揚シタル冗費ハ、鉄管代価ノ減少ヲ以テ之ヲ償フ事ヲ得ヘシ而シテ昼間ニ在リテハ水ノ需用最多ナルヘキニヨリ、各所ノ水準殆ント均一ナルヘケレトモ、夜間水ノ需用減少スルトキハ圧力漸ク低地ニ増加スヘシ、人口稠密火災最多キ低地、即チ下町ニアリテ夜間ニ此増加ノ圧力アルハ、消防用噴水ノ為メ一大便利ヲ与フルモノナリ、故ニ地ノ高低ニヨリテ水圧ニ多少アルハ設計上毫モ顧慮スル所ナシ
　喞筒ハ之ヲ三組トナシ、総計凡ソ二千実馬力ノモノヲ用ヰ、水ヲ海面上凡ソ百八十尺ノ高ニ汲揚シムヘキ装置ニシテ、水塔ニハ鉄製堅立管ヲ用ユヘシ、喞筒三個ノ内一個ハ予備ニシテ、他ノ一個ハ水ノ需用最多ノ時ニ使用シ、不断使用スルモノハ一個ニ止マルヘシ
　水ヲ地面上ニ噴出セシムルノ高サハ、最高地ニ於テ通常八十尺（最低ナルトキモ六十尺ヲ下ラス）低地ニ於テハ通常百二十尺（最低ナルトキモ百尺ヲ下ラス）ナラシムルヲ目的トシ、本管ノ直径ヲ定メタリ
　此一個所ノ喞水場ヨリ配水スル、本管ハ直径四十二インチ乃至十六インチニシテ、之ヲ五線ニ分チ、第一線ハ牛込・小石川・本郷、第二線ハ神田・下谷・浅草・本所・深川、第三線ハ四谷・麹町、第四線ハ日本橋・京橋・芝ノ一部、第五線ハ赤坂・麻布・芝ノ一部区ニ配水ス、其延長合計三十五英里四分ノ一、支管ノ延長合計四百英里トス、消火栓ハ各四百五十尺ノ距離ニ平均一個ヲ設置スルノ割合ニシテ、合計五千個、其他柱形消火栓ニ七十個、公園及街衢ニ設置スル共用栓ハ合計二千五百個ナリ住家用ノ共同栓ハ、従来共用上水井ノ例ニ従ヒ、地主若クハ家主ヨリ其設置費ヲ支出セシムルノ計画ニ付、之ヲ除ク沈澄池・濾池・配水池等ノ位置、広狭及本管ノ線路等ハ、略図ヲ附シテ参照ニ便ス
　此設置ノ工事ヲ完成スルニハ五ケ年ヲ要スヘシ、今其期限ヲ短縮シテ三ケ年トナスヲ得ヘシト雖トモ、速成ノ工事ハ経済上得策トナス
 - 第28巻 p.106 -ページ画像 
事能ハス、沈澄池・濾池・配水池・喞水器械等ノ設置ハ、三ケ年ニ於テ之ヲ終了スルモ、支管ノ布設其他ノ装置ヲ完了スルニハ尚二ケ年ヲ要スルモノナリ
　本邦ニ於テ購求スヘキ材料及勤労ノ費用予算ハ、全ク倉田ノ調査セル物価表ニ依リ、輸入材料ノ価額ハ之ヲ精算スル事甚タ難シ、外国ニ於テハ時々物価ノ変動スルト共ニ、其運搬費モ昇降スルカ故ナリ此ノ予算ヲナスニ当リ、成ルヘク其実際ニ近キモノヲ得ンカ為メ、ヂヤーダイン・マチソン会社々員及レードロー・エンド・ソン会社ノ支配人ト協議シ、多量ノ購入品代価割引及運送賃ノ割合並ニ今後四五ケ年間物価高低ノ見積ヲ得、之カ算出ノ助ト為シタリ、ヂヤーダイン・マチソン会社ハ欧洲及東洋ニ於テ工事ノ受負ヲ為シ頗ル好評ヲ有シ、レードロー・ヱンド・ソン会社ハ英国大会社ノ一ニシテ殊ニ水道工事ヲ以テ専務トナスモノナリ
　輸入材料ノ価額予算ハ、英貨壱磅ヲ六円五拾銭ト見積リタリト雖トモ、貿易ノ時期ニ依リ差異ヲ生スル事勿論ナリ、又輸入材料ハ政府用ナルヲ以テ輸入税ノ賦課ヲ要セサルヘシト思考シ之ヲ算入セス
