デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
5節 修養団体
1款 財団法人竜門社
■綱文

第43巻 p.146-156(DK430009k) ページ画像

大正12年4月29日(1923年)

是日、当社ハ第六十九回春季総集会ヲ飛鳥山邸ニ於テ開キ、栄一ニ寿杖ヲ贈ル。栄一病気ノタメ出席セズ。次イデ七月四日、当社評議員会、東京銀行倶楽部ニ於テ開カル。栄一出席ス。


■資料

竜門雑誌 第四二〇号・第五四―五五頁大正一二年五月 本社評議員会及び晩餐会(DK430009k-0001)
第43巻 p.146-148 ページ画像

竜門雑誌  第四二〇号・第五四―五五頁大正一二年五月
    本社評議員会及び晩餐会
本社評議員会は、四月二十三日午後五時半より、東京銀行倶楽部に於
 - 第43巻 p.147 -ページ画像 
て開催せられ、左記評議員諸氏列席の上、評議員会長阪谷男爵議長席に就き、左記議案に就き評議せられたり。
 第一 大正十一年度社務及会計報告承認の件
 第二 第六十九回春季総集会開催の件
 第三 入社申込者諾否決定の件
 第四 評議員半数改選の件
 第五 会員中満二十年以上継続会員にして満八十歳以上の高齢者を記念祝賀するの件
右第一乃至第三の議案は別項所載の通り原案を可決し、第四議案は現評議員中左記十氏任期満了に付き、社則第十六条に依りて、之が改選を行ひ議長の指名に一任したるに、阪谷議長は左の通り之を選定したり。
  任期満了の評議員
 石井健吾君  服部金太郎君   田中栄八郎君
 高根義人君  八十島樹次郎君  増田明六君
 清水一雄君  白岩竜平君    渋沢元治君
 鈴木紋次郎君
  阪谷議長の指名に依り新任したる評議員
 石井健吾君  八十島樹次郎君  増田明六君
 渋沢元治君  鈴木紋次郎君   (以上重任)
 利倉久吉君  渡辺得男君    永田甚之助君
 木村雄次君  中村鎌雄君    (以上新任)
引続き評議員の互選を以て、幹事に明石照男・増田明六の両君を推選したり。而して第五議案の祝すべき高齢者に該当する名誉会員青淵先生(天保十一年二月十四日生本年八十四歳)及び特別会員尾高幸五郎君(天保十四年九月二十四日生本年八十一歳)に対し「寿杖」を贈呈するに決し、其杖柄は銀製として、本社名に因み、竜を彫刻、尚ほ左の文字を現はす事として、其意匠を特別会員渋沢篤二君に嘱する事となれり。
 第一号 寿枚
        大正十二年四月二十九日
   贈呈              竜門社
  青淵先生閣下
にして尾高君の分は第二号とし、向後之が番号を逐ふ事とせり。
 斯くて同六時半評議員会を終り、引続き新旧評議員及び会員有志の晩餐会を催したるが、食後協調会理事田沢義鋪氏の、欧洲各国に於ける社会問題の現況に関する有益なる講演あり、尚ほ演後之に関し、来会者の質疑応答ありて同十時散会せり。因に当日の出席者諸君左の如し。
 石井健吾君    服部金太郎君  穂積重遠君
 八十島樹次郎君  増田明六君   明石照男君
 阪谷男爵     白岩竜平君   渋沢義一君
 鈴木紋次郎君   杉田富君    (以上評議員)
 土肥修策君    脇田勇君    植村澄三郎君
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 山口荘吉君    斎藤峰三郎君  白石元治郎君
                  (以上前評議員)
 石川道正君    利倉久吉君   神田鐳蔵君
 永田甚之助君   中村鎌雄君   山本栄男君
 前原厳太郎君   藤村義苗君   昆田文次郎君
 西条峰三郎君   木村雄次君   渋沢篤二君
 渋沢秀雄君            (以上会員)


