デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

1章 社会事業
2節 中央社会事業協会其他
9款 中央盲人福祉協会
■綱文

第30巻 p.782-788(DK300094k) ページ画像

昭和4年11月(1929年)

是ヨリ先十月、中央盲人福祉協会創立セラル。是月栄一、之ガ会長ニ就任シ歿年ニ及ブ。


■資料

青淵先生職任年表(未定稿) 昭和六年十二月調 竜門社編 竜門雑誌第五一九号別刷・第二五頁 昭和六年一二月(DK300094k-0001)
第30巻 p.782 ページ画像

青淵先生職任年表(未定稿) 昭和六年十二月調  竜門社編
                竜門雑誌第五一九号別刷・第二五頁 昭和六年一二月
    昭和年代
 年   月
 四  一一 ―中央盲人福祉協会々長―昭、六・一一。


(中央盲人福祉協会) 書翰 渋沢栄一宛 昭和四年一〇月二〇日(DK300094k-0002)
第30巻 p.782 ページ画像

(中央盲人福祉協会) 書翰  渋沢栄一宛 昭和四年一〇月二〇日
                     (渋沢子爵家所蔵)
拝啓
御清栄の段賀し上げます、さて是迄我が国盲人社会事業の為には直接間接多大の御同情を下さいまして感謝の至りに存じます。今回別紙の通りの趣意書を以て、創立世話人並に発起人によつて中央盲人福祉協会が成立することになりました、就きましては是非此会の趣旨に御賛同下され、御迷惑ながら会長たることを御承諾下され度、伏して御願申します
  昭和四年十月二十日          中央盲人福祉協会
    渋沢栄一殿
  「何分老齢ニ付《(封筒書入、栄一鉛筆)》、会長ヲ御引受致兼ネル
  又々辞サネハナラヌコトニナツテ居《(マヽ)》ルカラ
  原泰一君ニ来談アリ度


中央盲人福祉協会創立趣意書(DK300094k-0003)
第30巻 p.782-783 ページ画像

中央盲人福祉協会創立趣意書      (渋沢子爵家所蔵)
(印刷)
    中央盲人福祉協会創立趣意書
本邦ニ於ケル盲人ノ福祉増進ヲ目的トスル諸事業ハ近年長足ノ進歩ヲ遂ゲ、今ヤ其ノ関係事業団体ハ約四十ヲ数フルニ至レリ、然ルニ是等諸団体ハ未ダ全国的ニ聯絡統一ノ機関ナク、随ツテ其ノ事業ノ振興発展上遺憾ノ点甚ダ多キハ何人モ知悉スル所ナリ
更ニ失明防止運動ニ至リテハ僅ニ二・三団体ノ之ニ努力スルニ止リテ殆ンド顧ラレザルノ感アリ、然ルニ本邦ノ失明者ハ約九万ノ多数ヲ算シ、文明国中全人口ニ比シ盲人数ノ最高率ヲ示セルハ、洵ニ人道上ノ社会的欠陥ニシテ、文明国民ノ一大恥辱ナルノミナラズ、此ノ事実ハ国民ノ能率ヲ低下スルコト頗ル大ナルハ言ヲ俟タザルナリ、玆ニ於テカ吾人有志団体相図リ、中央盲人福祉協会ヲ創立シ、諸団体ノ聯絡ヲ図リ、是等事業ノ振興ヲ促シ、並ニ之ニ必要ナル調査研究ヲ遂ゲ、其ノ嚮フ所ヲ明ニシ、以ツテ本邦ニ於ケル盲人福祉及ビ失明防止事業ノ中枢機関タラシメントス
 - 第30巻 p.783 -ページ画像 
希クハ吾人ノ微意ヲ諒セラレ、奮ツテ賛同セラレンコトヲ衷心ヨリ切望シテ已マザル所ナリ
  昭和三年五月
      発起人
         仏眼協会           (東京府)
         東京盲人教育会財団      (同上)
         日本盲人協会         (同上)
         盲人信楽会          (同上)
         盲人キリスト信仰会      (同上)
         日刊東洋点字新聞社      (同上)
         希望社盲人部         (同上)
         東京盲学校同窓会       (同上)
         盲学校同窓会聯盟       (同上)
         盲唖保護院          (京都府)
         弘誓社            (同上)
         大阪毎日新聞社慈善団盲人部  (大阪府)
         点字大阪毎日         (同上)
         大阪盲人会          (同上)
         盲人後援会          (兵庫県)
         新潟県盲人協会        (新潟県)
         盲教育普及後援会       (長野県)
         三重盲人協会         (三重県)
         盲唖教育後援会        (岩手県)
         財団法人山陰盲唖保護会    (島根県)
         岡山県盲人協会        (岡山県)
         県立盲唖学校後援会      (和歌山県)
         愛媛盲人協会         (愛媛県)
         筑後盲人協会         (福岡県)
         大分盲人会          (大分県)
         熊本県盲人協会        (熊本県)
      創立世話人
         東京帝国大学名誉教授   河本重次郎
         東京帝国大学教授     石原忍
         社会局保護課長      富田愛次郎
         内務省衛生局予防課長   高野六郎
         文部省体育課長      北豊吉
         文部省普通学務局学務課長 菊池豊三郎
         中央社会事業協会総務部長 原泰一
         東京盲学校教諭      川本宇之介


