デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.249-253(DK370058k) ページ画像

昭和4年5月4日(1929年)

来ル十一日、当協会第九回総会開催セラルルニ就キ、是日副会長阪谷芳郎、当日栄一会長トシテナスベキ演説試案ヲ示ス。栄一、総会ニハ欠席セリ。


■資料

国際聯盟協会書類(四) 【(謄写版) 拝啓 来る十一日、…】(DK370058k-0001)
第37巻 p.249-252 ページ画像

国際聯盟協会書類(四) (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓
来る十一日、本協会総会に於ける会長演説試案別紙供貴覧候間、調査閲の上、御気附の点御注意被下度御依頼申上候 敬具
  昭和四年五月四日        国際聯盟協会副会長
                      阪谷芳郎
    (宛名手書)
    渋沢栄一殿
(別紙・謄写版)
聯盟協会の第九総会に当り、吾人の注意は自然国際聯盟に向ふのであります。国際聯盟も誕生以来既に九年に達し色々と仕事をして居る、其の中には交通通過・保健衛生・人道問題と云ふ様な方面の問題があり、殊に吾人の生活に重大の関係ある経済の問題も、一昨年ジエネヴア経済会議の決議は徹底せざる恨あるも、少くとも其の方針目安を定めた点に於て大なる効果ありと云はざるを得ませぬ。
 - 第37巻 p.250 -ページ画像 
此会議の決議を遂行するに就ては、聯盟協会聯合会主催の下にプラーグに於て昨年の十月に経済会議が開かれ、歩一歩其の途を辿りつゝある次第である。
然し国際聯盟の事業中最も重要の一にして、而して其の着手が比較的古きに拘らず、其の効果の顕著ならざるものは、蓋し軍備の縮少であると思ひます。聯盟規約の第八条には、聯盟国は平和維持の為めには其の軍備を国の安全及国際義務を協同動作を以てする強制に支障なき最低限度迄縮少するの必要あることを承認すと云ひ、従て此の規定の実行並陸海及空軍問題全般に関しては、聯盟理事会に意見を具申すべき常設諮問委員会を設置すべき(規約第九条)旨を約し、同委員会は一九二〇年五月以来活動して居るのである。何分独逸が未だ聯盟に加入せず、ヴエルサイユ条約履行の保障として、仏・英・白の兵がラインランドを占領して居ると云ふ様な矢先であり、且は露西亜とか米国が聯盟に参加し居らず、委員会は成る丈道草を食ひ得る限り、食はんと云ふ様な気分の間に経過し来つたが、一九二一年には軍備縮少臨時混成委員会が出来、諮問委員会に加ふるに政治家や国際労働機関から委員を挙げ諸方面から軍縮問題を研究することになつた、此の会で平和の確保には軍縮が必要であると同時に、軍備の縮少には平和維持に対する各国相互の信頼心が必要で、政治的の安全が保障さるれば、何国と雖軍縮に同意する訳であると云ふことを認め、ロードセシルの相互援助案が出来たが大国側の賛成を得ず、次いで出来たのはジエネヴア平和議定書と云ふ、一九二四年第五回総会に於て、英国首相マクドナルド氏及仏国首相エリオ氏が共に世界平和の理想を高調し仲裁裁判安全保障及軍備縮少を其の要素としたものである。仲々結構のものであるが、英国ではマクドナルド内閣倒れ保守党内閣となり、平和議定書に対する態度に変更を来したるが故に物にならなかつた。さて一九二五年一月以来独逸と隣接国との保障協定が有望となり、同年十月ロカルノに於て会議を開き、英・仏・独・伊・白間の相互保障及仲裁裁判条約、独逸と仏・白・チエコ・波蘭との仲裁裁判条約及仏蘭西と波蘭、チエコとの間の仲裁裁判条約が出来た。尚此等七ケ国の最終議定書に於て軍縮に誠実に協力し、且一般的約定に於て是が実現を図るべきを約し、尚右諸条約は関係国の批准の外、独逸の聯盟加入を実施の条件としたロカルノ条約は、同年十二月一日倫敦にて批准を了し、独逸の聯盟加入も確実となり、心配された方面の安全が保障せられた。是に於て聯盟理事会は、第六総会の決議に基き軍縮準備委員会を組織し、之に軍備に関する諸種の問題の研究を附託することを決議し、同委員会は一九二六年五月十八日開議し、軍備の意義を始とし諸種の問題を研究した。
而して第七総会は此の準備委員会を一九二七年の始に終り、差支なくば本会議を第八総会前に開くべきことに決議したのである。
さて準備委員会の第二回会合は一九二六年九月、第三回は一九二七年三月二十一日より四月二十六日迄であつたが、此の間米国政府より補助艦制限に関する軍縮会議の提唱あり、又、英・仏両国より軍縮条約案の提出があつた。軍縮条約案に就ては重要なる点に於て結論を異に
 - 第37巻 p.251 -ページ画像 
