デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治40年8月15日（1907年）

是日栄一、東京ヲ発シ箱根小涌谷ノ三河屋ニ赴キ九月一日帰京ス。

渋沢栄一　日記　　明治四〇年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
八月十五日　風雨　暑　　　　　　　　　　　　起床五時三十分　就蓐十一時
起床後直ニ朝飧ヲ食シ、旅装ヲ整ヘ六時半家ヲ発シ、兼子及児女共ニ一行九人函根ニ啓行ス、小涌谷温泉ニ浴スル為メナリ、午前八時新橋急行列車ニ搭シ、九時半国府津ニ着シ、更ニ電車ニテ十一時湯本ニ着ス、塔ノ沢ニテ坂谷氏《（阪谷氏）》ヲ訪ヒ午飧ス、松尾臣善氏来会ス、午後風強ク雨烈シ、二時過塔ノ沢ヲ発シ五時前小涌谷三河屋ニ着ス、夕方入浴シ夜ニ入リテ児等ニ読書セシメテ聴聞ス
八月十六日　曇　冷　　　　　　　　　　　　　起床六時三十分　就蓐二時
起床後日記ヲ編成ス、午前ヨリ風強ク時々雨アリシニヨリ、家ニ在テ読書ス
午後皆川四郎来話ス
八月十七日　晴　暑　　　　　　　　　　　　　起床六時　就蓐十一時三十分
起床直ニ朝飧ヲ為シ、六時半旅寓ヲ発シ八時半湯本ニ抵ル、電車ニテ大倉喜八郎氏ニ面会ス、国府津ニ抵リ九時四十分発ノ汽車ニテ大磯ニ抵リ、伊藤侯爵ヲ訪ヒ面会シテ安着ノ祝賀ヲ為ス、十二時大磯発ノ汽車ニテ東京ニ抵リ、帝国ホテルニ於テ午飧ス　○下略
八月十八日　晴　暑　　　　　　　　　　　　　起床六時　就蓐十二時
起床後直ニ朝飧ヲ食ス、午前八時新橋ニ抵リ急行列車ニ搭ス、九時半国府津ニ達ス、電車ニテ十一時湯本ニ抵リ、阪谷氏ヲ訪ヒ韓国銀行事務ニ関シテ種々ノ談話ヲ為ス、午後一時宮ノ下ニ抵リ、篤二ノ旅寓ヲ訪フテ午飧ヲ共ニス、宮ノ下ヨリ竹輿ニテ四時小涌谷ニ抵リ、千筋ノ滝ヲ一覧シテ三河屋ニ着ス
夜飧後読書ス
八月十九日　晴　暑　　　　　　　　　　　　　起床六時　就蓐十一時三十分
起床直ニ入浴シ、畢テ朝飧ヲ食ス、午前七時小涌谷ヲ発シ、八時半頃湯本ニ達シ直ニ電車ニ搭ス、岩倉公爵同乗シテ国府津ニ抵リ、直ニ九時四十分ノ汽車ニテ東京ニ抵リ、十二時帝国ホテルニ於テ午飧ス　○下略
八月二十日　晴　暑　　　　　　　　　　　　　起床六時　就蓐十一時三十分
○上略　午後三時半新橋発ノ汽車ニテ小涌谷ニ向フ、湯本ニテ竹輿ヲ僦ヒ夜八時半三河屋ニ着ス
○下略
八月二十一日　晴　暑　　　　　　　　　　　　起床六時　就蓐十一時三十分
 - 第29巻 p.517 -ページ画像 
起床直ニ入浴シ、畢テ日記ヲ編成ス、七時朝飧ヲ食ス、八時半旅寓ヲ発シ、一行共ニ箱根ニ赴ク、竹輿ニ乗ル者、騎馬スル者、徒歩スル者各人各様ナリキ、蘆ノ湯ヲ経テ元箱根ニ抵リ、松坂屋ノ支店ニ休憩ス湖水ニ引網ヲ為サシメテ、鯉鮒赤腹魚等ヲ多ク獲タリ、午飧後更ニ一網ヲ為サシメシモ、午前ノ如キ獲魚ナシ、小船ニテ湖上ヲ徘徊シ、種種ノ歓ヲ尽シ、午後四時元箱根ヲ発シ、蘆ノ湯ヨリ徒歩シテ六時小涌谷ニ帰宿ス、夜飧後旅宿ノ庭上ニ戯曲アリ、家人ト共ニ暫時参観ス、夜英人ソースデール氏ノ日本観ヲ読ム
八月二十二日　雨　冷　　　　　　　　　　　　起床六時三十分
起床後入浴シ、畢テ新聞紙ヲ一覧シ、七時半朝飧ヲ食ス、食後書類ヲ調査ス
終日雨降リテ客舎無聊ナリ、銀行発達史ノ修正ニ尽力シ、午後児童ニ読書セシム
午後ヨリ腹部ニ痛ヲ覚フ、夜ニ入ルモ未タ全愈セス
八月二十三日　雨　冷　　　　　　　　　　　　起床七時
