デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
3款 日米関係委員会
■綱文

第34巻 p.602-609(DK340069k) ページ画像

大正15年3月9日(1926年)

是日、アメリカ合衆国人ウィリアム・アクスリング博士、飛鳥山邸ニ栄一ヲ訪ヒ、同国千九百二十四年移民法ニ関スル談話ヲナス。四月八日右ニ関シ当委員会小委員会ヲ、丸ノ内東京銀行倶楽部ニ開キテ協議ス。


■資料

(ウイリアム・アクスリング) 書翰 友人各位宛一九二五年一月七日(DK340069k-0001)
第34巻 p.602-605 ページ画像

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渋沢栄一 日記 大正一五年(DK340069k-0002)
第34巻 p.605 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一五年       (渋沢子爵家所蔵)
三月九日 晴 寒
○上略
アキスリング氏来訪、日米関係ニ付種々談話ヲ交換ス○下略
   ○中略。
三月十一日 晴 軽寒
○上略 基督教青年会幹事斎藤惣一氏来訪○中略 米国ナルモツト博士ヘ日米関係ニ関スル意見ニ付テ、頃日米人アクスリング氏トノ談話ヲ伝ヘシムルコトヲ説示ス○下略


日米関係委員会往復書類(一)(DK340069k-0003)
第34巻 p.605-606 ページ画像

日米関係委員会往復書類(一)       (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、時下益御清適奉賀候、然ハ別紙アキスリング氏書面ノ米国排日移民法ニ関スル件ニ付御高見承ハリ度ト存候間、御多忙ノ際恐縮ニ候得共何卒御繰リ合ハセ、来八日午前十一時東京銀行倶楽部ヘ御来会被成下度候、此段御案内申上候 敬具
  大正十五年三月卅一日
                日米関係委員会
                 常務委員 渋沢栄一
                 同    藤山雷太
    子爵 渋沢栄一殿
  尚々当日ハ右協議後、鶴見祐輔氏ヨリ最近ノ米国排日問題ニ関スル状況ヲ聴取スル事ニ致置候
  乍御手数御来否御一報被下度候
(別紙)
  ウヰリアム・アキスリング氏ヨリ宣教師各位ヘ発送シタル書翰(抜萃)写
拝啓、最近ギユーリツク博士ノ来書ニヨレハ、マツクラツチー氏ハ、
 - 第34巻 p.606 -ページ画像 
「立法ニ対スル基督教会ノ干渉」及「日本ニ於ケル悪意ノ助長」ト題スル書翰ヲ広ク全国ニ流布シツヽアリトノ事ニテ、博士ハマ氏ノ書翰中ヨリ「最近米国ニ帰来セル一宣教師ノ子息ノ談ニヨレバ、彼ガ日本ニ於テ胸襟ヲ開イテ談レル多クノ宣教師ハ、語気ヲ強メテ、米国議会ガ排日法ヲ通過シタルハ、基督教ト政治トヲ別扱トセルモノナレバ、基督教ノ伝道上嘗テ見ザリシ程ニ結構ノ事ナリト語リ、尚同子息ハ小生ノ知人ナル一流宣教師数氏ノ名ヲ列挙致候」ノ一節ヲ引用シテ、日本人ノ感情ハ排斥法ニ対シテ緩和サレツヽアリヤトノ質問ヲモ添ヘラレ候
マクラツチー及其一派ハ、吾等ノ沈黙ヲ乱用シテ一般米国人ニ対シ吾等ノ立場ヲ曲解スル者ナル事ヲ痛感致候、米国宣教師ノ一団ハ東京ニ会合シ前記ノ事項ニツキテ非公式ナル協議ヲ試ミ申候
此等ノ問題ニ対スル宣教師側ノ意見ト反応的事実トヲ集蒐シテ、ギユリツク博士、紐育日米関係委員会、米国教会聯合会等ニ送リテ報告資料ト為スト共ニ、適宜ニ之ヲ利用セシムル事ハ緊要ナリト感候、依ツテギユーリツク博士ノ書翰ニ基キ左記質問条項ヲ作製致候
(一)排斥法ニ対スル激越ナル感情ハ冷静ニ帰シツヽアリヤ
(二)日本人ノ感情ハ幾分ニテモ緩和サレツヽアリヤ、而シテ此カル法律ノ通過セル事ヲ全然忘却致シ居ル哉
(三)貴台ノ知ラルヽ範囲ニ於テ、若シ宣教師中マクラツチー氏ガ米国ニテ宣伝シツヽアルガ如キ説ヲ抱懐スル者アリトセバ、夫レハ幾人程ナル哉
右ノ質問ニ対スル解答ヲ蒐集スルニ当リ、貴下ノ御協力ヲ得バ誠ニ難有日米親善ノ増進ニモ貢献スル所少カラザルベクト存候 敬具


