デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.5-28(DK370001k) ページ画像

大正15年1月20日(1926年)

是ヨリ先、国際聯盟協会聯合会ヨリ、近ク国際聯盟ガ招集スベキ国際経済会議ニ提案スベキ意見ヲ徴シ来ル。是日、当協会主催ノ下ニ、日本工業倶楽部ニ於テ、右ニ関スル懇談会開カル。栄一出席シテ座長トナル。


■資料

(国際聯盟協会)会務報告 第三四輯 自大正一四年九月一八日至同年一一月二〇日(DK370001k-0001)
第37巻 p.5-6 ページ画像

(国際聯盟協会)会務報告  第三四輯 自大正一四年九月一八日至同年一一月二〇日
                    (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    一三、聯合会関係
(一)国際聯盟協会聯合会理事会
 右は十月二十七日よりロザンヌに開かれ、杉村・稲垣・古垣・青木の四氏出席せられ、十月三十一日着電左記報告があつた。
○聯合会理事会に於て、(一)移民問題に関しては、英国側依然種々難色論議の末「ワルソー」聯合会総会に於ける決議の通り、更めて各国協会より修正案を提出(英国協会は夙に特別委員会に於て、修正案作成中なる由)来年六月の聯合会総会(「ドレスデン」に開催の筈)に於て再審議すること、(二)仏国より第六回聯盟総会に対して提案の経済会議を指導鞭撻する為、日・英・米・仏・独・伊・墺の七協会より世界経済救済に関する意見を来年一月末迄に提出し、二月の幹事会に於て取纏めの上、原案を作成聯合会総会に附議すること等、二十余件の決議を通過せり、右(二)は我平和的発展に重大の関係あるものなれば、外務省に必要書類御請求相成、篤と御研究の上、我方の意見成る可く早目に御通知相成度、尚詳細の点は後信に譲る、本電安達大使へも電報し置けり。
(二)国際経済会議に関しクエスチヨネール
 右に関し十一月十八日付、左記クエスチヨネールを適当の個人並に調査機関に発送し意見を徴した。
○拝啓、時下愈々御清穆奉大賀候、陳者去る十月下旬瑞西ロザンヌに開催せられ候国際聯盟協会万国聯合会理事会に於て、幾多決議せられたる事項中
  「仏国ヨリ第六回聯盟総会に提案せる国際経済会議を指導鞭撻するため、日・英・米・独・伊・墺七協会より経済救済に関する意見を来年一月迄に提出し、二月の幹事会(聯盟協会万国聯合会幹事会)に於て之を取纏めて原案を作成の上、来年六月独逸ドレス
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デンに開かるべき該聯合会第十回総会に附議すること」
 の一項あり、右は、我が国の平和的発展に重大の関係あるものなれば、本協会は我が国各方面の識者の熱誠ある後援の下に、本件に関する我対策につき御示教を仰ぎ、大体の原案纏りたる上、更めて各位の御会合を得て討議決定致度奉存候、御参考の為め去る九月二十四日第六回聯盟総会の決議訳文を、左に掲げ申候
  「――決議――
聯盟総会は
 世界に平和を樹立せしむべき、凡ゆる可能性ある方法を講すべき事を確く決意し、
 経済的平和が各国間の安全に貢献する処、大なるべき事を確信し、全般的繁栄の復活途上に横はる経済上の難問題を調査し、又之等難問題解決の最善なる方法を探究し、争議を防止する事の極めて必要なる事を認め、
 理事会に対し能ふ限り速かに広汎なる基礎の上に、一の準備委員会を組織する事の可否を考慮せんことを要請す、該委員会は国際聯盟の専門諸機関並に国際労働局の援助の下に、国際経済会議開催の準備事業をなすべきものである。
 国際聯盟主催の下に開催さるべき該会議の召集は、理事会今後の決定に俟つべきものとす。」
就ては特に
 一、国際経済会議開催の要ありや否や
 二、要ありとすれば、討議すべき議題の範囲並に性質如何
 三、右議題に対する日本の態度並政策
 尚、其他御気附の点に関し、出来得れば十二月五日までに、御高見御漏し願上度、用紙数枚封入此段得貴意候


国際聯盟協会書類(二) 【(印刷物) 拝啓、時下愈々御清勝奉大賀候、陳者昨秋九月廿四日…】(DK370001k-0002)
第37巻 p.6 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
拝啓、時下愈々御清勝奉大賀候、陳者昨秋九月廿四日第六回聯盟総会が国際経済会議の招集を希望決議し、本決議に基き聯盟理事会は近く国際経済会議準備委員会を任命することゝ存ぜられ候、さて一方国際聯盟協会国際聯合会は世界の輿論を換起《(喚)》し、該会議の成功を期せしめんがため、日・英・米・独・仏・伊・墺七国の聯盟協会に対し、夫々其の国に於ける国際経済会議に関する輿論を徴し、意見を提出することを要請し参り候、就ては本邦聯盟協会は来る一月廿日午後二時より五時迄、丸の内工業倶楽部に於て国際経済会議懇談会を催し、貴下初め各位の腹蔵なき御高見を拝聴仕度存上奉り候、尚其の折は井上準之助氏より該会議に関する御説明、並に御意見の開陳有之筈に御座候、仍つて公私御多用中恐縮の至に存上候得共、万障御差繰右懇談会に御光臨被下候様、御案内申上候 敬具
  一月十三日○大正一五年   国際聯盟協会々長
                   子爵 渋沢栄一
    (宛名手書)
    渋沢栄一殿

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渋沢栄一 日記 大正一五年(DK370001k-0003)
第37巻 p.7 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正一五年        (渋沢子爵家所蔵)
一月二十日 晴 寒
○上略二時工業倶楽部ニ抵リ、国際聯盟協会ニ於テ開催セル、聯盟会議ニ提出スヘキ国際経済問題ニ関スル評議会ニ出席ス、来会者五十余名ニシテ、原案ニ対シ各員各様ノ意見アリテ、談論数時間ニ渉リシカ、午後五時頃ニ至リ閉会シ、本日ノ協議会ニ於ル各員ノ名論卓説ニ拠リ更ニ原案ヲ作成シテ、他日或ハ再会スヘキ事ヲ告テ、各員出席ノ労ヲ謝シテ閉会ス○下略


社団法人国際聯盟協会会務報告 大正一四年度 同協会編 第六頁大正一五年四月刊(DK370001k-0004)
第37巻 p.7 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 大正一四年度  同協会編
                       第六頁
                       大正一五年四月刊
    (三)委員会
○上略
○国際経済会議懇談会(一月二十日○大正一五年)工業倶楽部に於て開催渋沢会長座長となり、井上準之助氏より、該会議の性質に関する説明あり、来会者七十名、夫々意見の発表があつて、国際経済会議に対する、吾が国の要望する所が奈辺にあるやを、明かにすることが出来た。


国際聯盟協会書類(二) 【 案 (一)移民問題 移民問題ニ近ヅク方途ニ関シテハ…】(DK370001k-0005)
第37巻 p.7-8 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)           (渋沢子爵家所蔵)
    案
(一)移民問題 移民問題ニ近ヅク方途ニ関シテハ多々アルベキモ、例ヘバ「労働ノ需給ヲ純経済的立脚地ヨリ全世界ニ調節スル為メ、根本的調査ヲ為ス」コトノ如キハ、最モ此ノ問題ニ近ヅクニ容易ナル途ナルベシ
(二)原料問題 国際経済ヲ発達セシメ、産業ノ能率ヲ増進シ、人類ノ共存共栄ヲ図ル為メニハ、天然資源ノ開発利用ニ付テ、成ルベク領土的観念ヲ去リ、就中原料品ノ輸出入ハ一般ニ之ヲ自由トシ、且国ニ依ル差別的措置ヲ採ラザルコト緊要ナリト認ム
(三)各国ハ関税上ノ差別待遇廃止ヲ約スルコト 関税ノ障壁ハ各国間ニ於ケル物資ノ自由ナル移動ヲ妨ケ、需給ノ均衡ヲ失ハシメ、関係国ノ国民生活並ニ経済的発展ヲ阻害ス、殊ニ関税上ノ差別待遇ハ啻ニ吾人ガ有スル衡平ノ念ニ反スルノミナラズ、動モスレハ関税戦争ヲ惹起シ、関係国ニトリ不利ナル結果ヲ来スヲ常トス、故ニ吾人ハ理想トシテハ、各国ハ一定ノ従価率以上ノ高税ヲ課ササルコトヲ約スニ至ランコトヲ望ムモノナレドモ、実施上種々困難アルベキニ付、少ク共各国ハ複関税制度ヲ廃止シ、及税率協定ヲ為シタルトキハ、何レノ国ニ対シテモ之ヲ適用シ、且此趣旨ヲ植民地ヲシテ実行セシムルコトヲ約スベキコトヲ提議ス
(四)為替及通貨ノ問題 現下国際為替ノ不安ハ、通商貿易ノ一大障礙ナルヲ以テ、之ガ安定ヲ図ル為メ、各国相協力シ、就中為替低落ニ苦メル諸国ハ速ニ財政ノ均衡ヲ図リ、不換紙幣ヲ整理シ、以テ国内状態ノ基礎ヲ改善スルコト急務ナリト認ム
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(五)聯盟ノ専門機関ニ於テ研究中ノ事項 財政経済委員会、其他ノ聯盟専門機関ニ於テ研究中ノ財政経済ニ関スル問題ハ、「サー・ヒューバート・レウェリン・スミス」ニ依リ指摘セラレタルガ如ク、多年専門ノ智識ヲ有スル委員会ニ於テ研究ヲ重ネ、尚且解決ニ至ラサルモノナルヲ以テ、之ヲ忽如国際会議ノ議ニ附スルモ、何等益ナキカ如クナレトモ、問題ニヨリテハ已ニ研究ノ結果熟シ、今ハ各国政府ノ決断ヲ待ツノミナリト認メラルルモノアリ、又少数ノ専門家ニ依リ構成セラルル委員会ト、大規模ナル国際会議トハ、自ラ其観ル処ヲ異ニスルヲ以テ、已ニ専門機関ノ研究ニ着手セル事項ト雖モ、適当ナルモノハ之ヲ国際経済会議ノ議題トナスコトヲ提議ス
(六)露・米ノ加入勧誘 米・露両国ノ参加協力ハ、本事業ノ成功ノ重大要素ナルガ故ニ、且、両国ハ従来トテモ、聯盟ノ各方面ノ事業ニ参加セシコトアル関係上、今回ノ事業ニモ、是非共参加センコトヲ希望ス
(欄外別筆)
  本案ハ、国際聯盟協会ノ原案トシテ協議ニカケタルトコロ、大分批評アリ、中ニハ攻撃的口調ヲ以テ論スルモノモアリ、又自国ノコトヲ顧ミズシテ、徒ニ他国ニ難キヲ求ムルモノニアラズヤ、ト云フモノモアリ、結局何等纏ル所ナク、午後五時過散会シタリト云フ


