デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
5節 修養団体
4款 財団法人修養団
■綱文

第43巻 p.469-470(DK430083k) ページ画像

大正元年11月1日(1912年)

是日栄一、当団顧問トシテ、森村市左衛門ト連名ニテ、当団ニ対シ協力援助ヲ懇請スル趣旨ノ書状ヲ発ス。


■資料

向上 第六巻第一号・口絵写真版大正元年一一月 【拝啓、益御清適奉賀候、然者拙者…】(DK430083k-0001)
第43巻 p.469 ページ画像

向上 第六巻第一号・口絵写真版大正元年一一月
拝啓、益御清適奉賀候、然者拙者共数年前より助力いたし居候青年修養団之義者青年之風紀改善之目的を以て結合致し、今や創立後七ケ年を経て漸次其方法を実施し、監督寄宿舎を設け、修養講演会を開き、雑誌を発行し、其他各地遊説等を以て青年指導に尽瘁致し候処、此際更に進むて広く同志を募り其目的を拡張致度との決議を以て、別紙趣意書を発表いたし候ニ付ては、拙者共ニ於ても深く同情致候義ニ御座候、願くハ同団之精神を御諒知被下、此挙に対し相当之御援助被成下度懇願之至ニ候、右御紹介旁得貴意候 敬具
  大正元年十一月一日         修養団顧問
                      渋沢栄一
                      森村市左衛門
   ○別紙趣意書ヲ欠ク。
 - 第43巻 p.470 -ページ画像 


〔参考〕向上 第六巻第一号・第九頁大正元年一一月 訪問記 渋沢男爵(DK430083k-0002)
第43巻 p.470 ページ画像

向上 第六巻第一号・第九頁大正元年一一月
    訪問記
  渋沢男爵
△修養団の主義主張は自分が至極賛成する所であり、又創立以来七年の間よく其志を変へず、実行実働して来つた堅忍持久の精神に感ずるが故に益々助力致す積りである。私が関係してから既に四年にもなつたが、今後も死ぬ迄力添えをする。森村君も先日自宅を尋ねられて、「これ迄は永々病気引籠りで尽力することも叶はず居つたが、今度病気も追々全快に赴いたから力添を致されよう、何とかして志望を達せさせたいものだ、私共は出来得る限りの力を注がう」と語られた。君等も一層精励して目的を貫徹するやうにしてもらひたい。修養団のやうな精神的事業を賛成せぬ者は無からうが、口先のみで大賛成の意を表しても実際力添をせぬならば何にもならぬ。又精神的の尽力のみあつても物質的の尽力がなければ事業を経営することが出来ぬ。夫れ故両方面の尽力を特志の人に願はねばならず、又社会を思ふ先輩ならば進んで夫れ等の尽力を致すべきものではあるが、時によると乞食に物でもやるやうな態度を以て金銭を寄附する人もあり、又は利用したい野心から尽力する人もないとも限らぬ。かゝる人々は精神的事業が如何に尊重すべきものであるかを知らぬ人である。君等は此辺を考へて真に精神から出でゝ快く尽力する人の好意を受けて大に活動するの素地を造らねばならぬ。
△尚玆に幹部諸君に大に警告を与へねばならず、又反省してもらはねばならぬことがある。精神的事業といふものは必ず中心的人物があつて、其精神を精神とし其行動を行動として働く数多の犠牲者を要するものである。キリストには十一人の弟子があり、孔子には十人の高弟がありて、皆互に誠心を捧げて大精神の宣伝に全力を竭したのである修養団でも其発展を期する上に基礎を鞏固にする上には、是非幹部の人は皆中心人物と皆同一の精神となりて歩調を揃へて働くことにせねばならぬ。修養団を利用するやうな野心家が団員中にあつたならば、それこそ獅子身中の虫で、大なる害毒を流すに至り修養団の発展を阻害することになる。従来は未だ社会的団体として認められなかつたのが、今度からは追々社会より注視されるやうになるのであるから、一層相戒めて互に過失なきやうにせねばならぬ。株式会社でさへ重役と重役と互に相反したやうな議論を社会に向つて発表したり、甲は乙を誹議し、乙は甲を反駁するやうな態度では其会社は社会の信用を落し必ず盛大にならぬ。まして精神的事業であれば個々独立の考を以て行動することは大の禁物である。修養団が発展するも瓦解するも原因は玆にある。大に注意して精神の統一を計らねばならぬ。
○下略