デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年1月1日（1900年）

是日栄一、東京ヲ発シ大磯ノ長生館ニ赴キ、十八日帰京ス。

渋沢栄一　日記　　明治三三年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月一日　曇
○上略　午後一時四十分新橋発ノ汽車ニ搭シ大磯ニ赴ク、車中桂陸軍大臣横田司法次官・大山夫人・高橋是清・市原盛宏氏等ニ面話ス、四時頃大磯長生館ニ投宿ス、家人児童相会シテ一室団欒ノ楽アリ
一月二日　曇
午前八時朝餐ヲ畢リテ昨年来ノ日記ヲ査ス、午前十一時三十分大磯発ノ汽車ニ搭シ、横浜ニ抵リ山手百五拾弐番米人モールス氏ヲ訪フ、智利国公使ブァクナ・同領事、及ダン氏・平岡煕氏ト会話ス、午後一時モール氏宅ニ於テ午餐シ、一昨日来談話セシ硝酸曹達輸入ノ事ヲ議ス公使ハ此際会社ノ設立ヲ企望セラルヽモ、適当ノ時期ナラサルヲ以テ之ヲ謝絶シ、其売捌ヲ尽力シテ販路ノ拡張ヲ勉メ、而ル後会社設立ノ事ヲ約ス、午後四時二十七分横浜ヲ発シ、六時頃大磯長生館ニ帰宿ス此夕吉岡新五郎石碑ノ文字揮毫ノ事ニ付テ来宿ス
一月三日　曇午後快晴
朝来旧年ノ日記ヲ調査ス、午餐後吉岡ヨリ依頼セラレタル石碑三面及其背面ノ文字ヲ揮毫ス、畢テ他ノ絹本・白紙等十数葉ノ揮毫ヲ為ス、夜第一銀行佐々木勇之助・台湾銀行土岐僙ノ書状ヲ落手ス、益田孝氏来ル六日品川邸ニテ、年首ノ茶事ヲ催スニヨリ、正午ヨリ来会セラレタキトノ案内状ニ接ス、石井健吾来ル、其帰便ニ伝言シテ、第一銀行佐々木氏ヘ韓国公使林氏ト面会ノ事ヲ申シ遣ス、夜食後大坂田中・神戸熊谷・西京中川及韓国京城ノ佐々木清麿ヘ書状ヲ裁ス、益田孝氏ヘ茶事ノ招宴ニ出席ノ回答ヲ発ス
一月四日　晴
午前七時半、吉岡新五郎今日八時ノ汽車ニテ帰京スルニヨリ、昨夜書裁セシ大坂・神戸・西京及韓国行ノ書状ヲ托シテ、東京ニ於テ発送セシムル事トス、又来ル六日ノ招宴ニ関シテ兜町宅ヘ雑事ノ伝言ヲ為サシム、午後元治来ル、東京留守宅八十島ヨリノ書状ヲ持参ス、諸方ヨリノ来状数通ノ添ヘ来ル中ニ、穂積陳重男・篤二ヨリ送来ノモノアリ夕佐々木勇之助氏ヨリ電報アリ、明五日午後四時迄ニ帰京セラレタキ旨通知アリ
此日モ数十葉ノ揮毫ヲ為ス、朝ハ有楽会規程ノ草案ヲ起稿ス、夜十二時寝ニ就ク
午後山田喜之助氏来ル、蓋シ隣房ニ来寓スルヲ以テ訪問セラレシナリ
一月五日　晴
昨日ヨリ風ナクシテ天晴ルニヨリ、聊モ寒威ヲ感スル事ナシ、以テ大磯ノ気候東京ニ異ナル処アルヲ知ル、昨日佐々木勇之助氏ヨリ電報セ
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シ林公使面会ノ事ハ、更ニ本日書状ニテ通知アリタリ、依テ午後三時発ノ汽車ニテ帰京ス　○下略