国際知識 第六巻第三号・第一一四―一三五頁大正一五年三月 国際経済会議懇談会記事(DK370001k-0006)
第37巻 p.8-28 ページ画像

国際知識  第六巻第三号・第一一四―一三五頁大正一五年三月
○国際経済会議懇談会記事

図表を画像で表示国際経済会議懇談会記事

  本協会は、国際聯盟主催にて将に開かれんとする世界経済会議に対する、我が日本の提案に就て審議するため、去る一月二十日正午より、東京丸ノ内工業倶楽部に於て懇談会を開いたが、当日は我国朝野の名士、各方面の専門家等多数来会、頗る盛会を極めた、玆に掲ぐる記事は、当日一場の意見の開陳あつた井上準之助氏の講演の筆記、並びに懇談会に於ける諸氏の意見の筆記である。(在文責記者) 



    世界を挙げての経済不安を除去すべき
      国際経済会議に対する所感
                   井上準之助氏講演概要
 昨年九月の聯盟総会に於て、仏蘭西全権ルシユール氏によつて提案された国際経済会議開催案が、今や列国の間に注目の的となり、我国に於ても関係方面に於て、此問題に対する研究を進めつゝある事は、洵に喜ぶべき現象であると思ひます。私は玆に日本経済聯盟に関係して居る者の一人として、今日此席に罷り出で、該会議に対する卑見の一端を簡単に述べてみたいと思ひます。
 此の会議の目的が一言にして申すならば、現在世界の経済不安を救済し、秩序ある産業状態を確立するにある事はもちろんであります。唯此の会議が果して如何なる程度までの討議を進めるかは、未だ判明して居ないやうでありますが、少くとも現在の無政府主義的国際経済
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状態を、何とかして匡正しやうといふ目的の下に、各国が協議を進めるであらう事は、想像に難からざる所であります。
 惟ふに戦争の原因には、或は政治的方面、又は人種的方面・宗教的方面等幾多ありませうが、就中近代戦争の最も大なる誘因となるものは、各国の経済的衝突であらうと思ひます。
 例を最近の事実にとりますならば、彼の欧洲大戦の如きも万人周知の如く、実に英・独二強国の経済的帝国主義反噬の結果、惹起されたものでありまして、其他表面は宗教戦争・人種戦争の如く見ゆる場合でも、その真因を探ぐれば経済的利害関係が、多くの場合に於て戦端を招致するものであります。
 然らば右の事実を前提として、大戦後の欧洲の状態は如何でありませうか。いふまでもなく英・独の産業争覇戦の衝突が、あの大戦を誘発せしめた位でありますから、戦前と雖、欧洲の天地には陰惨なる不安の低気圧が低迷して居つたのであります。此の空気が戦争によつて層一層悪化したのだから、経済界は不況の深淵に沈淪したのであります。
 ヴエルサイユ条約により平和克復となり、各国とも千戈は収めましたものゝ、戦争によつて極度に荒廃された経済界には、依然として光明を見出す能はず、剰へ戦後の空気は戦前にも増して反動傾向を帯び高率なる関税障壁を設けて、競つて経済上の国家主義を採りつゝある有様でありますから、此の趨勢を此儘に放任して顧みないならば、容易ならぬ事態を欧洲否世界に齎さないとは、何人がよく断言し得ることでせう。国際経済会議は、実に此の重大なる結果の発生を未然に防止し、有無相通づる世界経済をして、より円滑に順調に運転せしめんが為に提案された事と、私は信ずるものであります。で、次の如くルシユール氏の提案が修正されて、聯盟総会が之を満場一致を以て可決したのであります。
  ○中略。決議ハ前掲。
 右の決議案を一読しても分る通り、兎に角世界の平和を招来するに就ては、先づ経済的平和が最も肝要な事は申す迄もありません。それでありますから世界の復興の途中に横つて居る経済上の妨害といふものを調査して、其に解決を与へる所の最善の策を考へ出して行かう、それで理事会に対しても能ふ限り広汎な基礎の下に、準備委員会を組織する事の可否を考慮するやう要望するといふ事であります。
 此の会議の開催に就ては、何人もその必要を認めて居るであらう事は云ふ迄もありません。今日の世界の経済上の紛争を此儘に放任して置くわけには参りません、兎に角世界的の経済会議を開いて、是が救済案を立てるといふ事は、目下睫眉の急務であらういふ意見は、何人にも多いのであります。唯其間に於きまして、之に対して種々と反対の意味の質問を為す人もあります。例へば今日の国際間の経済関係は非常にデリケートになつて居るから、若し会議を開いて腹蔵なき討議を闘はす時には或は却つて悪結果を来しはしないかといふやうな議論で、之などは英国のセシル卿が主張して居るやうであります。加之或る国と国との経済上の関係に、他国が容喙して極端な干渉をしたなら
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ば、却つて一層の不安定を見るに至るだらうとまで申して、頻りに注意して居るやうなわけで、此の会議に対して悲観説を唱へる人も、ずいぶんあるのでありますが、併し乍ら国際聯盟の立場から見ると、例へば墺太利・匈牙利の財政復興をやつて、立派に成功して居るのでありまして、之等は即ち経済上非常に困難な問題を、聯盟が取扱つて解決した証拠なのであります。然る以上は方法によつては、此の経済会議も必ずしも無効だとは思はれません。之は恐らく提案者自身の意志であらうと思ひます。此の会議に似通つた会議には、毎年一回づゝ華盛頓に開く南北両米の財政及商業上の会議とか、或は過般開かれたブラツセルの財政会議といふやうなものがありますが、之等は皆相当に経済問題の解決案として役立つて居るのであります。ブラツセル会議などでは、決議の一ケ条に世界に於ける通貨膨脹の弊害を強く唱いて居るが、これなどは世界経済界に警告を与へる意味に於て、非常なる効果があつたのであります。それから国際労働局の人が労働者の立場から見て此会議の必要なることを申して居りますが、その中で最も強く唱へて居る点は、故ウイルソンの十四ケ条の中の一ケ条であつて、是は世界の貿易上に横はる障碍を除去することが、世界平和を招来する上に必要不可決なものであるとの宣言であります。が唯玆に一つ申上げて置きますが、聯盟の中には既に経済委員会といふものがある。之が今日まで経済上の問題は、始終研究をして居るのである、其上に経済会議などを開く必要がどこにあるか。といふ様な意味の事を議論した人もある、結局斯かる議論は葬り去られて、此会議を開くことになつたやうに聞えて居ります。
 それから其会議を開きます範囲、どう云ふ問題を此会議で取上げて議論するであらうか、そう云ふ事に付きましては、先刻も申しました如く提案者は、非常に広汎なる基礎の上にと云ふ事を決議の一ケ条に唱へて居ります、併乍ら其決議を提案した人も、問題の選択に付いては非常に注意を要することである。解決の出来悪い様な問題を出して来ては、此会議を開いても殆ど役に立たなくなる。それであるから、問題を出す場合には、非常に注意して欲しいと云ふことを呉れ呉れ言つて居るのであります。それから提案者自からが問題が未だ熟して居ないもの、或は国際的でなくして或る国と国との間丈けに限つた様な問題は、此中から取除くべきものだと云ふことを言つて居ります。其問題を具体的に申すと、即ち此の会議の範囲に属せざるものとして出して居りますものは、各国の貸借関係、此問題は国際経済会議に出すべきものでない。それから第二の問題としまして移民問題は除くべきである。玆に二ツの取除きを提案して居ります。之に付いて色々議論がありました。尤も問題其物は具体的には論じて居りませぬが、色々の人の口調語気から判断致しますと、此の問題を選択するのは、非常に是は微妙な問題である。例へば原料供給、之に付いて経済会議で協定して、之を議論して行つたならば、非常にデリケートな問題と言はなければならぬ。是は英吉利の代表者が言つて居ります。是は国の立場からして止むを得ぬのだらうと思ひますが、さう云ふことを言つて居ります。も一ツは資本と労働との間の問題、之を此会議に於て議論
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される様な事は仲々容易ならぬことであらう。斯う云ふ様な事を特に申して居ります。其上にいろいろな問題もありますが、私が玆に必要と思つて記憶して居りますことは、先づそう云ふことを具体的に申して居るのであります。
 それから此会議の性質、所謂会議に於てきめた決議の効果と云ふものは、どんなものか、之等を考へて見たいと思ひます、私は丁度其日本語の適当の翻訳を知りませぬが、此コンフエレンスには必ず、実際(リーヤル)と云ふ字が付いて居ります。実際のコンベンシヨンは間違ひだ。斯ふ云ふことを云つて居る。
