デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年8月24日（1895年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、電気鉄道ノ件・甲武鉄道ノ線路延長並ニ市内循環鉄道布設ニ係ル調
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査報告ノ件ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第八巻・第八三―一〇六丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第百二十号
　　明治二十八年八月二十四日午前九時四十分開議
　　　　闕席　久米金弥　　　宮武南海　　　角田真平
　　　　　　　不破彦磨　　　古川宣誉　　　目賀田種太郎
　　　　　　　大貫実　　　　山県伊三郎　　古市公威
　　　　　　　長与専斎　　　都筑馨六　　　原口要
　　　　　　　松本荘一郎
　　　　出席十九員（逓信技師浅野応輔・大学助教授山川義太郎番外席ニ着ク）
○委員長曰　電気鉄道ニ関スル議事ヲ始ム、之ハ前会ノ続キナレハ別ニ朗読セシメス
○三番中島曰　電気鉄道ノ事柄ハ本員ノ如キハ丸テ素人ナレハ、何ニヤラ一向分明ナラス、尋問スヘキコトモ何レヨリ問ヒタラハ可ナルヤ、其尋ヌル点モ見出スコト能ハサル位ナレハ、大体丈ニテモ説明アル様為シタシ、併シ御賛成ノ諸君モナク、只本員ノミノ事ナレハ妨ケトモナランニヨリ、差控ヘテモ可ナレト、願クハ一応ハ説明アランコトヲ望ム
○二十五番芳野曰　三番同様本員ノ如キモ同シク更ニ分明ナラサル問題ナレバ、一応説明アランコトヲ欲ス、尚先会ニ於テ彼是望ミ置キタル山川氏カ、京都ノ再調モ一層委シキ結果ヲ得ラレタリトノ事ナレハ、此際倶ニ説明アランコトヲ希望ス
○二十一番石垣曰　本員モ一応大体ニ就テ伺ヒタシ
　　此際九番着席
○委員長曰　三番其他ヨリ請求モアレハ、番外ニ於テ一応大体ノ説明アルヘシ
○番外浅野曰　然ラバ大体ニ就テ述フヘケレトモ、本日ハ説明スヘキ考ヘナカリシユヱ別ニ材料ヲ有セス、依テ充分ナルコトヲ述フルコトヲ得サレドモ、只其概略ノミヲ説カン
　単線式ハ鉄管ニ害ヲ及ホシ、複線式ニハ「なぜ」害ノ及ハヌニヤト云ヘハ、単線式ハ送電線一条ノミナルヲ以テ、電気カ大地ヲ通シテ帰来スルトキ、其電気カ鉄管ニ出入スルカ為メ腐蝕ヲ起ス故ニ害アルモノ
　複線式ハ電気ノ往復トモ線条ヲ用フルヲ以テ、大地ニ電気ノ通セサルカ為メ、自然鉄管ヲ腐蝕セシメス、故ニ害ナシ
　元来電気鉄道ナルモノハ電気ノ力ニ由リテ車体ヲ動カスモノニテ、即チ其電気ヲ発動機ニ掛ケルトキ運転ヲ為スモノナリ
　蓄電池式トハ電気ヲ蓄フル器ヲ置キ、之ヨリ発動機ヘ伝ヘ以テ車体ヲ運転セシムルモノナレハ、線路ヲ要セサルモノナレドモ、之ハ多額ナル創業費ヲ要スルノミナラス、蓄電池ヲ度々仕代ヘルノコトアルヲ以テ、欧米ニ於テモ余リ使用セス、線条ヲ一本張ルヲ「とろりー」ト云ヒ即チ架空式、此方式中単複ノ二様アリ、一本ノ送電線ニ
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テ車体ヲ運転セシメ、而シテ其電気ハ軌条ヲ伝フテ其発シタル所ヘ帰ルモノヲ単線式ト云フ
　線路二本ヲ用フルモノヲ「とろりーろつぷ」ト云フ、即チ複線式ナリ、電気ノ往復トモ此線条ヲ通セシムルモノナレハ、大地ニ入ラサルヲ以テ素ヨリ鉄管等ヲ腐蝕セシムルコトナシ
　而シテ単線式ハ建築上頗ル簡便ノ方法ニシテ、随テ費用モ少額ニ過キサレハ、欧米ニ於テハ大概此方式ヲ用ヒ居レトモ、複線式ハ欧米中「シンシナタ」一ケ所ト云フモ不可ナキ程寥々タリ
　暗渠式方法モ亦同シ
　何カ為メ単線式ノミヲ採用セルヤト云ヘハ、前ニモ述ヘシ通リ建築モ容易ナル上、費用ノ少ナキヲ以テノ所以ニシテ、之レ即チ利益多キ訳ノミ、然レトモ之カ他ヘ及スヘキ害ハ沢山アル、即チ電信・電話等ニ障害ヲ及ホシ、鉄管・瓦斯管等ヲ腐蝕セシメ、加フルニ線条ヲ架設スルヲ以テ、市街ノ美観ヲ損シ、又ハ火災消防ニ支障ヲ与フル等ノコトアルカ為メナリ、尤複線式ハ此方法ヨリモ条線ノ数多キヲ以テ、風致消防ニ関シテハ他ヘ及ホス所ノ支障甚シキモノトス、其電話ニ及ホス障害ハ即チ音響ノ害ヲ蒙フルモノナレトモ、電話其モノ自身ノ効用モ往復線ヲ用ヒサルヲ得サルモノニテ、電話カ往復線トナレバ電気鉄道ハ単線ニテモ宜シク、電気鉄道カ往復線ヲ用フレハ電話ハ単線ニテモ可ナリト云フノ結果トナル
　而シテ電気鉄道ヨリ及ホス障害ノ最大ナル、鉄管腐蝕ハ近年漸ク発見セシモノニテ、欧米等ニ於テモ深ク注意ヲ喚起スルコトニナリタリキ
