デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正7年10月3日（1918年）

是日栄一、当大学総長大隈重信ヨリ終身維持員ニ推薦セラル。次イデ是月八日、総長大隈重信ハ新旧維持員ヲ招キテ午餐会ヲ催シ、校規改定ニ関シ謝意ヲ表ス。栄一答辞ヲ述ブ。

早稲田学報　第二八四号大正七年一〇月
　○校報
○継続維持員会　前項九月二十三日の継続維持員会を十月三日午前九時恩賜館に開く。出席は
　松平・昆田・三枝・宮川・平沼・徳永・内ケ崎・宮田
各維持員にして、先づ平沼理事左の事項を報告せらる。
○中略
次に平沼理事、総長より終身維持員として左の五名を推薦せられたることを報告せらる。
　高田早苗・坪内雄蔵・三枝守富・渋沢栄一・中野武営
右終て閉会せり。
　　　○栄一、終身維持員ニ推薦セラレタル記事ハ既出「早稲田学報」第二七二号（大正六年一〇月）ニアリ。右ハ新校規ニヨル終身維持員ナルベシ。

青淵先生公私履歴台帳　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一早稲田大学終身維持員　　　　　七年○大正十月

竜門雑誌　第三六五号・第七七頁大正七年一〇月
○早稲田大学の功労者推薦　改革後の早稲田大学にては十月三日午前十時より校内恩賜館に於て、維持員会を開き、維持員・理事等出席の上、同大学今後の諸計画に就いて協議する所あり、又新に維持員五名を推薦し、更に大隈総長より青淵先生・中野武営・高田早苗・坪内雄蔵・三枝守富の五氏を大学功労者に推薦したることを発表したる由。
 - 第45巻 p.346 -ページ画像 

集会日時通知表　大正七年　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十月八日　火　午前九時　早大維持員会（恩賜館）
　　　　　　　正午　　　大隈侯ヨリ御招待（同邸）

