デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治22年5月7日（1889年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、神田錦町三丁目二番地先道路廃止ノ件、市区改正事業ノ内鉄道・魚鳥市場・青物市場・獣畜市場・屠場・火葬場等ノ費用ハ設立者又ハ所有者ノ負担トスベキ旨ノ府知事令達案、市区改正設計場所外ニアル火葬場・獣畜市場・魚鳥市場・青物市場移転ノ件、市区改正計画ノタメノ精密測量実施ニツイテノ予算案ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第二巻・第二二九―二三八丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第三十号
　　明治二十二年五月七日午後第二時開議
　　　　闕席　須藤時一郎　○外十二名氏名略
　　　　出席十五員（鉄道及築港ニ関スル臨時委員ノ出席ヲ要セス又本日ヨリ渡辺孝三十二番ノ席ヲ充タス）
○委員長曰　是ヨリ議事ヲ開カン
○上略
　　　書記左ノ訓令等ヲ朗読ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員会
　　別紙東京府知事伺神田区錦町三丁目二番地先道路廃止ノ件、其会議ニ付シ候条、意見申出ラルヘシ
 - 第28巻 p.117 -ページ画像 
　　右訓令ス
　　　明治二十二年五月七日　　内務大臣　伯爵　松方正義
　（別紙）
　　　　地所払下之儀ニ付伺
　　神田区錦町三丁目一番地・二番地ノ内、焼失跡地ニ準シ処分スヘキ旨訓第一七一号ヲ以テ御訓令相成候ニ付テハ、別紙図面淡紅色ノ地所不用ニ属シ候間、本年勅令第五号第三条ニ拠リ、此際廃道ノ上払下方取計度、見積書相添此段伺候也（別紙ハ略ス）
　　　明治二十二年五月七日
　　　　　　　　　　　　　　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　内務大臣　伯爵　松方正義殿
　　　○神田錦町三丁目二番地ノ内及神保町廃道払下地之図（附図第七）。
○二十八番渋沢曰　廃道地ノ坪数ハ若干ナルヤ
○十八番伊藤曰　三百七拾八坪六合四夕ナリ
○五番田口曰　是レハ姑ク売却ヲ見合セテハ如何
○十九番銀林曰　見合セル程必要ナキ様ニ思ハル
○五番田口曰　然ラハ今少シ代価ヲ高メテハ如何
○十九番銀林曰　地先地主ニ買収ヲ強ユルモノナルカ故ニ、拾弐円位カ相当ナラン
○四番福地曰　原案ニテ可ナリ
○五番田口曰　此辺ノ表坪ハ随分高価ナラン
○七番武藤曰　概ネ拾五円位ナルヘシ
○二十八番渋沢曰　此辺ハ決シテ坪拾円抔ノ直段ニアラサレハ、故ラニ安ク売ルノ必要ナシ、宜シク相当代価ヲ以テ払下クヘキナリ、買上代価ヲ高カメ売却代価ヲ故サラ低廉ニナスハ宜シカラス
○十九番銀林曰　彼レ地先地主ニ於テ払下ヲ希望スルモノナラハ、多少高クトモ差支ハナカルヘキモ、是レハ払下ヲ強ユルモノニシテ、加カモ半端ノ地所ナルヲ以テ、普通相場ヨリ少シハ低廉ニセサルヘカラス
○委員長曰　一体十九番ノ説ハ語弊アルカ故ニ、是非安ク売ラサルヘカラサルモノヽ如ク聞ユレトモ、其精神ハ決シテ左様ニアラス、此地ハ半端ニシテ他人ニ払下クルヲ得サル場所ナルカ故ニ、是非其地先地主ニ買ハシムルニ付テハ、是等ノ事情ヲ斟酌シタランニハ先ツ拾弐円位ニテ相当ナルヘシト言フノ意ナラン
○二十八番渋沢曰　成程普通代価ヲ以テ払下クル能ハサルヘキモ、拾弐円ニテハ余リニ安カルヘシ
○二十五番芳野曰　坪拾五円ハ此辺総体ヲ概括シタル平均相場ナルヘキモ、此地ハ今川小路抔ニ比シ余程劣等ノ地位ナルヲ以テ、原案ノ拾弐円ハ相当ナラン
○五番田口曰　併シナカラ拾弐円ハ余リニ安キ様思ハルヽナリ
○二十五番芳野曰　他ニ影響ヲ及ホスヘキニ依リ、十分考ヘラルル様致シタシ
○六番角田曰　壱坪拾三円ト修正セン
○二十五番芳野・三十二番渡辺・七番武藤並曰　六番ノ修正額ニテ宜
 - 第28巻 p.118 -ページ画像 
シカラン
○二十八番渋沢曰　拾五円位カ相当ナルヘシ、何ニトナレハ曩ニ此辺ヲ買上ケシ時モ拾五円位ナリセハナリ
○委員長曰　壱坪拾三円トスル説多数ナルニ依リ、右ノ修正ニ決スヘシ、偖テ曩ニ上申シ置キタル市区改正ノ設計認可ニナリシ旨通報アリタレハ、朗読セシムヘシ
　　　書記左ノ通知書ヲ朗読ス
　　東京市区改正設計、五月一日別紙改正之外悉皆認可相成候条、此段及御通牒候也
　　　明治二十二年五月七日　内務省総務局長　芳川顕正
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　（別紙）
　　一第一等道路第一類
　　　第一　万世橋西新架橋ヨリ、日本橋・京橋・新橋ヲ経テ第一等第二類線ニ接続スルノ路線