　暗渠式ハ溝ヲ穿チ此中ニ線条ヲ設置スルモノニテ、之ニモ単線・複線ノ区別アリテ恰モ架空線ト同様ナルモノナレトモ、多額ナル創業費ヲ要スルノミナラス、本邦ノ如キ未タ下水カ完全ナラサル土地ニ於テハ、到底行フ能ハス、加之下駄ヲ穿テ歩行スル所ニ於テハ、直ニ塵埃ヲ以テ埋メラルヽノ惧アレハ、此方法ハ到底行ハルヘキモノニアラス
　以上大体ノ事柄ノミ、余ハ御請求ニヨリ順次説明スル所アルベシ
○三番中島曰　単線式ト、複線式ト、蓄電池トノ費ノ差額ヲ問フ
○番外浅野曰　委シキ調ヲ所持セサルヲ以テ分明ナラサレトモ、単線式ヨリモ複線式ノ方二・三割ヲ増シ、蓄電池式ハ尚又之ヨリモ多額ノ創業費ヲ要ス、蓄電池式ニテ行ハルヽトキハ頗ル安全ナルヲ以テ欧米各国ノ中此方式ヲ研究シ、多額ノ費用ヲ要セサル様ト苦慮シツツアレトモ実際行フトキハ皆ナ費用大ヒニ嵩ミ、損失ヲ招カサルモノ殆ント稀ナリ
○三番中島曰　複線式ヨリモ蓄電池式ノ方廉ニ出来得ルニヤ
○番外浅野曰　創業費ハ蓄電池式ノ方頗ル多額ヲ要シ、尚其蓄電池ヲ仕代ヘサルヲ得サルヲ以テ、到底収支相償ハサルモノナリ
○三番中島曰　電話ニ及ホスヘキ音響ハ単線式ト複線式トハ如何、複線式ニテモ多少ノ区別コソアレ、矢張支障ハ与ヘラルヽモノニヤ
○番外浅野曰　複線式ナレハ、支障ト云フ程マテニハアラス、余程減少ス
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○三番中島曰　自分カ常ニ使用シアル電話ノ如キモ或ル日ハ非常ニ強キ音響アリ、或ル日ハ弱キ音響ヲ感スルコトアルカ、之ハ電灯ヨリ受クル影響ニヤ、電気鉄道ヲ複線式ト為スモ矢張リ斯クノ如キ様ニ感スルニヤ、如何
○番外浅野曰　複線式ヲ用フレハ感シ至ツテ少ナシ、併シ降雨アルトキ抔ハ少シク異ナレリ
○三番中島曰　暗渠式ハ創業費ニ多額ヲ要スルトノコトナルカ、本邦ノ如キ土地ニテハ全ク行ハレサルニヤ、或ハ施工次第ニテ実行シ得ルヤ、如何
○番外浅野曰　外国ニテモ暗渠式ヲ善ク用ヒ居ルハ僅少部分ニ過キス尤モ工事ヲ善良ニセハ可ナルモ、営業上ヨリ考フルトキハ、然セハ収支相償ハサルヘシ
○三番中島曰　費用多額ニシテ工事難儀ナルモノトセハ、先ツ此方式ハ六ツケ敷モノト見做シテ可ナリヤ
○番外浅野曰　然リ
○二十五番芳野曰　電気ノ事ハ皆無存セサルコトナルカ、番外ノ説明ニテハ電話・鉄管等ニ支障アリトノ事ナレトモ、他ノ説ヲ聞ケハ支障ナシト云ヘルカ如何ナルモノニヤ、充分ナル説明ヲ乞フ
○番外浅野曰　支障ハ到底免カレサルモノナリ、去リナカラ其取締法ヲ充分ニセハ其支障ヲ減少スルコトヲ得、即チ其取締ヲ厳ニセハ支障少ナク、寛ニセハ支障多シ、寛厳ニ依ル、故ニ充分ナル取締法ヲ制限セハ、非常ニ其害ヲ減少シ得ルナリ
○九番田坂曰　単線式ハ通行上ノ危険ヲ増シ云々トアルカ如何
○番外浅野曰　速力ハ一時間三十哩ヲモ出スコトヲ得レハ、仮令市内ニ在ツテハ六哩位ヲ制限スルモ、兎角迅速ニ行カンコトヲ欲スルヨリ、終ニ危険ヲ増スニ至ルモノナリ
○九番田坂曰　単線式ニテモ複線式ニテモ、危険ヲ増ス度合ニ於テハ同様ナラン
○番外浅野曰　然リ、同様ナリ、此調査報告ハ馬車鉄道ニ比シタルモノナリ
○九番田坂曰　然ラハ其危険云々ハ、馬車鉄道ニ比較シテ増スト云ハレシモノカ
○番外浅野曰　然リ
○二十五番芳野曰　単線式ニテ取締法ヲ厳重ニセハ莫大ノ費用ヲ要シ終ニ得失相償ハサルモノニヤ、如何
○番外浅野曰　明答シ難キカ、本員ノ見込ニテハ大概相償ナラン、併シナカラ其場所ニ依リテ違ヒアルヘシ
○十四番森田曰　取締法ヲ厳ニ制限セハ、別段費用ニ関セズ出来得ル様トノコトナレトモ、英国ノ制限ハ自ツカラ其土地情況ニヨリシモノナランカ、東京市内ノ如キ低地ニ就テハ如何ナル制限ヲ以テセハ可ナルヤ、本員ノ未タ承リ居ラサル所ナルカ、其害ハ果シテ如何ナル程度ニマテ減少スルコトヲ得ヘキヤ、只取締法ヲ厳制セハトノミニテハ漠然トシテ明瞭ナラス
○番外浅野曰　鉄管ノ腐蝕ナカラシムルコトハ目今ノ所能ハス、只非
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常ニ減少スルヲ得ルナリ、而シテ其程度ハ如何ナル方法ヲ以テセハ可ナリト謂ハヽ、東京市ハ未タ試験ヲ為サヽルヲ以テ明答スル能ハサレトモ、大概英国ニ於テ実施シツヽアル規則ヲ以テセハ、可ナラント見込居ルナリ
○二十七番渋沢曰　問フ、只今承ル所ニ依レハ取締法サヘ厳重ニセハ単線式ニテモ可ナリトノコトナルカ、其取締法ニ就テ二十五番ノ問ニ対シ、番外ハ行ハルヘシト思フト答ヘラレタリ、然ルトキハ行ハレマシキモノニハアラスト見ヘルカ、果シテ然ラハ線条ヲ沢山用ヒサル単線式ノ方可ナラン、然セハ其技術上ノ意見ト此調査報告トハ一寸違フ様ナルカ、此等ノ事柄ハ充分ニ伺ヒ定メ置キタシ