早稲田学報　第二八五号大正七年一一月
　　　　○大隈総長邸に於ける新旧維持員招待会
大隈総長は十月八日正午新旧維持員を自邸に招待し午餐会を催されたるが、デザートコースに入るや……
大隈侯爵
　本日は諸君を案内して、昨年七月以来吾人の不行届の為に、非常の混雑を引起し一時幾んど為す所を知らざる有様に陥りしも、渋沢・森村・中野・豊川氏等が（自分は病床に在り何等此困難を局外より調節することもなく）自分の依頼に応じ、従来の個人的友誼と殊に先年来本大学に対し厚き御尽力ありし関係とにより協力を致すべしとの快諾を得、爾来殆んど一年に近き歳月の間改革の中心となり、此に今日御来席の諸君及び学校の為に常に力を添へらるゝ校友諸君と力を戮せて、従来の問題たる校規も種々の曲折ありしに拘らず殆ど完全に近き改正をなし、此により今日役員の選挙をなすに至りたり、此れ全く渋沢男爵及諸君の御尽力の為に此平和を得たるものなり、今日は已に動揺を一掃して、恰も低気圧の去りたる跡に青天を見るが如き感あるものは、渋沢男を始め諸君の賜なりと厚く感謝の意を表す、今日より見れば彼の混雑は一切感情の為に動揺せるものにして、学生及其父兄及び全国に亘れる一万有余の校友の上には何等の変化なしと思ふ、されば社会の疑惑は到底避く可らずと思ひ居たりしも、此も亦釈然として解けたるものと信ず、吾人の不行届の為に余は殆んど一年間謹慎をなしたり、予は機会ある毎に之を社会に訴へ、本大学の精神を広めんと思ひ居たり、所謂大学拡張即地方へも出張し社会的に之を力めんと期せしも、自分は謹慎して之を口にしたることなかりき、此夏期当局者は地方に講演を為したるも従来の如くには盛ならざりしと聞く、今日は已に釈然たり、三十六年間苦心せしものは是非とも之を盛にせざる可らず、又社会の勢に乗じ大に之を発展したし、今日は世界が教育上にも経済上にも大変化をなすべき時機なり、即禍を転じて福となすには、教育を以て尤も大切となす、教育は時代に応じ変化せしめざる可らず、乍不及三十六年来発展し来れる本大学は、愈々諸君と共に之を盛ならしめざる可らす、数は已に全国諸大学に冠たり、内容は之を完全に為さゞる可らず、これは大に費用を要す、社会の疑惑一たび釈けば、設備を増大することも亦易しと思ふ、尚此上諸君と共に微力を尽したし、幾んど一年間夜も安眠を得ざりしものが、諸君の御尽力に依り解決せられたることを中心感謝す。云々
との挨拶あり。後ち……
渋沢男爵
　閣下、諸君、早稲田大学が昨秋聊か物情穏ならざりしに付ては、閣下は御丁寧の御詞を以て責を御身に引受けられたるが、其原因は余
 - 第45巻 p.347 -ページ画像 
之を知らざるも、かゝる事は何れの場合にも之なしと云ふを得ず、余は多年御懇命を受け居るも、学問もなく経験もなければ別に御助けも致さねど、私学は個人の力により完全の発達を計らざる不可、もし此が官の力即ち租税にのみ依らざる不可とせば、其国民は思ひ見るべしと考へ、心ある者は玆に力と資とを供し完全ならしめざる不可と思へり、他の例は熟知せざるも、余は屡々米国に遊び、我国も亦かく有りたしと思ひたり、故に単に侯爵の知を辱ふせる為のみならず、此により他に幾分の力あるものを添へ同志を得んと、爾来或場合には其関係の人々とも相語らひたり、昨年の事に就ては閣下の御話を承り、如何に成行くべきかと思ふ中に、閣下は御大病に罹られ、程なく御軽快せられたるも、御病中に自分を招れ、中野・森村・豊川氏等と力を添へよとの命を受けたるにあり、此迄事も理も分らず黙過したるが、此に於て何とか為さざる不可と思ひしに、翌日校友の委員諸君が拙宅を訪はれたる事が端緒となり、今日に及べり、此時事情も成行も詳にせざれば良き考も出ず、所謂誠意以之に当るの外なしと思ひ、又急になす可らず、時を与へざる不可と思ひしに、今日大病に悩める中野君の考が尤も公平にして、適当の手段を尽し万事宜しきに叶ひ、漸次其歩を進めり、校規も先に完全に出来、今日役員の選挙をも見るに至れり、こは固より理事諸君の力にして、私共の力にあらず、尚之は一般の人気なりと見え、各自相当の意見を尽し今日の校規出来上りたりと見るを可となす、即ち早稲田大学は玆に一ケ年の後真正なる本復を見たりと云ふを得べし、始めより非常の御精神を以て立たれ、此後とも本大学の為に尽されんとすとの御詞は難有忝き詞なりと思ふ、益々御健全にして十分に御力を添へられんことを望む、余は何等の力をも添へず、時に応じて宜しきを制せしは中野氏の力尤も大なりとす、此は閣下並に御列席の諸君も御了承を願ひたし、今日あるは本大学の為め又侯爵の為め慶すべしと思ふ、又私が委員長たるを得しは、前維持員又は評議員諸君及校友の御心添に依る、今日侯爵が余を賞せられしも、全く諸君の力なれば諸君に謝すべきものなり、代表と云ふべきにあらざるも答詞を申上ぐ。云々。
との答辞あり。尚ほ歓談に時を移して散会せり。出席は維持員会長大隈信常氏の外
　　　　渋沢男爵　　　　　松平伯爵　　　　　高田早苗
　　　　坪内雄蔵　　　　　平沼淑郎　　　　　田中穂積
　　　　塩沢昌貞　　　　　浅野応輔　　　　　徳永重康
　　　　三枝守富　　　　　金子馬治　　　　　内藤久寛
　　　　松平康国　　　　　昆田文二郎　　　　中島半次郎
　　　　宮田脩　　　　　　渡辺亨　　　　　　宮川鉄次郎
　　　　増田義一　　　　　早速整爾　　　　　松山忠二郎
　　　　山田英太郎　　　　前田多蔵

集会日時通知表　大正七年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十月十一日　金　午　時　早稲田大学維持員会（恩賜館）
 - 第45巻 p.348 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　午後三時兜町ノ御約束ヲ御済セ次第御出向ノ約