起床直ニ入浴シ畢テ読書ス、八時朝飧ヲ食ス、食後書状ヲ裁ス
朝来大雨、加フニ風強クシテ四望只雲霧ヲ見ルノミ、食後揮毫ヲ試ム
午後児童ニ英人ノ日本観ヲ読マシム
終日風雨ノ為外出スル能ハス、只読書ト臨書ニ消閑スルノミ
銀行発達史ヲ修正シ畢リテ、書状ヲ添ヘテ乗竹氏ニ送付ス
堀田正乂・河村某二氏来話ス
八月二十四日　大風雨　冷　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十二時三十分
起床後児童ニ読書セシム、朝来大風雨終日止マス、四望濛々霧海ニ在ルカ如シ、八時半朝飧ヲ食シ食後揮毫ヲ為ス、鈴木帰京ニ付要務ヲ命シ遣ス
朝堀田・河村、帰京スルトテ来訪セラル
終日風雨ノ為メ、揮毫ト読書ニ消光スルノミ
八月二十五日　雨　冷　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十二時
起床直ニ入浴シ、畢テ日記ヲ編成ス、此日モ雨尚ホ歇マス、只昨日ニ比スレハ風少シク静ナリ、午後ニモナラハ或ハ晴ヲ得ンカト思ハル、頃日来ノ腹部ノ病尚未タ愈ヘス、頻ニ手当ヲ為スニ勉ム
午後ニ至リテモ雨ハ強ク降テ、終日歇ムコトナシ、箱根ハ勿論、各地水害ノ為、道路壅塞シテ郵便電信モ不通トナリ、殆ント桃源ノ民タルノ想アリ、読書ト習字ニ消閑スルノミ
八月二十六日　雨　冷　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十二時三十分
朝来雨未タ晴レス、然レトモ小降リニテ午後ニ至ラハ放晴ナランカト思ハル、八十島ニ命シ宮ノ下ニ抵ラシメ、東京ノ模様ヲ篤二ト議セシム、午後電話アリテ、明日伊藤統監ノ歓迎会ハ延引ヲ請ヒシ旨報シ来ル、始テ聊カ焦慮ヲ緩フスルヲ得タリ
塔ノ沢ハ出水ノ為メ諸橋悉ク陥落シ、湯本モ同シク落橋ノ報アリ、京浜線モ川崎ノ鉄橋ニ破損ヲ生シ、交通シ得サル由風聞ス
終日揮毫ト読書ニ消閑ス
夜ニ入リテ、宮ノ下ナル医師岡島氏ニ腹部ノ診察ヲナサシム、下剤ヲ服シタル為メ夜中数回下痢アリ、頗ル苦悶ヲ覚フ
 - 第29巻 p.518 -ページ画像 
八月二十七日　曇　冷　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐一時
起床後腰部ニ温浴ヲ為ス、昨夜来数回ノ下痢アリシモ腹部尚愈ヘス、且少シク痛ヲ覚フルニヨリ、更ニ岡島ノ来診ヲ請フ
八十島来リテ、東京及各地水害ノ景況ヲ談話ス、向島辺ノ出水多ク、大川氏ハ根岸ニ避害セシ由、瓦斯会社ノ第二工場ニ石油タンク破烈ノ為、数棟ノ家屋焼失シ、瓦斯製造出来能ハサル旨報シ来ル
帝国ホテル支配人フレーグ大病ノ通知アリ
雨歇ミタレトモ未タ全ク快晴ヲ得ス
八月二十八日　晴　暑　　　　　　　　　　　　起床六時三十分　就蓐十一時三十分
起床直ニ入浴シ、畢リテ七時過児輩ト共ニ朝飧ヲ為ス、食後児童ト遊戯ス、八十島・武之助ヲ伴ヒ湯本ニ抵リ、帰京ノ道路開通ノ事ヲ調査セシム、終日揮毫ニ消閑ス、午後篤二夫妻孫児等共ニ来ル、相携ヒテ千筋ノ滝ニ抵ル、帰寓後又揮毫ス、夜飧後蓄音器アリ、徳川公爵　○家達及夫人女児数名来会セラル
此日ハ腹部稍平愈セシヲ覚フ、然レトモ食事ハ尚注意ヲ怠タラサリキ
八月二十九日　晴　暑　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十一時三十分
