デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.153-155(DK370027k) ページ画像

昭和2年6月2日(1927年)

是日、当協会欧文法典起草委員会発会式、東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ挨拶ヲ述ブ。


■資料

国際聯盟協会書類(三) 【欧文法典起草委員会発会式】(DK370027k-0001)
第37巻 p.153-154 ページ画像

国際聯盟協会書類(三)            (渋沢子爵家所蔵)
    欧文法典起草委員会発会式
場所 丸の内銀行倶楽部
日時 昭和二年六月二日午後六時
出席者 原司法大臣 渋沢会長 阪谷・添田両副会長
   山田委員長     姉崎正治      青木節一
   平井三次      池田寅次郎     伊沢孝平
   鹿野直司      嘉山幹一      菊沢季麿
   小林亀久雄     栗山茂       松波仁一郎
   宮島幹之助     宮岡恒次郎     奥山清治
   高柳賢三      田中館愛橘     佐藤醇造
一同晩餐を共にし、渋沢会長の挨拶、山田委員長の成立経過報告、原司法大臣の祝辞があつて散会。
(謄写版)
    欧文法典起草委員会総会要録
場所  丸の内銀行倶楽部
日時  昭和二年六月二日午後四時
出席者 山田委員長 高柳・宮岡両起草委員 池田・嘉山・松波の各審査委員 平井・伊沢両起草委員補助 佐藤幹事(岸・松本両審査委員欠席)
当日は起草委員・審査委員の顔合せ会であつて、先づ山田委員長から学芸協力委員会と国際聯盟協会との関係、前者の事業内容一般、私法統一、国際研究所設立事情等につき大体の説明があり、更に欧文法典起草委員会を組織し、先づ商法及び商事関係諸法規の英訳に着手するに至りたる所以、並に委員推薦の事情等に関し、縷々説明する所あり左記諸項を協定した。
(一)起草委員会は、高柳委員よりガズビー氏に協議の上、成る可く来る六月十一日(土)宮岡委員の事務所に於て第一回会合を開くこと。
 草案のコピーは便宜上、当分宮岡委員の手許にて作成の上、委員長及び起草委見に配布、起草委員会に於ける成案のコピーは、右諸氏の外審査委員一同に予め配布すること。
(二)商法条文の英訳は、第百三条までは高柳委員の起草に係る草案を原
 - 第37巻 p.154 -ページ画像 
案とし、第百四条以下は宮岡委員に於て原案を起草すること。
(三)法文の意義及び其の実際に於ける、運用の状況を示すに適当なる英文註釈の原案は、高柳委員之を起草すること。
(四)審査委員会は当分、日本倶楽部に於て毎月一回月曜日午后五時より開会すること。
尚、高柳起草委員より英文註釈の程度、及び材料選択の方針に就て説明する所ありしが、成案の提出を俟つて之を審議することゝして閉会した。



〔参考〕国際知識 第七巻第八号・第一三四頁 昭和二年八月 ○本協会ニユース 学芸協力委員会(DK370027k-0002)
第37巻 p.154 ページ画像

国際知識 第七巻第八号・第一三四頁 昭和二年八月
 ○本協会ニユース
    学芸協力委員会
 六月二日午後四時から、丸の内銀行クラブに於て、欧文法典起草委員会第一回総会が開催され、山田委員長、高柳・宮岡両起草委員、池田・嘉山・松波の各審査委員、平井・伊沢両起草委員補助、佐藤幹事出席。
 先づ山田委員長から一場の挨拶があり、次で事業進行に関する打ち合せをなした。
 第一回起草委員会 六月十一日午後一時から、宮岡法律事務所に於て開催され、山田委員長、ガズビー、宮岡、高柳三起草委員出席、高柳委員起草原案につき討議し、十五ケ条を決定す。午後七時散会。
 第一回審査委員会 六月二十日午後五時、丸の内日本クラブに於て開催、山田委員長、ガズビー・宮岡・高柳の各起草委員、池田・嘉山松本・松波の各審査委員、佐藤幹事出席、起草委員作成の商法英訳原案につき、御裁可文以下第七条まで審議決定し、午後五時散会