　喞水機械其他附属具ノ品等及鉄管ノ性質等、総テ最上等ノモノヲ用フ
　此予算ヲ為スニ当リ予備費ハ充分ニ之ヲ見積リ、工事ノ姑息粗略ニ流レン事ヲ堅ク予防セリ、又此水道ハ世界ノ一大工事ニシテ多量ノ材料ヲ要シ、多数ノ工夫ヲ使役スルモノナルカ故ニ、輸入材料ハ広ク之ヲ外国市場ニ募リ競争セシムルトキハ、其代価ハ割引ヲ以テ之ヲ減却スル事ヲ得、且ツ内国産ノ材料及其ノ他ノ工費ニ於テモ、広ク信用アル受負人ニ就キ入札法ヲ用フルトキハ其金額ハ予算ヨリ低下スル事ヲ得ヘシ、然レトモ此等ノ減額ハ予算ニ算入セス、左ニ掲クル予算ハ其大数ヲ示スモノニシテ、着手ノ日ニ於テ之ヨリ減少スルモ、決シテ超過スル事アラサルヘシ
　　　　工費概算
　一合金六百八拾六万七千百九拾五円
　　　　　内訳
　　一金弐百四拾六万七千三百九拾四円　　　鉄管代
　　　　内径六吋　　長九呎　　二十三万四千六百七十本
　　　　同十吋　　　同　　　　千三百五十九本
　　　　同十六吋　　長十二呎　九百七十六本
　　　　同二十一吋　同　　　　千四百六十五本
　　　　同二十四吋　同　　　　千三百五十本
　　　　同二十七吋　同　　　　二千七百三十三本
　　　　同三十吋　　同　　　　二千九百四十本
　　　　同三十二吋　同　　　　二千百五十二本
　　　　同四十二吋　同　　　　二千六百二十二本
　　一金弐拾壱万千九百六拾壱円拾銭　　　　阻水弇代
　　　　内径六吋　　　五千八百個
　　　　同十吋　　　　　　　九個
　　　　同十六吋　　　　　　九個
 - 第28巻 p.107 -ページ画像 
　　　　同二十一吋　　　　十三個
　　　　同二十四吋　　　　十二個
　　　　同二十七吋　　　二十五個
　　　　同三十吋　　　　二十七個
　　　　同三十二吋　　　　二十個
　　　　同四十二吋　　　二十四個
　　一金三千百四拾円　　　　　　　　消火兼用共用栓七十個ノ代（設置費共）
　　一金拾壱万弐千百弐拾五円　　　　専用消火栓五千個ノ代（同断）
　　一金壱万千弐百拾三円　　　　　　消火用栓附属竪管五百個ノ代
　　一金弐万八千〇三拾壱円弐拾五銭　共用栓二千五百個ノ代（設置費共）
　　一金拾弐万七千七百九拾八円　　　沈澄池・濾池・配水池用鉄管、阻水扉等ノ代（設置費共）
　　一金五拾八万五千円　　　　　　　喞筒・汽缶・機関ノ代、工場建築費・機械設置費
　　一金百七拾壱万五千四百九拾九円　濾池・沈澄池・配水池築造費
　　一金拾弐万三千円　　　　　　　　給水工場敷地買上代
　　一金百〇八万七千弐百弐拾四円六拾四銭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　鉄管布設費
　　一金六万七千八百円　　　　　　　役員給料
　　一金三拾弐万七千〇九円〇壱銭　　予備費
　　　　年割支出予算
　　　　　　輸入材料
　一金百六拾七万八千弐拾六円　　　　　　　第一年
　一金百五万八千三拾八円弐拾五銭　　　　　第二年
