デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

4章 道徳・宗教
5節 修養団体
8款 其他 5. 八基村青年団血洗島支部
■綱文

第44巻 p.110-112(DK440039k) ページ画像

大正10年9月27日(1921年)

是日、栄一ノ帰郷ヲ機トシ、八基村青年団血洗島支部ハ、青淵記念村立図書館ニ於テ、同地ノ敬老会ヲ催ス。栄一出席シテ演説ヲナス。


■資料

集会日時通知表 大正一〇年(DK440039k-0001)
第44巻 p.110 ページ画像

集会日時通知表  大正一〇年       (渋沢子爵家所蔵)
九月廿七日 火 血洗島ヘ御出向、同地ニ御一泊
  廿八日 水 血洗島ヨリ御帰京


村社諏訪神社中興史 第九五丁(DK440039k-0002)
第44巻 p.110 ページ画像

村社諏訪神社中興史  第九五丁      (諏訪神社所蔵)
    渋沢子爵渡米に付祈願祭
○上略
血洗島青年団は閣下の帰郷○大正一〇年九月二七日を期とし、八基村在住八十才以上の高齢者を招待し、敬老会を催し館○青淵記念村立図書館を会場とす、閣下には一場の御講演あり○下略


竜門雑誌 第四〇一号・第一八―二〇頁 大正一〇年一〇月 ○敬老会に於て 青淵先生(DK440039k-0003)
第44巻 p.110-112 ページ画像

竜門雑誌  第四〇一号・第一八―二〇頁 大正一〇年一〇月
    ○敬老会に於て
                      青淵先生
  本篇は、去月二十七日、青淵先生帰郷の際、八基村青年団血洗島
 - 第44巻 p.111 -ページ画像 
支部主催の敬老会に於てなされたる演説の概要にして、渋沢誠一氏の憶記にかゝるものなり。(編者識)
 今日図らずも玆に郷里の高齢者諸君と一堂に会する機会を得ましたことは、欣快に堪へませぬ。元来敬老と云ふことは実に結構なことで益盛になるべきで御座いますが、事実は之に反して段々と衰へ、殊に都会に在つては殆ど地を払つたと申しても差支ない状態で御座います此の如きは時勢の然らしむる所と申しながら、慨はしい限りで御座います。然るに郷里へ帰りまして、此美風の猶存するを知り、特に前途有為の青年団員諸子によつて此敬老会の企てられたるを見て大に意を強ふした次第で御座います。
 孟子に「老吾老以及人之老、幼吾幼以及人之幼、天下可運於掌」とあります、之れは敬老の徳は治国平天下の基礎たるべきを教へるものであります、又論語に「君子務本、本立而道生、孝弟也者、其為仁之本与」とあります。孝弟即ち年長者に対する道徳が一般道徳の源たるを知ることが出来ます。老人である私が之を言ひますと聊か自画自讚の嫌はありますけれども敬老の重ずべきは啻に聖賢の言を俟て知るべきではありませぬ。凡そ人の若い間は断行力に富み元気溌溂として大に為すあるもので、此点に就て青年を重ずべきは勿論でありますけれども、一面経験浅く思慮に長ぜざる欠点があります。故に永年の経験を積み思慮の円熟したる老年は、亦重ぜざるを得ざる次第であります即ち老年は実に一郷一村の至宝であつて、大に敬し就て以て教を請ふべきであります。又老人は益自重し修養を怠らず後進を導くことを務とせなければなりませぬ。偶々の帰郷に際し此の如き美挙があり又之に参列することを得たるは、私にとつて誠に喜ばしいことであります又聖代の祥事として歓喜に堪へませぬ。依て簡単ながら一言喜びの情を述べました次第で御座います。
 次に私の今回の外遊に付て先刻来段々と諸君から讚辞を戴きましたが敢て当らず、只管恐縮に存じます。今回の渡米は奉公の微衷を致さん為めに思ひ立ちましたには相違御座いませぬが、何等公式の任務を帯びて居る訳ではなく、私一箇として全然非公式に旅行するのに過ぎませぬ。
 日米間の事情は今詳しく申上げる時間も御座いませぬが、米国殊に加州の排日運動は年一年と激しくなつて参ります状態で、如何にして之が融和を計るべきかは実に長年間寸時も私の脳裡を離れぬ問題であり、且我邦朝野識者の深憂で御座います。不肖ながら此点を常に憂へ常に考慮致して居る身柄としまして出来る丈の機会に於て米国多数の人士と交際し、広く意見の交換をなし、意志の疏通を計つて参りました。若し此迄の如き状態で推移して参りますと両国間の事情紛糾錯雑の極、遂には干戈相見ゆるの不祥事を見ぬとは申されませぬ。今にして方途を運らすにあらずんば後悔するとも詮なきに至るであらうと思はれてなりませぬ。
 排日の原因は元より一つではありませぬ。又其起る所も深く、理由もないではありますまいが、何と申しても等しく人類であります。四海兄弟の大理想の前には皮膚の黄色は問題でないと信じて疑ひませぬ
 - 第44巻 p.112 -ページ画像 
私の今回参りますのも他に意味のある訳ではありませぬ。たゞ胸中一片の赤誠を吐露して此古今を貫き、中外に通ずる真理を闡明するが為めに外ならぬのであります。かくて何等かの反応を米国人中に見出すことを得ば幸とする次第であります。序ながら一言事情を申上げた次第で御座います。
  ○此帰郷ハ、同神社ニ於テ栄一ノ第四回渡米ノ平安祈願祭執行サレタル為ニシテ、本資料第三十三巻所収「第四回米国行」大正十年九月二十一日ノ条参照。