中央盲人福祉協会々則(DK300094k-0004)
第30巻 p.783-785 ページ画像

中央盲人福祉協会々則        (渋沢子爵家所蔵)
(印刷)
   中央盲人福祉協会々則
第一条  本会ハ中央盲人福祉協会ト称ス
第二条  本会ハ事務所ヲ東京市         ニ置ク
 - 第30巻 p.784 -ページ画像 
第三条  本会ハ盲人ノ福祉並ニ失明防止ニ関スル事業ノ振興ヲ図ルヲ以テ目的トス
第四条  本会ノ事業左ノ如シ
     一、盲人福祉事業団体ノ聯絡ヲ図ルコト
     二、盲人福祉事業、失明防止並ニ視力保存ニ関スル調査ヲナシ、ソノ施設ノ促進ヲ図ルコト
     三、会報其ノ他必要ナル冊子ヲ発行スルコト
     四、其他本会ノ目的ヲ達スル為メニ必要ナル事業
第五条  本会ハ本会ノ目的ニ賛同スル団体及個人ヲ以テ組織ス
第六条  本会々員ハ之ヲ分チテ次ノ三種トス
     正会員  一、盲人ノ福祉増進又ハ失明防止ヲ目的トスル団体ニシテ会費年額三円ヲ醵出スル者
          二、盲人ノ福祉増進又ハ失明防止ヲ目的トスル事業ノ従事者若ハ関係者ニシテ年額二円ヲ醵出スル者
     賛助会員 本会ノ目的ヲ賛同シ会費年額弐円ヲ醵出スル者
     特別会員 本会ノ目的ヲ賛同シ一時金壱百円以上又ハ年額十円以上醵出スル者
第七条  本会ノ経費ハ会費・寄附金其ノ他ノ収入ヲ以テ之ニ充ツ
     本会ノ会計年度ハ毎年四月一日ニ始マリ翌年三月三十一日ニ終ルモノトス
第八条  本会ノ資産ハ郵便官署又ハ確実ナル銀行ニ預入レ、若クハ信託ニ附シ、国債証券又ハ確実ナル有価証券ヲ買入レ、其ノ利殖ヲ図ルモノトス
第九条  本会ノ役員左ノ如シ
     会長      一名
     副会長     二名
     理事     若干名
     評議員    若干名
     幹事     若干名
     理事・評議員及幹事ノ任期ハ二ケ年トス、但シ再任ヲ妨ケズ
第十条  会長ハ本会ヲ代表シ会務ヲ総理ス
     理事ハ重要ナル会務ヲ処理ス、会長事故アルトキハ其ノ指名シタル理事其ノ職務ヲ代理ス
     評議員ハ重要ナル会務ヲ審議ス
     幹事ハ会長ノ命ヲ受ケ庶務会計ニ従事ス
第十一条 会長ハ総会ニ於テ之ヲ推挙ス
     理事ハ評議員ノ互選トス
     評議員ハ総会ニ於テ之ヲ選挙ス
     幹事ハ会長之ヲ命ス
第十二条 本会ニ顧問ヲ置ク、顧問ハ会長之ヲ委嘱ス
第十三条 本会ハ毎年一回評議員会及総会ヲ開ク
     評議員会及総会ハ会長之ヲ招集ス
 - 第30巻 p.785 -ページ画像 
第十四条 凡テ本会々議ノ決議ハ出席者過半数ノ同意ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ議長之ヲ決ス
第十五条 会務ニ関スル諸規則ハ別ニ之ヲ定ム
      附則
第十六条 本会創立当時ノ役員ハ発起人ニ於テ之ヲ選定ス


