デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.662-666(DK460167k) ページ画像

大正11年4月28日(1922年)

是日栄一、日本倶楽部ニ於ケル当協会例会ニ出席ス。次イデ五月二十四日、一ツ橋如水会館ニ於ケル例会ニ、七月十七日、同所ニ於ケル大会ニ出席ス。


■資料

集会日時通知表 大正一一年(DK460167k-0001)
第46巻 p.662 ページ画像

集会日時通知表  大正一一年       (渋沢子爵家所蔵)
四月廿八日 金 午後五時半 帰一協会例会(アキスリング氏出席)日本クラブ


(帰一協会)協会記事四(DK460167k-0002)
第46巻 p.662-663 ページ画像

(帰一協会)協会記事四          (竹園賢了氏所蔵)
    四月例会記事
本月例会は如水会館の都合悪しき為め、止むを得ずして会場を丸之内なる日本倶楽部に定め、二十八日○大正一四年四月(金)午后五時半より、左記の如く開催す
当日の来会者左の如し
 アキスリング氏  姉崎正治氏
 岩野直英氏    安川敬一郎氏
 黒田長和氏    斎藤七五郎氏
 阪谷芳郎氏    渋沢栄一氏
 添田敬一郎氏   田中次郎氏
 - 第46巻 p.663 -ページ画像 
 千葉豊治氏    時枝誠之氏
 福岡秀猪氏    ボールス氏
 増田義一氏    増田明六氏
 宮岡恒次郎氏   渡辺得男氏
 島田三郎氏    白石喜太郎氏
会員外出席者
 金子堅太郎氏   串田万蔵氏
 小畑久五郎氏   メイン氏
当日の講演左の如し
 日米関係の新紀元     神学博士 アキスリング氏
以前非常な親密の度を持した日米関係が、最近十五年此のかた迷雲にとざされて、遂に破裂にまで至らんとした、此を患へる人々が此を円満に解決せんと非常な努力をした、私も昨年帰米以来、日本が悪く誤解されて居たのを解かんとして、出来るだけの努力をして来た
米人の誤解にも種々の理由がある、私は伝道会社から表裏両面から、有ゆる援助を得て、在米十四ケ月の間に二百五十余回の講演をなし、「日本の真相を紹介す」なる小著書をなし二万部程各方面に配布した其の結果か何か、最近米国人が東洋研究の興味を有するに至り、又日本に対する感情が非常に良好になつて来た、米国人の天性から見ても平和を愛する国民であるし、又ワシントン会議の結果は非常に平和的結果をひき起させる様になつた次第である、之は渋沢子を初め日本から多数の人が渡米して努力された結果である、希くは太平洋の水の如く永久に平和の状を保たせたい
食後
客員、金子堅太郎氏・米人メイン氏を初め、宮岡恒次郎氏・ボールス氏等の演説及び質問あり


