デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正12年10月6日（1923年）

是日、当学舎恩賜講堂ニ於テ臨時評議員会開催セラレ、関東大震火災ノ善後策ヲ協議ス。栄一、舎長トシテ出席シ、議事ヲ主宰ス。

二松学舎書類（一）　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　臨時評議員会招集ノ件
来ル十月六日（土曜日）午後三時、当舎ニ於テ臨時評議員会ヲ開キ、左記ノ議案ニ就キ評議致度ニ付御参集被下度此段申進候也
　　大正十二年九月三十日
　　　　　財団法人二松学舎長　子爵渋沢栄一財団法人二松学舎長
　　　　評議員　　　　　殿
　　　　　左記
一、大正十二年九月一日ノ震災ニ因リ、本舎々生及ビ舎外生共劇減シ収入大ニ減少スト雖モ、授業及ビ講義録発行ヲ継続シ、其経費ノ不足額ハ予算外ト雖モ之ヲ支出スルコトヲ得
追テ評議員改選ノ結果、貴君御当選相成候候間、別紙承諾書ニ御記名御調印ノ上御送可被下候

二松学舎書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
(控)
　　　　承諾書
評議員タルコトヲ承諾ス
　　大正十二年十月一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一印
　　　　財団法人二松学舎御中

 - 第45巻 p.586 -ページ画像 

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漢学専門二松学舎講義録　　第七号・巻頭大正一二年一〇月
　　　　謹告
今上陛下。今夏日光田母沢に暑を避け給ふ。九月一日関東の大地震あり。東京は大半焦土と化す。
陛下痛く軫念を悩ませ給ひ。落合侍従に二松学舎はいかにと御下問ありしかば。侍従は謹みて二松学舎は無事なる旨を聞えあげたる由。落合氏より本舎学長三島復へ伝へらる。伏して惟ふに
陛下の東宮にあらせらるゝ時。我二松学舎創立者三島毅。年久しく侍講たりしを叡慮に忘れ給はず。かゝる優渥なる御諚を下し給へるならん。本舎の光栄甚だ大なると同時に本舎は益々斯道の為めに尽瘁して以て皇恩に報ぜざるべからざる責任あるを感ず。因て事の由を玆に掲げて舎外生諸子に告ぐ。
　　大正十二年十月廿日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　財団法人二松学舎出版部

漢学専門二松学舎講義録　第八号・巻頭大正一二年一一月
　　　　詔書
朕惟フニ国家興隆ノ本ハ国民精神ノ剛健ニ在リ、之ヲ涵養シ之ヲ振作シテ以テ国本ヲ固クセサルヘカラス、是ヲ以テ先帝意ヲ教育ニ留メサセラレ、国体ニ基キ淵源ニ遡リ皇祖皇宗ノ遺訓ヲ掲ケテ其ノ大綱ヲ昭示シタマヒ、後又臣民ニ詔シテ忠実勤倹ヲ勧メ信義ノ訓示ヲ申ネテ荒怠ノ誡ヲ垂レタマヘリ、是レ皆道徳ヲ尊重シテ国民精神ヲ涵養振作スル所以ノ洪謨ニ非サルナシ、爾来趨向一定シテ効果大ニ著レ以テ国家ノ興隆ヲ致セリ、朕即位以来夙夜兢兢トシテ常ニ紹述ヲ思ヒシニ俄ニ災変ニ遭ヒテ憂悚交々至レリ
輓近学術益々開ケ人智日ニ進ム、然レトモ浮華放縦ノ習漸ク萌シ軽佻詭激ノ風モ亦生ス、今ニ及ヒテ時弊ヲ革メスムハ或ハ前緒ヲ失墜セムコトヲ恐ル、況ヤ今次ノ災禍甚タ大ニシテ文化ノ紹復国力ノ振興ハ皆国民ノ精神ニ待ツヲヤ、是レ実ニ上下協戮振作更張ノ時ナリ、振作更張ノ道ハ他ナシ先帝ノ聖訓ニ恪遵シテ其ノ実効ヲ挙クルニ在ルノミ、宜ク教育ノ淵源ヲ崇ヒテ智徳ノ並進ヲ努メ、綱紀ヲ粛正シ風俗ヲ匡励シ、浮華放縦ヲ斥ケテ質実剛健ニ趨キ、軽佻詭激ヲ矯メテ醇厚中正ニ帰シ、人倫ヲ明ニシテ親和ヲ致シ、公徳ヲ守リテ秩序ヲ保チ、責任ヲ重シ節制ヲ尚ヒ忠孝義勇ノ美ヲ揚ケ博愛共存ノ誼ヲ篤クシ、入リテハ
 - 第45巻 p.588 -ページ画像 
恭倹勤敏業ニ服シ産ヲ治メ、出テハ一己ノ利害ニ偏セスシテ力ヲ公益世務ニ竭シ、以テ国家ノ興隆ト民族ノ安栄社会ノ福祉トヲ図ルヘシ、朕ハ臣民ノ協翼ニ頼リテ弥々国本ヲ固クシ以テ大業ヲ恢弘セムコトヲ冀フ、爾臣民其レ之レヲ勉メヨ
　　御名御璽
　　　　摂政名
　　大正十二年十一月十日　　　　　　　　内閣総理大臣
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　各省大臣

今月十日渙発セラレタル大詔ハ日本国民挙ゲテ奉行セザルベカラザルコトハ言ヲ待タズ、就中平生仁義道徳ヲ力説スル我二松学舎職員舎生及ビ舎外生ニ在テハ率先躬行ノ責務アリト信ジ、特ニ詔書ノ全文ヲ本学舎講義録ノ巻頭ニ掲ゲテ以テ拝読ノ便ニ供ス、詔書ノ解釈ニ就テハ他日本紙上ニ掲載スル所アラントス
　　大正十二年十一月二十日
　　　　　　　　　　　財団法人二松学舎長
　　　　　　　　　　　　　　　　子爵渋沢栄一謹識