デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.107-109(DK340015k) ページ画像

大正12年11月22日(1923年)

是日、当委員会、東京銀行倶楽部ニ開カレ、外務大臣男爵伊集院彦吉等ヲ招ズ。栄一出席シテ当委員会ノ性質・目的及ビ方針ヲ説ク。後アメリカ合衆国排日問題ニ関シテ協議ス。


■資料

日米関係委員会集会記事摘要(DK340015k-0001)
第34巻 p.107-108 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要        (渋沢子爵家所蔵)
日米関係委員会、大正十二年十一月廿二日、於東京銀行倶楽部開催
 (伊集院外務大臣・松平外務次官等招待晩餐会)
  出席者
   渋沢子爵・伊東米治郎氏・服部金太郎氏・小野英二郎氏・金子子爵・梶原仲治氏・団琢磨氏・添田寿一氏・頭本元貞氏・串田万蔵氏・山田三良氏・山科礼三氏《(山科礼蔵)》・藤山雷太氏・江口定条氏・姉崎正治氏・浅野総一郎氏・阪谷男爵・森村男爵
   (幹事)服部文四郎氏・増田明六氏・小畑久五郎氏
   (賓客)伊集院外務大臣・松平外務次官・永井通商局長・広田欧米局長・赤松移民課長
    記事
渋沢子爵座長 我日米関係委員会は、全く有志者より成るものにして政府とは何等の関係を有たないものでありますけれども、従来の習慣によりますると、外務省には諒解を得て居りましたのであります従つて今回新に御就任になりました伊集院男爵閣下、並に松平次官に御尊来を願つて、本委員会に関する大体の性質・目的及方針等を申上げ将来御協力を請ひ度くと存ずるのでありますと述べられ、続いて本関係委員会の沿革を略述せられたり
伊集院男爵 今夕の招待を感謝すとの冒頭を以て、男爵は日米問題に就ては兼ねてより其解決に苦心し居る一人なりと述べらる、而して
 - 第34巻 p.108 -ページ画像 
加州日本人問題を解決するには、同州に勢力を有する天主教徒の好意を得るにありて、此方面の緩和策は勢ローマ法王庁と密接なる関係を結ぶにあることは覆ふべからざる事実である、先年我政府がローマ法王庁に使節を送るべしとの議を主張せしは、之が為めであると告げられる、尚ほ男爵は日米問題を解決するには、到底外務省の働きのみによりて出来得べき問題にあらざれば、是非日米関係委員会の如き有力なる団体の協力に待たざるべからずと結ばる
   七時半再会合(大正十二年十一月二十二日午後五時)
金子子爵 政府の役人であつて、関係委員会の会員たるは自分一人のみなり、然し之れには理由のあることにて、山県公爵及当時の総理大臣の了解を得しのみならず、寧ろ慫慂せられて会員となりしなりと述べられる
山田博士 政府が最恵国たるの条約を結ぶこと、国籍離脱法を改正すること、日本の土地法を改正すること等の急務を説かれ、最後に外務省が弁護士選定の為め最善を尽されしやと質問せらる
阪谷男爵 米国に対し道徳的反省を促すことを必要とす
添田博士 予が輿論を喚起すべしと言ひしは、剣を抜くといふにあらず
藤山氏 予の意見は、阪谷男爵の意見と同一にして、加州問題を以て日米両国の国交を阻碍せしむるは不得策なり、今は隠忍の時代なり
頭本氏 予は阪谷男爵並に藤山氏と同意見を有するものなり、物事は窮すれば通ずるといふのが人生の常であるから、加州日本人問題も窮地に達せる今日、何等かの局面展開を見るに至らん、仄聞する所によれば、排日連の中でも、在留日本人を十分保護すべく、要は今後日本より移民を送らさるにありと称ふるものあるか如し、添田博士の国論を喚起すると言はるゝは方法の問題であつて、必ずしも不可といふべきものにあらざるべし
金子子爵 加州在留の五万の労働者は如何になるか、仮りに他州に移転するとせんか、他州は之を見越して加州と同様の方法を採用するならん
渋沢子爵 今夕の会合に、外務大臣を始め次官を御招待申上げしは、決して大審院の判決を憂ひたる為にあらず、御就任を祝すると同時に、我日米委員会の主旨目的等を一応申上け置き度為なり、ワーレン大使とウツヅ大使とを比較して見るに、前者は政治家にして、後者は真摯の経世家と見ることを得べし
金子子爵 ウツヅ大使は予の聯合高等委員設置の意見書を、十度も繰返して読み、大賛成なる旨述べられし故、然らば何故実行手続に尽力せられざるかと尋ねし時、大統領選挙期を控へて居るか為め、今は好時機にあらずと答へられし由を報告せらる
外務大臣 本問題を外務当局より提出するは早計の嫌あるが故に、宜敷日米関係委員会諸君の御尽力を請ふ、ウツヅ大使は、必ず此問題を誠実に取扱はるゝと思ふ……
   九時半散会

 - 第34巻 p.109 -ページ画像 

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月 至同年十二月 高田利吉筆記(DK340015k-0002)
第34巻 p.109 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月 至同年十二月  高田利吉筆記
                     (財団法人竜門社所蔵)
○十一月廿二日
○上略
△それより一旦事務所に御立寄の後、五時より銀行倶楽部に開催の日米関係委員会に御出席、此日は特に外務大臣以下、次官・局長を招待して、子爵より本会設立の趣意沿革より、加州問題解決に対する意見を開陳せらる、伊集院外務大臣は近頃新任せられたる人なれば更めて従来の経過を述べられたるなり、金子・阪谷・添田・山田・頭本・藤山等の委員諸氏も交々所見を陳へ、外務大臣も胸襟を開きて応酬し、日米国交上誠に有益なる会合なりきとぞ、十時頃散会


(増田明六)日誌 大正一二年(DK340015k-0003)
第34巻 p.109 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一二年      (増田正純氏所蔵)
十一月廿二日 木 晴
○上略
午後五時日米関係委員会、銀行倶楽部ニ開会せらる、渋沢子爵より同委員会成立の次第並爾来同会の日米両国親交の為めニ努力し来りし経過を演説し、又金子子爵の同会々員ニ加入せる理由の演説ありて、来賓伊集院外務大臣の参考ニ供し、同大臣の答辞あり、食後更ニ加州ニ於ける日本人問題ニ付き、添田・山田・姉崎・阪谷・頭本・藤山の諸氏演説あり、近来ニ無き盛況なり
大臣の演説中特ニ記憶すべき点ハ、昨年問題となりし羅馬法王日本間ニ使節交換の件ハ、要するニ米国ニ於けるレリジヨンの大数ハカドリック教徒なるを以て、此使節交換を以て将来日本人排斥問題の緩和に資せんとする精神なりし事(羅馬法王ハカドリックなり)日米関係委員会が、目下両国親善上最も必要の策なりと主張せる両国高等委員設置の件ニハ、個人として同意なりと云ハれし二点なり
来賓ハ同大臣・松平次官・永井通商局長・広田情報部次長・赤松課長の諸氏にて、会員の出席者は弐拾参名なり