(帰一協会)協会記事四(DK460167k-0003)
第46巻 p.663-664 ページ画像

(帰一協会)協会記事四          (竹園賢了氏所蔵)
    五月例会記事
本月例会を二十四日○大正一一年五月(水)午后五時半より、神田一橋通如水会館に於て、左記の如く開催す
当日の出席者左の如し
 姉崎正治氏         今岡信一郎氏
 石橋智信氏         岩野直英氏
 浮田和民氏         片山国嘉氏
 佐藤鋼次郎氏        渋沢栄一氏
 千葉豊治氏         加藤熊一郎氏
 時枝誠之氏         土肥修策氏
 都倉義一氏         永井亨氏
 夏秋十郎氏         堀内三郎氏
 花房太郎氏         矢野茂氏
 矢吹慶輝氏         添田寿一氏
 オツトー・ハイム氏(客員) 野口日主氏
当日の講演左の如し
 - 第46巻 p.664 -ページ画像 
 日本国民の世界的適応性に関する考察
                  千葉豊治氏
満蒙視察の結論として、千葉氏が十八年間米国生活の間に得た在外邦人に対する考察と全く同一の欠点を曝露せることを嘆じ、現時吾国内に溢るゝ人口とこれを養ふに足る食糧との比例を実証して、将来の人口重過に伴ふ困難を憂ひ、結局、吾が在外邦人の環境順応性に乏しき中は、米国に於ける排日的気勢がどの程度迄で弛められるかは頗る疑問であると述べ、満蒙在留邦人が米国に於けるそれと略ぼ同一の排斥さるべき性質を比較し、加ふるに支那労働者の低廉なる労金に対して邦人の労金は高く、生産品の高価なるは畢竟その邦人の生活が世界的でなく、常に環境順応てふ事を忘るるが為めなりとし、日本人の欠点が世界的に改められぬ限りは、排日の気勢は世界中至る処に蔓延し遂には吾国民発展の余地を失ふだろうと
 午后七時食堂を開く
 午后八時食堂を閉じ
 西欧の没落        独乙チウビンゲン大学教授オツトー・ハイム氏
魂の向ふ処その支配によつてのみ進むべきもので、環境に支配された文化は砂上の楼閣で、畢竟凋落すべきものであると論じ、魂は信仰によつてのみ培養される、この信仰の力によつて進む外は、吾人の執るべき道はない、運命は神命であると論じ、飽くまで事実に当面して魂の進みに応じて奮進すべしと結ぶ、時に九時
  講演終つて浮田氏とその他より質議し、十時に散開した、オツトー・ハイム氏は此頃東洋に来り、会ま日本に渡り、本日帝大三十二番教室に於て「死後の生命」と題して講演し、その序を以つて本会に臨まれた、これ姉崎博士と相識の間柄であつたによるのである


集会日時通知表 大正一一年(DK460167k-0004)
第46巻 p.664 ページ画像

集会日時通知表  大正一一年       (渋沢子爵家所蔵)
六月十五日 木 午後五時半 帰一協会委員会(如水会館)
  ○中略。
七月十七日 月 午後五時半 帰一協会例会(如水会館)
  ○「協会記事四」ニ『六月十五日時代気風調査会開催(詳細別帖)』トアリ。