 即ち此コンフエレンスと云ふものは、一種の会議である、其会議の決議が各国政府を約束するといふことはない、と云ふことになるのであります。即ちもう一度言葉を換へて申しますれば、此会議で種々な決議をして、そうして其議決は其関係上政府及び個人に対して、一の忠告と云ふことになるだらうと思ひます。それを説明致しますと、仏国の代表者の説明の中に斯う云ふことを申して居ります。此会議には種々様々の原則が樹立されるに違ひない、そして出来上つた原則が実際に応用されるに至る道程になるのが、此会議であると、斯う云ふことを申して居ります。即ちもう少し具体的に申すならは、製造家が会議を開いて、そして製造と消費との間の調節を計ると云ふやうなことは、必ず出来ると思ふ。即ち提案者から申しますと、此コンフエレンスでは原則だけ決議して、之を実際に応用すると云ふ場合になつたならば、関係国の製造業者が寄つて一つのコンベンシヨンを協定して行く、そうして行つたならば製造と消費との間の調節を計ることが出来るだらう、と云ふやうなことを申して居るのであります。即ち抽象的に申しますと、現在の経済上に不安を来たさしめて居る誤つた政策を匡正して、其に対する救済策を拵らへて、さうして世界全体の平和を保つやうに一般方針を示す、之が此コンフエレンスの特質であるとは思れます。随つて例へば条約文になつて各国を拘束すると云ふやうなことは、全然想像して居らないやうに考へられるのであります。
 以上甚だ簡単に要を得ないことを申上げましたが、終りに私は今日の経済上の不安をジツト眺めます時に、此国際経済会議なるものは、非常に必要な企だと考へるのであります。もとより経済問題は、非常に複雑な問題でありますから、今度の会議でもつて、直ちに世界の経済不安を救ふやうな、名案が出来上るとは思ひませんけれども、少くとも大戦後の世界には、所謂インターナシヨナリズムの空気が、漸く充ち充ちて来たことは事実であります。で、なります事ならば各国が共同して、経済の不安定な原因を取り除くといふ決議を作り出すことも、さして困難でもありますまい。然らば此の会議にはどういふ問題を、日本から提出したらよいか、之はいづれ後刻皆様の間からも御意見があることではありませうが、私の意見として玆に一・二申上げるならば、不当なる先づ関税障壁の撤廃を、日本は率先して主張すべきであらうと思ふのであります。今日の世界の経済上の不安といふ現象は、何から来るかと申しますと、其は即ち各国が徒らに経済上の国家主義エコノミカル・ナシヨナリズムを行つて居る、之から惹起される
 - 第37巻 p.12 -ページ画像 
のでありまして、無暗に関税を引上げることであります。
 今日は世界中を通じて関税戦争であります。私に言はせると不当な関税戦争をして居るやうに思ひます。此会議の中で白耳義の代表者は自国の状態を批評して居りますが、戦争前何十年か前には白耳義は百姓の国であつたが、今日は工業国になつて居る、工業国を以て立つて居る。此小さい白耳義は今日の如く、各国の関税戦争があつては迚も国が立行かないと云ふことを頻りに述べて居ります。是は工業の発達した白耳義であつて、工業の発達しない所の、工業を発達せしめると云ふ国に於ては、皆関税を上げて自国の工業を保護して居るのでありますが、如何にも私は今日の関税と云ふものは、不当に引上げられつつあるので、自国の工業を保護すると云ふ程度を超へてしまひまして寧ろ各国の間の経済戦争と云ふものが、日に益々深酷になりつゝあるやうに思ふのであります。所謂道理を超へて居るやうに考へるのであります。私は今度の経済会議には此点に最も力を尽して、各国共調査をして行かれるやうに希望する者であります。日本の政府の政策から申しましたならば、斯様な提案を致しますことは、或は日本政府の政策とは違うか知らぬ。併ながら、此頃タツフレーとか云ふ人の、世界のレコンストラクシヨンと云ふ書物を読んで見ますと、夫れにも同じやうなことが書いてある、戦争後各国共、非常に人民の負担は重くなつて居る、政府は巨額の公債を負うて居るし、其為めに人民は戦争前に比較して見ると、重い租税を負担して居る。然るに世界の商売はうんと減つて居るではないか。あの戦争が始まつてから、此世界の商取引はうんと減つて居る。此重大なる債務を負うて、さうして取引が減つた。即ち利潤が少くなつた。是れでは国民は此債務を償却することは出来ない。それであるから、此各国の関税を止めることを主張しなければならぬと云ふと、誰もそれは尤もだと言ふ。併ながら、自分の国が他に先んじて関税を引上げることは出来ない。人がやるから自分もやらうと云ふことになつて来る。今度日本で綿糸の関税を上げると云へば、印度では日本から来る綿布の輸入税を上げやう。斯く云ふことを計画して居ります、実際的に現はれるのは困難か知りませぬが、世界の国が皆さう云ふやうになつて居ります。そういふ事情から見ても、今日の不当な関税戦争の原因と弊害を此経済会議で調査し、之が救済案を立てることは、外国といはず、日本といはず、文明国民の睫眉の急務でなからうかと考へます。私の話しは先づ此位に致してをきます。
 諸氏の意見開陳
◇志立鉄次郎君 此会議は何時開くのか、又各国からの提案はどんなことになるのでありませうか。
◇井上準之助君 此四月に開くことと思ふ。各国の提案に就ては今の所不明であります。
◇志立鉄次郎君 或る報告には九月にドレスデンに於て開くと云ふことでありますが、間違ひですか。
◇井上準之助君 それは聯合会の間違ひであります。
◇会長(子爵渋沢栄一君) 井上君の今縷々御述べになりましたこと
 - 第37巻 p.13 -ページ画像 
は御了解を得たらうと思ひます、それに付きまして御意見のある所は御腹蔵なく御発議を願上げたうございます。
◇田中貢君 一寸伺ひたい、今の御説明に依つて欧羅巴に於きまして此会議が非常に必要だと云ふことは能く分りましたが、日本が此会議に加はるのはどう云ふ効果があるかと云ふことを少し承はりたい。
◇井上準之助君 私の甚だ浅薄な意見になりますが、唯今申しました如く私が主張したいと思ふ関税の如きものは、是は殆んど各国共今日に於ては経済上の必要から割出すのでなくて、人が上げるから俺も上げやうと云ふ感情的といつてはおかしいのでありますが、例へば唯今の印度のやうなことも疾うからの問題であります。日本から来る綿布に対して税を上げやうと云ふことはありましたが、併し御承知の通り夫れが出来ずに居りました、所が今度日本で関税を上げやうとすれば直に其問題が起つて居る、事情は全く突発的ではありませぬが、多少必要でない所でも人が税を上げればこちらでも上げる、所謂関税戦争と云ふものが直ぐ行はれて来るのであります、此関税の問題と云ふものが唯今問題になつて居る、独逸と日本との関税問題と云ふものは如何にするかと云ふことに付いては、日本としても又欧羅巴に於けると同じことと考へます。
◇田中貢君 此問題に付いて、日本と一番取引の多い国、支那・印度・亜米利加の如き、皆是れに加はるでありませうか。
◇井上準之助君 それは亜米利加の加入は希望致しませうが、御承知の如く国際聯盟に亜米利加は這入つて居りませぬ、支那は這入つて居ります。
◇添田寿一君 唯今井上君の御話の通りで尽きて居りますが、実に日本として此問題は余程大事なものでありますので、もう少し補足して置きたいと思ひます、御承知の通り日本の経済上の根本問題は、此人口問題とそれから所謂、国の産業、製造工業に於て輸出の増進と云ふことに、全力を傾倒しなければならぬことゝ思ふ、さう致しますれば玆に御参考に御覧に入れてありまする案の中にもございまする移民問題、是はどうしても世界の輿論の力と云ふものを借らなければ、完全に日本の希望するやうな解決はむづかしからうと思ふ、それから産業製造業と云ふ上から見ますれば、日本の貧弱なる原料供給地としての国情から申しますれば、之を広く自由に世界到る所に求めると云ふことが許されぬければ、第一日本の製造工業の発達と云ふことは、望む可らざることであると云ふ所から致しまして、此二に原料問題と云ふものを御参考に掲げて置きました、而して次に其製作します物の上から見ますれば、関税の問題が非常に大切な事であります。関税の障壁でそれを妨げられます時に於きましては、如何に其他の点が満足なる解決をしても、到底完全に目的を達することは出来ないと思ひます。此の如き点を挙げましても、日本は殊に此問題に付いては力を入れなければならぬと思ふのであります。而して一体此国際会議に於きましては、御承知の通り大国の為めに、小国の利害と云ふものが余程圧迫されて居ります。其間に日本と云ふものが、非常に努力を致すと云ふことは、多数の小国の期待して居る所であります。詰り私は甚だ素人
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ではございますが、是は日本ばかりの問題ではないと思ふのであります。それで最後に申上げて置きますのは、井上君から極く簡略に概括的の御話がございましたから、私が底を打明けて露骨に申上げますと此移民問題・原料問題・関税問題と云ふものは、産業的国民主義若くは之を大きく言ひますれば、帝国主義と云ふものが其威を振ひまする場合に於きましては、必らず世界の平和は破れる、其時に最も害を被むるものは何処であるかと云ふと、私は日本であらうと思ふのであります。
◇田中貢君 能く分りましたが、今の仏蘭西の提案でありますか、移民問題は不適当と云ふ御話がありましたが、第一此原料の問題も不適当と云ふ英吉利の説もあつたやうに聞きましたが、さうすると今の移民問題・原料問題は、日本として適当・不適当に拘はらず出すことになるのでございますか。
