デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

1章 社会事業
2節 中央社会事業協会其他
2款 社会事業協会 = 財団法人中央社会事業協会
■綱文

第30巻 p.557-561(DK300070k) ページ画像

大正14年2月1日(1925年)

是日ヨリ五月二十一日迄、芝区栄町東京親隣館ニ於テ当協会主催第一回社会事業講習会開講セラル。栄一、科外講義ニ出講ノ予定ナリシモ病気ノ為メ
 - 第30巻 p.558 -ページ画像 
欠席ス。


■資料

財団法人中央社会事業協会書類(一) 【本書ノ件一三、一二、二〇飛鳥山邸子爵御病牀ニ於テ…】(DK300070k-0001)
第30巻 p.558 ページ画像

財団法人中央社会事業協会書類(一)    (渋沢子爵家所蔵)
  本書ノ件一三、一二、二〇飛鳥山邸子爵御病牀ニ於テ御報告講習会開会、科外講師タルコト孰レモ御内意ヲ得、其旨飯田氏ニ通知シタリ(印)《(明六)》 ○以上増田明六記ス
    趣意書
社会事業は、社会の進歩発達を阻害する害悪を除き、社会成分各員の共存共栄を計り、国家の向上発展を促す社会的の事業でありますから社会の各員は常に社会の害悪の何たるかを審にし、又力を協せて之を除去するのは当然の事であります。以前慈善救済事業と申しました時のやうに、斯業を慈善家や篤志家のみに一任して顧みないのは、社会的理想の低級なるを示すものであります。
 我国の社会状態は、欧洲大戦後種々の社会的害悪が続出し現今尚寒心すべきものがあります。随つて各種の社会事業が先覚者の努力に依つて漸次勃興し、尚将来も益々斯業の振作を必要とする現況であります。以前社会事業家は、犠牲奉公の至誠さへあれば足れりとするやうに考へられて居りました。成程此美はしい精神は斯業の本源で必要欠くべからざるものではありまするけれども、複雑なる現今の社会的害悪に対しては、此精神だけでは到底目的を遂げることは出来ません。是非共斯業に対する科学的智識を兼ね備へなければ、完全とは申されません。恰も疾病を治癒する医師に、科学の智識を必要とすると同様であります。幸に現今斯界は勿論、一般社会に斯の理想が日に増し、実現せられるやうになりましたけれども、大体から申しますれば尚隔靴掻痒の感があります。そこで本協会は現に斯業に従事せられて居る方や、将来従事せんと志される方や、又特に研究せられんとする方の為に、今回第一回の講習会を開催することゝ致しました。蓋し現下の社会的欠陥の一端を補修して、聊か国家に貢献せんが為めの微意に外ならないのであります。
  大正十三年十一月
                   財団法人中央社会事業協会


財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編 第二八六―二九一頁 昭和一〇年一〇月刊(DK300070k-0002)
第30巻 p.558-561 ページ画像

財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編
                      第二八六―二九一頁 昭和一〇年一〇月刊
 ○第一部 第十六章 社会事業智識普及上の施設
    一 社会事業講習会の開催
 大正十三年十二月、我が協会が被れる震火災の創痍癒ゆると共に計画せる社会事業講習会は上記の趣意に依り其の開催を発表されたものであるが、本講習会には幾つもの特色があつた。
 当時の「社会事業」は備さに其の状況を述べて左の如くいふて居る。
  一 準備
 第一回社会事業講習会は予定の如く去る二月一日講習会々場に於て盛大に開会式を挙行した。本講習会は本協会が最初の試みたることに於て既に重大なる意義を有するものである。更に加へて其の期間が十
 - 第30巻 p.559 -ページ画像 
五週約四ケ月に亘る長期であり、夜学を捨てゝ昼間の講習とし、学科目数も正科のみにて二十三を数ふる等の諸点に於て、一層の貢献を期待しつゝ世に発表したものであつた。故に之が成否は唯に本協会使命の達成に力あるのみならず、進んでは我邦の社会事業界が如何に啓蒙せられつゝありやを知る好箇の指針たるが故に、協会当事者の一同は等しく心を傾けて之が準備に努力した。
 幸に講習会場は東京親隣館主マクドナルド女史の深甚なる好意に依り、芝区栄町十一番地の同館の大ホールを提供されたのであつた。殊に講習科目の凡べてに亘り斯界の権威者に就いて親しく講義を受け得た事は、主催者講習生共に感謝すべき事であつた。
 宮内省より官吏二名が特に本講習に出席されたのは、畏き辺の思召の程も拝察せられて寔に有難い極みであつた。
  二 開会式
 開会式は予定の如く二月一日午前十時より行はれた。当日は会長渋沢子爵も必ず出席せらるゝ筈であつたが、健康許さず、当日の早朝になつて遽かに不参せられたのは返す返すも遺憾であつた。杵淵幹事の司会にて式を開き、次いで窪田副会長の開会の辞あり。松井常務理事発声、詔書の捧読をなし、来賓長岡社会局長官・添田理事・益富評議員の懇篤凱切なる祝辞演説あり、松井常務理事の講習に関する周到なる注意指示あり、最後に原社会部長の閉会の辞を以て式を閉ぢた。
其の要綱を左に記載する。
  第一回社会事業講習会要綱
一、講習期間   大正十四年二月一日より同年五月二十一日迄百日間
一、正科講義   毎週月・火・水・金・土の五曜日の午前八時三十分より午後零時二〇分迄
一、科外講義   毎週木曜日午前八時より正午迄
一、講習申込期間 大正十四年一月二十日
一、講習員資格  二十歳以上にして左記三条件の一を具備する者
 一、一年以上社会事業に関する事務に従事せる者。
 一、師範学校・中学校・高等女学校を卒業したる者、又は之と同等以上の学力を有する者。
 一、其他官公署又は公益団体に於て推薦したる者。
一、入学金    金拾円、入学金の他に講習料等を徴収せず。入学金は講習会開会式の当日迄に納入のこと。
一、収容定員   五十名
  正科講義学科目、時間数、講師氏名

