デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治25年12月6日（1892年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、製造場位置制限ノ件ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第五巻・第九一―一〇〇丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録九十号
　　明治二十五年十二月六日午前十一時開議
　　　　闕席　大森鐘一　○外十一名氏名略
　　　　出席十六員　十九番欠員
　　　　　　　　　　　（三十番・三十一番・三十二番・三十三番ハ召集セス○警視庁技師細井修吾番外席ニ着ク）
○委員長曰　内務技師工学博士石黒五十二君本会臨時委員ヲ命セラル又東京府書記官銀林綱男君埼玉県知事ニ任セラレタリ、此旨報告ス扨本日ハ前会ノ続キ諮問第七号製造場位置制限ノ件、第三条ヨリ議スルコトヽセン
○四番山崎曰　類別ニモ修正スヘキ項目アリ、如何ナスヤ
○委員長曰　第三条ヨリシ、其ハ後ニ議スルコトニ為スヘシ
　　　書記（第三条）朗読
○四番山崎曰　本案ハ博識ナル諸君ノ調査セラレシ者ナレハ、一点ノ非トスル処ナカルヘキモ、第二類ハ但書ノ中ニ加ヘ、以テ二類・三類ヲ合併セラレンコトヲ望ム、何トナレハ斯ク厳重ノ検束ヲ以テセハ、当業者ハ非常ノ困難ヲ蒙ムルヘキハ論ヲ竢タス、殖産興業ノ上ヨリ見ルモ大ニ其発達ヲ防遏スルノ感ナキ能ハサルヲ以テ、斯ク修正為シタキ精神ナリ
○十四番杉本曰　第二類ヲ三類ヘ合シ得ルヽナラハ、本員等ハ速ニ賛成スレトモ、二類中ニテモ石油精製及貯蔵場ノ如キ危険少ナカラサルモノアリ、已ニ是等ノ規程ハ警察令ヲ以テ厳重ニ制限セシ位ナレハ、是非共区別セサルヲ得ス、殊ニ其他ニ於テモ危険及衛生ニ害アル物品ノアルアレハ、市区内ニ之レヲ許可スルコト能ハス、去リ乍ラ市区内カ製造場ノ為メ暗黒トナル迄モ構ハストナラハ格別、到底然スル能ハサルハ勿論、幸ヒ完全ナル製造場ノアラサル今日ナレハ此時ニ際シ予メ制限ヲ置カサレハ後来官民共其移転ニ就キ大ニ困難ヲ感スルニ至ルヘシ、故ニ原案通区別シ置カレンコトヲ欲ス
 - 第28巻 p.195 -ページ画像 
○四番山崎曰　敢テ議論ヲ好ムニ非サルモ、十四番ハ市内カ真黒ニナリテモ構ハヌ云々トノ極端ヲ以テ論セラルヽモ、本員等ノ述フル所ハ然ルニアラス、已ニ印刷局・製薬会社ノ如キ然モ市区内ノ殆ト中央ニアル製造場ナレトモ、其構造ニ依リテハ少シモ他ヘ害ヲ及ホスコトナキヲ以テ、不完全ナラサル以上ハ之ニ制限ヲ立テ、年限ヲ期シ許スモ敢テ差支ナカルヘシ、彼ノ魚鳥市場ノ如キハ市ノ中心ナルニモ拘ラス、臭気ノ酷シキニモ拘ハラス、其移転期限ヲ猶予セシニアラスヤ、之レニシテ尚且然リ、況ンヤ格別害ノナキ物品ノ製造場ヲヤ、故ニ本員ハ制限ヲ付セハ別段差支ナシトスル所以ナリ、尚当業者ハ利益ノ一点ニノミ注意スルモノユエ、沃度ノ如キ塩酸ノ如キ皆其気煙瓦斯ノ発散ヲ恐ルヽニ由リ、注意ニ注意ヲ加ヘ発散セシメサル様ニ為スカ人情ナリ、何ヲ苦ンテ発散セシムルモノアランヤ、依テ本員ハ市内ヘ許スモ憂フルコトナキヲ信ス
○二十六番長与曰　問フ、本案ニハ其構造法ヲ明記セラレサルカ、煙筒ノ寸尺ノ如キハ別段ニ定メラルヽヤ、如何
