デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第36巻 p.404-408(DK360161k) ページ画像

大正9年9月21日(1920年)

是日、当協会第五回理事会、東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ、イギリス国際聯盟協会ヨリ申越セル、第一回国際聯盟総会ニ提出スベキ議案其他ニ付キ協議ス。十月一日栄一、会長ノ名ヲ以テ、イギリス国際聯盟協会執行委員長ロバート・セシルニ対シ、回答書ヲ発シ、同時ニ外務大臣内田康哉ニ対シ、右ニ関スル陳情書ヲ提出ス。


■資料

国際聯盟 第一巻第一号・国際聯盟協会々報第三二―三九頁大正九年一一月 国際聯盟協会成立後の経過(十一)第五回理事会(DK360161k-0001)
第36巻 p.405-408 ページ画像

国際聯盟 第一巻第一号・国際聯盟協会々報第三二―三九頁大正九年一一月
 ○国際聯盟協会成立後の経過
    (十一) 第五回理事会
 時日 九月二十一日 場所 銀行倶楽部
 出席者 徳川総裁、渋沢会長、阪谷・添田両副会長、井上・林・山川・松田・岡・田川・宮岡・吉井・姉崎各理事、伊達・杉村・沢田各幹事
 沢田幹事より聯盟協会聯合会総会出席者の件に関し、松井大使と往復したる電報写(九月九日相談会に関する記事の部参照)を朗読したる後、左記の件に関し協議す。
      協議
 (一)日米協議会開催に関する件 過日大日本平和協会より、在本邦各種国際的協会相聯合して、日米問題に関する隔意なき意見の交換を計り度きに就ては、国際聯盟協会主催の下に、右協議会開催せられたき旨、申込ありたるに対し審議す。
 右に関し阪谷副会長より「本件につきては、過日日米協会長金子子と会談したるが、其の結果、日米協会殊に同協会々員中、外国人側主催の下に本協議会開催する方、最も機宜を得たるものと認めらるゝにつき、日米協会より何等招待に接したる節は、本協会に於て之を受諾し代表者を選出することゝし度し」との動議あり、全会一致之に賛同す。
 (二)「墺地利窮民救済に関する件」○略ス
 (三)調査部活動開始の件 右は第一回理事会に於て決定せられたる事なるが、未だ何等其の運用に至らざる所、日米問題といひ、日支問題といひ、本会として調査研究を遂げ、其の意見を確立し置くべき問題尠なからざるを以て、岡理事を主任とし、右調査部活動開始の件を議す。
 (四)寄附金募集に関する件 渋沢会長より「三菱家に於ては、本会に対する寄附金は一時金となすよりも、毎年一定の額を寄附することゝしたる方便宜なる旨申出あり、右は三井家に於ても同様希望し居る旨聞き及べり。右に関し協議を遂げたし」と述ぶ。協議の結果、本件は総裁・会長・副会長・会計監督に一任することゝし、必要に応じて、過日首相官邸に招待せる有力者中、多額の寄附を希望する向を更に招待し協議決定することゝなれり。
 (五)聯盟総会に就き 過般英国々際聯盟協会執行委員長「ロバート・セシル」卿より左の如き来翰あり
      英国々際聯盟協会執行委員長の書翰
 拝啓 陳者英国国際聯盟協会の執行委員長として、余は玆に国際聯盟の一般的概念に取り、最も重要なる問題に関し一筆啓上仕候。
 国際聯盟総会の第一回会合は、来る十一月十五日を以て「ゼネバ」に開催せらるゝ趣きなるが、該会合をして徒らに演説会たらしむることなく、之をして真面目なる事業を遂行せしむることは、頗る緊要のことゝ存候。此目的の貫徹を計らんとせば、聯盟に加盟せる各国に於
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て、各自同会議に提出せんとする問題に関し、慎重なる考慮を加ふることを必要と致候へ共、目下の場合各国政府に於て果して該問題に関し充分考慮を加ふべき時間の余裕を存せざるやの疑有之候に付、余は我協会に代り、貴協会に於て此際直に本件を考慮に上し、且つ本件に関し、貴協会所属の政府に対し貴協会の必要と認めらるゝが如き提議を為さるゝに至らんことを慫慂致候。