するも、兎に角第一読会を了し、補助艦軍縮会議には仏・伊が参加せず、御承知の通、日・英・米丈一九二七年六月二十日より、会議したが、巡洋艦に関する英・米の主張折合はず、遂に八月四日の最終総会に於て、一ト先休会するも各本国政府に於て協議の上重ねて本会議を招集し、軍備縮少の目的を達成するの必要ある旨の声明書を発した。
同年九月には第八聯盟総会開かれたが、三国軍縮会議破綻の後を受け空気は可成り陰鬱であつたが、結局現在軍縮準備委員会に席を有する国、及招請せられて同会に代表さるゝ国の委員を以て一の委員会を設け、之をして安全及仲裁裁判の保障を各国に与ふる方法を研究せしむることゝした。斯くて軍縮準備委員会の第四回会合は同年十月三十日に開かれたが、第三回の会合には前述の如く英・仏両国より夫々軍縮条約案の提出あり、其の第一読会を了したのみであつたが、平和条約に依り軍備を制限せられ居る独逸側は成る丈軍縮の促進を希望して其の第二読会を主張し、仏国其他は遷延策を採り、第八総会の決議に依り出来ることになつた安全保障並に仲裁裁判委員会の方に本問題の方向を転換せしめんとした。
此会には労農露西亜も代表を送ることになつたが、彼は軍備全廃案を提出した。然し軍縮はソー簡単に行くものにあらず、委員会全体の空気が斯る案を討議することに反対であつたので次回に廻すことゝし、又、英・仏軍縮条約案の第二読会も予定の行動として流れ、結局安全保障仲裁裁判委員会の組織丈を決議した。此会は初会として十二月一日・二日の両日会合せるより、爾後頻繁に開かれた。
軍縮準備会の第五回は一九二八年三月十五日より同二十四日迄開催せられ、是には労農露西亜の外土耳古も参加した。此会議には露国の軍備全廃案が上程せられたが、会中反対が多いので露西亜代表は然らば之を他日に留保し、今は漸減案を提出するに付討議を請ふ旨を声明せるも、会議の容るゝ所とならなかつた。
一九二八年の第九総会にては軍縮事業は大に論議せられたが、既に仲裁裁判安全保障委員会の努力に依りて或程度の平和の保障及国際紛争の平和的解決の方法が講ぜられ、又ロカルノ条約に加ふるに不戦条約成立して安全が漸次保障さるゝに至りては仏国と雖、余り問題を遷延せしむる事を得ざる立場となり、残るは軍縮会議の速開か漸進かの二である処、総会は一九二九年始に準備委員会の開催を理事会に要求し理事会は之を本年四月十五日と決定し、同委員会は先般来開催して居るのであるが、玆に偶、米大統領の更任は軍縮殊に海軍軍縮につき衝動を与へた感がある。其は準備委員会に於て米国代表が海軍補助艦縮少促進の新提議を為したことである。米国提議の内容に付ては吾人の記憶に新たなる所であるので、玆に之を縷述するの要はないが、英国及我国は主義上既に之に賛成し、其他の諸国も異議を唱ふるものも無い様であるから、海軍縮少への前途は急に展開し、来七月に右準備委員会を開かんとする迄に進みそうである。
主義にして決定せる以上実施には自ら法あり、此場合に於て一昨年三国会議の決裂は、寧ろ予備会議として会議の進捗に重大なる効果ありし様の気がする、米国代表の所説は海軍に関するも問題は海・陸・空
 - 第37巻 p.252 -ページ画像 
の三軍に関す、吾人は米国代表の提議を悦ぶと共に本問題は聯盟の手に依りて処理せられ、之を切かけにして他の二軍の縮少に及ばんことを切望する。吾人は軍縮の促進を顧念しつゝありし矢先、ジユネーヴに於ける米代表の提議を聞く、偶中と云ふべし、共存共栄は聯盟の精神であり、軍縮は平和の前提なるを知らば、吾人は努めて此事業の達成を援助せねばならぬと思ふのである。
吾人の希望する所を述ぶれば、
一、海軍補助艦縮少に関する準備委員会、及之を確定する本会議が速に開催せられんことを望むのである。
二、今日の機運に乗じ主力艦に関する次の軍縮会議開催の日を早められんことを望むのである。三一年よりも三〇年に。
三、方針は制限よりも縮少である。
四、特に攻撃的勢力の刪減である。従て艦型の縮少である、昭和二年三国海軍軍縮会議開催に先ち、同年五月我が協会が第七総会に於て補助艦の最大噸数を、巡洋艦に付ては八千噸、駆逐艦及潜水艦に付ては各千五百噸に限定せられんこと、玆に近き将来に於て主力艦の全廃に至らんことを期望することを決議したるも、実に上記の趣意に外ならぬのである。
五、軍縮問題に付ては、我国は進んで思ひ切つたる縮少案を提出するに至らんことを望むのである。
六、軍縮問題に付ては各国は徒らに技術的専門的問題に拘泥するに於ては、其遂行を期するを得ざるは、従来の会議の経験に依り明かなる所である。故に我国に於ては本問題が我国の財政上及国民生活上の点より之を見ても、極めて緊切なる関係を有する事実に照し、本問題の処理に付ては常に大局の上より考慮判断し、之が迅速且適切なる成立を促進するの態度を執られんことを切望するのである。


