デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正12年9月25日（1923年）

是ヨリ先九月一日、関東大震火災ニヨリ当会事務所及ビ湯島聖堂罹災ス。是日、華族会館ニ於テ当会役員総会開カレ、ソノ損害報告及ビ復興ニ関シテ協議ヲナス。栄一出席ス。

各個別青淵先生関係事業年表　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　斯文会
　　大正十二年九月一日
大震火災ノ為、聖堂・聖像焼失ス

集会日時通知表　大正一二年　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第41巻 p.62 -ページ画像 
九月廿五日　火　午後二時半　斯文会ノ件（華族会館）

斯文　第五編第五号・第五八頁　大正一二年一〇月
　　　　○役員総会
　今回の震災は本会役員の協同一致して其の復興に努むべき大事件なるに付、九月二十五日午後二時三十分より、華族会館に於て会長・副会長・顧問・参与・監事の出席を請ひ、総務・会幹・部長・常議員・委員等を参集して協議会を開く。先づ服部総務より震災後本会事務は自宅に於て取扱ひ居ること、損害の見積高、現在資産の情態等を詳細に報告あり。決議の事項左の如し。
一、本会事務所は徳川会長より華族会館の一室を借入れ得るやも知れずとの説話ありたるに付、之を依頼し、若し借用叶はざるときは、金弐千五百円を限度とし、仮事務所建設に着手すること。
一、基本金募集は当分延期すること。
一、聖堂再建は本会に於て計画の目的に付、文部当局に現敷地の保留を交渉すること。及び会長指名の聖堂再建計画委員を置くこと。

