デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
5節 外賓接待
15款 其他ノ外国人接待
■綱文

第39巻 p.526-527(DK390256k) ページ画像

昭和2年12月1日(1927年)

是日、ジャパン・アドヴァタイザー社員ビー・ダブリュー・フライシャー、渋沢事務所ニ来訪シ、栄一ト対談ス。


■資料

集会控 自大正一五年一一月二六日至昭和四年六月三〇日(DK390256k-0001)
第39巻 p.526 ページ画像

集会控  自大正一五年一一月二六日至昭和四年六月三〇日   (渋沢子爵家所蔵)
    二年十二月
十二月一日(木) 後三 フライシヤー氏来訪 事務所


竜門雑誌 第四七二号・第九一―九四頁昭和三年一月(DK390256k-0002)
第39巻 p.526-527 ページ画像

竜門雑誌  第四七二号・第九一―九四頁昭和三年一月
    フライシヤー氏の来意
   アドヴアタイザー紙のビー・ダブルユー・フライシヤー氏は、二月一日午后三時事務所《(十二月)》に子爵を訪問、左の如き来意を述べて引取つた。
フ氏「病気に罹り十ケ月ばかり米国へ帰つて居りました。帰国の折には最早日本の土は踏めぬだらうと考へられる程でありましたから自然事務所が此方へ移つて居ることも知りませんでした。然るに子爵は相変らず御壮健に御見受けしまして喜びに絶えません」
子爵「地震と火災の為め此方へ引移りました。彼方の事務所で色々の書類を焼いてしまつたので残念だと思ひます。殊に慶喜公伝の資料をかなり集めて居たのを全部失ひましたのは、返す返すも惜しいと思つて居ります」
フ氏「さぞ子爵の御生涯に関したものが沢山ありましたでせうに残念で御座いませう。私はアドヴアタイザーに二十年も居りますが、やはり地震の時にすつかりやられました。さて今日御訪ね致しました理由は、来年十一月に今上陛下の御即位式が行はれますに就て、アドヴアタイザーで此比類のない御盛典を広く世界へ知らせ度いと存じまして、今から其の準備を致して居る訳であります。此の内容は、御即位式に対し世界各国の皇帝や大統領や皇太子、或は著名の人々から祝辞や讃辞を集めたものを出版したいと思ひます。それで御願ひと申すのは、子爵は米国に沢山の友人を持つてお出でになるから、それにアドヴアタイザーが斯う云ふ結構な催しをしようとして居るから援助してやつてくれと云ふ刷物への御署名を御願ひ申し度いことであります。既に宮内省の方へは新聞の意向を通じまして御賛同を得て居ります。で出版しますものは新聞の形式でない書物になりまして、写真や絵画を入れた立派なものを作ります。従つて営利は考へず、此の日本の盛典を世界へ知らせるのが目的であります。曩に英国皇子が渡来されました折、アドヴアタイザーで斯様なものを出し信用を得て居りますので、畢生の力を入れてやる積りです。殊に此事は日本と世界各国との親善にもなりますから――」
子爵「私に対して其の御もとめは一身上から申せば誠に名誉でありま
 - 第39巻 p.527 -ページ画像 
す。我が尊崇致します天子の御即位式の御祝ひを外国へ御伝へ下さることは、国民として何処までも感謝致す訳であります。然し私が一人で、米国の人に向つてそれを述べる程の資格はありません。それをすることは頗る僭越であります。その理由は私は高位高官でなく、特に皇室に縁故のある身分でもありません。今子爵ではありますが、爵位としても低く私自身は一平民であると考へて居ります。故に誰かかうした方面で相当な人があり、実業界から誰かと云ふならば私が名を出しませう。勿論私は名を出すのを嫌がつて居るのではありません。たゞ右のやうな訳で直ちにお受け合ひして名を出すのをどうかと思ひ、尚ほ考慮を要すると致すのであります」
フ氏「実は米国に於て子爵程知られて居り、且つ信用のある方はないから御願ひしたので、僭越と仰せられますのは御謙遜であります故に御援助と申す程でなくアドヴアタイザーは日本で大いにやつて居る、そして即位式のことを知らせやうと計画して居る。それは誠に結構なことだ、と云ふ程度の軽い意味で御願ひ出来るならと存じますが、如何で御座いませう。総理大臣なども知つては居りますが、子爵御一人の方が力がありますし、それでどうと云ふ御差支もあるまいと存じまして御願します訳で、アドヴアタイザーが御名前を利用して何か利益しようと申すのではありません。たゞ日本独得の盛大な儀式を普く知らせ度い希望を持つのみであります」
子爵「事柄が貴方の新聞であるだけに広いので、単に私の懇意な数名に限られないやうに思ひます。故に斯様なものに対し、地位の低い私が人より進んで出る事柄ではない、云ふまでもなく私が名を出せば、或る部分の人は日本国交上の心配からと知るでありませうが、私は天子の御即位と云ふやうな事柄に出る身分でありません。徳川家達公とか田中総理大臣とかゞ名を出せば、実業界からと云ふので私がよいかとも考へましたが、私一人では直ぐ様承知致しましたと申すことは出来ません。是非にとの仰せならばよく考へて見ませう。尚ほ重ねて申せば、日本の為めの御要求故出たいが、それは私の出る幕でないと思つて躊躇する訳でありまして即答出来ぬのを遺憾と致します」
フ氏「兎に角さうしたことを考へず私が第一に御願ひに出ましたのは子爵が米国で名声の高いお方であるからで、公式のことに名を一人で出すのは考へねばならぬと仰せられるのはよく判りました。尚ほ徳川さんや牧野伸顕伯に御願ひしまして更に改めて出ます故どうか宜敷御願ひ申します」
子爵「牧野さんなどよろしいでせう。どうも一人でするのは皇室のことであるだけ出すぎるやうに思はれるのであります」
フ氏「どうも御無礼致しました。何れ再び御報告旁々御願ひに出ますから其時には宜敷御願ひ申します」