◇添田寿一君 それが即ち今日皆様に御集まりを願つた所以であります、皆様が必要だと云ふことであれば、如何なる問題でも進んで出すことに致したい。
◇田中貢君 もう一つ伺ひたい、此会議で原則を定められました後に於て夫れを応用する、それに付いては日本、東洋・南洋諸国と別に会議をするやうなことが予想されて居りますか。
◇井上準之助君 それは其提案者が今のコンフヱレンスの性質を説いた所でありまして、提案者はさう云ふことを想像して居る訳であります、其中に一寸突発的の議論ですが、一番御仕舞ひの議論に斯う云ふことがあります、仏蘭西では麦を九千万カンタルと云ひますか、夫れ丈け要る、一カンタルは百ポンドに近い、然るに八千万カンタル程仏蘭西で出来るが千万カンタル程輸入する、然るに其千万カンタルの輸入する麦に依つて、総ての麦の値段か仏蘭西では極まる、さう云ふやうなことは不都合だ、斯う言つて居る、それは一つの例で、唯今言ふことに当嵌まるかどうか知りませぬが、先生達はさう云ふことを考へて居る。さうすると製造業者と消費者との間に、さう云ふ会議を仮りに開いたとしたら、もう少し物の値段と云ふものゝ調節が出来るだらう、僅か十分の一に足らぬものを輸入する為めに、全体の其国の製造物が皆其値段に均霑して、高くなることは不都合ではないかと云ふのであります、日本などにそんな例は沢山あります、僅かなものを輸入した為めに、日本で余計出来るものが、其値段に総て均霑すると云ふ不都合は、消費者の側から言ひましたならば、是は非常な国としては重大問題であらうと思ひます。其話が何とか出来るか出来ぬか知りませぬが、兎に角むづかしい問題です。さう云ふものを拾ひ上げて、何か之に救済案を与へると云ふやうな決議をして見ても、そこに相当の効果はあるだらうと考へるのであります。
◇浅利順四郎君 先程井上さんの御説明になつた関税の問題、及び添田さんの御話になりました移民問題、是は非常な大事な問題であります、殊に我日本の国から提議する問題と致しましては、どうしても移民の問題は提出しなければならないものではないかと私は思ひます、先程井上さんの御説明の中にあつた仏蘭西の代表者、其同じ代表者の
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言葉だらうと思ひますが、其中に移民の問題は、経済の問題から離すことは出来ないと云ふことを申して居ります、随つて仏蘭西あたりにも矢張り此移民問題は、どうしても経済の問題を論ずるに当つては、議論しなければならないことゝ考へ居る人があるやうに見受けます。所が私の考に依りますると、関税の問題に致しましても、又移民の問題に致しましても、単に此関税の問題のみ、或は移民の問題のみを解決すると云ふことは、困難なことであつて、其根本となって居る問題即ち労働者の保護に関する労働者の取扱の比較的公平を得ること、即ち大体同じやうな生産状態で、総て生産すると云ふことが実行せられなければ、此関税の問題も移民の問題も解決は出来ない、例へば亜米利加に於きまして、日本の移民が往々にして排斥せられると云ふことは、非常に困つたことである、又非常に之は憤慨に堪へぬことでありますけれども、一面に於ては矢張り此日本の労働者の生活状態、或は労働条件と云ふものが非常に劣つて居ると云ふやうなことが、矢張り此移民問題に直接関係のあることゝ思ひます、単に此移民・関税と云ふやうな問題ばかりを取つて放して論ずることは困難である、今申しました如く仏蘭西の代表者も、移民問題は経済の問題と離してはいけないと云ふことを申して居ります、又此経済の問題と云ふものを、一般的に議論しやうとするならば、どうしても国際的の労働条約の問題と離しては論ずることは出来ない、と云ふことを申して居ります、唯其経済会議の提案者たる仏蘭西の代表者でありますが、此経済問題を論ずる為めには、どうしても労働問題を離しては出来ない、さうして彼は丁度、幸なことには此国際労働機関たる国際労働局と云ふものが此労働者と資本家の問題を取扱つて、長年の間いろいろ研究してやつて居る、それ等に依つて此一定の労働に関する国際協定と云ふものを拵へまして、さう云ふことを考へてやるのが宜くはないかと云ふやうな意味を述べて居りますが、先程の井上さんの御話のやうに、労働者と資本家との問題を国際経済会議の議題とすると云ふことは不適当である、と云ふことは私もさう思ふ、直接に労働問題を議するは、不適当と思ひますが、併ながら関税問題・移民問題と関連して、労働の方面に於て極められて居る、労働者の保護に関する国際協定と云ふ問題をば考へて見なければ、単に移民と云ふものに付いての制限を撤廃せよ、関税に関する制限を撤廃せよと申しましても、其事情が国と国とに依つて違つて居る、一つには各国が自己防衛の為めと云ふこともあるから仲々一概に行くものではない、それ故に日本には日本の国情に適ひ、又日本の国の風俗習慣に適する労働条件と云ふものを考慮する必要があると思ひます、それで此原案を御討議になる時には、さう云ふ方面からも一つ御考慮を願ひたいと思ひます。
◇志立鉄次郎君 私は国際聯盟協会の会員の一人と致しまして、此今日の懇談会を催されたことを深く喜ぶ者であります、就きまして聊か賛成の意を表して置きたい、と申しましても、別に新しい意見の持合せもございませぬ、大体に於て井上君の御説明を裏書するに過ぎませぬが、此国際聯盟の生れました趣旨は、言ふ迄もなく唯今説明にもあつた如く、ウヰルソンの十四ケ条の中にも書いてありまするし、又国
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際聯盟規約の二十三条と思ひますが、其中に各国経済上の自由、近頃用ひられる衡平会議、ヱクイテブル・トリートメント・オヴ・コンマースと云ふ言葉が出て居ります。其精神を以て各国間で経済の協調を造つて、世界の平和を保ち、人類の幸福を進めやうと云ふ所から出発して居りまする、之を具体的に云へば、詰り此自由享楽主義と云ふものを復興し実現しやうと云ふ意味であると思ひます、然るに御説明の中にもありました如く、欧羅巴戦争後今日に至る迄の傾向は、却つて反対の状態を続けて来て、各国が関税の障壁を高くして、却つて其精神に反するが如き状態でありまする、併ながら私の甚だ卑見で失礼でありまするが、私共が考へますると云ふと、是は一時的の現象ではないか、戦争中並に戦後の復興と申しますか、恢復と申しますか、其傷を癒す為めに拠所なく、斯う云ふ状態を実現したのでありまして、例へば玆に一例を申しますれば、チエツコスロバキヤの如きは、非常に経済上に於て保護主義を採ると云ふ事柄は、同情に値する所であると考へます、国として立つ、今迄隷属国であつたものが今独立国となつたる場合、さう云ふことは止むを得ないことゝ考へます、併ながら此チエツコスロバキヤの大統領の談話にも、此人は人物頗る公正の性質の人と見えまして、其根本の意見と云ふものは何処迄も自由になる、自由主義になることは疑ひないと思ひます。又最近の国際間の事実に照して見ましても、私の申上げることは嘘ではなからうと考へます、例へば仏蘭西・独逸の関係を見ましても、平和条約の際には迚も今日のロカルノ調印が出来ると云ふやうなことは想像だもし得なかつたのであります、独・仏の関係が良くなると云ふことは、五十年待たなければならぬと云ふ事を其時仏蘭西側では考へて居つたのでありますが今日は図らずも保障条約で解決せられたと云ふやうな訳であります、案外国際間に事が起らうと云ふことは、心配することはなからうと思ひます、それで幾らでも例を挙げますればありますけれども、長くなりますから省きまするが、年一年と世界の人が段々実際の平和をやらうと云ふ意志が強くなつて居る、先刻井上君の御読みになりました今度の国際経済会議にしても、真に平和と云ふ意志がなくては到底世界の平和は保てるものでない、其意志のあると云ふことが最も大切である、是が出発点であるが、夫れが年一年と明かに確になりつゝあるやうに考へるのであります、又経済的に日本の立場から考へまして、私日本の立場として最も此自由貿易主義を鼓吹することが、利益であると考へるのであります、日本は天然資源に乏しい国である、だから日本としては原料豊富な国に対して、今後開放して自由主義を採ることが利益である、それが今日は政治家も考てをりませうけれども世界の大勢に捕はれて遺憾ながら其方法を採つて居らぬ、今や世界の大勢は自由の方に傾きつゝある、此際に日本としては此自由の主義、即ち国際聯盟の生れました精神、又其規約の精神と云ふものに依つて、通商貿易の自由を高唱することが最も利益である、又会議に参加して此世界の今迄の誤まつて居る傾向を矯正する意気組を示すと云ふことは、最も希望する次第であります、此一々の問題に付きましてはいろいろ意見もございまするが、詳しく申上ぐると時間を取りますが、私も矢
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張り井上君と同様に原料問題に重きを置くのであります、次に移民問題と云ふのがありまするが、それは余程デリケートな問題でありまして、それには私は立入りたくない、専ら原料問題並にそれに関連した関税問題に力を致すことを希望するものであります、其趣旨は唯今申上げました通りであります、要するに此際経済会議の開かれることを喜びまして、本会に於て懇談会を開かれたことに賛成を致し、どうか此上は本会に於て幹部の方でもう少し具体的の案を立つて、御送りを願つて、さうして更に一つ懇談会を御開き下さることにしたら如何でありませうか、大体の御趣旨を賛成して一言卑見を述べました次第であります。