○番外浅野曰　複線式ハ全ク鉄管ヲ腐蝕セシメサレトモ、単線式ハ腐蝕スルナリ、故ニ些少ノ腐蝕ヲ我慢スルナラ、単線式ノ方可ナリト云フニ過キス
○二十四番佐久間曰　単線式ハ鉄管ヲ腐蝕セシムルカ原則ニテ、腐蝕セサルト云フハ原則ニアラス、尤モ其地質ニ依リ、多少ノ相違ハアレトモ、制限スルモ目今ニテハ学術上腐蝕セストハ断定シ難キ由ナリ
○番外浅野曰　其場合ニヨリテハ腐蝕スルコトモアリ、又腐蝕セサルコトモアリ、之ハ全ク其他体《（地カ）》ニ依ルモノナレハ断定シ難キモ、取締法サヘ厳重ニセハ可ナラント見込ミタルナリ
○二番須藤曰　種々ノ御説ヲ承リタルカ、同会社ノ為メニハ、単線式ヲ採ル方可ナランカ、ソハ会社ノ損益ニシテ本会等ノ与ラサル所ナレハ、単線式ハ水道鉄管ニ大関係アルモノナレハ、最早単複ノ利害ヲ論スルニ及ハス、調査委員ノ報告ニ付キ一条毎ニ議スルコトニセハ可ナリ
○三番中島曰　単線式ハ取締法ヲ厳ニセハ可ナラントノコトナリシカ複線式ニハ取締法ハ要セサルニヤ、又其取締法トハ如何ナル方法ニヤ、電気ノ漏洩ヲ防クカ即チ取締法トナルニヤ如何
○番外浅野曰　複線式ニテモ矢張リ取締法ハ要スルナリ、即チ通行上ノ危険ニ関スルコト、電話ニ及ホス障害ヲ杜絶スルコト、距離幾哩トカ云フコト、速度等ノ事ナリ
○十七番曾根曰　学術上ニ渉リシ事柄ハ曩キニ其講義モ承リタルカ、只今番外ノ説明ハ英国ノ規則ヲ適用セハ可ナラント言ハレシモ、先キノ講義ニ於テハ地質ニ関スルモノナレハ、果シテ此規則ヲ適用スルモ腐蝕ヲ防クヲ得ルヤ否ヤハ分明ナラスト説カレタルヲ聞キタルカ、今日ニテハ我東京市ノ地質ヲ学術上試験セラレシニヤ如何
　而シテ英国ノ規則ハ学術上ニ渉ルモノニテ、随分六ツケ敷モノナルカ、本邦ノ制限ニテ是等厳格ナル制度ヲ施行セントセハ、行政命令ニテ実施スルヲ得ルヤ如何、本員等ハ帝国議会ノ協賛ヲ経サルヲ得サルヘシト考フルカ、夫レハ兎モ角モ学術上電気分解作用ニ於ケル取締ハ、寛厳ヲ為スコトヲ得ルヤ如何
○番外浅野曰　東京市街ノ地質ヲ調査シ、以テ英国ノ規則ナレハ可ナリト謂フノ主意ニハアラスシテ、英全国ニ於テ彼ノ規則ヲ実施シツツアルヲ以テ、我東京市ニ於テモ此位ナレハ可ナラント見込タル迄
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ナリ、而シテ此規則ヲ参酌適用スルモ、時々鉄管等ヲ試験シツヽ寛厳ヲ計ラサルヲ得スト云フニアリ
○十七番曾根曰　試験ト取締トハ相俟ツテ行フヲ得ヘキヤ
○番外浅野曰　電流ノ通過ヲ検査シテ取締法ノ寛厳ヲ為スコトヲ得ルナリ
○十七番曾根曰　電流ノ漏洩分明ナランカ、其腐蝕スル度合ハ断言スルヲ得サラン、市中全体ニ埋布シアル鉄管ヲ悉ク試験スルコトハ、到底能ハサルコトナラン
○番外浅野曰　其電流モ沢山ナルトキモ又更ニ起サヽルトキモアリ
○十七番曾根曰　仮令ハ本郷ヲ検査シテ可ナリト認定スルモ、小石川ニ於テ甚シキ腐蝕ヲ醸シアルヤモ亦知ルヘカラサラン、是等腐蝕ノ度合カ分明シ居ラハ可ナレトモ、此辺ハ如何
○番外浅野曰　電流幾干ナレハ幾干迄ト為スコトハ得ヘシ、故ニ電流ノ為メニ何程ノ害アリ、之ハ何程ニ減少セシムト斟酌スルヲ得ルナリ
○十七番曾根曰　一方ハ会社ニ命シテ取締法ヲ遵奉セシメ、一方ハ法律ヲ規定シテ之カ制限ヲ為スモ、是等ハ資力サヘ充分ナレハ出来得ヘキヤ如何
○番外浅野曰　ソハ出来得ヘシ
○九番田坂曰　複線式ハ金属ヲ腐蝕セシムルコトナシトノコト、至極結構ナリ、然ルニ先刻番外ノ説明ニ依レハ、米国ノ如キハ専ラ単線式ノミヲ用ヒ居リテ、複線式ハ一二箇所トノコトナリシカ、果シテ然ラハ米国ノ如キハ地下ニ埋布シアルモノハ、特リ水道鉄管ニ限ラス種々ノ鉄管類アランカ是等ニ害ヲ及ホサヌニヤ、費用ノ如キハ会社ノ負担スル所ユヱ別ニ構フコトナキ様ナレトモ、害ナキモノナラハ安キ方ノ単線式ヲ採用セラルヽ方可ナランカ如ク思ハル、果シテ如何ヤ、米国ニ於テ行ハレツヽアリテ、英国ニテハ規則ヲ設ケアラハ、本邦ニ於テモ出来得サルモノニモアラサルヘシ、此辺ヲ承ラン
○番外浅野曰　米国ニ於テハ「シンシナタ」ニ六十哩程延長セシ複線式アリテ、其他複線式ヲ用フルモノハ極メテ微々タリ、英国ニテハ法律アリ、米国ニテモ同様ナレトモ、此事業ハ未タ新シキコトナレハ、只学術上ヨリ彼ノ位ナレハ可ナラント定メタルモノニテ、本員ノ如キモ、英国ノ規則位ナレハ実際差支ナキニ至ラント思惟シ居レリ
○九番田坂曰　米国ニテハ鉄管ノ腐蝕ヲ感セサルニヤ
○番外浅野曰　腐蝕スルヲ以テ、委員ヲ設ケ調査セシムル等ノコトアルナリ
○十四番森田曰　御参考ニ述フ、米国ニ於テモ「ワシントン」「チカゴ」「ロチエースター」ハ之ヲ許可セス「ボストン」「紐育」「費府」ハ命令ヲ以テ単線式ハ破壊セラレシ事実アリトノコトナリ