欧洲の経済的現状、軍備の制限等の如き、一般人士の念頭に浮ぶ一般的問題も有之候へ共、尚之等問題以外に各国共に今日迄開かれたる此種の会合中、最大なる国際的の会議に於て慎重に審議せらるゝ事を希望せらるゝ諸問題有之事と存候 敬具
                     ロバート・セシル
    日本国際聯盟協会御中
        英国々際聯盟協会総会決議
 (一九二〇年七月十五日、英国々際聯盟協会総会に於て満場一致を以て通過せしもの)
 (イ)政治的及経済的諸問題の解決、並国際間の正義確立の為、聯盟の加盟国の範囲を拡張し、完全なる自治を享有する国家・属領及植民地を包含するに至らしむる事最も肝要なり。
 (ロ)国際聯盟は其の直接指揮の下に、何等かの国際警察力を有すべきや、若し有すべしとせば如何なる目的の為、之れを有すべきやを審査せんが為、国際聯盟の一委員会を任命すべきこと。
 (ハ)委任統治状は此上何等の遅滞なく制定せられ、且つ聯盟規約草案を発表したる前例に傚ひ、右委任統治状も亦聯盟の承認前草案の儘、発表せられんことを希望す。
 (ニ)出来得る限り速に国際聯盟の組織完成せられ、其の活動充分に確立せられ、国際聯盟をして聯盟規約の下に其の本来の機能を有効に発揮せしむる為、最高会議は之を解散すべきこと。
 (ホ)英国聯盟協会総会は、露西亜と波蘭間の敵対行動の再発を防止する為、聯盟機関の行使せられざりし事を遺憾とす。
 (ヘ)饑饉に侵されたる地方の困憊状態を救済するは、全世界将来の平和の為、異常且つ遠大の影響あるに鑑み、英国国際聯盟協会は其の各支部が斯かる救済の計画に対しては、其の力の許す限りのあらゆる方法を以て援助を与へらるゝ事は、極めて望ましき事なる次第に付、各支部の注意を喚起せんとす。
 (ト)英国聯盟協会総会は、委任統治に関する国際聯盟規約上の責務に関し、政府が従来与へたる解釈、並に今後之れに与へんと計画せる解釈方法を承認する事能はず、斯かる解釈法は本協会の主義及目的に反馳するものにして、且つ本総会の意見に依れば、斯の如きは覚醒せる公論に依り、本会目的に対し拡大せる支持を得んとする希望を覆すものなり。
        右に就ての協議
 田川理事より、右来翰附属書「ト」号の件に関し質問あり。山川理事之に対し『委任統治の件につきては、旧独墺属領地は「ヴェルサイユ」条約の結果、五大国に於て委任統治することゝなりたる処、其の
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範囲及程度に関しては何等条約に規定なし、依て五大国に於て協議決定することゝし、爾来其の議を進め居る所、日仏両国に於て多少の異議あるため、未だ其の決定を見ず。其の結果欧洲諸国に於ては委任統治の件は、従来の如く五大国に一任することなく、国際聯盟理事会に於て遅滞なく、之を決定することゝせざる可からずとの説唱へらるる次第にして、右「ト」号の件は、上記の事態を指せるものならん』と説明す。
 阪谷副会長より『右来翰回答中には加州問題に言及する要あり、加州に於ける排日法案中、日本人を以て undesirable のものとなし居る所、斯の如き主張の下に各種の運動其の歩を進むるに於ては、常に平和を愛好するものと雖も、遂には戦争論者の説に巻き込まるゝ憂無しとせず、かゝる問題に対しては、本会は当然考慮を加へ態度を決定する所なかるべからずと』述ぶ。
 種々討議の結果、添田・林・岡・山川・田川の五氏を特別委員に挙げ、本日討議の趣旨によつて回答案作成方を依頼せり。
        我が国際聯盟協会の回答