◇添田寿一君 今日御覧に入れましたのは唯斯う云ふ風の問題もございませうかと云ふ御参考に過ぎせまぬ、何れ志立君の仰せの通り案を作つて、理事会其他で協議の上で決定する積りであります、そうして案を作りますのであります、今日は幸ひ皆様の御集まりでございますから、皆様から腹蔵なき御意見を拝聴したい、斯う云ふ趣意であります。
◇高橋亀吉君 段々御意見を伺ひましたが、今添田さんの御話に大体斯う云ふ案であつたらと云ふことでありますが、愈々此案を極めます際に是非考へなければならぬ問題は、沿岸航路の問題であると思ひます、例へば原料問題、関税の差別的と云ふことに致しましても、沿岸航路と云ふことに付いて制限を置かれるならば、其方から原料其他に対して差別的待遇をすることが可成りあると思ふ、現に私も記憶して居るのでありますが、或はそれは違つて居るか知れませぬが、日本へ印度から持つて来る棉花の如きも、或は亜米利加からもさうであるか知りませぬが、少くとも印度から持つて来るものは、其生産地で直接に積込んで日本へ持つて来れば、今より余程運賃が安くつく、それが沿岸航路禁止の為めに、或る港迄行かなければならぬ、さうして始めてそこで日本の汽船に積込むと云ふ訳でありまして、運賃は非常なハンデキヤツプが付くと云ふ訳である、其他沿岸航路の禁止と云ふ方法に依つて、非常な不利益な結果を見て居るのであります、それで其精神から云へば是非、沿岸航路の自由と云ふことを付加へて置きたい、さうしないと全体の趣旨が徹底しないと思ひます、もう一つは先刻浅利君から御話がありましたが、私も此移民問題・原料問題・関税問題に対しては、提案することには賛成でありますが、併ながらもう一つ労働問題の方から、もう少し考へて見たらどうかと思ふのでありますそれは現に労働協会の方へ、御承知の如く労働者の待遇と云ふものを各国共均等にする協約がある、併ながら実際を考へて見ますると、労働者の待遇を均等にしやうとするにはどうしても其国の原料問題、或は其国の人口或は関税問題と云ふ方に、均等の待遇を受けないと、労働者の待遇を均等にしやうと云ふことは無論出来ない、既に国際聯盟に於て労働者の取扱を各国が均等にしやうとすることを決議しました趣旨から申しますれば、各国が其決議を実行しやうとすれば、どうしても移民に於て原料に於て販路に於て、均等の取扱を受けない限り、どうしても労働者を均等に扱うことは出来ない、既に国際聯盟で決議
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して居る其決議を実行させる為めには、是非共斯く云ふ方面から均等に取扱をしなければならぬと云ふことを、何処かに付加へて行かなければならぬ、又此日本の労働者の待遇が悪いと云ふ各国から非難もあるが此日本の労働者の待遇を向上する立場からも、是非さう云ふことが必要である、此労働問題賃銀の均等と云ふことは、移民問題・原料問題・関税問題、是等を十分に考へて問題を解決するより仕方がない其中の一つ丈け解決しやうとしても、到底出来ないと思ふ、其立場に於て此案が若し主張が出来れば、もう少し有効になりはしないかと考へます。
◇井上準之助君 一寸申上げますが、先刻から労働の問題を提案されるやうな御説が大分ありますが、此頃私が見たり、聞いたりした所では此経済会議には、必らず経済上の立場から考へて、労働問題が出て来るだらうと思つて居ります。それはどう云ふことから出て来るかと云ふと、御承知の通りドーズ案が極まりましたから、独逸は三十億金貨馬克を……今年は十億です、六ケ年後から払はなければならぬ、斯う云ふことの為めに、労働規則で極めました八時間制度を守ることが出来ぬ、斯う云ふことになつて居る、即ち八時間働いて居つたのでは三十億金貨馬克と云ふやうな金を外国に払うことは出来ない、どうしても八時間制を守ることは出来ない、即ち労働賃銀を安くして、余計時間を働いて、随つて生活程度を下げて、此賠償金の支払をしなければならぬと云ふのが、独逸の実情であります、さう云ふことになつた為めに、独逸に関連して居りまする国、独逸の製造品を輸入する国に於きましては、此点からして非常な問題を生じて居るのであります。長く働いて安い賃銀で働いたものを以て、外国へ持つて来れば其国の製造工業に大影響を与へる、英吉利の如き仏蘭西の如き白耳義・丁抹其他悉く独逸の此状態に影響を受けるのであります、今日は其経済上の立場から来た独逸の労働問題が、非常な欧羅巴の問題になつて居ります、為めに私は必らずさう云ふ点は経済会議で議論されることであらうと考へて居ります、唯私の見たり聞いたりして居ることは実際でなく、私の唯の見当でさう考へて居る丈けでありますから、若しさう云ふことを御考へにならなかつた方が御有りになるなら、私の申すことを参考にして頂きたい。
◇男爵阪谷芳郎君 此経済会議に提議になる問題に付いては、経済会議を我々がどう見るかと云ふことから一つ考へて行かなければならぬと思ひます、普通の学者が集まつての経済会議であると云ふと、自分一個の信ずる所を、自由に述べて差支へない訳である、随つて夫れは其実行と云ふことは或は期せられぬ、国際聯盟と云ふものゝ経済会議は、学者の会議ではあるまい、要するに帝国議会の貴族院・衆議院と云ふものとも違ひますけれども、併し各国が寄つたものを一の国と見て、夫れに共通したもの所謂、経済財政策を立てると云ふことであるから、さうなつて来ると先づ日本で行はれるか行はれぬかと云ふことを考へてから案を出さぬ□□《(脱字)》、例へば移民の問題にしても、自由移民が宜いと云ふことを主張する、之は学者論としては大変宜い訳である併ながら日本に若し移民がドンドン流れ込んで来た場合に、日本は差
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支ないとすると云ふと、僅かの支那の労働者とか朝鮮、是は今日は日本の領土であるが、そこから労働者が来ても、夫れに対しては甚しく反抗の気勢を挙げて居る、十分に其取締をしなければならぬ。或る地方にはどうしても警察力が足りないから、憲兵を出さなければならぬ軍隊を出さなければならぬと云ふことになる、是は甚だ面白くない事でありますけれども、政治家としてはさう云ふ国民の間に感情が残つて居ると云ふことまで考へてやらぬと云ふと、唯空論を唱へるやうなことになりはしますまいか、それで私の希望致しますのは余り実行から遠いやうな案を御出しになつて、どうも日本から出た委員と云ふものは、名論は吐くけれども到底行はれぬことだと言はれぬやうに、日本の委員の吐いた議論と云ふものは、着々其肯綮に当つて一つでも二つでも実行の出来ると云ふやうな案を選んで、御提議になることを望むのであります、唯今も御論のある通り、欧羅巴の状態と東洋の状態とは違う、欧羅巴と此遠い日本とは違ひますから、其東洋にばかり実行の出来る案を持つて行つて、欧羅巴で論じても、議論は宜いけれども到底行はれぬ、行はれぬことを主張して果して宜いか悪いか、学術会議ならば一向差支へないと思ふけれども、さうでない以上行はれぬことを言つたのでは日本の言ふことは重きをなさぬ、日本は言出したら聴かない其代り日本の言出したことは実行したら利益である。又実行し得られるやうなものを選んで、御出しになることを希望致します而してそれに付いて、どう云ふものが宜いかと云ふと、一寸今咄嗟には考へられませぬが、関税の問題にしても、自由貿易が宜いと云ふことを、日本の委員は仰しやる、併ながら今度の議会に昨日であつたか日は知らぬ、政府の出した関税案と云ふものは、どうしても自由貿易とは見られない、而も一方には見越輸入が盛んになつて困ると云ふやうな話もある、さうすると政府は勝手に関税を引上げながら、其政策と云ふものは動かない、之は宜い議論ならば何処迄も主張しても宜いが、是は学術会議ではない、どうしても其実行の会であるから、実行の出来るやうなものでなければならぬ、愈々となれば此方でも実行すると云ふことで、日本は言行伴つて居る、今の沿岸貿易の廃止と云ふことにしても、日本がそれを唱へれば向ふでは、日本が先づ台湾と日本との沿岸貿易の禁止を先きに撤廃されて、其実行をなされてはどうですか、斯う言はれたらどうする、議論としては宜くても実行が出来ないことでは困る、私は沿岸貿易に関する議論には敬服して申すのです、夫れに反対する考は毫もない、要するに学術会議と是は違うのでありますから、之は原案者は井上さんでありますか、添田さんでありますか、そこを能く確めてさう云ふ論を出して頂きたい、而して若し学術的のやうな議論を出して宜いと云ふことならば、私は此添田さんの御出しになつた議案の中に万国共通の貨幣を置くと云ふことを何故御加へにならぬ、又万国共通の銀行を造ると云ふことを何ぜ御加へにならぬ、又万国共通のスタンダーゼーシヨンを置くことを何ぜ御加へにならぬ、之は実行はむづかしいが、若し行はれゝば世界経済に裨益することは大なるものであるから、さう云ふものを加へたい、それが此案に加へてないのは、どう云ふ訳であるか、斯う云ふ疑ひも起る、