　　　修正幅員十五間《（太字ハ朱書）》　　　　幅員二十間
　　　第二　昌平橋ヨリ小川町ニ至リ、左折シテ錦町通リ、神田橋西新架橋ニ入リ、八代洲河岸通リ、日比谷門外埋立地及内幸町新架橋ヲ経テ、芝園橋ニ至ルノ路線ノ内
　　　修正　昌平橋ヨリ小川町ニ至リ、左折シテ錦町通リ、神田橋西新架橋迄
　　　　　　内幸町新架橋ヨリ芝園橋迄、
　　　　幅員十五間
　　　　　　但日比谷門ヨリ内幸町新架橋迄ハ幅員二十四間
○委員長曰　少々ノ改正アリタルノミナリ、而シテ次ノ案ニ移ラン
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　今回内閣ノ認可ヲ経タル東京市区改正事業ノ内、鉄道・魚鳥市場青物市場・獣畜市場・屠場及火葬場ニ係ル諸費ハ、総テ其設立者又ハ所用者ノ負担スヘキモノトス
○委員長曰　市区改正ノ設計ヲ公示スルニ方リ彼等或ハ疑ヒ、此費用ハ市区改正費ヨリ支出シ呉ルヽモノト為ストキハ大ニ不都合ナルニ依リ、本案ノ旨趣ヲ東京府知事ヨリ令達セシメント欲ス
　又曰　説ナクハ原案ニ決シ、次ニ移ラン
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　今回内閣ノ認可ヲ経タル東京市区改正ノ設計ニ於テ定メラレタル場所外ニアル火葬場・獣畜市場・魚鳥市場・青物市場ハ左ノ年限以内ニ移転セシムヘキモノトス
　　　但魚鳥・青物市場ハ、移転スヘキ場所若クハ現在ノ場所焼失等ノ節ハ、此年限以内ト雖モ移転セシムルモノトス
　　一、火葬場　　　　　五ケ年以内
　　一、獣畜市場及屠場　十ケ年以内
　　一、魚鳥・青物市場　十五ケ年以内
○委員長曰　是ハ公衆衛生上ヨリ、是非斯ノ如ク年限ヲ定メサルヲ得サルヘシ
○七番武藤曰　獣畜市場及屠場ハ十ケ年ハ要スマシ
 - 第28巻 p.119 -ページ画像 
○四番福地曰　魚鳥・青物市場ハ十ケ年ニテ然ルヘシ
○二十五番芳野曰　川ヲ埋立、敷地ヲ拵ヘサルヲ得サルニ依リ、原案ノ年限ヲ相当ト考フ
○五番田口曰　十五ケ年ノ猶予ハ与ヘサルヘカラス
○四番福地曰　日本橋ト浜町トノ事業ハ、同時ニ起サヽルヲ得スト考フ
○七番武藤曰　獣畜市場ハ五ケ年トスヘシ
○十九番銀林曰　屠畜場ハ随分資本金ノ掛リ居ルモノナルヤ、十四番ヨリ承リタシ
○十四番前田曰　僅カノ資本ヲ要スルニ過キス
○二十八番渋沢曰　成ルヘク年限ノ短キヲ欲スルニ依リ、獣畜市場及屠場ハ五ケ年ニテ可ナリ
○委員長曰　獣畜市場及屠場ヲ五ケ年トスルノ説多数ナルニ依リ、右ニ決ス
○七番武藤曰　魚鳥・青物市場ハ七年トスヘシ
○二十八番渋沢・四番福地並曰　十年ニテ可ナラン
○五番田口・二十五番芳野並曰　原案ヲ可トス
○一番桜井曰　余リ年限ヲ縮ムルトキハ必ス苦情アルヘキニ依リ、原案通リ十五年トスルヲ可トス
○四番福地曰　魚市場ヨリモ日本橋ト言フ所ヲ速ニ改正セサルヘカラサルニ依リ、十年ト修正スルヲ可トスルナリ
○十番鬼頭曰　現在場所ノ存スルニモ拘ハラス、移転先キノ焼失セル故ヲ以テ、直チニ転セシムルハ、甚ダ酷ナルヘキニ依リ、此但書ハ「現在場所焼失ノ時ハ此年限以内ト雖モ云々」ト改ムヘシ
○十五番桐原曰　現在ノ場所ニシテ焼失ニ罹ラハ、其際移ストナシテ可ナラン
○四番福地曰　移転先キノ焼ケサル間ハ移転シ得サルニアラスヤ
○二十八番渋沢曰　然ラハ「移転セシムヘキモノト」ト言ヘル命令詞ヲ廃シ、「移転セシムルヲ得ルモノトス」ト改メナハ可ナラン
○一番桜井曰　「十五年以内」トアルカ故ニ、別段「得ル」ノ文字ヲ挿入スルノ必要ナカルヘシ、又但書モ移転先ト現在場所ト、両ツナカラ掲ケ置方然ルヘシ
○四番福地曰　火災ニ罹リテ困難ヲ極ムルニモ拘ハラス、高価ノ土地ヲ買上ケ移転セサルヘカラスト云フハ、随分困却ノ次第ナリ、故ニ中洲カ焼失セハ直ニ移転セシメ、而シテ其跡ヲ直ク市区改正費ニテ買上クルコトニナサハ、大ニ都合宜シカルヘシ
○一番桜井曰　移転跡ハ市区改正費ニテ買上クルヤ否ヤハ期セラレス
○二十八番渋沢・十七番成川並曰　寧ロ但書ハ削除スヘシ
○委員長曰　最早決ヲ取ルヘシ、獣畜市場及屠場ヲ五ケ年トスル説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十四人
　又曰　多数ニ依リ、五年ト修正スルコトニ決ス、次ニ魚鳥・青物市場ヲ十年トスル説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十二人
 - 第28巻 p.120 -ページ画像 
　又曰　多数ニ依リ十年ト修正スルコトニ決ス、次ニ但書ヲ削除スル説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十三人
　又曰　多数ニ依リ削除ニ決スヘシ
