デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正12年4月21日（1923年）

是日栄一、当学院中学部校舎再築落成式ニ際シ、祝辞ヲ寄ス。

東北学院書類　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（印刷物）
東北学院中学部再築校舎落成式執行順序
　　（大正十二年四月廿一日午後一時中学部講堂ニ於テ）
一、讚美歌
二、聖書朗読
三、祈祷
四、君が代
五、勅語捧読
六、院長報告並ニ祈祷
七、奏楽
八、演説　京都同志社長　海老名弾正君
九、奏楽
十、祝辞
　1　鎌田文部大臣
　2　力石宮城県知事
　3　鹿股仙台市長
　4　野副代議士
　5　押川創立者
　6　渋沢子爵
　7　高橋子爵
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　8　小川東北帝国大学総長
　9　岡野第二高等学校長
　10　小平仙台第一中学校長
　11　フアウスト宮城女学校長
　12　リンゼー、レフオームド・ミツシヨン長
　13　秋保日本基督教会宮城中会議長
　14　須藤同窓会総代
　15　鈴木父兄会総代
十一、校歌
十二、祝祷　モール博士
　　　　以上
　　　○栄一ノ祝辞筆記ヲ欠ク。

東北学院書類　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　東北学院中学部再築校舎落成式ニ於ケル
　　院長シユネーダー博士ノ式辞（大正十二年四月廿一日）
　明治卅八年ニ此場所ニ於イテ中学校教育ノタメニ一ノ校舎ガ建築セラレマシタ。之ハ寔ニ壮麗ナル建物デアリマシテ、十五年間教師モ生徒モ此処デ幸福ニ其ノ業ヲ励ミマシタ。然ルニ大正八年三月二日ニ未曾有ノ大火ガ起リマシテ、多クノ建物ガ焼ケテシマヒマシタガ、其ノ時此中学部ノ校舎モ、寄宿舎ト共ニ、類焼ノ禍ヲ蒙リマシタ。之ハ殆ト堪ヘ難イ程ノ悲イ出来事デアリマシタ。教師モ生徒モ一時ハボンヤリシテシマツタ位デアリマシタ。
　併ナカラ学校ノ事業ハ継続シナケレバナリマセンデシタ。一時ノ応急策ハ講ゼラレマシタ。諸方カラ深イ同情ガ示メサレマシタ。姉妹学校デハ必要ナ器具ヲ貸シテクレマシタ。市デハ二番丁小学校々舎ノ一部ヲ貸シテクレマシタ。之等ノ御深切ニ対シテ私ハ此機ニ際シテ衷心カラ感謝ノ意ヲ表シマス。数ケ月後ニ仮校舎ガ出来上リマシタノデ、其処デ三ケ年間学校ノ事業ヲ行ヒマシタ。其ノ間教師モ生徒モ大ナル不便ト困難ヲ忍バナケレバナラナカツタバカリデナク、学校ノ教育上ノ成功モ之等ノ不利益ナル事情ニ依ツテ尠カラズ妨ゲラレタコトハ云フマデモアリマセン。