一月六日　曇
○上略　午後六時九分発品川ノ汽車ニ搭シテ、八時大磯ニ抵ル　○中略　夜ニ入リテ雪降ル、寒威凛烈タリ
一月七日　大雪
昨夜ヨリ降続キタル雪ハ、朝来弥劇シク風ヲ加ヘテ一層ノ寒ヲ増ス、降雪深キコト凡五・六寸余、大磯ニ在テハ極テ稀ニ見ル処ナリト云フ午前子供等ノ帰京スルトテ頗ル雑沓セリ
留守宅八十島親徳ヨリ書状来ル、伊藤・大隈・山県・岩崎四家ヘノ送品ヲ、黒崎ヲ以テ送リ来ル、午時頃渋沢喜作来ル、浅野総一郎来ル、此日ハ雪深ク外出シ得サルヲ以テ家ニ在テ遊戯ス
一月八日　曇　昨来寒甚シ
朝熊谷辰太郎ヨリ書状来ル、伊藤其他ノ各家ヘ送品ヲ、戸田ヲ以テ送リ遣ス
昨年春秋両度ノ竜門社大会ニテ演説セシ筆記、及曾テ東京市参事会ニ於テ市街鉄道ニ関スル意見ヲ陳述セシ記録ノ草案等ヲ修正シテ、黒崎ノ帰京便ニ留守宅八十島ヘ送リ遣ス、新潟・四日市・名古屋三支店、及韓国京城佐々木・仁川西脇・釜山尾高等ヘ書状ヲ認テ、同シク東京ヘ送リ遣ス
一月九日　晴
午前梅浦精一氏来ル、石川島造船所ノ事ヲ談ス、辻川新三郎氏来ル、織物会社ノ要務ヲ談シ、田中源太郎氏ヘ書送《（状カ）》ヲ裁ス、夕方大川平三郎来、芝川製紙場ヘ赴ク途次訪問セシトノ事ナリ
昨夜来少シク感冒ノ気味ナルヲ以テ、入浴スルヲ得ス、夜ニ入リテ稍快ヲ覚フ
一月十日　朝曇午後大雨且風強シ
朝来書類ヲ調査ス、東京ヨリ書状来ル（第一銀行清水泰吉・京都中川知一・竹内綱・八十島親徳及井上角五郎氏等ノ来翰ナリ）午後ノ汽車ニテ帰京ノ筈ナリシモ、二時頃ヨリ腹痛アリテ下痢シタレハ、已ムヲ得ス電報ヲ以テ浅野総一郎氏ノ宴会ニ断リノ旨ヲ通知シ、且留守宅ノ集会ノ約ヲモ謝絶ノ事ヲ申遣ス
一月十一日　曇又雨
午前堀越善重郎来ル、本年度計算報告ノ事ヲ協議ス、午後福島甲子三来ル、瓦斯会社株主総会ノ順序ヲ談ス、明十二日重役会ヲ催ス旨ナルヲ以テ、不参ノ事ヲ托シ遣ス
一月十二日　晴
東京留守宅ヨリ来状数通ヲ送リ来ル、日下義雄氏ノ催ニ係ル林公使送別ノ午餐ハ、不快ノ故ヲ以テ断リノ電報ヲ発ス、此日ハ清水満之助ヨリ招宴セラレシモ、同シク断リ遣ス
一月十三日　曇又晴
人造肥料会社竹田政智来ル、三重紡績会社斎藤恒三来ル、同会社織布工場拡張ノ事、重役報酬額増加ニ付其分配割合取究ノ事及賞与金改正配当案ノ事ヲ協議セラレ依テ意見ヲ陳述シ、且伊藤氏ヘモ書通スヘキ
 - 第29巻 p.463 -ページ画像 
事ヲ約ス、東京留守宅ヨリ書状来ル、留守宅ヨリ八十島親徳訪ヒ来ル
一月十四日　晴　大風
朝竹田政智ト人造肥料会社半季計算報告、利益分配案其他ノ要件ヲ協議ス、留守宅八十島親徳ヨリ持参セル諸方ノ来状及諸計算書類ヲ一覧シ、且処分案ヲ指示シ、返翰ヲ発ス、伊藤伝七氏ヘ返書ヲ出ス、大坂大川英太郎ヘ返書ヲ出ス、本店清水泰吉氏ヘ営業報告書其他ノ事ヲ回答シ遣ス