○十四番杉本曰　位置ヲ定メタル上ニテ細則ヲ出ス考案ナリ、詰リ本案ハ製造場ノ憲法タルニ外ナラス
○二十六番長与曰　第一類ヨリ第三類迄ノ類別ニ付キ、其方法ヲ定メタル上ニテ本案ヲ提出セラレタルヤ
○十四番杉本曰　然リ
○四番山崎曰　試製ニテモ市区内ニハ為ス能ハサルモノトセハ、大ニ当業者ノ困難スヘキハ言ヲ俟タス、染物屋等ニ於テモ迷惑ヲ感スヘキナリ、是等ハ充分諸君ノ御賢考ヲ仰カサルヲ得ス、仮令ヘハ試ミニ製セントスルモノモ皆此制限ニ拘束セラレ、些小ナル事業マテモ人家稀踈ノ場所ヘ行カサルヲ得サル場合トナラハ、殖産興業上、其発達ヲ害スル実ニ尠少ナラサルモノナリ、已ニ従来当局者カ法ヲ布クニ当リ、読ンテ字ノ如ク抔云フコトアリテ、実行上商業社会ノ恐慌ヲ醸スカ如キ例少ナカラス、彼ノ「アルコ―ル」ノ如キ当局者ハ定則ニ箝メントシ、当業者ハ左ハサセシトシテ押問答最中ナルカ、何時モ当局者ト実業者トハ表裡ノ憾ヲ懐クノ情状ナレハ、是非共二類ヲ三類ニ合併セラレンコトヲ欲ス、斯ク為セハトテ敢テ差支アランヤ
○十四番杉本曰　四番ノ御疑惑ハ第六条ヲ細読セラレナハ蓋シ氷解セン、決シテ御懸念ニハ及ハサルヘシ
○委員長曰　四番ノ説ニハ賛成ナシ、消滅、原案ニ決シ、次条ニ移ラン
　　　書記朗読
　又曰　異議ナキヲ以テ原案ニ決シ、次条ニ移ル
　　　書記（第五条）朗読
　又曰　異議ナキヲ以テ原案ニ決シ、次条ニ移ル
　　　書記（第六条）朗読
○四番山崎曰　但書ヲ削除スヘシ、而シテ番外ニ其説明ヲ乞フ
○番外細井曰　此試製ハ営業ノ目的ヲ以テスルモノヲ指シ、学術上ノ試験ノ如キハ本則ニ拠ラシメス、然レトモ製品ノ重量並其多寡ニ依
 - 第28巻 p.196 -ページ画像 
リテ試製ト否トヲ区別スル能ハサルハ、細則ヲ以テ予メ内規ヲ定メ其際ニ臨ンテ取捨斟酌スルノ考案ナリ
○四番山崎曰　説明ニ拠レハ此試製ナルモノハ営業ノ目的ヲ以テスルモノトノコトナレトモ、縦シ其目的ニセヨ、果シテ出来得ルヤ否ヲ試験スルモノマテモ此範囲内ニテ制限スルハ、甚タ酷ノミナラス頗ル殖産興業ノ上ニ於テ発達ヲ害スルナリ、故ニ但書ハ断然削除セラレンコトヲ欲ス
○二十六番長与曰　本員ハ文字上別ニ異議ナシ、然レトモ番外ノ説明ニテハ試製云々ノ解釈充分ナラサルヤノ感アレハ、結局製造場ト其他トハ判然区分スル様当局ニ於テ内定シ置カレンコトヲ希望ス
○番外細井曰　営業ノ目的ヲ以テ試製スルモノヲ指シタルノミナレハ四番ノ説ノ如キ趣意ハ此範囲外ナリト承知アレ
○四番山崎曰　「アルコール」ノ紛紜ノ如キモ文字ノ解釈ヨリ起リシナリ、故ニ文字ノ解釈上紛雑ナカラシメンタメ削除セントスルニアリ
○番外細井曰　本則ハ製造場ニ適用シタル制限ニテ、他ノ学術的抔ヲ以テスルモノニハ固ヨリ関係セサルナリ
○委員長曰　四番ノ説ハ賛成ナシ、依テ原案ニ決シ、次条ニ移ル
　　　書記（第七条）朗読
○九番田坂曰　離宮等ニ対スル距離ハ、外囲ヨリスルヤ
○十四番杉本曰　然リ
○九番田坂曰　離宮・御用邸トアリテ皇居或ハ皇城等ノ明文ナシ、是ハ矢張リ此中ニ含有スル意味ナリャ、別ニ皇居或ハ宮城ト明記セサルモ不都合ナキヤ
○十四番杉本曰　調査会ノトキモ其議論アリシカ、第四条ニ麹町区内ニハ許可セストアル以上ハ、別段差支ナキノミナラス、外桜田辺ハ周囲外濠モアレハ、其名称ヲ掲クルノ必要ナキ考ナリ