○二十九番益田曰　架空単線式ハ高妙ナルモノニテ、地中ヲ帰線ト為スモノナレハ経済上大ニ利益ヲ有スルモノ、而シテ会社カ費用減スレハ夫丈公衆モ利益ヲ得ル訳ナレハ、此上モナキ便利ノモノナレトモ、如何セン鉄管ヲ腐蝕スルコトアルヲ以テ、実ニ已ムヲ得サルナ
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リ、然シテ其電気作用ニ由リテ腐蝕ヲ起スト云フコトハ漸ク近来ノ発見ナル由、此調査報告中ニアル如ク「ファーンハム」氏外二氏ノ実験調査セシモノアレトモ、未タ完全ナル防禦法ハ付カヌモノナルヲ以テ、調査委員会ニ於テモ全会一致ニテ単線式ハ不可ナリト決定セシナリ、畢竟京都ノ試験、米国ノ諸報告ニヨリ惧レヲ懐ク場合ヨリ斯クノ如クセシモノナレトモ、単線式ニテモ充分ナル予防法確定セハ可ナリ、又山川氏ハ京都ヘ出張シ再試験ヲセラレ、大ニ確カメラレタル所アリトノコトナレハ、此問題ノ起リ居ルヲ幸ヒ、此時機ニ於テ山川氏ニ其結果ヲ述ラレンコトヲ希望ス
○番外山川曰　再ヒ京都ヘ行キ試験ヲ為シタル結果ヲ演ヘントセシモ大分六ツケ敷議論モ出テタルニ由リ本会ニ於テハ見合セ、特別委員席ニ於テ述フルコトヽセン
○二十四番佐久間曰　諸君ノ異議ナクハ今直ニ述ヘラレンコトヲ欲ス調査委員ハ只学説ノミヲ信シ決シタル報告ニアラス、害ノ及フヘキモノハ不可ナリト為シタルニアリテ、仮令如何ナル除害法アルモ未タ以テ安心スルニ足ラヌトセハ矢張此儘ニ為シ置クノミナリ、故ニ其実験ニ就テハ充分述ヘラルヘシ、或ル博士ノ如キハ単線式ハ害アリトハ怪シカランコトナリ、物ヲ知ラヌカラナリト言ハレタルコトモアリテ、笑止ニ堪ヘサリキ、山川氏辞退セラレス述ヘラレタシ
○十七番曾根曰　山川氏ノ京都ヘ再度行カレタル調査ノ結果ハ、腹蔵ナク述ヘラレヨ、報告ノ主意カ違フコトモアランカ、昨非今是駸々トシテ進歩シツヽアル学術上ノコトナレハ、違フタリトテ聊カ差支ナシ、強チ両学士ノ説ノミニ依テ報告セシニアラサレハ、変リタル説出テタルトキハ、詰リ委員等ノ研究カ足ラヌト悔ユルコトモアランカ、ソハ別ナリ、切ニ再試験ノ結果ヲ述ラレンコトヲ望ム
○委員長曰　希望多キユヱ山川氏述ヘラルヘシ
○番外山川曰　特別委員席ニ於テ述フル方順序ナレハ、其席ニ於テ述フルコトヽ為サン
○委員長曰　先会ニ次会ニセントテ延期シタルモノニテ、言フヘキ事アリ、聞クヘキコトアルニモ拘ハラス其儘トナリテハ心残リナリ、此席ニ於テ述ヘラルヘシ
○七番田曰　此席ニ於テ述ヘラレンコトヲ希望ス
○十四番森田曰　本員ハ学士ノ説ヲ聞クハ最モ希望スル所ナレトモ、先以テ其資格ニ就テ極メラレンコトヲ欲ス
○二十五番芳野曰　最早面倒ナル事ハ止メテ、只京都ニ於テ実験セラレタル結果ヲ伺ハン
○委員長曰　然リ、其通リナリ、述ヘサルモ可ナリト山川氏自身ニ其説ヲ埋没セラルヽナラ致方ナキモ
○番外山川曰　述ヘサルモ可ナリ
○二十八番石黒曰　逈カニ承ル所ニヨレハ、田辺博士ト共ニ試験セラレシ由、就テハ聞キ洩シテハ残念ナレハ、軌条モ斯クナリシトカ何トカ、学術上ノ点ニ於テ其発見セラレシ所ヲ充分述ヘラレンコトヲ希望ス
○番外山川曰　然ラハ述ヘン、扨京都電気鉄道ノ本願寺水道鉄管ニ及
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ホス腐蝕作用ノ有無ヲ調査スル為メ、本年五月実地ニ就キ之カ試験ヲ執行セリ、然レトモ当時電気鉄道会社営業ノ日尚浅クシテ、腐蝕ノ証跡ヲ得ルコト能ハス（京都電気鉄道試験ニ関スル報告参照）余ハ今回本願寺ノ嘱託ヲ受ケ、本年七月二十一日ヨリ同八月十一日迄右ニ関スル試験ヲ行ヒタリ、其成績ニツキ聊カ本会ノ参考トナルヘキモノアルヲ以テ、玆ニ其大要ヲ述フ
　　　　軌道及鉄管ノ異動
　本年五月試験後軌道及其他ニ異動ヲ生セシ重ナルモノ左ノ如シ
　　一軌道ハ二条ヨリ下立売堀川マテ新ニ布設シ、電車ハ二条ヨリ烏丸丸太町マテ日々壱台運転ス
　　一七条・伏見間ニ於テホンド線ノ切断セルコトヲ発見シ、之ヲ修繕セリ（修繕ノ箇所二百七十余）
　　一水源地ヨリ発電所マテ鉄管壱条去五月工事中ノ処、既ニ落成セリ
　　　　水道鉄管ト軌条間ノ電圧ノ差
　本試験ハ電車運転中本願寺鉄管ニ関シテハ枳殻邸西北角・水源地間数ケ所ニ於テ執行シ、博覧会鉄管ニ関シテハ水利事務所・博覧会前水道用鉄橋間ニ於テ行ヒ、又水利事務所鉄管ニ関シテハ発電所内外ニ於テ行ヒタリ、其成蹟ニ依レバ
　　枳殻邸ヨリ五条小橋マテ鉄管ト軌条間ノ電圧ノ差ハ凡五・五「ヴオルド」以下ニシテ、軌条陽極ナリ、五条小橋ヨリ水源地近傍マテハ、何レノ所ニアリテモ鉄管ハ軌条ニ対シ陽極ナリ
