デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
4節 キリスト教団体
4款 東京基督教青年会館復興建築資金募集後援会
■綱文

第42巻 p.262-267(DK420064k) ページ画像

大正15年3月10日(1926年)

是ヨリ先、関東大震火災ノタメ灰燼ニ帰シタル、東京基督教青年会館再建ノ議アルモ進捗セズ。十四年十二月アメリカ合衆国基督教青年会理事長ジョン・アール・モット来日シ、是議ニ参与ス。玆ニ於テ、本会館ノ復興建築資金募集後援会組織サレ、栄一、後藤新平・徳川家達ト共ニ相談役トナル。是日当会、日本工業倶楽部ニ於テ評議員会ヲ開キ、栄一出席シテ当会ノ目的達成ニツキ協議ス。


■資料

渋沢栄一 日記 大正一五年(DK420064k-0001)
第42巻 p.262 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正一五年        (渋沢子爵家所蔵)
一月二十一日 快晴 寒
○上略午前十一時事務所ニ抵リ、長尾半平・斎藤惣一二氏ノ来訪ニ接シ基督教青年会復興ニ関スル寄附金募集ノ事ヲ協議ス○下略
  ○中略。
一月二十八日 晴 寒
○上略午飧後、麻布ナル後藤新平氏ヲ訪ヒ、阪谷・長尾・斎藤氏等ト、基督教青年会ニ関スル寄附金募集ノ事ノ事《(衍)》ヲ協議ス○下略
  ○中略。
二月六日 晴 寒
午前○中略基督教青年会ノ斎藤宗一氏来《(斎藤惣一)》リ、復興寄附金募集ニ関スル勧誘ノ書類ヲ持参ス○下略
  ○中略。
三月六日 晴 寒
午前七時半起床、入浴ト朝飧トヲ畢リ、後長尾半平・斎藤惣一二氏来リ、青年会館改築ニ付、寄附金募集ノ方法ニ付種々依頼アリ、来ル十日工業倶楽部ニ於テ会同ノ手続ヲ協議ス○下略
  ○中略。
三月九日 晴 寒
午前○中略基督教青年会幹事斎藤惣一氏来リ、明日ノ集合ニ付テ協議ス○下略
三月十日 雨又曇 寒
○上略正午工業倶楽部ニ抵リ、基督教青年会館復興ノ事ニ要スル寄附金募集ノ事ヲ、来会者一同ト協議ス○下略


(増田明六)日誌 大正一五年(DK420064k-0002)
第42巻 p.262-263 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一五年      (増田正純氏所蔵)
二月一日 月 晴                 出勤
前十時、東京基督教青年会主事斎藤惣一氏の来訪ニ接す、同会館復興建築後援会設立ニ付き、其幹事として尽力せられたしとの懇談ありし
 - 第42巻 p.263 -ページ画像 
が、右ニ就てハ、去廿八日飛鳥山邸ニ於て、渋沢子爵より、過日後藤子爵邸ニ阪谷男爵・長尾半平(同青年会理事長)・斎藤惣一の三氏と会合、同会復興資金募集ニ付き後援会を設置する事を決し、阪谷男爵は会長、後藤子爵と予とハ相談役、又長尾・斎藤及増田を幹事とする事ニ決したれハ、多忙ならんも承知せよ、と之御内話ありしが、本日斎藤氏の来訪後、間も無く長尾氏も来訪ありて、是非承諾せられたしとの懇談あり、子爵が斯く相談役ニ為られし以上ハ、小生として応分の尽力は致すべきも、幹事たるの役名ハ免除せられたしと答へたるが、可成事務は自分の方ニて為すべきも、寄附金者の選定等ニ就てハ、何分援助を請ハされハ目的遂行上差支を生するニ付き、枉て承知を請ふとの事なりしかは、遂ニ応諾する事を約したり
○下略
  ○中略
六日○三月 土                  出勤
○上略
大倉組ニ大倉喜七郎氏及門野重九郎氏を訪問して、東京基督教青年会館復興後援会の評議員たる事を懇請し、門野氏より快諾を得たるが、大倉氏ハ多忙の由ニて面会せす、後日再訪の事として帰処したり
○中略
長尾半平氏来訪、青年会復興会の件ニ付、来る十日開会せらる会合ニ付、種々協議を為す
  ○中略。
十日○三月 水 晴                出勤
正午、工業倶楽部ニ於ける基督教青年会館復興後援会評議員会ニ、幹事として出席す、来会者は渋沢子爵・阪谷男爵外二十数名、阪谷男爵より一場の挨拶あり、長尾半平氏事業の大要を報告し、渋沢子爵、来会者各位の尽力を請ふ旨の演説ありて、内田嘉吉氏の発議にて、実行委員を設くる事となり、子爵より結城豊太郎・阪井徳太郎・昆田文次郎・三好重道・小野英次郎《(小野英二郎)》の五氏を指名し、此目的を達成するニ尽力せられたしとの依頼ありたり
因ニ後援会の役員ハ如左
東京基督教青年会館復興後援会
 会長 阪谷芳郎男爵
 顧問 渋沢子爵
 〃  後藤新平子爵
 〃  徳川家達公爵
 会計監督 森村開作男爵
 〃    福井菊三郎
 〃    米山梅吉
 幹事   長尾半平
 〃    斎藤惣一
 〃    増田明六
○下略