斯文会書類　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓、然者去月二十五日華族会館に於て御報告申上又御相談相願候件別紙の如く同日欠席の顧問其他に御報合致候に付、為念一通御手許に差出申候間、御覧願上候　敬具
　　大正十二年十月十五日
　　　　　　　　　　　　　　財団法人　斯文会総務　服部宇之吉
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿
（別紙・謄写版）
　　　　報告之件
一、九月一日の震災及び火災により本会建物（本館・土蔵及び附属家）及び書籍・書類・器具等全部焼失せり
一、会見名簿は焼失せるも最近の「斯文」に掲載せる宿所録に依りて調製し得べし、但最近入会申込者数名は不明なり
一、損害見積高合計金壱万六千参百弐拾円
　　　　　　内訳
　（一）建物金壱万円　但登記価額
　（二）器具金五百円
　（三）書籍金五千八百弐拾円
　　　　内（い）斯文学会より引継の分金弐千円
　　　　　（ろ）孔子二千四百年追遠記念刊行物金参千八百弐拾円
一、本会所有地権利確定ニ必要ナル登記書類ハ、工藤会幹等預リ居リシ為メ火ヲ免レタリ、借地人ニ対シテハ従来ノ借地ニ住宅又ハ店舗ヲ建設スルコトハ、本会ニ於テ承諾難致旨通告ヲ発シ、又右借地ニ関スル件ハ大沢常議員ニ於テ担当スル旨ヲ附記セリ
一、本会使用ノ人員中給仕ハ九月限リ解雇シ、書記及ビ小使ハ従前ノ通リトス
 - 第41巻 p.63 -ページ画像 
一、資産情態
　（一）振替貯金在高金千七百円位
　（二）銀行当座預金残高金五百円位
　　　　　右二項ハ書記ノ記臆ニ係ル、受払通知書・通帳等焼失ノ為メ目下認メ得ズ
　（三）資金
　　　　（い）金拾四万四千九百五拾円（公債及寄附金）
　　　　　　　　内金五万参千弐百円未収
　　　　（ろ）金五千八百弐拾五円（祭典基金ヲ以テ買入レタル京城電気株五拾円券百株・同新株一回払込六十六株ノ額面価額）
　　　　（は）金七百六拾壱円参拾四銭（祭典基金現金在高）
　（四）会員醵出金本年度ハ約金八百円収納シ得ベク、来年度ハ金弐千円ヲ収納シ得ベシ
一、本会事業
　　一、講演・講義ハ本年中ハ休ミ、来年ヨリ従前ノ通リ行フ、但会場ハ適宜借受クベシ
　　一、研究ハ継続ス
　　一、雑誌ハ引続キ発行ス
　　一、来年四月挙行スベキ祭典ニ関シテハ、已ニ理事会ニテ話合ヒタルガ猶研究ノ上決定スベシ
　　　　提議之件
一、現ニ仮事務所ヲ服部方ニ設ケ置クモ、理事会・委員会等ヲ開クニ不便多ク、而シテ他ニ借入ルベキモノ、見込モ無キヲ以テ、資金ノ一部ヲ担保トシテ金弐千円ヲ借入レ、本会焼跡ニ二十坪ノバラツク式仮事務所ヲ建設シ、且必要ナル器具ヲ購入シ度、而シテ右借入金ハ来年度及来々年度ニ於テ償却シ得ル見込ナリ（工藤会幹ヨリ来年度収入支出ノ大体ヲ挙ゲ、数字ヲ以テ償却ノ見込ヲ説明セリ）右ニ対シ徳川会長ヨリ華族会館ノ一室ヲ事務所トシテ借入レ得ルヤモ知レズトノ説話アリ、尋イデ石黒顧問・矢野監事ヨリ
　　華族会館借用出来得ザル場合ニハ、金弐千五百円ヲ限度トシテ借入金ヲ為シ、仮事務所建設ノ事ヲ理事ニ於テ正副会長ト協議ノ上取計フコトノ決議ヲ為シ置クベシ
　トノ意見ヲ提出サレ、満場一致ニテ右ノ通リ決定ス
一、基本金募集ハ如何ニスベキカ
　右ハ当分延期ノ事ニ決ス
一、聖堂焼失ハ誠ニ惜ムベキ事ナルガ、之ガ再建ヲ図ルコトハ本会トシテ当ニ務ムベキ事ニアラザルカ、果シテ然リトセバ一方ニテハ文部当局ニ対シテ、本会ニテハ聖堂再建ノ意思有ルヲ以テ、現聖堂敷地ヲ他ニ使用セズ之ヲ保留サレンコトヲ交渉シ、一方ニテハ本会ニ委員ヲ置キテ再建ニ関スル具体案ヲ作製シタル上、更ニ評議ヲ請ヒ度シ
　右ハ、再建ノ目的ヲ以テ文部当局ニ対シ現敷地ノ保留ヲ交渉スルコト、及ビ会長指名ノ委員ヲ置クコトニ決ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
 - 第41巻 p.64 -ページ画像 
　備考
　　本会資金ノ内訳及来年度ニ於ケル利子等ノ見込
　　　　利子ハ已収金及来年度上半期受領分ノ利子ヲ計算ス
　　四分利公債額面金壱万九千五拾円　斯文学会ヨリ継承
　　　此利子金七百六拾弐円
　　四分利公債額面金壱千円　　　　　雑誌保証金
　　　此利子金四拾円
　　金参万円　御下賜金
　　　此利子金壱千八百円
　　金壱万円　子爵渋沢栄一君寄附内金八千円　已収　金弐千円　来年度下半期受領
　　　此利子金四百八拾円
　　金五万円　三菱合資会社長男爵岩崎小弥太君寄附内金弐万円　已収　金五千円　来年度上半期受領
　　　此利子金壱千参百五拾円也
　　金弐万円　三井合名会社長男爵三井八郎右衛門君寄附内金壱万円　已収　金壱万円　来年度上半期受領
　　　此利子金九百円
　　金参千円　伯爵松平直亮君寄附
　　　此利子金百八拾円
　　金壱千円　福島甲子三君寄附内金五百円　已収　金五百円　来年度上半期受領
　　　此利子金四拾五円
　　金参百円　宇野哲人君寄附
　　金参百円　塩谷温君寄附内金百五拾円已収
　　金参百円　中村久四郎君寄附内金五拾円已収
　　　此利子金拾弐円
　　金壱万円　公爵徳川家達君寄附内金壱千円　本年度末受領　金壱千円　来年度末受領
　　　此利子金六拾円
　以上資金合計金拾四万四千九百五拾円
　　　内金九万千七百五拾円　已収
　　　　金五万参千弐百円未収内金壱万六千五百円　来年度上半期迄ニ収入　金参千円　来年度下半期収入ノ予定
　京城電気株旧壱百株一株金五拾円新六十六株同上　但一回払込　額面金五千八百弐拾五円
　　　此配当金六百九拾九円
　金七百六拾壱円参拾四銭　　　　　　　　　　祭典基金現金在高
　　　此利子金四拾五円
　　以上利子配当合計金六千参百七拾参円
（謄写版）
拝啓、然者今回差上候報告之件中脱漏有之候に付、左の通り増補仕候
即ち資産情態中、振替貯金在高千七百円位の下に左の但書を加へ候
　　但銀行定期預金ニ移スベキ祭典基金在高金七百六拾壱円参拾四銭及福島甲子三・塩谷温・中村久四郎三君寄附金合計金七百円ハ現ニ振替貯金中ニ在ルモ、今暫ク之ヲ除キテ計算セリ
　　又銀行当座預金に関する説明中「認メ得ズ」とあるは「未ダ確メ得ズ」の誤写に付訂正仕候
　右御承知願上候　匆々
 - 第41巻 p.65 -ページ画像 
　　大正十二年十月二十日
　　　　　　　　　　　　　財団法人　斯文会総務　服部宇之吉