 依て其後右特別委員集会の上、沢田幹事の起草せる原案に元き審議の結果、左の通りの回答することに決定し、十月一日付を以て之れを発送せり。
 日本国際聯盟協会を代表して余は玆に、国際聯盟総会第一回会議の件に関する去る八月四日付貴翰接受の旨、並に該総会に関して貴協会の執られんとする措置に関し、御開示被下候御好意に対し、誠意感謝罷在候趣を閣下に通報するは、余の頗る欣幸とする処に有之候。
 貴協会総会に於て、貴翰御添付の決議が満場一致を以て通過致し候趣承知致し、頗る欣快に存居候。右決議は最早貴国政府に於て、慎重に処理せられ居ることゝ信じ候。
 国際聯盟総会第一回会議が、弥々来る十一月十五日を以て「ゼネバ」に開催せらるゝ事に決定せられたる事は、頗る満足とする次第にして且つ此の記憶すべき機会に於て、実質ある事業を成就し、以て速かに国際聯盟の組織を完成する道程を作るに至らんことは、貴協会同様熱心に希望し居る次第に有之候、依て本邦代表者が「ゼネバ」出発前、他の諸邦の代表者と協力して聯盟の精神達成の為め、出来得る限り尽力あり度き旨、本邦代表者に対し親しく懇望致したる次第に候。之と同時に本邦協会は貴協会の議了せられたる諸決議記載事項の外、特に聯盟総会会議に於て慎重なる協議の題目とせられんことを希望する諸問題に対し、最も慎重なる考慮を加へ候。
 本邦協会は諸国民平等主義の承認は、聯盟の一般概念にとつて、最も緊要の事なりとの意見を有するものに有之候。国際聯盟の現状に於ては、聯盟国が国際事件を実際に処理するに当り、此の神聖なる原則を遵守するの責に任ぜずして可なる儀にして、右は吾人の頗る遺憾とする処に有之候。従て実際政治の領域に於て、聯盟国の国民に対する差別待遇の結果、聯盟の根本的原則に反馳し、且つ又聯盟実現の見込を全然覆へさすが如き、望ましからざる事態を惹起する事例不尠次第に候。依て本邦協会は、来る可き聯盟総会に於て、之に参列する諸国
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代表者に於て、諸国民の相互関係に於て該原則を確定的に設定し、且つ最密に之を維持せしむるに至るが如き計画を建てられんことを渇望して止まざるものに候。
 次に理由の如何を問はず、委任統治状の未だに完結的に設定せられざるは、同じく遺憾とする処に有之候。本邦協会は委任統治状は、此後何等の遅滞なく門戸開放と機会均等主義の下に制定せられざる可からず、との強硬なる意見を有するものに有之候。
 斯る意見を以て本邦協会は日本政府に対し、政府が聯盟総会に提出せんとする各種問題中に、前記吾人の希望達成の趣旨を以て、此等諸問題を加ふる様陳情することに決定致し候。
 余は此の機会に於て、閣下に対し深厚なる敬意と貴協会の繁栄に対する祈願とを申し述べ度、此段得貴意候 敬具
           日本国際聯盟協会々長 渋沢栄一
    英国国際聯盟協会執行委員長
      ロバート・セシル卿殿
        外務大臣宛陳情書
 右と同時に外務大臣宛左の陳情書を提出せり。
 日本国際聯盟協会は、来る十一月十五日「ゼネバ」に於て開催せらるべき聯盟総会第一回会議に際し、帝国政府より提出せらるゝことあるべき議題中
 (一)人種平等案
 (二)門戸開放機会均等主義の下に、委任統治問題決定の件を加へられ、之れが実現を見るに至らむことを希望す
 依て之が達成の為め、帝国政府に於て最大の努力を吝まれざらむことを、玆に国際聯盟協会の決議として陳情す
  大正九年十月一日
             国際聯盟協会々長 渋沢栄一
    外務大臣 伯爵内田康哉殿
   ○右人種平等案ハプラーグニ於ケル国際聯盟協会聯合会第六回総会ニ於テ殆ド原案通リ可決セラレ、通商衡平待遇問題ハ委員会附託トナレリ。本款大正十二年二月十三日ノ条〔参考〕ニ収メタル美濃部達吉及ビ神川彦松ノ報告参照。