デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

1章 社会事業
1節 東京市養育院其他
1款 東京市養育院
■綱文

第30巻 p.175-178(DK300012k) ページ画像

大正6年1月16日(1917年)


 - 第30巻 p.176 -ページ画像 

皇后宮大夫大森鐘一、是日当院大塚本院並ニ巣鴨分院ヲ、同十一年十二月十一日ニ井之頭学校ヲ、同十二年十二月四日ニ板橋本院ヲ視察ス。栄一当院院長トシテ案内ス。


■資料

渋沢栄一 日記 大正六年(DK300012k-0001)
第30巻 p.176 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正六年      (渋沢子爵家所蔵)
一月十六日 晴 寒
○上略 午後一時大塚養育院ニ抵リ、大森皇后宮大夫ノ来訪ニ接シ、院ノ沿革ヲ陳述シ、院内ヲ案内ス、更ニ巣鴨分院を一覧セラル ○下略


東京市養育院月報 第一九一号・第一九頁 大正六年一月 ○大森皇后大夫の視察(DK300012k-0002)
第30巻 p.176 ページ画像

東京市養育院月報  第一九一号・第一九頁 大正六年一月
○大森皇后大夫の視察 十六日午後一時三十分、大森皇后大夫には三室戸宮内省主事・同淡近宮内属・東園東京府内務部長・同大河原属・宮川東京市助役と共に来院あり、渋沢本院長先導院内各室を巡視せられ、院の事業等に就て聴取する所あり、次で自動車を巣鴨分院に枉らる、折しも藪入日のことゝて元院児の来院せるもの多く、講堂に於て盛に院児のお伽噺、幼稚園の遊戯のある際とて、大に興を添へられ、大森大夫にも拍手して院児の登壇を迎へられしかば、児童の喜び一方ならざりき、次で渋沢院長の案内にて各室を巡観し、事業の成績等を聴取せられたる後、三時二十分退出せり。


渋沢栄一 日記 大正六年(DK300012k-0003)
第30巻 p.176 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正六年     (渋沢子爵家所蔵)
一月二十三日 晴 寒
○上略 午前十一時皇后宮職大森太夫《(大森大夫)》ヲ其詰所ニ訪フテ、養育院ニ関スル事ヲ談ス ○下略


東京市養育院月報 第二六二号・第六―八頁 大正一一年一二月 ○大森皇后宮大夫の井之頭学校視察(DK300012k-0004)
第30巻 p.176-177 ページ画像

東京市養育院月報  第二六二号・第六―八頁 大正一一年一二月
    ○大森皇后宮大夫の井之頭学校視察
 曩に 山階宮武彦王並に同妃両殿下を大塚本院及巣鴨分院へ迎へ奉るの光栄を得たる我養育院に於ては、玆に又た 皇后陛下の御使としての大森皇后宮大夫を、感化部井之頭学校へ迎ふるの機会を得たるこそ、重ね重ねの光栄と云ふべけれ
 大正十一年十二月九日本院は皇后宮職よりの電話にて、来る十一日午前十時大森皇后宮大夫 皇后陛下の思召を奉じて、井之頭学校を視察せらるべき旨の通知を受けたり、因て本院は直に同校へ其旨を移牒し、同校にては予ねて生徒の手に成れる実科及学科成績品、同校出身者の写真並に統計図等を一室に陳列して、特に大夫の観覧に供するの外、他は平素在りの儘の状を御覧に入るゝ筈とし以て当日を待てり
 十二月十一日、此日天気清朗にして、風静かなり、本院よりは渋沢院長及田中幹事等御使出迎の為め早朝井之頭へ出張、大岩本院常設委員亦来校せられ、本校生徒は時刻間際に正門内に整列して大森大夫の来着を待てり、午前十時十分御使大森皇后宮大夫は西邑宮内事務官外一名を随へ自動車にて参着あり、渋沢院長の案内にて一先づ学校楼上の休憩室に入られ、休憩中渋沢院長及田中幹事より井之頭学校の沿革
 - 第30巻 p.177 -ページ画像 
並に現状に就き詳細なる説明を申上げ、之れに対し大夫よりは生徒教養上其他諸般の施設及び出院後に於ける生徒の状況等に就き微細に御尋ねあり、終て校内の巡覧を乞ひ、実科及学科成績品其他参考品陳列室、読方・地理等の授業実況、並に籐工科・木工科・ミシン裁縫科に於ける生徒の実習等を視察せられたるが、殊に大夫には農芸科生徒自作の白菜漬込作業をば興味深く一覧せられ 皇后陛下の上覧に供する為め右白菜を少許持ち帰り度き旨仰せられ、斯くて順次各寮舎より諸設備に至るまで仔細に巡覧の上、玄関前に於て記念写真の撮影あり、再び休憩室にて少憩ありたる後ち、大夫は「今日の事は詳細言上致すべく 陛下に於かせられても、定めし御満足に思召さるゝことなるべし」との言葉を残されて、正午過ぐる三十分帰還相成りたり
 斯くて渋沢院長は御使奉送後、直に生徒一同を講堂に召集し、国母陛下が特に御使を本校へ御差遣相成りたるは洵に学校の名誉なればとて、之れに就き生徒等の心得ふべきことゞも懇篤に訓話せられ、生徒一同は尊き大御心の程を知りて感激措く能はざるものゝ如くなりき
 尚ほ当日 皇后陛下より特別の思召を以て井之頭学校職員一同に酒肴料、生徒一同に菓子料各一封の御下賜ありしは感泣に堪へざる所にして、本院よりは養育院月報・同年報・同事業概要及楽翁公記念講演集等の印刷物、並に井之頭学校生徒成績品の写真、及籐工科生徒製作品・農芸科生徒農作物等を、大夫を通ほして 皇后陛下へ献上せり