　又一万ニ於テハ学校ヲ再築スル事業ニモ非常ニ骨折ラナケレバナリマセンデシタ。建築費ハ以前ノ校舎ガ建築サレタ時ニ較ベルト、四倍以上ニナツテヲリマシタ。其ノ費用トシテハ焼ケタ校舎ノ保険金ガ八万八千円手ニ這入リマシタガ、之ハ以前ノ校舎ノ建築費ヨリ弐万円以上モ多イノデアリマシタ。之ニ加ヘテアメリカノ後援者ノ大ナル努力ニ依リマシテ、其ノ方面カラ拾四万円ノ寄附ヲ得マシタ。併ナガラナカナカ之ダケデハ足リマセンデシタ。敷地ノ拡張モ必要デアリマシタノデ、コノタメニ参万円支出シ、仮校舎ノ建築ニ壱万弐千円ヲ要シ、寄宿舎ノ再築ニ参万八千円カヽリマシタ。而シテ本校舎ノ建築費ハ実ニ廿四万円ニ達スルノデ、合計卅弐万円トナルノデアリマス。其故ニ此処ニ九万弐千円ノ不足ヲ生ズルコトニナツタノデアリマス。
　誠ニ幸ナコトハ、仙台ノ市民諸君ヤ学生ノ父兄達ヤ同窓会員ヤ亦学
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院ノ友人ガ、初メカラ多大ノ同情ヲ表サレタコトデアリマス。諸方カラ頂キマシタ寄附ノ金額ハ様々デアリマシタガ、イヅレモ尊イ同情ト愛ノ表現デナイモノハアリマセン。又様々ノ金高デ寄附ヲ約束シテ下サイマシタ方モ尠クハアリマセンデシタ。同窓会員ノ或方々ハ建築資金ヲ得ンガタメニ、或ハ音楽会ヲ開キ或ハ活動写真会ヲ催シマシタ。二番丁教会ノ婦人会デハ、二度ノバザーヲ開イテ約六千円ノ金額ヲ作ツテ下サイマシタ。之等ノ努力ニモ拘ラズ、昨年ノ夏校舎ガ殆ト出来上ツタ時ニナホ約四万円ノ不足ガアツタノデアリマス。此時ハ実ニ憂慮ニ堪ヘナカツタノデアリマシタガ、モウ一度努力ヲ試ミマシタ。教師モ生徒モ同窓会員モ全力ヲ注ギマシタ。多クノ父兄達ヤ其ノ他ノ友人達モ壱脚拾円ノ価格デ、幾百個カノ机代ヲ寄附サレマシタ。最後ニ最早ドウシテモ途ガアリマセンノデ、力石本県知事閣下、鹿又市長閣下、清野商業会議所会頭閣下ノ御紹介ト御援助ニ依リマシテ、東京ノ実業家各位ニ御願ヒスルコトニナリマシタ。第一ニアラユル善ナル事業ニ対シテ、常ニ同情ト援助トヲ惜マレナイ渋沢子爵閣下ガ、我等ノ悃願ニ耳ヲ傾ケテ下サイマシタ。
　閣下ノ御寄附ト閣下ノ非常ナ御尽力ニ依リマシテ、実業家各位カラ得マシタ寄附トデ、弐万円以上ノ額ヲ得タノデアリマス。此驚クベキ御援助ト同窓会員間ニ再三試ミラレタ努力トニ依リマシテ、遂ニ九万弐千円ノ額ヲ作ルコトガ出来マシタ。尚此上ニモ書籍ヤ標本ヲ入ルヽ棚及ビ其ノ他ノ器具ニモ多少ノ費用ヲ要スルコトヽ思ヒマスガ、兎ニ角重ナル仕事ハ完成シタノデアリマス。私共ハ今日其ノ同情ト寄附トニ依ツテ此事業ヲ助ケテ下サイマシタ凡テノ方々ニ対シテ、深厚ナル感謝ヲ捧ゲル者デ御座イマス。
　此新校舎ハ多分再ビ火災ニ罹ル憂ガアルマイト言フコトニ依リマシテ、一層我々ハ幸福ニ感ズルノデアリマス。此校舎ノ建築ヲ契約致シマス時ニ、偶セメントガ非常ニ廉価デアリマシタノデ、外部ガ煉瓦デ内部ガコンクリートノ此建物モ、全部木造ニスル費用ヨリ僅カシカ高クナカツタノデアリマシタ。其故ニ今日我々ハ此耐火的建物ニ依ツテ安神シテ居ルコトガ出来ルノデアリマス。