起床直ニ入浴シ、畢テ第一銀行佐々木・市原両名宛ノ一書、横山徳次郎氏宛ノ一書ヲ発送ス、八時朝飧ヲ食シ、食後児輩ト遊戯シ又ハ読書ス、午飧後揮毫ヲ試ム、夕方ヨリ家人ト共ニ諸方ヲ散歩シ、六時帰宿夜飧後モ児等ト遊戯消閑ス、八十島来リテ明日帰京ノ事ヲ告ク
夜各会社又ハ知人ヨリ数通ノ電報来リテ、箱根ノ水害ヲ慰問セラル
腹部ノ病未タ全ク愈ヘス、時々下痢ノ気味アリテ快然タルヲ得ス、故ニ日々粥ヲ食シテ僅ニ飢ヲ凌クノミ
八月三十日　晴　暑　　　　　　　　　　　　　起床六時三十分　就蓐十二時三十分
起床直ニ入浴シ、畢テ日記ヲ編成ス、帝国ホテルヨリ小林帰京ノ由電報来ル
東京瓦斯会社高松氏廿七日発ノ書状来ル、橋場第二工場水火両災ノ景況詳細ニ報シ来ル
佐々木勇之助氏より来書アリテ、第一銀行営業ノ景況及東京市内水害ノ事共報シ来ル
午飧後ヨリ揮毫ヲ為ス、夜に入リテ止ム
此日兼子及児童等ハ大涌谷ニ遊歩セルモ、予ハ腹部全愈セサリシ為メ家ニ在テ読書ト揮毫ニ閑ヲ消ス、穂積歌子ヨリ書状到来シ、和歌数首ヲ寄セ来ル
八月三十一日　曇後晴　暑　　　　　　　　　　起床六時三十分　就蓐十二時
起床直ニ入浴シ、畢テ読書ス、七時過朝飧ヲ食シ、後揮毫ヲ試ム、午飧後男児ハ馬ニテ箱根ニ赴キ、女児ハ宮城野ニ赴ク、客舎寂寞読書ニ可ナリ、終日且読ミ且揮毫ス
九月一日　雨　冷　　　　　　　　　　　　　　起床六時三十分　就蓐十一時三十分
起床後腰部ノ入浴ヲ為シ、畢テ読書ス、七時過朝飧ヲ食シ、旅装ヲ整ヘ八時客舎ヲ発シ、竹輿ヲ買フテ山ヲ下ル、宮ノ下富士屋ニ抵リ、山口仙之助氏ニ面会シ帝国ホテルノ事ニ関シ要務ヲ談ス、十一時大平台ニ皆川氏ノ寓居ヲ訪ヒ、十二時湯本ニ抵ル、途中塔ノ沢其他ニ就テ頃日ノ水害景況ヲ一覧ス、湯本福住ニテ午飧シ入浴、畢テ人車ニテ風祭
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ニ抵リ電車ニ搭ス、小田原ヲ過キ酒匂川ニテ車ヲ下リ、橋ヲ徒歩シテ亦電車ニ搭シ、四時過国府津ニ抵リ、直ニ汽車ニ搭シ七時過新橋着、迎ノ人多ク来ル、直ニ馬車ニテ王子ニ帰宅ス

竜門雑誌　　第二三二号・第二五頁　明治四〇年九月
○青淵先生　には、避暑のため去月十五日以来函根小涌谷三河屋「ホテル」に滞在中の処、本月一日無事帰京せられたり
○下略

（八十島親徳）　日録　　明治四〇年　　　（八十島親義氏所蔵）
八月十五日　雨風　低気圧
男爵ハ夫人・武之助・正雄・愛子・秀雄諸氏一同ヲ従ヘ、今朝八時発箱根小涌谷三河家ヘ避暑ニ付、新橋ヘ見送ヲナス　○下略
　　　○中略。
八月二十日　快晴
○上略　男爵ハ本日市役所ニ於ケル伊侯歓迎発起人会ニ臨マレ、午後三時半発ノ汽車ニテ又小涌谷ニ向ハル、此次ハ五・六日ハ滞在セラルヽナラン、予モ許ヲ得、明日ヨリ数日ノ閑遊ヲ試ミントス、妻子ノ参リ居ル小涌谷ヘナリ、但本年モ亦偶然男爵ト同シ処ニナツタカラ、アマリ閑養ニモナラヌカモ知レヌケレド　○下略
八月廿一日　小涌谷ニ赴キ
同月卅日　　帰京
右別ニ記事アリ、八月廿二日ヨリ廿七日マテ（殊ニ廿三・四・五ノ三日間ハ暴風暴雨）暴雨ノ為塔ノ沢・湯本辺一切ノ橋梁流失シ、交通機関一切杜絶、籠城ノ体ニテ閉口セリ、廿九日ヨリ仮橋開通ニ付、翌卅日家族一同ヲ引マトメ帰京セリ
廿六日ハ風治マリシニ付、小雨中宮ノ下ニ往復シ、途次宮城野ノ民家流失ノ跡ヲ見ル
廿八日武之助氏ト馬ヲ飛ハシテ、塔ノ沢・湯本ノ状況ヲ視察ス　廿九日武之助氏ト浅間山ニ登ル
○下略
九月一日　朝雨後晴
○上略　青淵男一行今夕小涌谷ヨリ御帰京アリ