 - 第42巻 p.264 -ページ画像 

集会日時通知表 大正一五年(DK420064k-0003)
第42巻 p.264 ページ画像

集会日時通知表  大正一五年        (渋沢子爵家所蔵)
十日○三月 水 正午 東京基督教青年会復興資金募集後援会ノ件(日本工業クラブ)


東京基督教青年会 復興建築資金募集後援会書類(DK420064k-0004)
第42巻 p.264 ページ画像

東京基督教青年会 復興建築資金募集後援会書類 (渋沢子爵家所蔵)
          (栄一鉛筆)
          当日ハ時間通リ出席シテ、会長挨拶ノ後、一場ノ挨拶ヲ為シ、特ニ日米国交ニ論及シテ、此寄附金ヲ後援会ニ於テ完成セラレンコトヲ、来会者一同へ勧告セリ
    東京基督教青年会復興建築資金募集後援会評議員会
                時 大正十五年三月十日
                所 丸ノ内工業クラブ
一、挨拶 会長 男爵 阪谷芳郎
二、挨拶 相談役 子爵 渋沢栄一
三、青年会新会館トソノ事業 幹事 長尾半平
四、協議事項
   一、寄附金依頼ノ方法ニ就テ
     (イ)会長・相談役・評議員ヨリ直接御話ヲ願フ先々
     (ロ)会長・相談役・評議員ヨリ紹介状ヲ願フ先々
     (ハ)寄附依頼予定額ヲ定ムベキカ
     (ニ)既ニ御依頼シタル方々以外ニ尚評議員ニ御依頼スベキ方々ノ氏名
   二、寄附金取扱ニ就テ
     (1)(イ)一時払
       (ロ)二ケ年四回払、ノ二ツニスル事
     (2)預金特約ヲナスベキ銀行
        三井・三菱・安田・森村・古河・第一・十五・正金等
 イ 拾万円以上  弐口     弐拾万円
 ロ 五万円以上  壱口     五万円
 ハ 参万円以上  弐口     六万円
 ニ 弐万円以上  参口     六万円
 ホ 壱万円以上  五口     五万円
 ヘ 五千円以上  拾口     五万円
 ト 参千円以上  弐拾口    六万円
 チ 弐千円以上  五拾口    拾万円
 リ 壱千円以上  五拾口    五万円
    合計        金六拾八万円也