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今此原案は仮りに話の種に造つたのだと云ふことでありますから、何れ是は御決りになることゝ思ふが、仮りに此原案を確定したものとせず、之に向つて討論会を開いたならば、私は内々の話だから、世界に向つて言つて居るのではないから、何を言つても宜いだらうと思ふがさうであるならば何ぜさう云ふことを、御加へにならぬかと云ふ質問をしたい、それでどうも中途半端ではありませぬかと云ふ感も致す、私の論は寧ろ之を出すに付ての方針と云ふことである、どう云ふものを案とすると云ふことには論及して居らぬ、案を出すに付いて方針を極めて貰はぬと、案を出すに困るだらう、それで学術会議にして今万国貨幣を造れば、大変世界の経済に都合が宜い、又万国共通標準を造れば大変に宜い、万国の商業的の言葉を一定するやうに、エスペラントを造ると大変宜いと云ふ、さう云ふことを主張して宜いなら沢山ある、夫れをどうして御入れにならなかつたかと思ふから伺ひたい。夫に付いて御考を御述べ下されば宜いと思ふ、私の方針は実行の出来るものを、日本は聯盟会議で発議したい、実行の出来ぬものは出さぬと云ふことに、腹を極めて下さつたら宜くはないか、それは能く国際聯盟協会の方で考へて頂いて、実行の出来るものを御選び下さるが宜くはないかと云ふ、玆に案を出します。
◇田中貢君 一寸簡単に申上げます、私は此原案に対しては一々賛成でありまして、非常に宜い案と思ひます、寧ろ此問題に付いて一番大きいのは一・二・三で、日本としまして之れからどうして立つかと云ふことに大関係のある問題である、それに付いても此移民の這入つて来ること、労働者の這入つて来ること、是はさうやかましく言ふ可き問題ではない、例へば英吉利は外の国に比べると賃銀が高い、それで伊太利などから、ドンドン移民が英吉利へ這入りそうに思ひますが、彼等は英吉利の工場では働けない、労働能率が低い、さう云ふ所から這入つて行けない、又日本に於きましても職業教育の進歩を計りまして、さうして日本の労働者の向上を計りまして、到底支那人が来ても日本人と能率で競争が出来ぬやうになりましたら、支那人が非常に這入て来ましても、夫れは相当に保護を加へて働けるやうに致し、日本人は一層高級の仕事をすると云ふ方になりましたら、此問題はさう恐れるには足らない、それよりは寧ろ日本の増加する此人口と云ふものが、何処へでも行ける道を開いて置かなければ、将来危ないと思ふ、是が最も大切なことである、殊に第二の日本としては、原料を他の国から得なければ到底いけない、戦争中儲けました金は、斯う云ふ方面に海外へ投資して置きましたら宜かつたのでありますが、もう過去つたことでありますが、此問題に付きまして日本の経済をどうする、日本国民を将来どうして養うか、斯う云ふ見地から断案を下して、其方向に進む、国際会議にも斯う云ふ立場から臨んでも宜いと思ふ、どうにでも理窟を付けるなら、いろいろ理窟は付くと思ふ、産業上の問題は最も重要なものであります。日本としてはどうしても原料に付いてはやり切れないのであるから、此第二の問題は大きい、是は是非原案に原料の項を加へるやうに致したい。いろいろ御議論もありませうが要するに日本の将来をどうして行くか、此根本問題が極まれば、スラ
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スラ片付く問題であります、躊躇なく為して宜いと思ひます。
◇山田三良君 私は遅く参りまして、いろいろ諸君からの御話を承はりませぬが、私の唯今関係して居りまする点から、此案に対しまして少々御参考に供したいと思ひます、此案にありまする問題は重要な問題で、もう国際経済会議に於て、日本から出さなくても外の国から出すだらうと思ふ問題でありますが、丁度今法律の方の立場から、今度の国際聯盟に於きまして世界の国際公法を改正すると云ふことが問題になつて居ります、大なる改正を行はなくても、現在に於て最も実行し易き点に付いて、国際法其物を改正すると云ふのでありまして、我我日本の国際法学者も寄りまして、今其案を拵へて居ります。日本の学者の希望として、世界の国際法を此の如く改正せられたいと云ふ問題を出す、其議題の中には、例へば移民に付きましても、入国に制限を置くが適当であると云ふやうな問題もあり、又原料問題に付きましても関税問題に付いても、夫々問題がある、原料に付いては制限をしない、関税に付いては統一的の方策を採つたら宜からうと、云ふやうな議題もあります、さう云ふことを説くに付きましても、一番困ることは、日本の経済的立場がどうであるか、我々には分らない、幸ひ此所には経済の実際方面に御関係の御方が御出でありますが、此国際経済会議に提出する案は、日本の国際的経済関係に関する根本の論が極つて居らなくては工合が悪い、それで理想的に行はれないとか何とか云ふことは暫く措きまして、日本将来の国是の上から、我国の国際的経済関係は如何にならなければならぬと云ふことを確と定めて、其中には現在行つて居るものもあらう、夫れでなくても根本に於て、日本将来の為めに必要なものは、早晩行はなければならないのでありますから、今は困難でも打棄つて置くことは出来ない、二十年・三十年先きになりましても、之を実行しなければならない、それには予じめ今日に於て十分に研究して、必らず斯くしたいと云ふ所謂、理想的の案が極つて、然る後に段々夫れを実行して行くやうにす可きである。唯今丈けの問題に付いて考へるのでは足りない、此国際的経済の関係は我国としては二十年・三十年の内に変はると云ふやうなことの、無いやうにして行かなければならぬと思ひます、関税にしても僅か高くなることは何でもない、今五分高くなつて日本の綿糸の輸入が止まると云ふやうなことでは困る、経済家たる者は此関税が高くなつても、行はれる丈けの政策を考へなければならぬ、現在の状態のみに拘泥せられて、夫れを唯一の標準とするやうでは、何も出来ない、世界の状況を考へ、第二の経済策を立つて、第一を行つて第二に及ぶと云ふやうに、移民に付いても原料の問題にしても、又輸出・輸入の問題に付いても、はつきりと斯うであると云ふ案が出来ますれば、我々が国際法を改正する上に大変便利と思ひます、其根本の問題が我々には分りませぬ、幸ひ皆さんは経済方面の御方でございますから、今日は一場の会議でなく、此問題は重大な問題でありますから、是等の問題以外の問題に付きましても、十分に徹底した日本の国家経済・国際経済の立脚点をはつきりと、何人としても変らぬやうな、国策といつてよいか経済の問題といつて宜しいか、それをどうか経済専門の御方の知識を
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以て、案を御出しになるやうに希望したい、理想を実現すると云ふ考を以て、理想案を御造りになることを希望する。
◇高柳松一郎君 私は大阪の高柳でございます、原案に賛成するものであります、又此原案の中の一部は、私共の支部から申出ましたものでありますが、私は之は宜いものと信じたものは、ドシドシ出して宜からうと思ふ、先程の御議論に敢て反対する訳ではありませぬが、日本の国策を極めてからでなければ出せぬと云ふやうな御考は、如何なものでありませうか、之が日本の誤まらない国策であると云ふやうなことは、到底容易に極まるものではない、今我々が国際聯盟協会で是が宜いと信じたら、夫れで正しいと思ふ、此関税の協定であるとか、或は原料のこと、いろいろな問題に付きまして、阪谷男爵から御話がありましたが、日本の関税は自由貿易主義を採らなければならぬ、さう云ふことを主張してはならぬと云ふ理窟はない、例へば軍縮会議で日本は軍備を撤廃しなければならぬ、軍縮を実行しなければならぬと云ふことはない、それは皆各国との協定に依る、日本は斯う云ふ考を持つて居ると云へば、各国が協定が出来て始めてやれることはやるのだ、又沿岸貿易の開放にしろ、移民問題の開放にしろ、関税問題の撤廃にしろ、夫等の主張が出来ないことはない、各国と協定が出来なければ夫れは通らぬが、兎に角各国を誘ふてさうして各国の同一歩調で行かうと云ふのであるから、之は正しい、之は正義である、即ち世界平和の為めに利益である、世界経済の為めに利益であると信じたならば、如何なる問題でも出して宜からうと思ふ、又それを沢山出した方が実行せられると思へば、各国の賛成を得ることになりませう、少しも遠慮することはない、之は正しいものであるから、日本の国策の決定を待つとか、各方面の研究を待つと云ふさう云ふことは、余り叮嚀過ぎる、此国際聯盟協会に於て是は正しいものである、殊に世界平和の為めに利益であると考へたものならば、或は万国貨幣の共通問題とか、此外に種々の宜い問題もありませうが、それを網羅して出すことは、私は一番国際聯盟協会として研究すべき、又決定すべきものだらうと思ふ、国家の国策の決定を待つとすれば、百年待つても到底出来ない、我々は聯盟協会で正しいと信じたものは出して宜しい、而も玆に掲げられてあるものは、総て日本の将来の為めに、正しい主張である、又世界の何処へ出しも、恥かしからぬ主張であると考へて居ります。