(増田明六)日誌 大正一二年(DK430009k-0002)
第43巻 p.148 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一二年      (増田正純氏所蔵)
四月十七日 火 曇
午前八時半阪谷男爵を同邸ニ拝訪、来廿三日開催セらるゝ竜門社評議員会ニ於ける、評議員半数改撰候補者の決定及同夜講演者依頼、並来廿九日開催の同社総集会ニ於ける講演者依頼の件ニ付き、指揮を受け○下略
  ○中略。
四月廿三日 月 晴
○上略
午後五時銀行倶楽部ニ於て、竜門社評議員会あり、小生其任期満了の処再撰就任す、引続き互撰の結果、明石照男氏及小生幹事ニ当撰就任を諾す
評議員会終了後、晩餐会を催うし、終りて協調会理事田沢義鋪氏の、欧洲に於ける労働問題の現況に就き極めて有益の談話あり、後、植村澄三郎・藤村義苗両氏等の、阪谷男爵及田沢氏を中心としたる種々の談話あり、午後十時半散会


竜門雑誌 第四二〇号・第五五―五九頁大正一二年五月 本社第六十九回春季総集会(DK430009k-0003)
第43巻 p.148-152 ページ画像

竜門雑誌  第四二〇号・第五五―五九頁大正一二年五月
    本社第六十九回春季総集会
 本社第六十九回春季総集会は、四月二十九日午前十時、飛鳥山曖依村荘に於て開会せられたり。朝来、天候険悪にして、密雲低迷せるも強風の為めに、雨を見ざりしは幸ひなりき。定刻評議員会長阪谷男爵開会を宣し、次で幹事増田明六君、大正十一年度社務及会計報告ありて満場の承認を得、次で阪谷会長より、本日青淵先生微恙の為め遺憾ながら出席せられざる旨の報告ありたる後、向後本会々員として二十年以上継続したる、年齢満八十歳以上の会員に対し、其天寿を賀する為「寿杖」を贈呈する事となりたる旨を告げ、先づ本日の総集会を機として、右に相当せらるゝ名誉会員青淵先生、特別会員尾高幸五郎君に贈呈すべしとて、青淵先生代理同令息渋沢篤二君、尾高幸五郎君代理同令孫尾高豊作君に、之が目録を交付し、且つ老来元気旺盛にして矍鑠壮者を凌ぐ両翁に対し、杖を贈呈するが如きは、如何にも老人扱ひをするやうにて、或はお叱りを受くるやも図られざるも、爾来我社同人は、両翁を杖とも柱とも頼みて其指導を仰ぎ、以て今日に至りたるが、今後は我社同人が、両翁の杖とも柱ともなりて、国家社会に奉仕したしとの意――即ち先輩之を輓き、後進之を押す意味が、此杖に含まれ居ることを御承知ありたしとの挨拶を陳べたるに対し、渋沢篤
 - 第43巻 p.149 -ページ画像 
二君授彰者側を代表して懇篤なる謝辞あり。次で講演会を開き、文学博士姉崎正治君の「本能と理智と理想」なる題下に、有益なる講演あり、右終つて園遊会を開き、会見一同後庭に設けられたる模擬店、生麦酒・シトロン・燗酒・甘酒・天麩羅・煮込・寿司・蕎麦・団子等の各露店に打ち興じ、最後に支那人李彩の曲芸、狸家連の喜劇等の余興に、歓を尽して散会せるは午後三時過ぎなりき。
 因に当日報告せられたる大正十一年度社務及会計報告は左記の如し
    社務報告