　併ナカラ私共ハ今カラ此校舎ガ建テラレタ目的ニ向ツテ進マナケレバナリマセン。之ハ斯カル大ナル同情ヲ表セラレタ方々ノ御厚意ニ報ユル唯一ノ道デアルト信ジマス。此校舎ノ使用セラルヽ目的ハ第一ニスグレタル智育ヲ与ヘルコトデアリマス。我ガ学院ニ学ブ青年ガ日ニ日ニ進ンデ止マナイ知識ノ世界ニ於イテ、決シテ後レヲ取ラヌ様ニスグレタ智育ヲ施スタメニ、全力ヲ尽スコトガ我々ノ使命デアリマス。第二ニ何レノ他ノ学校デモ同様デアリマスガ、スグレタル徳育ヲ与ヘルコトガ我々ノ使命デアリマス。之ハドコノ学校デモサウデアリマスガ我ガ学院ハコノ点ニ関シテ特別ナル使命ヲ帯ビテヲルト信ジマス。今日世界ノ最大ノ要求ハ人格者デアリマス。農業ヤ工業ヤ商売ヤ戦争ニ要スルヨリ以上ノ機関ヨリモ、ヨリ以上ノ智識ヨリモ、モツトモツト必要ナモノハ実ニ高尚ナル品性ヲソナヘタ人物デアリマス。
　真面目ナ人、信仰ノ人、建設的ノ人、献身的奉仕的ノ精神ヲ以テヨリ良キ世界ヲ来タサンガタメニ働ク人ハ今日ノ最モ大ナル最モ深イ要
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求デアリマス。他ノ如何ナルモノモ世界ヲヨリ善クマタヨリ幸ニスルコトガ出来マセン。東北学院ハ基督教主義ニ依ツテ建テラレタ学校デアリマス。故ニ斯ノ如キ人物ヲ養成スルノガ其ノ特別ナル使命デナケレバナリマセン。斯カル人物ヲ養成スルコトノミニ依ツテ、東北学院ハ日本ノ国家ニ真ノ貢献ヲナシ、其ノ真ノ使命ヲ果スコトガ出来ルノデアリマス。勿論過去ニ於ケルト同様ニ、将来ニ於テモ此使命ヲ完全ニ実現スルト云フコトハ出来マセンデセウ。高尚ナ理想ヲ実現スルコトハ決シテ容易ナコトデハアリマセン。併シナガラ此使命ヲ成就スルコトハ永久ニ我々ノ将来ニ於ケル努力ノ中心目的デナケレバナリマセン。今日此処ニアル我々ハ遂ニハ失セテユキマス、我々ノ後継者モ亦此世ヲ去リマセウ。併ナガラ此学校ノ目的ハ永遠ニ変リマセン、日本ノタメニ、人類ノタメニ永遠ニ変ルコトガアツテハナリマセン。
　祈祷ヲ捧ゲマセウ。
　全能ノ神ヨ、永遠ノ父ヨ、我々ハ大ナル禍ニ遇ヒ、深キ失望ニ陥リマシタケレドモ、アナタハ我々ノ心ニ信仰ト勇気トヲ起シ、又多クノ人々ヲ導キテ我々ヲ助ケシメ、遂ニ此校舎再建ノ事業ヲ首尾ヨクヲハラシメ給ヒシコトヲ感謝シ奉ル。我々ハ全心ヨリアナタニ感謝シ奉リマス。今ヤ我々ハ日本ノタメ人類ノタメニ、此建物ヲアナタニ献ゲ奉ル。願クハ我々ト我々ノ後ニ来ルベキ者ニアナタノ霊ノ力ト導トヲ与ヘ給ウテ、多クノ尊キ人格者ガ此処ニ於イテ教育サレ、養成サレルコトガ出来マスヤウニ、ソシテ此学校ガイツマデモ国家ト世界ニ最高ノ貢献ヲナスコトガ出来マスヤウニ祝シ給ヘ。其ノ名ニ依リテ此学校ガ建テラレタルイエス・キリストノ御名ニヨリテ希ヒ奉ル。アーメン