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　市区改正ノ計画公告ノ上ハ其設計ヲ示スヘキ実地標杭等取設ケヲナサヽルヘカラス、然ルニ精密ナル測量ヲ遂ケタル製図ナキニ於テハ、支障少ナカラサルノミナラス、上水・下水改良ノ設計上ニモ精密ノ図面ヲ要スルニ由リ、此際右測量ニ従事セシメントス、但其費用予算左ノ如シ
　　　市区改正線路長延二十七万二千七十四間測量並製図費予算
　一金千弐百三拾六円　　　　　　　　測量並製図費
　　　　内訳
　　金四百五拾円　　　　　　　　　　　雇給
　　　但測量人足延千八百人一人一日金弐拾五銭
　　金七百八拾六円　　　　　　　　　　備品並消耗品費
　　　但野帳七十冊一冊金弐拾五銭此金拾七円五拾銭　○鉄杭二千本一本金弐拾銭此金四百円　○木杭一本金壱銭此金弐拾円　○測桿三十本一本金四拾五銭此金拾三円五拾銭　○器械修繕費金百弐拾円　○図紙六百枚百枚金弐拾五円此金百五拾円　○製図裏打布紙及経師職手間代共金五拾円　○雑費並消耗品費金拾五円
○六番角田曰　製図丈ケノ費用ナルヤ
○十八番伊藤曰　測量並製図ノ費用ナリ
○九番田坂曰　如何ナル測量ヲ為スヤ
○十八番伊藤曰　従前地理局ニ調査サレタル大小三角点モアリ、又完全ナル図面モアルヲ以テ、其レヲ斟酌シテ不足ヲ補ハント欲スルナリ
○七番武藤曰　標杭ハ測量ト製図ノ出来サル間ハ、建ツルコトヲ得サルヤ
○十八番伊藤曰　測量ヲ為シナカラ杭ヲ打チ、而後ニ図ヲ製スルノ手順ナリ、且ツ其杭ノ種類ハ木杭モアリ、又鉄杭モアルナリ
○二十五番芳野・六番角田・七番武藤並曰　測量ハ人ヲ増スモ苦シカラサルユヘ、成ルヘク速ニ成功セラルヽ様致シタシ
○二十八番渋沢曰　測量ハ凡ソ何ケ月位掛ルノ見込ナルヤ
○十八番伊藤曰　道路ノ延長弐拾七万間余モ之レアルカ故ニ、三組ニ分テ着手セシムルモ、到底一年間ヲ要スルノ見込ナリ
○四番福地・七番武藤・二十八番渋沢並曰　少シ位ノ費用ハ増スモ、技手ヲ増員シテ速ニ測量ヲ了ヘラルヽ様ニナシタシ
○一番桜井曰　近来田舎ニ於テ高給ヲ以テ測量者ヲ雇入ルヽカ故ニ、都下ニハ殆ト一人タモ居ラスト言フ有様ニテ、測量技手ノ少ナキニハ頗ル困却セリ
○委員長曰　別ニ異議ナクハ原案ニ決ス、是ニテ散会トセン
　　　于時午後第三時三十五分

 - 第28巻 p.121 -ページ画像 

東京市区改正委員会議事録　　第二巻・第二三九―二四九丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第三十一号
　　明治二十二年六月七日午後第二時開議
　　　　闕席　藤田茂吉　　　武藤直中　　和田維四郎
　　　　　　　田坂虎之助　　斯波有造　　村上楯朝
　　　　　　　沼間守一　　　古市公威　　犬養毅
　　　　　　　益田克徳　　　渋沢栄一
　　　　出席十六員　十番闕員（鉄道及築港ニ関スル臨時委員ノ出席ヲ要セス）
○委員長曰　是ヨリ議事ヲ開カン
　　　書記照会書等ヲ朗読ス
　　当府四谷区北伊賀町ノ内、昨夜焼失ニ罹リ候場所ハ市区改正ノ設計中第四等道路ニ係リ候間、別紙淡紅色ノ通取拡候積ヲ以テ費用概算候処、金弐千弐百六拾四円五拾三銭壱厘ヲ要スルノ見込ニ有之候間、二十二年度市区改正費ヲ以テ施行可致ト存候、御意見承知致度、此段及御照会候也（別紙ハ略ス）
　　　明治二十二年六月一日
　　　　　　　　　　　　　　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　　○四谷区北伊賀町焼失跡道路取拡之図（附図第八）。
○委員長曰　異議ナクハ原案ニ決ス
　　　書記左ノ照会書等ヲ朗読ス
　　日本橋区坂本町官有地避病院ノ儀ハ、廃院ノ為メ現今建物取払中ニ有之、然ルニ該地ハ別紙図面淡紅色之通リ、市区改正設計中坂本公園ニ該当候ニ付テハ、右取払之部分ハ此際公園地ト為シ計画可然ト存候、右ハ御意見承知致度、此段及御照会候也（別紙ハ略ス）
　　　明治二十二年六月六日
　　　　　　　　　　　　　　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　　○坂本町公園内官有地之図（附図第九）。
○四番福地・二番須藤並曰　異議ナシ
○委員長曰　是モ説ナクハ原案ニ決ス
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　本年閣令第十七号ヲ以テ東京市区改正委員会組織権限第四条ヲ改正セラレタルニ依リ、本年度委員会費中ヘ左ノ目ヲ増加セントス
　　一金千七百五拾円　　　　　　　　俸給
　　　但月俸六拾円・四拾円・三拾円・弐拾五円・弐拾円各一名ツヽ合五人十ケ月分
　　一金拾弐円五拾銭　　　　　　　　文具料
　　　但書記一名一ケ月金弐拾五銭ツヽ十ケ月分
　　合金千七百六拾弐円五拾銭
○二番須藤曰　此書記ハ何ニ使用セラルヽニヤ
 - 第28巻 p.122 -ページ画像 