東京基督教青年会復興建築資金募集後援会趣意書 第一―八頁刊(DK420064k-0005)
第42巻 p.264-266 ページ画像

東京基督教青年会復興建築資金募集後援会趣意書 第一―八頁刊
    趣意書
 東京基督教青年会ハ基督教ノ主義ニ依リ、青少年ノ人格ヲ陶冶シテ
 - 第42巻 p.265 -ページ画像 
有為ノ材ヲ造リ、以テ社会ノ進運ニ貢献センコトヲ目的トシ、明治十三年ニ創立セラレタルモノナリ。同二十六年三月ニ至リ、現在ノ地神田美土代町ニ会館ヲ建築シ、更ニ同三十六年組織ヲ改メテ財団法人トナシ、三好退蔵・片岡健吉・江原素六ノ諸氏、相継デ理事長ニ任ジ、以テ現理事長長尾半平氏ニ至レリ。
 此間約半世紀、同会ハ其本来ノ目的タル宗教教育ハ勿論、諸般ノ社会教化事業ニ尽瘁シ来リタルガ、特ニ日露戦役ノ際ニハ、率先シテ満洲ノ曠野ニ軍隊慰問ニ従事シ、国際的事業ニ対スル貢献トシテハ、欧洲大戦ノ際、遠ク仏国及ビ西比利亜ニ於テ軍隊ノ慰問ニ努メ、事
天聴ニ達シテ、内帑金壱万円御下賜ノ恩命ニ浴スルコト、前後三回ニ及ベルガ如キ、又支那・露西亜ノ飢饉ニ対シ、全国各地ノ基督教青年会ト協力シ、義金数万円ヲ募リテ贈リタルガ如キ、即チ其顕著ナルモノナリ。
 斯ノ如ク過去卅年間、社会的事業ノ源泉地トシテ、又市内唯一ノ民衆的大講堂トシテ、能ク其使命ヲ果シ来リタル同青年会館ハ、大正十二年ノ大震火災ニ因リ、一朝ニシテ灰燼ニ帰シタルヲ以テ、同会当事者ハ直チニ之ガ再建ノ計画ヲ立テタレドモ、之ニ要スル概算資金百六拾万円ヲ得ルノ途ナクシテ、之ヲ実現スル能ハザリシガ、頃日渡来セル米国モツト博士ヨリ、右建築費ノ中、金百万円ハ既ニ米国有志間ニ於テ醵金ヲ了シ、寄贈ノ申出アリタルヲ以テ、当事者ノ議漸ク決シ、残額金六拾万円ヲ、本邦篤志家ノ寄附ニ仰ギテ、再建ニ着手スルコトトナリ、其義捐金募集ノ斡旋ヲ予等ニ求メ来レリ。
 思フニ、大東京ノ復興ハ、朝野ヲ挙ゲテ協心戮力シタル結果、今ヤ着々進捗シツヽアリト雖モ、精神的機関ノ復興ニ至リテハ、未ダ見ルニ足ルモノナシ、此時ニ当リテ、本会館ノ如キ有力ナル機関ヲ復興スルハ、啻ニ社会的事業ノ為メニ緊要ナルノミナラズ、又我ガ国青少年ノ教化・陶冶ニ尽サントスル米国有志者ノ厚誼ニ酬イ、併セテ両国間ノ親和ヲ増進スル所以ナルベキヲ思ヒ、玆ニ当事者ノ請ニ任セ、進テ後援会ヲ組織スルニ至レリ。冀クハ大方ノ諸彦、微意ノアル所ヲ諒シ奮テ助力セラレンコトヲ。
  大正十五年三月一日
        東京基督教青年会復興建築資金募集後援会
                  会長
                   男爵 阪谷芳郎
                  相談役
                   子爵 渋沢栄一
                   子爵 後藤新平
                  会計監査
                   男爵 森村開作