日米関係委員会集会ニ関スル控(DK340069k-0004)
第34巻 p.606-607 ページ画像

日米関係委員会集会ニ関スル控 (日米関係委員会所蔵)
大正十五年三月八日午前十一時《(四)》、於銀行倶楽部、日米関係委員会排日移民法ニ対スル協議会
   (太丸ハ朱書)
    ○来賓 鶴見祐輔(午後零時三十分) ○渋沢子爵
    ○〃  岡島金弥          ○藤山雷太
     関西旅行中            欠阪谷芳郎
                      ○添田寿一
                      欠井上準之助
     転地療養中            欠団琢磨
     差支               欠串田万蔵
     旅行中              欠山田三良
     旅行中              欠姉崎正治
                      ○堀越善重郎
                      ○頭本元貞
     先約               欠小野英二郎
     差支               欠梶原仲治
                      欠一宮鈴太郎
                      欠金子堅太郎
                      欠増田明六
 - 第34巻 p.607 -ページ画像 
                      ○小畑久五郎
                      ○高木八尺


日米関係委員会集会記事摘要(DK340069k-0005)
第34巻 p.607-609 ページ画像

日米関係委員会集会記事摘要        (渋沢子爵家所蔵)
 日米関係委員会小委員会
 大正十五年四月八日、於銀行倶楽部開催
 出席者
  来賓 鶴見祐輔氏・岡島金弥氏
  会員 渋沢子爵・藤山雷太氏・添田寿一氏・堀越善重郎氏・頭本元貞氏
  研究嘱託 高木八尺氏
  幹事 小畑久五郎氏
    協議概要
渋沢子爵 鶴見氏の参考までにとて、日米関係委員会の沿革を述べられ、遂に最近アキスリング氏との会見の顛末を話さる、即ちア氏がギユーリツク博士より書面を受けしが、其内にマクラチー氏が日本に於ては最早排日移民法問題を忘れんとしつゝあることを、在日本宣教師の倅より聞きしのみならず、宣教師中排日移民法の通過を見て喜び居る者あつて其姓名を聞きし時に、マ氏の知る者もありしといひて広く宣伝をなしつゝあれば、之れを反駁する為めの資料を供給せられたしと記述せられし旨、ア氏は子に話されし由なり、由つて子爵は此際此問題を如何に扱ふへきやとの点に関し意見の交換を試みんが為め、此小集会を催ほせりと告げらる
鶴見氏 鶴見氏は大要左の如く述べらる
 米国人が親日を称へらるゝ理由は一つは感情的で、他は実際的である、而して其実際的なる方面を挙ぐれば、独逸人と等しく日本人は力行の国民で将来恐るべき国民であるが故に、米国人は真に日本人を恐るゝのである。一夕モーリス前大使が主となつて二十人程の団体と夜深更に至るまで懇談したることありしが、実は米国人は日本を恐れて居るのである、従つて日本が彼の排日移民法によつて侮辱されたなどゝいふ考を抱かずに、モツト自信力を有つて居るのが宜ろしいのであると謂はれた。日米両国の関係に関する将来には気遣はれるものがある、現今米国に時めいて居る経済学者にロバーツといふ人がある、彼はナシヨナル・シチー・バンクの副頭取である、彼れ曰く、米国が将来戦争すべき方面が三様である、アトランチツク・シチーを中心として戦ふ英米戦争、テキサス州を中心として戦ふ米墨戦争、加州を中心として戦ふ日米戦争である、然るにアトランチツク・シチーといひテキサス州といひ、余り米国全体の上に影響を及ぼさぬから、先づ此方面に大問題の起る気遣はないが、独り加州に至つてはソーデはない、米国に於ける加州の勢力は非常に大なるものがある、例へばウヰルソン大統領とヒユーズ氏との選挙争の時、ヒユーズを敗に帰せしめたのは全く加州民の投票数に因つてであつた――米国の農業地は排日的である――近来プロパガンダといふ言葉は米国に於て一種の飽きを買つて居るので、英国人の如き
