デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年3月1日（1924年）

是日、国際聯盟協会第八回聯合会総会ニ当協会ヨリ提案スベキ議題研究委員会、当協会事務所ニ開カル。栄一出席ス。

国際聯盟協会書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　拝啓、弥々御清穆奉賀候、陳者兼ねて本協会理事会に於て、来る六月仏国リヨンに開催せらるべき、国際聯盟協会聯合会第八回総会に対する本協会の提案中、通商衡平待遇問題・人種差別撤廃問題、其の他一括して審議する為め、山川・山田・林三理事特別委員に委任せられ尚、立博士・乾教授・高木助教授の三氏は、前回総会よりの関係上、
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又外務省より川島信太郎氏・松島鹿夫氏にも右委員会に列席を請ふことゝ相成居候処、右委員会々合は来る三月一日（土）午後四時芝公園内、協調会館第二号談話室に於て開催致すことゝ相成候間、御多用中誠に乍恐縮何卒御差繰御枉駕相仰度、此段御案内申上候　敬具
　　大正十三年二月二十日
　　　　　　　　　　　国際聯盟協会主事　加藤外松
　　　　（四字手書）
　　　　渋沢会長殿

（国際聯盟協会）会務報告　　第一九輯　自大正一三年三月一日至同年三月三〇日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　七、聯合会関係
○上略
一、聯合会に対する提案については、前回理事会の決議により、議題研究委員会を三月一日開催し、渋沢会長、阪谷副会長、山川・林・山田・立、諸博士、乾教授・高木助教授の各委員、外務省より川島・松島両氏会合、研究ノ結果、
　　通商衡平待遇問題については、別紙成案を得、直ちに発電せり
　　右は三月中旬、巴里に開かるゝ通商衡平待遇問題委員会に間に合す為めなり
　　人種差別撤廃の実行方法に関する提案については、先づ「人種平等待遇の意義及範囲如何」の問題を決することが必要であると認められ、山川理事之が研究を担当さる、従て本年度は未提出。
　　各国協会発行印刷物、並に情報の相互的交換を義務的とすることの提案は、異議なく決定
依つて右二つの提案は、詳細書面を以て杉村氏に送附せり

国際知識　　第四巻第五号・第一六三―一六五頁　大正一三年五月
　○東京だより
　　　　特別委員会の会合
　三月一日、聯盟協会事務所で通商衡平待遇問題の特別委員会が開かれ、渋沢会長・阪谷副会長・山川博士・林博士・立博士・山田博士・乾教授・高木助教授・加藤主事・川島参事官・松島事務官の十一人が会合し、第七回聯盟協会聯合会《（八）》に於て、本会の主張せんとする「外国商人商社の待遇問題」に関する案を討議しました。
　　　　本会の提案
　その結果、次の様な提案を在欧代表者に宛てゝ発送致しました。
　　Resolution 1. Without involving the immigration question, a member nation of the League of Nations shall apply the same requirements, for admittance to and departure from that country of the classes of people who fall within the commercial or mercantile group, irrespective of their origin or nativity.
　　Resolution 2. In the establishment of business, trade, occupation, profession or commercial, industrial, insurance
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or banking enterprise, foreign nationals, persons, firms and corporations shall enjoy the equal treatment as the native nationals or establishments of the like kind, it being understood that where exceptions are made by reason of public order or security they are to be applicable to all foreigners alike.
　　Resolution 3. Likewise in conducting or engaging in business, trade, etc. same as resolution 2.
　　　　新しい研究
　通商衡平待遇問題が、ともかく解決の一歩を踏み出したのは「本問題の意義及範囲」といふことを明かにしたのが初まりであつたので、人種問題に関しても、たゞ人種差別待遇撤廃を叫んだゞけでは、解決容易でないばかりでなく、異人種を支配する英米仏諸国は非常に怖れるし、殊に支那人が至る所で不等な待遇を受けてゐるのに対しても、抗議するやうになり、頗る事が重大になるので、「人種平等待遇の意義及範囲如何」といふことを研究しようではないかといふことゝなり、山川博士が之を引き受けられた。
　　　　恋は思案の外
　山田博士はアメリカで、或る州では日本人のアメリカ人との結婚を法律で禁止してゐて、其れが段々他の州にも広がらうとしてゐることを指摘せられ、渋沢会長も、それは人道上怪しからぬ話だとあつて、山川博士も「意義及範囲」を決定する上に、本件を考慮に入れらるゝことゝなつた。
　　　　第八回聯合会は六月リヨンで
　国際聯盟協会聯合会の総会は、六月二十八日頃から四・五日間、仏蘭西リヨンで開かれることになつたが、本協会からは、理事の井上準之助氏・杉村陽太郎氏の外、五名ばかり代表として出席さるゝ筈である、議題として決定してゐるのは、通商衡平待遇・移民少数民族・軍備縮少・宣伝・賠償・法律・国際銀行等の諸問題であるが、この通商衡平待遇問題は、日本協会の提案であつて、去年の総会で大部分通過し（国際知識大正十二年十二月号参照）残るは商人商社の衡平待遇丈けである。この総会に対し、本協会からは左の提案以外、新に各国協会発行印刷物及び情報の交換を、義務的とすることを提案する積りである。

国際聯盟協会聯合会第八回総会決議
　　　　　　　　　一九二四年六月廿九日乃至七月二日　於仏国リヨン市
（印刷物）
　　　　里昂の国際聯盟協会聯合会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　杉村陽太郎
　○上略　聯盟の諸問題中、我に於て最も重きを置き、極力我主張の貫徹に努めつゝあるは、通商衡平待遇の問題である。我国将来の発展は、平和の旗幟以外には之を索め得ぬ。而して我民族の世界的発展に対する最大の障碍は、彼の忌むべき差別的待遇である。斯かる不公正な措置は、大和民族の名誉の為め断じて之を一掃し去らねばならぬ。国と
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しては五大国の一に推され、個人としては有色人種と蔑視せらるる矛盾と不合理とを、何時迄忍び得べきか。
　聯盟国及聯盟国民等の大義を翳して驀地に突進すべき時機が来た。最早や躊躇してはならぬ。聯盟協会は此意味に於て、須く我平和戦の急先鋒を以て自任すべきである。乍去此問題は適用の範囲頗る汎く、又論議の題目も無数であるから、将来不断不休の努力を以て、一歩一歩我地歩の確保に努む可きである。
　通商衡平問題が、日本国民将来の死命を制すべき重大問題なるに拘らず、之に関して我朝野とも十分の理解を欠き、従来幾多の機会に於て、我代表者が悪戦苦闘した跡に付ても、何等同情ある声援なきやに察せらるるから、我協会としても此点に付、将来十分の宣伝に骨折つて貰ひ度い。　○下略

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