デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.378-382(DK340039k) ページ画像

大正13年9月11日(1924年)

是日、当委員会主催アメリカ合衆国駐剳特命全権大使埴原正直並ニ会員井上準之助帰朝歓迎晩餐会、丸ノ内東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ、今後ニ於ケル当委員会ノ方針ヲ定ムルタメ、アメリカ合衆国千九百二十四年移民法通過ノ事情ヲ聴取ス。


■資料

(増田明六)日誌 大正一三年(DK340039k-0001)
第34巻 p.378 ページ画像

(増田明六)日誌 大正一三年 (増田正純氏所蔵)
八月八日 金
前十一時子爵の使として埴原米国大使を同氏自邸に訪問し、在任中排日問題ニ関しての尽力を謝し、又無事の帰朝ニ祝意を表する為めなり


日米関係委員会往復書類 (一)(DK340039k-0002)
第34巻 p.378 ページ画像

日米関係委員会往復書類 (一) (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、時下益御清適奉敬賀候、然は今般帰朝せられたる埴原駐米大使並会員井上準之助君歓迎の為め、晩餐会相催候間、来九月十一日午後六時東京銀行倶楽部へ尊来被成下度、御案内申上候 敬具
  大正十三年九月三日 日米関係委員会
                 常務委員 渋沢栄一
                 同    藤山雷太
  逐て当日は両氏より日米問題に関する御高話を拝聴致、尚本会の将来の方針に就き会員各位の御意見承度と存候間、御多忙之際恐縮に存候得共、何卒御繰合はせ御来会被下度、特に希上申候
  尚乍御手数御来否、封中端書にて御回示被下度候
 - 第34巻 p.379 -ページ画像 