国際知識 第九巻第六号・第一〇七―一〇八頁昭和四年六月 ○本協会ニユース(四月中)(DK370058k-0002)
第37巻 p.252-253 ページ画像

国際知識 第九巻第六号・第一〇七―一〇八頁昭和四年六月
 ○本協会ニユース(四月中)
    本協会第九回通常総会
 本協会第九回通常総会は五月十一日午後三時から丸の内生命保険協会で催された。渋沢会長都合に依り欠席のため阪谷副会長代つて開会の辞を述べ、次に添田副会長の昭和三年度会務報告、深井会計監督の昭和三年度会計報告ありてこれを可決し、ついで昭和四年度予算案の審議に入り、鈴木梅四郎氏は本協会がもつと会員増加の措置を執るべき旨の希望を述べられ、稲田直道氏は会費を五拾銭とすべきことを提案され、神崎驥一氏は学生支部に対する補助費を増加すべきことを要求せられ、秋山弥助氏は地方の名士を入会せしむるやう措置をとるべきことを述べられたるが、結局予算は原案通り、収入に於て前年度繰越六七、六五六円参弐銭を含む総額弐弐五、四壱八円六壱銭、支出に於て主なる項目、調査及学芸研究依託費・印刷刊行費・宣伝拡張費・俸給・予備費等、其他合計前記同額の予算案にて可決され、ついで評議員改選に就ては、松下芳男氏提案の民衆を評議員中に加ふべしといふことを考慮に入れて会長追つて指名することゝなり、ついで中華民国
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国際聯盟協会との提携協力に関する決議案を次の如く可決す。
  中華民国国際聯盟協会と本協会の提携協力に関する決議
 国際聯盟協会第九回総会は中華民国に於て国際聯盟協会の設立に至らんとすることを悦ぶと共に、幸に実現の場合に於て本協会が同協会と相提携協力して、以て一層国際聯盟精神の普及及び達成を図らんことを希望す
      理由
 過般の世界大戦の跡仕末を講すべき問題が主として欧羅巴に関する事件なりしが為め、此れが解決の衝に当りたる国際聯盟を目して、恰も欧羅巴問題の処理機関なるが如き感を懐く者ありと雖も、正義人道の礎の上に世界恒久の平和を樹立せんことを目的とする国際聯盟が、その本質上単に欧羅巴問題の処理にのみ没頭するものに非ずして、東洋をも均しく重視するものたることは固より当然なり。即ち国際聯盟は、一九二五年新嘉坡に国際聯盟保健部東洋支局を設置し、一九二七年には布哇の太平洋問題調査会にオヴザーヴアーを派遣し、最近には国際労働局長アルベール・トーマ氏及び国際聯盟事務局代理総長ヨセフ・アヴノール氏をして親しく極東を訪問せしめたり。
 国際聯盟が斯くの如く逐年東洋問題に注意を加へつゝあるに拘らず中日国際聯盟協会間に未だ提携協力の充分なるものなかりしは遺憾なり、是れ本決議案を提出する所以なり。
 此にて総会を閉じ、講演会に移つた。
先づ法学博士上田貞次郎氏はプラーグ経済会議(昨年十月)の決議案に関して説明の後、関税政策に関して聴衆者を傾聴せしめ、次に前国際労働機関帝国事務所長笠間杲雄氏は国際聯盟の将来に就いて陳べられた後、国際関係にも正義が勝利を占むる所以を力説して満堂の喝采を博した。
 講演の後晩餐会に移り、劈頭総裁徳川公は、国際聯盟を益々支持されんことの希望を吐露され、以下順次各地方の会員の五分間演説に入り、八時半頃目出度く散会した。