　　水利事務所ヨリ博覧会前水道鉄橋マテハ、鉄管ト軌条間ノ電圧ノ差ハ凡十九「ヴオルド」以下ニシテ、何レノ所ニアリテモ鉄管ハ軌条ニ対シ陽極ナリ
　　発電所内外ニ於テハ鉄管ト発電機陰極間ノ電圧ノ差ハ、凡二十五「ヴオルド」以下ニシテ、鉄管陽極ナリ
　以上ノ成蹟ニ於テ之ヲ観レハ、枳殻邸ヨリ五条小橋マテハ電流ハ軌条ヨリ鉄管ニ向テ流レ、五条小橋ヨリ発電所近傍マテハ、何レノ所ニアリテモ電流ハ鉄管ヨリ軌条ニ向テ流ル、然レトモ任意ノ場所ニ於テ電流ヲ測定スルコト甚タ難カリシヲ以テ、其強サ若干ナリシヤ之ヲ知ルコト能ハサルナリ
　　　　本願寺水道鉄管ヲ流ルヽ電流
　本願寺鉄管中小堀ニ於テ破損ノ場所修繕ノ際、同所ニ於テ之ヲ通スル電流ヲ測定シタルニ、僅ニ平均二・五「アンペーア」ナリシ、其他ノ場所ニ於テハ特ニ鉄管ヲ切断シ其間ニ測定器ヲ挿入スルニアラサレハ電流ヲ測定スルコト能ハサリシヲ以テ、此試験ヲ執行セサリシ、然レトモ試験ノ状況ヨリ推測スレハ、何レノ場所ニ於テモ電流ハ僅少ナルカ如シ、故ニ是等ノ電流ハ鉄管ニ格別腐蝕ヲ起スコトナカルヘシ
　　　　鉄管腐蝕検査
　本願寺水道鉄管　枳殻邸西北角ヨリ水源地マテ数箇所ニ於テ穴ヲ掘リ鉄管ヲ検査シタルニ、何レノ場所ニ於テモ腐蝕ノ模様ナシ
　水利事務所鉄管　此鉄管ヲ検査シタルニ腐蝕ノ模様ナシ
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　博覧会水道鉄管　此鉄管ヲ数箇所ニ於テ検査シタルニ、水利事務所東北角ヨリ博覧会前水道鉄橋南詰マテノ間ニ限リ、鉄管ノ彼所此所ニ赤銹アルヲ発見セリ、是レ電気鉄道ノ電気作用ニ依リテ銹ヲ生セシヤ明ナリ、然レトモ其程度ハ当時甚タ僅少ニシテ、湿リタル縄ノ如キモノヲ以テ、銹ヒタル部分ヲ摩擦シ、尚水ヲ以テ之ヲ洗滌スレハ、光沢アルアスフアルトノ面ヲ現シ（幾分カ銹ノ痕跡ヲ見ルヲ得ヘシ）電気作用ヲ受ケサルモノト殆ント異ナルコトナキカ如シ
　以上ノ結果ニ依レハ、現今本願寺鉄管ハ格別腐蝕作用ヲ受クルコトナク、唯博覧会鉄管ノミ水利事務所東北角ヨリ博覧会前水道鉄橋マテノ間ニ於テ、僅少ノ腐蝕作用ヲ受ケツヽアルモノト知ルヘシ
　　　　鉄管腐蝕予防法
　前項ニ於テ記載セル如ク、博覧会鉄管ハ現今腐蝕作用ヲ受ケツヽアリ、故ニ之カ予防法ヲ施スコト最モ緊要ナリトス、依テ余ハ熱心ニ此問題ヲ研究シ、左ノ方法ヲ案出セリ
　　南禅寺前電気鉄道終端ヨリ発電所マテ地中ニ埋設シアル帰線（電気ハ此線ヲ通シ発電所ニ帰ル）ヲ廃シ、之ニ代ユルニ二条橋東詰又ハ二条橋以西ヨリ発電所マテ、絶縁帰線ヲ架設スルニアリ
　絶縁帰線ヲ二条橋東詰ヨリ発電所マテ架設シ之ヲ使用シタルトキ電気上ノ試験ヲ行ヒタリ、其成蹟ニ依レハ
　　枳殻邸・五条小橋間及水源地・発電所間ニ於テハ、鉄管ト近傍ノ軌条又ハ大地トノ電圧ノ差平常ノ場合（予防法ヲ施サヽルトキ）ヨリ稍下降セリ
　　博覧会鉄管中、水利事務所・博覧会前水道鉄橋間ニ於テハ、平常凡十六「ヴオルト」以下ナリシニ、此時減ジテ四「ヴオルド」以下平均凡一・九「ヴオルト」トナレリ
　斯ノ如ク予防法ヲ施セハ、博覧会鉄管ト軌条トノ電圧ノ差著シク降下セルヲ以テ、鉄管ノ腐蝕モ亦減少シ得ヘキモノナリ、若シ絶縁帰線ヲ二条以西適当ノ場所ヨリ架設セハ、電圧ノ差尚一層降下スヘク随テ鉄管ノ腐蝕モ大ニ減少シ、実際上差支ナキニ至ルヘシ、二条以西ハ絶縁帰線ヲ架設スルコト甚タ難カリシヲ以テ、此場合ハ試験ヲ行フコト能ハサリシ
　　　　予防法ニ関スル費用
　予防法ニ関スル費用ハ帰線ノ代価及架設費ニシテ、帰線ノ長サ六千七百尺ト見做シ、零番線四本ニ相当スルモノヲ用ユルトキハ架設費共凡参千百五拾円ヲ要ス、又博覧会鉄管中、水利事務所・博覧会水道鉄橋間、即チ腐蝕作用ヲ受ツヽアル部分ノ代価及布設費ハ凡千八百円ナリ
　鉄管腐蝕ノ程度ヲ精確ニ測定セントセハ、尚数箇月ノ後重テ鉄管ヲ検査セサルヘカラス、故ニ今腐蝕ノ損害ヲ確実ニ計算スルコト能ハサルナリ
　以上試験ノ結果ヲ左ニ摘録スヘシ
　　　一本願寺水道鉄管ハ、現今格別腐蝕作用ヲ受ルコトナシ
　　　一博覧会水道鉄管ノミ水利事務所東北角ヨリ博覧会前水道鉄橋マテノ間ニ於テ、現今僅少ノ腐蝕作用ヲ受ケツヽアリ
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　　一前記ノ予防法ヲ施セハ、博覧会鉄管ノ受クヘキ腐蝕ヲ大ニ減少シ、実際上差支ナキニ至ルヘシ
　　一将来軌道ノ延長及位置、電気上ノ接続等ニ変化ヲ生シタルトキハ多少鉄管ニ電気上ノ変化ヲ起スコトアルヘシ
○二十九番益田曰　今日ハ是丈ニ願ヒタシ
○委員長曰　然ラハ二次会ヲ開クヤ否ヤニ就テ採決セン、此調査報告ノ二次会ヲ開クニ同意者ハ起立
　　総起立
　又曰　然ラハ二次会ヲ開クニ決シ、暫時休憩セン
　　　于時午後十二時四十分