○委員長曰　本会ノ書記ナリ、是ハ頃日閣令第十七号ヲ以テ本会ノ組織権限ヲ改正セラレシカ故ニ、本案ノ書記ヲ新タニ任用セント欲ス
○五番田口曰　現在ノ書記ハ何人ナルヤ
○十九番銀林曰　現時ハ東京府属官ヲシテ兼務セシメ居リテ、別ニ定員ナシ
○五番田口曰　六拾円ノ書記ハ何ニセラルヽヤ
○十五番桐原曰　此金額ハ市部会ノ議定ニ付セラルヽヤ
○十九番銀林曰　否ナ、常置委員会ニ付スルモノトス
○二番須藤曰　本会ハ取リ方ナルヲ以テ本案ノ如ク決シ置クヲ可トス其金額多寡ノ如キニ至テハ、常置委員会ノ議定ニ任スヘシ
○五番田口曰　常置委員会ニ於テ妙ナ決議ヲセラルヽトキハ随分困却スルナランカ、先ツ本案ニ決シ置カン
○委員長曰　然ラハ原案ニ決スヘシ
　　　書記左ノ案ヲ朗読ス
　　本会委員古市公威ニ兼テ依託セシ水道工事ノ件ハ、独乙国伯林府ニ於テ水道局長ノ審査ヲ需ムルカ為メ、其費用トシテ四千マルク二十二年六月一日大蔵省告示第四十八号ニ依リ計算スレハ、一マルク金三拾弐銭一厘我金千弐百八拾四円ヲ予備費ヨリ支出セントス
○委員長曰　府下水道工事ノ設計ハ、独乙国伯林府水道局長ノ審査ヲ求ムルノ手続ニナリタレハ、「四千マルク」ノ報酬ヲ要スル旨、古市公威ヨリ電報アリテ事実止ムヲ得サルヘシト思惟ス
○五番田口・二番須藤並曰　致方ナシ
○委員長曰　異議ナクハ原案ニ決ス
　　　書記左ノ照会書等ヲ朗読ス
　　小石川区関口台町六十八番地外七ケ所、民有地間ニ介在スル別紙図面之地所払下之義、接続地主ヨリ出願ニ依リ遂調査候処、該地ハ行止ノ路線ニシテ接続地ハ悉皆願人之所有地ニ有之、他ヘ通行等絶テ無之、廃止スルモ差支之筋無之ト認メ候ニ付、願意聞届可申ト存候間、市区改正設計上御差支無之哉承知致度、此段及御照会候也（別紙ハ略ス）
　　　明治二十二年六月六日
　　　　　　　　　　　　　　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　　○小石川関口台町六十八番地外七ケ所間道路廃止之図（附図第一〇）。
○二番須藤曰　是迄斯様ノ例アリシヤ、又其払下ケントスル土地ハ図面ニ幅員壱間三合ト記載シアル所ナルヤ
○十九番銀林曰　此例ハ是迄沢山アリシ、且ツ其払下ントスル土地ハ六拾坪壱合九勺ト記入シアル所ナリ
○二番須藤曰　両側ノ地主ニ分割払下ヲ為ス積リナルヤ
○十九番銀林曰　双方共ニ地主ハ一人ナリ
○二十五番芳野・二番須藤並曰　異議ナシ
○委員長曰　説ナクハ原案ニ決ス
　　　書記照会書等ヲ朗読ス
　　府下本郷区菊坂町通ヨリ台町ヘ達スル道路自費ヲ以テ変換之義、
 - 第28巻 p.123 -ページ画像 
接続地主ヨリ出願ニ依リ遂調査候処、在来路線之義ハ別紙図面ノ如ク屈曲迂回ニシテ通行不便ニ付、出願ノ如ク変換候方可然ト存候ヘ共、右ハ御差支無之候哉、御意見承知致度、此段及御照会候也（別紙ハ略ス）
　　　明治二十二年六月六日
　　　　　　　　　　　　　　東京府知事　男爵　高崎五六
　　　　東京市区改正委員長　芳川顕正殿
　　　○本郷菊坂町道路敷変換之図（附図第一一）。
○五番田口曰　之ヲ許可スルモ差支ナキヤ
○十八番伊藤曰　聊カ差支ナキナリ
○四番福地曰　図面ニ依レハ差支ナキ様ニ思ハル
○二番須藤曰　図面ニ示セル八拾七坪壱合五勺ノ道ヲ廃止シ、而シテ点線アル場所ニ新道ヲ設ケントスルノ積リナルヤ
○十九番銀林曰　然リ、此道路ハ車モ通ラス実ニ致方ナキノミナラス屈曲迂回ニシテ其不便尠ナカラサルヲ以テ、此際願意ヲ聞届ケ之ヲ変換シテ直線ニ開設スル方頗ル便利ナリト信ス
○二番須藤曰　新道ノ幅員ハ何間ナルヤ
○十九番銀林曰　弐間ナリ
○委員長曰　弐間ニテハ狭隘ノ如ク思ハルヽニ由リ、今少シク拡メテハ如何
○十九番銀林曰　費用ハ悉皆出願人ノ自費ナルニ由リ、旧道ヨリモ広キ道路ヲ設ケシムルコトハ出来能フマシ
○委員長曰　弐間幅ニテハ車馬ノ通行ニ差支アルヲ以テ、三間位ニナサシムルヲ可トス、若シ出願人ニ於テ之ヲ肯セサルトキハ、其変換ヲ許可セサルノミ
○五番田口曰　委員長ヨリ示サルヽ如クスヘシ
○二十五番芳野曰　弐間位ノモノハ邸内路次同様ニシテ、道路ト称スヘキモノニアラス
○十九番銀林曰　現在ノ幅員弐間ナレハ、出願人ニ向ヒ強テ三間幅ト為スコトヲ命スル能ハサルヘシ、彼レ若シ之ヲ拒ムトキハ甚タ不都合ナラン
○委員長曰　若シ承諾セサルトキハ其変換ヲ許サヽルノミニアラスヤ元来彼等カ此変換ヲ希望スル所以ノモノハ、蓋シ彼等ニ利トスル所アレハナリ、故ニ東京府庁ニ於テ三間幅トナスコトヲ諭シナハ、ヨモ否ナミハセサルヘシ、若シ旧道弐間幅ナルヲ以テ新道モ亦弐間幅ニテ可ナリト云ハヽ、新道ヲ設クルノ利ハ毫モ之レナキニアラスヤ
○二番須藤曰　邸内路次ノ如キモノハ不都合ナリ
○二十五番芳野曰　是等ハ等外道路ナルヲ以テ、出願人ニ向ヒ三間幅ト為スヘシトノ命令ヲ発スルモ不都合ナカラン