　一金七拾三万七千七百弐拾壱円弐拾銭　　　第三年
　一金四拾八万八千四百拾壱円弐拾五銭　　　第四年
　一金　　　　　　　　　　　　　　　　　　第五年
　　合計金三百九拾六万二千百九拾七円三拾五銭
　　　　　　内地購入材料及勤労価額
　一金七拾九万壱千弐百四拾六円六拾四銭　　第一年
　一金六拾七万壱千弐百四拾弐円　　　　　　第二年
　一金六拾五万三千四百九拾弐円　　　　　　第三年
　一金弐拾三万壱千〇〇四円　　　　　　　　第四年
　一金弐拾三万一千〇〇四円　　　　　　　　第五年
　　合計弐百五拾七万七千九百八拾八円六拾四銭
　一金三拾弐万七千九円壱銭　　　　　　　　予備費　但全額ノ五分
　総計金六百八拾六万七千百九拾五円

　　　　上水設計附案
　東京市区ニ供給スル水道ノ設計ハ、本報告書ニ述ヘタル如ク人口百五十万人ニ対シ一日ニ付平均四立方尺ノ水ヲ供給シ、全市街ノ長大約ソ四百八十哩ニ本管長三十四哩七分・支管長四百哩ヲ布設スルモノトセリ、然ルニ其費額ノ幾分ヲ減スルカ為メ姑ク先ツ其最急要ナルモノヲ調査セシニ、図面ニ示ス如ク日本橋・京橋・神田及ヒ芝ノ一部ノ如キ人口稠密ナル所ニハ毎街衢ニ支管ヲ布設シ、其他ハ当分需用ヲ欠サル丈ニ止メ、稍其布設線路ヲ減スルモノトシテ、所要支
 - 第28巻 p.108 -ページ画像 
管ノ延長二百六十八哩ヲ得タリ、本管ハ牛込・小石川・本郷ニ至ル線路ヲ富坂下ニ止メ、十二吋及十吋ノ二管ヲ以テ本郷区ニ供給シ、神田・下谷・浅草・本所及ヒ深川区ニ至ル線ノ内、浅草区ノ本管ハ之ヲ吾妻橋通ニ止メ、本所本管ハ相生四五丁目界ニ止メ、之ヲ代フルニ十四吋一本及ヒ十吋二本ヲ以テシ、深川本管ハ十間川海辺橋ニ止メ、之ニ代フルニ十吋管ヲ以テセリ、日本橋・京橋及ヒ芝ノ一部ニ至ル本管ハ本設計ヲ変換セス、赤坂・麻布及ヒ芝ノ一部ニ至ル本管ハ古川四ノ橋ニ止メ、之ニ代フルニ十吋及ヒ九吋ノ二管ヲ以テセリ、四ツ谷及ヒ麹町ニ至ル本管ハ給水工場ヨリ四ツ谷門ニ至ル線路ヲ廃シ、四ツ谷区ハ小石川本管及ヒ赤坂本管ヨリ供給シ、麹町区ハ神田本管ヨリ供給スル事ト為シ、本管ノ延長総計三十二哩七分ヲ得タリ、但シ本設計ノ本管ハ他日上水需用ノ増加ニ従ヒ之ヲ布設スヘキモノナルヲ以テ、其線路ヲ避ケテ仮本管ヲ布設シ、向来ハ之ヲ支管トシテ使用スヘキ設計ナリ
　此計画ニヨリテ工費ヲ概算スルニ
　　総計金五百八拾八万八千弐百九拾九円〇八銭
　　　　内訳
　　一金百九拾万三千九百九拾円六拾銭　　　鉄管代
　　一金拾五万千百七拾四円四拾銭　　　　　阻水弇代
　　一金七万六千五百三拾七円六拾八銭　　　（消火栓代）設置費共三千四百十三個分
　　一金壱万千弐百拾弐円五拾銭　　　　　　消火栓用立管五百本ノ代
　　一金弐万八千〇三拾壱円弐拾五銭　　　　共用栓弐千五百個ノ代
　　一金拾弐万七千七百九拾八円　　　　　　沈澄池及濾池用鉄管阻水扉ノ代取附費共
　　一金五拾八万五千円　　　　　　　　　　喞筒機関汽缶等ノ代（器械設置）費及工場築造費共