　　　午後一時十二分着席
○委員長曰　午前ニ引続キ電気鉄道ノ二次会ヲ開ク
　　　書記朗読
　　一架空式単線法ハ地下ニ埋設セル各種ノ金属管（水道鉄管瓦斯管等）ニ電気分解作用ヲ起シ之ヲ腐蝕セシムルノ虞アリ、故ニ此法式ハ本市ニ於テ採用スヘカラサルモノト決定セリ
○二番須藤曰　異議ナシ
○三番中島曰　調査委員ニ問フ、単線式ハ水道鉄管・瓦斯管等トノミナレトモ、電話ニモ影響アル様ニ聞キシカ如何
○十四番森田曰　電話ヲ腐蝕スルコトハナシ、只電話ニ影響ヲ与フレトモ、之ハ管庁ノ処分ニ任スル筈ナリ
○二十五番芳野曰　瓦斯管モ一会社ノ所有ナレハ、市ニハ関係セサルモノ、此点ヨリ言ヘハ市ニ関セサルモノハ掲ケ置カサルモ可ナルカ如シ、依テ其関係ノ有益《（無カ）》ニ関セス害アルカラト云フ方ナラン
○三番中島曰　電信電話ニ限ラス、苟モ著シキ害ヲ蒙フルモノハ市ニ関スルト否トニ拘ハラス、亦此項中ニ明掲スル方可ナラン、、故ニ之ヲ加フル動議ヲ提出ス
○二十二番田曰　夫ハ明記シアリシカ、絶対ニ防キ得サルモノニアラストシテ削リシモノニテ、全体電信ハ左程ニ感セサレトモ、電話ハ大ニ害ヲ蒙フルモノナリ、然レトモ電話ハ政府ノ事業ニシテ其電線ヲ複線トセハ誘導作用ハ少シク受クヘキモ丸テ関係ナキニ至ルヘキヲ以テナリ、殊ニ此事柄ハ今直ニ実行スルモノニテ、乍チ其影響ヲ受クルカラト云フニ非ス、即チ一時的ノモノニアラサルヲ以テ玆ニ掲ケ置カサリシナリ
○三番中島曰　其説明ニテ益々明記スルノ必要ヲ感セリ、単線式ハ本市ニ害アリトスルカ土台ナレハ、何程害アルカ玆ニ列記スル方却テ市民ニ於テ会得スヘシ、殊ニ現在ノ電話ハ悉ク単線ナレハ、之ヲ複線ニ改メントスルハ容易ノコトニモアラサレハ、明カニ之ヲ掲クル方可ナリ
　世乃中ニテ意地悪ク為スカ如キ感情ヲ持ツ様ニ聞ヘテハナラヌカラ誰ニモ会得セラルヽ様著ハシ置ク方然ラン、故ニ前説ヲ敷演ス
○十二番佐藤曰　本員ハ三番ノ説ニハ反対ナリ、結局単線式ヲ許ス能ハサルハ残念ナレトモ、利ヨリ害ノ方多キユエ致方ナシ、故ニ本文ヲ完全ナル除害法ノ発見スル迄ハトノ意味ニ修正センコトヲ欲ス
 - 第28巻 p.237 -ページ画像 
○二十五番芳野曰　三番ノ説ヲ賛成シ、電話並報知機ヲ加ヘン
○十四番森田曰　種々ナル事柄ヲ列挙シタルモノナレトモ、電話ハ夫自身モ複線ノ方ヲ採ラサルヲ得サルモノ、殊ニ夫等ノコトハ行政官庁ニ於テ相当ノ取極メヲ為スヘケレハ、掲ケサルモ可ナラントシテ之ヲ除去シタリ、併シ報知機ノ如キハ記シ置カサルヲ得サルヤモ知レス
○委員長曰　三番ノ修正説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立四名
　又曰　少数ナルニ由リ消滅、別ニ異議ナクハ原案ニ決ス
　　　書記朗読
　　一架空式複線法・蓄電池式ノ二式ハ、市区改正条例ノ規定ニ拠リ街路改正ノ事業完成シタル場所ニ限リ、適当ノ区間ヲ定メ、左ノ制限ニ照シ、布設ヲ許可セラルヽモ敢テ妨ケナキモノト決定セリ
　　　一麹町区・日本橋区・京橋区・神田区内ニ於テハ皇城附近若クハ交通上支障アリト認ムル街路ヲ除キ二等以上ノ道路、及連接上止ムヲ得サル場合ニ於テハ少距離ニ限リ三等道路
　　　二他ノ各区ニ於テハ三等以上ノ道路、郡区連接上止ムヲ得サル場合ニ限リ四等道路
　　　三電気鉄道線路ハ総テ往復ノ軌道ニ布設スルヲ要ス
　　　蓄電池式ハ建柱架線ヲ要セサルヲ以テ、右二式中ニ於テハ蓄電池式ヲ採用セラルヽヲ可トス
○二番須藤曰　往復ノ軌道ニ布設ス云々トハ如何
○二十四番佐久間曰　軌道ヲ往復二条トスルニアリ、之ハ森田君ヨリ説明セン
○十四番森田曰　実際行ハレアル馬車ノ経験ヨリ出テシ事柄ニテ、単軌道ニテハ待合所ナキユヱ道路ノ中心ヘ停車セシムルヲ以テ、恰モ往来ノ頻繁ナル道路中ヘ一個ノ見世ヲ開店スルカ如キ観アリテ頗ル不便ナリ、上野・浅草・両国・日本橋等皆ナ然ラサルハナシ、故ニ交通ノ利便ヲ図リ軌道ハ必ラス往復ニ設ケシムルト云フニ外ナラス
○九番田坂曰　往復ノ軌道云々ニテハ誤解スルモノアラン、単軌道ニシテモ往復スルモノナレハ、之ハ寧ロ複軌道ト修正為シタシ、如何
○十二番佐藤曰　一街路中ヘ必ス往線ト帰線トヲ設ケシムルノ謂カ、往ク道ト帰ル道ト二ツニスルモ可ナルニヤ、如何
○十四番森田曰　従来ノ馬車鉄道線路中ニアル本町通リ・馬喰町通リト往復軌道ヲ異ニスルハ差支ナキ見込ナリ
○二十一番石垣曰　文明ノ利器ナリトセハ賛成セサルヲ得サルモ、本員ノ如キハ今日ニ於テハ尚早シト云フ意見ナリ、水道改良事業ノ如キモ明治三十一年度ニ於テ完成スルナレハ、其迄ニハ道路モ従テ幾分カ整理スヘシ、其上ニテ布設セシムルヲ可トス、今若之カ布設ヲ許可セラルヽニ於テハ、終ニハ其必要ニ迫ラレ電気鉄道ノ為メニ道路ヲ改正セサルヲ得サルニ至ラン