○九番田坂曰　第八条ニ煙筒ヲ設クルモノハ第七条ノ制限ニ従フヘシトアリ、果シテ然ラハ彼ノ麹町電灯会社ノ如キハ宮城ノ外廓ヲ距ル僅カ二百二十間位ナリ、是等ハ如何、尤同会社ハ本制限施行以前ノ設立ニ係ルモノナレハ問ハストスルモ、施行以後ニ至リ皇居或ハ宮城ノ明文ナキヲ以テ出願スルモノアルハ、其時ハ如何為スヤ、故ニ本員ハ皇居或ハ宮城ノ文字ヲ明記センコトヲ欲ス
○十四番杉本曰　御尤ノ説ナレトモ、当局者ハ離宮・御用邸迄ニモ此制限ヲ設クル程ナレハ、皇居ハ勿論ト云ノ意ナリ、尤明記シ置カントナラハ敢テ異存ナキモ、第四条ノ明文モアレハ其レニモ及フマシ
○二十五番芳野曰　十四番ノ説明ハ同意シ難シ、元来離宮・御用邸トアル以上ハ、皇居ハ勿論抔ト云フハ非ニシテ、第四条ニ麹町区内ニハ建設セシメサル制限ナレハ、皇居ヲ明記スルノ必要ナキナリ、又第八条ニ前各条制限ノ外云々ト取除ケヲ置キタリ、故ニ別段明記スルノ要ナシ
○九番田坂曰　成程第四条ニ制限シアルヲ以テ、明記スルノ要ナシトノ説宜シ、然レトモ第八条ハ此外ニ出ツルモノヲ制限スルノ条項ナレハ、皇居ヲ明記セサレハ差支アラン
 - 第28巻 p.197 -ページ画像 
○二十五番芳野曰　番外ニ質ス、第七条ノ末文ニ「其種類ニ依リ適当ノ距離ヲ取ラシムルコトアルヘシ」トアル適当云々ノ文字ハ、法律規則トシテハ如何ナルモノヤ、自然是等ノ解釈ヨリ紛議ヲ生スルモノナレハ、適当ノ二字ヲ除キ、他ノ相当ノ文字ニ改ムルコト能ハサルヤ
○番外細井曰　適当ノ文字ハ事実ニ当箝ムルニ至極允当ナルニ依レリ尤最初取調フルトキハ少クモ何間云々トセシカ、前記ノ如ク数多ノ種類ナレハ一々之レカ距離ヲ明記セントセハ頗ル繁冗ニ渉レハ、寧ロ適当云々ノ文字ヲ以テスルノ勝レルニ如カサルヘシトシテ、斯ク改メシナリ、国外ノ制度ニ於テモ亦好適例ナキノミナラス、酷シキハ当該官吏ノ満足スル様云々トノ明文アル国柄モアルナリ、其種類ハ勿論土地ノ高低・風嚮ノ如何・人家ノ位置等ニ於テ距離ヲ異ニスルノ場合ナカルヘカラス、故ニ一々考査ヲ要スヘキヲ以テ、何間ト明記シ難キ訳ナリ
○五番白石曰　第三類中ノ物品ハ他ニ比シ危害少キモノヽ如シ、是等ハ何間位ノ距離ヲ取ラシムレハ不可ナキ予定ナリヤ
○番外細井曰　第三類ハ御説ノ如ク危害少キモノナレハ、其距離ハ百間以上ヲ取ラシメサルモ可ナリ、尤其場所ニ依リテハ第七条ヲ準備スル見込ナリ、仮令ヘハ革染場ノ如キハ差支ナキモ、石膏焼場ノ如キハ非常ニ灰粉ヲ飛散セシメ害アルモノナレハ、同一ノ距離ヲ取ラシムルコト能ハス、要スルニ土地ノ高低・風嚮ノ如何ニ依リテ考査セサルヲ得サレハ、予メ定メ置クハ却テ適実ヲ失スルノ嫌アルニ依レハナリ
○八番高橋曰　九番ノ皇居ヲ明記シ置ク説ヲ賛成ス、十四番ハ離宮云云トアル以上ハ、皇居ハ勿論含有シアルモノヽ如ク述ヘラレ、又二十五番ハ其文字ナキ方却テ善シトノコトナルモ、其ハ本員等ノ服スル能ハサル説ナリ、即チ第八条ニ本則外ノ製造場ニシテ汽缶等ヲ使用スルモノハ、第七条ノ制限ニ依ルトアル以上ハ、本則外製造場ヲ皇居近傍ニ設立セラレシトキ之ヲ拒ムコト能ハサラン、故ニ皇居ト明記シ置ク方至当ナリト信ス
○十四番杉本曰　第四条ニ一類・二類ハ許可セスト規定セラレアルユエ、別段差支ナカルヘシ
○八番高橋曰　第八条ハ本則外、即チ本制限外ノ製造場ヲ指シタルモノニテ、第七条ニハ前各条制限ノ外トアレハ、此以外ノモノニシテ皇居接近ノ場所ヘ設立セントスルモノアルトキハ如何