一、会員
 入社会員{特別会員 拾七名通常会員 弐拾壱名}            合計参拾八名
 退社会員{特別会員 拾弐名通常会員 拾五名}             合計弐拾七名
 現在会員{名誉会員 壱名特別会員 四百八拾四名通常会員 五百参拾五名}合計壱千弐拾名
本年度に於て通常会員より特別会員へ編入替の会員参拾四名ありたり
一、現在役員
 評議員会長      壱名
 評議員(会長幹事共) 弐拾名
 幹事         弐名
一、集会
 総集会        弐回
 評議員会       弐回
一、雑誌発行部数
 毎月一回      約壱千九拾部
 年計       壱万弐千百拾部
    会計報告
      収支計算
        収入之部
一金七千百九拾九円八拾六銭      配当金及利息
一金弐千百八拾壱円九拾銭       会費収入
一金弐百七拾弐円也          寄附金収入
一金八拾九円七拾弐銭         雑収入
  合計金九千七百四拾参円四拾八銭
        支出之部
一金壱千五百四円四拾銭        総集会費
一金百九拾六参拾壱銭         評議員会費
一金弐千百五拾円七銭         雑誌印刷費
一金弐千百参拾五円也         俸給及諸給
一金六百参拾七円九拾八銭       税金
一金百参拾壱円四拾八銭        郵税
一金百九拾弐円九拾銭         雑費
  合計金六千九百四拾八円拾四銭
差引
  超過金弐千七百九拾五円参拾四銭