◇高橋亀吉君 段々伺ひましたが、併ながら今阪谷男爵の仰しやつた問題に対して、日本の此主張に対する立場を、今少し違つた立場から考へてやれはしまいかと思ふのであります、一体斯う云ふ風に国際聯盟に於て、国際経済会議を開かなければいけないと云ふこと、夫れ自身が今迄の考へ方ではいけないと言はざる《(を脱カ)》得ぬと云ふことになる、先づ日本が、今迄の立場に於ける日本が、斯う云ふこともやらなかつたあゝ云ふこともやらなかつたと云ふことを以て、我々が日本の主張を考へるならば、国際会議を開くべしとしたことゝ、丸つ切り反したことになりはしないかと思ふ、一体日本は今迄自由貿易を開かないではないか、或は移民も支那の移民を入ないでないか、斯う云ふことも是
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れから離して考へ可きものではない、例へば日本が自由貿易主義を採るか、保護貿易主義を採るか、是は日本一国では極まらない、各国に大なる関係があるのであるから、其点を深く考へなければならぬ、原料問題にしても是が解決をするには各国と共に研究をしなければならぬ。又移民問題にしても此移民を入れるか入れないかと云ふことに付いて、国際的の最低賃銀制があるかないかに依つて非常に異なる、支那の労働者が這入つて来ないと言つた所が、日本に若し最低賃銀制があるなら支那の安い労働者が如何に這入つて来た所が、其賃銀に相当する働きをしない限り、支那の移民は這入る余地はない、又日本の移民が亜米利加へ這入るとしても、亜米利加で定められた最低賃銀制に値する仕事をしない限り亜米利加へ日本の移民は這入る余地はない、それで日本が如何に関税に自由貿易主義を標榜しても、此今日の各国が保護政策を執つて居り、それから原料問題が解決が出来ない、而も日本に有余る人口を外へ出す方法がないと云ふ状態ならば、如何に標榜しても行はれるものでない、それであるから国際経済会議を開かうと云ふ抑もの目的は、さう云ふ経済界のことを総て友誼的に考へる、又日本丈けで解決は出来ないものを、皆揃つて実際的に考へたらどうにか解決が出来よう、斯う云ふ点にあると思ふ、唯自国でやれるかやれかぬと云ふことのみを考へるならば、国際経済会議を開く必要はない、それであるから我々が此国際経済会議に問題を提出するならば、先づ日本の立場と云ふものを丸つ切り離れて各国と協調して全体の経済と云ふものを考へる、全体として協力したらどう云ふことが出来るかと云ふ立場に於て、問題を研究すべきであります、さう云ふ立場なら此問題は、学者の議論ではなく、最も切実な実際的の問題であると考へるのであります、是は他の例でありますが、先程井上さんが仏蘭西の小麦の輸入が、全体の一割しかないにも拘らず、仏蘭西全体の小麦の値段は、其輸入される一割の値段に依つて左右される、是は不都合だと云ふことを仰しやつた、一寸それは井上さんの御説に依ると、如何にも不都合のやうに考へられる、併ながら之は経済学の初歩を学んだ人が考へても直ぐ分ることで、総ての物の値段は最後の供給量の生産に依つて極まる、然るに夫れに疑ひを抱いて、甚だそれは不都合だと云ふやうになつて来た、それであるから此考へ方をもう少し変へる必要がありはしないか、どうしても今迄の考へ方で或は今迄の立場でいけなくなつたから、此国際経済会議を開かれるに至つたのでないか、斯う云ふ疑問を抱いて、我々は此問題を議して見たいと思ふのであります。
◇男爵阪谷芳郎君 私は余り議論が出来なかつたから試みに申したのですが、それに付いて大変御議論が出たことを喜ぶのであります、もう一つ議論を惹起す為めに申して見ませう、一体此移民と云ふことに付いて、皆頭が間違つて居やしないか、日本の人口が多い多いと云ふけれども、明治元年頃には三千万しかなかつた、それが今日五千万・六千万となつた、人口も殖え国が盛んになつたから此世界の一等国となることも出来た、又移民は幾ら出たと云ふと明治の初から今日迄六十万位しか居ない、日本の人口の増進は一ケ年に七十万と云ふのであ
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る、私は此日本の今日人口の増すのは即ち増す力があるから増すのであつて、それが即ち教育の力に依つて能率を増進し、非常に人間が勤勉の結果として、総ての事に堪へ得ることが出来るから、比日本は益益富むのである、マルサスの議論と云ふものは大分間違ひが多い、マルサス論と云ふものは、我々から見ますると或る一つのものを極めて其基礎の上で論ずるので、今日のやうに非常に機械が進み、いろいろなことが進むのを計算に入れない議論のやうに思ふのであります、日本の人口増殖に付いては、私は決して之を変《(憂カ)》へない。日本の人は動もすれば、人口が多い多いと言ふけれども、私は人口が多いから此国が強いのだと思ふ、そこで今日に於て日本を益々富まして行くには、工業を盛んにし、而して折角日本が得た朝鮮なり満洲なり、それ等の経済力を失はぬやうにして、現在の地位を益々強固にして行かねばならぬ、兎に角日本の国力が進めば貿易も盛んになる、即ち独逸が戦に負けてベルサイユの条約で圧迫を蒙つたけれども、彼等の国力は仲々しつかりして居つて、種々の物をドンドン外へ出し、今や世界を圧することが出来るやうになつて居る、さう云ふ訳であるから、今日我日本の移民にしても、夫れは移民を受取つて呉れる所へは、移民をやつても差支ないが、之を唯一の生活問題として是がなければ、日本の経済が立行かぬ如く考へるのは、少し誤つては居ないかと考へる、そこで今度の経済会議に出すにも、余り此日本が何も行詰つてもう行かぬ、我々は貧亡人で困ると云ふやうな態度を執らなくても、直ちに実行の出来るものを捕まへて進んで行く、其会議に於て日本の言出したことは、直に列国が受取らなければならぬと云ふやうなものをやつたら宜からう、何でも主張して行くのは行はれると云ふことが眼目である、それは実行の出来るものを出すが宜いではないか、学術界に研究されるやうな事項は避けたら宜からうと思ふ。
◇添田寿一君 討論会にならないやうに注意して申上げますが、阪谷男爵の仰せられる実行と云ふことに付いては、全く同感であります、併し夫れに付いて此国際聯盟其者は多少理想を含んで居ると云ふことを阪谷男爵が御考へ下されば宜しい、そこで此移民問題でも決して之を頭から無暗に振廻さうと云ふやうな意味で、申上げて居るのではありませぬ、之は既に国際的の実際問題にもなつて居るからと云ふ意味と、所謂世界均等と云ふことを持出すと、どうしても日本が出さなければならぬ問題であると云ふ次第になりますから、無暗に喧嘩腰で之を振廻はすと云ふ、意味でないと云ふことを御含みを願ひたい、伊太利が能く此問題を出します、所が肝心の日本が、何時も屁古垂れて居るから、非常に伊太利は苦しい立場に居ります、それで伊太利の言ふ所も助けたいと云ふ意味も含まれて居るやうであります、それから山田君の御説でございますが、至極御尤もでありまして、高柳君の御説は又少し夫れと違ひますが、私は日本の国策は極つて居ると思ふ、此人口に付いても夫れを支へる道がなければ、或は其人口を制限しなければならぬ、養うことも支へることも出来ないのに、無暗に人間を殖やす、製造させると云ふことは非常に私は惨酷な話だと思ふ、又それが為めに社会問題が非常に険悪になるのでありますから、私は人口問
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題は決して唯殖へることを憂へると云ふのではありませぬ、夫れを養うにどうするか、其道がなくてはならぬ、それには産業と云ふものが必要である、産業の原料と関税の自由と云ふことが、必要である、それでありますから之は日本の私は研究は遅いと思ふ、此位の事が極まらずに、今日一方人口の増加するのを認めて居らつしやると云ふのでありますから、誠に困つた話で、山田君へ御答するのは不十分と思召すか知らぬが、私は日本経済上の国策は、是れ以外にはないと信じて居るのであります、それが阪谷男爵の仰せられまする内外同じでなければならぬとは、全く御同感であります、併し国際会議に於ては自分の信ずる所は、どうしても貫かなければならぬと云ふ、高柳君の御説に付いても同感でありますが、之はさう云ふ場合に於きましては、私は国内の政治を改めることを御唱へになれば宜い、海外に於て主張し要求する時は、夫れと同時に其国内に於て撞着して居ることは、之を改めると云ふことを社会が為されたら宜いのである、兎に角此問題は唯御参考に供したのでありますから、どうぞ腹蔵なき皆様の御考を伺ひまして、完全な案を作らして戴きたいと考へるのであります。
◇男爵阪谷芳郎君 今添田さんは人口が増しては困ると言はれるが、そこが議論が違う、人口が増す余地があるから、此国の人口が増す、人口が増す余地がなければ減る、そこを間違はぬやうに願ひます、