○十四番杉本曰　然ラハ八番ハ、第八条ニ第四条ノ制限ニ従フヘシト明記セハ可ナルモノトスルヤ
○八番高橋曰　皇居ノ文字ヲ挿入セサルモ、之ヲ拒ミ得レハ可ナリ、然レトモ十四番ノ離宮・御用邸中ニ皇居ハ無論含有シアルトカ、或ハ二十五番ノ説ノ如キモ本条ニハ当テ箝ラサルニ依リ、明記シ置カンコトヲ欲スルナリ
○九番田坂曰　第八条ハ第七条ヲ受ケテ関係スルモノナルニ、十四番二十五番ノ説ハ此制限以内ノ製造場ヲ云ヒシモノヽ如キ説ナレトモ第七条ハ此規程以外ニ起ル製造場ヲ制限スルモノナルヘシ、然ラハ
 - 第28巻 p.198 -ページ画像 
皇居ノ明文ヲ置カサレハ不可ナラン
○二十五番芳野曰　未タ御了解ニナラサルヤ、各条制限ノ外トアルハ何ヲ指セシモノトセラルヽヤ、是ハ則三条・四条ノ制限ヲ云ヒシモノニテ、皇居ハ麹町区ノ中心ナレハ、無論其近傍ヘ製造場ヲ置ク能ハサルナリ
○八番高橋曰　二十五番ハ本員等ノ判断付カヌ様ニ云ハルレトモ、第七条ノ前各条制限ノ外トアルハ、第二条ノ製造場ハ所謂第三条・第四条ノ外ニ置ク能ハサルモノナラン、然ラハ第八条ハ其制限以外ノ製造場ヲ指スモノユエ、皇居ハ是非トモ明記シ置カサルヲ得サルナリ
○二十五番芳野曰　第四条ニハ許可セサルモノトストアリ、本則外トハ類別ヲ云ヒシモノニテ、此以外ノ製造場ハ第七条ニ依ルト云フコトナレハ、敢テ差支アルナシ
○八番高橋曰　二十五番ハ考ヘ違ヒニハナキヤ、一類・二類・三類ノ製造場以外ノモノハ、即チ規定以外ノ製造場ト云ハサルヘカラス、此製造場ヲ起シ煙筒ヲ設クルモノアルトキハ、皇居ノ明記ナキモ之ヲ拒ミ得ルトスルヤ、甚タ解シ難キ説ナリ
○二十五番芳野曰　第七条ハ場所ヲ限リ、第八条ハ種類ニ依リ制限ヲ立テタルナリ
○八番高橋曰　一類・二類・三類ノ中テ種類ヲ分チ制限ヲ立テシモノトノ説ナリヤ
○二十五番芳野曰　此以外ニモ亦製造場出ツヘシ、故ニ本則外ト云フナリ
○二十四番佐久間曰　何時マテ論スルモ同シコトナリ、宮城外濠ハ随分広シ、三百間乃至五百間ノ距離ニ建テ度モノアランカナレトモ、濠中ヘ設立スルモノアル筈ナシ、故ニ皇居ノ文字ナキモ差支ナシ
○三番仁杉曰　段々諸君ノ説ヲ拝聴シ、愈皇居ノ文字ヲ明記スヘキ必要アリ、何ントナレハ第八条ニ本則外ノ製造場ニシテ云々トアリ、彼ノ活版・電灯会社ノ如キハ即本則以外ノ製造場ト称スルモノナレハ、外囲ヨリ其距離ヲ測ルトセハ麹町電灯会社ノ如キハ無論不可ナラン、仮リニ是等モ皆第四条ヲ以テ制限スルヲ得ヘシトノ意ナルヘキモ、其ハ制限以外ノモノナレハ之ヲ適用スルヲ得サルヘケレハナリ、十四番ノ包含説ノ如キハ蓋シ逃ケ口上タルヲ免カレス
○十四番杉本曰　皇居ノコトニ就キ判然弁明セサリシハ、本員ノ不都合ナレハ之ヲ謝ス、只今主任者ヨリ聞キシニ外廓ヨリ計リテモ尚ホ三百間以上ノ距離アルユエ、其文字ヲ除キシ訳ナリトノコトナレハ宜シク領承アランコトヲ望ム
○五番白石曰　調査委員ノ一人タル三番ヨリ原案ニ反対説ヲ出サレシカ、第七条ニ「前各条制限ノ外尚ホ」トアリ、然ラハ本条ハ前条ヲ受ケテ後尚云々ノ意味ナレハ、原案通リニテ差支ナカラン、然レトモ其末文適当云々ノ文字ハ法律トシテハ甚タ好マサレトモ、先刻番外ノ説明ニ依レハ亦已ムヲ得サルモノユヱ之ハ差擱キ、其以下「取ラシムルコトアルヘシ」トアルヲ「取ラシムルモノトス」ト修正為シタシ、取ラシムルコトアルヘシニテハ字義重カラス、取ラシムル