　　一金八拾壱万七千八百六拾円四拾六銭　　鉄管布設費
　　一金百七拾壱万五千四百九拾九円　　　　濾池沈澄池築造費
　　一金拾弐万三千円　　　　　　　　　　　敷地買上費
　　一金六万七千八百円　　　　　　　　　　給料
　　一金弐拾八万〇三百九拾五円拾九銭　　　予備費
　今本報告書ヲ進呈スルニ当リ、更ニ此附案ヲ草シテ参考ニ供ス

　　　　「バルトン」「パーマー」両氏上水設計ノ比較概略
　　　　　　給水量
　「バルトン」氏ノ設計ハ一人一日ノ給水量ヲ四立方尺トシ、人口百五十万人ニ供給シ、人口漸ク増殖シテ二百万人ニ達スルモ別ニ工事ノ拡張変更ヲ要スル事ナク、尚一人ニ付一日三立方尺ヲ供給スルヲ得ルモノナリ
　「バーマー」氏ノ設計ハ一人一日ノ給水量ヲ十七ガルロン即チ二、七二立方尺トシ、人口百三十三万三千三百三十三人ニ供給スルモノナリ、人口増加スルニ従テハ更ニ工事ノ拡張ヲ要スヘシ、此大体ノ基礎ニ於テ右ノ差異アルトキハ随テ給水工場即濾池・沈澄池・配水池等ニ於テ其差異ヲ生スル固ヨリ免ルヘカラサル事ナリトス
　（比較）「バルトン」氏ノ給水量ハ「パーマー」氏ノ給水量ヨリ多キ事最初ノ量一人ニ付一日一、二八立方尺ニシテ、一日ノ総量二
 - 第28巻 p.109 -ページ画像 
百三十七万三千三百三十四立方尺ナリ、而シテ人口二百万人ニ達スルモ尚其量ノ多キ事一人ニ付一日奇零二八立方尺ニシテ、一日ノ総量五十六万立方尺ナリトス
　　　　　　沈澄池
　「バルトン」氏ノ設計ハ、人口百五十万人ニ対スル三日分ノ給水量即千八百万立方尺ヲ貯フヘキモノニシテ、沈澄ノ時間ヲ七十二時間トス、人口二百万ニ増殖スルモ一人一日三立方尺ノ割合ヲ以テ、沈澄時間ハ尚七十二時ノ長キヲ保ツヲ得ヘシ
　「パーマー」氏ノ設計ハ、最初ハ百三十三万三千三百三十三人ニ対スル十五時間分ノ給水量、二百二十六万六千六百六十六立方尺ヲ貯フヘキモノニシテ、沈澄ノ時間ヲ十五時間トス、人口増加シテ二百万人ニ達スルニ及テハ、十六時間分ノ給水量即三百六十二万六千六百六十六立方尺ヲ貯フモノニシ、沈澄ノ時間ヲ十六時間トス
　（比較）「バルトン」氏沈澄時間ハ、「パーマー」氏沈澄時間ヨリ多キ事最初ハ五十七時間ニシテ、人口二百万ニ達スルトキハ五十六時間ナリ、容量ノ大ナル事ハ最初ハ千五百七十三万三千三百三十四立方尺ニシテ、人口二百万人ニ達スルモ尚大ナル事千四百三十七万三千三百三十四立方尺ナリトス、而シテ「パーマー」氏設計ニ於テハ人口二百万ニ増殖スルトキニ増設スヘキ工費ハ之ヲ予算中ニ算入セス
　　　　　　濾池
　「バルトン」氏ノ設計ハ、人口百五十万人ニ対スル四立方尺ノ給水量、即一日六百万立方尺ノ水量ヲ、二十四時間毎ニ十一尺九寸ノ速力ヲ以テ濾過セシムヘキ為メ、七万三千百七十五平方尺ノ濾池八個（内一個ハ予備）ニシテ、総面積五十八万五千四百平方尺ノモノヲ造ルヘキモノナリ