  科目     時間数                講師
社会学       一六         明治大学教授 赤神良譲
倫理学(社会道徳) 二〇   東京帝国大学教授文学博士 吉田熊次
心理学(変態心理) 一六       日本精神学会主幹 中村古峡
経済学       一六   東京帝国大学教授法学博士 土方成美
社会思想      一六     東京高等師範学校教授 綿貫哲雄
社会政策及労働法制 二〇      財団法人協調会理事 永井亨
 - 第30巻 p.560 -ページ画像 
哲学概論      一六                北昤吉
教育概論      一〇       東京帝国大学教授 阿部重孝
宗教概論      一〇  東京帝国大学助教授文学博士 矢吹慶輝
社会事業概論    二〇     内務省社会局保護課長 富田愛次郎
農村問題      一〇   東京帝国大学教授農学博士 那須晧
住宅問題      一〇       内務省社会局技師 中村寛
社会保険       六   東京帝国大学教授法学博士 森荘三郎
児童保護事業    二〇       内務省社会局嘱託 小沢一
不良少年保護事業  二〇     中央社会事業協会主事 杵淵義房
釈放者保護事業   一〇        司法省保護課長 宮城長五郎
地方改善事業     六     中央融和事業協会主事 三好伊平次
隣保事業       六     中央社会事業協会主事 原泰一
社会教化事業    一二     東京市社会局保護課長 難波義雄
職業紹介事業    一〇     内務省社会局職業課長 大野孫一郎
防貧事業      一〇       日本女子大学教授 生江孝之
救貧制度      一〇       内務省社会局嘱託 小島幸吉
社会衛生      一〇        内務省衛生局長 山田準次郎
 二十三科目  三百時間

  科外講義学科目、時間数、講師氏名

図表を画像で表示科外講義学科目、時間数、講師氏名

  科目       時間数                 講師 所感         二     中央社会事業協会会長子爵 渋沢栄一 社会事業家の本領   二      行政裁判所長官法学博士 窪田静太郎                   中央社会事業協会副会長 警察の社会化     四   中央社会事業協会理事法学博士 松井茂 社会運動       二   中央社会事業協会理事法学博士 桑田熊蔵 労働運動の帰趨    二   中央社会事業協会理事     添田敬一郎                財団法人協調会理事 自治の精神      二       中央社会事業協会理事 小橋一太 精神病理及精神検査法 二   東京府立松沢病院医長医学博士 黒崎良臣 不具者教育問題    二          鉄道青年会理事 益富政助 婦人問題       二         宮田高等女学校長 宮田修 移民問題       二          外務省移民課長 赤松祐之 赤十字事業      二        日本赤十字社長男爵 平山成信 所罰と行刑      二       司法省政局長法学博士 泉二新熊 我国社会事業の趨勢  二         内務省社会局嘱託 相田良雄 



 一見学、視察
    東京府立松沢病院
    豊多摩及市ケ谷両刑務所
    貴族院議事傍聴
    全生病院
 一宮城拝観
 蓋社会事業界あつてより稀に見る整備したる講習であつて、欧米諸国に於ける斯業の短期講習会に比して優るあるも劣るなき内容を盛つたものである。
 講習の申込は意外に多く、男子五八名・女子一四名計七二名で、三十歳代のもの最多く四十名を数へ、四十歳代のもの二十一名で之に次
 - 第30巻 p.561 -ページ画像 
ぎ、二十歳未満の女子二名、五十歳以上の男子六名を見た。職業は社会事業従事者三五・僧尼十三・神職二・官公吏八・実業五・無職九であつた。出席者の東京府に最多く四十七名を数へたのは当然であるが佐賀・徳島の遠隔地よりも聴講者があつた。
 会期中数回の討論会があつて、其の内の一つに「社会事業として宗教的信仰は必須の条件たるか否か」討論が行はれ、可の方が多数を制し、当日の来賓たる原社会部長・松井常務理事の講評があつたのは、亦本講習会の特色の一として数へて宜い。
○下略