中央盲人福祉協会書類 【一、役員、会長渋沢子爵 理事若干名、一名理事長…】(DK300094k-0005)
第30巻 p.785 ページ画像

中央盲人福祉協会書類         (渋沢子爵家所蔵)
一、役員、会長渋沢子爵 理事若干名、一名理事長
  他に評議員・幹事を置く
二、事務所
三、福祉協会目的
  (A)福祉事業  一、盲人に関する戸籍調査及び其他一般統計の完備
          二、盲人の生活改善及盲人に対する公衆一般の意識を向上せんが為め適当なる中央機関の設立
  (B)失明防止 (一)失明防止に関する知識の普及、法規の制定、科学的施設の促進
四、事業第一期計画(十万円の醵金を基礎とす)
  一、盲人教育、福祉問題及失明防止に関する参考資料、各種統計の蒐集
  二、研究機関の常設
   (A)教育問題(義務・成人・高等教育)の研究
   (B)盲人の郵税、汽車・汽船賃及点字図書に対する過重なる負担軽減に関する対策
   (C)点字記号、音譜・略字法等に関する研究
   (D)盲人の職業としての針按・マツサーヂ術向上に資せんがための諸研究
   (E)盲人の新職業開拓
   (F)各種の試問に応ずべき調査研究機関
 (五)《(マヽ)》 出版
   (A)機関誌の発行、点字・墨字両種
   (B)参考書の発行 同上
   (C)パンフレツトの発行 同上
 (六) 宣伝、盲人福祉及失明防止に関し一般公衆の教育を目的とする講演会の開催及その後援講師派遣
 (五) 点字出版事業の統一、中央印刷所設置の目的をもつて現存印刷所を統一すること
 (六) 図書館の統一、中央図書館建設の目的の下に各地図書館の統一カタローグの発行、無料貸出制度の確立


中央盲人福祉協会書類 【中央盲人福祉協会役員氏名】(DK300094k-0006)
第30巻 p.785-786 ページ画像

中央盲人福祉協会書類         (渋沢子爵家所蔵)
    中央盲人福祉協会役員氏名
 会長                子爵 渋沢栄一
 副会長               侯爵 大久保利武
 同上                   新渡戸稲造
 - 第30巻 p.786 -ページ画像 
 理事                   山崎巌
 同上                   高野六郎
 同上                   山川健
 同上                   中村三徳
 同上                   石原忍
 同上                   ボールス
 同上                   山県五十雄
 同上                   森清克
 同上                   川本宇之介
 同上                   秋葉馬治
 同上                   原泰一
 顧問                侯爵 大隈信常
 同上                   河本重次郎
 同上                   門野幾之進
 同上                   本山彦一
 同上                   村山竜平
 同上                   高木正年
 評議員                  福井菊三郎
 同上                   須田卓爾
 同上                   相田良雄
 同上                   吉岡弥生
 同上                   一宮鈴太郎
 同上                   江口定条
 同上                   大野緑一郎
 同上                   赤司鷹一郎
 同上                   赤木朝治
 同上                   篠原英太郎
 幹事                   原泰一
 名誉幹事                 岩橋武夫
 同上                   コールフイルド
 地方評議員  東京盲学校同窓会理事    斎藤武弥
 同上     仏眼協会盲学校       和田祐意
 同上     盲人技術学校        松岡了眼
 同上     日刊東洋点字新聞社     木村柳太郎
 同上     京都盲唖保護院       亀田哲三
 同上     点字大阪毎日        中村京太郎
 同上     兵庫県立盲学校盲人後援会  今関秀雄
 同上     新潟県盲人協会       高橋幸三郎
 同上     岩手県立盲唖教育後援会   柴田魁三
 同上     岡山県盲人協会       妹尾熊男
 同上     筑後盲人協会        福井安太郎
 同上     熊本県盲人協会       後藤芳馬
 同上     大日本恩光会        富山虎三郎