(帰一協会)協会記事四(DK460167k-0005)
第46巻 p.664-666 ページ画像

(帰一協会)協会記事四          (竹園賢了氏所蔵)
    七月大会記事
七月十七日○大正一一年午後五時半より、本会七月大会を神田一つ橋如水会館に於て開催す、当日の出席者左の如し
 アキスリング氏  秋月左都夫氏
 麻生正蔵氏    姉崎正治氏
 磯野敬氏     大迫尚道氏
 尾高豊作氏    片山国嘉氏
 加藤熊一郎氏   五島清太郎氏
 斎藤七五郎氏   渋沢栄一氏
 下村宏氏     田中次郎氏
 頭本元貞氏    時枝誠之氏
 - 第46巻 p.665 -ページ画像 
 友枝高彦氏    内藤久寛氏
 永井亨氏     中島半次郎氏
 野口日主氏    花房太郎氏
 馬場恒吾氏    福岡秀猪氏
 穂積重遠氏    本郷房太郎氏
 堀内三郎氏    堀越善重郎氏
 松井茂氏     増田明六氏
 間島与喜氏    御木本幸吉氏
 矢野恒太氏    矢吹慶輝氏
 山口宏氏     今岡信一郎氏
 ヂヨンデー氏   諸井恒平氏
 野沢悌吾氏
 Prof. Latrauette, Yale University
          以上 四十名
 講演
 我国労働者の宗教調査        矢吹慶輝氏
姉崎博士立つて開会を宜し、社会の宗教的方面からの調査が必要なることを述べ、併せて矢吹氏の調査が此点に重要なる位置を有すと挨拶すれば、矢吹氏代つて壇に立ち謙譲なる態度を以つて述べて曰く、本調査は既に本年一月の例会に於て一部分は御紹介したのでありますが最近更に千七百枚の調査を完成致しましたので、今日はそれに関して申し上げます、元来此の調査は其の方法が完全でなければ結果も又意味をなさないものでありますが、私達の行ひましたのは、センサスではなくサヴヱーでありますから、玆に見へる数字は単なる数字ではなく、その一つ一つが労働者のライフなのでありますから、皆さんも若し吾々に恁うした問ひを受けた時は如何に答へるであろうか、と云ふ同情ある心でお聴き下さることを御願ひ申します、今一つ御断り申したいのは、此の調査の結果を印刷に付して御手元に差上げて後説明すべきでありますが、日子の関係からそれもならず、為めに御覧の通り玆に拡げた様なもので御説明申し上げるのであります
本調査は森村豊明会並に其他の有志家の寄金によりて、東京帝国大学宗教学研究室に於て、宗教を中心として労働者の心理を測量したもので、統計或は一般調査に先んじて、各人各個の思想を個別的に調査したものであります、即ち現下の労働問題は単に時間・賃銀・設備の物質的方面のみならず、実に精神的思想生活が重要なる素因であることを探ろうとし(一)成立宗教に関するもの(二)祖先及偉人崇拝に関するもの(三)一般宗教に関するもの(四)死後の問題に関するもの(五)現世に関するもの(六)労働問題に関するもの二十項目に亘る問ひを別紙の如き調査票とし、大正十年二月末より同九月に至る間に全国各工場に、或は調査員が直接各地に出張し、或は工場事務所を通じ、或は職工団体に交渉し東京・大阪・神戸・京都・名古屋・広島・金沢・大分・桐生等並に海軍所属の各工場に配布して、回収し得たる内の千七百枚を調査の結果を報告するのが今日の講演であります。
第一出生地成長地の表に於て見ると、大都会の大工場地方人を引きつ
 - 第46巻 p.666 -ページ画像 
ける力を多く有し、次に教育の程度は高等科卒業が最も多数を占め、(ハ)に於ては第六人目迄が非常に多く日本人の出産率の多きことを示して居ります、(ニ)では両親のあるものが最も多く、即ち労働者は若いものが多いと云ふことになります、(ホ)では農家出身のものが都会に収攬される姿が認められ、(ヘ)では既婚者が多きを知り、(ト)では無しが最も多数である、(チ)では十五以下の労働者は余りない、又四六―五〇の歳及それ以上のものも割合少いことを示して居る、これは簡単な身元調べであるが、これから本論に入つて、毎葉毎に詳細なる説明を附し、要するに本調査に労働者達は一体何を考へ何をなさんとしつゝあるかが察知出来ると思ふ、宗教観の如きも宗教は要求して居るが、既成宗教に対しては満足して居ないで居ることが窺はれる、即ち日本の思想界は渾沌として彼等を導くべきものがないと云ふ結果になるのである私達研究室は姉崎先生を中心にして、都下の東端三輪に五月以来三輪学院なるものを設けて夜学を開き、小学校を終へて中等教育を受け得ざる労働者に教育を授け、教育上の機会均等を試みて居る、その学則及生徒の職業別は御手元に配布した別紙によつて御覧下されば明瞭でありますが、生徒は実に熱心で、その智識欲の旺盛であることもよく判ります、長々と御清聴を煩はして御迷惑であつたと存じますが、これで講演を終ります、尚今日は私達の研究室同人が研究致しました日本社会事業史年表の原稿が陳列してありますし、尚労働者の宗教調査回答紙並に調査方法を示したものや、労働争議の写真なぞが此処に出してありますから御覧を願ひたいのであります(完)
 午後七時 食堂を開き、デザートコースに入るや、姉崎幹事から本年度の会務・会計・会員の移動等に関して報告し、矢吹氏は此の九月燉煌発掘物に関する研究のためロンドンに留学されるのでそれを御送りする意味も此の大会に加へて開いたのであると述べ又永らく本会に入会して居られたジヨンデー氏は愈よ今日を最後の列席として帰国されるので、これも送別することになるが、その代り東洋歴史研究のため支那に行かれ、近頃日本に来つて、岩崎のモリソン文庫等頻りに研究して居られるヱール大学のラトラウエツト教授が此会に列席され、送り迎へを同時にする訳でありますと挨拶され、本年度会員の死亡、入会に関し左の諸氏を弔ひ且つ紹介された
大正十年七月以後入会者として左記六名を挙ぐ
渋沢敬三氏・渡辺得男氏・白石喜太郎氏(以上七月入会)
ジヨンデイ氏(拾月入会)
山口宏沢氏(十一年三月入会)
間島与喜氏(十一年六月入会)