    東京基督教青年会復興建築資金募集後援会規約
      第一章 名称
第一条 本会ヲ東京基督教青年会復興建築資金募集後援会ト称ス
      第二章 目的
 - 第42巻 p.266 -ページ画像 
第二条 本会ハ東京基督教青年会復興建築資金募集(別紙参照)ヲ後援スルヲ以テ目的トス
      第三章 位置
第三条 本会ハ事務所ヲ東京市神田区美土代町青年会館内ニ置ク
      第四章 賛助員
第四条 本会ノ目的ヲ賛助スル者ヲ以テ賛助員トス
      第五章 役員
第五条 本会ニ左ノ役員ヲ置ク
     会長    一名
     相談役   若干名
     評議員   若干名
     会計監督  三名
     幹事    三名
     評議員・会計監督及幹事ハ会長之ヲ依嘱ス
      第六章 報告
第六条 寄附者ニ対シテハ時々精確ナル会計報告ヲナスモノトス
      第七章 解散
第七条 本会ハ第二条ノ目的ヲ達成シタル後解散スルモノトス

    復興建築収支予算
      収入
一、寄附金               一、六〇〇、〇〇〇円
     内訳
   (一)モツト博士ヲ通ジテ米国有志ヨリノ寄附金
                    一、〇〇〇、〇〇〇
   (二)日本ニ於ケル募金額       六〇〇、〇〇〇
      支出
二、復興建築費             一、六〇〇、〇〇〇
   (一)会館建築費         一、四〇〇、〇〇〇
        内訳
       会館建築並ニ設備経費   一、三〇〇、〇〇〇
       学生寄宿舎建築費        三〇、〇〇〇
       予備費             七〇、〇〇〇
   (二)敷地買収費           一〇〇、〇〇〇
   (三)復興事業費           一〇〇、〇〇〇
  ○ジョン・アール・モットハ数回来日シ、栄一等ノ歓迎接待ヲ受ク。本資料第二十五巻所収「其他ノ外国人接待」明治三十四年十月七日ノ条、同第三十九巻所収「其他ノ外国人接待」大正七年二月五日、大正十一年三月十四日、昭和四年五月二十八日ノ各条、同第三十四巻所収「日米関係委員会」大正十四年十二月二十日ノ条参照。尚本款昭和四年四月五日ノ条参照。


中外商業新報 第一四三八一号 大正一五年三月一一日 明年竣成する青年大会館 堂々たる七階建て 工費百六十万円で(DK420064k-0006)
第42巻 p.266-267 ページ画像

中外商業新報  第一四三八一号 大正一五年三月一一日
   明年竣成する青年大会館
     堂々たる七階建て
     工費百六十万円で
 - 第42巻 p.267 -ページ画像 
神田の基督教青年会は、さきにモツト博士が米国において募集し、無条件にて復興資金に提供した百万円を土台とし、更に我国にて六十万を募集して、ロンドン、ニユヨーク、ボストン等の青年館に劣らぬ
 大会館 建設の計画中の来朝を機として後藤子・渋沢子・阪谷男・徳川家達公等の発起で後援会が設立され、十日午後零時廿分から丸の内工業クラブで、その第一回評議員会が開かれた
 渋沢子・阪谷男・志立鉄太郎・阪井徳太郎・内田嘉吉・小野英二郎
 結城豊太郎・西野恵之助・昆田文治郎・団琢磨・服部金太郎・大倉和親氏等廿余名出席協議した結果
現在の神田美土代町に地下室を加へて七階建の鉄筋コンクリートの大会館を建てることゝなり、本年末までに寄附金を募集して来る九月
 起工し 明年一杯に竣成させる予定で、阪井・三好・結城・昆田・小野の五氏を実行委員に挙げた、そして本館の地下室には宴会室・撞球場等を設け、東京名物の一である大講堂は一階の後部に取り、千二百の座席を設け、二階・三階には大小廿一の教室や、理化学研究室を設けて、講習会や通俗大学講座に使用する、四階以上は寄宿舎として八十七室を作つて、内外人の宿泊に当る筈である、また
 附属の 体育館は目下建設中だが、九月には竣工するはずで、プールは二百名を容れ、ボーリングアレー、バスケツトボール、ボキシング、フエンシング等の設備がある