〔参考〕外交余録 石井菊次郎著 第二七〇―二七六頁 昭和六年五月三版刊(DK370027k-0003)
第37巻 p.154-155 ページ画像

外交余録 石井菊次郎著 第二七〇―二七六頁 昭和六年五月三版刊
 ○第一編 第九章 仲裁裁判
    第三節 国際法法典編纂
      一 米国の不戦条約期成同盟団体
 国際紛争を平和的に解決するの方法に蓋し二つある。其一は紛争を仲裁裁判乃至司法裁判に依つて解決するもので、之が最普通、且便利なる方法である。紛争が其性質上権利問題に関するものなれば、司法解決に付し、若し其性質が主として政治問題に属するものなれば、問題当事国の協定する所に従つて、之を仲裁裁判に委するのである。前項に論述したる所は、即ち従来慣行の右仲裁乃至司法裁判に由る国際紛争解決の制度に就てであつた。
 然るに近年米国に起りたる不戦条約期成同盟団体は、現在の仲裁裁判及国際司法裁判の両制度を排斥し、将来国際紛争解決の為には、先づ以て国際公法を法典に編纂し、内国法廷が成文法に依つて公私訴を裁判するが如く、国際紛争をば新に設けらるべき国際司法裁判所をして、新に編纂せらるべき国際法典に依つて裁判せしめむと主張し出した。同団体は近頃米国に於て非常なる勢力を有するに至り、其主張は現今の仲裁裁判制度に対する、一の革命的新現象と見るべき域まで発
 - 第37巻 p.155 -ページ画像 
達したる観があるから、之を軽々看過することは出来なくなつた。之我輩が右の主張を国際紛争、平和的解決の第二方法として数へんとする所以である。
○中略
      二 平時国際公法の法典化
 上院外交委員長ボラア氏は、米国に於ける不戦条約期成同盟の牛耳を執つて居る。彼は一九二三年二月中(一)戦争非認、(二)平時国際公法の法典化、(三)国際紛争解決機関として戦争に代はるべき国際司法裁判所の設置を含蓄する一の決議案を上院に提出した。該決議案が上院に於て未だ上程せられざる間に民間に於ける彼の団体の運動が功を奏し、不戦条約は早くも成立して彼の決議案第一項は既成事実となつた。此調子で進行すれば、近く第二項の国際法法典化を実現せしむる為の列国会議開催の案内状となるかも知れぬ。偖国際法法典化事業は果して相当の期間内に完成するであらうか。夫は頗る問題である。尤戦争が国際政局より消滅するとの仮定の下には、国際法中の最難関たる戦時法規は無用となる筈であるから、交戦権や局外中立権など総て省略し得る事となり、従来公法の大半は法典編纂事業より取除けられるであらう。夫にしても残部の法典化は仲々容易の業でない。先年来国際聯盟は国際法典編纂事業の一部を試みつつある。事業の範囲を単に(1)国籍、(2)領水、(3)領土内に於ける居留外国人の生命及財産に加へられたる損害に対する国家責任の三問題に限りて、之を世界各方面より選抜したる公法家より成る一委員会に託したが、爾来数年を経たる今日、法典化どころか学者の議論も未だ帰一しない様である。今其範囲を平時国際公法一般に亘らしめ、卒然として列国会議を召集して見ても、会議は殆んど手の付け様がなからう。所詮は各国専門家をして予備会議を行はしめ、其多数決に依つて作製せられたる報告書に接してから之を原案とし始て国際会議を開く段取となるであらう。其所で其予備会議は、即ち聯盟が曩に試みたる法典委員会の延長と見るべきものだから、平時国際法全般に亘る予備会議は、嘸議論に花が咲き、纏り難き事であらう。縦し長年月の後に多数決に依つて一の報告書が作り上げられたとしても、之を原案として開かれた国際会議に於ては復々討論に多大の時を要すべきは勿論である。玆に再び多年月を経たる後、同会議が復々多数決に依つて一の国際法法典案を得たりと仮定するも之を各国政府に配布してから、各国政府に於て各自の立法機関、又は批准機関に廻付して慎重審議せしむるときは、玆にも議論百出すべく審議の結果、国際会議の決定案を鵜呑にする国もあらうが、種々の反対又は留保を敢てする国も鮮からずあるであらう。以上は国際法典編纂事業を始終楽観して、会議決裂の場合を全然慮外に措いたのであるが、夫にしても其事業が今より幾年後に世界各国の正式承認を得て有効なる国際法典となるか、誰として之を予断し得るものあるべくもない。兎も角数十年の悪戦苦闘を要する一大困難事業たることは拒み能はざる所であらう。
○下略