　「パーマー」氏ノ設計ハ人口百三十三万三千三百三十三人ニ対スル二、七二立方尺ノ給水量、即一日三百六十二万六千六百六十六立方尺ノ水量ヲ、二十四時間毎ニ十六尺ノ速力ヲ以テ濾過セシムヘキモノニシテ、五万六千七百九十四平方尺ノモノ五個（内一個ハ予備）総面積二十八万三千九百七十平方尺ノモノヲ造リ、人口増殖シテ二百万人ニ達スルトキハ、之ヲ増設シテ八個トシ（内二個ハ予備）総面積ハ四十五万四千三百五十二平方尺ナルヘシ
　（比較）「バルトン」氏ノ濾過速力「パーマー」氏ヨリ少ナキ事毎二十四時間ニ四尺一寸ニシテ、濾池面積ハ最初「バルトン」氏ノ方広キ事三十万千四百三十平方尺ニシテ、人口二百万人ニ達スルモ、尚広キコト十三万千四十八平方尺ナリ、而シテ「パーマー」氏ノ設計ニ於テハ、増設スヘキ濾池ノ費用ハ予算中ニ算入セス
　　　　　　配水池
　「バルトン」氏ノ設計ハ人口百五十万人ニ対スル一日四立方尺（即チ二百万人ニ対スル三立方尺）ノ給水量一日半分、即チ九十万立方尺ヲ貯フヘキモノトス
　「パーマー」氏ノ設計ハ人口二百万人ニ対スル一日二、七二立方尺
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ノ給水量十時間分、即チ二百二十七万千九百二十立方尺ノ水量ヲ貯フヘキモノトセリ
　（比較）「バルトン」氏ノ給水量ノ多キ事六百七十一万八千八十立方尺ナリ
　「パーマー」氏ハ、以上ノ三池ニ対シ人口二百万ニ上ルトキハ増設スルノ見込ニテ、其費用ヲ三拾万円ト記載スレトモ「バルトン」氏ノ設計ヲ推シテ之ヲ比較スルトキハ、此額ハ増設用ニ充ツルニ不足ナルヘシ
　　　　　　喞筒
　「バルトン」氏ノ設計ハ喞水器械場ヲ旧戸田邸ニ置キ、水ヲ地盤ヨリ八十尺ノ高サニ汲揚シ、水塔ヲ玆ニ設ケ、之レヨリ五線路ノ本管ニ送水ス、喞筒ハ三組ニシテ、内一組ハ予備、一組ハ需用水量最多ノ時ニノミ之ヲ使用シ、不絶使用スルモノハ只一組ノミ、器械力総計ハ大約二千馬力ナリ
　「パーマー」氏ノ設計ハ、水塔ヲ府下ノ三ケ所ニ設ケ、喞水器械三組ヲ旧戸田邸ニ設置シ、各水塔ニ附属スルモノトセリ、而シテ第一及ヒ第三水塔ノ為メニハ、水ヲ汲揚スル事地盤ヨリ七十四尺、第二水塔ノ為メニハ二十四尺ニシテ、之ヲ要スル器械力ハ合計六百四十馬力ナリトス
　（比較）「バルトン」氏ノ設計ハ鉄製水塔一ケ所、「パーマー」氏ノ設計ハ煉瓦或ハ石造ノ水塔三ケ所、「バルトン」氏ノ設計ニテハ人口百五十万人ニ対スル四立方尺ノ全水量ヲ地盤上八十尺ノ高サニ汲揚シ、「パーマー」氏ノ設計ニテハ、人口百三十三万三千三百三十三人ニ対スル全水量ノ三分ノ二ハ之ヲ地盤上七十四尺ノ高サニ汲揚シ、其三分ノ一ハ之ヲ地盤上二十四尺ノ高サニ汲揚ス、器械力ハ「バルトン」氏二千馬力ノ内、其三分ノ一ハ予備「パーマー」氏六百四十馬力ノ内、其四分ノ一ハ予備ナルカ故ニ、「バルトン」氏ノ方多キ事八百五十三馬力ナリ
　　　　　　配水線路