東京市養育院月報 第二七〇号・第三―五頁 大正一三年一月 【十二月三日皇后宮職より…】(DK300012k-0005)
第30巻 p.177 ページ画像

東京市養育院月報  第二七〇号・第三―五頁 大正一三年一月
 十二月三日皇后宮職より電話を以て、明日大森皇后宮大夫は板橋本院を視察すべきが差支なきやとの御尋ねあり、本院にては震災直後避難的移転を決行したると、附帯設備の一部工事未完成の為め聊か躊躇せしが予て 皇后陛下より渋沢院長に仰せ付けありたることゞもに鑑み、即ち在りの儘を御覧に供することゝして御視察を請ふ旨回答せり
 十二月四日 皇后陛下の思召を奉じたる大森皇后宮大夫には、淡近皇后宮属を随へ、午前九時三十五分自動車にて板橋本院に参着あり、渋沢院長・田中幹事以下職員の出迎を受け、渋沢院長の案内にて一先づ楼上休憩室に入られ、休憩中渋沢院長及田中幹事より本院の設備・収容者の現況等に就き詳細なる説明を聴取せられ、終つて病室・普通収容室・炊事場・作業室・治療室等隈なく院内の巡視を試みられ、右終つて玄関前にて記念写真の撮影あり、再び休憩室に少憩の後ち、大夫は「本院の設備は曾て視察したる大塚本院に比すれば格段の進歩を示し、就中其位置、四囲の風光等申分なし、此事は詳細言上致すべく陛下に於かせられても定めし御満足に思召さるゝことなるべし」との言葉を残され、正午過ぎ帰還相成りたり
 因に当日は収容者一同に対し菓子料一封の下賜ありしは辱けなき極みにして、本院よりは大塚旧本院並に安房分院に於ける客歳九月一日の震災による倒壊建物の惨害状況を撮影せる写真数葉を奉呈したり



〔参考〕東京市養育院月報 第二六八号・第二―四頁 大正一二年六月 ○大森皇后宮大夫の安房分院視察(DK300012k-0006)
第30巻 p.177-178 ページ画像

東京市養育院月報  第二六八号・第二―四頁 大正一二年六月
    ○大森皇后宮大夫の安房分院視察
 - 第30巻 p.178 -ページ画像 
 皇后陛下には昨大正十一年十二月十一日皇后宮大夫男爵大森鐘一氏を本院感化部井之頭学校に差遣はされ、具さに感化教育の実況を視察せしめ給ひしことは、当時本月報紙上に報告し置きたるが、這般復た同大夫を本院所属の臨海保養所たる千葉県安房郡船形町所在の安房分院に御差遣あり、親しく本院病弱児童に対する転地保養事業の実際を視察せしめられ、且つ児童及職員一同に御慰問の為め金各一封の御下賜ありたるは洵に辱けなき極みにして、只管感激に堪へざる次第なりとす、今其顛末を記すれば左の如し
 大正十二年五月二十三日皇后宮職より田中幹事に出頭ありたき旨の電話あり、幹事は直に同職に赴きたる処、大森大夫より安房分院の現況に就き種々説明を需められ、且つ近日 皇后陛下の思召を奉じて同分院の実地を視察すべきに付き、予め了知ありたき旨の申渡しありたるより、本院にては直に同分院に其旨を移牒し置きたり
 六月四日大森皇后宮大夫には、同職事務官三条男爵及び中村属を随へ午前九時三十五分両国橋駅発江見行列車にて安房分院に向はる、但し皇后宮職よりは前以て其旨の通知ありたりしかば、田中本院幹事は説明兼案内役として石崎事務員を伴なひ大夫と同行せり、此日は曇天なりしも、却て暑からず絶好の旅行日和なりき、一行を乗せたる汽車は熱閙の都を後にして、早くも郊外に出づれば眼界に映ずる風物一として雅趣に富まざるはなく、漫ろに初夏の気分を味ひ得て快興謂ふばかりなし、斯くて四時間弱にして午後一時二十二分那古船形駅に着しければ、宮下安房分院主務・岡本同分院嘱託医・正木船形町長其他地方有志の出迎へあり、夫れより腕車を駆りて分院に到着せしは同一時四十分なりき
 着後直に講堂内に設らへたる休憩所に入られたる大夫は、座席の前面に展開せる鏡ケ浦の風光を腑瞰しつゝ、本院が此好適の地を保養所に得たるを先づ激賞せられ、夫れより更に敷地建物の事及び児童処遇上の実際に関し微細に渉る質問あり、之れに対し田中幹事及宮下主務より一々説明を申述べ、終て院内の巡覧に移り、先づ教室に於ける算術・綴方の授業の実況を三・四十分に亘りて熟覧せられ、児童に対しては大夫自ら質問を発せらるゝ等頗る熱心の態度を示めされ、次で寮舎各室より病室・浴場・炊事場に至るまで隈なく巡覧ありて再び休憩所に入られ、種々視察上の感想を物語たられ、尚ほ同分院児童の健康増進の成績に関する特別調査の作成を需めらるゝ所あり、少憩後院内庭園に於て児童・職員等と共に記念の撮影をなし、斯くて院児及職員一同見送の裡に、自動車にて当夜の旅館たる館山町海岸ホテルへ向け田中幹事・石崎事務員の案内にて午後四時過出発せられたり
 因に当日は 皇后陛下より特別の思召を以て、安房分院収容児童一同に菓子料、同職員一同に酒肴料各一封の御下賜ありたり