 - 第28巻 p.199 -ページ画像 
モノトスト修正スル方至当ナラン
○十四番杉本曰　然リ、賛成、取ラシムルヘシトシテハ如何
○五番白石曰　異存ナシ
○八番高橋曰　十四番ハ前説曖昧ノ答ヲ取消シ、充分其距離アリトスレハ、本員モ亦九番ヘ賛成セシヲ取消スヘシ、然レトモ二十四番・二十五番ノ説ニ依リ取消スニハ非ス、念ノ為メ断リ置ク
○九番田坂曰　十四番ノ述ヘラレシ距離ハ何処ヲ調ヘラレタルモノニヤ、外廓ヨリ彼ノ麹町電灯会社マテハ其距離僅カ二百二十間ナリ、三百間トスレハ五丁アル割合ナリ、諸君彼ノ場所ハ五丁アリトセラルヽヤ、本員ノ信スル能ハサル所ナリ
○二十六番長与曰　諸君ノ御説モ已ニ尽タルカ如シ、速ニ採決アランコトヲ希望ス
○八番高橋曰　其ハ怪シカル話ナリ、三百間以上アリトノコトナリシ故前説ヲ取消タルニ、僅カ二百二十間位ノ距離トスレハ、再ヒ九番ノ説ヲ賛成ス
○九番田坂曰　畢竟第七条ヲ説明スルニハ第四条ヲ以テスルノ混雑アリ、故ニ条例トスレハ判然皇居ト明記スヘキカ至当ナリ
　　此際二十七番着席
○委員長曰　皇居ノ文字ヲ明記スル九番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立五名
　又曰　少数ナルニヨリ消滅シ、五番ノ末文ヲ「取ラシムヘシ」トスル説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十名
　又曰　多数ナルヲ以テ右ニ決ス
○二十六番長与曰　五百間以下・三百間以下トアルハ無用ナリ、削除スヘシ
○十四番杉本曰　賛成
○委員長曰　二十六番ノ五百間以下・三百間以下ノ文字ヲ削ル説ニ、同意者ハ起立アレ
　　起立十三名
　又曰　多数ナルニ由リ右ニ決シ、次ノ条ニ移ル
　　　書記（第八条）朗読
○二十六番長与曰　「本則外」ノ文字ハ弊アリ、寧ロ「第二条ニ掲載セサル」ト明瞭ニ修正スヘシ
○十六番大谷曰　二十六番ノ説ヲ賛成ス
○二十七番渋沢曰　其ハ第五条ニ抵触セサルヤ
○二十六番長与曰　成程然リ、然ラハ修正説ヲ取消ス
○二十七番渋沢曰　「本条例ニ掲ケサル」ト修正スヘシ
○二十六番長与曰　賛成
○委員長曰　二十七番ノ修正説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十四名
　又曰　多数ナルニ由リ右ニ決シ、時刻ナレハ暫時休憩スヘシ
　　　于時午後零時二十五分
　　　（休憩後、都合ニ依リ来ル九日開会ニ決シ散会）
 - 第28巻 p.200 -ページ画像 

東京市区改正委員会議事録　　第五巻・第八一―八六丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第八十九号
　　明治二十五年十一月二十八日午前十一時開議
　　　　闕席　渋沢栄一　○外十一名氏名略
　　　　出席十五員（二十九番・三十番・三十一番・三十二番ハ召集セス）
○上略
　　　書記朗読
　　製造場・製精場及貯蔵場位置制限之件ハ調査半ニシテ原案ヲ更改セラレ、更ニ数回ノ審査ヲ経テ別冊之通決議セリ
　　右報告ス
　　　明治二十五年十一月二十八日