　「バルトン」氏ノ設計ハ全市区ヲ五部ニ分チ、其一部ハ神田・下谷浅草・本所・深川、一部ハ牛込・小石川・本郷、一部ハ四谷・麹町一部ハ芝ノ一部分・日本橋・京橋、一部ハ芝ノ一部分・麻布・赤坂ニシテ、各部ニ所属ノ本管ヲ布設ス、本管ノ内径ハ十六インチ以上四十二インチ以下ニシテ、支管ハ平均六インチト概算セリ
　「パーマー」氏ノ設計ハ全市区ヲ三部ニ分チ、第一部ハ麹町ノ二分ノ一・赤坂・麻布・芝・京橋、第二部ハ日本橋・深川・本所・浅草第三部ハ麹町ノ二分ノ一・四ツ谷・牛込・小石川・本郷・神田・下谷ニシテ、給水工場ヨリ各水塔ニ到ル本管ハ、第一・第三ノ両部ニ於テハ内径二十七インチ二本ツヽヲ使用シ、第二部ニ於テハ内径三十六インチノ管ヲ使用シ、水塔ヨリ各市街ニ送水スル本管ハ九インチ以上二十インチニシテ、支管ハ三インチ以上六インチ以下ノモノヲ用ユ
　「バルトン」氏ノ設計ハ、本管二十四哩支管四百哩ナリ、「パーマー」氏ハ本管・支管ノ延長ヲ記載セス、故ニ精密ニ其比較ヲ見ル事
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能ハス
　　　　　　輸入品ノ代価
　「バルトン」氏ハ輸入品ノ代価英貨壱磅ヲ銀貨六円五拾銭ト計算シ
　「パーマー」氏ハ之ヲ六円四拾八銭六厘余ト計算セリ
　　　　　　海関税
　「バルトン」氏ハ輸入品ハ政府用ナルヲ以テ海関税ヲ算入セス、「パーマー」氏ハ輸出港ニ於ケル物品代価平均百分ノ五ヲ超過セサルノ海関税ヲ算入セリ
　　　　　　工費予算
　「バルトン」氏予算総計　金六百八拾六万七千百九拾五円
　　内
　　　輸入品代価　　　　　金三百九拾六万弐千百九拾七円三拾五銭
　　　内国費　　　　　　　金弐百五拾七万七千九百八拾七円六拾四銭
　　　予備（全額ノ五分）　金三拾弐万七千九円壱銭
　「パーマー」氏予算総計　金四百九拾壱万四千弐百弐拾円
　　内
　　　輸入品代価　　　　　金三百三拾五万六千四百拾三円
　　　内国費　　　　　　　金百三拾弐万三千弐百弐拾三円
　　　予備（全額ノ五分）　金弐拾三万四千五百八拾四円
　右二費ハ「バルトン」・「パーマー」氏共只其概算ヲ挙クルノミニシテ、詳細ノ費用ニ至テハ、之ヲ比較スル事能ハス、但「バルトン」氏ハ内国費ノ内鉄管布設費ヲ百八万七千弐拾四円六拾四銭ト記載シ「パーマー」氏ハ別ニ判然タル布設費ヲ掲クル事ナシ、或ハ遺脱セルモノカ未詳
○十九番銀林曰　委員ニ於テ上水ノ設計並其経費ヲ調ヘラレシカ、序ニ収入予算ノ取調モ願ヒタシ
○十六番長与曰　東京ニ於テ六百万円ヲ費ヤシ上水ヲ改良スルハ一大工事ニシテ、海外ニ於テモ既ニ評判ナシ居ルト聞ケリ、左レハ此報告書ヲ古市君ニ送リ、他ノ水道会社若クハ衛生会等ニ聞合セヲ請フテハ如何、又収入予算ノ調ハ東京府ト商工会トニ於テ取調ラルヽコトニ為シタシ
○委員長曰　然リ、其ハ容易ナルニ依リ、早速此報告書ヲ古市氏ニ送ルヘシ、又十九番ヨリ発議ニナリシ収入ノ調ヘハ必要故、五番・十九番・二十八番ニ上水収入予算取調委員ヲ煩ハストシ、本日ハ散会トセン
　　　于時午後第四時三十分