○十二番佐藤曰　本員ハ此項ヲ左ノ通リ修正為シタシ、前項以外ノ方式ハ、左ノ制限ニ照シ布設ヲ許可スルニ於テハ支障ナキコト
 - 第28巻 p.238 -ページ画像 
　一皇城附近若クハ交通上支障アルモノヲ除キ、六間以上ノ道路ニシテ、将来市区改正三等道路ニ限ルヲ要ス
　トシ、其余ハ削除セン、其趣旨ハ本案ノ如ク市区改正完成ノ上トスルトキハ、恰モ許可セヌト同様ノ結果トナリ、市区改正ノ出来タル道路ニシテ此制限内ニ当テ得ラルヽモノハ、今ハ只僅カニ下谷御成街道ト芝公園前ヨリ丸ノ内ニ至ルノ二線アルノミ、差詰メ此短距離ノ路線ヘ布設シ、其余ハ市区改正事業ノ進行ヲ見テ居ラサルヲ得サルコトニモナルヘシ、取締サヘ充分ニセハ、六間以上ノ道路ニ布設セシムルニ於テ、何ノ支障カアラン、故ニ市区改正ノ完成ヲ告ケサル内ハ六間以上ヘ布設セシメ、完成セシトキハ即チ三等道路以上ヘ移設セシムルト云フ条件ヲ付シテ許可スルコトニ為シタシ
○十四番森田曰　現在道路ノ有様ニテハ電信・電話・電灯・報知機柱ノアル上ヘ、軍事用ノ電信柱等縦横ニ建設シアリテ、已ニ今日ニ於テモ道路ヲ狭メアルモノナルニ、然モ太キ線条ヲ其中ヘ引キ、以テ建柱ヲナスモノナレハ、道路ノ取拡メラレサル以上ハ交通上頗ル危険ナルヲ以テ、斯クノ如ク制限セシナリ
○十番鈴木曰　道幅ニ付キ制限セシハ分明セリ、併シ現在ノ道幅ニシテ最モ広キ場所ハ幾干位アリヤ
○二十九番益田曰　完成シアル場所ハ、新橋ヨリ京橋迄ノ間ノ十五間道路アルノミ
○十番鈴木曰　如何ナル訳ニテ完成シタル場所ニ限リ許スト謂フニヤ
○二十四番佐久間曰　道路狭隘ニシテ危険ナルヲ以テナリ
○十番鈴木曰　新橋ヨリ京橋間ハ十五間道路ナレトモ、電気鉄道ハ一串セサレハ許サヌト云フニヤ
○二十四番佐久間曰　市区改正設計ニ於テ本芝ヨリ何所マテ、蓬莱橋ヨリ何所迄トアル、其区間全体カ広メラレサレハ許サヌ積リナリ
○十番鈴木曰　皇城附近ヲ許サヌトハ如何
○十四番森田曰　別段深キ理由アルニアラス、何人ノ御考ヘモ同様ナラン、電気鉄道ハ道路ノ障害物ナレハ避クルコトヲ希望シタルニアリ、総テ各国ニ於テモ此例アリ、伯林・巴里ノ某街ノ如キハ、道路法ヲ以テ是等ヲ布設スルヲ許サヌ制限ヲ布ケリ
○二十一番石垣曰　区間カ完成セサレハ許サヌト二十四番ハ述ヘラレタリ、果シテ然ラハ出来ナイ相談トナラン
○二十四番佐久間曰　現時ハ出来サルヘシ、二等・三等以上ノ適当ナル道路サヘ出来レハ可ナリ
○七番松田曰　道路ニ就テハ二十四番ノ説ノ通ナルカ、完成シタル所モ旧道路ノ幅モ矢張リ其幅員サヘアレハ同様ナリ、然レトモ改正セサルモノハ連続シアラス、故ニ調査会ハ夫等営業線トシテノ短距離ハ見ナイノテアルケレドモ、区間ト謂フテモ市区改正設計ハ長短アルヲ以テ之レノミニテ決スルニハアラス、実際ニ至リ其区間ヲ定メントスルトキハ今一応本会ヘ諮問アランコトヲ希望セシナリ、御承知アリタシ
○十番鈴木曰　修正意見ヲ述ヘンカ、已ニ十二番ノ説モアリテ賛成ノ点モアルカ、其事柄ハ別々ニ決セラレンコトヲ欲ス、如何
 - 第28巻 p.239 -ページ画像 
○委員長曰　ソハ賛成ノ都合ニモ依ルヘシ
○十番鈴木曰　本員ハ不慣ノ為メ見当違ヒノ事柄モアルヘシ、ソハ是正ヲ願フトシ、扨
　完成シタル云々ヲ削除シ、道幅十間以上、将来変更スルモ狭クナル気遣ハアルマイカ、十間ヨリ狭カラサルコトヽ為スコトニ改メ
　皇城附近云々モ止メタシ、之ハ別ニ不都合アルヘシトモ思ハレサレハナリ、畢竟美観ヲ損セサル様トノ懸念ナランカ、市ノ有様ヲ以テ見レハ却テ美観ヲ損セサルノミナラス、皇城附近トセハ内務省脇ヨリ和田倉橋・桜田門近傍モ含マレテアルヘシ、是等ハ無論除クヘキ必要ノナキモノナリ
　馬車鉄道ヨリモ数多トナランカモ知レサレトモ、車輛カ滞ルト云フノミヲ以テ、斯クノ如ク制限スルハ不可ナリ、故ニ往復軌道云々ハ除カンコトヲ欲ス
　道幅十間以上トセハ其連続上必要ノ場合ハ六間以上ニテ可ナレハ、ソハ、六間以上ト為サンコトヲ欲ス
　其理由ハ「くだくだ」敷言ハサルモ可ナラン、要スルニ我東京市ハ区域甚タ広キヲ以テ一日モ交通利便ノ器ナカルヘカラス、本員ノ修正説位迄ハ辛抱セサルヲ得サルモノナレハナリ、故ニ彼是斟酌シテ修正ニ同意セラレンコトヲ欲ス
○七番松田曰　御尤モノ説ナリ、出来サル事ニナリテハ不都合ナレトモ、十間トスルモ那辺ニ十間ノ道路ニシテ連続シアルモノアリヤ、柳原ノ如キハ十四五間ノ所モアレトモ、又狭キ所モアリ、然ルトキハ十間トスルモ矢張行ハレサルコトニナルヘシ、御心付アラハ伺ヒタシ
○十番鈴木曰　素ヨリ本員ハ不案内ナルカ、必ス十間ニ限ルト云フニアラス、諸君ニ於テ九間ナレハ宜シト謂ハヽ、一間位ハ「まけ」テモ可ナリ