午後柏原文太郎・清国人林北泉二氏来ル、亜州通商協和会設立ノ事ヲ談ス、大坂・神戸両地ノ商業会議所会頭ニ添書ヲ交付ス、渡辺嘉一氏来ル、北越鉄道会社沼垂ヨリ万代橋マテノ線路延長ノ事ヲ談ス、成瀬仁蔵来ル、女子大学ノ設立ニ関シ奨励会ト合併ノ事ヲ談ス
一月十五日　晴　風強シ
朝竹田政智東京ヘ帰ル、人造会社技師二名ト近日会談ノ事ヲ約ス、此日ハ別ニ来書来人等ナカリシヲ以テ、終日読書又ハ遊戯ニ消閑ス
一月十六日　晴
午前海辺ヲ散歩シテ鴫立沢近傍ニ到ル、十一時高島義恭氏来訪、韓国釜山港埋立地ノ事ニ関シテ依頼アリ、依テ其企望ノ要旨ヲ承リ、且京釜鉄道会社ノ現況ヲ示ス、埋立ニ付テノ設計図ヲ預リ置キ、近日創立委員会ニ於テ評議ヲ尽シテ回答スヘキ旨ヲ約ス、高島氏ハ林権助ヨリノ添書ヲ携帯ス
浅野総一郎氏ヨリ外国人招宴ノ事ニ付テ電報アリ、依テ十八日ヲ以テ回答ヲ発ス、夕方浅野ヨリ再応電報アリ、十八日午後七時ニ招宴ノ事ヲ定メタル旨報シ来ル
一月十七日　晴
朝新潟支店松井吉太郎及浜政弘両氏ヘ、北越鉄道会社ニ於テ本月ノ株主総会ニ沼垂線路変換ノ事、万代橋付近マテ延長ノ事及車輛増加ノ議案提出ニ関シ、委細事情申遣ス
梅浦精一氏来ル、広島水力電気会社ノ事及石川島造船所重役増員ノ事ヲ協議ス
一月十八日　晴
朝海岸ヲ散歩ス、午後一時発ノ汽車ニテ大磯ヲ発シ、三時過東京ニ着ス　○下略

竜門雑誌　　第一四〇号・第三七頁　明治三三年一月
○青淵先生　には、元旦以来避寒静養の為め大磯長生館に滞在せられしが、去る十八日無事帰京せられたり

（八十島親徳）　日録　　明治三三年　　　（八十島親義氏所蔵）
一月一日　曇寒シ
○上略
先生ニハ今日正午ノ汽車ニテ大磯長生館ヘ転地保養ノ上、十日頃帰京ノ筈ナリ
○下略
　　　○中略。
 - 第29巻 p.464 -ページ画像 
一月十日　陰曇午後雪フリ夜雨トナル
○上略
青淵先生本日大磯ヨリ帰京セラルヽ筈ナリシモ、風邪ノ為延引ノ電報来ル
○下略
　　　○中略。
一月十参日　晴
○上略
十時半出勤ス、青淵先生帰京延引ノ為メ要務渋滞ニ付、妻子訪問旁大磯ヘ行ク事ニ定メ、一寸帰宅、着換等ヲ用意シ
午後三時廿五分ノ汽車ニテ新橋ヲ発シ、五時五十分大磯ヘ着、徳子ハ義子氏ト出迎ヘ来リ、共ニ松本下谷口別宅ニ至ル
　　　○中略
夕食後長生館ニ主人公ノ一行ヲ訪ヒ　○下略
一月十四日　晴南風　大磯滞在
朝七時過起、食事後長生館ニ主人公ヲ伺候シ侍側、一時過マテ用務ヲ弁シ、明朝帰京スヘキ旨ヲ述ヘ辞シ帰ル、先生ニハ一日午後より同地ヘ避寒、五・六両日一寸帰京、再同地ニ滞在、微カナル風邪ノ為未御滞在今一両日尚滞留トノ事　○下略
　　　○中略。
一月十八日　晴
○上略　青淵先生四時新橋着ノ汽車ニテ御帰京アリ　○下略