○委員長曰　邸内道路ト雖モ、家屋ノ改造法ニ伴フテ之カ制限ヲ定メラルヽ筈ナルヘシト思惟ス、況ヤ市区改正ヲ行フノ今日ニ方リ、是等ノ公道ヲシテ斯ル狭隘ノ新道ヲ設ケシムルハ抑モ不都合ノ次第ナレハ狭クモ三間幅ト為サヽルヘカラス、故ニ東京府庁ニ於テ此趣ヲ出願人ニ談スルモ、彼レ若シ之ヲ肯セサルトキハ其願意ヲ許可セサ
 - 第28巻 p.124 -ページ画像 
ルコトヽスヘシ
○五番田口曰　道路ノコトハ本会ノ決スル所ニ従ハサルヘカラス、私ハ委員長ノ云ハルヽカ如ク、其願人ニ於テ我々委員ノ見込ノ通リ三間幅ト為スコトヲ承諾セサルナラハ、此願書ハ斥クルヲ至当トスルナリ
○二番須藤曰　図面ノ如ク新道ヲ設クルハ頗ル好都合ナリトハ云ヘト弐間幅ニテハ如何ニモ狭隘ナラン、他日其両側ニ家屋ヲ結構シタランニハ必ス大ナル不便ヲ感スヘシ、故ニ委員長ノ云ハルヽ如ク三間幅ト為サシムルヲ可トスルナリ
○五番田口曰　諭シナハ必ス承諾スルナルヘシ
○十九番銀林曰　一応出願者ニ諭スヘシ、就テ予メ承知致シタキコトアリ、若シ右出願ニ於テ三間幅ト為スコトヲ承諾セシトキハ、再ヒ本会ニ之ヲ提出スルニ及ハサルヤ
○委員長曰　然ラハ東京府庁ニ於テ一応出願者ニ諭シ、彼レ之ヲ承諾スルトキハ、直チニ決行スルコトニ決シ置クヘシ
○二十五番芳野曰　曩ニ平沼氏ノ所有ナル旧学習院跡地ヲ買上シカ、其所ニハ文部省ノ用地アリテ同省ハ目下之ニ塀ヲ建設シツヽアルカ右様ノコトアリテハ道路ノ取拡上ニ於テ甚タ支障アルヘシト思料ス右ハ如何ナル次第ナルヤ
○十八番伊藤曰　東京府ヨリ文部省ニ向ヒ返地ノ照会ヲ為シタルニ、同省ハ之レニ対シ該地ハ商業学校ノ体操場ニ充用シツヽアルニ依リ只今返地ハ為シ難シ、併シ他日弥ヨ市区改正実施ニ至ラハ、其時ニ臨ンテ返戻スヘシトノ旨趣ナリキ、去リナカラ今ヤ既ニ実施ニ着手シ居ルヲ以テ、今一応照会ヲ為スノ積リナリ
○二十五番芳野曰　商業学校ノ体操場ニ使用中ナリトハ是レ其口実ナリ、私ノ目撃シタル所ニ依レハ全ク空地ナルヲ以テ、精々照会セラルヽ様致シタシ
○委員長曰　市区改正ノ設計ハ既ニ告示シ、現ニ実施ニ着手セルモノナレハ、厳重ニ照会ヲ遂ケ、速ニ返地セシムル様致スヘシ
○四番福地曰　私ハ玆ニ一ノ問題ヲ提出スヘシ、東京府ノ告示ニ依レハ市区改正ノ設計ニ係ル路線ノ建物ハ木造ニ限リアリテ、堅牢ノ建物ハ建築ヲ許サヽルモノヽ如シ、是レ蓋シ移転料ノ鮮ナカランコトヲ望ムノ精神ニ外ナラサルヘシ、果シテ然ラハ今其路線ニ於テ石造若クハ煉瓦造ノ家屋ヲ建築シ、他日立退ヲ命セラルヽトキハ、木造家屋ニ相当スル移転料ヲ下付セラレタシトノ旨趣ヲ以テ出願スルトキハ、之カ建築ヲ許可セラルヘキヤ否ヤ
○十九番銀林曰　四番ノ説ハ法ヲ活用スルモノニ付、強テ差支ハ之レナカルヘキ歟、去リナカラ其出願ニ対シ東京府限リ之ヲ聞届ルコトハ出来マシト思ハル
○委員長曰　彼ノ告示ニ対スル主権者ハ東京府知事ニアラスヤ、然ラハ則チ其主権者ニ於テ之ヲ許否シ何ノ不可カアラン、斯様ノ事柄ハ比々之レアルヘキニ依リ、十分研究スルヲ可トス
○四番福地曰　出願ヲ為サス石造家屋ヲ建築シタランニハ、如何ニ処分セラルヘキヤ
 - 第28巻 p.125 -ページ画像 
○十九番銀林曰　別ニ何等ノ制裁ナシ、只立退ヲ命スル場合ニ於テ移転料ヲ給セサルノミ
○四番福地曰　私ハ東京府カ此出願ニ対シ許可セラルヽモ更ニ差支ナシト思惟ス
○二十五番芳野曰　其土地ハ凡若干ノ価値アルヤ
○四番福地曰　土地・家屋ヲ合セテ凡ソ拾万円ナリ、是レハ木挽町ナル自分ノ所有地ナリ
○委員長曰　出願者ニ於テ石造ノ家屋ヲ建築スルモ、其移転料ハ木造家屋相当ノ料金ニテ苦シカラスト云ハヽ、別ニ規則ヲ変更セサルモ東京府知事ニ於テ之ヲ許可シ更ニ差支ナカルヘシ
○二十五番芳野曰　将来随分起ルヘキ問題ナルニ由リ、十八番・十九番ニ於テ篤ト取調ヘラレンコトヲ望ム
○六番角田曰　出願者自身ニシテ（損をするも構はぬ）ト云フ以上ハ之ヲ許可スルモ敢テ不都合ナカルヘシ
○二十五番芳野曰　石造煉瓦造ノ家屋ヲ建築セントスルノ出願アルトキハ最初ニ其家屋ノ代価ヲ木造相当ノ金額ニ積ラセ置ク方然ルヘシ
○四番福地・十五番桐原並曰　二十五番ノ考案至極妙ナリ
○十九番銀林曰　初メニ建築セシ者ニシテ終始之ヲ所有スルトキハ、強テ不都合ナカルヘキモ、甲之ヲ乙ニ売却シ、乙又之ヲ丙ニ譲渡等転々其所有主ヲ変換スルトキハ、遂ニ意外ノ支障ヲ生スヘシ、何ントナレハ甲者カ之ヲ建築セル当時ニ方リ府庁ト契約シテ木造家屋相当ノ移転料ニテ可ナリト云ヒシニセヨ、之ヲ買受タル乙丙丁ハ素ヨリ之ヲ与リ知ルヘキニアラサレハ、他日移転料給与ノ場合ニ当リ甲者トノ契約ヲ以テ之ヲ乙丙丁ニ責ムル能ハサレハナリ
○委員長曰　十九番ノ説ハ随分重要ノ問題ナレハ、深ク研究ヲ為サヽルヘカラスト雖モ、併シ初メ府庁カ甲者ニ之ヲ許可スルトキニ方リ汝若シ之ヲ他ニ売却スルトキハ、此家屋ニ付テハ東京府ニ向テ斯ル云々アリトノ事ヲ伝フヘシト命シ置キナハ、敢テ不都合ナキニアラスヤ
