デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
4節 キリスト教団体
2款 世界日曜学校大会後援会
■綱文

第42巻 p.236-238(DK420056k) ページ画像

大正9年11月26日(1920年)

是日、当会主催第八回世界日曜学校大会総幹事ブラウン博士送別午餐会、帝国ホテルニ開カル。栄一出席シテ挨拶ヲ述ブ。


■資料

集会日時通知表 大正九年(DK420056k-0001)
第42巻 p.236 ページ画像

集会日時通知表 大正九年           (渋沢子爵家所蔵)
廿六日○一一月 金 午後零時半 世界日曜学校大会後援会主催ブラウン氏送別会(ホテル)


竜門雑誌 第三九一号・第六六頁 大正九年一二月 ◇世界日曜学校後援会主催ブラウン氏送別会(DK420056k-0002)
第42巻 p.236 ページ画像

竜門雑誌 第三九一号・第六六頁 大正九年一二月
◇世界日曜学校後援会主催ブラウン氏送別会 第八回世界日曜学校大会が去十月五日より十日間、東京市に開会せられたるは既報の如くなるが、右に付世界日曜学校米国本部総幹事ブラウン博士が、今夏来朝以来、専ら同大会並に其前後事務に鞅掌せられ、玆に無滞万般の用務を果されたるを以て、近々帰国の途に就く事となりしを以て、我が同大会後援会にては、同氏の送別旁其労を犒ふ為め、十一月廿六月午後十二時半、帝国ホテルに於て午餐会を催したる由なるが、当日は青淵先生・阪谷男爵・井深梶之助・小崎弘道・内田嘉吉・川澄明敏、コールマン、ランペ諸氏等二十余名出席し、定刻食堂を開き、デザートコースに於て、阪谷男爵及び青淵先生の懇篤なる挨拶に次ぎ、ブラウン博士の鄭重なる謝辞ありて、一同和気靄々裡に散会したりと云ふ。


竜門雑誌 第三九二号・第五〇―五二頁 大正一〇年一月 ○ブラウン博士送別午餐会に於て 青淵先生(DK420056k-0003)
第42巻 p.236-238 ページ画像

竜門雑誌 第三九二号・第五〇―五二頁 大正一〇年一月
    ○ブラウン博士送別午餐会に於て
                      青淵先生
 本篇は昨年十一月廿六日正午、帝国ホテルに於て開かれたる日曜学校大会後援会主催、ブラウン博士送別午餐会に於ける青淵先生の挨拶なりとす。(編者識)
ブラウン博士並に御列席の諸君
 本日は第八回世界日曜学校大会後援会の主催にて、ブラウン博士の為めに送別の小宴を設けましたので御座いますが、私はブラウン博士とは、此日曜学校大会の件に関して、過ぐる四・五年間、親しく御目に掛つた事もあり、又屡々文書の交換を致しましたので、お互に親密になりました為めに、今日同博士の御帰国を惜む情が深いのであります。
 今本大会に関する私の感想を極めて露骨に申上げると、本大会が実際東京に開かるゝ迄は一向見込が附きませんで、恰も盲人が象を探ぐ
 - 第42巻 p.237 -ページ画像 
る様な感じを抱いて居つたのでありました。然るにブラウン博士の斡旋の下に、今日御列席の諸君が熱誠に御尽力下さつた為め、本大会が満足に其目的を遂げて、我が国民の上に宗教的並に道徳的感化を与へましたことを、私は衷心から喜ぶので御座います、而して私一己と致しましても、世界日曜学校大会とは如何なるものであるか、何様な事を為すものであるかと云ふことを了解したのであります、聞く所によると、今回の大会には三十余ケ国の代表者が集合されて、此大勢の人人が一糸乱れず、十日間快活にして規律正しく進行したのは、真に敬服すべき事である、仮令へ博愛の精神に満てる宗教の基礎に立つて居る会合とは申ながら、会員諸君一般に訓練の届いて居るのと、其組織の完備して居る為めであると、感歎するので御座います、次ぎに申上げたいのは、宗教的会合であるから陰鬱窮屈なものと思ふて居りましたが、コーラスとかペイジエントとかいふ芸術がプログラムの中に組み込まれて、思想と感情との調節を計りましたから、万事が正確に且つ面白く運ばれたのは実に結構で御座いました、我々人類は常に厳格にして活動的生活を営むべきものでありますが、他の一面には愉快と慰藉とに満足を求むる必要があると思ひます、而して本大会は、此等の見地より考へても、人生の機微に触れて居つたと思ひます、私は十月十一日から病気となりました為めに、開会中充分の御役に立ちませんでしたが、病中も日夜其成功を祈つて居つたのであります、十三日に於ける後援会主催の歓迎会には、是非出席して御挨拶を致す積りであつたのですが、終に其望を果し得ずして、僅かに意見の代読を以て其責を塞ぐと申す様な訳で、真に遺憾に堪へぬ次第でありました、先刻阪谷男爵の演説中にもありました通り、私も大会の決議文を閲了して、大なる感激を覚えた一人であります、私が五日の夜に愚見を披瀝致しましたのも、亦十三日の後援会を代表して代読演説を致させましたのも、其旨意は決議文と一致して居ると思ふのであります、私は殊更に此宣言書を読む事を喜んだ次第であります、唯此処に一つ遺憾に思ひますことは、我邦の諸新聞が、斯る重要問題を広く民衆に宣伝して呉れぬ事であります、然し本大会の世界的事業であり、且つ崇高なる精神的運動であるといふ点に付ては、我が国民が相挙つて抹殺し難い印象を得たことは、疑ふことの出来ぬのであります。
 欧洲戦乱は全世界に諸種の変動を惹起しましたが、其変動中の一つは国際聯盟の産出であります、惜い哉アメリカは未だ此聯盟に加入して居りませぬが、早晩加入せらるゝことゝ思ひます、又加入せられんことを希望致します、之れに引き換へて、英・仏、其他の国には、政府も人民も共に力を合せて、此聯盟を擁護せんとして居ります、私は将来に於ける国際的平和を保証する為めには、必ず此種の機関を必要と思ふのであります、神は此の如き企画を好み給ふことゝ信じます、然るに此聯盟を有効ならしむるには最も以て道徳の進歩を要します、個人間でも、国際間でも、原理は一つでありますが、若し利害問題が道徳観念を圧倒する様では、決して将来に於ける国際的平和は望まれぬことゝ思ひます、私はキリスト教信徒ではありませんが、人間は道徳的生活を第一にせねばならぬと主張する点に於ては、キリスト教の
 - 第42巻 p.238 -ページ画像 
標榜する主義と相一致して居ります。
 ブラウン博士は、ニユー・ヨークへ御帰りの途上、加州方面を訪問せらるゝそうで御座いますが、どうぞ今回大会が決議しました精神を特に同地方に宣伝して戴き度いのであります、私共も微力ながら、我邦に於て此精神の普及に尽力する覚悟で御座います。
 最後に私はブラウン博士及ランペ博士が、海上無事、身体御壮健にして、故国の風光を楽まるゝ日の早からんことを希望して止まぬ次第であります。