 - 第30巻 p.787 -ページ画像 


〔参考〕財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編 第三〇八―三一〇頁 昭和一〇年一〇月刊(DK300094k-0007)
第30巻 p.787-788 ページ画像

財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編
                   第三〇八―三一〇頁 昭和一〇年一〇月刊
 ○第一部 第一八章 中央社会事業協会と新興団体
    一中央盲人福祉協会
 中央盲人福祉協会は現今の盲人保護並に失明防止に関し、我国の過去に於ける盲人が享有した保護に比し、却つて今日の状態が及びも就かぬ状態に在るを慨して、本協会幹部諸氏の斡旋と江湖の同情に依り成立した団体であり、成立の当時本協会長故子爵渋沢栄一氏が、九十年の遐齢を以てして尚且奮つて之が会長に当られた記念を持つ出色の社会事業団体である。爰には本会の目的及事業を会則の中から抜抄し併せて本協会の趣意書を掲げることにする。
 会則第三条 本会は盲人福祉・失明防止並視力保存に関する事業の振興を図るを以て目的とす
 会則第四条 本会は前条の目的を達する為左の事業を行ふ
  一、盲人福祉・失明防止並に視力保存に関する事業の連絡
  二、本会の目的とする諸事業に関する調査並に研究
  三、会報其の他必要なる冊子の発行
  四、其他本会の目的を達する為必要なる事業
      中央盲人福祉協会趣意書
  斉しく不具者とはいひ乍ら、盲人が能く刻苦精錬の功を積み、科学に於て、文学に於て、又は芸術に於て大名を博し、内外の文化史に光輝ある記録を留めたことは、何時の時代、何処の社会に於てもその例に乏しくはありません。従つて盲人に対する教育並に保護の道は、洋の東西を問はず相応早くから開け、我が国に於ても、中古時代から既に特別の保護を加へられ、徳川時代に至りては、その制度備はり、鍼按業の如きは殆んど彼等の専業となり、之を主とした教育も盛んに行はれ、盲目ながら実に明るい世界に住んでゐたのであります。然るに明治維新に際し、各種の制度改廃せられると共に盲人の社会的保護は不幸中絶の運命に遭遇し、従来長い間彼等にのみ許されて居た音楽・鍼按の独占さへも奪はれ、敢て薄運の身を以て、激烈なる生存競争の渦中に苦闘しなければならぬ実状となりました。加之失明者は少数の例外を除いて、社会的生活に於て通常人に比し、多くの不利と不便をうけ、文化の恩沢を享受する点に於て著しい制限の下に立たねばならぬのでありますのに、世間には盲目であるが故に、常人と劣つた程度の教育及び生活を以て、甘んずべきものであるかの如く考ふる人たちさへあるに至りました。然るに時世の推移は我が国民をして再び人道的に目覚めしめ、今や盲人に対する教育は、他の常人に対すると同様国家自ら之を行ひ、その保護は国家社会に於て責任を負ふべきであると云ふやうになつてまゐりました。然かも、此不幸なる失明者となる原因が、僅かに少数の場合を除いては、或は無智、或は瑣細なる不注意に基くものなることが闡明せられたる今日に於て、之を未然に防止する事業は誠に緊急のものであることを痛感せられ、その発達促進を唱道せらるゝに
 - 第30巻 p.788 -ページ画像 
至りました。
  然れども顧みて現今の盲人保護並に失明防止に関する事業を通観するとき、甚だ遺憾に堪へないものがあります。仍て玆に全国的組織の機関を設け、斯の種各事業の連絡を計り、盲人に関する調査研究を行ひ、失明に関する智識の普及を計り、之が予防救治に関する事業並に盲人福祉事業の拡充を促進し、国若くは公共団体に於てなすべきことは之を政府その他の当局に要望促進し、以て一方不幸なる盲人諸氏に光を与へ、一方失明の悲運に沈まんとする人を、未然に擁護するため努力しつゝあるのであります。
  希くは我等の微意の存するところを諒とせられ、奮て賛同御援助あらんことを衷心より切望して已みません。
  昭和四年十月
 昭和六年十一月渋沢会長が永眠されてからは侯爵大久保利武氏が代つて任に会長に就かれ、会務の進展にいそしまれて居る。