デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

昭和4年2月（1929年）

是月栄一、東京市方面事業後援会ノ顧問トナリ、歿年ニ及ブ。

青淵先生職任年表（未定稿）　昭和六年十二月調　　竜門社編
　　　　　　　　　　　　　　　竜門雑誌第五一九号別刷・第二五頁　昭和六年一二月
　　　　昭和年代
　年　　月
　四　　二　―東京市方面事業後援会顧問―昭六・四、―財団法人〃〃―昭、六・一一。

御大典記念東京市方面事業後援会設立趣意書　（渋沢子爵家所蔵）
東京市ハ夙ニ時代ノ趣向ニ鑑ミ方面委員制度ヲ設ケテ以来十年ニ垂ントシ、今ヤ十一区三十二方面ニ及ビ、方面委員ノ数四百八十名ニ達シテ居リマス。コノ間方面委員ノ取扱ツタ総件数ハ、実ニ二十有五万余件ニ達シテ居ルトイフ状態デアリマス。単ニコノ取扱件数ダケデモ、方面委員ノ努力ガ、如何ニ場末ノ裏長屋ニ呻吟シテ居ル無告ノ窮民ニ迄普ク行キ亘ツテ居ルカヲ想像シ得ラルヽト思ヒマス。
若シ東京市ガコノ方面制度ヲ実施シテヰナカツタトシタナラバ、拾万ノ窮民ノ惨状ヤ想ヒヤラルヽノデアリマス。ソシテ其ノ結果ガ又一般市民ノ生活ノ上ニ如何ナル影響ヲ与ヘタデアリマセウカ、真ニ思ヒ半バニ過グルモノガアルト信ジマス。斯ク考ヘマスレバ、方面委員制度コソ、実ニ我ガ東京市民ノ生活ヲ改善シ、福祉ヲ増進セシムル上ニ、無クテハナラヌ緊要ノ施設デアルト云ハナケレバナリマセヌ。
現下世相ハ愈々複雑ヲ極メ、働カントシテ働キ得ズ、塗炭ノ苦ミニ沈淪スル幾多ノ民ハ巷ニ満チテ居ルノデアリマス。如何ニ物質文明ノ反映トハ云ヘ、均シク聖代ノ赤子デアリ、人間同志デアル以上、之ガ匡救ノ途ヲ講ゼズシテオカレマセウカ。殊ニ斯ウシタ社会一部ノ障碍ハ直ニ社会全体ニモ波及シ、為メニ社会ノ秩序ハ攪乱サレ、国家ハ其ノ基礎ヲ危ウスルニ至ルベキハ必然ノ勢デアリマス。斯ル国家ノ危機ニ直面スル方面委員ノ任務ヤ重且ツ大デアリマシテ、独リ救護ノ実ヲ挙グルバカリデナク、進ンデ市民生活安定ソノモノノ為メニモ、一段ノ努力ヲ捧ゲナケレバナラナイト信ズル次第デアリマス。方面委員ハ日夕コノ貴キ使命ヲ自覚シ、自己ノ天職トシテ自ラ難局ニ処シ、所謂肉弾ヲ以テ戦フノ覚悟デヤツテヰルノデアリマス。
吾ガ東京市ハ斯業発達ノ為メ年々少ナカラザル経費ヲ投ジ、而モ窮民ノ救護ニ窮民ノ賑恤ニ、過去幾多ノ貢献ヲ為シ来タツタノデアリマシテ、将来モ亦財政ノ許ス限リ事業伸展ノ為メニハ相当ノ経費ヲ支出サルヽコトヽ信ズルノデアリマス。併シ市ノ財政ニハ限リガアリ、方面委員自身ノ物的援助モ、今日以上更ニ望ムコトハ実状不可能ノコトデ
 - 第30巻 p.780 -ページ画像 
アリマス。然ルニ一面公的機関ニヨル救療設備ノ如キ余リニ社会ノ実情ト隔ガアツテ、其ノ救済力ガ実ニ不充分デアリ不徹底デアリマス。運命ニ呪ハレタ薄幸ノ人、病床ニ呻吟スル敗残者、寄ル年波ニ頼ル人トテハナク、而モ何等ノ蓄モナシニ尚生キテ行カナケレバナラヌ孤独ノ人々ハ、彼処ニモ此処ニモドノ位ヰルカ分ラナイノデアリマス。試ミニ東京ニ於ケル精神病患者ノ数ヲ調ベテミマスルト、実ニ四千人ヲ突破シ、コレニ精神異状者ヲ加フルトキハ、優ニ万ヲ以テ算フル状態デアリマス。彼ノ恐ルベキ結核患者ノ如キ、逐年其ノ数ヲ増シ、全市二万ノ患者ノ多数ハ特定地区居住者デアルト云ハレマス。斯ウシタ亡国的病気ヤ特殊的疾病ハ、個人ノ生活ヲ脅シテ家族生活ヲ破壊シ、延イテハ社会的不安ヲ醸生スルコトヽナルノデアリマス。
然ルニ前述ノ如キ状態ニ於テ、彼等ノ上ニ光ガ蘇リ、愛ガ恵マレ、更生ニ輝クノ時ハ到底望ムベクモナイ有様デアリマス。今ニシテ志士仁人ガ現ハレ、温キ同情ノ手ガ延ビルノデナケレバ、彼等ノ将来ハ全ク絶望ノ悲運ヲ見ナケレバナラナイ哀レ果敢ナキ状態デアリマス。コヽニ於テカ、社会連帯共同責任ノ基調ニ立ツテ、何トカシテ彼等ヲ根本的ニ救済スル方策ヲ樹テナケレバナラヌト考フルノデアリマス。コノ貴キ事業ヲ最モ徹底的ニ遂行シ得ル制度ト人トハ、実ニ現在ノ方面委員制度ヲ措イテ他ニナイト信ズルノデアリマス。然ルニ現在ノ如キ救済状態ハ不足不徹底デアリマシテ、コレデハ所謂仏作ツテ魂ヲ入レザル憾ガアルト云ハナケレバナリマセヌ。本年ハ実ニ千載一遇ノ御大典挙行ノ御芽出タイ年デアリマス。コノ慶賀スベキ秋ニ当ツテ、東京市方面事業ヲ積極的ニ而モ永久ニ確保シ、円滑ニ運営スベキ基金募集ノ計画ヲ樹テルコトハ、吾等市民ノ重大ナル責務デアリマス。幸ニ大方諸彦ノ熱誠ナル御賛助ヲ得マスレバ、我東京市方面事業伸展ノ為メ、幾多無告ノ窮民ノ為メ、真ニ一大福音デアルト信ズル次第デアリマス
　　昭和三年十一月