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          但積立金に編入したり
      貸借対照表
        貸方之部
一金四万四千弐拾弐円弐拾九銭     基本金
一金参万四百七拾七円参拾七銭     積立金
一金壱万九千円也           借入金
  合計金九万参千四百九拾九円六拾六銭
        借方之部
一金九万千六百四拾七円弐拾五銭    有価証券
     内訳
一金五万七千円也     第一銀行旧株九百株(一株に付金六拾参円参拾参銭余の割)
一金参万参千七百五拾円也 第一銀行新株九百株(一株に付金参拾七円五拾銭の割)
一金八百九拾七円弐拾五銭 四分利公債額面壱千円(額面に付金八拾九円七拾弐銭余の割)
一金七拾壱円拾銭           什器
一金四拾弐円也            保証金
一金弐百八拾七円九拾銭        書籍
一金壱千四百参拾四円九拾銭      銀行預金
一金拾六円五拾壱銭          現金
  合計金九万参千四百九拾九円六拾六銭
又同日来会せられたる会員諸君の氏名如左
 来賓
 姉崎正治君
△会員
 石井健吾君   磯野敬君     石川道正君
 五十嵐与七君  石井与四郎君   石田豊太郎君
 井上成一君   伊藤大三郎君   今井晃君
 飯沼儀一君   伊藤保雄君    井田善之助君
 磯村十郎君   井田英一君    伊沢鉦太郎君
 服部金太郎君  速水柳平君    原胤昭君
 長谷川粂蔵君  林武平君     林広太郎君
 長谷部九能君  秦乕四郎君    馬場信豊君
 橋本修君    西野恵之助君   西田敬止君
 西村暁君    西潟義雄君    西正名君
 堀内明三郎君  堀口新一郎君   星島米治君
 苫米地義三君  土肥脩策君    戸村理順君
 利倉久吉君   戸谷豊太郎君   友野茂三郎君
 東郷郁之助君  土肥東一郎君   藤堂清君
 尾高幸五郎君  大橋光吉君    大原春次郎君
 尾高豊作君   大原万寿雄君   岡崎寿市君
 大須賀一郎君  小田島時之助君  太田資順君
 大塚直次郎君  奥川蔵太郎君   小野弥平君
 大井康守君   岡原重蔵君    大場晃君
 岡田能吉君   大平宗蔵君    小畑久五郎君
 岡崎惣吉君   大島昌君     和田義正君
 - 第43巻 p.151 -ページ画像 
 和田二郎君   渡辺得男君    渡辺轍君
 川田鉄弥君   金井滋直君    神谷十松君
 川村桃吾君   川島良太郎君   金子喜代太君
 金沢通誠君   金古重二郎君   上倉勘太郎君
 笠間広蔵君   神谷祐一郎君   鎌田繁治君
 笠原孝太郎君  横田好実君    横山徳次郎君
 吉岡俊秀君   吉住正治君    吉岡義二君
 米谷吉五郎君  田中栄八郎君   高瀬荘太郎君
 多賀義三郎君  田中太郎君    田中徳義君
 高松録太郎君  高橋光太郎君   田島昌次君
 田村叙卿君   高橋俊太郎君   玉江素義君
 玉木真君    高橋森蔵君    高畠登代作君
 高山仲助君   俵田勝彦君    高橋養之助君
 玉虫貞介君   高橋毅一君    土屋熙君
 辻徳四郎君   中田忠兵衛君   成瀬隆蔵君
 永野護君    中村鎌雄君    中村新太郎君
 内藤太兵衛君  長宮三吾君    中野時之君
 長井喜平君   村松秀太郎君   武藤忠義君
 村山革太郎君  植村金吾君    植村澄三郎君
 梅沢慎六君   上野金太郎君   上野政雄君
 上原久二郎君  野治忠直君    野治義男君
 倉田亀吉君   熊沢秀太郎君   久保田録太郎君
 山口荘吉君   安田久之助君   八十島樹次郎君
 矢野由次郎君  簗田𨥆次郎君   山本栄男君
 大和金太郎君  山口乕之助君   山本宣紀君
 山村米次郎君  安井千吉君    安田武彦君
 八木安五郎君  八木仙吉君    前原厳太郎君
 松谷謐三郎君  松谷正敏君    松平隼太郎君
 松本常三郎君  増田明六君    松村修一郎君
 松園忠雄君   馬淵友直君    松本幾次郎君
 健正聡君    福島甲子三君   古橋久三君
 福島元朗君   藤木男梢君    古田元清君
 深沢真二郎君  藤井哲造君    福島三郎四郎君
 藤里稲田君   河野通君     河野正次郎君
 古田中正彦君  昆田文次郎君   小畔亀太郎君
 後藤謙三君   小島順三郎君   小林徳太郎君
 近藤竹太郎君  小林茂一郎君   小宮善一君
 児玉利光君   後久泰次郎君   小林清三君
 近藤良顕君   高妻俊秀君    小山平造君
 江藤甚三郎君  江原全秀君    出口和夫君
 麻生正蔵君   新井源水君    安達憲忠君
 明石照男君   粟飯原蔵君    相沢才司君
 荒川虎男君   網蔵孝直君    綾部喜作君
 西条峰三郎君  佐藤正美君    阪谷男爵
 - 第43巻 p.152 -ページ画像 
 三枝一郎君   斎藤平治郎君   桜井竹蔵君
 佐藤林蔵君   佐野金太郎君   木村金太郎君
 木下憲君    湯浅徳次郎君   湯浅泉君
 水野豊次郎君  湊屋梅吉君    峰岸盛太郎君
 御崎教一君   水辺喜一郎君   芝崎確次郎君
 白石甚兵衛君  渋沢武之助君   渋沢正雄君
 渋沢秀雄君   清水一雄君    白岩竜平君
 渋沢篤二君   渋沢義一君    守随真吾君
 渋沢元治君   重野治右衛門君  柴田亀太郎君
 東海林吉次君  清水百太郎君   弘岡幸作君
 平賀義典君   昼間道松君    平塚貞治君
 持田巽君    桃井可雄君    門馬政人君
 森戸伝之丞君  関口児玉之輔君  関直之君
 瀬川太平次君  杉田富君     鈴木紋次郎君
 鈴木金平君   鈴木善助君    鈴木順一君
 鈴木源次君   杉田丑太郎君   鈴木房明君
 鈴木玉寿君   鈴木旭君     鈴木勝君
 鈴木豊吉君   鈴木富次郎君
其他会員外の諸君拾余名なりき。
 尚ほ当日、本会に対し左記の諸君より寄附金を辱うせり、玆に謹んで謝意を表す。
 一金弐拾五円也       東京印刷会社殿
 一金弐拾円也        穂積男爵殿
 一金弐拾円也        阪谷男爵殿
 一金弐拾円也        神田鐳蔵殿
 一金拾円也         星野錫殿
               以上


竜門雑誌 第四二二号・第二四―二八頁大正一二年七月 ○本社春季総集会に於ける挨拶 男爵阪谷芳郎(DK430009k-0004)
第43巻 p.152-155 ページ画像

