デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.551-555(DK340059k) ページ画像

大正14年5月14日(1925年)

是日、当委員会主催アメリカ合衆国人アルフレッド・シー・エルキントン及ビハーバード・ウエルチ歓迎午餐会、丸ノ内東京銀行倶楽部ニ催サル。栄一ハ病気ニヨリ出席スルヲ得ズ。


■資料

(鶴見祐輔)書翰 渋沢栄一宛 一九二五年三月一二日(DK340059k-0001)
第34巻 p.552 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

日米関係委員会往復書類(一)(DK340059k-0002)
第34巻 p.552-553 ページ画像

日米関係委員会往復書類(一)     (渋沢子爵家所蔵)
(写)
拝啓、時下益御清適奉賀候、然ば新渡戸稲造博士の義兄にして平素在留日本人の為に尽力せらるゝ加州麦嶺のアルフレツド・シー・エルキントン氏及過去廿五年間市俄古デイリー・メール紙のロンドン通信員として米国ハースト系紙に対抗し、世界的名声を有せらるゝエドワード・ブライス・ベル氏来遊中に候間、会談致候はゞ両国親善に裨益す
 - 第34巻 p.553 -ページ画像 
る処可有之と存候に付、来る十四日(木)零時半東京銀行倶楽部に於て、右両氏招待午餐会相催候間、御繰合せ御来駕被成下度、此段御案内申上候 敬具
  大正十四年五月八日
                日米関係委員会
                 常務委員 渋沢栄一
                 同    藤山雷太
    委員各位
  ○ベルハ欠席ス。