御大典記念東京市方面事業後援会規約　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　第一章　目的及事業
第一条　本会ハ東京市方面事業ヲ後援シ、本市居住者ノ福祉増進ヲ図ルヲ以テ目的トス
第二条　前条ノ目的ヲ達スル為、必要ナル方法ハ評議員会ノ決議ニ依リ別ニ之ヲ定ム
　　　　第二章　名称及事務所
第三条　本会ハ東京市方面事業後援会ト称ス
第四条　本会事務所ヲ東京市役所社会局内ニ置ク
　　　　第三章　資産
第五条　本会ノ資産ハ、補助金・寄附行為ニ因ル金品、其他諸収入ヲ以テ之ニ充ツ
第六条　本会ノ資産ハ国債証書若クハ確実ナル有価証券ヲ買入レ、又ハ郵便官署・確実ナル銀行・信用組合・信託会社ニ預入、若クハ依託シテ之ヲ管理ス、但シ必要ノ場合ニ於テハ不動産ヲ買入ルルコトヲ得
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第七条　本会ノ経費ハ資産ヲ以テ之ニ充ツ
第八条　本会ノ会計年度ハ毎年四月一日ニ始マリ、翌年三月三十一日ニ終ル
第九条　本会ノ予算ハ会計年度開始前評議員会ノ議決ヲ経テ之ヲ定メ決算ハ其ノ年度終了後評議員会ノ認定ヲ受ク
　　　　第四章　役員
第十条　本会ニ会長一名・副会長一名ヲ置ク
　　会長・副会長ハ、評議員会ノ決議ニ依リ之ヲ推戴ス
第十一条　本会ニ顧問若干名ヲ置クコトヲ得
　　顧問ハ評議員会ノ推薦ニ依リ会長之ヲ委嘱ス
第十二条　本会ニ理事若干名・監事若干名ヲ置ク
　　理事及監事ハ、評議員会ニ於テ之ヲ推薦ス
　　理事中ニ常任理事一名ヲ置キ、理事ノ互選トス
第十三条　会長ハ本会ヲ代理シ会務一切ヲ統理シ、理事会及評議員会ノ議長トナル
　　副会長ハ会長ヲ補佐シ、会長故障アルトキハ其ノ職務ヲ代理ス
　　常任理事ハ会ノ常務ヲ掌理ス
　　監事ハ会務一切ヲ監査ス
第十四条　本会ニ評議員若干名ヲ置ク
　　評議員ノ推薦ハ東京市長ニ之ヲ委嘱ス
第十五条　理事ノ任期ハ三年トシ、監事及評議員ノ任期ハ二年トス、但シ何レモ再選ヲ妨ケス
　　補欠員ノ任期ハ前任者ノ残任期間ニ依ル
第十六条　役員任期満了ノ場合ニ於テハ、其ノ後任者就任スル迄前任者其ノ職務ヲ行フ
第十七条　本会ノ庶務会計ヲ掌ル為メ、主事一名・書記若干名ヲ置ク主事・書記ハ会長之ヲ任免ス
　　　　第五章　評議員会及理事会
第十八条　評議員会ハ毎年一回之ヲ開ク、但シ会長ニ於テ必要アリト認メタルトキハ、臨時評議員会ヲ開クコトアルヘシ
　　監事又ハ評議員三分ノ一以上ヨリ会議ノ目的タル事項ヲ示シテ請求シタルトキハ、会長ハ臨時評議員会ヲ開クコトヲ要ス
　　評議員会ノ招集開閉ハ会長之ヲ掌ル
第十九条　評議員ハ予算其他重要ナル事項ヲ議決ス
第二十条　評議員会ノ議決ハ出席者ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス、可否同数ナルトキハ議長ノ決スル処ニ依ル
第二十一条　理事会ハ必要ニ応シ開会ス
第二十二条　緊急ヲ要スル為理事会及評議員会ヲ開会スルコト能ハサル場合ニ於テハ、文書ヲ以テ会議ニ代フルコトヲ得
第二十三条　各区ニ支部ヲ置キ、支部長一名・副支部長若干名ヲ置ク支部ニ関スル規則ハ、評議員会ノ決議ニ依リ別ニ之ヲ定ム
　　　　附則
第二十四条　本会設立当初ニ於テ役員決定スルニ至ル迄、其ノ職務ハ設立者ニ於テ之ヲ行フ