竜門雑誌  第四二二号・第二四―二八頁大正一二年七月
    ○本社春季総集会に於ける挨拶
                   男爵阪谷芳郎
  本篇は、四月廿九日開催の本社第六十九回春季総集会に於ける、阪谷評議員会長の挨拶なりとす。(編者識)
 只今より第六十九回の春季総会を開きます。今日は生憎曇天で、且つ非常に風の強いにも拘らず、多数御来会下さいましたことを感謝致します。青淵先生は御承知の通り、先日来少し風を引かれて居りまして、今日は天気が好ければ、御出になる筈でありましたが、斯う云ふ不順の場合でありますから、遠慮致さるゝことに相成りました。只今から事業並に会計の報告を致します。それが済みますと、次に本社会員になつて二十年以上の人で、八十歳以上になつた御方に寿杖を進呈することに致します、其式を行ひます。それから姉崎博士の御講演があります。其後で青淵先生の御講演があります筈でありますが、それは今日はございませぬ、園遊会の方に移ることに相成ります。
  (増田幹事の社務及会計報告)
 - 第43巻 p.153 -ページ画像 
 別に御質問もございませぬから、報告は承認と決します。是から式に移ります。
 青淵先生代理渋沢篤二君。渋沢青淵先生は本会創立以来の恩人でありまして、今年八十四歳になられます。前に八十の寿と並に陞爵を御祝ひする案が出来まして、此処に立派な文庫も既に出来上つて居る次第であります。此度竜門社評議員会に於きまして、八十歳以上に達した人には、吾々も亦それに肖かるが為に杖を御祝に差上げると云ふことの規定が出来ました。但し二十年以上の会員に限ります。如何となれば、八十歳となつて急に入会して杖だけ上げると云ふやうな事になつては、意義を成さぬことになります。即ち寿杖第一号を玆に青淵先生の代理、渋沢篤二君に差上げます。
  (寿杖を贈呈す)
 次に本会特別会員尾高幸五郎君代理尾高豊作君。尾高幸五郎さんは是亦本会創立以来、始終本社が御厄介になります。殊に総集会又時々の催などに付きまして、種々の御好意に預ります。尾高幸五郎君も八十歳に御成りになりまして、尚ほ非常に矍鑠として此処に御出席になつて居ります。吾々も亦同君の寿に肖かるやうに切に希望する次第であります。玆に祝賀の規程に依りまして、寿杖の第二号を尾高幸五郎君に進呈致します。尾高幸五郎君の御孫さんたる豊作君が代理として御受取になります。
  (寿杖を贈呈す、終つて渋沢篤二君の謝辞)
 尚ほ此等杖を上げました理由を、一言申添へて置きます。吾々は詰り斯う云ふ先輩を杖として仰ぎたいと云ふ意味も籠つて居ります。同時に吾々が又先輩の杖となつて働くと云ふ意味も籠つて居ります。即ち先進の士之れを引き、後進の士之れを推す、と云ふ韓退之の名句がございますが、日本実業界の為に生れた此竜門社は、無意味に此寿杖を献上したのではございませぬ。左様なる深遠の意味を持つて居ることを、一言説明を加へて置きます。只今より姉崎博士の御講演がございます。御清聴あらんことを希望致します。
  (姉崎博士の講演)
 只今姉崎博士が長時間に亘りまして、六ケしい哲学のお話を、吾々に能く分るやうに、咀砕いてお話下いましたことは、余り竜門社では此類のお話を従来聴くことを得なかつたので特に有益に感じました。会員一同を代表しまして御礼を申上げます。総会には欠くべからざる青淵先生の御講話を、今日聴くことの出来ませぬのは、甚だ遺憾に存じます。併し先程も申上げました如く、青淵先生は八十四歳、今日まで度々御講演がありました。此竜門雑誌の最初の一頁に訓言も載つて居ります。正義仁道を説かれてございます。丁度我実業界は今日の天気の如く、少しく険悪になつて居ります。是は日本ばかりではない、世界を通じて、少しく実業界は険悪になつて居りますが、昨今少しく又中間景気であるか、之が本当の景気であらうか、と云ふ問題も起つて多少景気が戻つて居る点もある。此点に付きましては、会員諸君の大に攻究を要する点であらうと思ひます。昨晩東京経済学協会で、今泉博士の独逸のインテレツセン・ゲマインシヤフト即ち利益組合と
 - 第43巻 p.154 -ページ画像 
云ふお話がありました。是は近来にない有益の話で、日本では戦後の策は合同にある、或はトラストにある、或はシンジゲートにある、或は独逸のカルテルにある、此カルテルまでの話は今日まで能く人が説いて居りますが、独逸の今日の有様はルールを取られ、ルクセンブルヒを取られシレシヤを取られ、色々大きな会社が非常に困難に陥つて居る所から、従来のトラストでもシンジゲートでもカルテルでもいけない。更に一歩進んでインテレツセン・ゲマインシヤフトと云ふもの即ち利益組合とでも訳しますか――を作つて、戦後の経営を今営んで居ると云ふお話でありました。それ故に独逸の物品は安い。戦後の回復は若し賠償金問題の解決した暁には、早いであらうと云ふお話で、其一例としてシーメンス・シユツケルト会社あたりの関係して居る四十億円からの大きなインテレツセン・アルゲマインシヤフトの御話などがありました。詰り独逸の今日の遣方は、法人の形式を変更するのでなく、現在ある法人が、其他一つのイツテレツセン・ゲマインシヤフト、即ち利益組合を作つて、さうして総ての工業をやつて行く、其例は郵船会社も三井も三菱も住友も古河も第一銀行も、謂はゞ色々なものを皆併せたやうな非常な組合、之を経営して行くと云ふに付ては非常な、其処に理想がなくてはならぬ。姉崎博士のお話の所謂理想がなくてはならぬ、本能と理智のみではいけない。其理想に長じ、本能と理智を能く配合して、而して商業道徳の趣意に依つて営む人物が独逸にあるから、之が出来るのであらうと思ひます。此今泉博士のお話も、明日あたりの新聞には出るでありませうが、余程面白い話でありました。今日は洵に姉崎博士のお話は、一見して吾々実業の問題とは遠ざかつたかのお話に見えるのでありますが、之を翫味致しますと悉く吾々実業界の仕事が、此本能・理智・理想の問題に基かなければならぬ。非常に吾々に啓蒙の利益を与へられた訳であらうと思ひます。玆に再び深く御礼を申上げます。又青淵先生の今日の御欠席を遺憾に存じます。諸君と共に先生の御回復の一日も速かならんことを祈る次第であります。是より園遊会に移りまして、又此席に於て余興もありますさうで、緩くりと一日の歓を尽されんことを望みます。是で講演会を閉ぢます。