○十九番銀林曰　然カスルニハ、更ニ別法ニテモ東京府ヨリ示シ置カサルヲ得サルヘシ
○委員長曰　若シ東京府ニテ其別法ヲ設クル能ハストナラハ本会ニテ之ヲ議定シ、大臣ヨリ府知事ニ命令セラルヽコトニ致スモ可ナリ、畢竟彼ノ告示ニ於テ木造ニ限レル所以ノモノハ、即チ移転料ノ少ナカランコトヲ欲スルノ精神ニ外ナラス、然レハ今四番ノ提出セル問題ノ如キハ、仮令石造ノ建築ヲ為スモ其移転料ハ木造相当ニテ苦シカラスト云フモノナレハ、之レヲ許可スルモ更ニ告示ノ精神ニ於テ牴触スル所ナカラン
○十九番銀林曰　更ニ別法ヲ設ケラレナハ格別ナリ
○委員長曰　本会ニ於テ其規則ヲ起草シテハ如何
○二番須藤曰　此起草ハ幹事ニ託スヘシ
○三十二番渡辺・六番角田・四番福地並曰　是ハ東京府知事ニ於テ起草スル方順序ナルヘシ
○委員長曰　然ラハ知事之ヲ起草シテ内務大臣ニ稟議シ、大臣ヨリ本
 - 第28巻 p.126 -ページ画像 
会ノ議ニ付セラルヽコトニ取計フヘシ
　又曰　東京府ニ請求シ置カン、特別税ヲ以テ道路ヲ改正シタル場所ニハ、直ニ規定通リ歩車道ヲ区別シ、列樹ヲ植付クヘキ所ニハ之ヲ植付ケ、速ニ整理スル様処置セラレタシ、荏苒抛擲シアリテハ商業者ノ迷惑甚シカラン
○二番須藤曰　其費用ハ曩日既ニ区部会ニテ議定シタルヤニ記臆セリ
○十九番銀林曰　市会ニ求ムル積リヲ以テ、地方税ノ議案ニハ掲載セサリシ、而シテ歩車道区別ノコトハ、東京府ヘ照会致サルヽ様希望ス
○委員長曰　左様致スヘシ
○二十五番芳野曰　歩車道ハ八間以上ヨリ区別スルコトニ為シタシ
○委員長曰　八間以上ハ相当ナルニヨリ、左様ニ決シ置クヘシ
○十五番桐原曰　委員長ニ伺ヒタキコトアリ、本員ハ区部会ヨリ撰出セラレタルモノカ、市会ニシテ組織ニナリシ以上ハ其資格市会ノ総代ニ変スルモノナルヤ、将タ矢張リ区部会ノ総代ナルヤ
○委員長曰　勅令ノ改マラサル間ハ依然区部会ノ総代ニシテ、市会ニハ関係ナキモノト心得ラルヘシ
○十五番桐原曰　尚ホ一事ノ伺ヒタキコトアリ、本会ハ水道並築港ノ計画ヲモ議定スルヲ得ルノ権限アルヤ
○委員長曰　上水・下水ノ改良ハ、衛生上ニ関係アルヲ以テ、素ヨリ本会ノ議権内ニアルモ、築港ハ過日内務大臣ヨリ其方案ヲ本会ノ審議ニ付サレ、目下調査中ナレトモ、弥ヨ本会ノ議権内ニ属スル場合ハ、更ニ閣命ヲ発セラルヽナラント思考ス
○十五番桐原曰　了承セリ
○委員長曰　本日ハ是ニテ散会セン
　　　于時午後第三時四十分

東京市区改正委員会議事録　　第二巻・第二五〇―二五五丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第三十二号
　　明治二十二年六月十日午後第二時十五分開議
　　　　闕席　須藤時一郎　　藤田茂吉　　　田口卯吉
　　　　　　　武藤直中　　　和田維四郎　　田坂虎之助
　　　　　　　若宮正音　　　長与専斎　　　銀林綱男
　　　　　　　沼間守一　　　古市公威　　　犬養毅
　　　　　　　原口要　　　　渋沢栄一
　　　　出席十五人　十番闕員（築港ニ関スル臨時委員ノ出席ヲ要セス）
○委員長曰　曩ニ委員ヲ設ケテ調査セシメタル市街鉄道ノ設計ハ、頃日其報告アリタルヲ以テ之ヲ印刷ニ付シ既ニ各員ニ廻シ置キタレハ熟読セラレタルヘシ、就テハ本会ニ於テ之ヲ是認スル以上ハ市区改正ノ一部トシテ之ヲ告示スヘキモノナルヤ、将タ出願人アル場合ニ方リ本会ニ於テ其許否ヲ議定スルトキノ材料ト為スヘキヤ如何
　　（参考ノ為メ市内鉄道線路ノ調査報告書ヲ左ニ掲ク）
　　　　東京市内鉄道線路ノ儀調査報告書
 - 第28巻 p.127 -ページ画像 
　　本会ニ於テ往年審査委員会ノ議決セシ新橋・上野両停車場ヲ聯絡スヘキ中央鉄道線ノ外ニ、将来布設ヲ要スヘキ見込アル市内鉄道線路ニ就キ大体ノ計画ヲ予定スルノ議アリ、小官等之カ調査ニ従事スヘキノ嘱託ヲ受ケタリ、依テ玆ニ其設計図面二葉ヲ呈スルニ当リ、該図ノ説明及鄙見ヲ縷陳スル左ノ如シ
　　　　　　中央鉄道
　　中央鉄道ハ其線路ノ方向及停車場ノ位置・区域等ニ就テ、曩ニ既ニ其設計ノ大体ヲ定メラレタリト雖モ、委員会ノ議決セシ道路線中央停車場ノ区域内ニ侵入スルモノアリ、又之ヲ横断セルモノアリ、故ニ中央鉄道ノ設計ヲ完全ナラシメント欲スレハ、是等ノ道路線ハ必ス変更ヲ要スヘシ、依テ中央停車場平面図ヲ調製シ、之ニ接スル道路線ノ変更案ヲ示ス
　　　右ノ区域ニ当ル地処ハ、此官有地ニシテ且宏壮堅牢ナル建造物少ナシ、故ニ鉄道布設ノ挙アルモ、用地ヲ区画シ家屋ヲ移築スル等ノ事ニハ頗ル便利ナルヘシト思考ス、然レトモ目下着手中ナル東京府庁ノ如キハ、其位置此中央線及中央停車場ニ支障ナキ様予メ注意アリタキモノナリ、依テ之ヲ附申ス
　　　　　　市内鉄道
　　市内鉄道ハ、主トシテ市内各処間及市ニ接近セル重要ナル場処ノ間ニ迅速ナル公衆往来ノ便ヲ謀ルモノニシテ、倫動ノ地下鉄道・紐育ノ高架鉄道ノ如キモノニ擬シ之ヲ布設スルモノト想像シ、市区ノ形勢ニ依リ別紙図ニ其線路布置ノ大体ヲ示ス、線路ヲ略記スレハ左ノ如シ
