デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

3部 身辺

1章 家庭生活
4節 趣味
2款 和歌
■綱文

第29巻 p.190-192(DK290059k) ページ画像

明治28年9月(1895年)

是月栄一、青森県下三本木農場ヲ視察シテ帰リ、十月、京都ニ於ケル平安奠都記念祭ニ参列、次イデ十一月、九州地方ヲ巡遊シテ帰ル。是間、各地ノ名所旧跡ヲ訪ネテ和歌ヲ詠ズ。


■資料

--(DK290059k-0000)
第29巻 p.190 ページ画像

   ○本巻「旅行」ノ条参照。


竜門雑誌 第九一号・第一八―二四頁 明治二八年一二月 【先つ頃青淵先生か陸奥及…】(DK290059k-0001)
第29巻 p.190-192 ページ画像

竜門雑誌  第九一号・第一八―二四頁 明治二八年一二月
  先つ頃青淵先生か陸奥及ひ筑紫に赴きたまひし折、道すからの名所旧跡を訪はれ、ものし玉ひし歌数十首を得たれは左に掲く、評者は中村秋香大人なりといふ        編者識
 ○陸奥の部
    首途のとき人のゆくてをとふに答へて
旅ころもゆくての友を人とはゝせきのあき風みちのくの月
  興ある御口つきにも侍るかな、たゝし五の句みちのくあまり広すき侍るへくや、白川も陸のうちの名所なれはおなしく陸のうちにて松しまの月なとにてはいかゝ
    那須野の原を過くとて
日おもての暑さは夏にかはらねと荻の葉そよく那須の篠原
  一吟の下新秋のさまおのつからおもひしられ殊に下の句秋風をいはすしてしらせ給へるなといといとおかし、たゝ初句何となくおたしからぬこゝちす「あさつゆのひるま」なとなし給はゝあつさといはてあつきさまもこもりて下の句とよくうちあひ侍るへきか
    汽車の白河を過るときに
秋風のむかしのせきの白河をみるまに過るまかねちのたひ
  三の句跡あれてとなし給はゝみるまに過るのこゝろいよいよ明かなるへし、秋風のみしとあれは白川といふ名はなくともよく聞え侍るへし
    仙台なる陸奥の園にやとりて
うち連れてまねく尾花も見ゆるなり一夜はぬれん宮城野の露
  花山の僧正か口つきおほゆる御しらへにも侍るかな、まねきまゐらせつるは女郎花にてや侍りけん
    伊達政宗
あたら世をたゝ宮城野の月にめてゝ都の花は見わすれに鳧
  けにけに正宗さはかりの才幹もて夙に上国にいてたらんには、天子をさしはさみ四方に号令して覇業をなしたらんもしるへからすはつかなる三十一字よくこの大議論をいひをほし給へる、敬服にあまりあり○五の句なとわすれけんにては
 - 第29巻 p.191 -ページ画像 
    松島
大方のものはきゝしにおとれるをみるにましたる松か浦島
  人のよのならひおもしろくよみなし給へり○見聞くの語を前後して、ものはみてこそおとりけれきゝしにまさるにては
すみわたる水に千島の影見えてゆふ日ほのめく浦の松かえ
  けしきみるか如し、声ある写真とそいふへき
とふ人のなみたの雨やつきさらん衣川はらの水はかるとも
  二の句袖とふ波やにては
    三本木にて新渡戸ぬしの墳墓に詣ふてゝよめる
ひらけゆくみ世の光に中たえし君かいさをも見え初にけり
  三の句うつもれし五句あらはれにけりにては
山を田にひらきし君かめくみにておひしけり行く里の民草
下の句の民草上の山を田に応していといとをかし
    三本木の里にて
行すきて母まつこまも見ゆるなり牧はに近き岡のひとむら
  けしきありさまたゝめのまへにみるこゝちす○初二の句かけゆきておやまつにては
    日光にて東照宮に詣てゝ
ひろ□にのこるいさをはちりはめし金黄《(前カ)》の外に見え渡る哉
  神徳の尊きまことに輪煥のほかに赫燿たり、万古不易の正論とそいうへき
  ○初二の句今もよをてらすにては
 ○筑紫の部
    星の山に狩りたる松茸を家つとにあつまへおくるとて
霧わけて我手に狩し秋の香はとほきあつまの家つとにせん
  御歌巧をもとめんには下の句おくりやせまし風にたくへてなとや侍らん、霧といひ香といふをうけて
    紀念祭につゝきて時代祭てふ事するをみて
あたらしくさかゆく御代に千年ふる昔の様をみるそ楽しき
  新旧のうけあはせいと興あり○五の句みるもたのしなにては
    船柳井津港を過るとき暮煙岸の松をおほひぬれは
山の端の煙は松をおほひけりうらのとまやに夕けたくらん
  ……おほひたるけしきえもいひかたし、御歌四条家の画をみるか如し
    博多より船越にいたる途中元冠の古跡を過くとて
つくしかたいまも昔の忍はれてあきかせたかくうつから衣
  うつからころもいとをかし、四の句なほ秋風さむくのかたか
    熊本なる白河城の古趾にのほりて
千代ふるもつきぬいさをは白河に君かのこしゝ城の石すゑ
  初二のつゝけ千代をへてくちぬにては
    太宰府の天満宮に詣うてゝ
ぬさとりてむかしの秋を思ふなりもみちゝりしく神の広前
  ぬさといひむかしの秋といひてもみちゝりしくとうけたるちからありていといとめてたくうけ給はり侍り○三の句しのふかなとあ
 - 第29巻 p.192 -ページ画像 
らまほし
み一つのむかしの秋のしのはれてなみたの時雨そゝく広前
  そゝく広前おかしからぬこゝちす
    こその秋宮島の社にまうてし頃は紅葉谷の木々色猶浅かりしを、今年はなへてよく染尽しけれは
またとひし谷の紅葉心ありてことしは去年の色にまされる
  初句名にしおふにてはまたとひしの意は三の句にて明かなれは
    船にて宮島より宇品の港にわたるに浦々の暮景いとおもしろかりけれは
夕けむりわけゆく船のをちこちにうすくこく見る沖つ島山
  下の句沖つしま山うすくこくみゆにては
    高尾山に紅葉を観て
たにまゆく水に錦の影うきてとほめ見まかふ峯のもみち葉
  水も錦の影うけてゝとほめみわかぬにては
あさしもと夜半の雨とをたてぬきに錦おり出す木々の紅葉
  夜半のしくれを……おりなすにては○霜と雨とゝやうにいふは正格には侍れと調によりては下のとははふく例も侍れは