日米関係委員会集会記事摘要(DK340039k-0003)
第34巻 p.379-382 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要 (渋沢子爵家所蔵)
 日米関係委員会、大正十三年九月十一日午後六時、於銀行倶楽部埴原大使並会員井上準之助氏歓迎会
  出席者
  (会員)渋沢子爵・井上準之助氏・一宮鈴太郎氏・服部金太郎氏堀越善重郎氏・大倉男爵・大谷嘉兵衛氏・小野英二郎氏 梶原仲治氏・団琢磨氏・添田寿一氏・山田三良氏・山科礼蔵氏・藤山雷太氏・江口定条氏・姉崎正治氏・浅野総一郎氏・阪谷男爵
  (幹事)服部文四郎氏・増田明六氏・小畑久五郎氏
  (来賓)埴原正直大使
    記事
   六時十五分開会
渋沢子爵座長 今夕の会合には別に既定の問題と申すものも御座いませんが、日米問題に関する今後の大方針に就て協議致し度いと存じます、其れに付きましては、本問題に深い関係を有せらるゝ埴原大使の御意見を伺ひ、我々実務者の参考に致し、又大使に対して御質問を申上げ、愚見をも申上げて、腹蔵なき意見の交換を願ひ度い次第で御座います、又会員井上君も御帰朝になりましたので、此機会に於て一言御感想をお話被下事を願ひ度いと存じます、先づ大使にお話を御願ひ致します
埴原大使 大使は、排日移民法が一般移民に絡み込まれ、而して一般移民法はドーしても通過せざるべからざる事情に成り居りしことを縷々陳述せられしも、同大使の今夕の御話は出席委員の胸に留められ度く、新聞紙などには勿論、記録にも留め置かれざる様にとの希望に付、今夕の御許及質問に対する応答等は一切記載せざるなり
大使は一時間以上演説せられ、右終りて一同食堂に入る
   八時十六分再び会合
渋沢子爵 之れより井上君の御話を伺ふことに致します
井上氏 拍手の裡に起ち上り、簡短に所感を述べらる==米国滞在は甚だ短い期間であつたので、十分排日移民法通過の経由などを調査する暇がありませんでしたが、唯だ諸友人等に対して(例へばジヤツジ・ゲーリー。ストロング。ラモント等の如き人々)自分は日本に帰るのであるから、日本に於ける貴君の友人等に対し伝言あらば喜んで御伝へしたいと告げられし由なり、而して此質問に対する答は結論に於て殆んど相一致す、即ち移民法案通過は米国民の真相を示すものにあらず、政治家若くは加州人の問題なり。法律となつたる今日之をドーすることも出来ぬが、将来時機を待つて善処するより外に道なかるべし。其時機は大統領選挙後に来るべし。ゲーリー氏曰く、大統領クーリッジ氏が、次回の選挙に当選して就任すれば自分は早速大統領に面会を求めて意見を開陳する積りである、大統領は普通の政治家と違つて、吾々実業家と大胆に且つ腹蔵なく懇談する人なりと、要するに井上氏の齎らし来られし言附なるものは、
 - 第34巻 p.380 -ページ画像 
此際沈黙を守り、両国の反感を煽る様なことを避け、米国の有志家をして徐ろに活動を起さしめ、以て何等かの矯正を成立せしむるにありといふものゝ如し、井上氏は又埴原大使の「重大なる結果」なる言句が、彼の上院議員の意見を激変せしめたとは、米国の有識者は決して信じて居らずと陳べらる、今日となりては議員中にも後悔し居る者少からざる由なり、故に今後の方針としては、大統領選挙の定るまで、或は当方より人を派遣するも宜ろしかるべく、事情を知らしむる為めに意見を開陳するも結構と思ふ。当分の間此問題を世間の耳目に触れない様にして置くことが、将来の解決法に好都合なるべし
 井上氏の深く憂ふる点 英国及欧洲を遍歴して、氏の得られたる感想は、西洋諸国が一面に於て非常に国際的になり、他の一方に於て頗る国家的であるといふ奇現象なり、然し国際聯盟が重ぜられ、之が将来勢力を得て国際的平和に貢献する処多大なるべしと考ふ、其処で問題は第二回のワシントン会議である。クーリツジ大統領は次回の選挙に当選するに於ては、必ず第二回の軍縮会議をワシントン市に召集すべきことを宣言せり、故に此企図は必ず実現するに至るべし、果して実現するとせば、日本に対して参加を求め来るに相違なかるべし。第一回の際は、日本は米国を正義人道の国と信じて其請求に応じ、且つ米国の主張を容れたり、然るに今回の排日条項移民法通過によりて、日本国民の感触を害し、米国に対して強烈なる猜疑心を起さしむるに至りたれば、第二回の召集には日本は容易に応ぜざるべし。日本の対米方針としては、無理ならぬことゝ思ふが世界の日本といふ立場より考ふる時に、日本が第二回の軍縮会議に列せざることは非常に不利なり、故に此デイレンマをドーするかとの問題なり、此問題は米国人に対しても軽々に語ることの出来ないものであつて、自分独りで心配して居るのですが、極めて昵近の中なるストロング氏丈けには打明けて見たが、同氏も之には随分頭痛を悩んで居られたのであります
 欧洲に於ける米国の勢力といふものは、実に驚くべき程でありますロンドン会議もパリー会議も、其裏面に於ては皆米国の財閥に操縦されて居るのであります
 米国が仏国に対して金融を講じて遣らねば、フランクの為替が下落し、独逸の如きはは米国の金融によつて国家生存の命脈を保つて居ると見ても宜ろしいのである
 従つて米国の鼻息は到る処に荒いのである。米国は世界のダヾツ子であるが、ドーすることも出来ない、此処を能く洞察して掛らねばならぬ
 日本の人口を外国移民によつて解決せんとするは無理である
 英国に於ては日米関係の阻郤《(隔カ)》を重大視して居る
渋沢子爵 今夕は埴原大使・井上君の御話を承りまして、大に益する所が御座いました、就ては我関係委員会は将来如何なる方針を取るべきやに関し、大体の意見を定め度いと存じます、唯今御両君の御話に関して質問又は御意見等あらば、御自由に御述べを願ひます
 - 第34巻 p.381 -ページ画像 
山田氏 埴原大使に御尋ね致しますが、大使とヒユーズ国務長官とは排日条項削除の点に就ては、意見が一致して居る様に承つて居りましたが、日本より正式の抗議が提出された時には、円で変つた意見を出されたと思ひます、之れは如何なる理由に基いたのでありませうか、次に日本政府が米国政府に対して抗議を申込むだのでありますが、此内には大正二年以来加州在留同胞に対する差別待遇の事も含まつて居りませうか。日米問題に対する今後の方針に就ては、当局に一定の方針が御座いませうか
埴原大使は、右質問に対して其れ其れ答へられしも、大使の希望により、又座長の承諾により、内容の記録を省く
大倉男爵 井上君の御話中に、米国が第二回の軍縮会議を召集する云云の一節があるが、之れは以ての外の事です、アメリカは実に傍若無人の行為を敢てして、此際三千年の歴史を有する我日本の味を味はして遣りたい気がします
藤山氏 大使及井上君の御話によりて見ても、米国の国民は議会の行動を非難して居るといふのであります。畢竟日米両国人が相互を十分理解して居らぬ所から、斯る阻隔が生ずると考へまするから、此際此諒解の方辺に向つて努力する必要があると思ひます、政府と言はず民間と言はず、将来積極的に当方の主事主張及実情を米国民に知らせることが焦眉の急務と考へます
渋沢子爵 米国の宗教家及実業家は、議会の行動を快しとせぬでありますが、如何でせうか
井上氏 御世辞一片に議会の行為を責むるものもありますが、思慮ある人々は議会の処置を非難して居る様に感じて居ります
渋沢子爵 日米関係委員会の歴史を話され、其目的が利害関係を超越して、世界人類の平和を計るにありと述べらる、「絹が幾何売れるとの問題ではありません、世界人類の平和をドーするかといふのが問題であります」
山田氏 日米委員会の働は、国際的の必要を充たして居るばかりでなく、国内的必要をも充して居ります、例へば二重国籍問題の解決に関して機運を作つたのは、本委員会の功績と言つても宜敷いのであります、本委員会を解散するが如きは決して為すべからざることゝ考へます、今は積極的に活動すべき時と思ひます、就ては大統領選挙までは当方より人を派遣して情況を視察せしむるも能し、又先方の友人等に書通して当方の意向並に事情を知らしむるを結構と思ひますと述べらる
阪谷男爵 日本の輿論は日々に悪化して居ります、金子子爵・渋沢子爵・藤山氏等は、米国人に利用されつゝありといふて、自分の所へ投書ありと述べらる
井上氏 賢明に温和に、米国に反省を促すにあり、其方法としては意見書を公表するも善し、又有識者を派遣して相互の諒解を得るに努むるを更に善しとす、此意味に於て日米関係委員会の事業を拡張して、日本人啓発にも当るべきと思ふ、吾々は米国を尚ほ一層理解する必要あり、世界に於ける米国の地位は日に増々堅固をなしつゝあ
 - 第34巻 p.382 -ページ画像 
り、例へばロンドン会議に於ける米国の勢力は実に偉大なるものである、仏国も独逸も、米国の意見を尊重せざるべからざるは、全く経済上米国に依頼せざるべからざる弱味あるが為めなり、米国はダダ子の様に振舞つて居るが、之も今日の形勢より見る時は止むを得ざることゝ思ふ……云々
添田氏 本委員会の存続を必要とす、如何となれば、之を解散する時は危険分子に勢力を得せしむることゝなるべし。本委員会は国内的にも国際的にも大に運動すべきなり
姉崎氏 全然添田氏の案に賛成なり
渋沢子爵 将来に於ける運動の方針中の一としては、米国の友人等に書通するを可しと思ふ、何れ草案出来挙り次第、皆様に写を御参考までに御送付致すべし
藤山氏 日米関係委員会の目的を変更して、日本人開発にも努力すべしとの井上君・添田君の御意見もあつたが、之れは余程考慮を要することゝ思ふ……云々
   十時二十分閉会