日米関係委員会集会記事摘要(DK340059k-0003)
第34巻 p.553-555 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要        (渋沢子爵家所蔵)
 日米関係委員会 大正十四年五月十四日午後零時半、於銀行倶楽部開催
 目的 米国人来賓歓迎午餐会
 出席者氏名
  来賓 アルフレツド・シー・エルキントン氏
     ハーバート・ウエルチ氏
  委員 一宮鈴太郎氏、堀越善重郎氏、小野英二郎氏、団琢磨氏、添田寿一氏、頭本元貞氏、串田万蔵氏、白仁武氏、藤山雷太氏、浅野総一郎氏、男爵阪谷芳郎氏、男爵森村開作氏
  幹事 服部文四郎氏、小畑久五郎氏
     (以上拾六名)
司会者阪谷男爵の来賓に対する挨拶(英語) 今朝渋沢子爵を訪問せしが、経過真に良好にして著しく恢復期に向つて進みつつあり、列席の皆様特に今日の珍客たるエルキントン氏及ウエルチ氏に宜敷申上くる様にとの伝言ありたり、本日の珍客エルキントン君は加州バークレイ市に居住せらるゝ実業家にして、日本人の為に厚意を示さるる方なり。日本人に対して御家庭を開き、船には彼等を迎へ、汽車には彼等を見送るといふか如き実に懇切を尽さるゝとの事なり、其点に於てエルキントン君は日本人の恩人なり、又同君は新渡戸令夫人の実兄として深き縁故を日本に対して有せらるゝなり。ウエルチ君は吾等の間に親しく知られ居る方にて私の紹介を要せざるなり、吾等委員等は衷心より御両君を歓迎する者なり、御両君より御感想を承ることを得は幸甚なり
アルフレツド・シー・エルキントン氏の答辞 私は皆様の如き御歴々の御面前に於て語るべき資格の無いものでありますが、渋沢子爵を始め皆様の御厚意に対して御挨拶を申上げようと存じます、排斥移民法の制定は遺憾極るものであります、此感情は我か邦全般に行き渡つて居ります、此点に就てはエドワード・プライス・ベル氏(シカゴデアリー・ニユースの倫敦通信員)が私の意見に同意を表して居ります、排斥移民法は最も残酷に行はれたる最醜事件であります私が日本人を尊敬するのは十分尊敬すべき人々であると信ずるからであります、尤も私が新渡戸稲造氏と親戚関係にあるといふことも親日の感情を深くして居ることは事実でありますが、私は国際関係
 - 第34巻 p.554 -ページ画像 
の重要なることを認めて居るものであります、私の家庭は国際親善に近く一楷段《(階)》と心得て居ります、再びベル氏に言及致しますが、同氏は有力なる新聞記者にして頭脳明斥頗《(晰)》る判断力に富める方であります、氏の通信はハースト系紙に対抗する四十三紙に掲載せられます、諸君はベル氏を通じて諸君の処信を我国民に伝へられんことを希望します
ウエルチ監督 今日此午餐会に参列するの光栄を得まして真に難有存じます、私は先年二月帰国するに際し、日米問題に関する日本の指導者諸氏の意見を伺はんが為め、渋沢子爵に御願ひして、今日御列席の阪谷男爵・藤山氏・頭本氏と帝国ホテルに於て御懇談致した事を能く記臆致して居ります、渋沢子爵を始め金子子爵より腹蔵なき御意見を伺ひまして御別れをしたのであります、其際私は米国の事情を調査して再渡の際御報告申上くると申しましたを記臆して居ります、此機会に於て大略を申述へます、私は帰国後南船北馬、我が大陸を旅行して多くの人々に接し、又数十回に亘る公開演説を致しました、而して渋沢子爵の御言葉や其他の方々より承りました御意見などを自由に用ゐました、排日移民法の経過に関しては、皆様が新聞紙上にて委はしく御覧の事と思ひますから、敢て喋々申上くる必要もないことゝ考へますが、本問題に関する議論の最も盛なる頃私は華府に居りまして、殆んど其渦中にあつたとも申上ぐることか出来ます、加州代表の上院議員ハイラム・ジヨンソン氏、シヨートリツヂ氏が熱心を罩めて本問題に注意して居りました、埴原大使の書面は余り長過ぎた嫌がありました、而してかのグレーヴ・コンセクエンスなる一節か無かつたならば、確に日本人排斥移民法は議会を通過しなかつたと信じます、ペンシルヴアニヤ州選出上院議員リード氏、ロード・アイランド州のコルト氏は移民委員長であつて、何れも通過に反対された有力の人々であります
 加州に於ける一般の形勢を申上ぐると、加州には決して排日者ばかり多いとは申されませんのであります、加州には日米親善の為め衷心より憂ひ且つ尽して居る幾多の宗教家・実業家があります、然し我邦の東部人士は此事実を能く知りませんので、華府に出張して排日の風を吹かして居る人々の説のみを聞いて、之を信じて居るのであります、加州には労働組合・農業者組合・在郷軍人団、及加州生産者団体と申す四団体がありまして、日本移民の入国に反対して居ります、彼等は多数の投票を左右しますから代議士連は動かされるのであります、元来米国の正義派は政治的には冷淡なる方であります、又モー一つの困難は我邦の議員連は国際関係に関して知識も経験も至つて幼稚であるといふ事であります
 救済に関する意見 排日移民法は既成の事実にして今更之を如何ともすること能はずといふ声盛なれども、私は之に賛同すること能はず、科学的及基督教的米国人は何人と雖も斯る意見を首肯することか出来ぬと思ひます、然らば今後如何にせば宜敷いか
 聯合高等委員を設置することは殆んと不可能であります、今日の形勢では仮令へ斯る委員か任命されたとしても、其権限は非常に狭い
 - 第34巻 p.555 -ページ画像 
ものとなつて、殆んど手も足も出ないと申す有様であります
 カナダとメキシコはコータ法を応用されて居りませんが、何れ此問題が起りますから、其際日本移民問題の改正を提議するのか好機会と思はれます
 帰化法《(脱アルカ)》の改正であります、加州の土地法は帰化権を有せざるもの云云とありますから、此帰化法か日本人に与へらるゝことゝなれば、根本的勝利を得ることか出来ると思ひます、米国の帰化法は一八八二の制定で、甚た不備なものであります、支那と日本とが相提携して本問題の改正を米国に訴ふるならば功果があらふと思ひます、而して帰化法は国家的若くは人種的でなく、個人価値に基礎を置くべきものと思ひます
 米国は尨大な国であります、而して国民は割合国際問題には冷淡でありますから、国民を指導啓発して国際的精神を盛にする様にする必要があります
 キヤドマン博士(博士は有名なる基督教牧師)と同道して大統領を訪問しましたが、大統領は米国民一般は日本に対して伝統的友情を変ずることが無いとの意を漏されました
  ○ハーバート・ウエルチニ就イテハ、本款大正十三年二月十三日ノ条及ビ本章第五節所収「其他ノ外国人接待」大正十年四月五日ノ条参照。