◇藤沢利喜太郎君 私は今日出席する考はなかつたのでありますが、偶然東京ステーシヨンへ参りましたので是へ出席致しました、且つ後れました故に前にどう云ふ御議論が出ましたか、実は承知致しませぬ私も此国際聯盟の出版物はずつと頂戴して居りますが、仲々沢山参りますので迚も目を通すことは出来ませぬ、最近之に似寄つた問題が国際聯盟の中で三つあるやうに承知して居る、一つはインテレクチユアル・コーポレーシヨン、之も余程ぼんやりしたやうなものになつて居りますが、併し仏蘭西が大変に力を入れて居る、日本にも早晩拵へなければならぬと云ふ説もあるが、又それに付いていろいろな反対もあるのである、旁々此経済会議の方にも之は参考にならうと思ふのであります、もう一つはインターナシヨナル・コーポレーシヨンで、此仕事は日本にも行はれて居る、どう云ふ形で行はれて居るかと云ふことを最近問合して居りますが、どうも漠然たる組織で行はれて居るさうであります、此コーポレーシヨンの方は比較的具体的結果を得る望みがあるやうに思はれますが、インテレクチユアル・コーポレーシヨンの方は具体的結果を得ることは前途遼遠であると思ひます、此コーポレーシヨンの方さへ容易に出来ぬのでありますから、日本が主張すれば実行可能性を持つて居ると云ふやうな問題を、少し語弊があるか知れませぬが、今阪谷君が御話になつたやうなものを見出すことは私は不可能ではないかと思ふ、どうしても多少の理想のもの、それは学者的だと非難されるか知れませぬが私は学者的でも宜からうと思ふ、成る可くならば半学者位の所で宜いのではないかと思ひます、それから尚ほ具体的に申しましたならば、先刻も万国共通の貨幣と云ふやうな御話がありまして、又言語の方ではエスペラントを用ひる。さう云ふ話もあつたのですが、最近の傾向は夫れに反対して居ると思ふ、私が
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皆様の前で斯う云ふことを申すのは、釈迦に説法するやうでありますが、最近ロカルノ条約が評判が宜い、それからフラン同盟、あれから白耳義は退却せんとして居るやうな傾向がある、先刻ドーズ案の御話がありましたが、此ドーズ案は一昨年の十月から実行して居りますが其八ケ月間の報告が出て居る、それに依つて見ましてもドーズ案は、果してどう云ふ形に行はれたかどうも疑ひがあると思ひます、どうも其報告書に依つても文外の意を察して見ますると、非常な疑が存して居ると思ふ、又最初其為めに金を募つた、公債を募つて居りますが、あれでは不足であると一般に認められて居る、又墺太利の救済も、最初は非常に旨く行つたやうでありますが、仲々前途楽観を許さないと考へる、さう云ふ訳で此貨幣問題にしても仲々容易ではない、夫れに付いては、他にいろいろ調べたものもあるやうでありますが、一体将来金の産出はどうなるかと云ふやうな問題もある。又農産物に付いては一番権威あるのは伊太利である、此所では仲々宜い仕事をして居りますが、世界的調査はまだ行はれて居らぬ、今度世界的に農産物の本当の信頼すべき統計を造る計画がある、其内日本へも照会が来ると思ひます。さう云ふ次第で、今日は経済問題を論ずるに付いて、総ての国は当惑すると云ふことは無理《(マヽ)》である、詰り阪谷君の言はれるやうな直ぐにも実行出来ることは殆んど無いだろうと思ひます。そこで少しは学者的と云ひますか、理想的と云ひますか、どうも今日の調査材料の不十分な状況に於ては、夫れも止むを得ないことであると思ふ、序ながら阪谷君は議論を惹き出す為めと云ふ御話でありましたから少し申して見たいが、此労働問題に付いても、エフセンシイ即ち能率と云ふことに付いては、まだまだ研究が進んで居らない、英吉利に於てはエフセンシイの問題とか、何とか云ふ問題に付いての研究報告書が、ちよくちよく出て居るけれども、仲々要領を得て居らぬ、其研究者は何か自分の研究したことは、要領を得て居るかの如く伝へるものである之は総ての研究に於てさうでありますが、極く公平の眼を持つた第三者が見た時には、一向要領を得て居らない、さう云ふやうな研究に付いて人種が違つた場合に於ては、夫等の研究の結果、若くは其研究をします方法も、自から違はなけれならぬことだろうと思ひます、さう云ふ将来実行の可能性を有するやうなものゝ為めに根拠を造る、其の根拠の研究を各国で集合したいとか何とか云ふ形でなくて、唯直様手取り早く実行の出来るやうにする、阪谷男爵の御話もさうであると思ひますが、さう云ふことは全然不可能である、勢ひ之は一般的の、若し男爵の言葉を借りて言へば学者的と申しますが、それは丸で空論ではございますか知らんが、将来に実行の可能性のあるもの、若くは或る原則なら原則、其原則の応用によつて、実行の可能性のある何物か出来て来るやうに、又性質上さう云ふ形の経済会議になるのではありませぬか、まだ出版物を能く読んで居りませぬのでどう云ふことになりますか、或は私の考が間違つて居るかも知れまぬが、私の感想丈けを申上げて見ました。
◇近藤乾郎君 世界の大勢は、段々国際平和と云ふ方に向いて来るやうに思ふのであります、事実其通りでありませうが、併し私は内国の
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状態を見ますと仲々此根拠ある国家思想と云ふものが出来て居らぬ、現に此国際聯盟協会の如きも、あれは英・仏・米の傀儡のやうなものである、あんなものは叩き潰してしまはなければならぬと云ふやうな考が一方に於ては実際あると思ふ、又極く公平な眼を以て見ましても日本人に対して差別待遇をするなどゝ云ふは実に怪しからんと思ふ、又英国の近東に於ける行動を見ても、実に酷い話で、之れ等を見るに付けても、私共は是非聯盟協会の力で之を解決す可く努力しなければならぬと思ふ、それには我々は内地に於て此国際聯盟を十分理解する運動を起し、全国に此国際的精神と云ふものゝ涵養に、一番努力しなければならぬと感ずるのであります、次は関税の問題でありますが、日本の政府は今度関税を高くすることになりました、私は今添田博士の言はれるやうに、日本の政治が悪かつたならば、此聯盟協会は夫れに向つて大いに論じて、之を改めるやうに努力して頂きたいと思ふのであります、今度日本でさう云ふ関税政策を採つた為めに、濠州に於ては日本から来る或物に対して、二十割の関税を課す、英国では又日本から行くものに対して、重い税を課せんとして居ると云ふことでありますから、此原料品の問題は全く反対なる結果を来しやしないかと考へる、それに付いても内政を改めると云ふことは、決して忽かせにす可らざることゝ思ひます、もう一つは阪谷男爵の御話の人口問題であります、私も此人口の殖えることは喜ぶもので、欧洲でも仏蘭西の如きは段々減つて行く、又独逸も減つて居る、どうしても今日は教育に力を尽し、真に立派な人間を沢山造ることが一番必要である、人口が日本ではドンドン増加する、其人口を世界へ出すときに大いに、歓迎されると云ふやうにならなければならぬ、私は人口の増殖を益々助長して行きたいと云ふ考を有つて居ります。
◇植原悦二郎君 私は今日出席すると云ふ御知らせをして居りませぬ遅く参つたのでいろいろ行掛りを存じませぬ、唯今、いろいろ御議論を承はりましたが、能く伺つて居りますると、皆さんの仰しやる所に少しも隔てはないやうに思はれる、阪谷男爵が大変敵になるやうでありますけれども、阪谷男爵の仰しやる所は私は斯う云ふ風に諒解して居ります、玆に掲げてある所の総ての理想に付いては賛成である、之を世界に実現し、尚ほ之を日本に実現して日本の利益問題と決して悖ることはない、此趣旨に於て阪谷男爵も御認めになつて居るやうに諒解致しました、併ながら単に純学者的のものではない、実際の政治に触れる、日本に於ては之と矛盾して居るものも沢山行はれるから、それらの事情を十分参酌して、そうして其事実と矛盾して居るものゝあることを忘れずに、努めて之を日本の現状に鑑みて、それらの事実を認識しつゝ、是等の理想を実現するに、一番便宜な方法を取つてやつたら宜からうと云ふことに到達することゝ思ひます、若し阪谷男爵の御意見がそれであるならば、皆さんの仰しやる所と大差ない、此案は此案として折角御作り下されたのであるから、理想として見ても之を力説する場合には、日本の事実を十分承知して成る可く実際の場合に適するやうに、国際間に実行せしめる便宜な方法を考へて下さつたら宜からうと思ひます、もう御議論は大抵尽きて居るやうに思ひますか
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ら、之を一つ認めて、阪谷男爵の御趣旨なり皆さんの仰しやることも結局趣旨は同じであるとして承認あらんことを希望致します。
                          (終り)


一九二七年の国際聯盟 資料第二四号・第三頁昭和三年一月刊(DK370001k-0007)
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一九二七年の国際聯盟  資料第二四号・第三頁昭和三年一月刊
(謄写版)
 聯盟の最初の国際会議たる一九二〇年のブラツセル財政会議は、財政原則を樹立したが、之は諸国の財政当局及びドーズ案の考案者によつて適用され、延いて聯盟の手により二・三国家の財政復興計画を促し、総額約十七億金フランに上る国際公債の援助によつて、之等諸国の財政は復旧したのである。