　　　　　　　　　製造場・製精場及貯蔵場位置制限調査委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　須藤時一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　仁杉英
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松田秀雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　杉本重遠
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　銀林綱男
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　古市公威
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　芳野世経
　　　　東京市区改正委員長　富田鉄之助殿
（別冊）
　　　　製造場位置制限
　第一条　本則ニ於テ製造場ト称スルハ、営業ノ為メ、危険又ハ健康ニ害アル物品ヲ製造・精製・化製及試製又ハ貯蔵スル場所トス
　第二条　製造場ヲ分テ左ノ三類トス
　　第一類
　　　一土油蒸溜場（ナフタ油・石油・油鉱油ノ類製造場）
　　　一革皮獣脂膠肥料（動物質ヲ以テ原料トナスモノ）動物炭ノ製造場・精製場
　　　一皮浸漬所・除毛所・獣毛精製・鱶鮫軟骨精製及鰭乾燥所
　　　一黄燐寸製造場
　　　一セメント製造場
　　　一動物質ヲ原料トスル製造場
　　　一洋紙及板紙製造場（襤褸ヲ原料トナスモノ）
　　　一蠣殻灰焼場
　　　一獣類剥皮場
　　　一魚鳥獣骨及臓腑類貯蔵場
　　　一煉化石製造場
　　　一焦煤製造場（瓦斯吸尽ソ装置ナキモノ）
　　　一硫黄精製場
　　　一燐製造場
　　　一硫酸・コロールカルキ（漂白粉）塩酸加里・石炭酸・ベンツオル
 - 第28巻 p.201 -ページ画像 
　　　　製造場
　　　一硫化炭素製造及硫化炭素ヲ使用スル製造場
　　　一蓚酸製造場（硝酸ヲ用フルモノニシテ有害ノ瓦斯滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一煙草茎焼場（有臭瓦斯滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一硫酸曹達（芒硝）ピクリン酸製造場（有害瓦斯滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一硫酸水銀製造場（有害ノ蒸汽滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一鉄丹製造場（硫酸鉄ヲ焼キ製スルモノニシテ有害瓦斯滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一砒酸製造場（亜砒酸及硝酸ヲ以テスルモノニシテ有臭瓦斯滅尽ノ装置ナキモノ）
　　　一仮漆ペンキ製造場
　　　一沃度製造場
　　　一弾力護謨製造場及細工場
　　　一火棉ヲ原料トスル製品（セルロイドノ類）及煙火製造場
　　第二類
　　　一石油精製場及貯蔵場
　　　一赤燐寸製造場
　　　一硫化炭素貯蔵場
　　　一硫酸銅製造場（硫化銅ヲ原料トスルモノ）
　　　一樟脳・竜脳製造場
　　　一的列並油・松根油製造精製及貯蔵場