○十二番佐藤曰　十二番ハ到底同感ノ委員ハアラサルヘシト思ヒタルニ、図ラサリキ十番ノ如キ十二番ニ較近キ説出テ望外ノ仕合ナルカ本員ハ六間アレハ差支ナキ考ヘ、尤モ之モ畢竟想像ニ過キサルモノユヱ、六間カ七間ニテモ八間ニテモ可ナルモ、余リ究屈ニ制限セス成ルヘク布設セシメタキ意思ナリ
　皇城附近トハ和田倉橋ヨリ桜田門内ハ荷馬車モ通行ヲ許サヽレハ、此辺ナラント解釈シ置キテ支ヘナカラン、又往復軌道云々ト明記セサルモ、之ハ許可セントスルトキ協議シテ、其辺ニ決スレハ差支ナキモノナラント思ヒタルナリ
　蓄電池式云々ノ如キ一応理由アランカ、学者振リテ書カサルモ、又其良否ヲ謂ハサルモ、実際上何ニアレ布設セシムル様ニ為シタキ意見ナレハ、十番ニ於テ御同感ナレハ右ノ如クセラレテハ如何
○十番鈴木曰　十二番ト談合セン、蓄電池式云々ハアリテモ差支ナキモノナラハ此儘ニ
○十二番佐藤曰　可ナリ
○委員長曰　十二番ノ修正説ニ賛成者ハ起立アレ
　　起立　　二名
 - 第28巻 p.240 -ページ画像 
　又曰　少数ナルニ由リ消滅
○九番田坂曰　皇城トアルカ、公然皇城ト定メラレシニアラサランカ太政官ノ達シニモ　宮城トアリタリ、斯ク修正シテハ如何
○委員長曰　修正スル迄モナク夫ニ改メン、原案ニ同意者ハ起立アレ
　　一名ノ外、総起立
　又曰　然ラハ原案ニ据ヘ、其三ニ移ル
　　　書記朗読
　　一暗渠式諸法ハ、本市街路ノ状況ニ於テ実際施行ニ適セサルモノト決定セリ
○委員長曰　異議ナキヲ以テ原案ニ据ヘ、其四
　　　書記朗読
　　一電気鉄道免許ノ路線及其区間並其他建設上遵守スヘキ必要ノ条件ヲ定メラルヽ場合ニ於テハ、更ニ本会ニ諮問セラレンコトヲ要ス
○九番田坂曰　内務大臣ノ諮問ニ依レハ、従来ノ鉄道馬車同様再審議ニ付セス、直ニ復申スレハ可ナルモノヽ如シ、如何
○七番松田曰　ソハ是迄既設ノ場所モアリ、条件等モ判然分明セルモ電気鉄道ハ始メテナレハ自然条件等ニモ種々ノ事項アルヘキヲ以テナリ、尤モ京都電気鉄道ヘ付セラレタル条件ヲモ取調ヘタレトモ、多数ナレハ営業者ノ出願セシモノト当局者ノ付セラルヘキ条件トヲ照シ、以テ彼是斟酌セハ適当ナラント信シタルヲ以テ、再ヒ諮問セラルヽ様希望ヲ述ヘシニアリ
○委員長曰　異議ナキニ由リ原案ニ据ヘ、其五
　　　書記朗読
　　一発起人雨宮敬次郎外六十八名（東京電気鉄道）同草刈瞿翁外四名（東京中央電気鉄道）同町田徳之助外八名（浅草電気鉄道）同藤山雷太外三名（東京電車鉄道）出願並馬車鉄道株式会社出願ノ分共総テ前項ニ依リ措置セラレンコトヲ希望ス
　又曰　異議ナキニ由リ原案ニ据ヘ、本案全体ニ就キ採決セン、原案ニ同意者ハ起立アレ
　　一人ノ外総起立
　又曰　然ラハ調査委員報告全体可決、次ハ第十六号甲武鉄道万世橋延長並市内循環鉄道布設ノ件ニ移ル
　　　書記朗読
　　　　甲武鉄道線路延長並市内循環鉄道ニ関スル調査報告
　　本年四月二十六日ノ本会ニ於テ甲武鉄道三崎町・万世橋間線路延長並市内循環鉄道線路布設ノ件ニ係ル調査委員ヲ嘱セラレ、反復審議ノ上左ノ通決議セリ
　　一甲武鉄道三崎町・万世橋間線路延長ハ単ニ万世橋ニ至ルモノトシテハ許可セス、東京中央高架鉄道ニ連絡スルノ設計ナルニ於テハ、本会ハ之ヲ許可セラルヽモ支障ナキモノト決定セリ
　　　　但本線路布設ヲ実施スル場合ニ於テハ、市区改正既定設計上神田川ノ改修・道路ノ改良等ニ就キ、重要ノ関係ヲ有スルヲ以テ、線路ノ実測ヲ遂ケ、該設計ノ細目ヲ確定スルニ当リテ
 - 第28巻 p.241 -ページ画像 
ハ、更ニ本会ニ諮問セラレンコトヲ要ス
　　一甲武鉄道会社出願市内循環鉄道ハ、東京市内速輸ノ方法トシテ汽車鉄道ヲ採用スルハ其利害相償ハサルモノナルヲ以テ、許可セラルヘキモノニ非スト決定セリ
　　右報告ス
　　　　　　　　　　　　　　調査委員
　　　　　　　　　　　　　　　　七番　　　　松田秀雄
　　　　　　　　　　　　　　　　十四番　　　森田茂吉
　　　　　　　　　　　　　　　　十七番　　　曾根静夫
　　　　　　　　　　　　　　　　二十三番　　田健次郎
　　　明治二十八年七月　　　　　二十四番　　佐久間貞一
　　　　　　　　　　　　　　　　二十八番　　石黒五十二
　　　　　　　　　　　　　　　　二十九番　　益田孝
　　　　　　　　　　　　　　　　三十番　　　原口要
　　　　　　　　　　　　　　　　三十一番　　松本荘一郎
　　　　委員長　三浦安殿
○二十五番芳野曰　異議ナシ
○十番鈴木曰　市内循環鉄道ニ就テ利害相償ハサル云々トアルハ、如何ナル御意見ナリヤ、説明アリタシ
○十四番森田曰　市内ニハ専ラ馬車・電気鉄道等ヲ応用スヘキモノニテ、蒸汽鉄道ヲ以テスルハ利害相償ハサルモノナリト云フニ過キス
○委員長曰　別ニ異議ナクハ採決セン、原案ニ同意者ハ起立
　　総起立
　又曰　全会一致ナルヲ以テ原案可決　○下略