    ○寿杖贈呈式に於ける謝辞
                      渋沢篤二
 阪谷評議員会長、評議員各位並に会員諸君、本日は、本社に二十年以上引続き会員として居らるゝ八十歳以上のお方に寿の杖を下さるとの事にて、只今阪谷評議員会長よりの御挨拶にて、其第一号に青淵翁が当らるゝ事と相成、難有御受致さるゝ筈の処、生憎風邪にて引籠中故、私が代てお目録を拝受致した次第で御座います、誠に目出度き御企で難有謹で御礼を申上ます。翁が出席を致居ましたら、厚く御礼と共に所感を申上る事であらうと存じますが、欠席にて其義の叶ひません事を残念に存じますが、右の趣を申聞けましたら、定めし御厚意を非常に喜びます事と存じます。尤風邪は当分の事で御座いますから、全快の上何れ次の機会に親しく御礼を申上ます事と存じますが、多分
 - 第43巻 p.155 -ページ画像 
自分が第一に目出度い杖を頂きましたが、会員の皆様にも必ず此の杖を一本づゝ御持に相成る様、御長寿を期待し、又希望致すと申上る事と存じます。尚尾高幸五郎君も同様之にお当りにて、矢張頂戴致された事を、目出度御祝申上る事で御座ひますが、就ては同君親しく御受成さるゝ筈の処、お年寄の事故此御席に出ては御いでゝすが、孫さんの豊作君が代つて受けられました次第で、又緩々之よりも御礼を申上るべきで御座いますが、之より貴重な御講演が御座います事故、御妨げと存じ右を略されます事を、不悪御諒承を願ひ度く、之も私が代つて申上ます。