　　　一瀝青氈其他爹児・アスフルト・松根油・的列並油ヲ原料トスル製造場
　　　一石灰焼場
　　　一和紙製造場（五艘以上ヲ用フルモノ）
　　　一瓦・陶・磁器・琺瑯鍋製造場及陶造所
　　　一燃料瓦斯製造場
　　　一肥料貯蔵場（悪臭ヲ発スルモノ）
　　　一石蝋製造場
　　　一玻璃製造場（石炭ヲ燃料ニ充ツルモノ）
　　　一炭焼場
　　　一青昆布製造場
　　　一鎔鉱場
　　　一薄荷油及薄荷脳製造場
　　　一アンモニア及其塩類製造場（瓦斯水ヲ原料トスルモノ）
　　　一木醋製造場
　　　一石鹸製造場
　　　一綿布・綿糸製造場及製糸場
　　　一練炭製造場（アスフアルト若クハコールタールヲ以テ石炭粉ヲ混和スルモノ）
　　　一依的児製造場及貯蔵場
　　　一印刷墨汁製造場
　　　一電気用練炭及坩堝製造場
　　　一塩酸・硝酸・亜砒酸・昇汞製造場及製精場
　　　一硫酸精製場
　　　一曹達製造場
　　　一水銀蒸溜場
 - 第28巻 p.202 -ページ画像 
　　　一沃度・硫黄・燐・硫酸・コロールカルキ・塩酸加里・石炭酸ベンツオル・蓚酸・硫酸曹達・ピクリン酸・硫酸水銀・鉄丹
　　　　砒酸試製場
　　第三類
　　　一硫黄粉砕場
　　　一焼酎・アルコール製造場及蒸溜場
　　　一製藍場（襤褸ヲ原料トナスモノ）
　　　一革染場
　　　一和紙製造場（四艘以下ノモノ）
　　　一玻璃製造場（石炭ヲ燃料ニセサルモノ）
　　　一石膏焼場
　　　一石灰及石炭貯蔵場
　　　一燃料瓦斯貯蔵場（悪臭ヲ発セサルモノ）
　　　一蝋製造場
　　　一爹児・アスフアルト貯蔵場
　　　一封蝋製造場
　　　一襤褸貯蔵場
　　　一鉛白製造場
　　　一密陀僧製造場
　　　一硫酸鉄製造場
　　　一発煙硫酸製造場
　　　一金属熔融場
　　　一護謨引及紙布革類ニ仮漆ヲ塗ル製造場
　　　一樟脳・竜脳・薄荷脳・アンモニア及其塩類・木醋・石鹸・依的児・印刷墨汁・塩酸・硝酸・亜砒酸・昇汞・曹達試製場
　第三条　第一類・第二類ノ製造場ハ市内ニハ許可セサルモノトス
　　　但第二類ノ製造場ハ源森川及横川筋洲崎ニ至ル以東其他村落ニ接近シタル人家稀疎ノ地ニシテ、他ニ妨ケナキモノハ特ニ許可スルコトアルヘシ、此場合ニ於テハ其構造ニ就キ指示スルモノトス
　第四条　第三類ノ製造場ハ麹町区・神田区（神田川以南）・日本橋区・京橋区（大川筋以西）・芝区（古川筋以北）内ニハ許可セサルモノトス
　第五条　第二条ニ掲クル製造場ノ外、薬品・絵具及其他ノ製造場ニシテ危険ナルモノ、若クハ有臭有害ノ瓦斯蒸汽ヲ発生シ、又ハ液汁ヲ流出スルモノハ、尚ホ本則ヲ適用ス
　第六条　製造品少量ナルカ若クハ製造其他ノ方法ニ依リ危険又ハ健康ニ害アル虞少ナシト認ムルトキハ、第一類ノ製造場ハ第二類ノ例ニ依リ、第二類ノ製造場ハ第三類ノ例ニ依ルコトアルヘシ
　　　但試製ニ係ルモノモ亦同シ
　第七条　製造場ハ前各条制限ノ外、尚ホ離宮・御用邸ニ対シテハ直径三百間以上五百間以下、公園ニ対シテハ百間以上三百間以下ノ距離ヲ取ラシメ、人家及街路ニ対シテハ其種類ニ依リ適当ノ距離ヲ取ラシムルコトアルヘシ
　第八条　本則外ノ製造場ニシテ汽関・汽機ヲ使用シ、又ハ煙筒（石炭ヲ使
 - 第28巻 p.203 -ページ画像 
用スルモノ）ヲ設クルモノハ、第七条ノ制限ニ従フヘシ
　　　但騒響及煙煤ノ害ヲ避クルノ装置アルモノハ特ニ斟酌スルコトアルヘシ