日米関係委員会集会ニ関スル控(DK340039k-0004)
第34巻 p.382 ページ画像

日米関係委員会集会ニ関スル控 (日米関係委員会所蔵)
大正十三年九月十二日午後《(十一)》 時、於東京銀行集会所
                       日米関係委員会
一ボルチモア・シチー・カレヂ校友会実行委員長アサトン・イー・ハンガーフオード氏提案ノ件
  山田・姉崎両博士ニ斡旋ヲ請フ事
一アサートン氏書信汎太平洋研究会ノ件
  埴原大使ヨリ承リ合ハセラルヽ事
一フランクリン氏書信代表者派遣ニ関スル件
一アサートン氏ヨリパーマー牧師紹介ノ件
  パーマー牧師・同夫人・令嬢、九月十八日ホノルヽ発、同廿九日横浜着三日間(廿九・三十・十月一日東京滞在ノ予定)
一鈴木文治氏ニ関シアレキサンダー氏ヨリ電報ノ件
一太平洋艦隊巡航ニ関スル件
一新移民法施行ト銀行会社使用人入国ノ件



〔参考〕(増田明六)日誌 大正一三年(DK340039k-0005)
第34巻 p.382 ページ画像

(増田明六)日誌 大正一三年 (増田正純氏所蔵)
九月十三日 土
前十時半布哇新報社長服部毅氏来訪、米国民に移民問題ニ関する本邦有識者の意見を披瀝する為めジヤパン・タイムス社ニ依りて臨時米国号を発行致度に付き、子爵の御援助を請うとの懇談ありたり、後子爵に御協議の上金五百円寄附する事に決したり