(増田明六)日誌 大正一二年(DK430009k-0005)
第43巻 p.155 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一二年      (増田正純氏所蔵)
四月廿九日 日 風 曇
○上略
午前十時飛鳥山邸ニ於て竜門社第六十九回春季総集会開催せらる、順序如左
 開会之辞     阪谷評議員会長
 社務及会計ノ報告 増田幹事
 入会二十年にして八十歳以上の高齢会員祝賀記念品贈呈式
  名誉会長 青淵先生   八十四才 寿杖壱 第一号
  特別会員 尾高幸五郎君 八十二才 〃   第二号
   右青淵先生代渋沢篤二君、尾高幸五郎氏代尾高豊作君之を受取
 講演会
  本能ト理智ト理想 文学博士 姉崎正治君
右終て園遊会、引続キ余興
午後三時終了
子爵ニハ今朝三十七度六分の御発熱あり、為之総集会ニ出席を見合ハセらる、総集会終了後御病室ニ在りて書類の整理を為し、五時帰宅す


竜門雑誌 第四二二号・第五七頁大正一二年七月 ○本社評議員会及晩餐会(DK430009k-0006)
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竜門雑誌  第四二二号・第五七頁大正一二年七月
○本社評議員会及晩餐会 本社評議員会は、七月四日午後六時より、東京銀行倶楽部に於て開会し、左記評議員諸氏出席の上、阪谷評議員会長議長席に就き、(一)入社申込者諾否決定の件(二)通常会員岩永尚作君に寿杖第三号贈呈の件は、満場異議なく原案を可決したるが内岩永君に対する寿杖贈呈に関しては、追て今秋の総集会に於て報告の上其承認を求むることに決したり。
 斯くして評議員会を終り、引続き六時半より、評議員・前評議員及び会員有志の晩餐会に移り、食後法学博士牧野英一氏の講演ありて、午後十一時盛会裡に散会せり。
 青淵先生     牧野英一君
 石井健吾君    穂積重遠君    土岐僙君
 利倉久吉君    中村鎌雄君    永田甚之助君
 八十島樹次郎君  増田明六君    明石照男君
 阪谷男爵     佐々木勇之助君  木村雄次君
 渋沢義一君    渋沢元治君    諸井恒平君
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 杉田富君     鈴木紋次郎君   (以上評議員)
 井上公二君    服部金太郎君   堀越善重郎君
 土肥脩策君    大川平三郎君   脇田勇君
 田中栄八郎君   高根義人君    植村澄三郎君
 山口荘吉君    佐々木清麿君   佐々木慎思郎君
 清水釘吉君    清水一雄君    桃井可雄君
                   (以上前評議員)
 井上徳治郎君   長谷川粂蔵君   西野恵之助君
 西村暁君     星野辰雄君    戸村理順君
 小田川全之君   大原万寿雄君   岡原重蔵君
 金井滋直君    神田鐳蔵君    川島良太郎君
 神谷義雄君    川口一君     田中太郎君
 多賀義三郎君   玉木泰次郎君   竹田政智君
 村木善太郎君   村松秀太郎君   植村金吾君
 野村鍈太郎君   矢野由次郎君   山中譲三君
 山本鶴松君    松平隼太郎君   小林武之助君
 昆田文次郎君   小池国三君    河野通君
 河野正次郎君   阿部吾市君    新井源水君
 麻生正蔵君    西条峰三郎君   斎藤精一君
 桜井武夫君    北脇友吉君    渋沢篤二君
 渋沢正雄君    渋沢秀雄君    白石喜太郎君
 渋沢長康君    (以上会員)
  外ニ
 篠原三千郎君


(増田明六)日誌 大正一二年(DK430009k-0007)
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(増田明六)日誌  大正一二年     (増田正純氏所蔵)
七月四日 水 曇
○上略
夕、竜門社評議員会ニ出席、餐後帝大教授法学博士牧野英一氏の講演あり、頗る有益の講話にて一同傾聴したり