　　　中央線凡三哩半新橋ヨリ上野ニ至ルモノニシテ、中央鉄道ト併行スル見込ナリ、彼ハ新橋・上野ニ通スル南北鉄道幹線ノ聯絡ヲ目的トシ、是ハ主トシテ市内往来ノ乗客ヲ運転スルモノトス
　　　外堀線凡五哩四分ノ一神田秋葉ケ原ノ辺ニ於テ中央線ヨリ岐シ、神田川ニ沿ヒ、牛込ニ至リ、夫ヨリ外堀ノ中ヲ通シテ赤坂御門ニ達シ、溜池ヨリ寅ノ門ニ出テ、新橋ノ近傍ニ於テ再ヒ中央線ニ聯絡スルモノトス
　　　小石川線凡二哩神田三崎町近傍ニ於テ外堀線ヨリ岐シ、砲兵工廠ノ東ヲ過キ、白山ノ近傍ヲ経テ、巣鴨ニ極端停車場ヲ置クモノトス、但シ之ヲ延長シテ板橋駅ニ達シ、既成鉄道ニ聯絡セシムルハ容易ナル見込ナリ
　　　市ケ谷線凡二哩四分ノ三市ケ谷御門ノ近傍ニ於テ外堀線ヨリ岐シ、士官学校ノ西南ヲ過キ、内藤新宿ノ北ヲ経テ既成鉄道線新宿停車場ニ達シ之ヲ聯絡スルノ見込ナリ
　　　麻布線凡一哩四分ノ三赤坂溜池ニ於テ外堀線ヨリ岐シ、谷町ヨリ麻布六本木桜田町ヲ経テ、笄町辺ニ極端停車場ヲ置クモノトス、但之ヲ延長シ渋谷ニ出テ以テ既成鉄道ニ聯絡スルヲ得ヘシ
　　　本所線凡一哩四分ノ一神田秋葉ケ原ニ於テ中央線ヨリ岐シ、和泉町ヨリ須賀町ヲ経テ、厩・両国橋間ニ新架ノ計画アル橋梁ヲ踰エ、本所横網町ニ至ルモノニシテ、将来東南ノ方向ニ布設スル鉄道企業アル時ニハ、之ヲ聯絡スル見込ナリ
　　　千住線凡二哩上野停車場ニ於テ中央線ヨリ延長シ、坂本・三ノ輪ヲ経テ千住大橋ノ南ニ達スルモノトス
　　右各線ノ構造方法ヲ概言スレハ、山ノ手地形ノ高キ所ハ隧道ヲ開鑿シテ之ヲ地下ニ通シ、下町地形ノ低キ所ハ煉瓦ノ穹窿若クハ鉄橋ノ如キモノヲ用ヰ之ヲ高架トスルヲ要スヘシト雖トモ、踏切ニテ街路ノ横断ニ支障ナキ所、又ハ外堀ノ中ヲ通スル部分ハ、普通鉄道ノ如ク築堤又ハ切取ノ土工ヲ施スヲ得ヘキ所アルヘク、軌道ハ皆複線ノ布設ヲ要シ、停車場ハ相距ル事近キモノハ二三百間、遠キモ五六百間ニ出テサルヲ要スヘシ、而シテ此構造方法及停車場位置ノ如キハ布設企業者ノ具サニ設計ヲ立テ、一々其筋ノ認可
 - 第28巻 p.128 -ページ画像 
ヲ経ヘキモノナルヲ以テ、其時ニ当リ之ヲ細議セラルヘキコトヽ信スルヲ以テ、予メ玆ニ之ヲ詳説スルヲ要セサルヘシ
　　　　　　総論
　　元来此鉄道布設ハ市区改正ニ関スル他ノ事業ト異リ、官設・民設ヲ問ハス、其企業者ハ運輸・交通ノ便ヲ開キ、都下ノ公益ヲ図ルハ勿論ナレト、又併セテ収支相償ヤ否ヲ考窮セサルヘカラス、今中央鉄道及市内鉄道ニ就キ其景況如何ヲ熟思スルニ、中央鉄道ハ主トシテ貨物集配ノ便ヲ拡張スルモノニシテ、新橋・上野ノ如キ市ノ中心ヨリ隔離セル場所ヲ府下ノ極端停車場トナス時ハ、貨物集配上迅速ノ功ヲ収メ難ク、且無用ノ労費多キヲ以テ、此鉄道ヲ布設スレハ仮令新橋上野間ノ収益ハ直接ニ布設資金ニ対シ利益ヲ生スルヲ期シ難キモ、其聯絡ニ依テ新橋・上野ヨリ南北ニ通スル鉄道幹支線ノ貨物数量ヲ増シ、随テ其収入ヲ増加スル等、間接ノ利益頗ル大ナルヘク、鉄道旅客並ニ商工一般ニ其便益ヲ得ル蓋シ尠少ナラサルヘシ、依テ今道路改正等ノ美挙アルニ際シ、先ツ其路線ヲ確定シ、漸次布設ノ計画ヲ立ル事最モ策ノ得タルモノト信ス、果シテ然ルトキハ、或ハ数年ヲ出スシテ之カ布設ヲ実施スルノ時機ニ達スルヲ得ヘキ歟
　　中央鉄道ハ此ノ如ク実施ノ見込アリト雖トモ、他ノ市内鉄道ハ大ニ之ト其趣ヲ異ニシ、営利上ノ目的ヲ以テ之ヲ布設スルヲ得ルヤ否ヤハ実ニ疑ヲ容レサルヲ得ス、何トナレハ前述ノ如ク市内鉄道ハ主トシテ公衆往来ノ便ニ供スルモノナリト雖トモ、現今ノ実況ニ拠レハ人口ノ比例ニテ吾東京ヲ欧米ノ都府ニ対比スレハ、（一）公衆ニ往来運動ノ要少ナシ、故ニ其交通頻繁ナラス（二）其往来運動ハ緩慢ニシテ瞬間ノ遅速ヲ争フモノ又最モ少ナシ（三）往来運動ノ路線甚タ不規則ナルヲ以テ、数条ノ鉄道ヲ利用スルニ極メテ適当セス（四）人力車ノ便利ニシテ且甚タ廉価鉄道ニ比スルモナルモノ多キ等ノ理由アレハナリ、以上ハ実ニ簡単ナル説明ナリト雖トモ、統計上ノ材料ニ拠リ之ヲ証スルコト蓋シ亦難カラサルヘシ、故ニ小官等ハ今此調査ニ従事スルモ、市内鉄道ノ布設ハ全市商工ノ景況大ニ改進スルノ日ニ至ラサレハ実施ノ望ミナキモノト信ス今且ツ小官等ノ本会ニ望ム所ヲ開陳センニ、中央鉄道ハ可成速カニ布設ヲ実施セラルヽヲ得策ナリト思考スルヲ以テ、其線路ノ用地、就中中央停車場用地ノ如キハ今ヨリ其区画ヲ確定シ、力メテ布設ヲ奨励誘導スルノ法案ヲ立ルコト
　　市内鉄道ハ布設企業アル時ハ、先以テ可成図面ニ示ス如キ線路ノ方向ヲ取ラシメ、其建築方法等ノ細目ハ本会ノ議決ヲ経テ認許スルコト
　　猶図面及此報告等ニ就キ不明瞭ナリト認メラルヽ事項ハ、下問ニ応シ直ニ之ヲ陳述スヘシ
　　右謹テ報告候也
　　　明治二十二年五月四日　　　　臨時委員　原口要