 - 第34巻 p.608 -ページ画像 
は知識普及設備とか図書館の如きものを設けて英国を紹介して居る――米国人に対しては赤裸々に正面攻撃を行ふが宜ろしい、ウヰリアムスタウンに於ける政治研究会に於て、日本の強い方面を論じたが、後に聞いた所によるとロージヤスといふ人が、鶴見は我々を脅喝して居るといはれたさうである、兎に角後始末は之を政府及び有力なる人々に一任することゝして、我々歩兵はドシドシ正面攻撃を遣るが宜ろしい――英国人は米国と親善を保つ為に莫大の金を使つて居るのは事実であるが、日本は何れ程費して居るか、トテも比較にならない、英国人中には米国の新聞事業に関係し銀行業に従事して居る者がある、有名なセーシル・ローズ氏の奨学資金が、各国の学生を英国に招いで居るが、之れに均霑する米国の学生が可なり多い、此等の学生が追々米国に帰つて親英的になる、日米の間にも斯る方法を採用して日米親善を計ることが必要である――水野錬太郎氏が近々渡米せらるゝと聞いたから同氏に勧めて宣言書を作り、日本は排日移民法に対して大なる憤怒を抱いて居るといふことを、揚言して下さいと頼みました――要するに米国人と折衝するには卒直に思ふ所を言ふを能いとする……云々
○岡島氏 鶴見の意見に共鳴す、排日移民法に関しては日本の態度を常に米国人の前に掲揚して置く必要がある、米国の諺に「沈黙は承諾なり」といふ事がある、彼の移民法を此儘にして置くならば、他の国々が此例に習つて日本人を排斥する時に、弁解の余地が無くなるであらう、日本は人口増加の為めドーシテも他国に移民を送らねばならぬ、米国の排日移民法は之を阻害する所が甚だ多い、此排日移民法は米国人に十分了解せしむることが出来れば、改正を見る事も六ケ敷無い、米国に於て婚姻期に臨んで居る男子が三万人あつて其内には米国生れの者もある、支那人が近頃本国より妻を迎へる運動を開始して居るが、之れが成功すれば日本人側にも応用が出来るであらう……云々
頭本氏 ギューリック氏の質問に対して日米関係委員会は如何なる態度を採るべきか、自分は最近に於ける米国の旅行中、排日移民法問題は米国に取つて過去のものかも知らんが、之に対して日本は断えず不満を抱いて居ると述べた、マクラッチー氏及シヤーレンバーグ氏の如きは、日本が移民法の改正を云為しないならば、在留民に対する差別待遇を緩和すると云つて居らるゝ。米国の排日問題は加州によつて左右せられて居るから、加州に於て此問題の解決を求むる必要がある、而してシヤーレンバーグ氏は確かに日本移民に対する態度を緩和しつゝあると思はるゝ事実が現はれて居る、就ては米国に於ける西部の友人等には益此緩和策を講じて貰ひ度いといひ、東部の友人等に対しては西部の状況を利用して、在留日本人十万人の為に尽力を願ふとの意を含める長文の書面を発するを必要とすると提言したのであるが、今も此確信を抱いて居るのである、個人としては正面攻撃も宜ろしいが、会としては以上の方法に出づるを好都合とす……云々
添田博《(士脱)》 米国は輿論の国であるから其輿論を喚起することが何より大
 - 第34巻 p.609 -ページ画像 
切であるといふのが平素の持論である、而して之には運動資金を要す、此資金を民間に於て得る事が困難ならば間接に政府方面より得る道を講ずる必要がある、日米協同の必要は世界平和の維持といふ点にあるのであるから小問題を後廻はしにするとして、帰化権獲得運動の如き根本問題に向つて大に注意を払ふ必要がある……云々
子爵 日米関係委員会としては終始一貫温和の策を採用し来れり、然し排日移民法に対して泣き寝入りに之を葬つて仕舞ふといふ様な事は断然ない、然ればとて政府より多額の運動費を得るといふことも頗る困難と思はれる、排日問題に関しては近日中に再び意見の交換を行ふの必要あるべし……云々 二時半閉会