　　　　　　　　　　　　　　　　　臨時委員　松本荘一郎
　　　　芳川委員長殿閣下
 - 第28巻 p.129 -ページ画像 
○四番福地曰　告示ニハ及フマシト考フ
○委員長曰　自分モ左様ニ考フルナリ、故ニ此報告ニ就テハ委員ノ意見丈ケヲ確定シ置キ、他日政府ヨリ諮問等アル場合ノ材料ニ供スルコトヽナシテハ如何
○二十五番芳野曰　私設鉄道敷設ノ出願ヲ許可スル場合ニハ、其敷地ニ該当スル官有地ハ無代価ニテ下渡サルヽヤ
○二十九番松本曰　相当代価ヲ以テ払下ケラルヽナリ
○二十五番芳野曰　此設計ハ告示スルニ及ハスト信ス、且ツ二十九番ニ問ハン、此報告書ニ依ルトキハ既ニ告示セル市区改正ノ設計ニ撞着スル所アリ、中央鉄道ハ是非報告書ノ如クセサルヘカラサルヤ
○二十九番松本曰　中央鉄道ハ水運ト聯絡ヲ為サヽレハ太タ不便ナルヲ以テ、斯クハ濠ニ沿ハシメタルナリ、併シ是非斯クノ如クセネハナラスト確定セシニハアラス
○二十五番芳野曰　鉄道ニシテ若シ報告書ノ如ク決スルトキハ、勢ヒ道路ヲ変更セサルヲ得ス、従テ常盤橋ノ先キ及本石町等ノ新架橋ハ皆ナ其設計ヲ改竄セサルヘカラス、果シテ然ラハ其関係甚タ大ナルヲ以テ、双方ニ大変動ナキ様何ニトカ工夫アリタキモノナリ
○二十九番松本曰　委細ハ図面ニ就テ陳述スヘシ
　　　此ニ於テ二十九番ハ図面ニ就キ鉄道設計ノ弁明ヲ為シタリ
○委員長曰　道路ヲ変換スルヤ
○二十五番芳野曰　鉄道局ニテ少シク都合ヲ為セハ、道路ヲ変更セサルモ差支ナシトノコトナリ、一体旧郭内ハ人民ニ関係ナキヲ以テ、道路ノ広狭ハ後ニテ直スモ不都合ナカラン
○委員長曰　東京府庁ノ新築ニハ関係ヲ有セサルヤ
○三十二番渡辺曰　五間程西ノ方ニ寄セタレハ、鉄道線ニハ差支ナキナリ
○委員長曰　然ラハ此報告ヲ是認シ、別段告示セサルコトニ決シ置クヘシ
　　　書記左ノ訓令等ヲ朗読ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市区改正委員会
　　甲武鉄道会社新宿停車場ヨリ神田三崎町迄鉄道布設ノ件、別紙之通リ鉄道局長官ヨリ照会有之、会議ニ附シ候条、意見申出ラルヘシ
　　右訓令ス
　　　明治二十二年六月八日
　　　　　　　　　　　　　　　内務大臣　伯爵　松方正義
　　（別紙）
　　甲武鉄道会社新宿停車場ハ、市区ノ中央ニ遠隔シ乗客貨物ノ運輸上不便ナルヲ以テ、更ニ同所ヨリ神田三崎町迄延線致度旨、同社長ヨリ出願有之、然ルニ右ハ市区改正等ニ関係可有之ト被存候ニ付、其線路ノ大体ニ就キ御意見ノ有無承知致度、尤布設工事ノ方法ハ実地測量ノ上計画ヲ立タル後更ニ細目ニ渉リ御協議ニ及儀モ可有之ト存候得共、先以テ大体上御意見御回答有之度、別紙図面添此段及御照会候也（図面ハ略ス）
 - 第28巻 p.130 -ページ画像 
　　二十二年六月六日
　　　　　　　　　　　　　　鉄道局長官　子爵　井上勝
　　　　内務大臣　伯爵　松方正義殿
○委員長曰　是ハ図面ニ就テ議スル方便宜ナルヘシ
○六番角田曰　鉄道線路ノ踏切ハ甚タ危険ナルカ、何ニトカ都合ヲ為シ高架鉄道ノ様ニハナラサルヤ
○二十九番松本曰　小石川橋ノ所ヲ踏切ニセサルニハ、牛込辺ヨリ勾配ヲ付シ、漸次ニ上ル様ニナサヽルヘカラス、尤モ飯田町ノ所ハ到底踏切ニセサルヲ得サレトモ、牛込・市ケ谷辺ハ所謂高架ニシテ、車馬ハ鉄道ノ下ヲ通ルコトニモ相成ルヘキカ、併シナカラ測量ノ結果ニ依リ如何ナル模様ニナルカハ、今日ニ於テ明言シ難シ
○六番角田曰　市ケ谷ヨリ土手ノ上ヲ通シ、道路ニ係ル所ハ橋ヲ架スルトセハ、踏切ノ危険ヲ免カルヽヲ得ルナラン
○二十九番松本曰　到底土手上ニ軌道ヲ敷設スルコトハ出来サルヘシ
○二十六番益田曰　市街ニ入ルトキハ進行ノ速力緩ナルノミナラス、発車度数モ京浜間ノ如ク頻繁ナラサレハ、踏切ニ為スモ左迄危キコトハアラサルヘシ
○委員長曰　工事ノ仕方ハ分ラサルヤ
○二十九番松本曰　目下請願中ナレトモ、未タ仮免状ノ下付ナキヲ以テ測量スル能ハス、故ニ工事ノ方法ハ明言シ能ハサルナリ
○六番角田曰　然ラハ唯今ハ新宿ヨリ三崎町迄鉄道ヲ敷設スルノ可否ノミヲ決シ置カハ可ナラン
○二十九番松本曰　然リ、工事方法ハ確ト測量ノ上、更ニ本会ニ提出スルコトナルヘシ
○二十五番芳野曰　此延線ニシテ市街鉄道ノ妨害ヲ為ス様ニテハ不都合ナリ
○二十九番松本曰　其憂ハ決シテ之レナシ
○六番角田・二十六番益田並曰　大体ニハ異議ナシ
○委員長曰　工事ノ方法ニ付テハ多少ノ議論モアランカ、其延線ニ付テハ更ニ不同意者ナキニ依リ、大体ハ異議ナキコトヽ決シテハ如何
○四番福地・二番須藤・六番角田並曰　然リ、大体ニハ異存ナキナリ
○委員長曰　然ラハ甲武鉄道線ヲ新宿ヨリ三崎町迄延線スル大体ニ付テハ異議ナシト雖トモ、工事ノ方法ニ付テハ多少ノ異見アルヲ以テ更ニ本会ノ議ニ付セラレタシトノ趣キヲ内務大臣ニ答申スルコトニ決シ、是レニテ散会トセン
　　　于時午後第三時二十分